咲や奏ほどいちゃついている話は書けないかもしれない......
「あらまふゆ、お出かけ?」
「......うん、息抜きに少し遊びでもどうかなって友達に。」
「そう、息抜きもいいけれどお勉強も忘れない様にね。
高校二年生はこれからを決めるのに一番大事な時期なんだから、
「わかってるよ。 行ってきます。」
「出かけてくる。」
「......一也、あなたはどこかに出かけて遊んでられる身分じゃ無いでしょ?
最近は点数が上がってきたからって継続しなくちゃそれも意味がないのよ? どこに遊びに行くのか知らないけど、そんな大事な時期に遊ぶ様な
「わかった、次のテストも頑張るよ。」
「......はぁ、なんなのあの子。」
──朝比奈さんが馬鹿?
遊ぶ事がどうでもいい事とでも言うのか?
朝から苛立つ心を鎮めながら、ベンチの前に作られた水溜りへ視線を送る。
誰が縛られて生きることに快感を覚えるものか、それを使命と受け取る事ができるものか。
形作った拳に力が入る。
俺は誰かに認めて欲しかった、それだけの為に母親を選んだだけだ。
在りたいようにあるだけ。
俺は──
「......人の夢を継ぐつもりはない。」
「大丈夫?」
怒りが口から漏れると同時に、約束の時間ぴったりに現れた朝比奈さんがこちらを覗き込んだ。
まずった、聞かれていないかと焦りながらその顔を見るが、平然と変わらない様子を見るに聞こえていなかったようで一安心。
作っていた拳を解き、爪の跡が残ってしまった手のひらを隠すようにして笑う。
「大丈夫です! じゃあ行きましょうか!」
「うん、わかった。」
そうだ、怒りを持ち込むべきではない。
これはあくまで彼女の心をその体に戻すためのヒントを探す、そのための外出だ。
この外出の主題は俺じゃあない。
とりあえず、人間の感情を引き出せそうなもの...... 喜怒哀楽を探しに行こう。
「......あー、つっかれたぁ〜......」
「......」
まず最初に見たのは映画。
私は気にした事がないので知らないものだったが、彼が言うには一応大ヒット号泣映画らしい。
『何か感じる事はあった?』と彼が私に聞くが、そこに何か意味のある答えを返す事はない。
いつも通りだ。
......というより、彼と同じ言葉を言うほかない。
「私も少し疲れたかな。
特に思うところもなかったし。」
「うーん、申し訳ない。
......選択間違えたかな、『絶対泣ける』って書いてあったんだけどね。」
おそらくその広告に間違いはないだろう。
その理由として私達の後に出てくる客は、皆一様に目を腫らしている。
思わせぶりな演出や役者の演技を考えればその用途に尖らせた映画だと言うのはわかるが、わたしたちに刺さらなかったと言うだけだろう。
休憩もそこそこ、立ち上がってからの手を掴み引き上げた。
「次、行くんでしょ?」
「あ、うん。
哀はダメだったから次は──」
示したのは『楽』。
向かったのはショッピングモール内にあるペットショップで、今日はちょうどふれあいが出来る日なのだと。
そこで現れたのは犬や猫で、それぞれ数分間触れ合う事ができると言うもの。
地面を駆けてきた猫はささっと座っている私の膝に陣取ったかと思うと、我が物顔で体を包める。
店員に言われるままに撫でた銀色の体毛が奏の髪の毛みたいで少し可笑しく思う。
横には紺色の毛並みが目を引く鋭い視線の猫も。
しかし猫は気まぐれなもの。
撫でられて心地良さそうにしていたのとは打って変わって、一つ鳴き声を発すると私の膝下からいなくなってしまった。
ひとりぼっちになった感覚と共に彼── 和久井一也の方を見れば、猫を抱いてこそいるがその表情に笑みはない。
まるで猫に望まれた事をし続けるマシーンのようで、少し不気味に見える。
「和久井くん。」
一抹の気持ち悪さを覚えて声をかければその表情に精気が戻り、ての中で収まっていた猫は強く鳴いて逃げ出した。
「時間だって。」
「ああはい、ありがとうございます。
──で、どうでした?」
その質問に対する返答は一緒だ。
──でも、何で?
何で彼を見ていると、お母さんの声と私自身が頭をよぎるの?
「あと感情...... 喜と怒か。
なんかそう言うことありました? 最近。」
「特にはない、かな。
怒る事はともかく、怒らせる事は増えたけど。」
「というと?」
その言葉に興味を抱いたようで、彼は突っ込んで聞いてきた。
とは言え何ということもない。
ただ私がナイトコードで、絵名の絵で気になるところを聞くと彼女が勝手に怒るというだけ。
彼女の絵で気になるところは基本的に感情表現の部分だ。
例えば心のぐちゃぐちゃ感、というのをわざと汚く色を塗ることで表したり、はち切れそうな心を途切れ途切れの線で表現したり。
時折ただバランスが崩れているだけの時もあるが。
その話を聞いた彼は驚いた表情を見せた後に、どこか優しさと悲しさを混ぜ合わせた顔で笑った。
『俺いらなかったな』と呟いて。
「他にはないんです?
