地球を防衛する傭兵になりました 作:No.28
せつめいかい。
私は他の隊員に交じって、市民に炊き出しを行っていた。レーションでは市民の腹を満たせないかもしれないという、基地司令の判断である。
「はーい、どうぞー! 受け取った方は3列目に並んでくださーい!」
「列を乱さないでください、順番を守ってください! ……はい、ご協力ありがとうございます!」
「え、あ……え、ど、どぅぞぉー……」
うわぁぁ……明らかに私だけ声出てない……。
いわゆる奉仕活動というものだろう。戦いしか知らない人にこんなことをさせるな、とは言えない。この世界に来てベース229の人達に世話になった以上、そしてEDFの隊員となった以上、私も市民を守る義務がある。
……だからといってこれは、慣れることはないだろう。
「アンヴィル2-1、声が出てないな。緊張してるのか?」
「……実は、そう」
人と関わるのが苦手だ。
私は言い訳を並べ立てて人と関わってこなかった。他者と接点を持ったのはごくわずか。それ以外は殆ど、仲介人を通してのやり取りでしか無かった。苦手なだけかと聞かれればそれまでだが、他者と関わるのを極端に忌避する事に、理由なんて無いようなものだ。あっても、恐らくは忘れている。
「まあ、そういうこともある。こういう時くらい気楽にいたらいい。それに君は
「かわっ………? はあ、ありがとう…?」
誉めそやされたって何も無いのに……。
「お嬢さん、兵隊さんの手伝いかい?」
「えっ?」
炊き出しを手伝いながら雑談していると、既におにぎりを貰い終えたのだろう老人が話しかけてくる。雑談相手の彼は笑顔で離れていく。待って。置いてかないで!
「あ、はい。そんな所です……というか、私も──」
「そうかいそうかい! 偉いねぇ、まだ若いのに……」
お爺さんは私の髪を巻き込むように、頭をくしゃくしゃと撫でてくる。払い除けようか一瞬迷ったが、手が存外に温もりを与えてくれたのに驚いて、気が付けばなされるがままだった。
「俺も昔は兵士だったんだけどねぇ……」
暖かい手を引っ込めてからお爺さんが言う。老齢のレイヴンも珍しくはなかったが、このお爺さんのように歩くのも一苦労といった者はいなかった。平和的な世界だったからこそ見られる人物だろう。
大きな戦いがなければ人は長く生きれる。簡単な理屈だ。
「私も兵士をしています。EDFで……」
「ありゃ、そうだったのかい? 道理でそんな戦闘機乗りみたいな服を着ていると思ったよ」
戦闘機乗りのような服、というのは私が着用する対Gスーツの事だろう。高速移動が常のアーマードコアに搭乗する者の定めとして、Gによる身体への負荷との戦い、というのがある。高機動型ACに搭乗しておいて、戦闘中に気絶しましたでは本末転倒だからだ。
このスーツはそういった負荷を軽減する目的がある。強化人間になったあとは着替えていないが……それは汗のような老廃物が殆ど分泌(流石に下のは出る)されないからであって、面倒だとかそういうのじゃない。ホント。
「私も似たようなものですよ。仲間を守るために、戦っていますから」
「…………懐かしいねぇ」
会話中に最後のおにぎりを配り終え、私はお爺さんを連れて空の弾薬箱を椅子替わりに座らせる。
「懐かしいって?」
「俺も昔は兵士だったんだよ。数十年も前、それはもうでかい戦争があってね。戦ううちに同じ部隊の仲間と仲良くなりゃ、そいつらを守りたいって気持ちになる。大切な友達、戦友だったからね」
そう言ってお爺さんは、ポケットから財布を取り出し、その中から写真をつまみ上げて見せてくる。色の着いていない古めかしい写真には、数十人の兵士たちが肩を組んで写っている。
彼らの後ろには巨大な戦車が写っている。サイズだけなら横向きに寝かせたACぐらいはあるかもしれない。戦艦砲と思える程巨大な砲身が目に留まる。
「六十年式陸上要塞戦車。それが、俺達の乗る
家族、レイヴンがACを自分の半身として扱うのと同じようなものだろうか。お爺さんは感慨深そうにその写真を見つめる。
