奏で彩る7=16   作:チクワ

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二人の間の物語

 

 「お友達とは仲良くやれてるんです?

 まふゆさんのアレに気づいたんですから、相当仲良しみたいですけど。」

 

 「なかよし、なのかな。

 ......みんな楽しそうにしてるし、仲良しでいいのかもしれないね。」

 

 今日は日差しもそこそこ、風があって涼しげな朝。

 これが放課後まで続けばいいなぁと思う一方、そう上手く行くことはないだろうという気温への諦めがあった。

 こういうのを残暑と言うのだろうか? 

 頬を伝わって顎から落ちた雫がアスファルトに灰色の丸を作り出し、次の瞬間には消えていく。

 

 こんな気温の日、思い出したくなくても思い出すのは、数ヶ月だけの友達が女を庇って轢かれた日。

 あの時俺にできたのは救急車を呼ぶだけで、後から行こうと思っていたお見舞いにも行けずじまい。

 いや、何も行きたくなかったわけではない。

 その時ぐらいから親の離婚が現実味を帯びてきたり、子供1人じゃ行きたくても行けない距離だった。

 お小遣いも無いで、電車にも乗れず。

 

 少し前に、当時その友達である藤田咲が運び込まれていた病院は父さんの元勤務先で、そのツテを使って聞いてみた。

 『藤田咲はまだいますか』と。

 答えはノー。

 少し前に退院した上、苗字も変わってしまったと。

 ......少しでも幸せに生きていてくれたらいいのだが。

 

 さて、話を戻して彼女の友達。

 以前少しだけ聞いた話では、細くて折れてしまいそうな銀髪の女の子を中心に集まったグループみたいなものだと。

 まふゆさんに加え、少し感情的で絵を描く努力を怠らない人、元気でムードメーカー的存在の人。

 そして、カフェ店員の男の人。

 

 正直言ってその5人に繋がりは見えない。

 絵を描く人とかはまだわかるけれど、カフェ店員の男ってなんだ?

 しかも、それぞれ関係性の薄い人がいるのかと思ったらそう言うわけでも無いと。

 

 「......それ、どう言う話するんですか?

 関連性が見えないですけど......」

 

 「()()の話。

 ......趣味というべきかどうかはわからない、でも共通の話ではあるかな。」

 

 彼女は趣味とだけ。

 趣味か、俺には無いものだ。

 

 読書でもしてみるかと思ったが、そもそも俺自身文字越しや画面越しの相手に感情を揺さぶられない。

 だからといって運動が得意なわけでもなく、何に秀でているわけでも無いのが現状。

 ただ──

 

 『和久井との話は楽でいいね。

 カウンセラーと話すより、数倍心が安らぐよ。』

 

 夢がないわけでは無い。

 ......と、まふゆさんとの共通の話題が勉強しかないことに深く考え込んでいれば、右斜め前から唐突に顔面へと襲いかかる何か。

 間抜けな声を上げながら張り付いたそれを剥がせば、まるで流体の様に手元から離れて首筋に体を擦り付けた。

 この感触と柔らかさ、間違いない。

 

 「──猫!」

 

 東大王が難問に答える様に唱えた言葉は当たっていた様で、首筋から離れたそれは再度手の中へと収まる。

 可愛げのある鳴き声を出した猫に、ささっと構うことにした。

 よく見れば深い紺色の毛並み。

 俺の髪色と同じそれに親近感を覚え、やけに人慣れしたその動物の頭を撫でてその柔らかさに癒される。

 

 「かわいい〜! 俺、猫好きなんです!

 犬にはとんでもなく吠えられるし鳥には啄まれるけど、猫だけは懐いてくれて! ふふ、やわらか......」

 

 「......そう。」

 

 どうした事だろう、まふゆさんが何故か不機嫌だ。

 いや、表情自体は変わっていないのだが、その顔に差している影が強まった様な気がしたのだ。

 猫を独り占めしていることに対して不満なのか?

