地球を防衛する傭兵になりました   作:No.28

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 おいろけかい




二話 強化人間

 

 

 

 軟禁状態になってから、今日で丸々二日ほど経つか。行動を制限されているとは言っても、10分から20分程度ACに搭乗する事はできるし、隊長や他のアンヴィル隊のメンバーが私の監視という名目で着いてきてくれる場合は、一時間も彼女……コムと会話する事を許されている。

 

 ……しかし、この二日間を使ってアンヴィル隊やこのベース229の基地司令官と何度も話し合った結果、私が今いるこの場所は、私の知るあの荒廃した戦場ではない、という結論に至った。

 

 まず、ここは()()という、私の育った場所では見た事も聞いた事もない地名であるということ。そもそも初めて聞いた、土地と人民、そして民の指導者を持つ『国』という言葉。それらから推察するに、私の知らない世界、つまり『別世界へ転移した』のではないか、と。

 

 アンヴィル隊も私も、今回の事にはとても頭を悩ませている。元の世界に帰る方法……は、まぁ良いとして。私のような()()ができてしまった以上、私ではない別のレイヴン等が来る可能性だって否定できない。

 更に私の職業、以前居た世界においてのレイヴンの仕事や立ち位置を彼等に伝えたところ、その()()()()()()()()()()()()()()()の危険性に対処するべく、ひとつの解決方法に至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………という訳だ。では、改めて伝える。貴殿は本日より、本EDF基地ベース229所属邀撃隊、アンヴィル隊のセカンドチームとして我が基地の戦力に編入する。君の識別IDは『アンヴィル2-1』だ」

 

「はい。まぁ、堅苦しい事は抜きにして。要は私もこの基地の兵士になって、皆と一緒に基地を守ろう、って事ですよね」

「あぁ、そういう事だ。無論君を戦力とすると、アンヴィル隊では些か過剰に過ぎる。君は今まで通り、客人としてゆっくりくつろいでくれ。どの道あのACを操縦できるのは君だけだからな」

 

 私はベース229の基地司令官殿とそういった旨のやり取りをする。私の他にレイヴンが現れた場合、私が対処する、というものだ。特に新しいレイヴンが敵対的だった場合、ACの残骸をEDFに譲渡し、技術の解析を行うという契約である。

 

 基地司令官は私に丁寧な敬礼をする。私も、見かけだけでも敬礼を返す。司令官が私に貸与した私室から退出したのを見て、私は大きく息を吐いた。ソファに身体を預けながら、目を瞑る。

 

 そういえば、バーテックス戦争*1が終わってから、全然お風呂に入っていなかった。かれこれ一週間ほどになるが、戦争が終わってから強化人間*2となった都合上、全くお風呂に入る事が無くなっていたからだ。肉体の新陳代謝が活発化しても消費は低いままの為、食事もほぼ趣味に過ぎない程便利な体だけど、忙しかったとはいえ風呂無しはやはり精神的に来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂を借りる事にした。

 案内人になってくれたのは、ベース229に着任して二ヶ月目の女性士官だった。飛行ユニットというものを利用した地対地航空戦力、ウイングダイバーチームの一員らしい。

 

「お風呂場、ですか? いいですよ、二日間も入ってなかったら、さすがに気になりますもんね!」

「そうですね」

 

 快活な様子で私の案内を許諾してくれた彼女は、そのまま私を客間から連れ出し、入浴所へと案内してくれる。

 

「えーと、お名前は…」

「ストーム」

「ストーム………えっと、コードネームではなく、本名を…あ、もうこの基地の隊員なんでしたっけ……」

 

 うーん、と私は喉を鳴らして唸る。この二日間で考えていたもう一つの事項が、今のだ。

 ここは私の住んでいたあの世界ではない。私を知る人間は誰一人としておらず、現状命を狙われる危険もない。あるかもしれないが、基地にいる以上遠くからの攻撃は不可能だ。

 だったら、名前を教えてもいいのか? 答えは、どちらとも取れない。いつもストームを名乗っていた手前、本当の名前を言うのは恥ずかしいと言えばいいだろうか。それはそれで思春期の女の子みたいでなんか嫌だ。