「俺の孫も、EDFに入隊しとるんだ。こっからずっと東に行った場所にある基地で働いてるんだ。無事だかねぇ……」
彼の孫もEDFの隊員らしい。今戦闘を行っている部隊かもしれない。無事だといいが……。
……あっ、用事を忘れてた。
「お爺さん、ごめんなさい。私、人に呼ばれていて……。もう行かないと」
「おや、そうかい? ごめんね、付き合わせちゃって」
断りを入れて基地に歩いていき、振り返ってお爺さんが可愛らしく手を振るのを見て、思わず微笑み返してしまった。気持ちが温まったのは何年ぶりだろう。
もしかすると、初めてかもしれない。人と話すのが楽しいのなら、もっと話しておけば良かったんだろうか。
話を戻すと、忘れていた用事というのは基地司令に呼ばれていた事だ。一応炊き出しの手伝いをするという報告はしていたのだが、少し時間を取られてしまった。
アウトポスト89。大規模なEDF基地であるこの場所は、駐屯地であるベース型のEDF基地とは違って地下格納施設は、民間人を避難させるためのシェルターしか存在しないらしい。代わりに膨大な数の守備戦力が集まっており、ここが壊滅するのはそうそうありえないのだそう。アウトポスト型の拠点ひとつで5000人近い隊員が待機し、その一部の隊員……つまり1000人近くのEDF隊員が即座に戦闘を行える体制にあるのだという。
長大なフェンスの内側には監視塔とそれに付随する対空機関砲及び機関銃があり、その更に内側には数にして100機に及ぶコンバットフレーム、250両ものブラッカー型タンクがある。直ぐに防衛、或いは攻撃に当たれるように無駄なく人員を配置しているそうだ。
兵士が生活する宿舎がある。そこの渡り廊下を渡ると事務仕事をするための兵舎があり、その二階に基地司令室がある。私はベース229でそれを学んだ。
「失礼しまーす……」
声が小さくなりながらも宿舎の中に入る。いや、EDF隊員のための場所なんだから失礼します、だなんて言う必要はなかった。
そのまま廊下を歩き、渡り廊下のある鉄扉を開く。
「おい」
「ひゃっ……」
声をかけられてつい驚いてしまう。驚かせるなよ!とは叫べないので無言で振り返る。ヘルメットを外しながらもアーマーはそのままで、とりあえず休んでいる。そんな風体の兵士がいた。
「ここは隊員以外立ち入り禁止だ。悪いがそこから出てくれ」
「いや、私もEDFの隊員なんだけど」
「何ぃ? だけどお前、制服も戦闘服も着てないじゃねえか。嘘は通じないぞ」
ここの隊員だろう。証拠がないと証明は難しいか……。申し訳ないが、他の隊員に証明してもらうとしよう。
「じゃあ着いてきて」
「ふん、わかった」
彼が後ろに着いたのを確認して宿舎を出て、ちょうどよく炊き出しを終えた隊員に駆け寄る。彼が私と一緒に戦ったベース229の生き残りのひとりであることは確認済みだ。
「ちょっといい?」
「はいはい、どうしましたか? ……って、アンヴィル2-1。どうしたんだ?」
「いや…………なんか彼が、私がEDF隊員であることを証明できるまで通せない、みたいな事言われて。あなたなら証明できると思ったから」
後ろの兵士は頭をポリポリと書きながら、私が証明するのを待っている。私が話しかけたのはハンマーチームの隊員。ベース229の狙撃部隊、その一人だ。
「あー、まぁ君はまだ18?だったか。 確かにEDF隊員として見るにはちょっとだけ若いからな。 そこのあんた! この子は正真正銘、EDFの兵士だ。現にこの子に何人も仲間を救われてる。嘘だと思うなら、他のベース229の奴らにも聞いて回るといい。コールサインはアンヴィル2-1だと言えば直ぐに教えてくれるだろうよ!!」
「わ、わかった……もういい。疑ってすまなかった。 お前も、わざわざ拘束してしまってすまない。なんの用事かはわからないが、責任は取ろう」
少し頑固なようだったが、折れると存外に素直らしい。彼が頭を下げるのを私は慌てて撤回させる。