もしかしたら、それが心へのヒントかもしれない。」
隠す必要はないと、それぞれの名前だけ濁してここまでのことを語る。
陽気でやけに構ってくる瑞希、線が細くて弱々しいのにまっすぐな奏。
言ってしまえば、全部ナイトコードでのことだ。
彼はどこか核心をついたようにも見える表情で一度視線を水たまりに落とした。
鏡になった水面を足で叩く。
まるで映り込んだ自分を嫌うかのように。
「その人達、大切にしなきゃ駄目ですよ?
多分ですけどその人達と話している時間が朝比奈さんにとって一番楽で、優等生という枷から逃げられる場所なんです。
自分が何か言ったら必ず
そして場を緩めるだけではないまとめ役がいて......って、とってもいい環境だ。
そこならきっと、俺がどうこう言わなくても心は戻ってくる。」
それは彼にとって、自分を戦力外だと通告する事でもあった。
自分で自分に、
胸が苦しい、なんで?
「......そうなんだ。」
「ええ、そうです。」
「......でも、貴方は私の心を見つける手伝いをしてくれるんでしょ?
なら一緒に探して。」
それでも、彼は一度言っている。
ならばそれを果たすべきであり、それまで戦力外という事はあり得ない。
乗りかかった船を彼が降りる事は何となく嫌だった。
「そりゃ、出来うる限りは、まぁ。」
地平線に視線を向けた彼は、少し前までの私によく似ていた。
帰り道、夕焼けを行く。
前は雨に塗れていたこの道も既に乾き切っており、土砂降りの影も形もない。
「そう言えば、あの後風邪ひかなかったですか?
雨だけじゃなくて風も冷たかったので。」
「すぐに着替えたから大丈夫。」
そんな話をしながら歩いていれば、前から女性が歩いてきた。
その女性は顰めっ面で和久井くんの前に立ちはだかり、なんと彼の頬を強く叩いた。
彼は慣れているようにふらついた体勢を戻し、切れ長の目に宿った眼力を強めてその女性を見つめる。
「──あなたねぇ、男の友達ならともかく女の子なんて、そんな時間があるの!?」
「今はやめてよ......」
恐らくは母と子の関係だろう。
か細く絞り出すように発した彼の懇願に聞く耳を持たず、母親は和久井くんを捲し立てる。
「どんな関係でも構わないけどね、そもそも貴方は地頭も悪いし塾にも行きたく無いって駄々こねて行かない!
そんなんじゃ他の子に置いてかれるに決まってる、医者になんてなれないわよ!!」
「別に、俺が行きたいわけじゃ」
「貴女もごめんなさいね、そういうわけだからこの子との付き合いはやめて──」
母親の視線がこちらに向き、その言葉が牙を向こうとした瞬間。
和久井くんは母親の腕を掴んで強く引っ張った。
バランスを崩して足元にへたり込み、見上げた先にあったのは混ざり合った感情に強く歪めた彼の顔。
「全部分かってるし、その上で俺なりに努力してるんだよ......!
そもそも医者になるなんて俺が望んだ事じゃ── ぁ。」
爆発しかけた時、和久井くんはその導火線を即座に踏み消した。
おそらく私がいたから。
母親の腕を離し、悲しそうな表情をして進行方向を変える。
「彼女送ってくるから。
夕ご飯は出前でも何でも取ればいい、俺が作ってもどうせ食わないだろ......」
歩く。
隣にいる彼の手は、まだ震えていた。
ベッドに入り、俺自身の存在を考える。
目の前にいる人間以外に心を動かす事がなくなったのはいつからだ?
映像作品の人間や動物に心震える事がなくなったのは。
──朝比奈さんに言った言葉。
すぐ諦めるから、すぐ失望するから。
あれは...... 自分にも当てはまる苦しい言葉だ。
自分を諦める。
こんな自分に失望する。
......俺に、朝比奈さんをどうこういう資格なんてない。
放っておけなかったんじゃない、似たような音が聞こえてきた彼女に俺を知って欲しかったんだ。
1人でいたくなかった。
でも、俺は朝比奈さんに必要なかった。
きっと彼女は俺無しで心を取り戻すだろう。
素敵なお友達がいるんだから。
そうだ、それが正しい、それでいい。 でも僕はずうっとひとりぼっちのまま。
「......俺は、人形じゃない!」
鏡に映るのはどこまで行っても、ひとりぼっちの
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