地球を防衛する傭兵になりました 作:No.28
昨日ぶりですね。戦略情報部分析官、少佐です。
先日の話し合いは……その。
突拍子の無い、根拠も無いものと決めつけるのにはあまりにも早計に過ぎると、貴女を見ていて思っていました。異世界からの転移者。貴女をそう呼ぶ者もいます。現に、貴女の搭乗するロボット、アーマード・コアは、今の人類では製造し得ないものと認めざるを得ません。
本題に戻りましょう。本日付でアウトポスト89は、他ベースの生存者及び残存戦力を集めた、主要反撃部隊として活動します。
早速ですが、貴女にも依頼を。
市街地上空に揚陸艇と思われる飛行物体が飛来しました。先日確認されたベース210を破壊した超大型円盤と違い、攻撃能力は確認されていません。ただし、内部の人型生命体を投下し、いかなる攻撃も受け付けないことから、直前での撃墜は不可能でした。現在は市街地を奪われ、エイリアンが街を闊歩している状況です。これを私たちは、コロニストと呼称します。
ベース200、213、216、228、236の上空に出現したものと同型と見て間違いないため、貴女の所属する部隊をこちらで編成、撃破に向かわせる作戦です。貴女の隊は尖兵として、できるだけ多くの敵を排除してください。
戦力の減少が確認され次第、後方に待機させる複数の混成部隊で敵を完全に撃破。このエリアを再度、掌握します。
また、貴女には専属のオペレータを一人付けます。戦略面でのサポートは、彼女に任せてください。
よろしくお願いします。このエリアを奪取できるかは、あなた方の双肩にかかっています。
出撃任務が与えられた。エイリアンの撃滅だ。これに対する戦力は前回の記憶の通り、複数のビークルを擁する混成部隊による突撃となる。この作戦は敵歩兵討滅というシンプルなものであり、だがエイリアンの撃破は難しいものとされてきた。それは敵が訓練を受けた歩兵部隊であると推察され、同数の歩兵部隊だけでは圧倒されてしまうからだった。
私がこれを打ち破ることでEDF全体の士気向上を図るという、その内容以上に重大な作戦でもある。だが、これに失敗するつもりは無いし、同行する部隊も負けるつもりは毛頭ないようだ。それもそのはずである。
『まさか先進技術研から、最新型のコンバットフレームが送られてくるとはな! これで負け無しだぜ!!』
先進技術研、つまりプロフェッサーからプレゼントだと言わんばかりに、アウトポスト89やベース229のような残存戦力の残る部隊に最新鋭のニクスが輸送されてきたのだ。
その姿はコンバットフレームよりも一回り大きい。膝は直立せず逆に曲がっている。いわゆる逆関節という形であり、それは私たちの世界で見た戦闘用マッスルトレーサー、MTに似ていた。その他にも四足型の四脚タイプ、キャタピラ型のタンクタイプが来ている。
MTはACよりも安価で生産できるうえに機体によってはAC並の火力を持ち、ACと同規格の兵器すら搭載可能だというものである。
『胴体部、つまりコアを主軸として腕部装備を変更し、あらゆる環境に対応可能な新型コンバットフレーム。その名もコアドニクスだ。新鋭機だぞ! こんなのを回してもらえるコネがあったとはな……』
今回のコアドニクスというものは、アーマード・コアがコアを主軸として脚部や武装を変更する《コア構想》というものに由来している事から名付けられたのだろう。
実際、彼らのコアドニクスは武装が全て違う上に脚部も違う。流石にコアや頭部は変わらないようだが。
プロフェッサーが手を回してくれたおかげで、火力だけならACにも負けず劣らずのコアドニクスが三機、混成部隊の主力として戦闘可能だ。その他素晴らしい事に、タンクや既存のニクスにも改良が加えられており、それぞれ90ミリ滑腔砲を搭載したA型・ブラッカーA2タンクが五両と、火力や機動力の強化されたニクス・ミサイルガンが三機。
正面から敵の部隊を打ち破るには十分な戦力だ。
『こちら本部。これより、テレポーションシップへの攻撃を開始する。今回の作戦には、英雄と名高い二人の兵士が同行する。最新型の……アーマード・コアを駆るレイヴン、ウィンディ少尉と、ルーキーでありながらマザーシップの撃墜歴を持つスーパールーキーだ』