「いや、私もこんな見た目だったのが悪いから。それに責任なんていらないよ。多分許してくれるだろうしね」
「そうか……すまん。気を付けてな」
彼とベース229の仲間が敬礼し、手を振っている。私も手を振り返し、宿舎の中から兵舎へ急ごうと、ドアノブに手をかける。ドアノブは鉄製でひんやり冷たく、今の季節にはちょうど良いものだった。渡り廊下の窓ガラスは防弾製だろうか。軍事基地である以上は防弾ガラスなんだろう。
もう一度、反対側のドアノブに手をかけ、押して開く。涼しい空気が入ってくる。気持ちいい……。じゃない、基地司令室に行かないと。突き当たりに階段を見つけ、二階へ行く。
二階に上がると分かりやすく二人が雑談している。もう片方が敬礼すると、片方の制帽を被った人も敬礼を返し、別れて、制帽の人が部屋の中に入っていく。そこの前に立ち、ルームプレートを見ると、やはりここが基地司令室で間違いなさそうだった。2回ノックする。
「アンヴィル2-1です」
「入っていいぞ」
一礼をして入る。
「よく来た。まあ座ってくれ。 ……単刀直入に聞こう。君は未知の異世界から来た、という噂を聞いている。 まことかね?」
「私にとってはよく知る世界でしたが……。 はい、間違いありません。私はこことは違う場所で生まれ育ち、そしてこの世界へ」
丁寧にこちらの世界へ来た時の状況を説明する。司令は制帽を机の上に置き、私から目を逸らして頭を抱える。当然の反応だろう。
「………………。 私はオカルトを信じない。今だって、君と君の乗る……アーマードコアと言ったか。アレを私は、北米総司令部の機密兵器と考えている。敵からの襲撃に備え、最悪の事態を回避するために用意していた決戦兵器のようなものだとな」
「信じられないのも、無理はないでしょう。しかし、AC……アーマードコアの技術は、サンプルなしだとこちらの世界では再現不能である。 そう技師が判断しました」
「技師というのは君達のいたベース229のかね」
「はい。彼らも私達と同じく壊滅したベース229を脱出し、アウトポスト89の部隊と現地で合流し、ここの仮宿舎で休んでいます」
サンプル、というのはとどのつまり私の機体だ。バラしたものを戻せる確証がない、という理由で技師からも私からも、ACを分解して技術解析を行う試みは為されていない。
「委細は把握した。しかし君の機体の武装は、見たところニクス・リボルバーカノンに、ニクス用の火炎放射器……。 独自の装備は?」
「回収できたものは全て回収しています。ミサイル、チェインガン、レーザーブレード、エネルギーマシンガン、格納型マシンガン・ハンドガンなどなど、全てACの武装です」
……基地司令が難しい顔をしている。
「ミサイル、チェインガン、ハンドガンなどはわかる。 だが、レーザーブレードやエネルギーマシンガンというのは? 君のいた世界にも光学兵器があったというのか?」
「光学兵器……つまりEN兵器……ここの辺りは解説すると長くなるのですが、よろしいですか?」
「構わない」
許可を頂いたので、適当な紙とペンを貰って簡単な図を描く。私に絵心はないが、ACパーツは山ほど見てきた。
「……はい。 この人型がACで、この内側にジェネレーターが格納されています。ACは、ジェネレーターからの電力供給を得て動いています」
「燃料は? ガソリンか?」
「燃料電池を使用している、と企業……つまりメーカーからの説明がありますから、燃料電池で間違いないです」
「……つまり、水素と酸素だけか。出力は…………あの巨体を動かせるのだ、相当なものだろうな」
私は頷き、続いて武器の図を描く。それぞれエネルギーマシンガンとレーザーブレード。そしてそれらを繋ぐ腕だ。
「ACの手のひらと武装のグリップパーツには電極が設定されています。これを火器管制システムに接続することで武器としての使用が可能であり、ジェネレーター内コンデンサからの電力供給が可能になっています」
