地球を防衛する傭兵になりました   作:No.28

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 マルセイユ基地より北東に80kmの地点に、新型船と思われるプライマーの航空機が飛来しました。テレポーションシップよりも大型の船です。驚くべきことに、何らかの方法でレーダーや熱源探知などの索敵網をすり抜けていたらしく、またこの船を事前に撃墜する方法はありませんでした。

 既に市街地の大半が蹂躙され、その時点で防衛に当たっていた部隊は全滅しました。マルセイユ基地にて防衛網を構築。生存した市民の避難を助けてください。




四話 銀白の船団

 

 

 

 もう間もなく戦場となるだろうマルセイユ基地北部。その平野に展開していた防衛部隊は、士気こそ高まっているものの、少なくない数の兵士が新たな敵の飛来に恐怖していた。

 

「聞いたか? 敵船は、今度は大量のドローンを投下してきているらしい」

「ドローンだって? いや俺は四足歩行のロボットだと聞いたぞ」

「何? 生物じゃないのか?」

 

 噂は噂を呼び、敵の想像の姿は既に不定形なものとなっている。ある者がドローンだと言うと、別の者がいやロボットだと言う。来たる未知の敵に対し、不安感を隠さない彼らはレンジャー二個小隊であり、基地の最前線防衛部隊としてはあまりにも貧弱だった。

 一応とばかりに三両のブラッカー型タンク、一機のニクス・ミサイルガンが展開しているが、どのような数を揃えてくるのかが不明瞭である以上、今の人数や戦力は最低でも今の倍以上は欲しい、というのが全員の見解のようだ。

 

「基地司令に増援要請は?」

「攻撃部隊が広く展開してるらしい。今から呼び戻す頃には全滅してるとよ」

 

 通信を担当していた兵士が悪態をつく。100人のレンジャーが展開していると聞けば十分に思える数なのだが、敵と自陣営の彼我戦力差が未知数である上、敵新兵器の性能さえ把握出来ていない以上は不安だった。

 

「アーマード・コアは? コアド・ニクスは無いのか?」

「どこもかしこも遊撃だと。市街地を取り戻すのに躍起になってるらしい。 笑えるな。帰る場所がなきゃ、いくらすげえ兵器でも腹を空かせて動けなくなるっていうのに」

 

 双眼鏡を構えている兵士は、頼りになる戦力が全く防衛に当たらないという事実にため息をついた。全員がライフルやスナイパーライフルの整備や最終確認をしており、タンクやニクスも来たる戦いに備えて周囲の警戒を怠らない。

 

「コンバットフレーム! 調子は?」

『各部位オールグリーン。X-RAYパルスライフルも問題ない』

『確か、技研の最新型ニクス兵装か。頼もしい』

 

 先鋭的な装備を持つニクス・ミサイルガン。改善が重ねられつつあるX-RAYパルスは、冷却機構の改善によりオーバーヒートがより遠のいたと技術研究部の主任が豪語していたと語るが、いつのパルスライフルと比べて改善されているかは誰も知らない。もしかすると技研内部では常日頃から特殊兵装の開発を行っているのでは? という予想が兵士たちの間で存在している。

 事実それは間違いでは無い。もっとも主任ことプロフェッサーが、文字通り時間を越えた戦いをしていると知っていればの話だが。

 

「敵、来ないな」

『ビビって逃げたんだろ』

「だといいがな。ま、この様子じゃ大したことはないんだろうな」

 

 無論誰もその言葉を真に受けてなどいない。でなければ防衛部隊の出撃していた市街戦において大敗を喫し、敵に市街地の蹂躙を許しなどしていなかったからだ。

 彼らは軽口を叩くことで戦闘前の過度の緊張の糸を解そうとしていただけである。

 

「……! レーダーに反応!」

「来たか……タンクは戦列を組め! 歩兵はAFVの後方に広く展開!!」

 

