地球を防衛する傭兵になりました 作:No.28
──TITLE
お久しぶりです。
──SENDER
戦略情報部分析官少佐
貴女のラプターとしての活躍から、六ヶ月が経ちました。あの時、全く同時に別エリアで確認された円盤撃墜の報告は、貴女と別働隊が保護するあの民間人の他にはありませんでした。
……あの情報によって多くの命が救われ、戦局は好転したかに思えていました。ですがそれは、我々のぬか喜びに過ぎなかった、という事です。
それと知っての通り、幾つかの名称が更新されました。
酸の怪物をα型、その赤い変異種を強化甲殻α型。糸の怪物をβ型。大型円盤をテレポーションシップ、塔をテレポーションアンカーと呼称。そしてこれらを投下、今もなお攻めの手を緩めない敵性勢力を《プライマー》と命名しています。
プライマーはテレポーションシップによる各地への攻撃を続けていますが、現状はどうにか撃墜に成功し、防衛を続けられている地域が大半を占めています。
これらは貴女や、貴女とほぼ同時期に活動していたとある部隊の活躍によって得られた情報による成果です。
……我々は、勝利を諦めません。
貴女も、どうかそのつもりで。
春。
まだ残る寒さが、私の肌を貫くように突き刺してくる。宿舎で目が覚めた私がやる事というのが、ぬるま湯で顔を洗って外に出る事だ。暖かいお湯で顔を温め、外の冷たい外気で冷やす。このルーチンをこなすとすぐに目が覚める。
端末内蔵機能の時計を見る。まだ朝の5時だ。起きて訓練している隊員もいるが、そういった者は趣味で体を動かしているごく一部だけだ。ほとんどの仲間はまだ睡眠の中にあるだろう。
……先程、今朝届いていたメールを読んだ。
戦局が一進一退の攻防を続けてから六ヶ月が経過している、と見た時、どうしようもなく虚脱感に駆られた。
この六ヶ月間、戦いをやめた時は無かった。24時間を戦い続ける事もできない訳では無いが、一日で体が限界を迎える以上どうしても休む必要はある。だからこそ、私が休息を取っている間に出撃した部隊を宿舎の窓からこっそり見送るのだが、帰ってきた時、その数が見るからに減っているのを見て、私が悔しがるのをみんなで慰め、共感してくれた事も一度や二度ではない。
怒りに身を任せれば、その身を滅ぼす。私は戦場で敵討ちを狙った勇敢なヘリパイロットをひとり、知っていた。その男は敵だった。仲間の恨みを晴らすべく、退却するACへ2機で挑みかかり、その後は杳として知れない。そういうことなのだろう。
だから、私が出撃した時は味方を誰も殺させはしない。散っていった仲間達の無念を晴らすために、なんて綺麗事は吐かない。ただそこにいる人を助ける為だけに戦い、恨みつらみを奴らにぶつけるのは、帰ってきて自分の部屋に入ってからだった。
なのに。
……戻ろう。
まだ昨日の疲れが取れていないのかもしれない。
二日前
「ッ…くそぉ……くそおっ!!」
「ラプター、落ち着いて……大丈夫。大丈夫だから」
彼女は怒りを、自分にぶつけていた。それが見ていられなくて、這う這うの体で戦場から帰還した私は彼女を抱きしめる。
「………ごめん、お姉さん」
「ううん、いいの。私や、死んでいった仲間の為に怒ってくれているのはわかっているもの」
「……………うん」
彼女は強い。それこそ、ひとたび戦場に出れば敵を全て薙ぎ払って、同行する部隊に死者を一切出さず帰還させる。その姿が正に天使とすら呼ばれている程。だからこそ、自分がよく知る知り合いの死が許せない。彼女はそうして怒るのだ。
「私も悔しい、だけどね。私は貴女を死なせない為に戦うの。貴女の命は、もう貴女だけのものじゃない」
「うん……」
悔し涙を流している。
「優しいね、レイヴン。貴女は」
私の、焼き切れて包帯が巻かれた左足
「ごめんね。久しぶりに会えたのに」
「………ううん。 ……お姉さんが生きててよかった」
「……ありがとう」
そんなこの子を優しく抱きしめてあげることしか、私にはその他の何も、してあげられそうにはなかった。
私はこの子にペンダントを渡そうと、首元に手を伸ばし、ペンダントを外してラプターの首にかける。
「これは……?」
「今回の作戦で、貴女を守りたいと息巻いてた人達で作ったもの。写真が入ってるの…」
