地球を防衛する傭兵になりました   作:No.28

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 かいせん。









四話 落日

 

 

 八日目。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きろアンヴィル2-1! 急いでACを出してくれ!」

「んぅ…な、何? ……AC?!」

 

 ACを動かせ、という声で私は起きた。起こしに来たのは左腕を怪我したレンジャー隊員だった。レンジャーは息も絶え絶えといった様子で、そのまますぐに倒れ、苦しそうに呻いていた。

 

 よく聞けば、遠くの方で銃声が鳴り響いてる。ただ事ではないらしい。

 パイロットスーツはお風呂に入る時以外はずっと着ているので、着替えの時間は取らなくて済んだ。急いで部屋を飛び出し、A棟の玄関を出る。

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 そこには、凄まじい光景が広がっていた。壁や土嚢を盾に銃撃戦を繰り広げるレンジャー部隊や、レーザー兵器を手に飛翔するウィングダイバー。

 彼等が相手にしているのは、以前見た巨大な蟻だった。

 

「あいつら、また……」

 

 

 殆どの隊員が市街地などでの警備などに出払っていたり、そもそも休暇を取っていたりという現状らしく、迎撃に出ている隊員はおおよそ80数名。レンジャーチームが五部隊、ウィングダイバーチームが三部隊だった。

 だが、隊長を表す赤いヘルメットの数に比べて、普通のヘルメットを被ったレンジャーやウィングダイバーの隊員の姿は明らかに少ない。恐らく迎撃戦闘中に倒れてしまったのだろう。注視すれば、倒れているレンジャー隊員やウィングダイバー隊員が、基地の外にいた。もうピクリとも動いていない。

 

 急いで愛機の下に走ると、愛機の影になっていて見えなかった場所で狙撃を繰り返すレンジャーが居た。ハンマーチームだった。ハンマーチームリーダーは私を見つけると駆け寄ってきて安堵したように言う。だが言葉は私を急かしていた。

 

 

「良いところに来たアンヴィル2-1! 早いとこACを起動してくれないか? レンジャーだけじゃ抑えきれん、もう何人もやられてる!」

「分かった!」

 

 頷き、私は愛機によじ登る。 コア上部に到着してコクピットを開き、座席に座る。ACに搭乗すると、すぐに機体の起動に取り掛かった。

 

『メインシステム、通常モードに移行します。おかえりなさい、ストーム』

「コム、緊急事態! 急いで戦闘モードを!」

 

 

 了解しました、という言葉と同時にメインカメラが起動して、モニターにACフレームや武装のパーツ名が羅列されていく。その全てがコントロールシステムやFCSに接続され、起動の完了を合図した。

 オールグリーンだ。

 

「アンヴィル2-1、起動! 付近のレンジャーは下がって、援護を! ダイバーチームはレンジャーの護衛!」

『了解した』『OK!』

 

 基地の外部で戦闘を続けていた彼等は、ACの起動を確認し次第酸で溶かされたフェンスやゲートをくぐって基地の内側に逃げ込み、敵を抑える。

 

 私は基地の外へ飛び出し、チェインガンを掃射した。脚部を地面に固定し、連続して放つ大口径弾は、蟻の甲殻を一瞬で貫き、即死させる。横薙ぎに砲身を向ければ、その着弾点にいる蟻は脚なり胴体なりに弾丸を受け、瀕死か行動不能、もしくは死んだ。

 

 しかし、恐るべきはその多さだ。既に二十匹は倒したはずなのに、蟻たちの遠方から次々と敵が湧いてきている。

 

『い、一体こいつら、どこに潜んでやがったんだ!』

『見ろ!後ろからも来てる!挟撃されてるぞ!!』

『くそっ!あっちはアンヴィル2-1に任せろ!俺達は西の敵を抑えるぞ!!』

 

 無線通信から聞こえてくる音声が言うに、私の防衛している場所とは真反対の位置にも蟻の群れが現れたらしい。レンジャーチームの足音と、それのすぐ後に射撃音が鳴り響いていた。

