地球を防衛する傭兵になりました   作:No.28

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 生存者を収容した、作戦は完了だ。

 ……!?

 港に停泊して補給を行っていた戦艦『エリゴール』からの救援信号だ。EDF極東方面海軍艦隊エリゴールは、最後の潜水母艦エピメテウスを除けばEDF海軍の保有する海上戦力随一の戦闘能力を持つ戦艦だ。
 詳しい情報は分かっていないが、怪物は海を移動できないはず。恐らくドローンによる攻撃と推察される。即座に救助に向かうぞ!

 ……悪い知らせだ。

 たった今11隻目のマザーシップが、攻撃隊を壊滅させたという情報が入った。俺たちに出来ることはもう何も無い。戦え。いつかこの戦争が終わる時が来る。

 例え地球全土が絶望に包まれたとしてもだ。




十四話 時代の終わり

 

 

 

 今回もまた仕事だ。EDFは人材の減少が顕著なため、活動可能な兵士は即座に戦場へと回したい気持ちは分からないでもない。しかし一昨日から昨日、今日と来ての連続出撃は流石にきついものがある。

 

「中尉、大丈夫か?」

「ん……大丈夫、少し疲れているだけだよ」

 

 そうか。そう呟いて、隊長がグレイプのガンナー席に戻る。隊長も同じように連日の出撃で疲れているはずだが、その表情に疲れは見えない。睡眠も取っているのか分からないのにいつでも戦えるように準備を整えているらしい。

 

 私とは違って、彼は生粋の軍人であるようだった。数々の戦果を挙げ、今や伍長ではなく、曹長になっているのも、軍人としても異様な昇進ペースらしい。

 

「港まではあと何時間だ?」

「今は……西町か。100キロ先にある市街地を抜けたら海が見えてくる。大体、あと1時間半もかからないだろ。グレイプで飛ばせばな」

 

 今回の出撃理由は、EDF極東方面本部(日本支部の事らしい)が保有する海軍戦力最大最後の艦隊、その中核を成すという戦艦エリゴールの救援要請によるものだった。エリゴール艦隊は一度敵を撃退したらしいが、付近の海域にはまだドローンらしき戦力が残されており、再び艦隊を攻撃しようと進軍している。

 私たちはそれを撃破し、洋上における最大火力を守らなければならない。

 

 弾倉をチェックする。数に問題は無い。というより、投入された隊員の殉職率が非常に高いため、弾が有り余っているというのが正しいだろう。数々の防衛戦、怪物駆除、エイリアンの攻撃によってEDF基地ベース251の人員は、補充時の半分以下に減っている。壊滅どころか全滅だった。

 

 

 

 グレイプに揺られながら考えていた。私は生き残れるのかと。かつて私が暮らした世界では、先天的戦闘適性説。いわゆる、ドミナント論と呼ばれる学説が企業残党の集合体たるアライアンス内部の学者によって提唱されていた。

 そして私はそれに当てはまる唯一の事例であるとも。だがそれはAC、アーマード・コアに搭乗している場合に限っての話では無いのかと考えるようになっていた。歩兵としてのドミナントではありえないのでは、と。

 そもそも依頼に際し、不意を突かれてそのまま死亡するなど、ドミナントと言えるのか、そんな疑問すら浮かんでいる。

 

「中尉」

 

 しかも、マザーシップの砲台を落として赤い弱点を壊した時も、チャージングを引き起こすまで無理をした挙句爆発に巻き込まれ、唯一無二の機体を喪った。

 

「聞いてるか、おい」

 

 ……私はドミナント、ではなかったのかもしれない。では一体あの世界の誰が? 誰がドミナントたり得るというのか。少なくともあの世界で生存したレイヴンは私だけ、私が最後のレイヴンだった、パルヴァライザーを破壊するあの時までは。

 ならば生き残ったレイヴンである私が、必然的にドミナントである、そういう訳では無いのだろうか。

 

「中尉、しっかりしろ!」

「……!!」

 

 ガンナー席から顔を覗かせて、隊長が私を見ていた。他の隊員たちも心配そうに私の様子を伺っているのを見て、私は気付かない程に熟考していたのだと気付かされた。

 

「……不安か?」

「……。 うん。 最後まで生きていられるか、プロフェッサーと会えるのか。 ……私は戦えるのか」

 

 かねてより思っていたこと、今考えていたこと、その全てを露呈する。弱音をぶつける相手なんていなかった。隊長の存在が嬉しかった。

 

「お前は強い! それに人類は負けん! 俺達がいる!」

 

 隊長の自信満々で底抜けに前向きな発言に、思わず顔が綻ぶ。私は気付けば礼を言っていた。

 

