奏で彩る7=16   作:チクワ

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歌声、25時に晒し上げ

 怒涛の1日から、2週間が経った。

 僕はあの後おじさんにこっぴどく叱られた。

 

 何処へ行っていた、開店準備が出来ていないなど。

 まあすいません、としか言えなかった。

 

 そんなおじさんも『昨日の少女を送って、その家で寝ていた』と言ったら戦慄した顔で何も言わなくなった。

 着替える為にバックヤードに戻る際、

 「俺でもんな事してねえぞ...?」

 と呟いていたが、よくわからない。

 

 結局どうにかして6時の開店に間に合わせ、事なきを得たが。

 

 そうして、今日も常連のお婆さんの注文を受けてカレーを器によそっている。

 

 「お待たせしました。」

 

 「あら〜ありがとう!」

 

 いつもなら昼時はこれで注文が終わる。

 たまーに初めてきたおじいちゃんがコーヒーを頼むぐらい

の事はあるが。

 だが今回は本当に珍しく。

 いや、働いている間は見た事が無かった。

 

 「お待たせしましたー...」

 

 「あ! ありがとー!」

 

 女子高生? である。

 ピンクの髪をサイドテールにして巻いている、多分おそらく女子高生の人。

 

 そんな人がこの喫茶店に来るとは、驚きを禁じ得ない。

 もっとこう、テレビでやっている様なお店に行くのでは無いのか?

 女子高生は。

 

 一つ疑問が浮かぶだろうが、あくまで高校生が来ないわけでは無い。

 女子高生は初めて来たが、男子高校生はよく来る。

 具体的な例を出すなら、紫の髪に青が少し入った━━

 

 「やあ、カレーとコーヒーをお願いしても良いかな?」

 

 そう、彼。

 神代 類(かみしろ  るい)だ。

 

 「はーい、わかりました。」

 

 スタイリッシュに入ってきた類さんの注文を受け、コーヒーを入れて冷めないうちにカレーを作る。

 

 僕と類さんの関係はそこまで深いものでは無い。

 ただ僕が初めて接客をした客で、彼は不自然なほどガチガチだった僕の話し相手になってくれた、それだけだ。

 

 小学生みたいに笑い合って遊びに行く程の仲ではないが、それほど忙しくなければ店員と客の関係で近況を話し合う、何とも言えない関係だ。

 

 

 「お待たせしましたー。」

 

 横にいる高校生と談笑している類さんの会話を遮り、カレー、コーヒーの順で渡す。

 コーヒーを飲んでカレーを食べたら、こちらへ言葉が投げかけられた。

 

 「どうだい咲くん、接客には慣れてきたかな?」

 

 僕は周りを見渡し、新規の客や注文をしようとしてる人がいない事を確認し、端に置いておいた椅子を持ってきて座り話し始める。

 

 「はい。

 最初と比べたら割と......

 クレーマー? とかが来たら冷静には出来ないでしょうけど。」

 

 「ははっ」と類さんはいたずらに笑う。

 その笑顔はいつだかに遊んだ親戚のお兄さんを思い出させた。

 

 「最初に会った時は酷かったからねぇ。

 『ゴ、ゴチュウモンハナニニシマスカー』なんて、ロボットみたいな声で...... ふふふっ...」

 

 自分の頬が染まっていくのを感じる。

 その話は似てないモノマネと合わせてやめて欲しい。

 ご機嫌な類さんがカレーを口に含んだその時。

 

 隣にいた女子高生? が思い切り背中を叩いた。

 類さんの口からカレーは飛び出なかったものの、こもりにこもった「んごふぅ!」と言う重低音が聞こえてきた。

 

 「ねえ類!

 この店員さんと知り合いだったんなら言ってよ!

 僕、店員さんに聞きたいことがあってきたんだから!」

 

 済ました顔のままコーヒーを飲んで落ち着こうとする類さんを、女子高生の人が息つく暇を与えずしばき続ける。

 

 べちべちと叩く音。

 「あらあら」と微笑むお婆さん。

 飲もうとしたコーヒーをついに吹き出す類さん。

 あわあわとすることしかできない僕。

 

 昼過ぎの店内に混沌が展開されていた。

 

 

 「......いふまへやふんへふは(いつまでやるんですか)?」

 

 「おお...! 

 雪見だいふく...!」

 

 どう言う感想なのだろうか?

 僕はピンク髪の女子高生? である人、

 暁山 瑞希(あきやま  みずき)に頬を引っ張られ、ふにふにと触られている。

 

 宵崎さんにもやられていたが、僕の頬はそこまで柔らかいのだろうか?

 

 ふと、テレビの方から音楽が流れた。

 それと同時に頬が解放される。

 

 流れる音楽に意識を向ければ、特徴的な声。

 バーチャルシンガー、初音ミクだ。

 

 ニュースの見出しには

 『今若者中心に大人気!