 私もこちらの敵を単独で抑える必要がある。ロックオンが間に合わない数だが、それは足止めすれば良いだけの事。レーザーブレードをパージしてハンガーユニットからハンドガンを取り出し、近い敵を撃ちながらミサイルを構え、敵をロックサイト内に捉えて小型ミサイルを六発全て射出する。

 

 しっかり全て着弾、命中したが、敵の数が多すぎるせいで効果はあまり見られない。

 

「チッ」 舌打ちしながら横にブーストし、敵をハンドガンとENマシンガンで撃ち続ける。その間も敵は私に追いすがり、酸を吹きかけようとしてくる。

 数、機動力、繁殖力。恐らくは、どれをとってもAMIDAの上位互換だろう。

 

『撃て!撃ち続けろ!』

『フェンサーチームが来るまで持ち堪えるんだ!』

『接近された!助けてく……うわぁぁぁぁっ!?』

 

『くそったれ、一人やられたぞ!』

 

 防衛部隊もかなり苦戦しているらしい。早々に殲滅しなくてはいけなかった。続けてチェインガンを向け弾幕を張り、ハンドガンで近寄る敵の頭部をぶち抜く。

 

 やはり、こういった数で攻めてくる相手には連射系の武装が有効か。そうと決まれば、チェインガンはリロード時間以外の全てを弾丸の発射に費やさせ、左も弾が尽きるまでハンドガンで撃ち続ける。

 

 

 

『こちら基地司令本部!各隊員は地下へ避難せよ!コンバットフレーム・ニクス隊、及びACは、撤退する部隊の足止めを行なえ!』

 

 その言葉と同時に、地下から十一機ものニクスが姿を見せる。うち五機は見知ったカラーリングだった。

 

『こちらアンヴィルチーム。作戦開始!』

『アンヴィル2-1、よく耐えてくれた!俺達も戦う!』

 

『バルダーチーム、作戦開始。敵を攻撃せよ!』

 

 アンヴィルチームの面々と、見た事のないニクス隊が戦闘を開始する。その威力はまさに圧巻で、私の前方にいた蟻はもちろん、後方にいた敵の大群も、バルダーチーム六機だけで凄まじい弾幕を展開し、既に4分の1ほど撃破している。

 

『ACは強いが、絶対じゃない。仲間を頼れ』

『俺達がついている、背中は守ってやる』

 

 アンヴィルリーダーとバルダーリーダーの二人が声をかけてくれた。私もその声に自身を奮い立たせ、上空に跳躍する。弾幕の邪魔にならないよう、上からミサイルを乱射させて援護した。ミサイルは全弾独特の軌道を描きながら敵の群れに着弾して、爆風によって何匹かを道連れに爆炎として消えていく。

 

 バルダーチームの方の敵にもミサイルを撃ち込み、殲滅を手助けする。六発の小型ミサイルは、マルチロックによって全く別の敵をロックし、同じくバラバラに飛翔していき、着弾と同時に爆ぜる。

 

 ミサイルをパージする頃には、既に敵の数はこちらの数よりも少なくなっていた。ニクス隊が残った相手にリボルバーカノンを撃ち込んで殲滅していく。

 私もニクスに続き、弾数残りわずかとなったハンドガンを全て撃ち切る。残り二体になった蟻の軍団を、チェインガンの横薙ぎ連射で薙ぎ払った。

 

 最後に戦場を支配したのは私たちだった。

 

 

 

 

 

 

『凄いな、あれがACか』

『な、凄いだろう?』

 

 降り立った時には既に戦闘は終わっていて、両チームが私の話をしているところだった。

 

「みんな、無事?」

『こちらレンジャー『バンカー』全滅は免れた』

『ウィングダイバー『レイニア』被害多数。生存者6名』

 

 全員が被害状況と生存者を報告していく。迎撃部隊合計19部隊中、11部隊が壊滅状態、残る8部隊も一人二人死亡しており、開戦間もなくの奇襲が原因で殆どが死傷したのだという。

 

「深刻か……。 部隊を再編しないと。司令は?」

『こちら基地司令。私とこの建物にいた士官12名は無事だ。全員、感謝する。

 

 ………しかし、事態は深刻だ。既に戦闘中の部隊はほぼ壊滅、残った部隊は地下にいるが、通信が遮断されている。恐らく地下で通信する為の受信機に何らかの不備があったのだろう。

