地球を防衛する傭兵になりました 作:No.28
不法侵入者を取り締まりに行くぞ。
ついでに街をパトロールだ。
慣れた仕事だが、手を抜くんじゃないぞ。
あれから一週間が経った。ベース251でプロフェッサーと再会したあと、俺たちは順当に敵を倒していたコロニストの残党、α型の怪物、そしてマザーモンスターをも。途中で怪物駆除チームがやられたりもしたが、今のところベース251の兵士に欠員は出ていない。皆潜在的には優秀な兵士だ。
プロフェッサーも息が絶え絶えながらも戦闘に加わっている。俺たちはリングが来る時まで生き延びなくてはならない。そこにはプロフェッサーがいる必要がある。プロフェッサーと俺がいて、初めて過去の世界での抵抗が成り立つのだから。
「しかし、いい加減辛いな、戦闘は」
プロフェッサーが膝を曲げて鼻の先から汗を垂らしながら言う。最低限の訓練を受けているとはいえ、やはり戦闘は慣れないものらしい。そういう割に、繰り返す何年間もの期間を戦っているのは、お互い様のはずだろう。
「そういう問題じゃない。君はいつも戦っているが、私の本職は研究開発だ。戦いなんて想定していなかった、昔は」
昔は。そう言うプロフェッサーは、世界が荒廃した3年後、つまりプライマーが撤退して俺達と合流し、リングが来るまで、徴兵されて戦っている。何度も繰り返していれば、いい加減怪物やコロニスト残党の相手も嫌でも慣れるというものだろう。
荒れ果てた街だが、それでもなお守るために戦う。大尉は常に何かを意識して戦っていた。それは今はもう居ない市民を守る意識の表れだと思っていた。だが5回目になって、どうやら何か変異が生じた。
守る対象がより具体的になっている。
市民を守る、そう言っていたのが、あいつを守る、そう言うようになっていたのだ。あいつが誰か、知る術は無い。だが大尉が何かのために戦うという事自体は変わらない。生粋のEDF隊員だからかは分からないが、5年前に居れば模範的な兵士として皆の良い規律となったろう。
「報告、周囲に人影、無し!」
「エイリアンを探せ! 勝ったのが俺たち人類である事を、奴らに思い出させてやれ!!」
大尉の言葉で捜索隊が街を警戒しながら探索する。エイリアンとの戦闘になれば、一対一では分が悪い。二面作戦を展開し、味方の進軍を助けながら足止め、挟撃によって撃破するのが一般的な手法である。
隊員の一人が敵を見つけたらしい。無線で全員に知らせる。
「エイリアンを発見! 応援を!」
「わかった。全員聞いたな、行くぞ! ここは俺達の星だ、エイリアンの住む場所は無い!」
エイリアンのいるエリアへ向かう。既に大尉が増援を要請しており、あと数分で一番近い場所で展開していた駆除チームの、下半身をトラックに載せたニクス、形容するならばコンバットフレーム・ニクスワゴンと呼ぶべき戦闘車両が加勢してくれる予定だ。
「昔勇敢に戦う兵士を見たんだ。俺もそうありたい」
「その兵士はどうした?」
「もういない。だから俺がやる」
エイリアンを発見した大尉率いる俺たちは、武器を構えて突撃する。コンバットワゴンの到着までこいつらを足止めするのが本来効果的ではあるんだろうが、俺は違う。最初に腕を撃って武器を落とさせ、足を壊して動きを止め、肉薄してショットガン・スローターE22GAの銃口を頭に向ける。
そのまま即死させて、次のコロニストを排除しに向かう。射線を途切れさせるためにビルを使って遮蔽物のように隠れながら忍び寄り、不意を突いて二体目も排除する。怪物が数匹引き連れられていたようだが、それは背中にかかっているアサルトライフルの出番だ。
T3ストークは調整が難航し、遠距離では力を発揮できない失敗作呼ばわりされている。だがそれは裏を返せば、近距離であるほど威力を発揮する接近戦モデルとなる。なれば肉薄するほど殺傷力は増し、その殲滅力は中距離以内であればショットガンにも匹敵する。
近ければ近いほど精度の低さを補え、威力を引き出せる。常に動き回り、常に敵を倒し続ける。俺の戦闘スタイルにはピッタリの装備だった。プロフェッサーには幾度となく命を救われているという理由がこれだ。狙撃任務に携行する時、護身用にこのライフルを持つ理由でもある。