「……ありがとう、隊長」

「安心しろ、俺の部下は俺が守る。仲間はみんな守ってやる。心配するな」

 

 隊長の励ましのおかげで空元気とはいえど、気力が湧いてきた。そうだ、私は生き残る。たとえドミナントではなかったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「港まではあと何時間だ!?」

「15分で着く! 荒くなるぞ、座ってろ!!」

 

 激しく揺れるグレイプの中、焦りを隠せないレンジャーチームの面々は、自分の得物を握りしめて作戦に備えていた。

 

 ……エリゴール艦隊からの救援要請が再度発信されてから、既に20分。敵勢力の概要は、ドローンだけでなく、飛行型の怪物も確認されているらしい。

 テレポーションシップからの怪物投下によって敵の攻勢は激化し、既にミサイル駆逐艦オリアクス、ラウム、巡洋艦レラジェが撃沈され、航空母艦アグレアスが中破。

 そのほかにも、フリゲート艦4隻、コルベット艦5隻が轟沈し、艦隊は3分の1が既に撃破されているという壊滅的被害を被っているそうだ。

 特に戦艦エリゴールだけがどうにか耐えている現状で、テレポーションシップの撃墜に成功したのもエリゴールだけ。他の残存する軍艦は全て対空戦闘に力を注いでいるらしく、港から出ることが叶わないようだ。

 

 街に間延びした砲撃音が響く。

 

「おい、主砲の音だ!!」

「エリゴールがまだ戦ってる……! まだ艦隊は生きてる、早く! 飛ばせ!!」

「後列が事故を起こさないように走ってるんだ、ドリフトが甘いグレイプで街中なんざ走ってる今が奇跡だよ、クソッ!」

 

 タイヤが悲鳴を上げながらも曲がり角の多い商店街を3両のグレイプが突っ切っていく。この近隣は既に市民が避難しており、無人となっている。誰かにぶつかる心配は無い。

 グレイプの最高速度は110km/h。兵員や装備を満載すればその速度は85km/h前後にまで落ち込む。むしろ今こうして飛ばしているのが危険であるが、だからといってエリゴールを助けなければ、人類は洋上における切り札を失う事になる。

 

 そして今、隊員の1人が何かに気付いた。

 

 

 

「……砲撃音が聞こえない」

「何!?」

「エリゴールの主砲は55センチだ。今は止んでいるだけだろ。じゃなきゃ、エリゴールがやられるはずがない」

 

 EDF設立後、最初に建造された戦艦バフォメットの後継エリゴールは、バフォメットの轟沈後、海洋を進むテレポーションシップなどの航空戦力へ対する有効な戦力として目されていた。

 特に、新たに開発された最新鋭の衛星兵器フーリガンを転用した54.9cmフーリガン砲は、テレポーションシップといった通常兵器では貫けない装甲を撃ち抜き、撃沈させる事が可能な、地球上で唯一の兵器となった。

 全地球防衛機構宇宙軍EDSF(Earth Defense Space Forces)保有の衛星軌道兵器ライカによるフーリガン砲を除けば、エリゴールの損失は敵戦力を受動的でなく、能動的に攻撃し撃滅する事ができる火力を持つという戦局を左右するほどの重要な戦力を失うことになる。

 

 俺はもう一度中尉の顔を覗いた。もう不安げな顔をしていなかった。中尉も俺の顔を見て、にこりと笑う。こうして見ればただの歳若い少女なのに、その心の内は誰よりも勇敢で、そして人並みの恐怖心や不安感をも持っている。

 アーマード・コアだとかというものが無くなったとしても、中尉は懸命に戦い、生き残っている。兵士たちの士気を高めているのも中尉の存在があってのものだという事は俺でも把握出来る。

 

 こんな子を死なせられない。市民も大切だが、それ以上に中尉が死ぬのはダメだ。皆そう考えている。自分たちよりも一回り若い少女が、乗っていた機体を放棄して戦闘能力を失い、それでもなお、諦めずに戦っている。

 元々EDF所属では無いはずだが、その志は誰よりもEDFのものだ。敵を倒し、市民を。守るべきものを守る。彼女はそれをやり遂げようとしている。

 

「中尉!」

「わっ! どうしたの?」

 

 揺れるグレイプの中、中尉にもう一度声をかける、

 

「必ず生きて帰れる。心配するな」

 

「……うん」

 

 暫くの沈黙の後、中尉はにこやかに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 段々と爆発音が近付いてくる。緊張感が高まってきている。逸る気持ちを抑え、交戦に備える。戦場では冷静さを欠いた者から死んでいく。平静を保って戦場を見据える者だけが生き残るのだ。

 

