ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート   作:らっきー(16代目)

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ようやくアズカバンが終わるので初投稿です


おまけ13-3

 ピーター・ぺティグリューが去った後、残った2人は話を続けていた。

 

「それで、この男はどうするんだ? わざわざ僕に記憶を弄らせたってことは、何かしら役割があるんだろう?」

 

「え、いや……うーん。処分の仕方を考えないとなぐらいで、特になにもないかな……?」

 

「……まさか僕の作業は徒労か?」

 

「それこそまさか。正しく処分しなきゃ後が大変になるでしょ? 魔法省に突き出した時に冤罪だったとか真犯人だとか騒いで、万が一にでも周りがそれを信じちゃったら困るからね」

 

「殺してしまえばいいだろう?」

 

「それで脱獄犯を永遠に警戒し続けるって? いや、世間の迷惑はどうでもいいけど……厳戒態勢がずっと続くのはちょっとね」

 

「そういうものか……」

 

「そういうものだよ」

 

 人を人とも思わないような会話。トム・リドルは将来ヴォルデモート卿としてゴミのように人を殺すことであるし、リリー・ウールは世界全てを憎悪しているのだから今更すぎる話ではあるが。この2人なら人を人だときちんと認識したところで対応は何も変わらないだろう。

 

「まあこれでもちゃんと感謝はしてるから安心してよ。私はリドルほど魔法が上手くないからさ。特に記憶に関しては君の方がよっぽど上手だ。……感謝の印でもあげようか?」

 

「不要だ。大体、昔から数えたら君がどれだけ僕に借りを作っていると思うんだ?」

 

「その分私はデカい貸しを作ってるでしょ? マートルしかり、ヴォルデモート以降……は無しにしといてあげよう」

 

 人を人と思わなくても、互いをそれぞれなりに大事には思っている。この関係をなんと評せば良いのかはお互いに決めかねているが。リリーは1番近いところで言えば共犯者になるのだろうか、なんてぼんやりと思っている程度であるし、リドルはこの関係に名前を付けないことに決めている。

 

「脱線したな。それで、結局この男はどうするんだ?」

 

「魔法省に突き出すのは確定だけど……余計な事を喋られても困るんだよね。……ああ、別に君の記憶を弄る才能を疑ってるわけじゃないよ? ただシリウスがどう動くかは私にはよく分からないから。なにせタイプが違いすぎるからね」

 

 1度も本気で怒ったことが無い人間には激情というものは分からないだろう。それと同じようにリリーにはシリウスのような人間の気持ちを想像はできても理解は出来ない。万が一にでも感情のままに暴走して、結果として忘却術が破られるなんてことになっては困るのだ。

 

「まあ、死んでもらうのが1番ではあるかな。ひとまずは……『インペリオ』これで森にでも隠れといてもらおう。禁じられた森なら食事もどうにかなるでしょ。最悪ハグリッドのお世話にでもならせればいいし」

 

「任せよう。……いや、正直に言うと君がどうするのか興味がある。僕だったらとっくにこの男を殺して処理しているだろうから」

 

「おや、じゃあリドルも『リリー先生』の授業を聞くかい?」

 

「それで君の役に立てるのなら、喜んで」

 

「……それはそれでなんか嫌だな」

 

 

 

 それからさほど時間も経たず……満月の夜。

 

 この日をシリウスの処分に使おうと決めた決定的な理由はヒッポグリフの処刑である。より正確に言えば、その案件に首を突っ込んでいるハリー達が禁じられた森の近くまで来るであろうことを見越して、となるだろうか。

 

 リリーの目論見通り心優しいハリー達一行は、1度首を突っ込んだヒッポグリフの顛末を見届けるためとハグリッドの小屋までやってきていた。流石に処刑を見届ける勇気までは持てなかったようだが、歳を考えれば仕方の無いことであろう。

 

 ハリー達3人は透明マントを被って移動していたが、リリーの義眼は透明マントも見透かせる。

 

 結果、ハリー達からすれば突如姿を現した大型犬がハリーだけを禁じられた森へ攫っていくという光景が生まれた。

 

 

 

 一方、禁じられた森……正確に言えば、森の中の暴れ柳から辿り着ける叫びの屋敷ではリリーとリーマス・ルーピンが待機していた。

 

「……先生、本当に上手くいくんですか? 幾らなんでも今のシリウスにハリーと接触させるのは危険過ぎるのでは? 私達だけでケリをつけても──」

 