『こちらニクス、ミサイルロック射程に敵を捉えた! 攻撃するか?』

「構わん! 既に交戦許可は降りてるんだ、派手にぶちかませ!」

 

 了解、というニクスパイロットの返事と同時に、フルロックされた小型ミサイル弾頭が斜め上に6発×2セット、12発射出され、それらは丘を越えた向こう側の敵部隊に着弾する。

 

『命中、命中!!』

「いいぞ、滑り出しは好調だ!」

 

 レーダーの敵反応にいくつかの穴が空いた。効果的に攻撃できている証拠だった。確かに数を減らし、効果も確認できていた。しかしそれは、さらなる後続の部隊によって埋まった穴と共に、丘を乗り越えて姿を現した。

 

 均衡の釣り合わない不安定な脚部に、それこそ不安定という言葉が似合う白い球状の頭部。腕部から伸びる赤い刃物は、ローコストで高い殺傷能力を持つ、恐ろしい武器だ。

 だが、何よりも恐ろしかったのは────

 

「ま……待て待て待て!!」

「信じられん……なんて数だ!!」

 

『怪物よりもずっと多い……新型船は輸送船だったのか!』

「ひ、退こう! 基地の味方と共同で戦うべきだ!!」

 

 ──その味方と比べてもあまりに違いすぎる数であった。

 

 混乱をきたした前線は戦略的撤退を提案するが、中隊長の指示により却下される。

 

「ダメだ、基地には逃げてきた市民がいる! ここで踏み止まるぞ! スナイパー、やれ!!」

「もうやってる! くそ、まるで装甲があるみたいだ!!」

 

 狙撃兵が次々に敵兵器を攻撃するが、怪物よりも頑丈にできているのかその数を大きく減らすには至っていない。集中攻撃によって一人の放った弾丸が装甲を破壊すると、血飛沫が周囲に振り撒かれた。

 

「なっ!?」

「ロボットじゃねぇ……生物だ!!」

『アンドロイドってやつか!? 不気味な……歩兵部隊、敵は任せる! こっちは盾になってやる!!』

 

 ブラッカーE2が前進すると、砲身から120mmハイ・エクスプローシブ弾が発射され、殆ど直線的な弾道を伴ってアンドロイド軍団の先頭に着弾する。激しい爆発と水色のおぞましい鮮血が辺りに散らばり、付近の敵の装甲も破壊する。

 

「射撃開始!」

「クソ、死ねっ!!」

『うわぁぁぁ! 来るな来るなっ!!』

 

 ブラッカーE2の攻撃をすり抜けてきたアンドロイドの一部が、戦車を素通りして歩兵に迫ってくる。恐慌状態に陥った兵士も、自らを奮い立たせる兵士も、やる事は同じく眼前の敵を撃つことだった。広大な平原で約100の歩兵が織り成す超過密な弾幕は、確かにアンドロイドをものの数瞬で撃破せしめる火力を持っていた。だが問題は、相手の数であった。

 

「レーダーが故障してんじゃねえのか!? 何だこの数は!」

『撃て! アンドロイドを近づけるな!!』

 

 ブラッカーE2が後退しながら敵の群れに砲弾をぶつける。同じように歩兵部隊も後退を続け、彼らを支援するようにニクス・ミサイルガンの小型ミサイルとX-RAYパルスライフルの射撃が敵を穿つ。特にX-RAYパルスライフルの火力は凄まじく、実体弾であったなら敵を数体は貫通しそうな勢いである。

 

「弾が切れた、誰かマガジンをくれ!」

「最後の一個だ、大事に使え!」

 

「狙撃銃はもう役に立たん! 予備兵装に切り替えろ!」

 

 弾薬の枯渇しかけた戦線へと戻るように、狙撃兵達がアサルトライフルPA-11LSを手に駆け寄ってくる。

 

「射撃初めェ!」

 

