乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
公国の奇襲部隊を撃退した王国軍は、総司令官となったリオン君、そして、王家の船ヴァイスの元に次々と集結している。
父上は無事に領地に出発したことだし、僕もリオン君達のところに馳せ参じようと思っているのだが、あまり堂々と僕が集結場所に行くと、戦力の過剰集中的な意味で周囲をザワつかせてしまうことが気がかりだ。
それに、王家の船ヴァイスに、この世界の主人公様たるオリヴィアさんと一緒に搭乗することになってしまったアンジェの顔も見ておきたい。
となれば、変装して軽く挨拶するくらいにしておくか。
ちょうど陛下から、半ば悪ノリで仮面舞踏会に行こうと言われたときに押し付けられた変装グッズがあったのを思い出したので、
自室のトランクにしまっておいた服や仮面を袋から取り出す。
白いアイマスクにシルクハット、それに・・・よし、これなら僕だとわかる人なんてほとんどいないだろう。
突然現れた助っ人に、みんなが驚く様を見るのが楽しみだね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リオン君を総司令官とした王国軍の艦隊は、パルトナーを主軸に集結中であり、僕もアロガンツブロスを自動操縦にして、その掌に乗って近付いていく。
だが、艦橋の辺りがなんだか騒がしいようだ。
「私も参加させてもらおう!」
パルトナーの艦橋には、既に赤、青、紫、緑色の鎧があったのだが、そこに白く耀く鎧が舞い降りてきていた。
開いた胸部装甲から出てきたのは、ピッチリとしたパイロットスーツに、仮面を被った男だ。
声の感じからして、あの馬鹿王子であることは間違いないだろう。
あの勇気爆発テイストな仮面をしていないということは、本人なりに正体を隠したいという意向はあるのだろうが、隠したつもりなのだろうか。
「彼は何者ですか!?」
「仮面野郎、一体何をしに来た!」
「マリエ、下がれ」
ジルク、グレッグ、クリス、ブラッドがマリエを守るように、パイロットスーツを着た仮面王子・・・略して、パイスー仮面の前に立ちはだかった。
「私が何者か気になるようだな。そうだな、私のことは仮面の騎士とでも呼んでもらおう」
「仮面の騎士?」
ジルクが驚きながら、拳銃の銃口を、仮面の騎士と名乗るパイスー仮面に向けた。
「ちょっとこっちに来い、この馬鹿野郎!」
「ち、ちょっと待て!バルトファルト子爵、その手を放さないか!」
馬鹿王子の正体に気付いたと思しきリオン君が、仮面の騎士ことパイスー仮面の首に腕を回して、その場から連行しようとしている。
みんなの注目がパイスー仮面に集まっている今が、サプライズをするにはちょうどいいタイミングだな。
「総司令官の言う通りだ、この変態パイスー仮面よ!」
アロガンツブロスの掌から艦橋に飛び移っていた僕の声を聞いて、そこにいた面々の視線が僕に集中している。
「だ、誰だ!?」
「また怪しい仮面野郎が出てきやがった!」
「どこのどいつかは知らんが、こうなったら俺がまとめて斬り捨ててやろう」
「マリエ、僕たちが君を守るから安心するんだ・・・ってマリエ!?」
「僕が誰かって?そうだな、あえて言うなら・・・タキシード仮m」
「言わせねえわよ!?」
僕が必死に考えた、世を忍ぶ仮の名前を名乗ろうとしたところで、マリエが、懐かしのコメディアンみたいなセリフとともに、聖女の杖で殴りかかってきた。
どうやら、声だけを聞いて、僕の正体に気付いたようだ。
「股の緩さで一躍有名になった偽聖女様じゃないか。王家の船起動のドサクサでシャバに復帰した気分はどうだい?」
聖女の杖の殴打を、手に持っていたステッキで防ぐと同時に、僕はマリエの足元を崩そうとローキックを繰り出した。
しかし、マリエの方もほぼ同じタイミングでローキックを繰り出しており、お互いの脛がぶつかり合う。
「私は認めないわよ!その格好で、その名前を名乗るなんて、平成女子を代表して絶対に許さないんだから!」
「お前が勝手に代表するなよ!しかも、平成中期にワイドショーを騒がせたようなセリフで!」
「つい出ちゃったんだからしょうがないでしょ!」
「それならこっちだって、何故だかこの格好が凄く僕の魂にフィットする気がするんだから仕方がないだろ!」
聖女の杖とステッキに鍔迫り合いが続く中、マリエは頭を後ろに逸らすと、勢いを付けて頭突きを繰り出してきた。
僕もそれに 応戦し、2度、3度と頭突き合戦を繰り広げたところで、僕の被っていたシルクハットが頭部からずれ落ちる。
そのシルクハットが一瞬だけマリエの視界を塞ぎ、動きが鈍った瞬間に、僕は、マリエの腕を蹴り上げると、その衝撃で握力が弱まったのか、マリエは、右手から聖女の杖を落としてしまう。
「それでもアンタがその格好でタキ◯ード仮面様になりすますのは絶対に許せないわ!!」
「別に僕はなりすましてなんかいないよ!そもそも、僕は、中学生に手を出す大学生みたな淫行条例違反するような非コンプラ人間じゃねえ!」
その隙を突こうとステッキで殴りかかった僕だが、マリエは、無事な左拳を繰り出してステッキを粉砕してしまう。
結局、いつものステゴロファイトになるのかと呆れつつ、僕も魔力を込めた拳を放つ。
拳と拳での殴り合いがはじまり、何度かぶつかり合ったところで、今度は両掌を合わせての握力勝負が始まった。