 

 ニクス隊、地下では誰か見かけたか?』

 

『いえ、誰も。私達とバルダーチームが合流して地上に出ましたが、その間は誰も見ていません』

 

『妙だ。フェンサーチームが地下で待機中だったはずだ。なぜ出てこない? そもそも、通信が途絶されたのなら出てくれば良いはず。出れない理由があるのか……?』

 

「私じゃその中には入れない」

 

 入口を見ながら言う。入口の大きさは縦3メートル、横8メートルほど。例えACを斜めにしたって入れないサイズだ。ニクスならギリギリ入れる大きさに設計されているらしい。

 基地司令は、しかし私のその疑問を払拭する。

 

『安心しろ、車両搬送用のエレベーターがある。そこならACも内部へ入り込めるし、中の通路もACが活動するには充分な大きさだ』

 

「なるほど、それなら──」

 

『うむ』

 

 司令が言った。

 

『ACによる内部探査を行う。アンヴィル2-1は、内部の兵士たちの所在を確認。生存を確認次第護衛しながら地上へ戻ってこい』

 

「了解………あ」

 

 ENマシンガンの弾数に余裕が無い。ハンドガンに至っては使い切っており、先程の防衛戦でだいぶ消耗を重ねている。

 

「チッ、別のにしたら良かったなぁ。……弾薬がありません。こっちの武器じゃ、間違いなく使用する弾薬の互換性は無い。武装をそのまま流用しないと……」

 

「なるほど……わかった。倉庫に予備のニクスがあるはずだ。火炎放射器とリボルバーカノンを搭載している。それをエンジニアに頼んでACに搭載しよう」

 

「助かります」

 

 感謝を伝えて、エンジニアと一緒に地上の倉庫前に到着する。エンジニアがシャッターを開き、中に入ると、倉庫内からニクスが一機歩いて出てきた。ニクスの主武装を、エンジニア達が建物の工事に使われるような鉄骨の足場に乗って取り外していく。外れた武装はヘリコプターによって持ち上げられ、私の機体のマニピュレータに取り付けられていく。ニクスのサイズはACの半分程度だが、その武装は大敵に対する為に巨大に設計されていたらしいのが、功を奏してくれた。

 

「凄い、しっかりと嵌ってる」

 

 AC用マシンガン等と比べても遜色ないサイズ感だ。ニクスのリボルバーカノンを見ていた限り、火力も継戦能力も高そうな武装だ。ベルト給弾式になっており、右腕側面に弾薬のベルトがたんまりと詰まっているらしい。地下の探索には充分だろう。少し遅れて左腕へ取り付けられた火炎放射器も、ACやガードメカに採用される対AC用火炎放射器と比べても遜色ない、大型のものだ。

 

「作業は終わりだ。よろしく頼んだぞ!」

 

 親指を立てて合図するエンジニアの彼をカメラで一瞥し、私は案内されたエレベーターの上に乗った。司令から通信が入る。

 

『そちらに地下の地図情報を送った。フェンサー部隊がいると思われるポイントは二箇所。我々の方で既にマークしている。そこを調査し、もし居なかった場合は速やかに帰還してくれ』

 

 ブリーフィングを終了すると同時に、マッピング機能のない頭部に地図が表示される。私のACのヘッドパーツ、通称ワスプIIにはマッピング機能と呼ばれる、通った場所の付近をソナーで探知して地図情報に登録する機能が排除されている。

 これは開発元のミラージュが、対ACよりもMTやガードメカといったもので防御を固める施設への攻撃を主軸に置いた機体を開発していたため、という経緯がある。

 

 地上のレンジャー隊員に合図を送ってエレベーターを降下させる。視界がどんどん地下へ進んでいく中、四人のレンジャーとコンバットフレームが一機降りてきた。

 

『我々はここを保持する。君は内部調査を頼む』

『俺たちが守っておくから、あいつらを頼むぜ』

 

 コアを傾けてそちらをカメラに収め、正面に向き直り前進した。

 

 

 

 

 

 

