地球を防衛する傭兵になりました 作:No.28
あれは別に、手術というほど大それたものではなかったが……それはともかくとして、施術を終えた私はプロフェッサーの後ろについて、彼の進む道を辿るように、研究基地の中を歩いていた。
目的はもちろん、破損したと思われる私のAC・ゲイルウィンドの安否確認である。
基地の内部はいつか見たベース229の中とさほど変わりない。強いて違う点を挙げるとするなら、
プロフェッサー曰く、私のACを搬送するためにリフトを使ったらしい。そしてそのリフトは先程通り過ぎた。
「着いたぞ」
「ここが……」
一際巨大な隔壁が設定されているこの格納庫の中に、ACがあるのだろう。
「少し待ってくれ。私が権限を持ってる」
そう言ったプロフェッサーは尻のポケットからカードキーの入った財布を取り出し、カードキーを取り出してリーダーに読み込ませた。
「《ようこそ、プロフェッサー》」
「開いたぞ。さあ入ってくれ」
AIが彼を歓迎する。私もプロフェッサーに続いて格納庫の中へ入るが、暗い。搬送されてすぐだった為に、電気を落としていたのだそうだ。
「あっ!」
その暗闇の中、ほんやりと光を反射する私の機体があった。プロフェッサーが駆け寄る私の為に照明を着けてくれる。光に照らされた私の機体は、残念な事だが当然、無様な姿になってしまっている。
ヘッドパーツや武装、アームの殆どが焼けて爛れ落ちており、コアと脚部が辛うじて生きていられるかもしれない、という程度だ。そこにかつて私と共に地下を、大地を、戦場を駆け巡った愛機の姿はない。鉄クズと化してしまった。
「…………あ、コム…」
修理されたばかりのボディでACの融解部分をよじ登り、私はコクピットと思しき場所へ行く。そこには私の居たであろう場所、即ちコクピットがあり、その入口部分は思い切りカッターか何かで切断されている。
「………流石に死んでるか……。残念……」
「すまない。私たちの基地に運ばれてきた時は、既にそんな状態だった。君を助けるのに精一杯だった」
プロフェッサーが慰めてくれた。
「いえ、大丈夫です。残念ですが機体は消耗品ですから。……そうですね、
「舟? ……確か、破損する度に修繕していった船は、全てが新しい部品で構成された時、果たして元の船と言えるのか? ……という哲学的問題だったな」
そうだ。私の機体も、過去幾度となく破壊され、あるいは破損している。レイヤード時代からずっとそうだったのだから、パーツなんて当時からいくらでも違うものが使われている。
唯一変更点のないコアだって、二次損傷と呼ばれるほど機能が低下するレベルで損傷が酷かったりで、何度か入れ替えているのだ。ACは消耗品である。
「それと同じですよ、プロフェッサー。私の機体は何度も塗り替えられている。消耗品に過ぎない。これに乗って戦う以上はこれと共に死ぬ覚悟でしたが、生きているにもかかわらず機体が壊れたうえ、この世界では替えは効かない。もう、私に出来ることは歩兵として戦う事ぐらいです」
「待て、それは早とちりだ」
プロフェッサーは私の言葉に少しだけ待ったをかける。早とちりといっても、この世界では補充が効かないのだ。武装も騙し騙しでコンバットフレームのものを流用してきたのだから。
だが、プロフェッサーは端末を操作している。何かを私に見せようとしているのだ。
「これを見てくれ。ACの技術は、我々にも真似はできる。一からの設計、生産は不可能だとしても、我々には培った技術がある。
システムエンジニアリングの繰り返しさえ出来るなら。つまり時間さえ掛ければ、十分似たようなものを作る事は可能だろう。問題はその時間が───」
プロフェッサーが言葉を続けようとした次の瞬間の事だった。端末に通信が入る。プロフェッサーは眉間に皺を寄せて応答した。
「……始まる」
『プロフェッサー! こちらレンジャー9! 怪物が基地に侵入しました!! 緊急出動チーム、レンジャー7、8、及び9の、3チームで制圧に当たります!!』
「わかった。できるだけ科学者達を避難させてくれ」
『了解! ……うわっ! こっちに来るぞ、撃てっ!!』