「心配しなくても別にあんな懇願に心を動かされたわけじゃないよ。それに破れぬ誓いも結んである。ハリーをここに連れてくる以上の危害を加えようとすれば、誓いが破られて勝手にそこで死ぬさ」

 

 実際に使われたのは破れぬ誓いの魔法ではなく服従の呪文である。ハリー・ポッターを叫びの屋敷に連れてくる以上の危害を加えさせないという結果はどちらにしても同じではあるが。

 

「……心を動かされた訳じゃないなら、先生は何故シリウスを吸魂鬼に突き出さなかったんですか?」

 

「おや、彼が戻ってくるまでの暇潰しのおしゃべりかい? まあ付き合ってあげようか。……うーん、でもそうだな。理由か」

 

 暫し考えるような様子を見せて、女は語り始める。

 

「教え子があまりにも惨めな最期を遂げるのは心が痛むからっていうのが1つと……ハリーにも知る権利ぐらいはあると思ったから、かな」

 

「シリウス……裏切り者についてですか? 両親の死の原因を……残酷過ぎるのでは?」

 

「そうかもしれないけどね。でも、子供っていうのは大人が心配するほどヤワじゃないものさ。大人になるとついつい忘れてしまうことだけどね」

 

「私達の頃とは時代が違います。あの頃のホグワーツは不死鳥の騎士団と死喰い人の戦争が小規模で起こっていたようなものです。ですが今は──」

 

「平和な時代だ、って? 私はそうは思わないな。ハリーは『生き残った男の子』であって『ヴォルデモートを殺した英雄』とは誰も呼んでいないだろう? ほんとは、みんな分かってるんだ」

 

「……例のあの人が、また現れるとでも?」

 

「そう。そしてハリーはきっとそれに立ち向かう事になる。ならせめて、それに相応しい心を鍛えてやるのが教師の役目だよ……なんて、子供を戦わせようとしている人間の言葉じゃないか」

 

 自嘲するような最後の言葉。だが、その内容はルーピンにも危機感を抱かせるものであった。

 ヴォルデモート卿の復活。有り得ない、そう一笑に付してしまいたい。だが、あの時代を生きたからこそルーピンはそれが起こってしまった時の備えがいくらあっても足りないことが理解出来てしまう。

 

「先生は──」

 

「おっとそこまで。待ち人来たれり、だ」

 

 現れたのは少年を咥えた大きな犬、シリウス・ブラックである。

 

「……やあハリー。とりあえず混乱していると思うんだけど……いや、今からもっと混乱するだろうから、気になることは後でいくらでもまとめて聞いてくれると助かるかな」

 

 そんなことをリリーが話しているうちにも大型犬は人間へと姿を変えていく。今や指名手配の貼り紙を至る所や新聞で毎日のように見かける男の姿に。

 

「シリウス・ブラック……!?」

 

「ああ……ジェーム──いや、ハリー。君に話したいことがたくさん……謝りたいことが、いや、俺は許されないことを……だが、とにかく君と──」

 

「ストップだシリウス。まずはハリーに最低限の話をしてからじゃないと何も伝わらない。……リーマス、任せてもいい? 私よりは君の方が適任だろうし、その責任もきっとある」

 

「……異論はありませんよ。大元を辿っていけば私にだって責任のある話なのですから」

 

 ルーピンによって話された情報は、ハリーにとって知っていることも含まれていた。だがそれでも、目の前の男が自分の両親の間接的な仇だと知らされた時の衝撃は、思わず呼吸を忘れさせるほどのものだった。

 

「そいつが……ヴォルデモートに父と母を?」

 

「『秘密の守り人』……詳しくは省くが、この男が居場所を隠し通せば例のあの人も死喰い人どももジェームズ達を見つけ出すことは無かっただろう。だが……」

 

 そこまで言って、言葉を止めた。親友が裏切ったということを何度も口にするのは辛いものであろう。

 

「さて、ハリー。混乱しているところ申し訳ないのだけど、シリウスの言い分を聞いてやって欲しい。君をここに連れてこさせたのはそのためだ。なにせ、最期のお願いらしいからね」

 

 そう言葉を継いだのはリリー。そして服従の呪文の主の許可が出たことによってシリウスは話し始める。歪められた記憶と服従の呪文による、真実では無い真実を。

 