怪物の群れを大尉達と共にライフルで一掃すると、ニクスワゴンが到着し、残ったコロニストを側面から焼き、あるいはマシンガンで粉砕していく。血が四方に飛び散り、ニクスワゴンに近づく怪物を俺たち歩兵が排除する。ビークルと歩兵の混成部隊は強い。それをプライマーは痛いほど知っているだろう。
「殲滅完了だ。よくやった! ……ん、何!?」
大尉が敵を倒したことを確認するためにレーダーを見た途端硬直し、上を見上げる。俺とプロフェッサーだけは空に何があるか知っているが、彼らは初見でもしょうがない。なぜなら彼らはこの時間軸にしか存在せず、そして限られた時間の中で初めてリングを見たのだから。
「おい、空を見ろ!!」
『ばかな、ばかな、ばかな』
…………リング。それは、敵の時間移動船だ。奴のせいで俺たちはもう30年ほど戦い続けている。休みが欲しいところだ。あの怨敵を落とせれば気持ちがいいんだろうな。
「待て待て待て、もう戦う力なんかないぞ!!」
「奴ら、また戦争を始める気か!? 今日を生きるだけで精一杯なんだぞ、いまさら戻ってくるな!」
「人類に何が出来る……? もう、おしまいだ……」
隊員達が悲壮な叫びを挙げる中、一人だけが立ち上がる。大尉だ。彼は武器を手にリングへと歩み出す。
「俺達人類は戦う。何度でもだ!!」
そう言った時、エイリアンの一団が向かってくる。それだけではない。テレポーションシップや見た事のない白い船、それらがとにかく無数に飛翔してくる。その光景を俺たちは幾度となく見ている。歴史を変え、より優位に、より完璧に立ち回る。過去に戦力と情報を送ることで、プライマーはそれをやろうとしているのだ。
「……? こ、攻撃してこないぞ?」
「あれは救助船なんだ。エイリアンは帰ろうとしている!」
「その保証は無い。エイリアンどもを地獄に送れ!」
新兵たちの希望的観測を破り、大尉が指示を下す。無論あのリングは救助船などではない。人類を最も殺した兵器、殺す事になる兵器と言っても良いものだ。大尉の発言は的を射ている。
この場で作戦を立案し、部隊を三つに分ける事になった。大尉率いる第一攻撃隊、俺とプロフェッサー、そして数人の新兵が就く第二攻撃隊、広場に展開するニクスワゴンを防衛する守備隊の三つだ。
大尉がエイリアンの部隊に攻撃を仕掛けていき、俺達の第二攻撃隊も広場前方のビル街からやってくるエイリアンを待ち伏せすべく前進する。レーダーには敵の位置がしっかりと映っており、タイミングを見て奇襲を仕掛けられそうだった。この時代になってもレーダーが壊れていないというのは、流石にEDF製だけあって兎角頑丈だ。
第二攻撃隊を更にふたつに分けて俺と新兵、プロフェッサーと新兵の二人ずつに別れ、ビルの陰に隠れて隙を窺う。一体目が通り過ぎる。隣にいる新兵の喉が鳴った。
二体目が過ぎていく。唾を飲み込む。
三体目。レーダーに後続の姿は無い。上に伸ばした手を、最後尾のコロニストへ向けて振り下ろす。
一斉射撃が始まり、容赦のない弾幕がコロニストを襲う。前を歩いていた二体のエイリアンも後続が攻撃されていることに気がついたようだが、もう遅い。三体目が血を吹き流して倒れ、残る二体への射撃が始まる。敵の武装はショットガンのようなものだが、その造りはあまりにもお粗末で、拡散弾をバネのような力で打ち出すだけのオンボロに過ぎない。
射線を管理しつつ適度にちょっかいをかければ敵は激昂して向かってくる。そうすればショットガンが火を噴くだけだ。
スローターE22GAは、拡散性を抑え単体への攻撃力を特に高めたモデルだ。故にこそ、エイリアンを相手する時最もその真価を発揮する。怪物程度に使うには勿体ない火力をコロニストへと存分に叩きつけ、沈黙させる。
残り一体となった訳だが、こいつも既に死んだも同然だ。いつもの通りに足を吹き飛ばし、駆け足で接近する。バックパックに手を伸ばし、細いワイヤで繋がれた
