先日は体調が悪く投稿できなかった事、ここにお詫びさせていただきます。
どうか今後ともよろしくお願いします。
「こんにちは。」
「......咲、こんにちは。」
右手に袋と温まったヤカンを持ち、1人体育座りをしているミクさんの横へ座る。
とある用事があって、今日はセカイへ来た。
事の発端は数日前、藤田が来た日の事。
その時は何の用事も無くミクさんと2人、身の回りの話を聞いて貰っていた。
とは言っても大したものじゃない。
例えば絵名さんの絵、綺麗だよねとか、暁山さんによる強制コーディネートの話とか。
その中で『奏さんのカップラーメン食べ過ぎ問題』について話すと、珍しくミクさん側からの要望があった。
「カップラーメン......食べて、みたい。」
別に断る理由も無いので、こうしてコンビニで買って来たラーメンとヤカンに入ったお湯を持ち、セカイに来たと言うわけだ。
ミクさんは十中八九しょうゆとかの味を知らなそうだから、とりあえず容器の色で選ばせる。
「じゃあ、これ。」
選ばれたのは期間限定新発売、焦がし醤油茄子ヌードル。
期間限定に誘われて買ったものだが、美味しいのだろうかこれ。
......まあ、選ぶ理由は分からないでも無い。
パッケージの色は白に紫、つまりこのセカイの主である朝比奈さんの髪色と同じだ。
1番身近な人の色を選ぶ、可愛らしい選択理由だと思う。
跳ねて来たお湯に少しの熱さを感じながら、内側の線まで親を注ぐ。
立ち上る湯気が灰色のセカイの空へと消えていって、なんだか少し暖かさを感じる。
このカップラーメンを奏さんだとして。
奏さんから生まれた
さて、遠くから覗いているリンさんのことも忘れてはいけない。
これもまた色繋がりでカレー味を選び、お湯を注ぐ。
ミクさんにそれを託し、僕は少し離れた場所へ行く事にした。
「......リン。」
「何?」
「いっしょに、食べよう。」
......さて、結構離れた。
今日ここに来たのは、ミクさんにラーメンを食べさせるだけが理由じゃない。
僕自身の練習、戦う準備のためだ。
にしてもセカイというのは、僕にとって岐路の場でもある。
寝落ちしたらここに来て、ミクさんのぬいぐるみを作り。
色々あってシンゴについての告白までした場所。
思えばあの時の僕は正常では無かった。
まあ喫茶店に来る高校生諸氏が言っている、『病んだ』状態だったのだろう。
ミステリーツアーにてきょうだいの幽霊だとか桜の木だとか。
色々思い出してしまった結果なのかもしれない。
あの日からリンさんは顔を見て距離を取る様になったし。
そう言えば、とカバンから翻訳機の形をした物を取り出した。
ヒトリンガル。
あの日、類さんが僕に手渡した発明品。
今では起動してもシンゴの声は聞こえないが、9年越しに聞いた彼の声は忘れられない。
......彼は僕に、どんな感情を抱いていたのだろう。
ちゃんと生きてと、好きな人をみつけろよ、と。
そう言って空へ還った彼の心には、生きる事への未練や死への恐怖、色々な後悔があったろう。
それでも僕を心配させまいと託された言葉に報いる為に、僕は生きる。
人差し指中指薬指をくっつけ、小指と親指で翼を作りそれを天に掲げる。
昔はこうして掌で飛行機を作り、空へ飛ばした。
良い思い出だ。
戦う。
だから。
「見ててくれよ、
『本当にありがとう。』
「うっわびっくりした。」
感謝の言葉をセカイの空へ飛ばしたら、不意にヒトリンガルが反応する。
そこそこに音量が大きく、背筋を伸ばして驚いてしまった。
よく考えたら、これが本来の使用法なのだろう。
例えば八方美人な人がいたとして、その人の本質が知りたいならこれを持たせて喋る。
そうすればその人の心の内がヒトリンガルを通して出てくる、というわけか。
......もしかしてこれ。
「......ばか。」
『無感情。』
「アホォ!」
『少しのふざけ。』
使える!