 恐怖に屈して両親をヴォルデモートに売った男の話を聞いても、不思議とハリーの心に怒りは浮かばなかった。いや、怒りは浮かんだがそれ以上に哀れに思ったと言った方が正しいかもしれない。それは発言者がおおよそ正気とは思えない様子であったせいかもしれないし、まだ実感が湧いていないからかもしれないし、目の前の男の悔恨に満ちた様子が余りにも惨めに見えたからかもしれない。

 

「……これ以上は、新しい話も聞けそうにないね」

 

 許してくれとすまないを交互に繰り返す機械のようになったシリウスを見下ろしながらリリーが言う。

 

「ハリー。私達……私とリーマスはこいつを殺すつもりでいたんだ。昔の教師と親友として責任は取らないといけないと思ってね。闇の魔法使いは殺しても罪にならないんだ。だから──」

 

「人を殺すなんて、ダメに決まっています!」

 

「おや、グレンジャー。それにウィーズリーも。よくここまで来れたね。暴れ柳をくぐり抜けるのは結構苦労すると思うのだけど」

 

 言葉の途中で挟まれたのは闖入者であるハリーの友人達の言葉。そして、至極もっともな正論でもある。少なくともマグルの法律で私刑は許されていないし、魔法使いの世界であっても黙認はされていても大手を振って許されている訳では無い。だが。

 

「さてグレンジャー。君の言うことは正しい。人を殺すのはダメだなんて幼児でも知っている話だ。けどそれならどうするんだい?」

 

「そんなの、魔法省に引き渡して──」

 

「うん、正しいね。でもそれだけだ。魔法省に引き渡して、それでどうなるっていうんだい? コイツに殺された何の罪もないマグル達の無念は? 私たちの悔恨は? 殺されたジェームズとエバンズは果たしてどう思うかな? ……分からないだろう? 私だってそうだよ。だからね」

 

 一息に述べて、続ける。

 

「私は死者に報いる方法なんて思いつかない。だからきっとその人……この場合は人達かな。せめて彼らが最期に望んでいたであろうことをしようと思ってね」

 

「何が言いたいんですか?」

 

「仇を討ってやろうってだけの話さ」

 

 そう言って、しかしリリーもリーマスも杖をシリウスに向けはしても呪文を唱えはしなかった。

 

「けどね、少しばかり考えが変わった。私達の責任感なんかよりよっぽど被害者と言うに相応しい相手がここには居るからね。その人にどうするべきか聞こうと思ったんだ。……君のことだよ、ハリー」

 

「……僕?」

 

「そうさ。シリウス・ブラックのせいで君の両親はヴォルデモートに殺された。仇討ちを望むなら私はコイツを殺そう。魔法省に引き渡せというならそのように。決められないというのなら、それもまた1つの答えだ。その時は私に任せてくれればいい。私達は君の意見を尊重する。リーマスとそう決めたんだ」

 

「僕……分からない。だって、父さんと母さんの仇だって急に言われても……そんなの……」

 

「実感が無いかい? じゃあ少し想像してみるといい。コイツが居なかった時のことを。……きっと君は両親の下で過ごして、ダーズリーなんて家に預けられることも無く、父親の仕事を尊敬したり、母親の小言をうるさいと思ったり、家に帰って食卓を囲んで学校のことを話したりして……そんな当たり前の生活を奪われたんだよ、君は」

 

 それは、ハリーが何度夢見たことであろうか。まだホグワーツのことなんて知らなかった頃、何度も何度も本当の両親がダーズリーの家から連れ出してくれることを夢に見た。両親はどんな人達だったのだろうと想像した。ホグワーツに来て少し両親のことを知ってからはどうして一緒に過ごす時間が自分には貰えなかったのかと恨みもした。

 

「ハリー! それでも人を殺すなんてダメよ!」

 

「そうだぜ、僕達……そんなこと決めるべきじゃない。先生に任せて……いや、さっさと帰ろうよ」

 

 ハーマイオニーはその聡明さと生真面目さからただしいとされている答えを選ぶと決めている。ロンはそんな暗いことに関わりたくないと拒否感を示している。

 

 だが、ハリーは違う。誰にも言ったことなど無いが、ハリーはこの2人を妬んだことすらある。『僕と違ってちゃんとした両親に愛されて育ったくせに。帰りたい場所があるくせに』と。

 

 その想いが、リリーの問いへの返答を鈍らせた。

 

「ハリー。君は一度君自身の感情に向き合わなくちゃいけない。ヴォルデモートに立ち向かうならね。君は殺意を持ってヴォルデモート……は死んだことになっているけど、彼とその手下に挑むのか。それとも別の向き合い方をするのか……それをなんと呼ぶべきかは分からないけどね」