ラプターがそれを開く。中には、戦局が一時的に好転した六ヶ月前、ベース266で抗戦を続けていた私達残存戦力のみんなで撮影したものだ。
みんな噂だけで、未来からやって来た人類の最終兵器の存在を話していた。私だけがその正体を知っていたが、それを敢えて言わなかった。全員でその人類の希望に生きて会おうと、決意を固めるための写真を撮影したのである。
あるものは手帳の最初のページに。一人はキーホルダーに、一人は愛読する本の栞に。そして私はペンダントに。そして生き残ったのはペンダントと、ごく小数の記念品、その持ち主だけだった。
そして二日前、大量のテレポーションシップが、しぶとく抵抗を続ける私たちの上空へ、突如として飛来した。
生き残った兵士達は少ないが、それでも生きてアウトポスト89に帰還できたのは、突如ベース266にやってきた軍曹達と、彼らが護衛する新兵の活躍に拠るところが大きい。
あの時。基地に大型円盤……テレポーションシップが多数飛来してきた時だ。私達は幾度となく補給と前進を繰り返し、テレポーションシップの撃墜と負傷者の収容を続けた。
無数に落とされる怪物。倒しても倒しても終わらない仲間の死。下で溶けていく勇士達に、翼をもがれ墜落していく戦友達。傷を負い、なお銃を取り立ち上がる負傷兵達。我らの世界には奴らを入れはしない、そう決意し勇敢に立ち向かう仲間達。あの戦場では、みな等しく愚者であり、生きる事に貪欲であり続けた。
私は彼女を……レイヴンを抱き、気付かれないようにひっそりと涙を流した。この身を案じてくれる、彼女の人となり。その優しさに触れて。
39.巨船直下
*****
映写機を後ろに。スクリーンを前に。その間に挟まるように、兵士達が座っている。彼らのうちの一人は、部屋に置いてあるラジカセを動かして、ニュースを聞いていた。
《───続いては、戦局報道です。本日未明、EDF陸軍歩兵部隊が大阪の市街地上空に接近した大型円盤4機の撃墜に成功、また北海道でも同様に6機の大型円盤を撃墜しました。また、市街地での戦闘時は、自宅ではなく近隣に設置されたシェルター内に避難する必要があります。シェルターには備蓄物資が大量に保管されており、これによって中の市民の皆様は、数ヶ月間を飢えずに生活する事が可能と────》
「ブリーフィングが始まるぞ。ラジオを止めろ」
彼が流していたラジオを止めるよう、隊長が指示する。隊員がラジオの電源を切ると同時に、ブリーフィングルームの中にある投影機から光が放たれ、そこに地図が表示される。映像を中継しているようだ。
『よく集まってくれた。我々はプライマーとの戦闘において、とある二人の兵士のおかげで度重なる戦果を挙げる事に成功している。だがそれは、地上を怪物で覆い尽くして攻め込み、なし崩し的に制圧する……という敵の第1プランを妨害しているだけに過ぎない。よって本日行われる作戦においては、現状の膠着した戦況を打破する為の作戦行動を実行。君達には、その先駆けとなってほしい』
「なるほど。 で、それは一体なんです?」
隊長がコーヒーを飲みながら尋ねる。
『それは、マザーシップ・ナンバー7への威力偵察である』
市街地が表示され、そこにはマザーシップ下部のドローン射出口から無数の円盤が出現している奴の姿があった。マザーシップは、その装甲や輸送能力、ベース210へ攻撃を行った際に見られたように、深緑色の閃光を放つ爆弾を放射して攻撃を行う。その非常に高い対地攻撃能力から、撃墜はおろか接近さえ難しいという結論に至っている。
「マザーシップ、か……ついに始まるのか」
そのためだ。
彼等が集められた理由は他でもない。このレンジャーチームは、このアウトポスト89に所属する歩兵部隊の中では群を抜いた戦果を誇っている為である。
ラプターの六ヶ月前からのテレポーションシップ撃墜数、アンカー破壊数には到底及ばないが、この対テレポーションシップ特殊編成陸戦歩兵部隊・スティングは、10人編成の部隊であり、通常のレンジャーチームと違って怪物よりも更に巨大な敵、すなわち大型円盤を撃墜する為だけに設立された部隊である。
4人のスナイパー、5人のライフル兵、そして対戦車猟兵の隊長による熟達であり同時に的確な攻撃は、この一部隊のみでテレポーションシップを一度につき2隻までの破壊を可能とした。