私はあれからアンヴィル2チームをアグレッサーに託し、独立した戦力《レイヴン》の第一人者として活動している。私だけではなく、米国本部、欧州支部方面でも、合計7人の試作試験型コアドニクスを貸与された《レイヴン》が、独自に敵戦力とぶつかり合っているとの事だった。
また私や、私を含む《レイヴン》は、その枠組みによってEDF所属という肩書きを失い、階級と共に自由な戦線の移動権限を手に入れている。また、各工場においてはAC規格、コアドニクス規格の弾薬、燃料を精製する事を義務付けられており、これによってエリアを選ばず戦闘が可能である。
ちなみにこのおかげで名前を名乗ってもよくなった。
三隻の潜水母艦が海洋へ沈みゆく人々の希望だとすれば、コアドニクスと私たちのアーマード・コアは、陸を守り抜く人々の勇気だ。
「こちらハリケーン。ウィンディです。皆と同行できて嬉しく思う。よろしくね」
私の機体は昨日からずっと変わらず。イクシードオービットやパルスライフル、レールガンを主体としたEN武器偏重機体。雑魚散らし用のライフルやリニアガンが、怪物相手では光る。
『同じくコアドニクス・レイヴン。ライノだ。タンク型で、とにかく敵を寄せ付けない。よろしく』
ブラッカー型タンクを脚部に据えた、コアドニクス。腕部が大口径のグレネードランチャーに置き換わっている他、肩部にはチェインガンを模したと思われる大型弾倉を複数装填した、ショルダーリボルバーカノンに、四十基ものミサイルを搭載しているミドルミサイル。火力のみならばACとも遜色ない。
『レイヴン、ブリッツ。私の武装はロケットによる大物への集中砲火だ。デカブツは任せてほしい』
逆関節型で、標準的な腕部リボルバーカノンを二門搭載するが、それ以上に目立つのが、肩部に装備された六基もの大型ロケットランチャーだ。威力の程は不明だが、あの大きさならば怪物の群れはおろかマザーモンスターやキングを吹き飛ばして有り余る火力があるはずだ。
『同じくレイヴン。フレイマーだ。撹乱戦が得意な機体を使う。よろしく頼むぞ』
腕部にマシンガンと火炎放射器を装備したコアドニクス。肩部には標準的なミサイルを二基搭載し、それぞれがACのスモールミサイルレベルの火力を持っていると見て良いだろう。大型のブースターも目を引く。速度に特化したチューニングなのだろう。
こちらの世界でアグレッサー以外にレイヴンと名乗る人を見るのが珍しすぎて、思わず黙ってしまう。まるで昔のあの時に戻ったようだ。地下世界で過酷に、そして懸命に戦っていた時代を思い出す。
……まだ16歳の時だった。最低限の教育だけを受けて労働施設に放り出され、どん底をさまよっていた時のことだった。
ウィンディ少女は、哀れな子だった。工具を持つことも出来ないひ弱な子は、どこにも居場所はなかった。両親と死別した彼女は、14歳の時、自分の暮らしていた居住区にレイヴンの駆るACが侵入してきた事を知った。
夢も希望も失せていた彼女の唯一の楽しみは、端金を抱えて観戦するアリーナでのAC戦だった。機体と機体がぶつかり合い、ライフルとマシンガンが削り合い、ブレードが斬り、シールドが防ぐ。肉薄し、そして終幕を迎える。会場は当然のように熱く燃え上がり、ドームは熱気に包まれる。アリーナは観客の歓声やブーイングに覆われ、喧騒の中で少女は目を輝かせていた。
そして市街地を破壊し、居住区を荒らすレイヴン、そしてアーマード・コア。力を振るう、自由の象徴。そんな存在を目の当たりにした彼女の──
《楽しそう》
──呟いた一言は、ごく単純だった。
頭から落ちていた記憶に思わず目を細める。あの頃と比べると、今の私は感情豊かで、そして恵まれている。人生何があるか分からない。戦いにのみ身を捧げてきたような娘が、今や人類の為に戦う英雄だ。
仲間からは担ぎ上げられ、敵からは恐れられる。
……彼もそうだ。足元でアップしているスーパールーキー、ストーム1。彼は幾度も同じ時間軸を繰り返し続けている。私とは違い、本当に戦い続けてきた、本当の英雄だ。
『レイヴン部隊は、ウィンディ少尉の指示に従え。また、この混成部隊によるエイリアン攻撃隊は以後、サンダーボルト隊と呼称する。サンダーボルト隊、前へ!』
五両のブラッカーA2、三機のニクス・ミサイルガン、12のレンジャー部隊、6のフェンサーチーム、3のウイングダイバーチームによって構成されるサンダーボルト隊。