 

 悩んだ挙句、もうすぐ風呂場に着きますよと女性兵士が言ったのと同時に、私は名前を言った。

 

「………ウィンディ。Windy、って書いて、ウィンディ。親は風のように飄々とせよ、って意味で名付けたらしいけど」

「……ウィンディさん。 …ふふっ、良い名前ですね」

「そ、そっちは? 教えてください、名前」

 

 そう言うと、女性兵士は少しどうしようという風に頭を掻く。キョロキョロと辺りを見渡して、誰もいないことを確認してから、彼女はこっそりとこう言った。

 

「EDFでは、他の隊員に名前を聞いたりするのは駄目なんです。規律とか、軍事組織としての団結を重んじるため、個人に深入りするのは違反なんです。だから、私達は普段階級と所属チーム名、チームIDの3種類で呼び合います」

「えー、随分めんどくさいですね」

「まあまあ。………私の名前は三上です。所属部隊はウイングダイバーチーム、レイニア隊。IDはレイニア2です。レイニア2って呼んでくださいね。くれぐれも他の場所、他の人がいる所で名前を呼ばないでくださいよ!」

 

 レイニア2はそう言って敬礼した。

 

「……うん、よろしく」それに応じるように、私もピシッと敬礼を返した。その次の瞬間だった。

 

「ちょっとレイニア2、抜け駆け?」「私達も混ぜてよ〜」「あ、可愛い! この子が今話題のスーパールーキー?」「すごーい!アルビノって言うの?綺麗!」

 

 たくさんの女性兵士が私を取り囲んだ。

 

「え、え、え。 ……え?」

「しまった……この時間は女性隊員の入浴時間なんです、すみません。私の把握ミスです」

「いや、それはいいんだけどね……っ」

 

 この人だかりは何なんだ。どうして私に集まるんだ。私は混乱した頭でどうにか言葉を受け流そうとするが、駄目だった。

 

「え、一緒にお風呂入ろうよ!」「あ、いいねぇ!それ賛成!」「ねえねえ、体流してあげる!」

「う、わ……! うわぁぁあああぁぁぁぁぁ…………」

 

 私は数多の女性隊員にもみくちゃにされながら、入浴所へと連行されていった。レイニア2だけが後に残った。

 

「………ま、いっか。私も入ろ」

 

 ………特に罪悪感を覚えているわけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここの入浴所は男女で別れていて、女性陣が入浴を終えてから30分後に男性陣が入浴する、というルーティーンらしい。男性と女性のどちらも、入浴する際はそれぞれ二つのグループに別れていて、私と三上隊員……もとい、レイニア2はその第一部隊に巻き込まれたらしい。

 

 全ての隊員には、入浴所の前でロッカーが与えられるようで、私は何ヶ月か前に定年で退職した事務員のロッカーを貸してもらえるらしい。

 EDF隊員の年齢層は様々だったが、特に若い隊員が多いようだった。カーテンで仕切られたパーソナルスペース越しに、隣の隊員と会話する。

 

「ふーん。じゃ、その髪の色って生まれつきなのね」

「うん」

 

 パイロットスーツを脱ぎ、ロッカーの中に入れながら私は隣の隊員、ポーン4へ相槌を返す。左腕に着けていた古い腕時計を取り外して、それもロッカーの上段にあるスペースにするりと入れた。中のハンドタオルを手に取って前掛け代わりにする。

 カーテンを元に戻し、風呂場に向かう。ちょうどポーン4も着替え終わったようで、私とほぼ同じタイミングでカーテンを開いて出てきた。

 歳は23だと言っていたが、その割に色々大きかった。特にお胸が。ウイングダイバーは皆プロポーションが良くないとなれない呪いにでもかかっているのだろうか。

 

 ちなみに私は貧相である。クソです。

 フン、まあいいもんね。私はACを操縦できるんだぞ。

 

 

 

 

