「まあ、悪くないか………」
頭にはめ込んだままの金のサークレットを手で触って確認。
着け心地は悪くなく、頭の防具になり、
視界の邪魔にもならないから、
ずっと着けたままでも問題なさそう。
コレ自体が重装フォートレススーツ『斉天』の起動アイテム。
形状から西遊記の孫悟空が頭に嵌めていた金の輪『
三蔵法師が念仏を唱えると締め付けられるアレだ。
そう考えると微妙な気分になってくるけれど……
「では、次の宝箱に行ってみようか!」
2つ目の小さな宝箱へと目を向けた所、
パタパタ
『マスター、1つ目の宝箱にまだナニカ残っているよ』
「え?」
白兎が1つ目の宝箱の前で耳をパタパタ。
慌てて1つ目の宝箱の中を覗き込むと、
底の方に半透明の布が置かれていた。
「あ、コレ……、敷布じゃなくて、お宝だったのか………」
最初、覗き込んだ時、金のサークレットばかり目が入って気づかなかった。
宝箱から取り出し、手に取って見てみると、
「うわあ~……、めっちゃ綺麗な布………」
薄い絹のような素材で編まれた半透明の布束。
少し広げてみれば、銀色の滑らかな光沢が目に飛び込んでくる。
表面の模様は川の流れをデザインしたような図型。
所々に星々が散りばめられ、キラキラと輝いているように見える。
幅は30cm、長さは3m程ありそう。
着物の帯かと思うもあまりに薄すぎる。
首に巻くマフラーにしては長すぎるし………
「あ! これは………羽衣か?」
天女や仙人が纏う薄絹の衣。
空を飛ぶ力を持ち、日本の民話でも羽衣伝説などで有名。
天から舞い降りた天女が水浴び中に、
人間の男によって羽衣を隠され、
天に帰れなくなり、夫婦となって暮らすという物語だ。
「つまり、これには空を飛ぶ力がある?」
手に持って能力を調べようとするも、
『斉天』のように使い方が頭に流れ込んでこない。
これは『斉天』が特別だったのか、
それとも何か条件が違うのか……
「旦那様、少し貸していただいてもよろしいですか?」
「ああ、芙瑶。頼む」
横から芙瑶の申し出。
断る理由も無く、彼女に貸し与えると、
返ってきたのは意外な答え。
「………これは女性、若しくは女性型しか装備できない仕様のようですね」
「え? そうなの?」
「はい。妾もこういったモノに詳しいわけではありませんが……、こちらの羽衣、最上級の発掘品防具『
「『
元の世界で夏から秋にかけて良く見える、夜空に輝く星の帯、天の川。
中国語だと『
確かに羽衣の模様は星の光で編まれた天の川のよう。
美しい意匠に相応しい名前だと言える。
「それで能力は?」
「先ほど旦那様がおっしゃっていた『空を飛ぶ能力』もございますが、主とするのは『現象制御』『結界制御』『光子制御』を組み合わせた防御機能です。自動防御ではなく、自らの意思で発動させる必要があり、難易度は高いようですが、相応の性能を発揮するでしょう」
「へえ? そんなに薄い布なのにねえ………」
「また、感応術に対する抵抗力を向上させる機能もございます」
「感応術? ………機械種の支配権を奪ったりする術か……」
聞けば聞くほど、俺には使い道の無さそうな防具のよう。
そもそも、女性じゃないから使えないけど。
自発的に防御機能を発動させる必要があり、
使いこなす難易度が高いという時点で、俺には不要。
どう考えても、芙瑶に渡すのが最善であろう。
仙女である西王母が持つに相応しいアイテム。
おそらく芙瑶もそう思っているはず。
『
何かを期待するような目をこちらへと向けている。
この美しい羽衣は芙瑶に似合うに違いない。
まさしく彼女に渡す為に出てきたアイテムだと言える。
けれども、いきなりこの場で『
なぜなら、最初に仲間となり、
陰日向で俺を助けてくれていた白兎に対して、
まだ何も褒美を渡せていないのだ。
白兎を飛ばして芙瑶に先に褒美を渡すのは道理に反する。
いずれ芙瑶に渡すとしても今ではない。
だから、この場では一時保留とするしかない。
「調べてくれてありがとう、芙瑶。とりあえずコレの使い道は後で考えることにする」
「……承知いたしました、旦那様」
ニッコリ微笑んで『
その表情に一片の曇りも無く、
一分の不満さえ見せない所が、
余計に恐ろしく感じてしまう。
あまりに恐ろしくて彼女と目を合わせられない。
内心、どのような感情が渦巻いているのか?
