【助け】悪の組織の人質にならない方法【求む】   作:鷲野高山

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大集結!! そういうのいいから帰って、どうぞ

「――総帥、一つご提案があるのですが。どうでしょう、ここは質問タイムを設けてみては?」

 

 事の発端は、戦闘員の一人からのそんな提案だった。

 

「質問タイムであーるか? 我々はすぐさま次なる計画に移らなければいけないのであーる、ということは理解しているであーるな?」

「はい、ですがこの組織を――ひいては総帥の魅力を知っていただくには、抑圧するだけでなく寛容さを見せることも必要かと。一方的ではなく相互理解の上でなら、自発的に我が組織の理念に共感する生徒や先生も現れ、賛同者が増えるかもしれません」

「…………」

 

 質問、質問ねぇ。

 禿げたおっさん――もとい、非モテ最強軍とやらの総帥に拘束されてそれを聞いていた僕は、鼻で笑う。

 

 そもそも、そんな時間を設けたところで果たして手は挙がるのだろうか。

 むしろ、全く手が挙がらないことで逆に恥を掻く可能性を推したい。

 

 ただ、仮にもしも僕が質問するとしたら……そうだな、そのピチピチ白スーツはどこで買ったのか、かな。

 

 いや、見た目で馬鹿にしてたけど、なんかめちゃくちゃ肌触りが好みなのだ。

 接触している肌のスーツを隔てた先が全裸? のおっさんだというのが複雑ではあるが、それを差し引いてもめっちゃいい。

 それに、絶対臭そうと思ってたけど、意外とフレグランスな匂いなのもよき。

 もし買えるのなら買いたいくらいまである。

 とはいえ、こんな悪趣味なものだ、もしかすると組織で用意したのかもしれない。そうなると、これ目当てに非モテ最強軍に入るのもありか……?

 

 ただ、そんな段取りではなかったのだろう。

 むむむっ、と眉根を寄せて渋っている総帥のおっさんは、提案してきた戦闘員を睨みつけている。

 

 まあ仕方ない、人質をとって制圧しているとはいえ、いつ外部に情報が漏れてもおかしくないのだ。

 計画的なら尚更で、要らぬ時間をとるのは愚策でしかないだろう。

 後で個人的に聞くとでもしようか。

 

「た、確かに悪くない提案であーる。――諸君、聞くのであーる! これより、質問タイムへと移行するのであーる!」

 

 いや、素直か。

 ぱぁっ、と顔を明るく輝かせるおっさんを見て、僕は内心毒づく。

 

「ぐふ、ぐふふっ……吾輩への質問など、産まれて初めてであーる。どんな質問が来るかワクワクするのであーる! この時ほど、悪の組織を立ち上げてよかったと思う時はないのであーる! さあ、遠慮なく吾輩に質問するのであーる!」

 

 撤回だ。

 その眼に光る涙を見た僕は、よかったよかったと心の中で拍手をする。

 僕にはさっぱり思いつかないが、精々おっさんを喜ばせてくれる質問が来ることを祈るばかりだ。

 

 最悪は、僕が質問してやろう。スーツ欲しいし。

 むにむに、と。僕は拘束するおっさんINスーツを撫でては摘まむ。

 

 ……いや、しかし本当にこのスーツいいな。完全に僕好みの肌触りだ。

 

「……や、やめるのであーる。……く、くすぐったいのであーるっ、くひょひょっ、あひんっ」

「…………」

 

 すべすべしてて、柔らかく、適度な冷たさ。

 指を沈み込ませれば、優しい弾力が返って来る。

 ぐにぐに、むみむみ。ぐにぐに、むみむみ。ああ、叶うならばいつまでもこうしていたい気分である。

 

「「「せ、せーの、人質の男子生徒に質問です!!!」」」

「ひょひょ……ひょ?」

 

 おっと、いけないいけない。僕をここまで魅了して虜にするとは、何ていう白スーツだ、いけない子め。

 思わず熱中して聞き逃してしまったが、どうやら誰かが声を上げたらしい。

 

 僕は断腸の思いでスーツから指を離し、前を見る。

 うーん、でもやっぱり惜しい。杞憂ではあったが、最悪でなくともやっぱり僕も質問するとしよう。

 この質問が終わったら、次は僕のターンだ。時間が来て質問を締め切られては不味い、ちゃんと準備しておかなければ。

 それにしても、まさか人質になってよかったと思える日が来るなんてね!