 ポーン4は私の前を歩いている。私達が最後の二人だったようで、もう他の人達はシャワーで体を流したり頭を洗ったりしている。

 私も適当な席に着き、シャワーを流して備え付けのシャンプーを手に出して、頭に手をつけて指を立てた。戦争中も、その前も、ずっとシャワーを浴びるなんてことなかったから、砂埃が髪の間に挟まったりしていてゴワゴワだった。洗えば洗うほど、砂粒が出てくる。我ながら随分とレイヴンとして板に付いていたんだなぁ、と実感させられた。

 あたりから談笑が聞こえてくる中、私は一息つくように息を吐いた。

 

「ふぅ………あったかい」

「いいでしょう? EDFは福利厚生にも力を入れていて、特に現場で動いたり常日頃から訓練をする事の多い戦闘員は、訓練時以外は衣食住の全てにおいて優遇されているの。過酷だけど、それが目的で入隊を志す人も多いわね」

「へぇ……私のいたところと大違い」

「あなたはどうだったの?」

 

 私は今までを振り返る。

 

「誰もが生きる為に戦っている。……って言うべきかな。何人も私と同じような人達が死んでいって、私自身何人も手にかけた。それでも生き残る為に、私は戦い続けたよ」

「そんな………まだ、若いのに」

 

 周囲の人達は、私の話を聞いたのか静かになっていたが、私が話し終わるまで、それに気付く事はなかった。

 

「ううん、私の世界ではそれが当たり前だったから。皆覚えてるよ、殺した相手のこと」

 

 そう言って私は指折り数えていく。直近で殺したレイヴンの数は、大体20人前後だろうか。MTや戦闘機、ヘリ、車両などを合わせれば平気で4桁は行きそうだった。

 

 

 二年前。まだ16歳だった頃、私はレイヴンとして初めて人を殺した時の事を鮮明に覚えている。同期の青年受験者と一緒に、試験管理官の指揮下の元トレネシティの北部に侵入してきたテロリストのMTを排除する、という任務だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これに生き残れば…!」

「気を付けて、A-1! 後方に敵機!」

「なに!? 喰らえッ! ……助かったよ、A-2」

「お互い様だよ、さっきのカバーのお礼」

 

 A-1の後方のMTを指摘し、A-1はそのMTに対して振り返り、滑腔砲を受けながらもレーザーブレードで斬り伏せる。私も目の前の逆脚型MTに対してライフルとミサイルを浴びせかけ、そのMTは爆発する。

 

 

 ……私達はこの戦いを生き延びる事に、人生の全てを賭けていた。A-1の当時は動きのキレはあまり見られなかったが、確実に敵にダメージを蓄積させる戦いを好んでいた。私はというと、覚束無いなりにブースターを使った移動や空中での回転を利用する回り込みなど、その時から実践的な動きを覚え始めていた。

 

 操縦桿のトリガーを引いた感触は、あの時から一度たりとも忘れていない。一人、また一人と撃ち殺し、その機体が爆ぜていく様を忘れたことはなかった。

 白状するなれば、私は殺し合いに楽しさを見出していたのだ。レイヴンの志望動機も、生活の為だけではない。レイヴンになったら楽しいだろうな、というものだ。昔からそれは変わっていないのだが、それでも以前ほど欲求は減った。

 

 …だから不意打ちを受けたのだろうが。

 

 直感とセンスだけで生き延びてきた訳ではないが、そういう貪食な面も助けたのだろう。結局その後、二年の歳月を経て私は大人になった。

 

 ちなみに、その後A-1…レイヴン、アップルボーイとは幾度か共闘しているが、レイヤードの管理者を破壊する際、管理者のAC部隊と交戦の末死亡した旨を、ユニオンの部隊指揮官から伝えられている。

 その時は、私は柄にもなく落ち込んだものだ。同期として何度も互いを励まし合ったり、時には共闘して互いの腕を確かめたりしたものだったからだ。最後の散り際には、友軍のAC部隊が来るまでMTの退却の時間を稼ぐ為、単機で管理者のAC3機を食い止めていたらしかった。

 

 

 

 

 とにかく、そういった事があって私は今、衝動を簡単に抑えられるようになっている。という事を彼女に話すと、彼女は閉じていた口を開いて、私の肩に手を優しく乗せた。ぽんぽん、と柔らかく二回叩く。