人員の入れ替えが多少ありながらもたった10人でテレポーションシップを累計17隻撃墜してきたという実績は、彼らスティングチームをマザーシップ威力偵察の第一部隊に任命するには十二分であった。
『今朝7時56分、東京上空にマザーシップの存在が確認された。奴らは制空権を維持し、空軍ですら手の出しようがない超高高度での移動を行っている。今回、マザーシップが上空を移動するタイミングを情報部が割り出している。ここだ』
本部の腕が少しスクリーンに映り、地図上の市街地北部にマーカーで大きな赤丸が描かれる。このエリアにマザーシップが降下する確率が非常に高いと思われる、という事だろう。
『マザーシップがこの市街地を次の攻撃目標に指定している可能性が非常に高い。接近時にはドローンが応戦してくるはずだ。ニクス・ミサイルガン、ネグリング自走地対空ミサイル、及び対空戦闘チームスピット、近接戦闘チームフレイムが現地で合流する』
「了解した」
了承に反応して本部が次の写真を投影する。部隊構成が映し出されており、そこには歩兵がスティングチームを含んだ30名、ニクスが4機、ネグリングが6両、そして
『今作戦にはアーマード・コア……コールサイン、ラプターも同行させる。彼女らと共同して任務に当たれ』
「ラプター、あの大型新人か」
隊長はその姿を思い浮かべる。巨大な二脚型の戦闘兵器。武装位置こそはニクスと似ているが、その大きさ、そして速度はニクスとは桁違いのものだった。この六ヶ月間まだ共闘したことは無かったが、それでもあの飛行速度に大型の武装の数々。そしてそれを手足のように使いこなす、幼い少女。
兵士なら。戦士なら。勇士と共に戦える光栄は身に染みて余りあるというものだ。
『マザーシップの威力偵察では、接近時、攻撃時、敵殲滅時にどのような反応を見せるかを調査する必要がある。現地到着後のデータ収集は、戦略情報部が引き継ぐ。君達は油断せずに戦闘を行え』
「了解」
『質問のある者はいるか?』
無言を貫く。
『では以上。健闘を祈る』
本部からの映像共有が終了し、部屋の電気が着いて明るくなる。
「よし、スティング隊起立! 同行する部隊と合流。マザーシップの到達までに現地へ移動!」
「サー、イエッサー!!」
全員が即座に席を立ち、各々の武器を取りに武器庫へ向かう。隊長が最後に部屋の鍵を閉め、同じように武器庫へ走った。
『《基地に侵入者!繰り返す、基地に侵入者!! 地下勤務の戦闘員は直ちに迎撃!!》』
武装確認の最終段階に入ったところでスティング隊の耳に入ったのはけたたましい警告音だった。アウトポスト89の地下に怪物が侵入したのだろう。
「
「プライマーども、ここが人類の反撃拠点と踏んで攻撃を繰り返してやがる」
「俺達にはスプリガンがいる。高所も閉所も敵無しだ」
弾を込めたマガジンをポーチに差し込み終えて、全員が部屋を出る。地上からこちらに入ってきた部隊がスティングチームに話しかける。
「マザーシップへの攻撃を始めるんだな」
「そうだ。こっちは任せておけ。帰る場所の安全確保は任せたぞ」
「フッ、任しとけよ。こう見えても俺は、一人で20体の怪物を仕留めた! 奴らも同じように焼肉にしてやるぜ」
軽口を叩きあって、互いに背を向けて走る。片方は地下へ、もう片方は地上へ。戦場の違う彼らだが、EDFである以上、仲間意識は何者よりも固い。部隊は兄弟、仲間は家族。決意を固めて戦うEDF達が、未だプライマーへ対し大敗を喫する戦場が存在しない理由である。
「スティング隊、行くぞ!!」
「EDF!! EDFッッ!!」
基地の地上へ出て向かう先はグレイプだ。操縦席に二人、ガンナー席に一人、兵員室に十人が搭乗でき、万一の際には対軽装甲車両25mm榴弾砲を速射して自衛も可能な輸送車両だ。
運転は専任のドライバーが務め、隊長が助手席に搭乗する。残る九人のスティングは後方から兵員室に乗り込んで、出撃準備を整える。
『全員、戦闘準備を整えたな? 基地の向こうはプライマーがいつ襲って来るかわからんからな!』
「サー、イエッサー!」
ドライバーに車両を出すよう命じ、作戦地域まで走らせる。外から歓声が聞こえる。防弾ガラス窓から身を乗り出した隊員の一人がそれに返す。
「マザーシップをギャフンと言わせてやれ!!」