特に拡散数に特化した、通称3号弾を投げつける。対怪物用に開発されたスプレッド・グレネードシリーズだが、俺はむしろこうした大型の敵に対する火力として活用する方が良いと考えている。
実際子弾が全て命中した時の破壊力は凄まじく、ヘリから飛び降りつつテレポーションシップに投げつけた時は、一撃で墜落まで持ち込むほどのパワーを発揮した。
「すげえ、あっという間に三体も倒したぞ!」
「大尉はどうされている?」
「彼は……どうやら彼らも倒し終えたらしい。タフな男だ」
プロフェッサーがレーダーを見ると、確かに大尉の展開した方面にいた敵部隊も壊滅している。残るはニクスワゴンを攻撃する部隊だけだが……こちらも間もなくカタが着きそうだ。援護がてら遠くからT3ストークのフルオート射撃で弾幕を張ってやる。
こちらに気を取られたコロニストがこちらを向いてボロショットガンを撃ち込んでくるが、拡散とそもそもの弾の失速の為にこっちまで届いていない。やはり欠陥品を使っていると弱い。兵士は質より数と武装だ。こちらに気を取られている間にマシンガンとコンバットバーナーに焼かれて、コロニストは息絶えた。
『援護感謝する』
「礼はいい。それよりも……」
テレポーションシップがリングに吸い込まれるように消えていく。プロフェッサーと俺はその光景を見上げる。大尉が戸惑っている。
「な、奴ら味方の船を消したのか? 奴ら血迷ったか!」
確かに遠目には消えたように映る。だがそれは間違いだ。時間移動船であるリングは、ああして船を過去へと送る。あれはあくまでも利敵行為ではない。遠巻きに過去の自分達を支援しているのだ。迷惑な話だ。
「……始まる」
プロフェッサーのつぶやきを、俺は黙って聞く。
「どうする事もできない。ただ祈るだけだ。 ストーム1。明日私たちは死んでいるか? それとも……」
空が赤く、汚染されていく。
────あれから3年が経った。
プライマーは依然として勢力を増し、既にその戦力は、手先ですら俺たちEDFの数を大きく上回っている。
その最たる例が、個々では弱いものの群を為すと恐るべき強さを発揮する、忌々しい
安価で生産でき、容易に数を揃えられ、一個体の戦闘力もそこそこ。侵略にはうってつけの兵器だ。そのせいで初動のアンドロイド部隊に対応出来なかったEDFとその守備隊が守っていたエリアはほぼ全て壊滅した。
あの白色の船。あれが全てを変えた。
恐らくあれもリングから送られてきたものだ、というプロフェッサーの見解は間違いないだろう。
テレポーションシップをリングに投入し、そのせいで過去が変わったのを幾度となく見てきた。その度に悪くなっていく戦況を変えることも出来ずに。
俺たちができるのは、リングによる転送中に事故を発生させて、それに巻き込まれるように過去に飛ぶ、それだけだ。
大尉が部屋に入ってくる。
「整列しろ。並べ」
全員が立ち上がり、所定の位置へ並ぶ。
「よし。 ベース251にようこそ。お前達が恐らくこのエリア最後の生き残りだ。人手不足は深刻化しており、忌々しいアンドロイド共からこの基地を守るだけの戦いを幾度となく続けてきた。
兵士は死に、市民は守れず、俺はかけがえのない一人の仲間を失った。そいつは若い少女でありながら歩兵でもあり、お前達よりも若く、俺よりも勇敢だった」
その言葉に一瞬どよめく新兵たち。
その話は初めて聞いたぞ。大尉の言葉に傾聴する。
「だが、そいつは死んだ。いや、死んだかもわからん。守ると約束したあの時、アンドロイドどもの奇襲で俺の指揮する遊撃部隊は散り散り。そいつも姿を消した。何処にいるのか、生きてるのかもわからない。お前達が今生きているのは幸運だ。よく生きのびた」
プロフェッサーが信じられないといった顔をしている。
「お前達もこれから、アンドロイドどもと戦うことになる。今のうちに休め。各自訓練はしておけよ。有事に備えなければいつか死ぬ。俺たちだけでも、最後まで戦い抜くぞ」
大尉はそう言って部屋を出ていく。緊張の糸が解けた新兵たちは訓練場へ向かっていく。俺とプロフェッサーだけがこの場に残っていた。