 内部は暗い。警報装置と一緒に機能している警告灯が無ければ暗闇である。もしACの頭部に暗視機能が搭載されていなければ、視界の無い場所を戦う羽目になる。

 過去に一度そういう経験があるから、暗所での戦闘がどれほど危険なものなのかは身に染みている。

 特に、真っ暗闇の中でAMIDAに襲われた時と言ったら、心臓が止まってしまうのではないかと思えるほど激しい動悸だったのを覚えている。そんな事があったから、多少他の頭部に見劣りしたとしても暗視機能を搭載した頭部は絶対に外さなかった。

 

「レーダーに敵の反応は無し、か。フェンサーチーム応答せよ。そこにいるの?」

 

 問いかけに応じる声は無い、と思った。突然凄まじいノイズに襲われ、思わず耳を塞ごうとするが、無線によく耳を傾ければ、僅かに、微かに話す声が聞こえてきた。

 

『………こえ……るか……こちら……ンサーチ……』

 

「っ! フェンサーチーム、近くにいるの!?」

 

 途切れ途切れの通信を聞いて、私は通信機に向かって問う。

 

『こち……交戦ちゅ……支援が……要だ……』

 

 交戦、支援という言葉だけがかろうじて聞こえる。それ以降はノイズと激しい雑音で何も聞こえず、恐らくだが先程のアリと戦っているのではないかと嫌でも想像させた。

 ここに来て一度もフェンサーの姿を見た事がないが、フェンサー(剣士)というぐらいだし、多分ファンタジーの剣士のような身軽な格好なのだろう。

 

 暗がりの奥に、巨大な影が見えた。それがアリのように蠢いているのを見て、躊躇いなくリボルバーカノンを連射する。大口径の高初速弾頭は瞬く間にアリを破壊する。続けてニ、三体が襲いかかるが、遠方のアリを同じくリボルバーカノンで薙ぎ払ったあと、近いアリを左手の火炎放射器で焼き落とした。

 

「敵の数が多くなってきた……」

 

 一段落ついてからレーダーを見る。五秒おき程度の更新速度だが、敵生態反応を示す赤いポイントの数が急激に増している地点がある。

 そこにいるのだろうか?

 

 私はそこに向かう。長い通路を、ブースターに点火して高速で進む。ACのブースターから生み出される高出力と、重量超過という枷から外れた機体のスピードは、人には長い程度の通路など直ぐに突き当たりまで辿り着く。

 

「フェンサーチーム、いるの?」

 

 もう一度無線に問いかける。返答があったが、それには全くノイズが無かった。相手が余程出力の強い受信機を使い始めたか、ECMや電波の悪さに縛られないほどの距離になったということだ。

 

『……女の子? 上にいるニクスはどうなっている!?』

「落ち着いて、こちらはアンヴィル2-1。そちらを救助に来た。レーダーを見るに敵の多いこの部屋に貴方達がいるという事でいいの?」

 

『なるほど……いや、正確にはその奥の弾薬庫で生存者を集めて立てこもっている。この数で交戦すれば、多分全滅だ』

 

 その言葉と同時に、同期されたレーダーマーカーが青いポイントを点々と表示させる。数えなくともわかる程の少人数で、交戦したあとかは不明だが、八人と言ったところか。赤いポイント(つまり敵)の側面を取るように布陣している。

 しかし、私の目の前にある扉のような巨大な壁が、敵への道を阻んでいる。これをどうやって開けるのだろう?

 

「えっと、フェンサーチーム。この隔壁はどうやって開ければいい?」

『なに、知らないのか? 地上勤務組か……待ってろ。その隔壁は一定の階級以上でなければ開かない。つまり、軍曹以上だ』

「軍曹? そちらに軍曹はいるの?」

『俺だ。今から隔壁のロックを解除に向かう。 ……各員、シールドリフレクターと武器のリロードを済ませておけ! 激戦になるぞッ!』

 

 無線越しに、フェンサー達の持っているだろうシールドを動かす、重々しい音が聞こえる。弾帯を装填し直す音や、何か機械が動かされる音。……大分重々しい。

 

『全員、デクスターの装填は済んだな?』

『はい、軍曹!!』

 