銃声が響く端末をスリープモードに切り替える。プロフェッサーは私を見て、冷静に告げた。
「単刀直入に言う。私はこの時この時間、ここが襲撃されるのを知っていた。そしてこの後、人類は未曾有の危機に晒されることも」
「え……? …………え? つまり、どういう事ですか?」
彼は私の腕を引っ張って、格納庫の奥へ連れていく。そこには小さい扉があり、奥には武器の数々がある。
「悪いが話している時間はない。君は好きな武器を取って、生きてベース251へたどり着くんだ。私も妻を連れてそうする」
「え? ……わ、わかりました。プロフェッサーも、どうか無事でいてください」
私は何もわからないまま、アサルトライフルPA-11を手に取る。弾数は40発。弾倉の数は16個程。短時間の戦闘なら問題は無い。
「プロフェッサー、あなたは?」
「言ったとおり妻を助けに行く。安心してくれ。私は兵士じゃないが、戦い慣れている」
プロフェッサーは慣れた手つきでマガジンの中身を確認し、弾倉を銃に装着してレシーバを引く。確かに、銃の扱いはまるで兵士のようだ。
「でも、ひとりじゃ……」
「大丈夫。これは予定調和なんだ。私は生き残る。妻も、生き残らせてみせる。君も生きろ」
「…………分かりました。どうかご無事で」
私とプロフェッサーは別々の道を走る。私は複数ある出口のうち、もっとも近くにある場所へ。プロフェッサーは居住区へ。
装備もそうだが、体内の機械のせいか体がとても重たい。それに、パイロットスーツが首元以外壊れているせいで防護効果がないのに無駄に窮屈な思いをしている。
外しちゃえっ。
スーツを取り外した私は、さっきよりかは身軽になった。弱点としては皮膚(これはつい先程人工皮膚であると分かったが)が露出してしまうことと、ハーフパンツと破けたTシャツしか来ていないこと、そして私に羞恥心がある事だ。
(思ったより恥ずかしい……)
ハーフパンツにブーツというよく分からない組み合わせのまま走る。出口へはあと200メートル。それなのに、目の前にはあのアリが広がっている。
やるしかないか、私はそう思いつつ、引き金を引く。
私の持つPA-11から放たれる数発の弾丸は、近くにいたアリの甲殻を破っていくが、致命傷には至っていないようだ。アリが付近の仲間に敵の存在を知らせてしまったが、構わず損傷を与えた1匹を撃破する。続けて最も近い2匹目に狙いを定め、引き金を引いて連射した。
アサルトライフルの連射は、破壊力は抜群のようだ。だがすぐに弾が切れてしまう。私は慣れない手つきでマガジンを取り出し、次の弾倉に入れ替える。焦るうちにも、どんどん敵は迫ってきている。私は背を向けて全力で走り、薬室に手動で弾を込めると、振り向いて敵の位置を確認する。
「うわぁあっ!?」
目の前で攻撃態勢に入っていた。私は驚いて尻もちをついてしまったが、それが逆に功を奏したようだった。アリの腹部から放たれた酸は偶然にも私の頭上を通り過ぎていき、私はこれ幸いとライフルを連射した。的確に頭を撃ち抜くなんて芸当は私にはできない。
できることと言ったら、堅実に敵の数を減らすことだけだ。後ろを見ながら後ろに走って、敵の姿を確認しながら敵を撃つ。難しいが。できなきゃ死ぬ。プロフェッサーと約束したのだから。
「うぉぉおおおおっ!!」
私は自分を振るい立たせて目の前の敵の大群にライフルをばら撒き、リロードする。さっき一度やっているから、次は容易に取り替えられた。格納庫に撤退しつつ、肉薄してくるアリをライフルで応撃する。近づいてきていたそいつが死んだのを確認して、銃口を別の敵に向けて引き金を引いた。
反動が私を襲うが、無理矢理に抑えて敵へ弾を当てる。銃身がブレて弾が一定の軌道を進まず、そのせいでかなりバラけてしまっているが、的は大きいので今のところ当たってくれている。だが、戦い続ければ私は疲弊してしまう。ここいらで数を減らしておきたいが、絶え間ない攻めと物量で、減っているような気がしない。
だが、諦める訳にはいかない……。
プロフェッサーと生きて落ち合うのだ、ベース251で!
