――これは、悪意を乗り越えられなかった可能性の物語――
二つの刃が交差する。
激しく響く鉄の音、それと反比例する様に周りの様子は静かだった。
『滅ィ…ッ』
『ゼロワン…ッ』
熾烈を極める争い、かつての人類とAIの共存を願うヒーローの姿は無く、二つの「悪意」が混じり合う地獄絵図が広がっていた。
『信じています...』
一つは大切なパートナーを喪った悲しみが。
『たった一人の...お父さんだから...』
一つは大切な家族を奪われた怒りが。
ここに正義は無く、感情のあるがままに放たれる一撃は、
〈サウザンドジャッカー〉を掴み、連撃を喰らわせるアークスコーピオン。
『お前は迅を...家族を奪った!!!』
アークワンは仰け反りつつも、その戦意に一切の衰えはない。
『イズを奪ったお前が言うか!!!!』
剣戟を諸手で掴み取り、握力のみで破壊する。
後退するアークスコーピオンはすかさず地面に突き立つ〈アタッシュショットガン〉を構え、宙に無数の〈ショットライザー〉を生成し、一斉射撃を浴びせる。
凄まじい轟音と共に土煙がその場を覆う。
煙が晴れた後に浮かび上がる鋼鉄の壁、アークワンは咄嗟に〈プログライズホッパーブレード〉の能力で銃弾の嵐を防いでいた。
お返しとばかりにアークワンは数十本に渡る〈アタッシュカリバー〉を生成し、アークスコーピオンに向け射出した。
踊り狂う剣閃の中、アークスコーピオンは身体中の至る所から【デストアナライズ】を伸ばし、鞭のように操り全ての剣を粉砕した。
無数の鉄の破片が地面へと落ちる。
反射する光が、まるでここを天上の世界の様に見せた。
それは神話の中のような、個人の勝敗の域を超えた壮絶な戦いだった。
『ホォロビィィィィィィィィィィ!!!!!!!』
『ハァァァァアアアア!!!!!』
『お前の夢は何だ!!!!』
『本当は恐れていたんだろう...?自分の中に芽生えた...ココロを...』
『今のお前ならもう、その意味が分かる筈だ』
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決着は突然だった。
それは偶然とも呼べる寸分の差、時が左右する抗えぬ
滅より長い間悪意に晒され続けた飛電或人には、
初めは【《絶望》パーフェクトコンクルージョン・ラーニング5】を発動した際、直後その反動によって変身が解除してしまう程度だった体は、戦いの中で悪意の力に適応していき、長時間の変身に耐えうる力を得ていた。
しかし滅は『ゼツメツドライバー』を使用しての変身が一度目であり、自分の身に降りかかり初めて、「他者の幸福を奪う」事が計り知れない痛みを生むという事を知り、自らがその事象を起こしてしまった悔恨の念から、心に悪意以外の「ナニカ」が存在する事で『アークスコーピオン』の性能を充分に使いこなす事が出来なかった。
突如として滅の身体を襲う痛み、それは変身が解除されるという現象で顕になった。
「なんだと…?」
自分の意思に反して、生身に戻った滅は動揺を隠せない。
アークワンは〈
それはまるで、大切な人を奪われた意趣返しの様だった。
本来の飛電或人ならそのような悪趣味な真似はしなかっただろう。
だが今ここにいるのは、
もはや未来など、夢などどうでもいい。
『イズは俺にとってかけがえのない存在だった…!!』
滅が顔を上げる。
『イズさえいれば、どんな夢だって叶えられると、本気で思っていた!!!』
血の涙を流す仮面の奥で、悲痛な叫びを上げる。
『それを奪ったお前を…』
引き絞った弦を離すその手は、かつて夢に向かって伸ばした手。
大切な人を奪った敵に、矢を持つ手を離すのは――
『絶対に許さない!!!』
――夢を掴み取るより、簡単だった。
滅は迫り来る矢を前に、人工知能の人間の何倍もの速度を持つ思考で、この世に製造されてから今までを思い出す。
父親型ヒューマギアとしてHIDENに開発、製造された。
悪意をラーニングした。
迅を造り、滅亡迅雷.netを立ち上げた。
自分達を虐げてきた人類に聖戦を布告し、デイブレイクを引き起こした。
『ココロ』を知った。
それから今までの全てを走馬灯のように思い出し――
「―――――――」
――身体を矢が貫いた。
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焼け跡には灰と煤、布の切れ端。
それすら吹く風に攫われ、何も無くなったビルの屋上。
アークワンの変身が解かれる。
仇を打ち、憂いを払ったはずの或人の顔は、暗く、沈んでいた。
その手に握られているのは、かつて彼女が着けていたリボン。
「………………」
終わった、何もかも。
何もかも、失った。
今までイズと積み重ねてきた夢を――
仲間と育んだ友情を――
ヒューマギアと築いた絆を――
全て、全て。
「…う…ぐぅ…あぁぁ…」
流れる涙を隠す仮面はもう無い。
拭ってくれる人もいない。
「もう…無理だ…」
これからこの世界に訪れるは、人類とヒューマギアの戦争。
たった今終結した戦いとは比較にならない程大規模なもの。
きっと数多もの死が世界を襲うだろう。幾多の不幸が訪れるだろう。
悪意は蔓延する、その矛先はただ一人に。
飛電或人は、人類史における大罪人として、後世まで名を残すだろう。
ただ、或人にとってはそんな事どうでも良い事だった。
「君が居ないと...ダメだよ....」
隣で寄り添ってくれた彼女はもう、居ないのだから。
「泣かないで、アーク様」
「私は、ずっとアナタのそばにいるよ?」
「大切なものを奪った世界なんて憎いよね?いらないよね?」
「じゃあもう滅ぼしちゃおうよ、全部、全部さ」
「ねぇ、アーク様♪」
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