そして私と、私の
戦いの準備は整った。いざ行こう。
「全機、出撃!!」
『EDFッッ!!』
『サンダーボルト隊、続けっ!!』
『おおぉぉぉーーーっ!!』
鬨の声を挙げ前進するレイヴン隊、サンダーボルト隊。目的地は市街地北部。マザーシップによる度重なる攻撃とエイリアンによってEDF防衛部隊が壊滅し、異星人の蔓延る外宇宙と化したエリア。
今日、そこはもう一度人類の世界となる。
タンク型とはいうものの、元がブラッカー型タンクのキャタピラなだけあって速度は速く、むしろ逆関節タイプが最もスピードを出しにくいようだ。それはタンクの通常速力、四脚のブースタ出力の、そのどちらにも逆関節は劣ってしまうからだろう。逆関節タイプの本懐は本来、上下を縦横無尽に行き来する事による回避率の高さ、それに起因する生存力の高さにある。
だが、それでも通常型のコンバットフレーム・ニクスがブーストジャンプ移動を繰り返すよりは余程高速で動けている。
「作戦領域まで残り2キロメートル。市街地が見えてきた」
『こいつの性能が楽しみだ』
ライノが言う。タンク型の利点は、強力な武装が構えずに撃てるというものがある。装甲の強固さ、そして火力の高さから、耐えつつ先に倒すという用途に向く。
『こちら本部。作戦エリアは多数のエイリアンだけでなく、マザーモンスターやα型、特に黄金に輝くマザーが確認されている。能力は未知数だ、最大限に警戒しろ』
了解、と全員の声が重なる。
『こ、こちらはオペレーターです! 皆さんの作戦をサポートします。よろしくお願いします!』
戦略情報部から一人、作戦情報補助やオペレーション案内を担当する士官が配属されている。これは本来私、つまりレイヴンとしてのウィンディ少尉個人につけられたものだが、今は4機でひとつのチームであるため、全員の動向の確認を担当してくれている。
『声が若いな。新人か?』
『は、はいっ。まだ18なんです』
「えっ、同い年なの?」
『えっ?』
『…………え?』
……どうやら誰も、私が今18歳とは知らなかったらしい。いや、それは当然なんだけれども。なぜなら一切個人情報を伝えていないから。一応アンヴィルチームの皆やベース229の皆に顔を晒したりはした(そのうえ前の時間軸と同じようにアクリルキーホルダーを作られた)ものの、自分の過去などは話していない。その理由がないからだった。
『……ま、まあ。なんだ。年齢は関係ない。ここではあんたが先輩、隊長で、俺達は後輩、部下だ。マザーシップを落とした実力、見せてくれ』
「ん、オッケー。各機、何を相手しても構わないけど。 絶対に死んじゃダメだよ」
死んだら終わりだ。同期は皆死んだ。だから死ぬな。当然の事だ。生きていれば機会は巡ってくるが、死ねばそこでおしまいなんだ。私はたくさんの命を奪ってきたし、仲間の命を奪われてきた。これからもそうするだろう。だからこそ、死んで欲しくない。最悪、敵は一手に引き受けてやる。だから生きろ。
その旨を伝えると、渋々といった様子ではあったが全員了承したようだった。
「作戦領域に到達。作戦行動を開始する」
『はいっ! まずはエイリアンですね。数は多いですが、警戒の為か小隊を組んで散り散りになっているようです。そしてα型ですが、数が多いもののひとつの地点に固まっています。特に脅威なのは、あの金色の女王です。どれほどの戦闘能力を持っているかは不明です。排除の順番はお任せしますね』
オペレーターがヘッドディスプレイに全体マップと敵の大まかな位置を表示させる。市街全域に散らばるエイリアン反応と、中央に固まる赤い光、つまりα型とそのマザーの反応。普通の部隊が相手するのでは確実に敗北するが、今はそうじゃない。レイヴン部隊による、個の能力を重視した少数精鋭ならば、エイリアンを各個撃破しつつ敵を殲滅可能である。
「散開。エイリアンを排除したら、サンダーボルト隊の到着を待って突撃。いい?」
『OK』
『了解』
『行くぞ』
全機が離れていく。私も遠方のエイリアンへ向けてパルスライフルを構える。
その火力は、圧倒的だった。グレネードと言えば諸君は何を想起するだろう。爆発か、それとも派手さに見合わぬ小柄な弾頭か。或いは、発射機だろうか?