「倒れろぉーーーっ!!」
逃げながらも。 私は撃つ。
銃弾を敵にあびせ、敵の攻撃をどうにか回避する。避けて体勢を立て直し、目の前に迫るアリへ攻撃する。そのまま倒した奴から離れながら別の個体へ銃を向けて連射する。弾倉を変える。
「クソッ……!!」
だがダメだ。
敵は減らない。こっちは銃が一丁に、歩兵戦闘の経験すらないシロウトがひとりだけ。勝ち目はなかった。格納庫は広いが、逆に言えば包囲される隙を与えかねない。私は有利な位置に逃げたはずが、敵に取り囲まれていたのだ。
そして私が取った行動は、ダメ出しと言わんばかりの吶喊。ライフルを腰だめに構えて連射しながら、包囲の薄い場所を見て突撃するのである。
それが良い方向に働いたのか、私は命からがら包囲網を脱する。ブーツが敵の放った酸の液体を踏んづけたせいで、靴底が焦げていくような気がする。
振り返ってライフルを撃ち続ける。突破はしたが、全て倒せたわけじゃない。ましてや、敵は数が減るようには思えない程の大群だ。
どん。
残念だが、人は壁を背中だけで押す事はできない。私は絶望する。
「う…っ!? くそぉ……っ!!」
横薙ぎにアサルトライフルを振り回し、引き金を引き続ける。カチカチ、と、無情にも弾は空になる。私は壁に背をつけながら、敵が怯んでいるうちに弾倉を変えようと予備弾倉に手を伸ばす。だが、それを焦って落としてしまった。
「あっ! ………うッ!」
そして見てしまった。マガジンに手を伸ばした時、その眼前にアリが迫っていたところを。
私は思わず壁に寄りかかってしまう。だが、それは重々しい音と共に消えていき、私は消えた壁に寄りかかる事が出来ずに転ぶ。
「わ、あっ!?」
「こちら、レンジャー1。迷子のお嬢さんを発見。保護する」
「レンジャー2、怪物を撃て!! レンジャー1を援護!」
私は大人の手に引かれて床を滑るように移動し、アリから離れていく。そして逆にアリへ突撃するように、5人の兵士が走っていく。
「よく生き残ったね。安心してくれ、俺達は怪物退治のプロだ。こんな小勢に負けはしない」
そう言うと、私を庇ってくれたもう5人の兵士も突撃していく。凄まじい事に、彼らは私なんて比にならない程の速度で敵を殲滅していく。私は全く歯が立たなかったのに、兵士たち……あのレンジャー達は手馴れているかのように軽々と殲滅させていく。
お互いがお互いをカバーするように立ち回り、2人で火力を集中させて1匹を倒す。連携の取れた動き、統率の取れた動きだ。私は彼らの動きを見ていることしかできなかった。
「うー………悔しい……」
気がつけば私は1人のレンジャーにおんぶしてもらっていた。情けない事に、へっぴり腰で立てなかったのだ。ついでに言うと私をしっかりと見るまでボロボロの服の女の子としか思っていなかったらしく、私を正面から見たレンジャー2人が短い悲鳴を上げていた。少し申し訳なかった。
「噂は聞いていた。凄い兵器を操る機械の少女。まさか高校生ぐらいの見た目だったとは思わなかったが」
「うん……その凄い兵器も、壊れちゃったけどね……」
離れていく格納庫を見やる。ドロドロに溶けているACの腕がかろうじて見える。
「まあ、生きているだけで儲けものさ。俺達の仲間が散々助けられたらしいからな。次は俺達が助ける番だ」
EDFの仲間だ。 彼はそう言って私を勇気付けてくれた。これもまた情けない事に、戦うと決意しながらも守ってもらえることに安心してしまった。
私はACがないと、こうまで非力なのか。
戦闘適性なんて備わっていないのかもしれない。私は、本当はドミナントなどではなかったのかもしれない。じゃあドミナントとは誰だ?
