ベル・クラネルの治癒魔法の使い方は間違っているだろうか? 作:救命団副団長
「とにかく、ベル君はキチンと自分も大事にすること。いーい?」
「はい……」
エイナに叱られしょんぼり落ち込むベル。心なしか縮んだような。
「反省したなら、許してあげる。それじゃあ、ベル君の防具を買いに行こっか」
【ヘファイストス・ファミリア】は高級ブランド。それは間違いない。だが冒険者に駆け出しがいるように、鍛冶師にもまた駆け出しはいるのだ。
そういった者達はまず名を売らなくてはならない。如何に装備が優れていようと無名の作者と有名な作者では信用が違う。そのために駆け出しの鍛冶師の作品を安売りするのだ。
「それがここ。ほら、ベル君でも買えるでしょ?」
「わぁ……!」
鎧、槍、短剣、長剣、戦斧、メイス、盾。
様々な武具防具が、自分でも手の届く値段で売られている。その事実にベルは子供のように手をキラキラさせる。
「見てくださいエイナさん! この兜かっこよくないですか!?」ゴブリンカ?
「う〜ん、なんか呪われそう。それにほら、この角とか邪魔そうだよ」
「折ればなんとか……いや、せっかく造った人に失礼ですしね」
渋々兜を戸棚に戻すベル。
残された兜は不穏な気配を漂わせ次の担い手を待った。
「私のお説教のせいだけど、時間使っちゃったし手分けして探そうか」
「良いんですか? いってきます!」
エイナの言葉にベルは早速駆け出す。男の子だなあ、と微笑む。
エイナから離れた後、ベルは早速防具を探す。お金を貯めれば再び救命団衣を造れるらしいので、その繋ぎでしかないが………いや、その上からでもつけれる軽装のアーマーとかが望ましい。
「………ん?」
と、不意にベルが足を止める。防具の各パーツが山積みになった木箱。乱雑な扱いは、鎧の評価が低いことを意味する。だけどもベルは、その鎧を手に取る。
ライトアーマー。体にフィットする小柄なブレストプレート、膝当て、肘、籠手腰部など、最低限の箇所を保護する構造。
軽い。サイズもピッタリ。指に力を込めれば曲げられそうだけど、自分の力はちょっと強いから参考にならない。
中層で通じる、だろうか?
目利きができるわけではない。でもなんとなく、命を預けるに足ると、本能が言っている。
何より、
「ヴェルフ・クロッゾ………」
製作者のサインを見つける。ベルの心を一瞬にして掴んだ何者か。なんだろう、不思議と昔からこの人の作品に惹かれていたような、そんな気がする。値段は9900ヴァリス。うん、余裕!
「おーい、ベル君! 私良いの見つけちゃったよ! プロテクターに
戻ってきたエイナはベルを見て、次に木箱を見る。扱いからしてやはり評価が低いと彼女も気付いたのだろう。むむ、と顔をしかめた。
「それに決めちゃった?」
「はい。僕はこれにします」
「はぁ……ベル君って、本当に軽装が好きだね。せっかく選りすぐってきたのになあ」
「沢山の冒険者を担当してきたエイナさんが選んだんです、きっとそれも素晴らしい掘り出し物なんでしょうけど、僕はこれがいい」
すいません、と謝るベルにエイナは「いいよ、気にしないで」と苦笑した。
「ベル君が使うんだもんね。私としては身の守りのことも考えてほしいけど、君がこれって決めたんなら、それでいいと思う」
「………ありがとうございます」
早速ボックスを抱えてカウンターに向かう。店員も乱雑においたその鎧が買われるとは思ってなかったのか少し驚いた顔をしていたが無事購入。
「あれ?」
ふと、何時の間にかエイナが居なくなっていることに気づく。辺りを見渡し、すぐに見つけた。今まさに店から出てきた。とてもニコニコしている。
「ベル君。はい、これ…」
「へ?」
おもむろに手渡されたのは、細長いプロテクター。