信じられない。プロフェッサーは開口一番そう言った。
「あの子は生きていたんだ。君に話をしたこともあったろう、アーマード・コアという歩行兵器を駆る少女の話を。アンドロイドの奇襲後、全く話を聞かなくなったが。生きていたんだ、ある時までは」
「それは大尉への《アンドロイド部隊の奇襲》までか?」
俺が聞く。
プロフェッサーは悩みつつもほぼ間違いないと頷いた。
「そうだ。多分だが、アンドロイドに攻撃され機体を放棄したのだろう。だが、きっと偶然が重なったか、生身でも充分戦える能力を備えていたか、とにかく次にアンドロイドに奇襲されるタイミングまでは生きていたんだ。彼女が死亡してしまったのは本当に無念だが……。
……話を変えよう。破壊され、ボロボロになったACの残骸を調べる機会があった。驚くべき事がわかった。シールドベアラーに用いられているシールドスクリーン技術は、アーマード・コアの運用されている……そうだな、AC世界とでも呼称しよう。AC世界では当然の様に普及しているものなんだ。アーマード・コアの解析時に得られた情報はこの程度だが、他にも興味深いものは山ほどあった。アーマード・コアが単純な燃料電池の重ねがけだけで動いている事、脚部の安定性の理由、エネルギー武装のノウハウ、機能の充実したヘッドディスプレイ、高度な敵味方識別装置、非常に性能の高い冷却装置、巨体を余裕で浮上させる高出力のブースター……。
そのどれも、聞き覚えがあるものじゃないか? コンバットフレーム・ニクスのジェネレーター技術、そのニクスの二足歩行技術、歩兵用に携行可能なエネルギー兵器、レーダー技術、安全装置・ミサイルロック技術、リボルバーカノンの冷却能力、ニクスに備わったブースター。その全てに。
そうだ。我々の知らない世界にある未知の技術で造られた、技術力の結晶だと思っていたアーマード・コアは、実は我々が行き着く技術の完成系だったと考えられる」
「……つまり、アーマード・コア? は、将来的には生産可能だと。単機でマザーシップを撃墜可能な機体がか?」
プロフェッサーは力強く頷く。
「勿論、生産には天文学的な数字の資金が要る。それを抜きにしても造る事は可能だろう。記憶を持って帰れば、戦況を覆す戦力を奴らにぶつけられる。全部できるんだ。妻を助ける事も。両親を守ることも。君を助けることも」
口早にまくし立てるプロフェッサーは、拳を握りしめて力説する。アーマード・コア、それがどれほど強いのかはマザーシップの単騎撃墜という戦果で充分に知っている。
それが造られれば、人類は勝てるのか。……いや、勝てる勝てないでは無い。勝つ。それ以外にない。抵抗か、あるいは死か。行く末はその二つで、そして俺たちが選び取る道は二つに一つだ。
「私は研究所に行かないといけない。ベース251からはそう遠くない。地上を通る以上、間違いなくアンドロイドからの攻撃は受けるが、君がいる。どうにかなるだろう?」
「任せろ、戦うことだけが取り柄だ」
そうと決まれば、と早速用意する。リングへ攻撃を敢行し、事故を発生させるまであと数日。それまでにプロフェッサーがやっておきたい事を終わらせておき、尚且つベース251へと戻っていなければならない。
事故が起きねば帰れない。そうなれば俺達は為す術なく過去改変の影響を受け詰み。単純に終わりだ。
「プロフェッサー」
「……? なんだ?」
「運転免許ってのは取ったことあるか?」
「? ……出勤の為に普通自動車免許は取っていたが。それがどうかしたのか?」
車庫へ向かおう。少しばかり可哀想だが、これも地球と彼の家族の為だ。それと俺の仲間たちの為に。プロフェッサーにも多少の無茶は、やってもらわねば。
「……あー、本当にやるのか?」
「ああ。アンドロイドを撒けてかつ、飛ばせばすぐに行って帰ってこれる。どうだ、悪くないだろう」
俺達はそれぞれ装甲化バイクに跨っていた。軍用オートバイ、フリージャー・タイプ2。爆発的な加速と比較的安定したハンドリングのタイプ2ならば、マッドカスタムとかいう産廃……じゃなくて、ピーキーな車両よりずっと扱いやすいと思ったのだ。