ひょっとしたら「ケチ臭いマスターめ!」とか、
心の中で罵っているかもしれない。
かなり幻滅させてしまったのかも……
忠誠度があったとしたら、何ポイントくらい下がったのであろうか……
でも、ここは彼女のマスターとして断固たる姿勢を見せねばなるまい。
そこは俺としては譲れない所なのだ。
はあ………
組織のリーダーとして、仲間を率いるというのは実に難しい。
白兎と芙瑶のたった2機で、ここまで気を遣わなくてはならないのなら、
今後ドンドンと仲間が増えていき……、仮に20機まで増えたとしたら、
一体どうなってしまうのか………
できれば次の宝箱で白兎が欲しがるようなモノが出てくると良いのだけれど。
ピコピコ
『開いたよ~』
「お、そうか………」
白兎から2つ目の宝箱を開いたという報告を受ける。
両手に乗るくらいの小さな宝箱だ。
中身が武器・防具の類ではないのは明らか。
中のアイテムは掌に乗る程度の大きさであろう。
「さて、中身は………」
祈るような気持ちで次の宝箱を覗き込む。
「宝石か? ………緑色だからエメラルド? それとも翡翠?」
宝石なんて全然詳しくないから適当。
指で抓めるサイズの透き通った緑色の石。
それが2つ、箱の中で並んでいた。
「水晶かな? でも、緑色の水晶なんて聞いたことが無い………」
親指と人差し指で、その1つを抓み上げてみる。
指輪に付けるには大きすぎる。
首飾りか王冠にでもはめ込まれている方がお似合い。
「高く売れるのか、コレ?」
この世界の宝石事情は分からないが、
最高位の朱妃を倒して出てきた宝箱の中身なのだから、
絶対に価値があるはずなのだが………
フリフリ
『マスター、緑色の宝石ってことは……それって、多分、【翠石】だよ』
「翠石?」
パタパタ
『その中に機械種用のスキルが入っているの』
「スキル? ………護衛とか、回避とか、何々制御って奴か?」
フルフル
『そうだよ。何のスキルが入っているかは、Mスキャナーで見ないと分からないけど………、ダンジョンの最下層、しかも、朱妃の宝箱から出てきたんだから、『特級』の可能性もあるね』
白兎からもたらされる翠石の情報。
色々聞いてみたいことはあるが、今、一番重要なのは、
コレがどのくらい価値があるのかということ。
その内容からかなりお高いモノだと思うのだが……
「仮に特級のスキルだと、いくらくらいになるんだ?」
ピコピコ
『何のスキルかにもよるけど………、最低でも2000万Mくらいかなあ……』
「はあ?」
白兎の説明に呆けた面を晒す俺。
え? 俺の聞き間違いか?
2000万Mって聞こえたけど?
それって、日本円にして20億円くらいじゃなかったっけ?
フリフリ
『特級スキルは貴重なの。1個下のランクの最上級でも、500万Mはするからね』
「………………ひゃああああああっ!!」
手で抓んでいるだけの宝石に、
そこまでの価値があると分かって悲鳴を上げる俺。
いきなり手が震えだし、
オマケに指もプルプルと痙攣状態。
足もガクガクと揺れ始める。
俺の指と指の間に20億円、
低くても5億円があると分かって、
平静でいられるはずがない。
パタパタッ!
『マスター! 気をつけて! 落としたら割れるよ!』
「やめろおおお! それを今言うなあああ!! 20億円が粉々になるだろうが!」
フリフリ!