「俺達のベースの仇を頼んだぞぉーーっ!!」
「任せとけぇーーーーっ!!!」
狙撃兵を務めるスティング8が手を大きく振って返事し、そのままグレイプの中に戻った。スティング8になんと言ったか、スティング4が尋ねる。
「あいつら、なんて?」
「マザーシップを墜として、元所属ベースみんなの仇を頼むっ! ……ってよ」
「そりゃいい。威力偵察とは言うが、落としちまうか」
冗談混じりの返答で場を盛り上げるスティング3。その後も雑談は続いていく。
「知ってるか。つい先日、欧州でβ型の大群を撃退したらしい」
「俺が聞いたのは、欧州に大量のエイリアンが降下してきたって話だ。噂で聞いたんだが、プライマー側の陸戦兵だとかって。本部は現場の混乱を避けるため、一度情報を隠しているらしい!」
「おい、そりゃ噂だろ?」
缶詰を開けながらスティング2が噂を否定する。その缶詰の中身を食べながら言うスティング2の言葉に、更に追い打ちをかけるのはスティング3だった。
「そうとも言えないぞ。1000体の怪物に襲われて生き延びたはずのマルセイユ基地を、エイリアンが占領しているらしい」
「それこそありえないな。欧州最大のEDF拠点だぞ?」
スティング9はそれを強く否定し、マルセイユ基地への信頼を明かす。転属前は欧州にいた事もあってか、彼は基地がどれほどの戦力を保有するか知っているうえでの発言だった。
それへ切り返すのはスティング10だ。
「さぁな。この六ヶ月間で奪い返した基地の数は多いが、放棄された基地も同じぐらい多い。どっちつかずの戦況を打破する為にプライマーの本隊が奇襲してきたってんなら、頷ける話だ」
スティング隊の雑談は続くかに思えたが、突然に車両が停止する。助手席の方からドンドン、と二回叩く音が聞こえた。戦地に到着したのだ。最後尾に搭乗していたスティング10が後部ドアを開け、全員が降りていく。
『噂はかねがね聞いているぞ、スティングチーム』
『アイツらがスティングチーム……テレポーションシップ撃墜の専門家って噂の!』
『ラプターもスティングもついている! 俺達は運にも恵まれているぞ!!』
『イヤッホーーッ!!』
降りてきたスティングチームを迎え入れたのは歓声と歓迎だった。それらを程々に返しつつ、彼らはラプター……巨大な人型兵器の足元へ近寄る。
「ラプター! 噂は聞いてる!」
『私もスティングチームの名声は知っている。共に戦えて嬉しい』
「俺達もだ。全員、マザーシップへの攻撃に備え、待機!!」
──市街地北部。そのエリアは複数の防御拠点が存在していたエリアだ。マザーシップからの攻撃を事前に察知した戦略情報部、及び本部からの適切な支持によって、現地のEDF市街地防衛部隊は全て退避している。
また、街の外部では有事に備え、怪物が入ってこないように20の部隊をパトロールさせている。
マザーシップとEDFの初戦を邪魔する者はいない。
「ネグリング、今のうちに後方へ下がっておけ。
『私はどうする?』
ラプターが指示を要求する。
「君は単機で俺達の数倍以上の戦果を挙げたと聞いている。好きに戦ってくれ。俺達がそれに合わせる」
『了解』
ラプターがその場でブースターを使って飛び上がり、ビルの上に着地してマザーシップの到着を待つ。
「本部。マザーシップ攻撃部隊、全隊配置に着いた」
『よろしい。マザーシップが出現次第、攻撃を開始せよ』
「了解した」
地面に座り込む。他の隊員も、銃は手に持ったままではあるものの、アスファルトに手をつけて座っている。
「ううっ、冷てぇ……。 外気は平気なのにな」
「アスファルトは冷えるのかもな。もしそうなら、冷たいのも納得だ」
『レンジャーチーム、寒すぎて指が
「ああ。 ………ん、しばれる……?」
ニクス搭乗員、ストライク2の言葉遣いに違和感を覚え、スティングリーダーが聞き返す。ストライク2は答えた。
『北海道の、八幌が出身なんだ。まあ方言みたいなもんだ』
「なるほどな……。帰ったら故郷の話でも聞かせてくれ。戦争が始まる前は八幌に観光したかったんだ」
『ああ、いくらでもして───ッ!?』
ストライク2が息を呑んだのと、他の隊員が上空を見上げたのはほぼ同時だった。
「……来るぞ」
『レーダーに反応、機数1。……単機?』