ジェネレーターのイラストからENが供給されていく様子を、分かりやすく矢印を書いて説明する。
「そしてエネルギーマシンガンがエネルギー弾を発射するシステムですが。武器に供給されたエネルギーは、武器内に装着されたカートリッジ内に充填され、何時でも発射可能な状態を維持します。このカートリッジは摩耗が激しい素材ですから、規定数発射すると消耗限界を超えたと見なされ、暴発・故障の危険があるため武装側からシステムがロックダウンし、発射が不可能になります」
武器の上にカートリッジを描き、撃つ表現と同時にカートリッジを塗りつぶして注釈を加える。
つまりは、他の武器と同じようにほぼ無限のエネルギーを使うはずの武器に弾数が設定されている理由というのが《エネルギーを通しやすい素材を使うカートリッジは磨耗が早いため、撃ち切ると壊れるかもしれないから交換が必要になって撃てなくなる》という事である。
私は次の図を描き説明を続ける。
「逆にレーザーブレードの方は簡単です。高出力のレーザー、光というのは、収束させるための技術が無くてはすぐに霧散してしまう。これを逆手に取ったのがレーザーブレードです。出力をわざと可能な限り高め、エネルギー収束機構の搭載量は最低限に絞る事で、短射程高出力のエネルギー型ブレードの生産、運用に至ったという事ですね。逆転の発想で着手されたレーザーブレードの開発は、レーザーライフルやエネルギーマシンガンの開発よりも後だったと聞きます」
ブレードの内部構造を簡単に描く。ブレード射出口のレンズを描き、繋がるようにエネルギーを模した矢印とEN収束機構を描き、レンズ部位からレーザーが放射状に伸びていき、ある一点に到達した際に急速に収束していく様を描いてみせた。
「これらの他にもAC内ラジエータや各部パーツ駆動にエネルギーを食いますがね。頭は生体センサーだったり暗視機能だったり、腕は武器を持つものだったり武器そのものだったりと、多種多様です。脚は脚で多脚型やタンク型もありますから、そのエネルギー消費量も計算に入れる必要がありますね」
そう言った途端、司令がぴくりと反応する。
「……それはつまり、パーツごとに役割が違うということか?」
「え? まあ、そうですが」
そりゃ役割は違うだろうと思う。脚は歩くため、頭は演算処理や映像処理のため、腕は武器マウントのため、コアは追加機構や格納のため。……と言うのは私だけが思っていたらしい。
司令は、私にとって当たり前でも彼らにとっては画期的なアイデアだったもの、それに気付いた、という事だろう。
「違う。 パーツの規格を一定に揃え、組み直す事であらゆる戦局に対応する。今のその説明からはそう読み取れた。間違いないか?」
「はい、間違いないです。ACはパーツを組み替える事で想定される戦場全てに対応可能であるべき。そういった理念で製造される汎用兵器てす」
「なんてこった…………」
基地司令はその私の描いた図を手に取り、まじまじと見つめる。そんなに見られると照れる……なんて呑気な事を考えているのは恐らく私だけだ。彼の中では今凄まじい考えが脳を巡っているのだろう。そしてそれは、すぐに行動に移る事になる。
「少しここにいてくれ。連絡するべきところがある」
「構いません」
私に断って席を立つと、司令は自身の机にある固定電話に手を伸ばし、番号を入力する。すぐに繋がったらしいその相手は、私にわかるはずもないが、内容から読み取ることは出来た。
「先進技術研究主任、こちらはアウトポスト89司令だ。急遽伝えたい事がある。 ……………そうだ、兵器開発技術の根幹を覆しかねない情報だ。彼女に……パイロットに代わりたい。 ……ああ、機体の技術にも精通している」
先進技術研究主任、というと、恐らくはEDFの兵器を作る研究所、開発局の最高権限を持つ人物だろうか? 受話器を私に渡して、司令は言う。
「さっき言った事をもう一度、彼に説明してもらえるか? 手間だと思うが、助けると思って頼むぞ」