エイナの瞳と同じ緑玉石《エメラルド》の色をした、手首から肘くらいの長さをしている。
「私からのプレゼント。ちゃんと受け取ってね」
「い、いいんですか? でも、その………」
女性から渡されたのなら、必ず受け取れと育てられたベルではあるが、だからといって高そうな物を受け取れるかというと………。
「私は貰ってほしいな。私のためじゃなくて、君自身のために」
「君ってば、他人はすぐ治すのに自分は何時でも治せるから後回しでいいって思ってるでしょ? 冒険者はさ、本当にふとしたきっかけで死んじゃうの。ダンジョンから帰ってこない冒険者を、私は何人も見てきた。ダンジョンで人を助けたいって思うベル君は、その分危険に飛び込むと思う。本当は止めたいよ、でもベル君は止まらないでしょ?」
「…………はい」
安心させる『嘘』はつけた。嘘の通じぬ神でもあるまいし、言葉だけで安心させる道もあった。だがベルは一切の嘘をつかず告げる。エイナは困ったように笑う。
「なら、なおさら受け取ってほしいな。私は君にいなくなってほしくないから。あはは、これじゃあやっぱり、私のためかな?」
「いいえ、ありがとうございます」
ベルはそう言ってプロテクターを受け取る。
「約束します。僕は、必ずエイナさんのもとに帰ってくる。何度冒険しようと、必ず貴方の顔を見るために地上に戻る」
「え、あ……う、うん。嬉しいなぁ…………あ、ほ、ほら! そろそろ【ガネーシャ・ファミリア】に向かわないと! フェルちゃん連れて、サポーターの子に会うんでしょ!?」
ベルの言葉に、笑顔にエイナは目を逸らしながら話を変える。ベルもハッとして失礼します! と走り出し、ピタリと止まり振り返る。
「今日はありがとうございました! エイナさん、大好きー!!」
「えぅ!」
変な声が出た。ベルはそのまま文字通り目にも留まらぬ速さで走り去った。残されたのは必ず貴方のもとに帰りますなどと告白としか受け取れないことを言われた挙げ句告白されたハーフエルフ。
周りの住民達が拍手したり独り身の己への当て付けかと嫉妬の視線を向ける。
「もう! ベル君は、本当にもう!」
妖精の血を引く美しい少女は怒りと羞恥で真っ赤になった顔で叫ぶ。
例えば優しいと噂の冒険者のパーティーに、サポーターが入ったとしよう。分前は多くなる?
優しい? それは仲間にだけだ。同じ冒険者だけだ。サポーターなんて雑用係、冒険者に奉仕して当然の役立たずに金など本当は1ヴァリスだって払いたくない。
サポーター無くしてこの稼ぎはありえないのに?
(それが冒険者……どんなに優しくたって、どうせそのうち邪魔に思うに決まってます)
自分で斃して自分で稼いだ金を、荷物を持つだけのサポーターが持っていく。割に合わないと、いずれ思うのだ。リリはそれを
「あ、お〜い! リリルカさ〜ん!」
どうせ相手が裏切るのだから、先に裏切ってやるのだと言い訳して、本音は世界の闇も知らなそうな子供への嫉妬を自覚して、リリはどうせ人懐っこい笑みを浮かべているであろう駆け出し冒険者の声に振り返る。
「ベル様! お待ちして……ま……し、た………」
「ワフゥ」
「あ、リリ。紹介するね、この子はフェル。【ガネーシャ・ファミリア】から特別に許可をもらった、僕の
巨大な狼がいた。大型の馬の二周りぐらいはありそうな立派な体高を持った狼。それを、許可をもらって
「荷物持ちはこの子がやってくれるから、リリルカさんは魔石やドロップアイテムの回収を………どうかした?」
「…………あの、何で
逆なら解る。【
「ああ、重りを乗せて走ったら鍛錬になるでしょ? 今の僕からすると、もうフェルは軽いんだけど揺らさず運ぶ練習にもなるし」
意味がわからない。リリは宇宙の情報を流し込まれた猫のような顔をした。