「結論を急ぐなラプター。マザーシップには兵員輸送能力が存在する事が確認されている」
『ドローンを出すって事だ。もしもの時は頼むぜ、ネグリング、ストライクチーム!』
……その音は、戦場を包み込む。太陽の光を遮断し、巨大な影をその場に作り出す。薄雲に隠れて認識が遅れたソレも、太陽を隠したとなればその位置も、正体も、見ずともわかるというものだ。
『来るぞ! 各員は独自に戦闘を開始。 パトロールチームは街に怪物を近づけるな!!』
『こちらパトロールチーム、K11。了解』
上空を覆う巨大な影は、機械の駆動する大きな音を上げながら雲を切り裂いて降下してくる。
「あれが……」
「……マザーシップ・ナンバー7か!」
『見ろ、ドローンを射出してやがる!!』
ネグリングが車体ミサイルキャリアーのミサイル発射口をドローンへ向け、ロックオンする。
『ネグリング自走ミサイル、攻撃開始!!』
『ストライクチーム、射撃始め!!』
6両のネグリング、4機のニクスから一斉に発射されるミサイル群が、ドローンの数々をあっという間に殲滅していく。
対空戦闘型ニクス・ミサイルガン。先進技術研究部により考案された、腰部ジョイントの運動性を高めることでバックマウント式のミサイルによる敵捕捉精度を高めるという試みによって生まれた、新型のニクス。ネグリングと同型のミサイルを搭載しながら、一基の装弾数は少ないながらも二基搭載する事で結果的にネグリングよりも弾数が増加。同時に発射する数もそれぞれを少なめに抑えた為、殲滅力と継戦能力の両立に成功している。
ミサイルの着弾したドローンは炎を吹き出しながら墜落していく。ビルに直撃して爆発するドローンを尻目に、接近してきたドローンへ対しスティングチームの狙撃兵4人が射撃し始める。
「甘い甘い!!」
「こんな戦力で俺達に挑むつもりか!」
『油断するなよ……マザーシップには巨大なビームの爆雷が装備されてるらしい。これ以上前に行けば粉々にされるぞ』
戦線を維持しつつ、射撃を続ける。ラプターの駆る人型兵器が、ビルを使ってバネのように跳躍し、レーザーブレードを発振させて進行方向上のドローンを一直線に斬払う。
そのまま返す手で追ってきていたドローンも斬り捨てると、右手のヘビーリボルバーカノンを正確に敵機へ照準し、3点バーストの大口径砲を発射してドローンを引き裂く。
機動力ですらニクスより上というのに、パイロットの能力も合わさって一騎当千の勢いを見せている。
『ドローンを殲滅した。次に注意!』
「了解! ……待て! マザーシップに動きがある!!」
『あ……あれだ!! 俺達の基地を焼いたのは、あの攻撃だ!! 離れろ、俺達もやられるぞ!!』
ネグリング搭乗員のひとりが叫ぶ。それはマザーシップの下部から突出した何かだった。
一本の巨大な三角錐、それを囲うように三本のピラーが出現すると、ピラーが何か緑色のエネルギーを、三角錐にチャージしていく。
『《高エネルギー反応を確認しました。超高出力型のエネルギー型砲台だと推測されます。速やかな離脱をオススメします》』
ラプターの無線機から音声が入力される。それを聞いてか聞かずか、全ての部隊がマザーシップから離れようとする。
……ラプターを除いて。
「ラプター、何をやっている!?」
『下がれ! コンバットフレームでも持たないんだぞ!』
ラプターがひたすら上昇しながらマザーシップに接近していく。助けようがない地上部隊は下がるしかなかった。
『ラプター、聞こえないのか!?』
「やめておけ、きっと考えがあるんだ!」
「隊長、我々も退避しましょう!」
それにスティングリーダーが頷き、ハンドサインを出して全部隊を後退させる。道路を歩いて、あるいは走って敵の攻撃範囲から逃れようとする地上部隊とは対称に、ラプターはマザーシップ下部のピラーに肉薄し、レーザーブレードを起動する。
『これが何かしようとしてるんだ!! これを破壊すれば、何かが起きる!!』
ラプターが叫びながらブレードを用いてピラーを切断する。高出力のレーザーで真っ二つにされたピラーは爆発を起こして落下していき、エネルギーの充填がひとつ分止まる。だが、他ふたつのピラーから溜められただろうエネルギーが、三角錐の砲台から発射されようとしているのは時間の問題で、同時に彼女の機体のエネルギーも、高空への飛行とエネルギー武装の使用で枯渇しかけていた。