「わかりました。 …………もしもし?」
私が声を出すと、少し遅れて返事が来た。
「……幼いな。まだ成人していないのか? まあいい。君が例の、未知の人型兵器を操る隊員か?」
「その認識で間違いはありません」
「そうか。よかった、では聞きたい事がいくつかある」
「どうぞ」
「────聞けば聞くほど信じられないな。燃料電池のみで、そのサイズの兵器を、それも二足歩行兵器を長時間活動可能とする技術など、想像もつかない。が、それは置いておこう。
……君の言っていたパーツ構想。それぞれ頭部、胴部、腕部、脚部に対応する別用途のパーツを生産、それを戦場に合わせてアセンブルし、状況に対応した汎用性を確保する、コア思想……。 全て、考えが及ばなかった」
「何故ですか?」
私が聞くと、主任だという彼は続けた。
「安定性に欠けるんだ。銃火器などでは、砲身や機関部を取り替える事で違う口径に換装したり、機関銃を擲弾銃に換装できるシステム・ウェポン構想が採用される事が稀にある。だが安定性が何より重視される大型兵器、それも高度な技術を用いて製造されるコンバットフレームでは、整合性の不具合の解消を行うことが難しいという結論へ数年前に至ってから、今まで不可能だとされていたんだ。
それを、君のいた別世界……そこではいとも簡単に実現し、それを容易く生産・運用する事さえ可能としていると君が言った。何か技術革新があり、その上で多量に量産し、本来与えられ、運用する側である君ですら、兵器に関する説明を行える。それほど普及した技術に近づくというのは、今後の戦闘においては非常に有意義だ。それも、敵がこちらの裏をかくようなこの状況では」
含みを持たせた物言いに気にかかる部分はあったが、それでもそんなことがどうでも良くなるぐらいの説明を受けた私は脳の中でこの世界の技術力に対して完全とまではいかないが、かなり理解が及んだと思っていいはず。
「では、この世界においてはACを生産することは難しいのですか?」
「難しいと言わざるを得ない。何より今まで存在し得なかった兵器を作る事がどれほど難しいか。もう既存兵器に関する設計思想の見直しを図っているが、上手くいくかは分からない。だが、万事に備えて開発の準備は整えてある。あとは細部の設計を行い、開発を重ねるだけだ」
仕事が早い人らしい。話を聞きながら要点を纏め、既に作図か何かをしていたようだ。
「ありがとう。大きく進歩したと思いたい。……君の階級と、コールサインを教えてくれないか?」
「階級はありません。コールサインはアンヴィル2-1です」
「アンヴィル2-1……アンヴィルチーム……ベース229の所属か。仲間の事は残念だったな……」
検索か何かをかけたのだろう。気を遣ったような言葉をかけてくれる。
「いえ、3分の1ほどは助けられました。ここの仲間はみんな守るつもりです」
私が自信たっぷりで言うと、主任は笑った。馬鹿にするような笑いではなく、感心したような、そんな笑みと言うべきものだった。
「そうか……是非そうしてくれ。アウトポスト89の司令に話を通して、私の携帯電話に直接繋がる電話を用意させる。今後参考にしたい事も浮かぶかもしれない。それを聞かせてくれると助かるんだが」
「はい、大丈夫です。私も、今はEDFの兵士ですから」
そう言って、基地司令に代わる。いくつかやり取りをした後、受話器を置いて司令は棚の引き出しから電話らしきものを取り出し、それを私に手渡す。
「これはEDFで開発された軍用通信機……平たく言えば頑丈で長持ちする電話だ。 本来は私のだから大切に扱ってくれ」
了解ですと笑って、それの電源を着ける。画面をタッチして入力するタイプらしい。メールや電話機能など、様々な機能がある。
「電池はどれぐらい持つんですか?」
「起動しっぱなしで丸3日以上。スリープモードだと数ヶ月以上持つらしい。充電しなくても電源を切っておけばコンデンサの劣化が進みにくくなる為、10年間は充電せずとも起動できる計算だそうだ」
