寝過ごして25時に投稿できませんでした。
「......奏さん、シャンプー変えました?」
「うん、望月さんがくれたんだ。
...どうかな。」
「前のも良かったけど、今回のも良いですね。
匂いでも結構印象変わります。」
「......咲、変態みたいだね。」
「へゔっ?!」
「ま、まふゆ...」
「だって一心不乱に人の頭を吸うなんて、変態以外ないでしょ。」
「絵名、ケーキ一口ちょうだーい!」
「あっ...!
了承得てから取ってよ、もう!」
「やめとけよ瑞希。
食い物の恨みはおっそろしいぞー。」
「えー!?
じゃあかおるん、もう一個......って、あ。」
「「「かおるん?」」」
「......あんま言うなって言ったろ。」
「あはは、ごめーん...」
毎度のことながら、他愛もない会話だ。
こうしてここで打ち上げをするのも何回目だろう、もはやファミレスで集合する事の方が少なくなり、喫茶店に集合するのがいつも通りと化している。
一般客、というか要さんがいるためちょっと視線を感じやすいのが玉に瑕だが。
だがちょっとおじさんが馴染むのが早くないか?
僕でもあだ名のようなものはつけられた事がないのに......
少しばかりの嫉妬心を叩き消す。
そう考えると僕もずいぶん馴染んだものだ。
少し前ならテーブル席に座る事などせず、カウンター席でコーヒーを飲みながら遠巻きに空を眺めていた。
それがこうして一緒のテーブルを囲み、膝上に奏さんを乗せて談笑しているのだから、人生わからない。
足が痺れそうな予感が訪れ、一旦奏さんを膝から下ろして僕と朝比奈さんの横に置いた。
以前までならこんな事は無かったのだが......
彼女はだんだんと体重が増えているようだ。
別にこれはマイナスなことではない、むしろこれまでが細すぎた。
この調子のまま平均体重前後まで持っていってほしいものである。
ポテトを手に取りピリ辛のソースに付け、口内へ運ぶ。
辛味3旨味7といった比率の刺激が口を覆い、ちょっとした幸福に口角が緩む。
そういえば、と辛味による痛みが頭を刺激し、今日渡そうとしていたものを思い出させる。
何か別の事をやっていても、他の楽しそうな事が目の前にあればそっちに意識がいってしまう。
僕の悪い癖だ。
席を立ち、自室へ一度戻る。
幸いにして妹、つぼみは買い出しで席を外している。
彼女はこう言うものを強く欲しがるのだ。
だからといってニーゴに渡す予定のコレをあげたとて、困惑させてしまうだけだろう。
それなら彼女用に少し変えたものをプレゼントしたい。
......色々理由を言ったが、本音を言うならちょっとめんどくさいんだ。
会おうと思えば10分歩けば会えるんだから、今日ぐらいは我慢してくれ。
袋を取り出し階段を降りると、ガラスの扉を隔てた先で何やら口論が繰り広げられている。
何事だろうか?