 

 ヴォルデモートという言葉にハリー以外の子供達はビクリと身体を震わせる。そんなもの大人達に任せてしまえというのが彼らの本音だろう。共に困難に立ち向かったとはいえ、本当にヴォルデモートに立ち向かったのはこの中でもハリーだけなのだから。

 

「僕……分かりません。……けど、僕は殺意でアイツと戦おうとは思いません。それじゃアイツと変わらない」

 

「ふぅん?」

 

「僕、人の命がどうだとか、そんなことは分かりません。けど、もし僕がここで仇を殺してと頼んだとして、父さんも母さんも喜ばないと思うんです。僕が思う両親は……先生から聞いた両親は、親友がどうなろうと死ねだなんて望まなかったと思うから」

 

「君は仇を赦せるのかい?」

 

「赦すとか赦さないとか……そういうことじゃないんです。ただコイツに相応しい最後は他にある。コイツは……シリウスはアズカバンで吸魂鬼に怯えて生きるのが……なんというか……」

 

「相応しい?」

 

 そうです、と頷くハリーを見てリリーは考える。トムならきっと一瞬たりとも悩むことなく殺すことを選んだだろう。彼は自己愛が強いから、自分に連なる者を害する存在なんて許さないだろうから。そしてヴォルデモートもやはり殺すだろう。彼は殺意以外での他人との関わりをもはや覚えていないだろうから。

 

(予想が外れたかな? それとも……影響を与えられるほどの魂の欠片はもう残っていなかったのかな?)

 

 リリーが考えているのはハリーとヴォルデモートの繋がりについて。分霊箱を作るための『最も邪悪な行為』とハリーが蛇語を使えるという事実から、リリーはハリーの中にヴォルデモートの魂の一部が……要は、ハリーが分霊箱になっているのではないかと予想していた。だが、もしそうであるのなら人格なり記憶なりにもう少し影響を受けていてもおかしくはない。少なくとも日記の魂は闇の秘術と言えるほどには魂の一部としてしっかりと活動できているのだから。

 

「……君がそういうのなら、その通りに。シリウス・ブラックは吸魂鬼に引き渡すとしよう。そうと決まればこんな所からはさっさとおさらばしようか」

 

 考えを打ち切って、ひとまず目の前の問題を終わらせる。試金石としての価値すら無くなった以上もはやシリウス・ブラックがどうなろうとリリーにとってはどうでもよかった。だがそれとは関係なく、目の前で人が死ぬという様を見せられずに済んだ3人組は安堵の表情を浮かべていた。

 

 これで全てが終わり。シリウスはアズカバンへ戻り、ハリー達は日常へと帰る……はずだった。

 ホグワーツへと戻ろうとした彼らを迎えたのは、シリウス・ブラック警戒のために集められた全ての吸魂鬼であった。

 

 吸魂鬼は1対1で出会ったとしても、まともに立ち向かえないほどに精神的な負荷を与えてくる。それが大群となればもはや心が壊れてもおかしくはない。

 

「皆、固まって動かないように……それから、時間稼ぎにはなるだろう『レビコーバス』」

 

 吸魂鬼の影響を受けないリリーが取った行動はまさに時間稼ぎ。シリウスの身体を吸魂鬼の群れに向かって放るというもの。杖すら持たない彼の末路など語るにも値しないだろう。群れに隠され姿こそ見えないが、時間が経てばそこには魂を抜かれた抜け殻だけが残るはずだ。

 

「リーマス……は役に立ちそうにないか、無理もないかもしれないけど。ウィーズリー、グレンジャーは守護霊を覚えていない。となると……」

 

 小声で呟き、リリーはハリーの方を向き、辛い記憶に呑まれかけている彼に真剣に語りかけた。

 

「ハリー、聞こえるかい? 君は……というか私達は今そんな幻覚を見るまでもなく最悪な目にあおうとしている。どうすればいいかはもう教わったね?」

 

「守護霊の呪文……?」

 

「その通り。こんな時に幸せな記憶なんて思い出せないかい? なら1つ君に良いことを教えてあげよう。君は、両親から愛されていた」

 

「何を……」

 

「ヴォルデモートの前に命をなげうつのを厭わないぐらいに愛されていたんだよ、ハリー。君は望まれて、愛されて産まれてきたんだ。これ以上に幸せなことなんてあるかい?」

 