 その表情はお湯から出た湯気に隠れて全く見えない。

 

「………そっか。若いのに沢山厳しい目に会ってきたんだね」

 

 ポーン4が優しく慰めてくれる。他の盗み聞きしていたらしい隊員達も、啜り泣いたり無言で私の話を聞いたりしていた。

 

「私はもう平気。あいつのお陰で私は成長できたし、今こうして生きてるから。じゃなかったら……」

 

 パルヴァライザーと連戦を重ねた時を思い出してため息を吐く。技術に裏打ちされた戦術が無ければ、あの青いパルヴァライザーを破壊する事は難しかっただろう。

 シャワーで洗い終わった頭の泡を流して、おでこからうなじ側にかけて両手で水を切る。水分が少なくなった髪の毛はオールバックのようなものから、少しずつ普段のウェーブ状に戻っていく。

 

「じゃあ、そろそろ湯船に浸かろっか」

「バスタブに? 久しぶりだなぁ」

 

 シャワーだけでなくバスタブまであるとは思わなかった。そう考えながら別室に行くと、湯を張った巨大な四角のバスタブがあった。

 

「……凄い大きい」

「あれ、見た事ない?」

「うん。こういうのって戦争で壊されたりしたし、凄い新鮮」

 

 会話をしながら、ポーン4に習って体に桶でお湯をかけ、そのまま巨大バスタブの中に入る。アツアツだが、力が抜けるような安堵感を覚える。

 

「はぁぁぁ〜〜…………」

 

 自分で出したのかもわからないほど間の抜けた、気の抜けるような声を出した事に驚いた。今までこんな声出した事なかった。信じられない、

 

「良いでしょー。お湯張りする度に疲れの取れやすい入浴剤が使われてるんだ。もう凄い効果って皆から人気なの!」

「ほぇ、へぇ〜…………」

 

 もう何も考えられない。一生この湯に使っていたい。

 

 ぶくぶくぶく…。

 

「わーっ!?」

「ぶくぶく」

 

 風呂から引きずり出されそうなのを手で制する。そのまま身体中の空気を出し切り、瞼を閉じて、全身でお湯の温もりを甘受する。生まれてから18年、ずっと銃声の響く世界に住んでいた私には、あまりにも不釣り合いな安心感だった。

 

 身体が毛布に包まれたような感覚を噛み締めながら、私はふと考える。

 死んだレイヴンは、こうして別の世界に飛ぶんだろうか。私だけがこうして日本に来ているのに、私が殺したレイヴンや、管理者のAC部隊を前に散っていったアップルボーイは、こっちへ来ていないのだろうか。

 あるいは、飛びはしたけど、私と同じ世界じゃないって事なのかな。もしそうじゃないとして、アップルボーイがこの世界に飛んできているのなら、また会いたいな。

 

 思案しているうちに、どうやら10分以上経過していたらしい。目をパチリと開く。

 長時間潜っていても、強化人間の恩恵で溺れる事は中々ないが、心配をかけさせる訳にも行かないので浮上する。バシャと揺れた湯の波が縁から外に出ていく。

 

「わっ。……凄いね、12分間も潜ってたよ」

「うん…得意だから?」

「なんで疑問形なの……?」

 

 適当に誤魔化しつつ、ポーン4がやっているように、肩まで浸かる。はぁぁ、とため息を漏らしながら脱力する。凄まじい魔力を持っている。この風呂は。

 

 

 

 突如、頭の中に機械音声が響く。

 

『《体温の急激な上昇を検知。緊急冷却します》』

「あっ」

 

「えっ? ……うわっ!? な、何これっ!!?」

 

 入浴していた私の体から、凄まじい水蒸気が吹き出す。正確には、私の上昇した体温を体内のナノマシンが検知し、更に私が脱力していた事でナノマシンは私が意識不明瞭の状態だと判断し、緊急冷却を作動させたのだ。

 冷却と言っても、別に体内にラジエータが埋め込まれている訳では無い。心身に埋め込まれた皮膚組織内のナノマシンが、身体を刺激して発汗を促すだけなのである。それとは別に、体内電気を微量に用いて普段から体温を調節してはいるが。