『よし、これから死地をくぐり抜けるぞ。 …………隔壁のロックを解除! 各員、俺を援護しろォッ!!』

『うおおぉぉぉああっ!!』

 

 中から重厚な銃声や、何かが勢いよく噴射されるような音が聞こえる。

 

『近い奴から撃て! デクスターじゃ遠くには届かない!』

『側面だ、側面から来るぞッ!』

『数が多すぎる、もっと撃て!!』

 

 更に銃声が重なる。眼前の隔壁が少しずつ開いていくが、その動きは遅々として進まない。

 

『くそ、遅いぞ、どうなってる!?』

『多分アイツらの吐く液体で機関部が少し劣化したんだ!』

『クソッ……開けぇぇぇええッ!!!』

 

 本来ならもう少し早いはずだったのだろう。フェンサーの焦る様な声が聞こえる。

 

『全員来い! 隔壁が開くまでここで耐えるぞ!!』

 

 更に近くで銃の射撃音が聞こえる。もう隔壁のすぐ奥に彼らがいるのだ。ACの武装を全て確認し、そのまま隔壁が開くのを待つ。

 

『開いたぞ! 行け、行け!!』

『な、なんだこれは!?』

 

 フェンサーのひとりがこちらを見て驚愕している。私も驚愕している。フェンサーと言うものだからてっきり身軽な剣士を想像していたのだが、なんと目の前にいるのは重厚な鎧を身に纏った、さながら騎士だ。

 

「フェンサーチーム、よく持ちこたえた。後は私の役割」

『……味方か……! すまんが、後を頼む!!』

 

 フェンサーチームが出口に向かって歩き続ける。私は開き切った隔壁の奥にいる敵を目の前にして、左手の火炎放射器を構えた。

 

 業火が吹き荒れる。リボルバーカノンが火を噴き、次々とアリが蜂の巣になり、吹き飛んでいく。近付いてくる個体を火炎放射器で焼き払いながら、遠い相手をリボルバーカノンの連射で粉々に粉砕する。

 壁や天井を伝って接近しようとする相手に銃を向け、倒し、少し後退して通路で迎え撃つ。フェンサーチームはもう、だいぶ遠くに行ったらしい。ここを戦場にしても誰も怪我をしないわけだ。

 

 ACの基本は、動き回って被弾を抑える事だ。私の機体のように打たれ弱いACであるなら、なおさらの事。しかしながら相手を即座に倒せる場合であるなら、むしろ閉所での戦闘である方が優位に働くのである。

 

「ここから先には通れない。諦めてね」

 

 ACのその性質上、両手に武装を搭載する事で瞬間的な火力が倍増する。制圧力が大きく増すのだ。だからこそACは、攻めの姿勢を崩さず守りを行える。最強の人型汎用兵器、アーマード・コアと呼ばれる所以である。

 

 

 

『凄いぞ、あの機体……ニクスじゃないようだが……』

『聞いたぞ、地上勤務組と話してたヤツが言ってた。ACだかっていうやつだそうだ。話によると、たった一機でニクス五機をあっという間に倒しちまうらしい!』

『なんてこった……あれを量産するつもりなのか、本部は』

『いや、聞いたところだと……()()()からやってきたらしい。こっちの技術じゃまだ造れない代物なんだとさ』

『異世界だと!? 信じられないな……』

 

 

 両手の銃火器が火を噴き終えた頃には、もう敵の姿は見えなかった。部屋の中から通路の外側まで、無数のアリの死骸や体液が四散している。

 

『見ろ、もう殲滅してるぞ!』

『すげぇ……あんなに居たのに』

 

 フェンサーチームの近くへ向かい、護衛する。

 

「他に残った部隊は?」

『俺たちだけだ。みんなバラバラだった時にやられたらしくてな……。 部下達をかき集めてあそこで篭城していたんだ』

 

 運良く集まった八人の中で死傷者は居ない。恐らくかなりの規模の基地だったのだろうが、殆どが死亡してしまったようだった。

 

『そう言えば、軍曹。点呼はどうするんでしょう? 多分俺達、別々の部隊のメンバーだと思うんですが』

『確かに……全員、所属部隊は?』

 