「おっ、見えたぞ! 君、もうすぐ出られるぞ! レンジャー2、グレイプを用意してくれ」
「了解。少女は守り切るぞ!」
レンジャー2が先行していき、車両庫から輸送車両グレイプが1両、その姿を見せる。ここにいるのは11人、運転手と助手で2人の、ガンナー1人の兵員室10人。人数としても問題は無い。
私は抜けた腰が戻った事を言うタイミングを見失ったまま、グレイプに乗せられる。うーん、情けね……。
「もう安心だ。最寄りの拠点に連れて行ってあげるからな。ここからだと……遠いな。ベース496か。80キロは走るぞ、軽油は!? 入れたか?」
「昨日俺が整備してる。任せろ」
グレイプが走り出す。基地のリフトに到着するのは早いがここから80キロは走る必要があるらしい。
「大丈夫だ、もう安心していい。君のコールサインは? 君とか少女って呼ぶんじゃ不便だ」
「ラプター、それかレイヴンって呼んで」
「レイヴン? この前実戦配備された新型ライフルか」
彼もプロフェッサーと同じ認識だ。当然か。私の世界でのレイヴンとこの世界でのレイヴンは意味合いが違うのだから。
「わかった、レイヴン。うん、クールだ……ハハハ」
「フフ、良いな。レイヴン、俺もそう呼ぶか」
「……しかし、こんな小さい子も戦う時代か。嫌な時代になったもんだ」
「だがサイボーグか。ロマンがあるな」
レンジャーの1人が私の頭を撫でる。私が機械の体というのはあまり気にしていないようだ。
「そういえば、聞いたか? プライマーの奴ら、遂にアーマーを着た精鋭歩兵を投入してきたらしい。かろうじて防衛に成功したのは例のスーパールーキーがいたエリアだけらしいぞ。それも、防衛に当たった機甲中隊は全滅、コンバットフレームもやられたって話だ」
「プライマーの精鋭歩兵か……戦況は悪くなっていくばかりだな」
私が眠っている間に……死んでいる間に、敵はどんどん戦力を増強しているらしい。
「レイヴン。あの機体は君にしか動かせないと聞いたよ。 プロフェッサーから君を護衛するように言われている。《君は今後の未来に絶対に必要な人材だ》とね」
伝言からするに、プロフェッサーはACを解析、生産するつもりらしい。でも、プロフェッサーは《始まる》と言っていた。なぜプロフェッサーは、ここが襲撃されることを知っていたのだろうか?
更には、この後もっと酷い惨状が人類を待ち受けていることも知っていると言う。何があるのか? ベース251に行けと言っていた。ベース251には何が存在しているのだろうか?
私の疑問は尽きる事はなかったが、それ以上に生身で戦闘した疲労が私を襲って、起きてから数時間と経っていないにもかかわらず、眠ってしまった。
起きると、私はベッドの上にいた。身体を起こして、ブーツを履く。起きて気がついたが、上着がジャケットになっている。誰かが着せてくれたのだろうか?
……行かないと。ベース251に、プロフェッサーが待ってる。私は部屋に置いてあったビニール袋を拝借し、その中に一緒に入っていた食料を手に部屋を出た。武器庫に行ってライフルを取りに行かないと。後は、私の身長にも合うアーマーが欲しい。
ブーツが灼けた事は既に確認している。戦闘服は無理でも、せめてサイズの合うアーマーがあれば、多少は耐えられるはずだ。
廊下には誰もいない。ここは恐らく基地なのだろうが、兵士の姿はなかった。戦闘中なのかもしれない。なら食料なんて持っていく暇は無い。銃を取って戦わないと。私の体格では、ショットガンやスナイパーライフルみたいな反動の大きい武器は使えない。必然的に、アサルトライフルが選択肢を独占することになる。
武器庫を見つけた。案の定というべきか、入口から近い場所のガンラックは空になっていて、弾薬もごっそり減っている。私は少し奥にあるライフルを手に取り、アーマーを吟味する。サイズの一番小さいものを選び、身体にきつく固定すれば、どうにか着られない事は無さそうだ。ヘルメットも被っておいた方がいいだろうか?