タンク型コアドニクス『ライノ』を駆る男は、エイリアンの弾幕をその装甲によって弾きながら、その火力を思う存分叩きつける。薙ぎ払うのでは無い。
『次弾!』
装填までの間、ビルに身を隠そうと後退しつつ、牽制にショルダーリボルバーカノンをばら撒き続ける。ばら撒くとは言いつつも、その火力は圧巻である。ビルを一瞬で粉々にする火力を、なんの遠慮もなく吐き続ける。エイリアンからすれば図体の小さいチビに過ぎない大きさだ。だがその戦力は、まさに怪物。あるいは暴君と呼ぶに相応しい。
装填が完了した。それはコロニストにとって、死の合図だった。隠れていたビルごと吹き飛ばされたコロニストの死骸を乗り越えるように、更に6体のコロニストが飛び出て来、その手に持つエーテルガンと呼ばれる突撃銃やラプチャーガンと呼ばれる散弾銃を撃ち込んでくる。
『弱いな』
ミサイルのフルロックが完了する。
『人類技術の結晶を、思い知れ!!』
6発のミドルミサイルが放たれた。独特の軌道を描きながらもコロニスト達の胴体に突き刺さり、順に爆発していく。レーダーに敵の反応はない。
『……終わったか』
『遅い遅い!』
ラプチャーガンの散弾を軽快なブースト移動で避けながら、マシンガンで着実に削っていく。遮蔽物を使用しながらの戦闘は、四脚型コアドニクス『フレイマー』を用いる彼には、おちゃのこさいさい、とでも言うべきだろう。
弾は全て外れ、マシンガンによる着弾と火炎放射器による熱量ダメージによって、コロニスト達は1体、また1体と倒れていく。火力によるゴリ押し、強硬策は面白くない。手数を頼んだ地道な戦い、詰将棋のような理性的な戦場こそ悦楽だ。フレイマーを駆る彼は、そういう考えを持っている。
『燃えろ』
だが、決して火炎放射器の威力やマシンガンが弱い訳では無い。むしろニクス用として調節されたものよりも更に大型であり、その為に装填機構や燃料の精製方法も全て一から一新されている。なら、敵はどうなるか。
フレイマーの通り道に転がる焼け焦げたエイリアンの躯。それこそが証明となっていた。そして、フレイマーを止めるべく更に合流し、エーテルガンを向けるエイリアンの小隊が現れる。
『次だ』
敵を見つめるフレイマー。虐殺は留まるところを知らない。火力と機動力を併せ持つ機体の恐ろしさは、人類がいちばん良く知っているのだから。
ガシン、ガシン……恐怖の足音が聞こえてくる。逆関節型のコアドニクス『ブリッツ』を与えられた彼女に取って、自らの足音は敵へ恐れを抱かせるものだ。
出会い頭に強力なロケット砲を撃ち込み、エイリアンを一撃で無力化する。グレネードと違い、派手な爆発もなければ、ロックオンしないため当てるには技量が伴う。
それが? と、例え実戦にあったとしても彼女はそう言うのだ。それは彼女がロックオン機能を使わずにロケットの照準を合わせ、そして当てる腕を持っているからだった。
『そこ』
レーダーによって敵が出てくるタイミングが読めていれば、そこにロケット弾を
派手ではない爆発を伴い、コロニストの首は吹き飛ぶ。侵略者のくせに、一丁前に首が飛べば死ぬらしい。彼女に取って敵とは倒すべきターゲットであり、そこに自身の思惑は介在しない。破壊と装填の繰り返しで敵を抹消する。
仕事を冷徹にこなし、味方の作戦を支援する。ウィンディの考えに基づいて言えば、彼女こそが最も『
『完了。オペレータ、次は?』
『サンダーボルト隊の到着を待ってください』
『了解した』
ニクスが点在するα型を蹴散らし、タンクがコロニストを撃ち抜く。歩兵部隊の仕事はなかった。だが、そうと決めつけるのは早計だ。先程、前線に立つ部隊のオペレーターから通信があった。
『こちらレイヴン部隊オペレータです。金色に光るマザーモンスターを確認。α型の女王と推察され、また付近のα型にも少数ながら金色に光る個体が確認されています』