 弾幕は更に濃密になっていくが、敵の数も更に増していく。火力か数か、どちらかが勝るだろう、まさにいたちごっこであった。

 ニクスのパルスライフルが戦線を支え、ブラッカーE2の120mmHE弾が敵を押し退け、歩兵部隊のライフル射撃が撃ち漏らしを退ける。しかし、そんな完璧に思える火力編成をただの数で押し返すように、敵の数は増えていく一方だった。たちが悪いのが回り込むように移動してくる個体で、これの対処が為に数名の歩兵が意識を割かねばならず、戦線は徐々に徐々にと崩壊しつつあった。

 

「新入り、後方にあるZE-GUNオートタレットを起動してこい! あれを出せ!」

「隊長、でもあれは戦時特例以外では使用不可と……」

「馬鹿野郎、今がその特例だろうが! いいから早くやれ、責任は取る!!」

「り、了解しました!!」

 

 後方にも少し高く、そして広がる丘がある。その上から撃ち下ろせるように、12基のZE-GUNオートタレットが設置してある。自動で敵を認識して攻撃するこれは、戦列を組む際にはかなり頼りになる火力を発揮してくれる。足止め能力にも富み、戦時下であれば仲間と同じように頼りになる存在だ。

 

『起動します!』

 

 新兵がオートタレットの戦闘モードをオンにしたらしく、後方から絶え間ないライフル弾の雨が降り注ぐ。単体でアンドロイドを押し返すには至らないが、その真価は歩兵と共に戦ってこそ発揮される。無数の弾丸が、先頭にいるアンドロイドに収束し、破壊する。それを幾度となく繰り返す苦痛な作業で、そして何よりも生き残るための決死の戦いであった。

 

「いいぞ、押してる!!」

 

 誰かの放った一言で戦況を俯瞰し始めたもの達が、各々状況を判断し始め、そして見出した勝機に歓声を上げた。アンドロイドの数は減っており、対するこちらは火力に優っている。弾倉を均等に分けることができたのか、弾切れを危惧していた兵士も射撃を続けている。

 装甲が剥がれ、脳味噌のようなグロテスク極まりない青い肉塊を撃ち砕き、平原を青い血で染め上げていく。この世のものとは思えない光景だ。EDFの勇敢な兵士とはいえ、地獄に迷い込んだかと錯覚するほどである。

 

「こちらフロント2! 側面装甲が酷く損傷した、退却する!」

 

 ブラッカーE2の一両が黒煙を吹き出しながら後退する。その間も内部の車輌人員と協働で砲撃は続けていた。ワイヤーの繋がった有線式のナイフ───例えるならバリスティックナイフと言うべきそれは、弾丸並みの速度で射出され、容易に戦車の装甲を傷付け破壊できる。歩兵が受ければどうなるか、彼らにとっては想像に難くないだろう。

 

「レーダーに新手! どうなってんだ!?」

「あっ、見てください!! 遠方に敵新型船! ……なんてこった、何かを投下しています!!」

「何!?」

 

 目の良い狙撃兵の一人がレーダーに写ったらしい敵の姿を指摘する。銀白色の輸送戦艦は、尾のような部位の先端から速射式のエネルギー弾を連発して攻撃してくる。それと同時にハッチが開き、内部からアンドロイドの上位個体らしき、大型のものが飛び出した。

 瓢箪のような頭をしているそれは、傍から見れば面白可笑しい造形であるが、その両手に構える火砲は、歩兵部隊にとって危険極まりないものだった。発射されたそれを見た兵士の一人が叫ぶ。

 

「エ、エネルギーの榴弾だッ!!」

「こっちはバルカン砲だぞ! 待避、待避ーーっ!!」

「クソッ、戦線は完全に崩壊だ!!」

 

 通常のアンドロイドでさえ大苦戦を強いられる相手だったというのに、ここに来て増援とは、運のない……。中隊長は毒づく。

 新たな戦力の登場だけでも最悪な戦況だというのに、追い討ちをかけるが如くそれらの武装は対多数に特化したものだった。

 