『くっ、ダメか……私も離脱する』
「急げ、もう……!!」
ラプターが降下してくるのと、緑色の光球が放たれたのはほぼ同時だった。彼女をよく知る、元ベース229の兵士が絶叫する。
『レイヴン!! 下がれぇーーっ!!!』
「っ、くっ! ……うおぉぉぉおああっ!!!」
ジェネレータの内容ENを全て使い切る勢いで、彼女はコア後部のオーバードブーストを起動した。
空中で自由落下の体勢を取っていたにも関わらず、突然に重力が下から前方へと変化したのではと思わせる程のスピードで飛行したラプターは、公道、つまりマザーシップ攻撃隊の後方に着地を試みようとしている。
膝の関節部を少し曲げ、脚部を大きく開いたラプターが着地する。機体の重量と上空から降ってきた際の質量が合わさって、アスファルトは粉々に砕けてラプターを受け止める。後ろにアスファルトを削りながら滑って、脚部左側を支点に、180度ターンしてマザーシップ・ナンバー7を見据える。
その直後だった。大きな爆発が周囲を包み込み、爆破地点から1キロメートルは離れているのにも関わらず、部隊は押し戻されそうなほどの爆風に襲われた。
ラプターは膝折りの体勢のまま、無線を開く。
『……すまない、チャージングだ。しばらく飛べない』
「そんな事はいい、無事でよかった。各員! あの柱が弱点と思われる、あれを攻撃しろ!!」
爆発が止んだのと同時に、誰かの悲鳴が通信に割って入った。
『わぁぁぁぁっ!!!』
『こちらK18!! 怪物が大挙して押し寄せてきた! 6名戦死! K19も……うわっ!? は、離れろ!! うわぁぁぁぁああっ!!!』
マザーシップの攻撃を聞きつけて集まってきたのか、怪物にパトロールチームが襲撃され、壊滅したようだった。
『こちら本部! 怪物が来るぞ!!』
「レーダーに多数反応! はっ……!? た、隊長!! ドローンです!ドローンも来ます!!」
スティング7がレーダーを見ながら叫ぶ。マザーシップが上昇しながらドローンを放出していく。
『逃げるつもりか!?』
『柱に攻撃が届かねぇ! もうレンジの外だ! マザーシップの事はもう置いておけ、それよりもドローンを攻撃しろぉっ!!』
ネグリングがドローンを、ニクス・ストライクチームは散開して全方向から集まってくる怪物を迎え撃つ隊形を組む。
『こちらK6、我々も合流します! 聞こえるか、パトロールチームの生存者は市街地北部のマザーシップアタックチームへ合流!!』
『K7! こっちで生き残ったのは俺達だけだ…』
『こちらK1! K2、以降K5まで全滅した!』
レーダーの赤い点、敵を抑えるように味方部隊が展開する。味方は射撃を繰り返しながらスティングチームのいるこの場所へ合流するつもりのようだ。ネグリングがドローンへミサイルを撃ち込む。
『こちらネグリング! ミサイル残数、残り半分!!』
『本部! マザーシップが逃げていきます!』
『クソッ、散々引っ掻き回して、逃げるつもりか……』
マザーシップが上昇していくのを尻目に、スティングチームのライフル兵が射撃を始める。パトロール隊Kチームの生存者が接近してきた為、それに釣られてやってきた怪物を攻撃しているのだ。
『こちらK6! 助かった、礼を言う!』
「礼はいい、死にたくないならニクスを守れ!」
スティング2が接近して、逃げてきた部隊を引き連れて戻ってくる。同じように合流しようと近づくK1、K7にもスティング3が合流し、防衛目標の指示を行う。だが、スティング3達に近づくドローンの姿があった。ドローンの銃口は既にスティング3を補足しており、咄嗟に銃を構えようするも迎撃は間に合いそうになかった。
だが、ドローンはスティング3の目の前で爆発し、スティング3は窮地を脱する。それはネグリングから放たれたミサイルのおかげだった。
『こちらネグリング! 弾がきれたっ!!』
『こっちも無くなった!!』
『歩兵部隊、ドローンは落とした、後は頼む!!』
ネグリングの搭乗員が無念そうに路地裏へ隠れ、車両のエンジンを切る。
『こちらストライク2、ミサイルが切れた。リボルバーカノンで応戦する!!』