「……逆にすごいなぁ、それ…………」
EDFは変なところで私たちより優れているのかもしれない。普段使いの道具に関しては、やはり平和だった世界なだけあって数年単位で開発が早いのだろうか。
私はベース229の仲間達が待機している仮宿舎に戻ってきていた。隣には野ざらしの愛機ゲイルウインドが俯いて立っている。ジェネレーターをスリープモードにしているからああなっているだけで、コクピット内に私が入ればセンサーが感知して起動してくれる。
私は食堂の中央に座っていた。……否。座っていたというよりは、座らされていたの方が正しいだろう。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、レイニア2」
私は、みんなから取り分けた食事のおかずを1品ひとつずつ分けてもらっている。話し合いが長引いて注文時間が終わってしまった為に食事をレーションで済ませないといけなくなった私をみんなが案じてくれ、ウイングダイバーのレイニア2が提案してくれたことだった。
「はいあーん♡」
「ん……もぐ……んー、おいしい!」
…………と思ったら、これだ。
食事を分けてもらうだけの夕食会だったはずが、気が付けば私にみんなで餌付けするような図になっていて、私は図らずしも彼女達の言葉を借りると《バイキング方式》という、たくさんの食事を自身の皿に盛り分けて食べられる夢みたいな状況になっていた。
「おい、次は俺だ!」
「だーめ、次はあたし達だよ」
「モグモゴ」
……まあ、これはこれで嬉しいのだが。
不謹慎かもしれないが、戦闘で痛手を負った私たちベース229残党やアウトポスト89所属の現地部隊アームチームが18時間の休息と6時間の自由時間を取れているのは、私達の代わりに夜間出撃を行っている戦闘部隊が出動してくれているからに他ならない。感謝の気持ちを忘れる訳にはいかな───
「んむっ! ……ング……ぷはっ!!」
「だ、大丈夫!?」
「………喉に詰まった」
水の入ったコップをもう一度煽り、喉を落ち着かせる。そんな様子を見て心配してくれる者や、笑ってくれる者がいる。その光景は私が今まで見られず、こちらに来てようやく拝めた温かい情景なのだ。
私たちはEDFだ。EDFは市民を守る使命がある。だから明日からは、また戦いが始まる。
それまでは一緒にいてもいいよね。
先進技術研究主任
アンヴィル2-1の搭乗するACの事を、噂程度ながら把握していた人物。研究所内での最高権限を持つ者であり、同時にEDF内における新鋭技術を数多く確立した人物。現在のEDFの主要兵器であるコンバットフレーム・ニクス、戦闘ヘリEF60ネレイドなど、要求される知識の全く違う兵器を開発した人物でもある。彼の功績は主任以前の頃からその芽を覗かせており、基礎となるアサルトライフルPA-10の基礎を前任の主任らと部署を交えて共同で開発するなど、その才覚は大いに人類の理となる。
六十年式陸上要塞戦車(ネタ)
旧国軍の開発したトンデモ兵器。かつての紛争より、世代を跨ぐほど前の時代。人同士で争っていた頃に開発された、装甲と火力を重視された巨大戦車。巨大すぎるために当時の技術力ではエンジンを4つ搭載しなければまともに動かせず、そのせいでガソリンをバカ食いし、戦車であるにも関わらず数百ミリクラスの主砲を搭載し、戦車砲の直撃で軽微な損傷しか負わない装甲に加え、主砲砲手に二名、装填手に四名、同軸機銃手及び装填手に三名、操縦手三名、予備員二名、副砲砲手一門につき二名、装填手一門につき二名という、人員も資材も燃料も弾薬も、訓練費もヘイトも敵の砲弾も何もかも、目に付くその全てをバカ食いする人類史上の珍兵器筆頭格。こんなのでも敵対国からは、ロケット100発戦車砲50発で仕留められなければ撤退せよ、と言われるほど恐れられた。現在EDFが運用するB651タイタン重戦車が、この六十年式陸上要塞戦車の構想を元になぜか開発・生産されている。