 

「「「好みのタイプはどんな人ですかーーー???」」」

 

 おうおう、三人同時とは無駄に元気がいいなぁ。僕みたいな大人と違って学生らしい若さだ。

 

 ……にしても好みのタイプ、タイプねぇ。

 

 若干やけくそ混じりっぽいのが気になるが、おっさんのタイプなんて聞いて誰が喜ぶんだろうか?

 んー、でもまぁ、考えちゃった以上、気になるっちゃ気になる。

 僕は少しだけニヤけながら、どんな解答をするんだろうとおっさんの顔を見て。

 

「…………」

 

 まぁ、秒で後悔したね。

 だって、そうだろう。ハァハァと息を荒げながら血涙を流したおっさんが、無表情で僕を見下ろしてるんだもの。

 いやいや、僕は何もしてないよね?

 

「……そら、坊主への質問だ。総帥と乳繰り合ってねぇで答えな」

 

 質問タイムとやらを提案してきた戦闘員の一人が、ドン引きしたように僕に言う。

 

「……え? いやいやおかしいでしょ、何で僕なのさ?」

「安価だ」

「ん? だって今日は僕、スレなんて立てて……そうか分かったぞ、流石は悪の組織! 勝手に安価スレを立てて僕で遊ぶなんて、なんて極悪非道な――」

「ちな、立てたのはお前の学校の連中な」

「――百歩譲ってスレ主がそうだとしてもっ――」

「ちな、喜々として進行したのもお前の学校の連中な」

「…………」

「安価は?」

「……絶対」

 

 僕の負けだ。戦闘員の言うことが正しい。

 

「というか、おいっ! さっきの声、微妙に聞き覚えがあるぞ!」

 

 そうして集団から返されたのは、高々と掲げられた三つのサムズアップだった。

 一つは確か同じクラスの男子で、もう一つは時々僕をヤバイ目で見てくる女子。もう一人は……分かんないけど。

 ともかく許すまじ。おのれ、まさか生徒の中に内通者がいたなんて……っ。

 

「吾輩の初めて、吾輩の初めてが……」

 

 気色悪いことを言ってるおっさんは取り敢えず見ないようにしよう。普通に怖いし。

 

 ふぅ、冷静になれ、僕。うん、なった。

 こういう時は……そうだ質問に答えればいい。さっさと答えれば、終わる話だ。

 

 が、質問内容が問題だ。うっかり変なことを言って、朝――というかこの状況の元凶たるミリナを進化させてはならない。

 丁度朝に同じような話になったのは、何の因果か。

 勘違いとはいえ、僕の好みがハーフだと誤解した馬鹿の惨劇を忘れてはいない。

 何故なら、奴は変身を残しているからだ。冗談でもなんでもなく、悪の組織『ブラックマーベラス』の女幹部『アンフェア』という変身を。

 

 

 となれば、秘儀――。

 

「――僕の好きなタイプは」

 

 僕が重々しく口を開くと同時に、しんと場が静まった。

 こんなにも大人数が集まっているというのに、物音一つせず。不思議と風の音だけがひゅうひゅうと鳴っている。

 

「僕より背が高く……ても、低くてもよくて」

 

 ざわり、と場がざわめく。

 固唾を呑み、壇上の僕を見上げる数多の喉仏は、今にもゴクリという音が聞こえそうだ。

 

「僕より年上……でも、年下でもよくて」

 

 追加情報に、更にどよめきが走る。

 顔を見合わせるその表情は、果たして何を思うのか。

 

「女……でも、男でもある」

 