 ハリーがその言葉の真意にどこまで気づいていたのかはハリー自身にも分からない。ただ、その言葉で思い出した。写真で見た赤ん坊の自分を抱いて幸せそうに微笑む両親のことや、仲良くしてくれる友人達──即ち、愛を。

 

「さあ、その想いを杖に込めて。アイツらに一生理解出来ないものをぶつけてやるんだ。君は大丈夫だよハリー。君は愛されている。それを忘れないで」

 

 温かい言葉だった。なのにその言葉を聞いたハリーはどこか他人事のように語るのだなと感じてしまった。

 

 そうだ、僕は両親に愛されていた。今ではホグワーツで……それは嫌なヤツだって居るけれど、友人だって沢山居る。──先生は、どうなのだろう? 

 

『エクスペクト・パトローナム』

 

 愛と友情という実にありふれた、しかし確かに幸福な想いにより産み出されたハリーの守護霊は吸魂鬼達を問答無用で蹴散らしていく。その光景に安堵を覚えながら、リリーに抱かれるようにしてハリーは気を失っていく。吸魂鬼の影響に加え強力な守護霊を出したのだから無理もない。

 

 最後にハリーの頭を過ぎったのはリリーの過去について。思えば、自分は先生の事をどれほど知っているのだろうか。そんな思考。

 

 しかし。もしかしたらそれは、ハリーの中にある他の誰かの魂の欠片も同じことを思っていたからかもしれない。

 

 僕は、俺は、果たしてリリー・ウールという女性の事をどこまで知っていたのか──

 

 

 

 シリウス・ブラックがホグワーツにて確保され吸魂鬼のキスが執行されたという知らせはイギリス魔法界を安堵で包んだ。

 

「結局、今年僕達のした事は犯罪者1人の処理とネズミを1匹逃がしただけか?」

 

「ロケットの分霊箱から力を吸えたのもデカいと思うけど? それに、ぺティグリューは必ず役に立つさ」

 

「何故言い切れる?」

 

「窮鼠猫を噛む、ってね。ネズミもどきの彼にはピッタリな言葉だよ」

 

 人を1人破滅させた後でも、いつも通りにトムとリリーは会話をしている。

 

「それよりトム、本当に他の分霊箱は分からないの? 何にしたかとかそういう話じゃなくてさ、近くにあったら魂を感じとれるとか」

 

「前にも言ったが無理だ。あくまでこの僕は分けられた一欠片でしかないのだから」

 

「うーん……じゃあもう1つ質問。人間が分霊箱になることってあると思う?」

 

「不可能……とは言い切れないだろう。だが少なくとも僕はやろうとは思わないな」

 

「どうして?」

 

「自分の命を……一欠片とはいえ、他人に握らせたいか?」

 

「うーん。なるほど。単純明快だ」

 

 そこまで聞いてなお、リリーは内心ではあるひとつの可能性……ハリー・ポッターがヴォルデモートの分霊箱であるという可能性を捨ててはいなかった。

 魂が同居しているにしては影響が少なすぎるというのはそうだが、こじつければ蛇語が影響と言い張れなくも無いだろう。それに、ハリーが自分を見る時の目をリリーは思い出す。

 

 ある種の執着のような色が時々彼の緑の瞳に映るのをリリーは感じていた。自分が歳若い美女でもあれば別だろうが、流石に思春期の少年とは歳が離れすぎている。だというのに、まるで赤い瞳に見つめられているように錯覚する理由は、あるいは──

 

「なんて、考えすぎで済めばいいんだけどね……」

 

「何か言ったか?」

 

「君の分霊箱はなんだろうなって言ったのさ」

 

 それから少し、思い出の品や場所、執着していた物などについて話をしたが、あまり建設的な結果は得られなかった。

 

 

 

 ヴォルデモートが表舞台に帰ってくれば、悪を率いる頭領としてそのカリスマを発揮するだろう。

 リリーにとってそれは望ましい事態では無い。

 

 彼女が目指すのはあくまで無秩序な憎悪と報復と排斥の──獣の世界。

 

 それを見れば彼女はきっと、世界に愛など欠片も存在しないと安心出来る。

 

 リドルと一緒に居れば、もしかしたら幸せになれたのかも。

 

 そんな未練とも呼べないような心の底の僅かな後悔も、きっと自覚せずに済む。

 

今後について

  • 映画版の情報で書いていいよ
  • ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス
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