「見えたぞ! 戦艦エリゴールだ!!」

 

 車列の先頭を行くグレイプの運転手が全員に聞こえるように広域無線で話す。湾口で編隊を組み、接近するドローンや飛行型の怪物を縦横に薙ぎ払うべく機関砲や対空機銃を乱射している。5隻ある巡洋艦のうち1隻が夥しい数の針の連射を受け、艦橋が目も当てられない惨事に見舞われる。

 司令塔が死んだまま、巡洋艦オーガの乗組員は生き残るため対空戦闘を継続している。

 

「間に合ったか! 軍艦は何が何隻残っている!?」

 

 隊長が無線機で通信を行う。エリゴールの艦長が応じた。

 

『こちらエリゴール艦長。よく来てくれた! 生きているのは戦艦1隻、巡洋艦4隻、駆逐艦2隻、航空母艦1隻、フリゲート艦3隻、コルベット艦1隻だ。潜水艦は3隻中2隻が沈没、1隻が沖に待避し、ミサイルによる攻撃を行っている』

 

「半分がやられたのか! 思ったよりも深刻だぞ……!」

「フーリガンは生きている、まだ勝ち目はある!」

 

 港に出たグレイプ運転手が見た光景は凄まじい戦火の内にあった。引火した重油が港に垂れ流された為に海が燃え、生き残っている12隻の軍艦の砲火は上空の敵へと向いている。

 

「ドローンだ!」

「ドローンだけじゃねぇ、飛行型もいる!

「タイプ2ドローンまでいるぞ!」

 

 横に細長く、火力が通常型と比べて高いタイプ2と呼ばれる新型ドローンが、ミサイルや対空機銃を回避しつつ肉薄し、それを巡洋艦バシリスクが更に濃い弾幕で迎撃する。

 

『フーリガン砲、ファイア!』

『ファイア!!』

 

 艦載フーリガン砲の近距離射撃による攻撃でテレポーションシップが撃墜されると、飛行型の大軍が戦艦エリゴールへと押し寄せていく。エリゴールを守るようにフリゲート艦の全てが集まると、円陣を組むようにエリゴールを囲み、艦載ミサイルを全て放つ勢いで射出し続け、飛行型の怪物を巻き込んで爆破する。

 

「レンジャーチームは補給艦を守れ! 狙撃部隊は敵航空戦力の排除、そうでない部隊は狙撃部隊に近付く敵を排除しろ!!」

「さあ、仕事だ仕事!」

 

 スナイパーライフルによる精密射撃が次々とドローンを打ち破る。機銃やミサイルの方が一度に多くの敵を撃滅せしめる事が可能だが、一度撃ち切ると再装填に長時間拘束される。そこをカバーするための狙撃部隊だ。スナイパーライフルによる狙撃なら、小回りが効き、射程も長いため十分カバー可能な距離まで撃てる。

 

 

 スナイパーが1機、また1機とドローンを穿ち、接近する飛行型を護衛部隊のライフルやショットガンが刺し貫き、沈黙させていく。海の底に死体や残骸が積もっている。

 水上スレスレを飛行するドローンが、生き残っていた最後のコルベット艦ヴァサゴが撃ち上げようとしていたミサイルに接近し、拡散ビーム砲で攻撃。ミサイルの誘爆によって、諸共ヴァサゴを撃沈する。

 船が巨大な爆発とともに沈んでいく。

 

「ヴァサゴが!!」

「あれじゃ乗員は助からない。弾薬庫か燃料庫か、あるいは両方に引火したんだ。それよりも生き残っている艦を助けろ!!」

 

 地上部隊の弾丸が更にドローンや怪物を捉え、撃ち落としていく。しかし大元たるテレポーションシップを撃墜する事はできそうにない。洋上、しかも低空飛行をしながら飛行型の怪物を投下し続けている。

 あれを破壊するにはフーリガン砲か、軍艦が潜り込んで対空機銃による直接攻撃を行う必要があるが、後者は得策ではない。テレポーションシップ下部に潜り込めば怪物による集中砲火を受けることは必定であり、その選択をするという事は、その為に今対空戦闘能力を持っている艦の1隻を失うことになる。

 選択肢は当然、前者のフーリガン戦艦砲による直接破壊しかなかった。

 

『こちらエリゴール。フーリガン砲弾装填中。砲身調節に時間がかかる。我が艦を他の艦に護衛させる為、地上部隊には各艦の防衛を頼みたい。時間を稼いでくれ、それだけ犠牲が減る』

「了解。聞いたな、全員で船に群がる敵を撃て!」

 