『ちなみに言っておくと、蒼石や晶石と同様、機械種は翠石を認識できないんだ。何とかできるのはマスターだけだからね』
「いやああああああああ!! 俺を追い詰めるなあああああ!!」
とか、あったものの、何とか無事に、
翠石とやらを宝箱に戻すことができた。
「クッソッ! なんてインフレの進み具合だ………、ちょっと前まで1億円で驚いていたのに………、いきなり、その5倍とか20倍とか、言われても困るぞ……」
げっそりとした表情で愚痴を零す。
僅か1分足らずで数年寿命が縮まったような気分。
「しかし、何のスキルか分からないのは困るな。その……Mスキャナーというモノも手元には無いし………」
確かジュレが持っていたはず。
俺が頼めば使わせてもらえるだろう。
しかし、もし、ジュレの見ている前で、
この翠石が特級だと判明した場合……
「普通に考えて、大騒ぎになるのは間違いないだろうなあ~」
Mスキャナーを使わせてもらうにしろ、
その結果は誰にも見せるわけにはいかない。
果たしてそんなことが可能なのかどうか……
ジュレはお人好しだから、何とかなるかもしれないけれど、
あまり人の好意に頼り過ぎるのも良くない。
できれば、俺用のMスキャナーを手に入れたい所。
それにしても、街に戻ってからになるのだが。
今、この場で判定する方法が無いのは変わらない。
「折角貴重そうなお宝なのになあ………」
宝箱に収まった状態の翠石2つを眺めながらポツリ。
当面、売るのは不可能。
身元不明のスラムの一少年でしかない俺が、
どうやったって、そんな額の売買ができるはずがない。
見せた途端、大騒ぎになって狙われるのがオチ。
街中の悪党が襲いかかってくるだろう。
となると、仲間に使うしかないのだが………
せめて何のスキルか分かるのなら、
白兎への褒美にできたかもしれないのに………
フルフル
『ねえ、マスター』
「なんだ、白兎」
翠石を前で悩む俺に、
白兎が声をかけてくる。
ピコピコ
『さっき、マスターが抓んでいた方の翠石、僕にくれないかな?』
「え? ………欲しいのか? 何のスキルか分からないんだぞ」
パタパタ
『それは大丈夫。多分、僕にとって必要なスキルのような気がするんだ』
「………………」
白兎からの申し出に、しばし考えこむ俺。
どうにも白兎が俺に気を利かせて申し出てくれたように思えたから。
けれども、白兎から申し出てくれている以上、
それに、応えてあげるのはマスターとしての義務であろう。
「分かった。お前にコレを渡そう。今まで俺を支えてきてくれたことへの褒美として………」
5億円か、20億円か………
それを白兎に注ぎ込むことになるのだが、後悔はない。
白兎であれば、きっとそれ以上に活躍してくれるに違いないのだから。
「えっと………白兎。どうやって、翠石を使うんだ?」
フルフル
『僕の口に入れたら飲み込むよ』
「え? そんな使い方なのか?」
白兎の説明に驚く。
なんとまあ、機械らしからぬ取り入れ方法。
ケーブルをつないで入力するとか、
差込口に挿入するとかのイメージだったが、
まさか機械種へのスキル投入方法が口飲摂取だとは思わなかった………
あ、やっぱり、白兎がおかしいのか………
チラリと芙瑶の方へと視線を向ければ、
『何言ってんだ、この兎………』とでも言いたそうな表情。
さらに俺と目が合った途端、ブンブンと首を横に振る始末。
まあ、白兎のことだから今更だ。
なにせ白兎は純粋な機械種では無く、
俺の宝貝と霊獣を兼務しているらしいのだから。
「ホレ、入れるぞ」
慎重に指で抓んで、パカンと開ける白兎の口へと放り込むと、
ジャラララララララララララララララ!!