戦うための練習に使えるぞこれ。
そうとわかれば善は急げ。
ヒトリンガルを握りしめ、大きく息を吸い込む。
思い切り最低の感情を込めて、地に向けて叫んだ。
「━━ デブ!!!」
『嫌悪と否定と、少しの羞恥。』
今に枯れる花が僕にかけた言葉を、『泣きたければ泣いて良い』と言う言葉を忘れない。
だから君は、姿が見えなくとも遥か先で、見守っていてくれ。
またね、僕にとっての
そこそこに消耗した身体を引き摺り、ミクさんの元へと戻る。
それこそ一度現実世界へ戻ってからセカイに来れば早いのでは、と思ったが、前に一回だけやって失敗している事を考えると再チャレンジする気にはなれなかった。
戻ると、そこには何故かいつものメンバー。
ヤカン内のお湯だけでは足りなかった様で、誰が持って来たか見当のつかないキャンプ用ガスコンロが火を吐いている。
暁山さんは笑顔でこちらに手を振っているが、奏さんは怪訝な表情でラーメンを啜っている。
これは不味い。
実は健康面の問題もあり奏さんには今週中ラーメン禁止を言い渡していたのだ。
別に僕は食べていないが、あの顔はきっと僕が内緒で食べたと思っている顔。
近づくのが憚られる。
「あれ、咲どうしたの?」
「いや、ちょっと......」
「咲、こっちに来て。」
心なしか僕を呼ぶ奏さんの圧が強い。
まるで重力に引かれて地に落ちる鳥の様に、じりじりと足がそちらへ進んでいく。
もう予想はできてるのだ、このままでは僕の耳がやられる。
なんとかして逃走策を考えなくては。
ふと奏さんの顔を見ると、あるものがついている。
先手を打つ様に彼女の両頬を掴み、「動かないで」と真面目な顔で前置いた。
「え?
う、うん。」
口角のすぐ横へ手を伸ばし、付いていた緑の物体を摘んで自身の口に持っていく。
......この欠片だけでも結構美味しい。
「ネギ付いてました。」
「あ......うん。
ありがとう...」
ここまで近づいたが彼女からの攻撃は飛んで来ない。
良かった、流石にみんなの前でフニャフニャになった顔はちょっと......
「これからラーメンは週2にしましょうか。
流石に好物を禁止にするのはやり過ぎましたし...」
「......うん。」
今日で同棲5日目。
割と慣れては来たが、それでも今だに分からないことは、ある。
とりあえず今日の2人の晩御飯は、このカップラーメンという事にした。
「明日もカップラーメンで......」
「ダメです。」
「ゔゔ......」
「━━でも、そう考えると咲って大変だよね。」
「何がですか?」
「だって二重人格に9年間の昏睡、極め付けにはPTSD。
大変では無い、とは言えないよ。」
「......それもそうかもしれませんね。
でもまあ、皆さんがいるんで。」
「よく恥ずかしげも無く言えるわね......」
「絵名はそもそも言わないしね。」
「はぁ?!」
「皆さんが前から向き合ってくれたからこそ、今の僕がいるわけで。
これが合うのが少しでも遅かったり、奏さんと付き合って無いことを考えたら......
今頃僕はシンゴになってましたね。」
「......でも、慎五さんの事故の時にはまだ親御さんは居たんだよね。
サポートとか、してくれなかったの?」
「母はともかくとして、あのデブからは何も無いです。
そもそも前までの僕にあった『人を過度に信じず、愛さず、期待もしない』って言う心はあの人の行動によるものがありますし。
幼稚園のテストでいい点を取ったら玩具を買ってくれると言うから、全力で頑張ったのに『そんなことは言っていない』『証拠を出せ』で切り捨てられ。
愛は帰ってこず。
期待は斜め下に向かって行く。
......なんとも、言えませんね。」
「「「......デブ?」」」
「あっ、出てました?」
「口、悪くなったね。」
その日はナイトコードの作業も円滑に進み、いつもより早く床に着く。
奏さんの父親のベッドで寝転び、大の字になって天を見上げた。
あの憎たらしい脂肪と顔が頭をよぎり、苛立ちが募る。
あの人は人を否定し自分を肯定することが大好きな男。
いつかは戦わなければならないとして、もしあの人の悪意が僕だけで無く皆にまで及んだら?
そうなれば僕はアレをブチ殺さなければならない。
社会的にか肉体的にか方法は問わず、何らかの方法で。
......もうやめよう。
スマホのホーム画面を見て、奏さんの寝顔に癒されてから瞳を閉じる。
きっと僕は奏さん無しにはもう生きられないな、と心のどこかで確信を持ちながら、微睡に身を任せた。
今日は満月だったらしい。
評価等よろしくお願いします