少し覗き込んでみると、そこでは高身長な女性が中年の男性を引っ張り、店への入店を引き止めている。
すると男性は女性の手を強引に振り切り、ガラス戸の取手に手をかける。
その女性は、つぼみだ。
男性はつぼみを心配する様子を見せず、扉を思い切り開けて息を切らしながら口を開く。
再びになるが、人生わからないものだ。
2日連続で
「━━見つけたぞ咲!!」
朝比奈さん、暁山さん、絵名さんは唐突な出来事にぽかんとしている。
絵名さんに至っては自撮りを撮り終わって待ちに待った一口目だったこともあり、口の中にケーキの乗ったスプーンが突っ込まれたままだ。
ああ、奏さん、おじさん、要さん。
そんなこちらを心配した顔をしてしまうほど、あなたたちが見る僕は酷い顔をしているのか。
だが大丈夫、つぼみを傷つけた奴に容赦はしない。
こちらの腕を掴もうとする無駄にでかい掌を弾き、ビシッと言ってやる。
「いやあすまなかった、父さんは咲がいないとダメでな。
つぼみのやつはダメだ、やはりお前が━━」
左腕を掴んだ彼の手を平手で弾いた。
相当に掴む力が強く、やられた箇所はあざになりそうな鈍い痛みと爪痕の鋭い痛みが残っている。
よし、まずは行動で否定の意思を見せた。
次に言葉で嫌悪と反発をぶつけてやる。
息を大きく吸い込み、口を開いた。
「━━あ、いや、ぼく、ぼ、くは......」
しどろもどろになって、うまく口が動かない。
息が苦しい、体の震えが止まらず歯がガチガチと震えている。
無論手にも足にも力は入らず、力無く倒れ込むようにしてカウンターに寄りかかる。
「は、はぁー、ふゔっ、はっ、はぁー......」
歯の震えを止めるためにギリギリと音を立てて歯を食いしばるが、震えは治るどころか体全体へ伝播していく。
目も言うことを聞かず絶え間無く水分を吐き出し、脳は何を言うでもなくただ過去を再生し始めた。
『お前はこんな事も出来ないのか?
......
DNA検査にでもかけるか?』
『ショーに行きたい、か......
おい、コレに玩具を買い与えたのはお前だろう?
全て捨てておけよ、
『無駄に自我を晒すな。
お前はただ、俺の言う通り学び皆が望む理想へ歩いてれば良い。』
「しゅー、しゅー......」
空いている手で口を抑えても、歯と歯の間から漏れ出る吐息は止まらない。
前も見えず息もできず、子鹿のように足が震え地面に倒れようとした時、要さんが僕の肩を掴む。
「PTSDか。
咲くん、ちょっと肩を借りるね。
...宵崎さん、着いて来てくれるかな?」
「は、はい......」
そのまま要さんの肩を借りて自室へと上がって行く。
彼の背中をさする暖かな手と、そこに好きな人がいると言うことが、いくらか僕の心を落ち着かせてくれる。
『じゃあな咲、手切れ金は渡したから、二度と私達に寄るな。』
僕が何より怖いのは、離別だ。
擦りむいた膝に絆創膏を貼り、もう一つのテーブル席へ座る。
......兄のあんな姿、本当に初めて見た。
さらなる後悔が背中に降りかかる。
病院で『別にない』など言わなければ、あそこまで兄が弱々しい姿を見せることは無かったはず。
お父さんはそんな事構わずと言った風に歩き出すが、それをおじさんが遮った。
おじさんは言葉を発する事はないが、その圧は何があろうと殺そうと、ここを通さないと言う覚悟の様に感じ取れた。
しばらく睨み合い、痺れを切らしてお父さんが口を開く。
文頭から文末まで苛立ちで満たされており、思い通りに行かないとすぐに怒る最低な性格を言葉で端的に表していた。
「......退いてくれないか、俺はそこにいる娘より優秀な
親子ごっこがしたいだけならそれを置いていくが?」
「舐めた事言ってんじゃねえカス。
ごっこすら出来ねえやつが抜かすな。
少なくともお前に会ったからアイツはパニック起こしたんだ、帰れ。」
「せっかく見つけたんだ、帰るわけには━━」
「消えろって言ってんだよ!!
てめえに妹だけじゃなく咲までやらせてたまるか、さっさと消えろ!!」
「......チッ。」
お父さんは行儀悪く足で扉を開け、見るからに不機嫌な様子を隠さずに帰っていく。
「二度と来るなクソデブ!!」
その後ろ姿におじさんはさらなる悪態をつき、店内には一転静寂が流れる。
その静寂は要さんと宵崎さんが2階から戻ってくるまで、破られる事は無かった。
外では何事もなかった様に、車が次々通り過ぎて行く。
評価等よろしくお願いします。