「なんだあ?」
突然、辺りに鳴り響く音楽。
カジノのBGMに流れていそうなアップテンポのメロディー。
おまけに、玄室内にミラーボールのような七色の光が溢れ出す。
さらによく見てみれば、白兎の両目がまるでスロットマシーンのように回転。
どうやら揃えるべき絵柄は漢字である模様。
『燃』『冷』『現』『虚』『波』『深』『電』『子』などの文字が上下に激しく流れていく。
「な、な、何事ですか?!」
流石の芙瑶も動揺を隠せない。
突然始まった訳の分からない状況に、
普段のお澄まし顔を崩して焦っている様子。
「何が……、何が起こっているのですか、旦那様!」
「落ち着け。多分、白兎のいつものパターンだ」
と、芙瑶を落ち着かせつつ、俺も何が起こるのかは不明。
けれど、絶対に悪いことは起こらない。
頭を抱えるようなことにはなったとしても……
そして、BGMは佳境。
激しく鳴り響き、そろそろピークを迎えようとしたところで、
ジャラララララララララララララララ…………ダンッ!!!
一際大きな音が鳴ったと思うと、
白兎の回転していた目の動きが遅くなっていき………止まった。
そして、その両目に映った漢字は………
『創』と『界』
フルフルッ!
『やったー! 念願の【創界制御(最上級)】を手に入れたぞおおお!』
白兎は大声を張り上げ、その場で高くジャンプ。
ピコピコッ!
『これでラビットキングダムが建国できる! ウサギの、ウサギによる、ウサギのための国が………、僕が夢見た理想の世界が………』
辺りをピョンピョン飛び回り、
嬉しさを爆発させる。
パタパタッ!
『今まで、『世界の秩序は侵させない!』とか『混沌をこれ以上広めさせるわけにはいかない!』とか言って、絶対に創界制御を入れてくれなかったけど……、ようやく、ここにきて、手に入れることができたよー!』
白兎の奴……、なんか不穏なことを言っている。
内容からするに、誰かに止められていたみたいだけど、
その禁を図らずも俺が破ってしまった形になったのか……
だんだんと致命的な失敗をしてしまったような気になってくる。
世界の秩序を崩壊させる切っ掛けを、
混沌の侵略の口火を、
俺が白兎に与えてしまったのであろうか?
きっと、それが確信に変わるのは何年も先のこと。
その時になって、その選択を後悔しても、もう遅いのだ………
まあ、それはともかく、
これで芙瑶に『
「はい、これは俺からの褒美だ」
「旦那様、妾はまだ褒美を頂けるほど、お役に立てていませんが……」
「ダンジョンの最下層から脱出させてくれただろ? それに、仲間なんだから、お宝が手に入ったら分け前があって当然だ」
「…………ありがとうございます。生涯、大事に致します」
俺から渡された『
上品にお礼を述べる芙瑶。
天女の羽衣は、きっと芙瑶に似合うであろう。
彼女の美しさをより際立ててくれるに違いない。
褒美の授与も終了。
残った翠石を七宝袋に収納し、
玄室を出てダンジョンの出口を目指す。
敵とはほぼ遭遇せず。
芙瑶の姿を見ただけで逃げ出した機械種ラットが数機いたくらい。
そして、玄室を出てから1時間もかからずに出口に到着。
「もう日が暮れかけているな………」
斜めに差し込む夕陽の光はオレンジ色。
あと2時間もしないうちに辺りは真っ暗になってしまうだろう。
「後はスラムに帰るだけか」
何と長い一日であっただろうか?