 全員が元々所属していた部隊の名を挙げていく。八人のうち六人が別の部隊の隊員だったらしい。

 

『……やっぱ、新入りは死んじまったのか。あいつまだ入隊して一ヶ月だったのにな……クソッ』

『兄貴……くそったれ……』

『怪物どもめ、よくも仲間を……!』

 

 殆どがバラバラの部隊というだけあってか、やはり死傷者は想定よりも多かったらしい。一瞬で何人も仲間を失った衝撃は大きかったようだ。

 彼らの心情は察するに余りある。裏切られのが常とはいえ、傭兵同士にも仲間意識はあったからわかった。彼らの周囲を悲しみが取り巻いているようにすら見える。

 

「……とにかく離脱しよう。ここは危険だから」

『了解した……。フェンサーチームは以降我が隊『ドーザー』隊に再編。ドーザー隊はそちらに追従する』

 

 集まった各隊の生存者は全員が、軍曹の率いるドーザーチームとして再編された。彼等の後方をゆっくりと歩き、レーダーを見て警戒を続ける。ドーザー隊も通り過ぎる隔壁に銃口を向けたり、頻繁に後方を確認している。

 

『通信、回復しました!』

『司令部、応答願う。こちらドーザーチーム。生存者八名。繰り返す、生存者八名。これより地上へ脱出する』

 

 隊長が無線通信を行う。

 

『司令部よりドーザーチームへ。了解した、出口にレンジャー隊とコンバットフレームが待機している。合流せよ』

『了解』

 

 通信を切って歩き続ける。彼らの背は、生き残ったはずだというのに一敗地に塗れているかのような悲壮ささえ感じさせたのだった……。

 

 

 

 

 

 全員でエレベーターに乗り込み、上昇する。もっとも、自分達より多く生き残っているハズだと思っていたのだろう。フェンサー達を迎えたレンジャー達の表情は暗かった。

 

 フェンサーは、レンジャーと比べても比類無きものと表される程の戦力差があると、レンジャー隊員のひとりが話していた。戦車並みの装甲、戦車並みの火力、戦車以上の汎用性。地上部隊の精鋭とも呼ばれるという彼らが抵抗虚しく殺され、こうまでボロボロになっているという事実が、レンジャー達に希望の薄さを如実に伝えているようだった。

 

『ドーザー隊、だけか。……よく無事だった』

『おいおい、たった八人しか生き残れなかったってのかよ……冗談じゃねぇぞ、クソ!!』

『大丈夫だ、俺達には……まだ、ニクスが、ACがある』

 

「とにかく指示を請おうよ。これからどうしたらいいのか、私達だけじゃわからない」

『確かにそうだ、司令。俺達はどうしたらいい?』

 

 フェンサーの《軍曹》が本部と通信を取る。

 

『こちら基地司令部。 ……今現在を持って、この基地を放棄する。生存している部隊は、現在を持って市街地へ向かい、最寄りの部隊と合流せよ。合流した部隊から順次、市街の防衛に加われ』

 

『…………。 了解。 お前達聞いていたな? 市街地へ向かい、市民の保護を行う。近付いてきた敵は残らず撃破しろ!』

『サー、イエッサー!!』

 

 倉庫から引き出された箱やら何やらから弾帯を補充したり、燃料を補給しているニクス隊。レンジャー部隊も弾倉を交換していて、ビークル操縦免許を持っているレンジャーの数名は破壊を免れた戦車やニクスに搭乗している。

 

『アンヴィル2-1! 君も補充を行うか?』

「あ、お願いしてもいい?」

『了解した。 ACが補充を行う、メカニック!来てくれ』

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 無くなった弾薬を補充してもらう間、私はACから飛び降り、死んだ巨大アリに近付いていた。観察が目的だ。

 

 ……どうにもAMIDAとは似ても似つかない。酸を吐き出し攻撃するという点だけは踏襲しているようだが、それ以外は全くと言っていいほど類似性が見られない。あの可愛らしい見た目と反してこのアリどもは、アリがそのまま大きくなったような見た目で気色が悪かった。

 強いて言えば繁殖するところは似ているが、それさえAMIDAの比ではないだろう。現に襲ってきた敵は数百を優に超える程の数だった。レーダーの殆どが真っ赤に埋め尽くされることなど一切想定されていないはずだ。