「言っておくが、私はバイクの運転経験は無いぞ。親戚のバイクに昔、一度だけ乗せてもらった事があったぐらいだ」
「大丈夫だ、ちょっと覚えればすぐに慣れる。いいか、まずペダルは……」
色々教えていると、レーダーに反応が現れた。変わらずリングの反応が一点あるが、それとは別にアンドロイドの群れがこちらに向かってきているらしい。実践の時間が来たようだ。
「行くぞ!」
「ま、待ってくれ!」
俺とプロフェッサーがフリージャーのエンジンを点火し、比較的舗装された道路を走る。倒壊したビルや横転し放棄された戦車を避け、潜り抜け、スピーディーに障害物を越えていく。予想外な事にプロフェッサーは、初めて運転したのにも関わらず俺の荒い運転についてきている。
「なんだ、やっぱり経験者だったのか!?」
「物覚えが良いだけだ!!」
ヘルメット越しに大声で会話する。風を切るような感覚が気持ち良い。プロフェッサーも着いてこれているし、アンドロイドとの距離もどんどん離れていく。もう心配は無さそうだ。
「はぁ……頼む、もうこんな無茶な運転はさせないでくれ」
「帰りもやるからな」
「……中を調べよう。緊急時でも視界を確保できるよう、電気が通る設計になっているんだ」
プロフェッサーが現実逃避をしながら先進技術研究部の中へと足を踏み入れる。フラッシュライトが必要かと思っていたが、プロフェッサーの言う通りジェネレーターは生きているのだろう。センサーか何かでジェネレーターを動かし、全域に電気を通して明かりをつけたのだ。
「凄いな……初めて来たぞ」
「ああ、そういえばそうだったな。散らかっていてすまないな。それじゃあ護衛してくれ、私は私のやる事をやる」
「任せてくれ」
プロフェッサーがどんどんと奥へ進み、俺はその少し後ろを着いて歩き、何時でも交戦出来るよう銃を構えておく。T3ストークの弾は有り余るほど持ってきた。怪物程度ならいくらでも倒してやるとばかりに。
「3年前。アンドロイドに基地を襲撃された時、私はACの解析手段を失った、正確にはそう思い込んでいた。たった一人で基地に戻るのは自殺行為、リング襲来以降は来るタイミングも無い。そう考えれば基地に帰るなんてことはできない」
プロフェッサーは歩きながら続ける。
「だが君の案で私はもう一度ここに来る機会を得た。君のおかげだ。アーマード・コアを操縦できるAC世界の住民たる彼女は既にいないが、そこは何とかする。私たちがアーマード・コアの情報を過去に持って帰れば、戦況は変わる。私たちにかかっているんだ」
アーマード・コアがあれば戦いの流れは簡単に変わるのだろう。それはきっと元の持ち主たる少女も理由ではあろうが、それ以上に普及した汎用兵器の強さをコンバットフレームという実例を以て知っているからだ。
プロフェッサーが最後の隔壁を開く。そこには凄まじい数の切り傷が着けられ、それでも自壊せず直立し続ける、ACの姿がそこにあった。
「これが……」
「そうだ。これから人類にもたらされる反撃の要、人型汎用兵器、アーマード・コア……その原点とする第一歩だ」
無数の弾痕を受け、裂傷により傷付き、だが一時も倒れること無く立ち続けている。人類の希望にはこれ以上なく相応しいものだろう。一兵士でしかない俺よりも。
「ストーム1。君とこのAC、そうだな……母体と呼ぼう。母体と君が合わさった今回の世界では、何か決定的な特異点が生じたんだ。君が前哨基地を、彼女と母体がマザーシップを。陸と空の二大戦力をそれぞれ落とした。……だが、勝てなかった。9隻のマザーシップの砲撃、アンドロイドの投下、それで全て終わった」
ACの内部に入り込んだプロフェッサーが、何かをデータへと変換し、端末へ保存しながら話し続ける。
「その前の時間軸では、核による攻撃すら行えず、互いの戦力をひたすら消耗し合う泥沼合戦になった。その前は、核によって地球の半分が住めなくなったうえ、勝利すら掴めなかった。この、前哨基地とマザーシップ一隻の撃破という好条件を活用するためにやることは一つだ。