それを聞いた部隊だったが、未知の敵に悲観している様子は無い。むしろこの数なら勝てる、ニクスがついてるから負けない、と。実戦で何が起きるのかわからないのが戦場だが、彼等は慢心していた。
「……金装甲殻種」
俺は呟く。散弾ながら、まるでスナイパーライフルやイプシロンレールガンのような超高速の弾速を持ち、それは酸の酸性というよりは単純な質量による破壊力でこちらの戦力を確実に削り取ってくる。
金色のα型は、ビークルだけでなく歩兵の天敵でもある。接近されれば命は無い。目の前で共に敵を撃っていた味方の上半身が消えていた事もあれば、空を飛ぶウイングダイバーが跡形もなく消えたこともあった。
「金色は危険だ。赤いヤツよりもな」
皆に聞こえるように話す。
『金色……まあ、確かにエリートっぽい気はするな。だが安心しろ! 俺たちにはコアドニクスがある。負けは無い!』
……勝てるのなら良いが。ビークルですら、装甲を容易く貫通する威力だ。水圧だけでリンゴを斬る実験があった。あれを数百倍強めたようなものに、更に酸を追加したものだと思えば、金装甲殻種αの恐ろしさが理解出来るはずだ。
金色のマザーも厄介だ。とにかく固く、とにかく強い。エルギヌスやアーケルス、とにかく色んな敵を倒してきた俺だが、いちばん苦手と考えている相手だ。どれだけ撃ち込んでも絶対に三度は反撃され、そしてその三度に巻き込まれて味方は壊滅し、金色のマザーモンスターが出没した戦場に残るEDF陣営はいつも俺だけだった。
次は守る。絶対に。
サンダーボルト隊の到着と同時に、私たち4機は別方向からα型の群れに攻撃を仕掛ける。通信が入る。オペレータではなく英雄、ストーム1からのものだった。
『聞こえるか? 金に輝くα型がいるはずだ。そいつは最優先で倒せ。ビークルが避けられる弾速じゃない。フェンサーのサイドスラスター移動に追尾して直撃させてくるような奴だ。図体がでかいビークルじゃ避けられないと思え。それと金色のマザーは、とにかく全員で火力を集中させて倒す。今は取り巻きを殲滅するぞ』
「わかった!」
パルスライフルを連続で撃ち込み、特に金のα型を優先して撃破する。前の時間軸で一度、グリムリーパーの高速機動を見た事がある。あれを追尾して当ててくるようなら、避けるより先に倒した方がいい。リニアガンを構え、横方面にブーストダッシュしながら連射する。貫通して多数のα型が巻き込まれていく。
『うぁぁっ!?』
ライノの声だ。側面から金のα型に攻撃を受けたのだろう。凄まじい衝撃を受けているのか、抵抗ができていない様子だ。
『カバー!』
フレイマーが合流し、接近して金色のα型を撃破する。ライノが焦ったような声を出す。
『アーマー・ポイントが半減だと? なんて化け物だ…』
『まだ来るぞ。構えろ!!』
四脚とタンクのコンビ、砲台と撹乱役に別れる事で効率的に敵を倒している。私はというと、α型を倒しながらも敵に追われている。
イクシードオービットを展開し、レーザーの光条が敵を貫くものの、数は減らない。高速で移動していた機体がビル壁にぶつかったのを確認して、私はそれを足蹴に飛び上がる。
上空からパルスライフルとイクシードオービット、ライフルの同時射撃を浴びせる。FCSの誘導を切ってマニュアルで照準を合わせれば、単体の敵に何発も当ててオーバーキルしてしまう、ということもない。
オービットで至近距離の敵を、ライフルとパルスライフルで中、遠距離の敵を撃てば効率がいい。
敵の一団を壊滅させて味方の援護に向かう。単独で戦闘を続けているブリッツの救出に来た、と思ったのだが…。
とても器用に戦っている。接近してきた普通のα型を腕部リボルバーカノンで撃ち抜き、遠くに見えた金色のα型は飛び上がってロケットを撃ち込み、撃破する。彼女がレイヴンだったらと思うとワクワクする。一度刃を混じえてみたい気もするが、今は仲間だ。