 顔の前に猫を持ち上げ、腹話術の様にして聞いてみることにした。

 

 「どうしました?」

 

 「別に、聞いても無いし答えてとも言われてないでしょ?」

 

 「そうですけど...... あっ、逃げちゃった。

 ......不満とかあれば言ってほしいです、わからなきゃ直しようもないから。」

 

 「......行こう。」

 

 「えぇ〜......?」

 

 なんだろう、せっかく俺の頭はスッキリしたというのに。

 今度は代わりにまふゆさんが不機嫌な様子で、しかもそれを教えてくれない。

 どうしよう、なんて考えていても学校に遅れてしまうので、足早に駅へと向かっていく彼女へと走ってついて行く。

 

 神高の最寄駅から降りる時に彼女へ向けて手を振るが、難しそうな暗い顔をする彼女から返答が返って来ることはなかった。

 

 

 

 

 「......って事があった。

 なんかこう、わからない?」

 

 「分かるわけないだろ、会った事ないんだぞこっちは。」

 

 文化祭の準備をする中、ダンボールをカッター一本でぶった切りながら彰人に聞いて見るものの、効果的な返答は返ってこない。

 まあ仕方のない事であるが。

 というわけで、神高はそろそろ文化祭の時期。

 われわれ1-Cはお化け屋敷という事で驚かす為の仕掛けや障害物等を作っているわけだが、どうにも集中できず。

 ちなみに彰人は受け付け、俺は驚かす側。

 

 「......そもそもお前が猫を構ったからそうなったんだろ?

 じゃあその辺からわかるんじゃねえか?」

 

 「いや、考えたんだけどさぁ。

 ほんとに猫を可愛がっただけなんだ、何をしたからどうこうとかそんなの、覚えてる限りやってないんだよ。」

 

 「あのなぁ。」

 

 彼は手に持ったカッターをこちらに突きつけ、面倒くさそうに言った。

 

 「理由も無しに怒る奴なんていねえ。

 どっかに理由があって、お前がただそれに気づいてないだけだろ。

 そんなだからクラスの女子にこんなの(物作り)頼まれてんだろうが。」

 

 「なにおう。

 設計図書いて驚かしの諸々作るの、俺が自分から引き受けたんだぞ。

 ......それ言ったら、彰人だってなんでこんなのやってるのさ。」

 

 「そういう話じゃねえよ......

 ()()()()()()()()()()って言ってんだよ。

 今はこんなので収まってるが、これが大きくなればヤバい事になる。

 その人は心配か何か...... いや、なんでもない。」

 

 「心配、か。」

 

 思えば、俺が電車に乗って遠くに行った時、迎えにきてくれたのはまふゆさんだった。

 あれは心配からだったのか?

 彼女はそう思っていないだろうが、話した時の声は()()だろうとわかるぐらいに暖かさがこもっていた。

 

 ......でも、あれは。

 

 『別に、聞いても無いし答えてとも言われてないでしょ?』

 

 もっと、違う様な......

 

 ......でも、そうだ。

 結局のところ、俺に原因があるのならそれを知らなくては。

 聞いたところで答えてくれるかはわからないが。

 

 「......ところで、その切り方......」

 

 「ああこれ? いいでしょ、スパスパやれる。」

 

 「いや怖えよ、鉈じゃねえんだぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まふゆー、勉強教えてー?」

 

 「......ごめん、少しトイレ!」

 

 同級生から逃げる様にして個室に入り、何をするわけでもなく座る。

 胸の中にある衝動、それにどんな理由をつけたとしても、理解する事ができない。

 何故私の中からこれが溢れ出てくるのか?

 あの時からだ。

 

 『(ここ)の中にちっちゃな自分を入れておいたって、それに意味があったのか。 なんにも分からない。』

 

 『ずーっと...... 自分に重ねた朝比奈さんをどうにかしてあげたかった。』

 

 『......いいんですか。

 ふふ、へへへ。』

 

 ずっと、ずっと、ずっとずっと。

 溢れ出てくる衝動とせめぎ合いながら歩いていた。

 彼がちっぽけな正義感とエゴで私を痴漢から救った時から始まった関わりの中で、ずっと──

 

 『まふゆは、どうしたいの?』

 

 「ミク......」

 

 スマホからホログラムの様に現れたミクに驚くが、それ以上に彼女は悲しそうだった。

 それは私が衝動を抑えて、気持ちを伝えていないから?

 それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『それでいいの?

 奏から教えてもらった。 その気持ちは──』

 

 ミクが言った言葉は、私の身体から力を奪うのに十分なもの。

 散々考えた、彼への答え。

 

 トイレの扉を開けて教室に戻る最中、すでにミクのいないスマホへ一つの通知が入る。

 一也くんからだ。

 

 『近いうちに文化祭をやるんです。

 良かったら来てくれませんか?』

 

 早歩きで進みながら返答を返す。

 ああ、これこそが。

 

 『いいよ。』

 

 

 

 

 

 

 「ねえ、今の朝比奈さん?」

 

 「だと思うけど...... ()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

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