 

 とにかく、急に目の前の人間から白煙が吹き始めれば、誰だって驚くだろう。特にバーテックス戦争後の強化人間なんて私だけだったし。

 いや、そもそもこの世界で強化人間なのは私だけか。

 

「大丈夫です、上がります」

「大丈夫なの…!?」

 

 身体中の水滴を落としながら立ち上がる。まだ水蒸気は私の体温を減らしつつある。シャワールームの方に行くと、私を見た隊員が何人か悲鳴を上げていた。それはそうだよね。

 

 

 

 

 

「………で、何があったのかちゃんと教えてくれる?」

「はい…」

 

 基地内女性隊員で最年長だというお姉さん隊員に洗いざらい白状させられた。私が強化人間という存在である事、水蒸気の理由は私の体温調節の為である事、ついでにそれ以外にも色々な機能を持っている事も白状させられてしまった。

 

「へぇ…つまり、サイボーグって事?」

「半分機械の人間という意味では似てるかな」

 

 そう言って適当なシャツと短パンを貸してもらった私の二の腕を、お姉さん隊員がぺたぺたと触る。なんなら私達を取り巻く隊員達も身体中ぺたぺた触ってくる。くすぐったいんですけど。

 

「今は? もう暑くないの?」

「はい、もう暑くないです……いや触りすぎ」

 

 正座している足の指の隙間まで触ろうとする不逞な輩が居たので正座をやめて胡座をかいた。

 

「とにかく、あれは全部私の機能。珍しいかもしれないけど、私のいる世界ではそれなりの数がいたから。…こっちで強化人間の情報に関する知識が一切存在しない、という事を想定してなかったのは謝る。 …ごめんなさい」

 

 頭を下げて謝ると、お姉さん隊員は優しく許してくれた。

 

「うん、いいのよ。心配だから色々聞いたんだから。こっちこそ根掘り葉掘り聞いちゃってごめんね」

 

 頭を撫でられる。訂正しよう、お姉さんではなくお母さんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、私はアンヴィル3、4と一緒に私のACのコクピットに居た。私だけコクピットの中に入って、アンヴィルチームの二人はコクピット上部、コアの部分にしゃがみこんでコクピットを覗いている。

 今は夏という季節らしい。確かに、レイヤード内部の天候管理設備が破損した時は、こんな感じの蒸し暑さだったのを覚えている。発汗はしていないが、不快感を催した。一応体温調節によって体温の上昇も防いでいる。

 

「おはよ」

『おはようございます。今日も無事のようで、安心しています』

「もう……みんな優しいし、そんな危ない事ないよ」

『それは良かったです。…おや、髪がふわりとしていますね。入浴されましたか?』

 

 機械と人が楽しげに会話をするという光景に、二人は開いた口が塞がらなかった。特にアンヴィル4は、それを見てから適した言葉を捻り出すまで10秒以上はかかっていたようだった。

 ようやく口を出た言葉も、月並みに過ぎない言葉でしかないようだ。

 

「……凄いな。本当は人が話しているんじゃないのか」

「さぁな……」

 

「それでね、今日は沢山の人と仲良くなれたんだ」

『そうでしたか。それは僥倖です』

 

 機械と話す彼女はとても無邪気だ。アンヴィル4はそう思っていた。確かに、客間に赴いた時にはあまり見せない笑顔を、機械の少女には何度も見せている。我々に心を開いていないだけかもしれないが、会話からして打ち解けられてはいるらしい、と安堵した。

 

「ううむ、本気で人間としか思えん」

 

「あの子のいる世界は、もしかすると私達の住むここよりもずっと進んだ未来なのかもな。 ……あんな年頃の子でさえ、こんな機械に乗って戦わねばならないほど、荒廃した未来……」

 

「そうはさせない。俺達が」

「あぁ……」

 

 未だ紛争の絶えない世界だが、だからこそ俺達がいる。アンヴィル3、4は固く誓い、拳を握りしめた。

 

 

 

 