 

 キサラギ派の仕業ではない、それはわかった。奴らも無差別な殺人テロは起こさない。自然に繁殖し、自然に増えるのだろうか。

 それも、こんな奴が。

 あまり想像したくない……。

 

 

『アンヴィル2-1、戻ってきてくれ。補充は終わった! これより移動を開始する、追従せよ!!』

 

 観察しているうちに補給が済んだらしい。駆け足でACに戻り、補充が済んだことを確認してFCSをシャットダウンし、システムを通常モードへ手動移行する。AC用パーツであるENマシンガンや小型ミサイル、チェインガンなどパージした武装を回収し終え、積荷を乗せた12台のトラックがニクス隊の後方に従属する。

 

『よし、着いてきてくれ。しばらく行軍になる』

「了解」

 

 歩幅を調節しないと、戦車とかちょっと踏んじゃいそうだなぁ。微調整頑張るか。まあACは徒歩で動けるし、巡航ブーストを使えば長時間の滞空も可能だから平気なんだけどね。

 

 

 私は、数日のあいだお世話になった基地を。足元の部隊全ては、守るべきだった拠点を。それぞれ放棄して旅立つのだった。

 

 

 






 読まなくても良いオマケです。


 生存部隊内訳
 レンジャーチーム

 ハンマーチーム、バンカーチーム、他3チーム

 それぞれ狙撃部隊、対戦車部隊、ライフル部隊。レンジャーとしての役割というのは近、中、遠距離全ての敵に対応する、個ではなく群による統率の取れた攻撃役である。歩兵対歩兵から対車両、対コンバットフレームまで全てに対応すべく、それぞれの役割を持つ部隊がそれぞれの分野でのエキスパートとして厳しい訓練を積む。PA-10を装備する小銃隊、KFF50での狙撃を目的とした狙撃部隊、グラントM31を配備される対戦車猟兵部隊など、その数は多岐に渡る。また、一定以上の階級のレンジャーはビークル操縦ライセンスの取得が許可・推奨される。


 ウイングダイバーチーム

 レイニアチーム、他2チーム

 粒子照射装置であるマグ・ブラスターを配備した、中距離射撃戦に特化したウイングダイバー部隊。ウイングダイバーは遠距離での兵力の削り合いというよりは近距離戦闘における火力の集中を主軸に据えている。戦車をも破壊するプラズマアーク放射銃レイピアや、戦闘用電磁投射装置ライトニング・ボウなどその装備は様々であるが、総じてレンジャーよりも火力に優る反面、選ばれた女性兵士しかウイングダイバーになれないため、その絶対数が少ない難点を抱える。


 フェンサーチーム

 ドーザーチーム(及び併合された他4部隊)

 パワードスケルトンによって装備可能となった重火砲に加え、シールドとバックブースターユニット、そして本体装甲による機動力と装甲の両立を行った、二刀装甲特殊作戦歩兵。役割はレンジャーとさほど変わらないが、銃弾や砲撃に対して脆弱であるレンジャーと違い、火力を集中されても耐えうる強靭な装甲とシールドによる耐久性を活かした強行作戦を可能としている。デクスター自動散弾銃を装備した近接邀撃隊など、装甲を利用した戦闘に力を発揮し、戦車と真っ向から殴り合う唯一の歩兵である。


 コンバットフレーム・ニクスチーム

 アンヴィルチーム、バルダーチーム

 五機編成による、市街地のような狭所での制圧戦闘を目的として開発された二足歩行型特殊ビークル、コンバットフレーム・ニクスは、搭載武装やブースターユニットの換装でその運用方法を大きく変えることで知られている。大型肩部突撃臼砲や複数回転砲身火砲リボルバーカノン、ニクス用大型火炎放射器、マルチミサイル、拡散榴弾砲、グレネードランチャーなど、多岐に渡る武装の数々はニクスの普及を確固たるものとし、地上におけるマルチロールファイターのような運用を可能とした。また激しい戦闘にも耐えうる兵器であることから戦車の次代を担う機動兵器と目されるが、量産には至っていない。
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