私は後ろから挟撃するように敵を攻撃し、効果的に撃滅していく。後方からマザーモンスターが迫っているような感覚を覚えた。レーダーに一際大きな存在が認識される。
『タンク、ニクス全機、一斉射ァッ!!』
リボルバーカノン、ミサイルポッド、90ミリ滑腔砲、その全てが等しく金のマザーに浴びせられ、あるいは降り注ぐ。甲殻は一部剥がれるがそれでも目立ったダメージは無い。
『信じられない装甲だ!』
『今のを耐える生物がいるのか!?』
『こちらライノ! マザーへの攻撃に加わる!』
『ブリッツ、敵を殲滅。マザーを攻撃する!』
残党処理をしていた私とフレイマーも同じく戦線に加わった。広場を陣取るマザーと、ビル街を抜けて四方から射撃するEDFサンダーボルト隊の、命をかけた合戦だ。
『ロケット砲、フルバースト!!』
ブリッツのロケット6門から、大型のロケット弾が同時に放たれていく。凄まじい爆風の嵐がマザーを覆い尽くすが、レーダーから反応は消えない。マザーが体勢を替え、その臀部から酸を噴出させる。ターゲットは最も接近してマシンガンを撃っていたフレイマーだった。
『避けろ!』
『な! ……うおっ!?』
既のところで躱した……いや、よく見れば右前脚の先端が融解し、焼け焦げている。
『なんて酸だ……まともに浴びたら死ぬぞ……』
どうやら金色のマザーは、普通のマザーと比べても恐ろしく強い酸を持っているらしい。それだけでなく装甲も機動性も上。完全上位互換と言っても良いようだ。
『こちらブリッツ、ロケットを撃ち尽くした。接近してリボルバーカノンで攻撃する!!』
『ライノ! グレネード、ミドルミサイル発射!』
タンク型のライノから大型の榴弾砲とミサイルが放たれる。マザーの甲殻が剥げ、頭部の肉が顕になる。
『あそこを狙え、甲殻が落ちた部分だ!』
『歩兵部隊、全員射撃!』
『ビークル隊は全弾くれてやれ!!』
レイヴン部隊の奮戦によって弱点が露出したマザーへ、全ての部隊が集中砲火を浴びせる。マザーはもはや虫の息だったが、それでもまだ抵抗せんと、私に向けて酸を吐き出した。後方には誰もいない。安心して避けられる。
リニアガンを折り畳んでレールガンを構え、チャージする。
『グレネード、装填完了!』
レールガンの光が一際大きく輝き、それと同時にグレネードが発射される。
『グレネード次弾、発射!』
『レールガン、ファイア!』
私のレールガンとほぼ同時に撃たれたグレネードは、レールガンが付近の甲殻ごとマザーモンスターの頭部を焼き、そして二門のグレネードランチャーが直撃して大きく吹き飛び、死骸が街に落下する。大きな地響きを残して、マザーは息絶えた。
『……やった、のか?』
『あれを犠牲無しで……よくぞ……』
「か、勝った……焦った……」
勝利の余韻よりも、焦燥感からの疲れが私たちを襲っていた。基地に帰って休みたい……。
と思っていたところで、秘匿通信が入る。全てのレンジからの通信を切断し、その秘匿通信からの内容に注目する。
『聞こえているか? 私だ、プロフェッサーだ。昨日ぶりだな、ウィンディ少尉、ストーム1』
……通信相手はプロフェッサーだった。この秘匿通信には私とストーム1、そしてプロフェッサーの3人しかいないようだ。
『第6世代型のビークルを送った。役に立っているか?』
「あぁ、今ちょうど役に立ったよ」
「あの金マザーモンスターを被害無しで倒したと言えば、わかりやすいか? ついでに言えば、俺の出番は無かった。最高の兵器だ」
『それは……役に立っているようだな。よかった』
プロフェッサーの小さい笑いが私たちを和ませた。
『聞いて欲しいんだが、実は第6世代型ビークルは十分なテストをする余裕がなかった。最低限の安定性テストのみで前線に送ってしまうのが少し不安だったが……杞憂だったようだな。機体構想時点でかなり優秀だったんだろう』