 ハリケーンチームリーダーの指示を受けて、45名のレンジャーチームは怪物やドローンへの集中砲火を開始する。

 しかし、無数の怪物やドローンを撃ち落とそうにも弾数に対して敵数があまりにも多すぎた。飛行型はたった2機のテレポーションシップから降下し、ドローンは遠方の海からひっきりなしにやってくる。遠くの街でEDFを壊滅させ、市民を皆殺しにした部隊か。怨敵には違いない。

 

『こちらフリゲート艦アンドラス! もう持たない、せめて全弾撃ち切ってやる!!』

 

 艦首が激しく炎上していくアンドラスが、艦側面、機関部、後部と爆発し、やがてバクリと割れるように真っ二つになって沈没する。沈む最後の最後まで対空機関砲を撃ち続けていた。

 

「またやられた!」

『EDF海軍最強を誇る艦隊だぞ!! 敵は強すぎる……!』

 

 しかし、ただ黙ってやられる艦隊ではない。防戦一方だった戦局に僅かな日の目が見えた。

 

『こちらエリゴール。フーリガン砲装填完了。照準よし。衝撃波による被害が予測される為、甲板上の乗員は退避せよ』

 

 エリゴールからの退避指示で、甲板の上でライフルによる対空攻撃を行っていた射撃部隊が艦内に入っていく。

 フーリガン砲は本来、衛星軌道上に待機する衛星兵器ライカから放たれる、重力による加速を伴った質量攻撃である。であればその威力・貫通力を支える要素の重大な1つである、重力による加速。この点が艦載砲としての運用時点で失われている。

 だとすればどうやって威力を高めれば良いのか。火薬では限度があるため、貫通力を最大限高める為に電磁加速装置による加速で射程距離と貫通可能距離を稼ぐ。そもそもフーリガン砲などという巨大な弾頭の砲を放てば、その時点で砲身が凄まじい熱量により崩壊・融解し、一度の攻撃で使用不可能となる。

 

 

 ────アーマード・コアに使用されていた技術の一部を、あるひとりの技術者が解析。基地の崩壊直前に、戦艦バフォメット、及びエリゴールへの兵装補充を主任務としていた海軍基地とその付近に位置する工廠へ、そのデータを転送した。

 

 アーマード・コアの装甲というのは、ただ金属による補強によるものではない。金属とはまた別に、あるひとつの技術が使われている。防御スクリーン技術と呼ばれるものだ。

 それを、EDFは知っていた。だが、何によってその技術が人類側に知られていたのか、その出自を問われれば、()は口を閉じるだろう。

 

 プライマーの地上機甲師団が運用する防御機構搭載機動兵器。シールドベアラーが展開する巨大なシールド。恐ろしい事に、その一切と防御スクリーン技術は一致していた。

 

 AC(アーマード・コア)は、その気になれば硬い装甲に守られるマザーシップ、テレポーションシップ、揚陸挺、そしてシールドベアラー、それら全ての装甲を強力な武装によって正面から破壊できたと推察されている。

 

 

 

 

『───防御スクリーン展開完了! 発射ッ!!』

『撃てェッ!!!』

 

 55cm艦載主砲フーリガン砲の砲身が一瞬に煌めき、地上から黄金の装甲を貫くため肥大化を重ねた砲に耐えるための防御力をシールドによって確保。爆炎かと見紛う程の一瞬の灼熱を帯びたフーリガン砲は、続けざまに二度、放たれる。

 ……砲は、二本あった。

 

 テレポーションシップ2隻は、地上からのフーリガン砲直射を受けて轟沈していく。海面に墜ち、轟音と共に海洋を汚染しながら沈みゆく。

 

『テレポーションシップが沈黙! 各艦、怪物を倒せ!』

『おい、待て……沖からドローンが来るぞ!! アモンは何をやっている!?』

『潜水艦アモン、応答ありません! 恐らく……』

 

 それとほぼ同時にドローンの大軍が沖の空を埋め尽くす勢いで迫ってくる。どうやらアモンが単騎で抑えていたのだろう敵部隊最後の一団が、残存するドローン部隊と合流して港を潰しに来たのだと思われる。

 

「やつらを倒せば終わる。勝ちの目は見えたぞ!」

 

 雄々しい鼓舞の声が、レンジャー達を昂らせる。士気は高騰し、怪物への攻撃はいっそう激しくなっていく。

 

『こちらは巡洋艦バラク。巡洋艦ヴィネと共に、ドローンへの飽和攻撃を実行する。前方のフリゲート艦は退避せよ』

『こちらフリゲート艦ガドリエル。ダメージコントロール中につき、今すぐの移動は難しい。待ってくれ』

 