「スナイパー、撃て! 近付けるな!」

「だめだ……甘い弾道じゃ跳弾されちまう! あれが相手じゃ仕留めるのに時間がかかる!」

 

 弧を描くように丸みを帯びた表面に加えて非常に堅牢な装甲も相まって、掠る程度の弾道では、弾丸が弾かれてしまう。狙撃手どころか歩兵にとっては最悪と言ってよい相性だった。

 

 残った二両の戦車が照準を向け、砲を放つ。直径12cmの爆弾と呼ぶべき戦車砲は着弾時即爆発するHE弾だ。

 

『よぉく狙って撃てよ!』

『わかってる…………ファイアッ!!』

『ファイア!』

 

 砲弾が着弾したかと思うと、大型のアンドロイドの頭部は大きく爆発し、手足がちぎれたように弾け飛ぶ。辺りに鮮血をまき散らして沈黙したそれは、爆発物にはある程度弱い事を証明してくれた。だがそれは根本的な問題の解決には至らない。その理由は銀白の船団にあった。

 

「ちくしょう、また来たぞ!」

「数が多いぞ、仕留めきれない!!」

『く、来るな! 下がりやがれッ!!』

 

 戦車が後退し始める。歩兵部隊もそれに釣られるように戦線を下げ始めた。負傷者の数はまだ少なかったこの戦場も、阿鼻叫喚に染まっていく。

 

「う、うわぁぁぁああっ!?」

「死にたくないぃ!! うぎゃああっ!!」

「やられた……足が……ッ」

 

 EN榴弾砲の爆風によって多くの歩兵が吹き飛ばされていく。戦列などあってないようなものだ。再集結などしようとするものなら、する間もなく殲滅される。だが、ここで抵抗を続けなくてはと各々は銃を敵に向ける。

 X-RAYパルスライフルが大型アンドロイドの多くを打ち破っていくが、小型のアンドロイドに肉薄されて大型への攻撃の中止を余儀なくされる。そしてニクスからの攻撃を受けなくなった歩兵の天敵は、自らが狩ると言わんばかりに歩を進め、バルカン砲の乱射で逃げ惑うレンジャー達を一人一人狩っていく。

 

「う、撃たれた! 撃たれたっ!!」

「被弾した、助けてくれ!!」

 

『こちらニクス、援護してくれ!』

『フロント3! 装甲が……うわ、おい! 燃料タンクに引火してるぞ、逃げ───』

 

 敵の戦線に取り残されていたブラッカーE2が、爆発を残して大破した。幸いと言うべきは、その爆発によってそれ相応の数のアンドロイドが誘爆したことぐらいか。それにかすりもしなかったアンドロイドの大半は、まだまだ殺意を持って……あるいは殺意などなく、ただ作業的殺戮に戻ろうとする。

 

「くそったれ、完全に負け戦だ! 援軍は来ないのか!?」

「どこも手が塞がってるんだぞ!? もう手遅れだ!!」

「……くそぉっ!!」

 

 ……いや、と通信士が呟いた。その声に気付いたひと握りの歩兵がレーダーを見る。

 

「こ、後方から友軍反応! ……待て、一部隊? 聞こえるか!? 無茶だ、こっちに来るな! 味方を呼んでくれ!!」

 

『こちら軍曹。今行ったところでお前たちが全滅するだろう。 問題ない、俺たちで処理するぞ!』

『基地の戦力は何をやってやがる!』

 

「無茶だ、逃げろ!!」

 

 通信士の必死の懇願も虚しく、無謀な部隊は戦線へと向かってきている。なんて無謀な真似をと呟くが、心の中には僅かばかりの光明も見えていた。もし腕のいい部隊なら……と。