 おおおーっ! と最後に拍手喝采があがった。

 ヒューヒュ―という指笛や、よくやったぞー! と僕を讃える声すら時折聞こえる。

 

 ふふふ、どうやら僕の秘儀は見破れなかったようだな。

 これこそ、全てを対象とすることで事実上の無回答、答えているようで答えていない大人の処世術ってやつだ。

 表情もそれっぽく深刻なものとするのもポイントで、相手に追及させない効果もある。

 

 おじいちゃん先生などのベテラン勢は危ういが、新任教師や学生相手ならば十分だろう。

 

「……それは、結局答えてないのではないあーるか?」

「しーっ! しーっ!」

 

 と思ったが、どうやら総帥のおっさんには見破られていたようだ。

 いつの間に復活したのかはさておき、仮にも悪の組織の総帥らしい。そこは認めるべきかもしれない。

 不思議そうな顔で首を傾げるおっさんに、僕は慌てて口に指を当てる。

 

 ともあれ、これで事態は進むだろう。

 よし、これでようやく白スーツのことが聞ける。

 あの肌触りが手に入るのなら、この程度安いものだと。うきうきで、僕が口を開こうとした、その時だった。

 

「「「「「「話は聞かせてもらったっ! つまりシュウちゃん(シュウ)(シュウヤ)(ソイツ)(お兄ちゃん)(イッチ)のタイプに一致するのは、自分以外有り得ないっ!!」」」」」」

 

 ざざざっと、どこからともなく宙に浮かぶ6つの人影が、なんか出てきた。

 

 

 ――――

 

 

 時は、少し遡る。

 それは質問タイムが開始されるよりも前のことだ。

 

 男子生徒が壇上に連れられた、その瞬間から。

 

 ある者は、校庭に座る人質達の中で憤怒の表情を浮かべ。

 ある者は、天高く空を飛翔しながら冷笑で見下ろし。

 ある者は、学校付近の道に迷い涙目で。

 

 またある者は、少年の教室に侵入して彼の机を探し当て舌なめずりを。

 またある者は、少年の下駄箱に顔を突っ込み恍惚と。

 

 ――あの禿デブ許すまじ。

 

 と、心の中で炎を燃やしていた。

 二人は、少年を危険な状況へと立たせたことへの正義の怒り。

 四人は、少年を自分以外の者が人質としたことへの悪の妬み。

 

 早急に少年の身柄を抑え、どうしてやろうかと各々考えていた矢先。

 例の質問タイムである。

 

 とんだ茶番だ、隙をついて少年を奪取しようとそれぞれが身構えていた、その時。

 それは聞こえてきたのだ。

 

『――僕の好きなタイプは』

 

 まるで決意を表明するかのように、悲壮な表情を浮かべた少年。

 何よりもその内容は、彼等の動きを止めるのに十分であった。

 

『僕より背が高く……ても、低くてもよくて』

 

 ――まさか。

 

 一致する。自分は少年より背が高く(低く)て。

 

『僕より年上……でも、年下でもよくて』

 

 ――まさか、これは。

 

 一致する。自分は少年より年上(下)で。

 

『女……でも、男でもある』

 

 一致、する。自分は女(男)である。

 

 少年の好きな人のタイプ。それは――。

 

 ――間違いなく、己のこと! それ以外あり得ない!

 ――そうだ、やっぱり彼と自分は両想いなのだ!!

 

 視線はあっていないけど、分かる。間違いなく少年は、その円らな瞳の先に自身の姿を映している。

 人質にとられ、怯えながらも尚。まるで、誇るように。こちらに届くと信じるようなその様の勇ましいことか。

 

 恐怖の縁にあって、間違いなく少年は己への思いを伝えたのだ!

 

 ならば、それに応えねばなるまい。

 満を持して、一人の少女と一人の少年、それに一人の幼女と一人の男児。加え、二人の成熟した女性の計六人は舞台に上がった。




久々ですが、気晴らしに書いたので投稿。
書いててなんだこれとはなりました。
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