ミサイルを怪物に撃ち込んでいたニクス4機が、リボルバーカノンを連射し始める。地上部隊の反撃は、効果的に怪物を撃滅せしめていた。
『こちら本部、マザーシップ・ナンバー7が空中で静止した。 ……何をする気だ!?』
『こちらスカウト!! マザーシップは逃亡しようとしたのではありません!! 高空へ飛び上がり、射角を増やして街を薙ぎ払うつもりです!!』
『ばかなっ!!』
無線を聞いていた全員が青ざめる。怪物を迎撃しながらでも、その光は目に入ったからだ。
太陽の温かな光を遮った巨船は、その腹に抱えている砲台をもう一度展開し、冷酷で冷ややかな緑光によって周囲を上書きし始める。
『ばかな、ばかな、ばかな』
『ふざけるな!! 届かないところから一方的にっ!! 卑怯だろ、このクズどもっ!!!』
「退避!! 退避!!!」
「ダメです、間に合いません!!」
通信回線内が阿鼻叫喚の様相を呈している。本部が何か指示を下そうとしているが、誰も聞く耳を持てないようだった。
「本部、聞こえない!! クソ、お前ら静かにしろ!! 本部、応答しろ!!」
『こち─本─────を──し───退──不──』
『ダメだ、巻き込まれる!!』
怪物との交戦を続けながらも、死を待つ。あまりにも絶望的だった。光球が再度放たれ、それが地面へ落下していく。
『こちらラプター、回復した…………』
「ラプター、逃げろ!! お前だけでも!!」
スティングリーダーが叫ぶように指示を下す。俺達を見捨てろ、とラプターはそう捉えてしまう。
眼前が眩い閃光、そして凄まじい熱に襲われる。
『うわぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!』
『助けてくれぇーーーーっ!!』
全員が叫んでいたかもしれない。
何も残らない戦場。ビルは粉々に吹き飛び、街の中心にはクレーターが出来ている。緑のあった公園は焼け、破壊の限りを尽くされ、みな死んだ。
マザーシップ下部の砲台を囲う柱……チャージングピラーに対しては攻撃が有効であると、マザーシップ攻撃隊らの決死の攻撃により判明はしたが……。
「クソォッ!!」
通信機の設置されたテーブルを拳で殴りつける男がいる。EDF極東方面作戦指令本部総指揮官少将。通称は本部と、そう呼ばれる男は無念さを隠そうともせず、ヘッドホンを外して拳を握りしめる。
「……プライマーめ………ッ!!」
怒りを噴出させながら、本部は悔しさを込めた眼差しを空に向ける。
「………生存者は無し、作戦も、成功したは成功したッ!! だが、犠牲が大きすぎる……!」
記録官に作戦の顛末を記録させる。これを通して戦略情報部へと戦闘データが送られていくが、今は彼女の解説を聞く気になどなれなかった。指令室を出ようと席を立つ。ノブに手をかけ、ドアを開けた。
『こち……フレ…ム………生………22…名……』
『聞こえ………生存者………迎え………』
破損したアーマード・コアを影に、残存しているかもしれない怪物に警戒しながらも残った食料を分配する。
「すまん…」
「ありがとう……」
怪我を負った兵士に優先して治療と食事を取らせる。奇跡的に無事で済んだ4人の隊員は甲斐甲斐しく、怪我をしつつも生き残った18人の仲間を手持ちの包帯と消毒液で簡易的な応急処置を行う。
「ぐぁ……もっと優しくしてくれ…っ……」
「医者じゃないんだ、無茶を言わないでくれ」
俺達フレイムチームは、近接戦闘部隊である以上仲間の治療という面においても理解を深めておく必要がある。戦闘で負った傷を、少しでも和らげるためだ。
その知識が味方して、この22人はどうにか生き残っていられた。
「おい……そのでかいのの中身は? ラプターはどうなってる……?」
生き残った隊員の一人、スティング5が聞く。
「開かねぇ。多分ひでえ事になってる」
ラプターはあの瞬間、味方を見捨てて逃げろという指示を聞けなかった。それだけは知っている。でなければ俺達が無事な理由がない。
ただわかったのは、そこに
誰も勝利を喜べなかった。ここにいるのは戦勝を収めた華々しい英雄の部隊でも、敵を目前に大敗を受け入れた間抜けな敗北者でもない。
……ただ生きて、ただ助かった。それだけの奴らだ。
「通信機は?」
「俺のは壊れてる」
「俺のもだ」
「多分だが、あの爆風にはEMPのような作用もあるんだ」