……残念ながらヘルメットは全部ぶかぶかで、クリップを取り付けてもずり落ちてしまうからダメだ。 その代わり、ブーニーハットがあったので代わりに被っていく。紐をくくれば私でもかぶれる大きさだ。
アーマーにマガジンを差し込み、ライフルに弾倉を装填する。これで戦える。
出口を見つけないといけない。ベース251へ…………うわっ!
私は突然浮き上がった!
「ようやく見つけたぞ! いたずらっ子め、こんな所にいたか。武装までして……何をするつもりだったんだ?」
どうやら抱き抱えられただけらしい。私はゆっくりと下ろされた。ライフルを床に置く。
「って、おい、それは俺の帽子だぞ! 返せ!」
紐を解かれて、彼の頭にブーニーハットが収まってしまう。あー、せっかくピッタリなサイズのを見つけたのに……。
「全く……どこへ行くつもりだったんだ? 俺の監視の目を抜けるとは、なかなかやるじゃないか、ん?」
頭をガシガシと撫でられたあと、私は抱っこされる。いや、そんな事される歳じゃないんですけど。と、それとなく言ってみたが聞く耳持たずだ。仕方ないので質問されたことに答える。
「私はベース251に向かおうと思ってて。プロフェッサーとそこで落ち合う予定だったんです」
それを聞くや否や、彼はピタリと歩みを止めてから私を下ろしてしゃがみ、視線を合わせてくる。
「それは確かか? 俺もベース251に転属の予定だった。じゃあ一緒に行くか? 他の仲間も何人か着いてくる予定だからな」
偶然な事に、彼もまたベース251へ行くつもりだったらしい。これは僥倖、とばかりに頷く。彼は更に続けた。
「お前もEDFの兵士なんだったか? 俺は前までは民間人でな。戦況が悪くなってきたと聞いて居ても立ってもいられず、入隊した。階級はまだ一等兵だが、そのうち
という夢を語る彼は、握りこぶしを天に(というか天井に)突き上げて決意を露わにしている。そんな彼の後ろから走る音が聞こえてきた。
「おい一等兵! 少女は見つけたか!?」
「はっ! 伍長殿! ここに!!」
後ろから話しかけられた伍長殿に向き直る私と一等兵さん。一等兵さんは私がさっきまで被っていたブッシュハットを頭に被っている。後は保護ゴーグルをつけていて、あごひげが生えている。今まで見たのが普通の隊員だっただけあって、一等兵さんの見た目のインパクトが強すぎる。見た感じ軍曹っぽい感じだったけど……。
「よかった、ここにいましたか。体調は問題ありませんか、中尉?」
「うん、大丈夫。一等兵さんが来てくれたから」
「え……えっ!? ち、中尉っ!?」
入隊して二ヶ月程度なのだろうが、どことなく謎の貫禄がある一等兵さんは私と私の階級を聞き返して困惑する。
実は、テレポーションシップ撃墜を敢行した二日後、中尉へ昇進させるという通達があった。勲章などは与える時間がなかったため、形だけの中尉階級だが、それでも前線の歩兵の指揮を行うことはできる。……実際に指揮が上手いかは置いておくとしてだが。
「しっ、失礼いたしましたぁっ!!」
ビシィッ!! ……と、そんな効果音が似合いそうなほどキビキビと手を動かし、足を揃えて勢いよく敬礼する。私はそんな一等兵さんを宥める。
「まあまあ、私なんて機体が無いと戦えないから、民間人と変わりないよ。だからそんな畏まらないで」
「しかし自分は……いえ、わかりました。 んんッ! ……わかった、そうさせてもらおう」
調子が戻ったようだった。伍長さんも頭を掻いている。