*1
アライアンスとバーテックスによる、24時間という極めて短期間に勃発した戦争。名目上バーテックス側の勝利に終わっているが、その実双方の戦力どちらとも激しく損耗しており、特に両陣営の所属レイヴンの殆どが戦死した事で、24時間で戦いを終えざるを得なかったというのが真相。ストームはこの際、バーテックス側として参戦。バーテックスの指導者ジャック・Oの指示で動きながら、アライアンスと戦闘を繰り広げた。

*2
レイヴン本人の身体を改造する事で、ACに関する性能の向上を目指した技術。特に二脚型では構えなければいけない反動を持つ肩部キャノン砲系統の武装を、構えなしで、空中からでさえ射撃可能であるこの技術は、技師の圧倒的な少なさから普及には至っていない。また心身の全体に影響を及ぼし、リスクは非常に低くなったとはいえ、精神崩壊の危険さえ孕む。汗をかかなくなり、全ての神経を強化光ファイバーに置換する事で戦闘行為への適性を向上させるが、あくまでACの強さは本人の腕に寄る。






 ストーム(ウィンディ)

 パイロットネームも本名も、風に由来する。苗字は、両親が他界した時に捨て、そして既に忘れている。そもそも本名もあまり名乗らない。前述した通り、アーマード・コアの世界において本名を晒す事は個人の特定、引いては個人への攻撃に繋がる為である。


 AC名「ゲイルウィンド」

 機体名の由来は、木々を薙ぎ倒すかのように荒れ狂う強風を意識したもの。 標準的なパーツを使い分ける、中量二脚型AC。ENマシンガンやミサイルといった武装を駆使し、機体の消費ENの低さから来る総合的な機動力を活かして、終始自分に有利な状況に持ち込み続ける戦法を取る。
 ミサイルは六連射型のコンテナミサイルを装備し、多数への攻撃に力を発揮する他、単体に対して六発斉射することも可能。汎用性に富む。
 ENマシンガンは火力面では優れないが、FCSのロックサイト拡充による命中精度の良さから採用。射撃時消費ENの悪さから機体性能を活かしきれない為、文字通り彼女が自身に課すハンデ。彼女の頭を敗北の二文字がよぎった時、ようやく格納されたマシンガンが姿を見せる。この時の猛攻はとにかく凄まじく、機体のダメージを全く考慮しない突撃戦法に切り替わる。

 パーツ名列記

 HEAD: H02-WASP2
 CORE: CR-C84O/UL(格納機能+OB搭載)
 ARMS: A11-MACAQUE
 LEGS: CR-LH89F

 FCS: MF05-LIMPET(広角複数ロック型、最大6)
 BOOSTER: B02-VULTURE
 GENERATOR: CR-G84P
 RADIATOR: CR-R92

 INSIDE: CR-I78R2(内蔵型ロケット)
 EXTENSION: CR-E92RM3(連動ミサイル)
 BACK UNIT R: WB01M-NYMPHE(6発ミサイル)
 BACK UNIT L: CR-WB03CGH(大型チェインガン)
 ARM UNIT R: WH10-SILKY(ENマシンガン)
 ARM UNIT L: YWL16LB-ELF3(レーザーブレード)
 HANGER R: WH05M-SYLPH(マシンガン)
 HANGER L: CR-WH79H3(長期戦用ハンドガン)

 常に重量過多であり、機動力では他の中量二脚型に遅れを取るが、脚部を含み全体的に消費ENが低めのパーツを採用しており、ブースト時の移動のしやすさはトップクラス。また、重武装でありながら全体的に見ればむしろ速めの機体速度でもある。
 ブースターの熱量に関しては、低空飛行と地上への着地を繰り返す独特の飛行方法により、ある程度は解消できる。

 しかし、BACK UNITにレーダーを搭載していない為、索敵を強化人間としてのレーダー及び頭部レーダーに頼る他なく、旋回戦闘における敵機の捕捉性は低い。
 またレーダーを搭載していないためにECCMに大きな不安を残す。実数値にして耐性値504程度の対ECM性能しか確保されていない為、電子妨害によるFCSの不備や、ターゲットの反応消失などの危険性を孕む。

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