「EMP? 略語は覚えられん」
「Electromagnetic Pulse。電磁パルス、つまりEMPだ」
「わからん。EMPでいい。でそのEMPが?」
「電子機器を壊すんだ。1回目のEMP発生は大した範囲じゃなかったんだろうが、2回目であのデカさだ。相当な規模だったんだろうよ。ほら、あの電波塔を見てみろ」
「火花が噴いてる……つまり待てよ、通信できねぇのか」
「ご名答。厄介なこった」
煙草を吹かしながら、俺は頭をかきむしった。
「撃て!怪物を近づけるな!!」
「クソッ、やめろ!! そいつを喰うんじゃねー!!」
「諦めろ、もう死んでる!」
アサルトライフル、ショットガン、ロケットランチャー。EDFの科学力の粋を集めて開発された火器達が一斉に火を噴く。敵はもちろん、地下街に入り込んだ怪物どもだ。
怪物は奇襲を仕掛けて来、気付くのが遅れたニクスのパイロット、スピットチームの6人を最初に殺した。続いて怪我人を連れて地下に逃げようとした仲間を襲って、そのせいで怪我人と、怪我人を背負って逃げたスティングチームのほとんどが喰われた。
この時点で16人だった。今一人死んだ。
「撃て……怪物を、近づけるな……っ!!」
「その怪我じゃ無茶だ、下がれ!」
「俺に構うな……!」
噛みつかれて脇腹をアーマーごと食いちぎられたスピット6が、死を悟って前線に立ち、苦痛を忍んでライフルを撃ち続ける。
「っぐおおおおぉぉぉぉああっ!!!」
「やめろぉぉーーっ!」
仲間を次々と食っていく赤いα型を撃ち続ける。俺達は徐々に、地下街のど真ん中に追い詰められつつあった。
「フレイム7、弾をくれ!!」
「使え! ……おいスティング6、後ろだ!!」
「なにっ!? ぐぁぁぁぁっ……!!」
滅茶苦茶だ、もう何もかも。乱戦になった俺達は、目の前の敵をとにかく撃ち続ける。ショットガンで敵の頭を吹き飛ばしてやったし、ライフルで敵の体を蜂の巣にしてもやった。ロケットランチャーで敵の集団を吹き飛ばせば、恨み言しか出てこない。
「怪物め、くたばりやがれっ!!」
「死ねぇーーッ!」
俺達の数は減っていく一方だ。もう13人しか残っていない。9人が……せっかくマザーシップの攻撃を生き残った9人が殺された。俺も膝をついてしまう。噛まれた傷が痛い。
「もう……やめてくれ。これ以上、戦うのはゴメンだ…」
「弱音を吐くな……はっ!? がぁぁぁっ!!」
またひとり、またひとりと倒れていく。弾は尽きた。失血が酷くて、銃を握る力さえ残っていない。
怪物が目の前に迫ってきた。
「こちら軍曹。生存者を確認。酷い怪我だ……おい、立てるか?」
「信じられん……マザーシップの砲撃を受けて、こんな場所で生き延びていたとは」
「しかも怪物からも……彼らは…………」
「そんな事どうだっていい! また怪物に襲われる前に、全員連れてここから出ようぜ!!」
「そうだな……。 救護班! こっちに生存者を発見した! 地上へ連れていくから、キャリバンを寄越してくれ!」
『こちらキャリバン装甲救護車両、了解した』
俺の顔にフラッシュライトを当ててくるレンジャー。優しく手を伸ばしてくれている。その手を掴もうとして、俺は意識を失った。
ありがとう。それを言う前に。
ラプター
マザーシップを撃墜したと思われる。しかし安否の程は不明。コクピットが一切反応せず、またハッチも開かない。死亡したものと診断され、機体は先進技術研究部へ輸送される運びとなる。
マザーシップ・アタックチーム
ラプターの身を呈した突撃により墜落していくマザーシップを目撃したと思われる部隊。運用爆破を免れた地下街の中央部で怪物と交戦中のところを、アウトポスト89から派兵された救助部隊が発見。救助された。被救助時の生存者数は12名に及び、どのようにマザーシップの砲撃を耐えたのかを戦略情報部が解析する見通しである。
マザーシップ・ナンバー7
戦闘終了と思われる時刻から17時間後、残骸が発見された。隊員のほとんどが覚えていない中、重篤な怪我を負いながらも生存者のひとりとして帰還したフレイム3が、マザーシップを撃墜したのはラプターの活躍に拠るものと証言する。
マザーシップの弱点こそが、彼の治療が済み次第フレイム3から聞き出す事が速やかに求められている理由たる情報である。