 そんなわけがあるはずもない、偶然そうだとしてもこの圧倒的不利をどう覆すのか。ビークルがいくら来ても無理だろうに、たった一部隊……5人の分隊が何をできるんだ。

 目の前の大敵を前に、通信士のレンジャーも諦めながら銃を撃ち続けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……無理だぜ、あんな数!」

「無理でもやらないといけない。仲間がいる」

「大丈夫ですよ、()がいますからね!」

 

 部下のその言葉にルーキー……いや、スーパールーキーはこくりと頷く。この男は入隊前から一個人とは思えないほどの功績を挙げている。テレポーションシップの撃墜から敵大部隊の殲滅、新戦力の撃破、マザーシップの撃墜。

 彼は、英雄と呼ぶに相応しい男だった。

 

「軍曹。行きましょう」

「よし……仲間を救うぞ!」

 

 スーパールーキーに背を押され、俺たちは駆け出す。作戦領域まで残り2km。あの丘を越えれば、味方部隊と合流できる。そうしたら、俺たちは仲間をかき集める。スーパールーキーは敵と交戦する。そういう作戦だった。流れ弾で倒れる可能性も充分ある。だがここで勝てる可能性に、スーパールーキーと俺は賭けた。もっともこれで負けるつもりは俺たちにはなかった。

 

 もうじき、突入する事になる。銃声や爆発音がそこかしこから聞こえてくる。敵は余程の大群だろう。だが負けなどいらない。俺たちに要るのは勝利と、そして少しでも多くの生存者だ。

 

『軍曹。間もなく作戦領域だ。戦果を期待する』

「了解だ。 行くぞ!」

 

 本部なりの気遣いに背中を押され、俺たちは丘を乗り越えて混迷を極める烈火の中に足を踏み入れた。

 

「くっ、そこらじゅう敵だらけだ!」

「こんな事なら基地で寝てるんだったぜ!!」

「軽口を叩くぐらいなら撃て!」

 

 部下が弱音を吐き、俺はそれを諌めながら敵へ攻撃する。市街地で確認したアンドロイドと全く同じものだ。有線式ナイフを飛ばすタイプと強力な火砲を持つ大型タイプを確認した。小型のナイフタイプを優先して排除しつつ、大型に肉薄して集中砲火を浴びせる。

 装甲が滑らかで傾斜装甲のように弾丸を跳弾していくが、それはあくまでギリギリを掠めた時だけだ。しっかりと中央を狙って撃てば、装甲が剥がれて内側が顕になる。弱点であるそこを狙い撃ちにすれば、大型とはいえ沈黙させられる。問題は死に際に自壊することで、得体の知れない体液が撒き散らされることだが、残念な事に戦争中にそこまで気にする余裕は無い。

 

「大型を倒した! おい、そこの部隊! 大丈夫か!?」

「あんたは……軍曹か! 助かった、他のやつも頼む!」

「よし、俺たちと来い!」

 

 ひとつの部隊を回収した。事前情報では二つの小隊が左翼右翼にそれぞれ別れ、中隊長の指揮下で交戦をしていたという話だった。今回収できた彼らは右翼側小隊の一個分隊、人数で言えば5人だ。だが人手が増えれば集まる数も多くなる。

 次の敵を攻撃していた味方に加勢し、エリアのアンドロイドを殲滅すると、その部隊も着いてくるように促す。

 

「助かる、チーム1は半壊だ、助けられるやつは助けたい」

「そのつもりだ。続け!」

 

 軍曹という階級は便利なもので、前線で戦いながら積み重ねた功績のおかげで部隊指揮官の立場を維持しながら、ある程度柔軟に立ち回れる。おかげで部隊を自由に動かしながら戦えた。

 

「左側面だ! 撃て!!」

「もうやってるっての! ……あ! 弾、弾!!」

「受け取れ!!」

 

 命の危険を前に猛る者たちが、アンドロイドへ攻撃をする。今回の作戦では歩兵部隊に試作された第六世代とやらの武器を提供しているらしい。射程に富むセミオートライフルや、全体性能の強化されたスナイパーライフル、基礎性能の引き上げられたアサルトライフルが試供品として運用されていた。