『クソッ、指揮系統が乱れてる。空母は! 艦載機を全て出させろ、迎撃させるんだ!!』

『こちらエリゴール。ガドリエルの乗員は全て本艦へと移動せよ。3分で全員退艦出来なければ、飽和攻撃を中断する』

『航空母艦ミミックに搭乗するファイターパイロットは全て発進! ドローンでも怪物でもなんでもいい、とにかく敵を倒し続けろ!!』

 

『こちらファイター、シーワーム1。今出撃できるのは6機だけだ。全機出せ、俺達の故郷を守るぞ』

『こちらニクス、ゴーレム4、離陸を支援する。派手に蹴散らしてやれ!』

 

 戦闘機に先んじて甲板で対空戦闘を続けていたニクスが、近づきつつある敵にリボルバーカノンを乱射しながら叫ぶ。

 

『うおおぉぉぉぉぉああ!!』

『シーワーム・スクアッド、タキシングを許可する』

『………発艦完了。ゴーレム4、支援感謝する。シーワーム1エンゲージ!!』

 

 飛翔したファイターの1機が、怪物の群れへ機関砲を撃ち、そのうちの何体かが薙ぎ払われたのを確認しつつ急速にターンし、一挙に距離を離す。無論タダで逃がすドローンと怪物ではなく、同じように空を飛ぶシーワーム1を目敏く追跡し追い回す。シーワーム2が飛び上がり、3番機もまた飛ぼうとしている。

 

『ドッグファイトはするな!こいつら低速でも高速でも機敏に動きやがる!』

『ドッグファイトが禁止!? じゃあこいつらをどうやって倒すっていうんだ!!』

『流石に戦闘機のスピードに着いてこれるほど速い訳では無いらしい。迎撃機のようにスピードで振り切るんだ。その後Uターン、速度を落としつつ機銃で薙ぎ払え。ドローンにはミサイルを使った方がいい。装甲のせいで機関砲が貫通しにくいようだ』

 

 シーワーム隊の半分が飛び上がった辺りで、巡洋艦ガドリエルの人員が避難し終えたらしい。無線での短いやり取りを終えたあと、巡洋艦から一基のミサイルが放たれた。

 

『待避完了!!』

『了解。サプレスミサイル発射。奴らはこれで終わりだ』

 

 人の居なくなったガドリエルを巻き込むように、雲に隠れて垂直に射出されたミサイルは見えなくなる。そのまま雲を突き破るように急降下すると空中で分裂していたらしい12基ほどの子弾が敵の頭上へ降り注ぎ、炸裂と同時に無数の鉄片と爆風が怪物とドローンの群れを焼き払った。

 

『流石にサプレス(鎮圧用)の名を冠するだけはある。鎮圧と言うよりは制圧、殲滅の類いだろうが』

『なんて火力だ……』

 

「お前達!まだ仕事は終わっていないぞ! 残ったドローンを全て撃墜しろ!」

「イエッサー!」

 

 チームリーダーからの指示で、続けてドローンへ射撃を繰り返し、1機ずつ着実に撃墜していく。敵の数は既に味方の数を下回っており、戦闘が終わるのも時間の問題だった。

 

 近づいてくるドローン数機を、更に奥からやってくるシーワーム隊の機銃が薙ぎ払うと、辺りを歓声が包む。

 

 

 

 

「あんな激戦だった。よく……」

 

 ハリケーンチームの副隊長である中尉が、何隻も軍艦が沈没し炎上し続けている海を見ながら呟く。その独り言を聞いていた隊長は中尉に向き直り、グレイプの中で言ったことを再度繰り返す。

 

「言っただろう。生きて帰れる、心配するな、と。俺の部下を殺させるようなマネは、俺の目が黒いうちは絶対にさせん。プライマーどもを全滅させるまでは、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

『感謝する。これで俺達も役目を果たせる』

『ここで死ぬのは嫌だった。本当にありがとう』

「港で襲われていたら何度でも助けてやる。まだ死ぬなよ」

 

 戦闘が終わったのだ。最後のタイプ2ドローンが撃ち落とされると、戦場は歓声に包まれた。生き延びた隊員達は船に駆け寄り、手を振る。生き残った艦隊の乗員達も同じように甲板に出て手を振って別れを告げ、船は全て出港していき、船を見送りながらレンジャーチームの隊員たちもグレイプへと戻っていく。

 中尉と少数の隊員だけが消えゆく船を見ていた。

 

「また生きて会えるかな」

 

 中尉の呟きに答える者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()は帰還中に起きた。

 

「全員出ろ!グレイプは盾になって敵を食い止めろ。歩兵部隊はとにかく敵の数を減らせ!」

 