地下1階で機械種ラットを青雲剣の衝撃波で破壊。
その後の戦闘は白兎に任せ、機械種リザード2機を仕留め、
地下2階では、機械巣スネーク、機械種バットを退けた。
地下3階から、白兎と交代して俺が前に立ち、
機械種コボルト3機を俺自身の手で切り捨てた。
それから、縦穴を降りて、最下層へ直行。
そこに現れた機械種キマイラを白兎が粉砕。
そのまま白兎を先導させ、最下層を進んでいくと、
ジョブシリーズ、ストロングタイプの機械種パラディン2機と遭遇。
罠が発動し、俺と白兎が分断された。
そこで俺の前に現れたのが機械種ビショップ。
初めてのレッドオーダーとの会話を重ねるも戦闘は避けられず。
結局、機械種オルトロスの横やりを受けつつ、激戦の末、勝利。
ここでようやく『闘神』スキルの本来の力を知ることができた。
そして、白兎と合流を果たし、ダンジョンの最奥へと足を進ませ、
ダンジョンマスターである朱妃、機械種セイオウボと出会った。
お茶会、一世一代の告白を経て、試練を受けることとなり、
降りかかる攻撃を青雲剣の力を以って何度も切り払い……
巨大化した彼女を前に怯えて足が動かなくなるも、
白兎のエールを受けて勇気を取り戻し、
手加減をされつつも、最終的に彼女の試練に打ち勝つことができた。
そして、機械種セイオウボさんとの悲しい別れ。
新しい仲間、芙瑶との出会い。
宝箱を開封してのお宝見分。
手に入ったお宝を分け合い、
ようやく、ダンジョンの出口まで辿り着いた。
「さあ、帰るぞ…………」
このダンジョンに来たときは俺と白兎だけ。
けれども、今はそこに芙瑶が追加。
1人と1機でスラムを出て、
1人と2機でスラムに帰るという………
「あれ? 芙瑶をこのままスラムに連れ帰って良いのか?」
ふと、芙瑶を振り返って、その姿をもう一度確認。
濡れたような美しい黒髪に煌びやかな髪飾りが多数。
青と緑を基調にした高級感溢れる中華風ドレス。
絶世の美女と言っても差支えの無い美貌。
女性美の極致と言える黄金律のスタイル。
目に青い輝きが無ければ、人間としか見えない外見。
見るからに超高位機種であるのは丸分かり。
スラムに似つかわしくないのは間違いない。
スラムどころか、街でも同様であろう。
果たして、このまま彼女を連れて帰った場合、
一体どのような騒ぎが発生してしまうのか………
「ど、どうしよう?」
彼女を連れ帰らないという選択肢は無い。
では、何とかその姿を隠す形で連れ帰るしかないのだけれど……
俺のパーカーで顔や体を隠してもらう?
しかし、彼女のスタイルはパーカー1枚で隠せるモノではない。
夜の闇に紛れて進む?
スラムとはいえ、街灯りが無いわけじゃない。
それにどちらかというと夜の方が治安は悪そう。
「う~ん………、どうやって、芙瑶の姿を隠せばよいのか……」
頭を捻るが、そう簡単に良いアイデアは浮かんでこない。
しかし、そんな俺を見かねてか、
芙瑶自身から提案の申し出。
「旦那様。よろしければ、妾が変化いたしましょう」
「変化?」
「はい………、妾には外見を変化させる外装が幾つかありまして、ソレを使えば機体を変化させることができます」
知ってる。
俺との試練では、全高15mの半獣半人に変化したのだから。
しかし、流石に全高15mの巨体で街に入ることはできないと思うぞ。
と、いう俺のツッコミが入るよりも早く、
「では、ご覧ください」
と、芙瑶が言うや否や、
その姿がピカッと輝き、
一瞬、白の光で視界が覆い尽くされたと思ったら、
「どうですか、旦那様? こちらの姿は……」
芙瑶がいた場所に、
白い機体の機械種ラビットが1機佇んでいた。
全長は白兎と同じ40cm程度。
丸っこい機体に、つぶらな青く輝く瞳。
耳を2本ピンと立て、片方の耳には花飾りが一つ。
「似合いますか?」
機械種ラビットとしか思えない姿から発せられる声は、
間違いなく芙瑶のモノ。
クルッとその場で一回転。
まるでモデルのような華麗な動きを見せる。
姿は機械種ラビットなのに、
その振る舞いは驚く程に上品。
片耳につけている花飾りの影響かもしれないが、
本来性別の無いはずなのに、はっきりと女の子と分かる。
「ラ、ラビットに変化したのか?」
「はい、白兎さんを参考にさせていただきました………、どうです? 白兎さんより可愛いと思いませんか?」
上目遣いで首をキュッと傾げて問いかけてくる芙瑶。
その姿は思わず目を奪われそうになるほど可愛らしい。
「そりゃまあ、可愛いけど………」
白兎がわんぱく坊主の可愛さだとすれば、
機械種ラビットとなった芙瑶は女の子の可愛さだろう。
後は好みにも寄るだろうが、大半の人間は芙瑶の方が可愛いと思うかもしれない。
「フフフフ、あらあら? 白兎さんに可愛さで勝ってしまいましたね」
前脚で口元を抑えつつ、
悪戯っ子のように笑う芙瑶。
彼女からしたら揶揄ったつもりかもしれないが、
その発言を絶対に看過できない機械種がここに1機。
パタパタッ!!