 実験兵器の側面も強いだろうそれらは、相当数のアンドロイドが倒れている辺りかなりの戦果をもたらしたようだ。もっとも、プライマーはその戦果を超える物量で押し潰すつもりだったようだが。

 単純な数による侵略戦、それは単純にして一番面倒な戦いだった。どれだけの数や戦力を揃えようと、必ず多くの人死にが出る、嫌な戦いだ。

 

「合流した! グランス2、こっちだ!」

「な、なんだ? 俺たち、助かるのか?」

「そうだ! いいから急げ、やられるぞ!!」

 

 合流できた部隊が、更に別の部隊を引っ張って戻ってくる。俺たちも、部下たちが二部隊引き連れて戻ってきた。

 

「もう一部隊はどこにいる!」

「サーバル3! 応答しろ!! ……ダメです」

 

 生き残ったのはグランス1、2。サーバル1、2の四部隊だけだったようだ。より戦線に近く、敵と多く接触していたらしいサーバル3は、時を待たずして全滅の憂き目を見たという事になる。

 悔しいが、ここで立ち止まれない。右翼側小隊の回収はこれで終了だ。左翼側の部隊の回収を目指す必要がある。俺は無線機に手をかけ、話しかける。

 

「スーパールーキー、敵はどうだ?」

『問題なく処理できてます。それと、味方部隊の回収も』

「……ふっ、さすがだな。俺達も戦線に加わるぞ!」

 

 俺たちの部隊と、スーパールーキーの部隊。数字としては全く増えていないどころか多すぎる欠員に少なすぎる補充員で、むしろマイナスになっている。しかし戦力として考えれば、この戦場に負けは無い。ここにはスーパールーキーがいるのだ。

 

『全部隊は後退して援護、俺が多く敵を倒す』

『助けてくれたのはありがたいが無茶だ!』

 

「いや、そいつの言う通りにしろ。スーパールーキーなら本当にやりかねない」

『軍曹!? しかし……いえ、了解しました』

 

 俺はあいつに信頼を寄せている。単なる強さだけではなく、仲間を出来るだけ守ろうとする高潔さが好ましかったからだ。EDFらしいその振る舞いが、俺が自分に求める理想像の体現だったように思う。

 

「向こうで前線を押してる? 一体何が…」

『す、すげえぞ、あいつ! アンドロイド共を一人で押し返しちまいそうな勢いだ!!』

『ハハッ、いいぞ! 機械人間どもめ、宇宙に帰れ!』

 

 どうやら始まったようだ。スーパールーキーの戦法は一見命を捨てるようでいて、圧倒的な戦果を確実にもたらすやり方だった。レンジャーであるはずなのにまるでフェンサーであるかのような立ち回りをし、敵に肉薄したと思えば被弾を押さえて数を減らす。その手にある武器がどんなものであるかを問わず、的確な使い方をして、敵を殲滅するのだ。その戦い方は非常に洗練されていた。まるで何十年も戦ってきたかのように。

 

 そんな事、有り得るはずがないというのに。

 

「本部、あの船に関する情報は?」

『軍曹……残念だが、プライマーの輸送船という情報以上のことはわかっていない。撃墜も不可能だ。戦況は数ヶ月前……振り出しに戻ったと言わざるを得ない』

 

 作戦司令本部が無念そうに答える。あいつならどうにかしてくれる、俺はそう思ったのに、その具体例が浮かばなかった。テレポーションシップなら、船体下部に潜り込んで弱点を攻撃すればよかった。だがあの船は? 