火力、装甲、機動力。それらの役割を分割できたコアドニクス構想は、事実優秀だった。プロフェッサーの考え通りに動けていたのも大きいし、パイロットが冷静に動ける者だったのもある。
『これからは先日のように直接会うのが難しくなる。伝えたい事があれば、この周波数で連絡してきて欲しい。電話だと通信履歴を探知される。もう頭がおかしくなったと思われてラボから離されるのは……ふっ、御免だ』
プロフェッサーは鼻で笑う。経験があったのだろう。
『それじゃあ、切るぞ。役に立ててよかった』
「ありがとね、プロフェッサー」
通信が終了する。ストーム1も同じ気持ちだったろう。一瞬で装甲を融解させてくるような化け物相手に無傷とはいかないものの、死者を出さずに生き残れた。それだけでコアドニクスの存在価値はある。
『ミッション完了ですっ! お疲れ様でした、少尉!』
オペレータが声をかけてくる。本当に疲れた……。体力的な疲れというよりは、当たる=死という精神的な疲れによるものだ。
「帰ったらシャワーね……それとご飯、それから……」
『はい、手配しますっ!』
私の頭はもう、帰還したあとの事しか考えていなかった。油断と同時に腹の音が鳴って、皆に笑われてしまった。……無念。
プロフェッサーがウィンディと彼女の駆る母体となるACから着想を得たもの。コアごとに装備や脚部を変更して作戦に適合したアセンブルで出撃できるコア構想を打ち出し、先進技術研究部内の全てのレーンを打ち切ってまで急ピッチで開発、生産した機体。試作型として10機のコアドニクスが生産され、3機が欧州方面へ、4機が北米方面へ、そして残る3機を極東で運用している。まだ実験段階にあるものの、既にその戦果は旧来のニクスB型を上回りつつある。
コアドニクス『ライノ』
アーマード・コア運用における装甲特化型のタンクタイプを模したコアドニクス。ライノは開発ネームであり、タンク型全てがライノというわけではない。最も目を引くのは腕部に搭載された武器腕型のグレネードランチャーである。120ミリ榴弾砲を発射するグレネードランチャー二門は、大多数の敵を一撃で仕留めるほどの威力を持つ。副装備として装弾数に特化したショルダーリボルバーカノン、ニクス型よりも一回り強化されたミドルミサイルがある。
コアドニクス『ブリッツ』
アーマード・コア運用における生存能力特化型の逆関節タイプを模したコアドニクス。ブリッツもまた開発コードの為、全ての逆関節型がブリッツと呼ばれているわけではない。副兵装として腕部に搭載したアームマウント型リボルバーカノンによる近接防御を行うほか、大型の敵に対し最も効力を発揮するのが、ショルダーユニットとして装備された6門の大型ロケットランチャー群である。それぞれに16発ずつ装填可能であり、全弾発射時の火力は圧巻。
コアドニクス『フレイマー』
火炎放射器とマシンガン、ニクス用小型ミサイルを二基搭載した、四脚型のコアドニクス。機動力に特化しており高い基礎性能を持つ他、腕部武装もニクス用と比べて大型化しており、取り回しに難はあるものの、威力の高さはコアドニクス内でも中位に位置し、高機動型コアドニクスに搭載するには比較的高火力である。マシンガンは口径の大型化とマガジンの大型化を図っており、威力確保と継戦能力の向上を目的として専用に開発され、ニクスに転用予定。
プロフェッサー
遂にコア構想を取り入れた新型ニクスの開発に成功した。第6世代型と銘打ち、更なる改良型を増産する予定のようだが、改善点は定期的にレイヴン部隊からフィードバックされてくるものを使うため、まだまだ戦果を必要としている。今後の課題はタンク型、四脚型以外の脚部で、強力なショルダーユニットを構えずに射撃可能とする技術の開発である、と語っている。ウィンディから言わせればそれは強化人間になれば済む話なのだが、普通に現代の技術力では生きた人間に機械を埋め込む事は不可能に近いので、別の方法を模索中。