「中尉、あまり甘やかさんでください。そいつぁ訓練成績こそ優秀でしたが、血の気の多い奴でして。一等兵お前もだ! 中尉のご好意に甘えて、規律が疎かになるぞ!!」
「えぇ…え、し、しかし中尉は……!」
板挟みになって、可哀想に……私が助け舟を出してやろう。
「まあ、伍長さんも。私の階級は見せかけのようなものなんだから。畏まらずに。じゃないと私が気恥しいよ」
伍長も納得したのかしてないのか、半々といった様子で了解してくれたようだ。
「……仕方ないですね。了解しました。一等兵! 中尉殿に甘えることのないようにな!! ……ではこれで。私はまだ内務がありますから」
彼が敬礼して廊下を立ち去っていく。私が見慣れない格好で武装している事は触れないのか……と思いながら立ってると、一等兵さんが目の前に屈んで視線を合わせる。
「しかし、こんな女の子が尉官かぁ……一体何をやったんだ? まさか、一人で怪物の群れをやったとかか! それなら納得だ、俺も民間人の時に怪物に襲われたが、奴を倒すのに相当の勇気を振り絞った!」
「そっかあ、倒すのに勇気を……え、民間人なのに!?」
一等兵さんは胸を反らして誇るように語る。
「そうだ! 俺は軍に入るまでは猟師をやっていた。 あれは鹿を仕留めた帰りの事だ……家に帰った俺の携帯に入る一通の通知、それは住んでいた地域に少数の怪物が出たとの知らせだった。
俺は居ても立ってもいられず、散弾銃を持って家を飛び出し、市民を襲う一体の怪物を仕留めたのだ!! その後EDFに保護された市民達から、俺は称えられた……そして、俺は決意したのだ。EDFに入隊し、怪物から市民を守ると!!」
なるほど……それは確かに勇気ある行動だっただろうなぁ……。猟銃って確か2発ぐらいしか入らないんじゃなかったかな?
外したら食べられてしまう状況で冷静に敵を倒せるのは、確かに兵士の素養というか素質があるのだろう。
「中尉殿も、やはり怪物を?」
「いや、私はテレポーションシップをかな……」
遠慮がちに言うが、一等兵さんの耳にはガッツリ入っていたらしい。私を持ち上げて、真偽を尋ねる。
「ほ、本当なのか、それは……!!?」
「ムグムグ……ぷはっ! ほ、本当! ホントのこと!!」
まあACあっての事だけど。そう付け加えるも、一等兵さんは聞く耳持たずで私を私が寝ていた部屋に連れ込んだ。
私をベッドに座らせると、一等兵さんはその前で正座してメモを取り出す。
「是非ご教授願います、中尉!! 俺はもっと敵を倒し、市民を救いたいんです!!」
「だからぁ、私は生身じゃなくて機体があったのっ!!」
───実にそんなやり取りを数時間近く続けたかもしれない。時間が来て、一等兵さんがベース251へ移動することが決まると、私もそれに同行した。
ここはベース247だったらしい。
また疲れた気がする……。
ウィンディ『ラプター』レイヴン中尉
入隊日:2022年7月29日
身長156cm、体重79kg(機械の体がこれほど軽いとは思えない。何か特殊な金属を使っているのか?)
所属基地ベース247。後にベース251へ配属予定。
備考:扱いを兵士ではなく民間人とする。理由としては、彼女の有する機体が破壊され、戦闘が不可能であるためとされる。
『レンジャー2-4』一等兵
入隊日:2022年11月19日
身長179cm、体重81kg
所属基地ベース247。後にベース251に配属予定。
備考:誰かこいつを止めてくれ。夜間ですら訓練を続けるもんだから朝寝坊する事が稀にある。部屋を同じにしたがる奴もいないし、勘弁してくれ!