 銀白の船は悠々と空を飛び続ける。落ちる様子は無い。あいつにも手の出しようがなかったのだろう。

 

『生き残ったぞ……う、うぉぉぉぉっ!!!』

『や、やった! やったぞ!!』

『生きてる……俺、生きてるのか……?』

 

「アンドロイドの殲滅を確認……凄い戦果だ……」

『船の落とし方はわからないままだ。だがそれでも、アンドロイドの部隊を正面から打ち破ったことは勲章に値するだろう。よくやった』

 

 あの船が逃げていくのを、俺やあいつは黙って見ていることしかできなかった。その役割も知らないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 戦勝、というわけではないが、勝利と生存の喜びを分かち合うべく、マルセイユ所属歩兵中隊は救援に来てくれた軍曹たちの部隊を囲んで食事をしていた。

 

「今日の英雄たちに乾杯!」

「イヤッホーーーッ!!」

 

 負傷者を含めない49人が、広場の一室で食事会を開いている。出撃手当てを食事や酒類に割いただけの簡単なものだが、それでも俺にとってはご馳走だった。最もまともな食事を摂れるのが戦時中とは、なんとも皮肉な話だが。

 

「あれ? あのスーパーマンはどこにいった?」

「お、いたいた。 どうしたんだよ、俺達の英雄! これ全部お前の為にみんなで買ったんだぜ?」

 

 レンジャーが手を伸ばした先にあるテーブルの上には、ずらりと食品が並んでいる。スナック菓子やファストフードだけでなく、レトルトのハンバーグや、終戦後は絶対に見られないステーキまである。

 

「あんたのおかげでほとんどのやつが助かったんだ。半分のやつが無傷で生き延びた。まさに英雄だよ」

「………そうか」

 

 俺は俺に出来る事をした。仲間を助けるのは当然のことで、今回はそれがたまたま派兵されていた欧州基地の仲間たちの事だった、それだけの話だ。

 

「故郷に家族を残してきてる。助かってよかったよ」

「俺も兄弟がこの基地に勤務しているんだ。次も生き延びようぜ」

 

 酔いが回って来たレンジャーたちは、その家族や友人、守りたい人々の話をし始める。普段は個を隠し群として従軍する彼らも、ついポロリと漏らすことはある。この酒の場においては、そういう事だった。

 

「あの白い船。落とせると思うか?」

「当然だ。解析が進めば落とせる。テレポーションシップも、マザーシップだって撃墜したんだぞ。不可能は無い」

 

 かつて、人類は核によって居住スペースの半数を失った。そして過去改変を目論むプライマーの後を追い、五年の歴史をやり直した。化学兵器によって地上のプライマー諸共破滅し、またやり直した。半数の基地が壊滅し、もう一度やり直した。核攻撃能力を失って殲滅戦となり、更にやり直した。人口の二割を失ってから五年を経て一割以下になった。そしてまた……。

 

 それを知っているものはここにいない。ここで生き残った人間の、何人が本当に最後まで生き延び続けられるのか。そんなことを考えながら食う食事は、もう味がしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本部、応答願います。本部、応答願います。こちらウィンディ少尉』

「ウィンディ少尉か、作戦はどうなった!」

 

『敵新型船追撃任務は失敗。五機撃墜しましたが、残る二機には逃げられました……』

「なに? 落とせたというのか!」

『はい。AC規格の武装であれば充分、弱点部位への攻撃で破壊可能です』

「弱点があるのか! 帰還後すぐにデータを確認、情報部少佐へ転送する。今は帰還してくれ。よくやった!」

 

 

 






 アーマード・コア

 作戦指令本部からの指示により、新型船撃墜のため極東から欧州へと派遣。銀白の船を七隻中五隻破壊する戦果を挙げる。


 マルセイユ基地

 軍曹の隊とACを迎え、プライマーの新戦力を攻撃。
 市街防衛部隊は壊滅し、市街地もその殆どを失っていたものの、新型船と投下されたアンドロイド双方において、90%以上の撃破に成功し、同時に派遣していた他の『レイヴン』の活躍で、陥落した市街地を奪還する。特に農耕地の奪還による食料供給率の増加が功を奏し、士気が高い。



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