 基地と港の間に位置する長大な山間部。夕日がグレイプを照らす。敵勢力、すなわちプライマーの強襲だった。β型の怪物が群れを成して襲いかかってきている。

 

「糸だ!糸だぁぁぁっ!」

「酸を含む糸だ、敵は手強いぞ!!」

 

 住宅を軽々飛び越えてしまいそうな程の跳躍を何度も繰り返しながら、トリッキーな動きで迫ってくる。

 ライフルやスナイパーライフルが火を噴きβ型を寄せ付けないとばかりに弾幕を形成するが、敵の数に対して味方の数は半分以下。火力だけでは敵を抑えきれず、β型が次々と肉薄してきており、徐々にその戦線は押されつつあった。

 

「当たらなければ、なんということはない! …何ッ!?」

 

 至近距離での攻防を繰り広げていたレンジャーチーム、そのうちの一人にβ型が急接近し、反応できないまま一人が糸に巻かれる。

 

「ぐぁぁぁぁっ…!」

 

 そのまま物言わぬ屍となった隊員には目もくれず、更なる獲物を求めるように生存しているレンジャー達へ対してβ型が突撃してくる。

 

「近付かれたら最後だぞ! 撃ちまくれェ!」

「クソッ、仕事帰りで疲れてんだぞ! 少しは遠慮しろ!」

 

 β型を抑えつつも後衛の狙撃手達が数を減らそうと敵の密集する地点を重点的に攻撃する。アサルトライフルの弾幕が敵を押さえつけようとしているが、数の暴力というものは火力で抑えるには少し多すぎるらしい。

 

「うわぁぁぁっ!!」

「や、やめっ! ぎゃああっ!!」

「糸を何とかしろ!」

 

 悲鳴と怒声が響き渡る戦場。もう何人が倒れたかなんてわからない。私はがむしゃらに敵を撃ち、抵抗していた。

 

 

 

 

 

『伏せろォ!』

 

 誰かの声。私達は気が付けば、敵を目の前に地面へと突っ伏していた。普通なら自殺行為のようなものだが、その時だけは声の主が救いの手を差し伸べてくれているらしかった。

 

 リボルバーカノンによる一斉射。β型は瞬く間に薙ぎ払われ、弾丸の雨に切り裂かれていく。グレイプに着弾し、砲塔が大きく凹むが、そんな事は今どうだっていい。私たちが伏せなければこの火砲は止み、私達はβ型に近づかれてほぼ無抵抗のまま処刑される。

 なら多少の被害は無視しよう。物の損害程度を命に変える事は出来ないから。

 

『ゴーレム5、撃ち切った……』

『ゴーレム6、同じく弾切れ』

『ゴーレム3、こちらはまだ残っている』

 

『敵を殲滅した。歩兵部隊、遅れてすまない』

 

 コンバットフレーム・ニクスB型。全地域のEDFビークル隊に普及するコンバットフレーム、その決定版と名高いB型だ。装甲強化、機動力向上はもとより、火力の上昇、武装の充実、全てを均等に上昇させた普及型ニクスの傑作だ。

 

「感謝する」

「こちらこそだ、ハリケーンチーム。俺たちだけでも救われたんだ、恩人を助けなきゃ兵士じゃない」

「よかった、無事で……」

 

 隊長と救助に来てくれたゴーレム隊リーダーのやり取りを聴きながら、私はホッと胸を撫で下ろした。ゴーレム隊は、先程航空母艦の上で対空攻撃をしていたニクス護衛部隊だ。船の上からわざわざ降りてまで助けに来てくれたのだ。

 ……船から降りて? そんなのはありえない。

 既に出航した船からどうやって降りる? 海底を歩行する機能を持っているニクスなんて聞いた事がない。

 

「良いニュース、悪いニュース、どっちから聞きたい?」

「…………良いニュース」

 

 私は恐る恐る答える。

 

「じゃあまず良いニュースだ。マザーシップ・ナンバー11攻撃隊は少数が生存。マザーシップの撃墜に成功した。エリゴールの大型受信機じゃなきゃあ掴めなかった情報だよ」

 

 その言葉に私たちは一瞬どよめき、理解して歓喜し、そして涙した。まだ生きていた、そして勝ってくれたんだ。地球は守られたんだ、彼等の手で!!