情報を持って生き残る。君も私も違う分野での戦いで勝利を収めるんだ。君は敵戦力を削り、私は武器装備を作る。その場にはきっと、アーマード・コアがあるだろう。例え不格好な新型でも、EDFと人類の切り札として」
プロフェッサーがデータを抜き終えたのだろう。端末を仕舞って、時刻を確認している。
「行こう。リングの攻撃時間が迫っている」
それを聞いて俺も時計を確認すれば、15時を回ろうとしている。確かに、これ以上ここで待てばリングへの攻撃、そしてあの事故を再現する事が出来なくなる。偶然を必然にするには、全ての条件を一致させなければならない。
いつ、どこに、誰が集まり、誰が戦うか。その全てが完璧に整っていなければならない。
基地を抜け出した俺たちは路肩に停めていたフリージャーに跨り、全速でベース251へと駆け出した。
遠目に見えてくる。赤い大気の中からでも、船を過去に飛ばしているあの怪しい光は見えていた。
「! 既に始まっているか!」
「行こう、ストーム1。未来を変える時が来たんだ」
プロフェッサーからの言葉に頷き、フリージャーを走らせる。そして俺たちは違和感に気付いた。その違和感は最初、なんてことの無いものだった。しかしリングへと近付くにつれて、違和感は疑念に、そして確証へと変わっていった。
「…………? この位置は……」
「気付いたか。私も今気付いたところだ」
座標が違う。数キロ前後離れており、ベース251上空での展開ではなくなっていた。前回はベース251の頭上を埋めるように浮遊していたのに。今になって、なぜ位置が変わったのだろうか。
そして位置が変わっているということは同時に、条件が満たせなくなっている可能性がある。
つまり、リングは所定の位置を離れた。そうすると、今まで全く同じ状況で繰り返せていたはずの事故が、起こらなくなるかもしれないのだ。そうなればたとえリングを撃墜したとしても、時間軸は固定され、最悪の未来のまま緩やかな死を迎えるだけになる。
プロフェッサーも全く同じ考えに至っていたらしい。悪寒を隠そうともせず、リングを忌々しげに見つめている。
「プライマーめ、この期に及んで何を考えた? なぜ場所を移動した? この場所ではいけない何かがあるのか?」
「わからない。ただひとつ分かるのは、俺たちはそれでもリングを落とさなきゃいけないって事だけだ」
「……そうだったな。過去改変船を一機でも妨害して、これ以上事態が悪化するのを防がないとならない」
リングを見ていたその時、後ろから足音が聞こえてくる。橋梁を潜り抜けてきた大尉たちが、俺たちを見つけて合流してきたのだ。
「お前達! 姿が見えないから死んだと思っていたぞ。よく無事だったな。俺たちはリングの守備隊を攻撃する。お前達も加われ」
「了解だ」
「分かりました、大尉」
「よし。今日こそリングをやるぞ。俺たちはリングを攻撃し、プライマーに一泡吹かせる。奴らは驚くだろう、人類の反撃に。リング撃墜作戦、開始だ」
大尉率いる攻撃隊に合流する。この一ヶ月間の戦いを経て新兵たちは一端の兵士になりつつある。だが、こんな作戦に参加させるには練度が足りなさすぎる。いつも通り、俺がやる。
「あ、おい! 何処へ行く!」
「自殺行為だ、リングの下に行くなんて!!」
大尉と攻撃隊の一人の引き留めを無視して、俺たちはリングへと向かう。バイクは移動用のものであるため機銃は搭載していない。機動戦闘ならフリージャーにも出番はあるかもしれないが、これは攻撃戦だ。距離を離す為のバイクに使い途はない。
リングを壊し、事故を再現する。
行こう。未来を守るために。
アーマード・コア
戦闘不能に追い込まれながらもかろうじて完全な破壊を逃れた、ファーストタイプ。プロフェッサー曰く、母体。この母体を元にACを作り出す。プロフェッサーの意思は強く、そして固い。
リング
超巨大船。リングの役割はストーム1とプロフェッサーの二人しか知らず、大尉を除く全員はリングを巨大な空母、大尉はリングをプライマーの攻撃拠点と考えている。破壊する時が来た。