 「ニーゴ」とは一体?!』

 と書かれている。

 

 ふと暁山さんの方を見れば、神妙な表情でテレビを見ている。

 さっきまで騒いでいたのに、みんなしてテレビに耳を傾けている、不思議な光景だ。

 

 ニュースの1コーナーが終わり、ニーゴ、と言うものが気になってきた。

 とは言え僕のスマホで音楽は聴けない。

 おじさんからダメ、と言われているからだ。

 

 「あっ」

 

 そう言えば今、暇そうでスマホを持っている人がいた。

 

 「類さん、スマホ貸してください。」

 

 「いいけど...... 何をするんだい?」

 

 懐からメモ帳とペンを取り出し、机の上に置く。

 

 「ちょっとアナログなやり方を。」

 

 

 

 一曲聴き終わった。

 『ヴィラン』と、言うらしい。

 

 特徴的な曲で、割と頭に残る。

 これからやろうとしていることを考えたら丁度いい。

 

 「さて、何をやるのか見せてもらおうかな?」

 

 「僕も気になるなあ。」

 

 期待されているようで悪いが、何か特殊なことをするわけでは無い。

 ただ、聞いて覚えたリズムをメモ帳に書いて、そのリズム通りに指で机を叩く。

 で、それに合わせて歌うだけだ。

 

 ......とは言っても、歌詞をメモ帳に書いてる時は少し恥ずかしかった。

 ひらがなで『みすたーくれいじー』って書いている所を真面目な顔で見られていては頬を赤らめるのも仕方ない事だと思う。

 

 「へー...... よく考えるね。」

 

 暁山さんはリズムを書いたメモを手に取りまじまじと見つめる。

 かえしてほしいなぁと思っていると、暁山さんが何か悪いことを思いついたような、そんな顔をした。

 

 「ねー咲、歌ってみてよ!」

 

 「いやです。」

 

 即答である。

 僕は歌が上手いわけでは無い、上手い下手以前に今、自分の声をコントロール出来ないのだ。

 2ヶ月この声と過ごしていても、どうしようもないことだってあるのだ。

 

 「そんなこと言わないでさ、僕の頼みだから〜!」

 

 「いやです。」

 

 だが暁山さんは逃がさない体制を取っている。

 初対面なのにガツガツ来る。

 仕方がないので類さんに助けを求めようとするが━━

 

 「いいじゃないか咲くん。

 ほら、スマホを貸したわけだし、僕の願いと思ってさ?」

 

 

 味方はいない。

 幼稚園の頃にやったゲームか何かにこんな状況があった気がする。

 前後から鉄板が来て潰されて、ペラペラになってしまうやつ。

 

 「ゎかりましたぁ...」

 

 全てを諦めて受け入れることにして、頑張って歌ってみた。

 結構恥ずかしかったがそこまでならまだ良かった。

 なんと暁山さんが録音していたのだ。

 抵抗したが、類さんに言いくるめられて持ち帰られてしまった。

 

 『磨けば光るよ!』

 去り際に暁山さんが残した言葉である。

 その日の夜、布団に潜り込みながらその言葉を反芻する。

 

 「......練習、してみようかな......」

 

 仕事以外で珍しく前向きになれた、一言だった。

 

 

 

 『あれ、Amiaやけに機嫌が良いじゃん、どうしたのよ?』

 

 『あ、わかるー?

 実はね、今日僕の目の前で25時、ナイトコードでにハマった人を見てさ!

やってることが実ってるな〜って!』

 

 『そう。』

 

 『雪、そんな他人事みたいな反応しないでよー!』

 

 『他人事でしょ。』

 

 「でも、誰かを救えたって言うのは嬉しい... かな。」

 

 ナイトコードにて、会話が弾んでいく。

 

 『でね!

 その人に歌ってもらったんだ!

 録音してきたから聞いてもらおうと思って!』

 

 『...それ、必要ある?』

 

 『必要だよ!

 えーと、ほら! Kの創作意欲? を刺激するかもしれないし!』

 

 『でも人の歌でアイデアが思いつくことある?』

 

 「...聞いてみようかな。

 Amiaの言うみたいに何か、思いつくかもしれないし。」

 

 『! じゃあ流すね!』

 

 そう言ってAmiaが通話に流したのは、決して下手ではない、だが自身の声を持て余した成長途中の歌。

 Amia(瑞希)の表した『磨けば光る』と言うものが合致する歌声。

 

 聴き終わり、最初に口を開いたのは雪。

 

 『......特別上手くはないよね。』

 

 続いてえななんが付け足していく。

 

 『あんた基準から見たらそりゃ()()上手くはないでしょ!?

 ......なんて言うか、今まで歌ってこなかった、まっさらな感じ?』

 

 「......」

 

 『け、Kはどう思う?』

 

 しばらく黙っていたKが、不思議そうに口を開いた。

 

 「...うん、精一杯の思いがこもってるのは伝わって来た。

ただ......」

 

 『ただ?』

 

 「...なんでもない、作業に戻るね。」

 

 ただ、の先を言い淀み、結局誤魔化して有耶無耶にした。

 彼であるとは思うが、間違っていればそれはただの間違いだ。

 失礼になってはまずい。

 

 マイクをミュートにして、一旦ヘッドセットを外す。

 窓の外を見れば、綺麗な月明かりが差し込んでいる。

 

 「......四宮さん、だったよね?」

 

 ━━明日、出かけてみることにした。

 

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