 

 そして、二つ目の悪いニュースの事が脳裏を過り、悪寒が背筋をなぞった。

 

「……で、その悪いニュースは」

 

「………」

 

 沈黙を間に置いたあと、ゴーレム4は話し始めた。

 

「俺たちの任務は囮だった。港で敵戦力を引き付け、攻撃隊の時間を稼ぐ。その任務は成功したわけだが、それで終わらないのがプライマーらしい。マザーシップの搭乗員がストームチームを殲滅した後、残る攻撃隊を殺し尽くす為に各国のマザーシップを集め始めた。海軍の誇る最強のエリゴール艦隊最後の任務は、マザーシップの足止めだったのさ。俺たちはお役御免さ、怪物駆除に手を回せと言われて、輸送艦に乗って帰ってきたのさ、陸上に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達が()()()2()4()8()に辛うじて逃げ帰ったあとも、場は暗いままだった。当然だ、私達が命を賭して守った艦隊は、徹頭徹尾囮のために動くだけの役だったのだから。

 

 なぜ私達がベース251ではなくベース248に避難したか。それは、私たちが不在の間に守備隊を壊滅させたのだろう怪物の群れが、ベース251の近辺を彷徨(うろつ)いていたからだった。

 この戦力で尚且つ疲弊しているのに戦うのは自殺行為だとして、隊長が全戦力を率いて放棄されたベース248に退避し、どうにか生きている。

 

「……どうする?」

「どうするもクソもねェ。終わりだ」

「みんな死んだ。生きてたって、何ができるんだ?」

 

 敗戦したような面持ちだ。負けは濃厚どころかほぼ確実、マザーシップは私が撃墜したナンバー7を除く9隻が集結して攻撃隊を潰そうとしている。私たちに何が出来る?

 

 さっき隊長が、少しの部下と何やら話をしていた。オペレーションだの、囮だの、多分エリゴール達の安否について話し合っているのだ。

 隊長が座り込んでいる私の目の前に立つ。しゃがみこんで視線を合わせてくれた。

 

「中尉。俺たちは仕事が入った。しばらくお別れだな」

「…………え?」

 

 私は素っ頓狂な声を出して、疑問を頭の中で巡らせる。どうしてお別れなんだろうか。そのみんなで行く仕事のメンバーに私は含まれていないの? 聞きたい事が喉から出なかった。

 

「オペレーション・オメガが発令された。全人類はEDFの兵士として戦うことになる。だが、俺はそいつが気に食わん。お前だけでも守ってやりたい」

 

 先程話していたオペレーションがどうとかというのは、オペレーション・オメガという最後の作戦が発令されたという話だったのだろう。そして囮と言っていたのは、そのオペレーション・オメガによって兵士となった私たちが、攻撃隊へ向かうマザーシップの足止めを行うからなのだろう。

 

「だ……だったら私も戦う! 私だって兵士だから!」

「違う。お前は兵士じゃない。まだ若い女の子だ。まだ未来がある。俺たち兵士の仕事は、お前のような未来ある若者を守る事だ」

 

 全てを否定されたような気持ちで胸が裂けそうになる。どうにかこらえ、反論しようと切り出す。だがどうにも上手い言葉が出てこない。結局出てきたのはすがりつくような言葉だけだった。

 

「……そんなの!」

 

 若くたって私は戦場に身を置いて生きてきた。今更戦いを捨てて何ができるのだ、私に!

 

「だめ、みすみす行かせられない!」

「それこそダメだ。俺たちは仕事に行く。お前を守るために。お前は大人しく守られていろ、いいな!」

「ッ……ふ、ふざけないでよ! 戦って生活してきた私が今更戦いをやめて、どうするって───」

「どうしたもこうしたもない! みな死ぬような戦場にお前のような若いヤツを送れるか!!」

 

 隊長が胸を張り上げて嫌そうに、だが断固として意志を曲げない。私は思わずへたりこんでしまった。

 

「なんで……行かせてくれないの……」

 

「何度でも言う。お前は庇護対象だ。EDFは市民を守る。本来のその役目を今ようやく、果たす時が来た。戦い続けてきた一生だ、お前も休んだって良い。俺たちはお前より20年かそこらぐらい長く生きてきた。もう休みは充分貰った。この命をプライマー共にくれてやる。お前は平和になった世界で女の子として生きろ。もう機体も無い、銃も無い、武力の無い平和な世界を生きろ」

 

 涙が溢れてくる。隊長の優しさが胸を刺すように痛くて苦しい。戦場で死ぬつもりだった。私は傭兵だ。何時でも戦いに生きていて、何人も手にかけてきた。そんな私が、まともに生きれるわけがないのに。

 隊長はそれでも、私に一人の女の子として生きろと言う。

 

「………じゃあな、中尉……いや、民間人。お前といた時間、楽しかったぞ。 ───全員グレイプに搭乗、ゴーレム隊は全機出せ! 残った弾薬、命、覚悟、全部奴らに喰わせてやる時が来たぞ!」

「EDFッッ!EDFッッ!」

「おおぉぉぉーーーっ!!」

「EDFッッ!!!」

「EDF!」

 