「芸術的な古典を、未来の基準でコンプラ違反だって断罪するなんてナンセンスだと思わないのかしら!!」
「5股女がどのツラ下げて、コンプラどうこう言ってんだ!」
握力勝負を継続しながら、再び頭突きを2度ほど繰り出し合いったところで、アイマスクも吹き飛んでしまった。
僕は、このままだと埒が開かないと思い、片手を離してマリエの髪の毛を引っ張る。
向こうも負けじと、空いた手の指を鼻の穴に突っ込んできた。
「これが聖女のやることか!」
「うるさいわね!その声、その格好でこれ以上話すんじゃないわよ!」
罵り合いが再開したところで、僕の体が物凄い勢いで後ろに引っ張られてマリエから引き剥がされてしまう。
よく見ると、仮面の騎士ことパイスー仮面、ジルク、グレッグが僕の体を押さえている。
一方のマリエの側も、仮面の騎士ことパイスー仮面とクリスによって僕から引き剥がされているようだった。
「ええい、邪魔するな、このボンボンども!」
「貴方が一番のボンボンでしょう!」
「マリエと一切躊躇なく殴り合うから誰かと思ったらやっぱりギルバートさんかよ」
「クリス!ブラッド!今のうちにマリエをここから逃がしてくれ!」
マリエは興奮してまだ暴れようとしていたし、クリスとブラッドは仮面の騎士のことも怪しいと疑っている顔だったが、
指示内容自体は妥当だと判断したのか、そのままマリエをブリッジの方向へと引っ張っていく。
そして、マリエの姿が見えなくなったところで、なぜか無表情になっているリオン君がこちらにやって来た。
「そこの・・・たぶん偉い人2人こっち来て!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ギルバートさんもユリウス殿下も、何をしにきたんですか!?」
「ち、違う!私はそのような高貴なお方ではない。故あって顔は晒せないが・・・」
「身元の分からない怪しい奴は使えないんだよ、帰れ!」
「リオン君の言うとおりだね、仮面を外せないならさっさと帰ったらどうだい?」
王族の身に何かあったら責任問題になるだろう。それに、こいつらは、マリエが絡むとなにをしでかすかわかったものじゃない。
そう考えれば、リオン君が馬鹿王子を帰らせようとするのは妥当な判断だろう。
ゆえに僕もリオン君に乗っかって、帰るように促したのだが、王子様は渋々ながら、仮面を脱いで素顔を晒す。
「し、仕方がない・・・俺はユリウスだ」
「いや、知ってる。最初から気付いてたし」
「ナンセンスな変装は時間の無駄だからやめてくれます?リオン君もいい迷惑ですよ」
「いや、ギルバートさんもいきなりマリエと殴り合いを始めるなんて、何考えてるんですか!?」
「そうだ、いくらマリエのことが憎いからといって・・・」
「いや、出会って5秒で即殴りかかって来たのは向こうだから!しかも、聖女の杖なんていう凶器で!!」
我ながら、18禁の映像作品のタイトルのような言い方をしてしまった。だが、今回の僕は、間違いなく、降りかかって来た火の粉を払っただけだからね!?
「それよりも、バルトファルト。俺も今回の戦いに参加したい」
「お帰りはあちらです」
「お前が死んだら俺の責任になるんだよ!」
「だから仮面を着けてきたんだろうが!」
「仮面1つでリオン君の責任がなくなるとでも思ってるんですか?」
「わかったら、さっさと帰ってください」
「いや、さっきから俺ばっかりに当たりが強くないか!?責任問題って言うならギルバートさんだって何かあったら、っていうのは同じだろう!」
リオン君と僕に1人フルボッコにされていた馬鹿王子が、ずいぶんと不吉なifを言いながら矛先を僕に向けてきた。
「そもそもの話、僕は公爵家の軍勢を率いて公国と戦わないといけませんから」
「ぐぅ・・・」
「っていうか、僕に、わざわざ王都に残れと命令したのは陛下ですし」
「そうやっていつも父上を上手く利用して!」
「いや、振り回されてるのはこっちなんですけど!被害者はこちらですからね!?」
「そうやってブーブー言いながら、結局、父上とうまくやってるじゃないか!」
「国のトップと上手くやることが、臣下の仕事だってことがわかりますか?」
「母上とはギスギスしてるじゃないか!」
「そりゃ、妹を酷く傷付けたどこぞの誰かの産みの親ですからねぇ!」
「その前から母上とは仲良くはなかったじゃないか!」
「あれあれ?もしかして、もっと父親に構ってもらいたかったから嫉妬してるんですか?」
「何ぃぃぃ!?」
声を荒げて、馬鹿王子が胸倉を掴んでくる。
少し煽ったくらいにしか思っていなかったが、まさか図星だったか?
結局、元王太子と公爵家の跡取りという、他の貴族の見本となるべき人間2人による非常に見苦しい口論を見かねたリオン君の裁定によって、
馬鹿王子は王家の船ヴァイスの防衛に他の攻略対象4人とともに当たることとなり、
一方の僕は、アロガンツブロスをリオン君の機体と勘違いした部隊を引き付けつつ、余裕があれば王家の船に攻撃を仕掛ける部隊を横から殲滅する遊撃の役割を担うことになった。
ある意味で、攻略対象全員が、聖女に認定された女を守るために一致団結する、という形になったわけであるが、
妹が乗る船の防衛を連中に任せなければならないのは、極めて遺憾だ・・・
リメイク版の◯ーラームーンのタキシー◯仮面様は、兄上様と同じCV
ちなみに、兄上様のボンボン属性のインスピレーション元も、CVが同じな某デスティニーの中立国代表の婚約者