『ダメえええええええ! 世界一可愛い機械種ラビットは僕なんだからあああああああああ!!』
地面にひっくり返って、
手足をバタバタさせながら絶叫する白兎。
フルフル!
「ヤダヤダヤダアアアアア!! 僕が世界一可愛い機械種ラビットなのおおおおおお!」
まるでこの世の終わりかと思うほどに騒ぎまくる。
ここまで白兎が取り乱すなんて珍しい。
この様子を見て、流石に芙瑶も悪いと思ったのか、
地面で駄々を捏ねる白兎へと近づき、優しい声で話しかける。
「白兎さん、安心してください。妾は世界で2番目に可愛いラビットでいいですから………」
フルフル
『本当? 僕から【
芙瑶の言葉に、白兎は仰向けのまま、ジロリと目を向け確認。
「はい、大丈夫です。取ったりなんかしませんよ。その代わり本来の姿に戻った妾は世界一の美女ですからね」
フリフリ
『分かった。芙瑶さんは世界一の美女で、僕は世界一可愛いラビット………』
ムクリと起き上がり、芙瑶と向かい合ったと思ったら、
互いに右前脚を出し合い、その場で固く握手を交わす………
どうやら、ここに強固な条約が結ばれた様子。
条約が継続する限り、互いの領域を侵さない限り、
この2機は共に力を合わせ、活躍してくれるに違いない。
「ふう………、全く、騒がしい仲間達だなあ………」
そんな2機のやり取りを眺めながら安堵の溜息。
そして、これから俺達が帰還するスラムの方向へと視線を向ける。
力は手に入った。
仲間が1人増えた。
金……マテリアルについては、換金の問題はあるけれど、
当面の資金は問題が無い程度には集められたであろう。
芙瑶の問題も片が付いた。
機械種ラビットが1機増えたくらいなら、誰も気にしないはず。
とにかく、今は早く青銅の盾の寮に戻り、
心身ともに疲れを癒してから、
これからの方向性を仲間達と打ち合わせしよう。
手に入れたリザードやスネークの晶石、
機械種コボルト3機の晶石、
機械種キマイラの晶石、
機械種ビショップを始めとするストロングタイプ3機の残骸、
機械種オルトロスの晶石、
従属させた機械種セイオウボの芙瑶、
重装フォートレススーツ『斉天』、
未だスキル不明の翠石。
これらをどこまで見せて、
どこまでを見せないのかを決めなくてはならない。
それによって、今後の生活が大きく変わるのは間違いない。
ジュレに力を貸して青銅の盾を盛り立てるのか、
それとも新たに所属するスラムチームを探すのか、
色々すっ飛ばして、この街から世界に向かって旅立つのか……
パタパタッ!
『マスター、早く街に戻ろうよ、日が暮れちゃうよ!』
白兎がピョンピョン跳ねながら俺を呼ぶ。
その隣では芙瑶が静かに佇む。
「ああ、分かった。今行く」
2機の仲間達へと向かい足を進める。
どの選択肢を選んでも、
俺はこの2機達と一緒なのは間違いない。
そう彼女と約束したのだから。
ここで一度更新をストップします。
次は「小説になろう」「カクヨム」での本編の中央編の更新に入る予定です。
カクヨムの近況ノートに芙瑶と斉天のイラストを投稿しております。
ご興味があればご覧ください。