 やめて。そんな雄叫びをあげないで。まるで死にに行くみたいだよ、みんな。仲間だから、私も行くよ。

 ライフルを手に取ろうとして、私が使っていたライフルを一人の兵士が持ち上げる。

 

「女の子の手にはちと重いな。借りるぜ。後で返す」

 

 だめだよ、今返して。私が行けばみんなで生きて帰れる。何が起きてもみんなで守り合えば生き残れるんだよ。無視しないでよ、私にみんなを守らせてよ。

 レンジャー達がビークルに乗り込んでいく。私も立ち上がろうとしたが、足が動かない。壁に寄りかかって座り込んだままだ。

 

 ああ、限界が来たんだ。もともと壊れかけだった私の体がたった今。今になって、その限界のときを迎えたのだ。なんで今になって壊れるんだ、私の体は。せめてあともう少し耐えてよ。

 ……視線だけは辛うじて隊長の方を向く事ができる。

 

「行か……な…いで……」

 

 絞るような声を聞きつけた隊長は、こんな時でも察しが悪いのだろう。私に一声かけて、グレイプに乗り込む。

 

「安心しろ民間人。俺が必ず守ってやる」

 

 違うの。そばにいてよ。寂しいよ。

 戦わないで一緒にいてよ。15人とニクスだけで何ができるの。だったら一緒に居ようよ。生きて平和な世界で暮らそうよ。

 

 

 

 

「……さよならだ、中尉」

 

 グレイプとニクスは去っていく。

 

 さみしい。

 

 同業者を手にかけて、生まれ直した世界で人の為に戦って。積み重ねた罪を精算できなかった私の、穢れた末路がこれか。

 

 行かないで。

 

 私は中尉だよ。みんなの中で一番偉いんだ。私がみんなを守ってあげるから、指揮権をちょうだい。指示通りに動いてくれればきっとなんとかなる。

 

 お願いだから。

 

 みんな去っていく。腕は動かない。足は動かない。首も、口も、視線も、眉ひとつ動かない。機能停止だ。

 

 皆、ごめん。

 平和な世界、みんなと見てみたかったなぁ。

 

 隊長、アウトポスト48の皆、ハリケーンチームの皆、サンダーボルト隊の皆、アンヴィル隊の皆、ベース229の皆。

 

 意識が完全に途絶える前に私が見た幻覚は、皆が私に背中を向けて敵に立ち向かい、死んでいく、そんな最悪の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上基地ベース248の瓦礫の傍に、一人の少女が佇んでいた。

 

 頬は涙に濡れていたのか跡が酷く、だが擦ったような跡も無い。その少女の胴体は機械のように部品が敷き詰められていて、サイボーグやアンドロイドのような類のものだと思わせるような造りになっている。人間の見た目の子が、だ。

 

 アンドロイドなら涙なんて流さない、誰もがそう思うはずだろう。だが聞いて欲しい。

 彼女は生きていた。ある時は傭兵として、ある時は兵士として。そしていつしか、平和な世界に生きる一人の少女として。

 

 輝かしい未来を、歩むかも知れないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 かつて戦った者がいた。

 

 仲間の為、友の為、家族の為に。

 

 胸に手を当てれば思い出が浮かぶ。

 

 強く、熱い鼓動。生きた証だ。

 

 皆死んだが、我々はまだ生きている。

 

 ならば生きているものがやらねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 ───やつらに一発、喰らわせる。そうだろ?

 

 

 

 








 ベース251残存部隊
 接近するマザーシップ・ナンバー2を足止めするため、攻撃隊を編成。オペレーション・オメガ発令と同時に攻撃を開始。安否不明、恐らくは死亡したものと推察される。



 ハリケーンチーム
 全滅。マザーシップ足止めの際に死亡したものと思われるが、詳細は不明。特筆事項として、マザーシップからの攻撃を受けるまでの間、テレポーションシップやアンカーを数機破壊していた事が挙げられる。



 ストームチーム
 隊長を除き全滅。更に隊長の安否不明。たった少数の攻撃隊でマザーシップ・ナンバー11、敵のコマンドシップを破壊出来たことは未来に残る偉業だが、生還者は絶望的。



 EDF陸軍
 壊滅的被害を受ける。継続しての戦闘は不可能。

 EDF海軍
 1隻の潜水母艦を除き全滅。

 EDF空軍
 一部基地は無事。別エリアへの航空支援は不可能。




 ウィンディ《ハリケーン2》レイヴン中尉
 消息不明。最後に活動を共にしていたとされるベース251残存部隊の中に彼女の姿が見えなかった為、恐らくは死亡したものと推察される。


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