【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#13 アナザー・スカイ Part4

早朝、私はジャージーシティを発った。

ヴィブラニウム製のスーツをビニールでくるみ、紙袋に詰めて。

 

ブルーノに礼を言って、バスに乗った。

 

そうして、バスに揺られて1時間ほど。

私はニューヨークへと戻って来た。

 

 

「……ふぅ」

 

 

バス停へ到着。

朝の日差しに目が眩みそうになる。

 

 

「…………」

 

 

取り敢えず、自宅へ戻ろう。

アベンジャーズ・マンションだ。

メイやピーターには、カマラのスマホから連絡したが……それでも心配しているかもしれない。

家に帰って『帰った』と連絡する。

それが最優先だ。

 

私は足を進める。

 

アベンジャーズ・マンションはマンハッタンにある。

ここからそう遠くはない。

 

手にはアーマーの入った紙袋。

肩からカマラに借りたポーチ。

服装は……まぁ、ティーンエイジャーっぽいシャツとGパン。

 

私は成人済みなのだが、それでも小柄だ。

人から見れば、ティーンエイジャーと思われる……かもしれない。

 

これでも、レッドキャップを辞めた頃から発育が良くなってはいるのだが。

『S.H.I.E.L.D.』の医者曰く、極度のストレス状態がホルモンバランスを乱して、身体の成長を食い止めていた……とか。

だから今、肉体はあの頃より成長している。

 

それでも同年代に比べれば、若く見える。

悪く言えば、幼く見える。

 

そんな私はニューヨーク市内を歩き──

 

 

「……ん?」

 

 

一人、柄の悪そうな男が……路地裏で立っていた。

すぐそこには、道端で寝ている女がいる。

 

……何となく、トラブルの気配。

だが、それでもトラブルの『気配』だ。

まだ何も起こっていないし、起こるかも分からない。

 

私は今、余裕がないし、人助けなど──

 

 

「……はぁ」

 

 

ため息を吐いて、私は男の方へ歩み寄った。

 

 

「そこで、何してる?」

 

「えっ!?って、んだよ。嬢ちゃん、驚かせんなよ……」

 

 

柄の悪い男は私を見て、露骨に安堵した。

その仕草に少し不快感を覚える。

 

嬢ちゃんって……これでも成人してるんですけど。

 

 

「……そこの女性……ジェニーは私の知り合いなのだけれど。何か用事?」

 

 

無論、嘘だ。

名前も適当。

 

それでも、男には効果があったようだ。

 

 

「っと、嬢ちゃん。この娘の知り合いか……いやな、俺は別に、何かしようって訳じゃなかったんだぜ?」

 

 

その言葉は、何かしようとしていた輩の言葉だ。

だが、ここで言及しても面倒事に発展するだけだ。

 

片眉を上げて、小さく息を吐く。

 

 

「分かったから。ちょっと話がしたいから、もう任せてくれる?」

 

「分かった……分かったよ、分かった」

 

 

男も面倒ごとは嫌なのだろう。

去っていくのを見送り、女性の元へ近寄る。

 

成人……しているのか?

20代前後といった様子の、若くて綺麗な女性だ。

黒髪で長身、スレンダーでクールな感じ。

 

……私もこれぐらい身長欲しいな。

 

なんて考えていると、女性は寝転がりながら目を開けた。

まるで猛禽類のような鋭い眼光だった。

 

そんな彼女が口を開く。

何を言うのか、少し緊張していると──

 

 

「み、水……」

 

 

何とも情けない言葉だった。

 

 

「……飲みかけでよければ」

 

 

私はバスへ乗る前に買った、水のペットボトルを彼女に渡した。

受け取った黒髪の女性は、ごきゅごきゅと大袈裟な音を立てて飲み干した。

 

 

「っ……ふぅ……ありがとう……昨晩、少し、飲み過ぎた」

 

「……そう。元気になったのなら、良かった」

 

 

黒髪の女性が立ち上がり……ふらついて、壁に手をついた。

若い女性が徹夜で酒を飲んで、飲み潰れている。

 

ニューヨークの治安を舐めているのだろうか。

私は少し、頬を引き攣らせた。

 

 

「感謝する。私はリズ……貴女は?」

 

「私はミシェル。って、大丈夫?ふらふらしてるけど」

 

 

リズと名乗る女性は平衡感覚が狂っているようで、ふらふらとしている。

 

 

「気にしないでいい……問題ない」

 

 

そうは見えないけど。

内心で指摘しつつ、口には出さない。

 

これ以上、関わっても時間が潰れるだけだ。

適当に話を切り上げて去ろう。

 

そう思っていたのだが──

 

 

「…………」

 

 

顔を青くして、リズが蹲った。

吐き……は、しなさそうだが、体調は絶不調といった様子だ。

 

ニューヨークにおいて、路上で泥酔することは違法行為である。

体調不良ならまだしも、酒を飲んで路上で寝れば警察を呼ばれる。

 

最悪の場合は逮捕される。

……このまま放置すれば、彼女は碌な目に遭わないだろう。

 

自業自得といえば、それで終わりだ。

だが、ここで見捨てると後味が悪い。

 

……かと言って、アベンジャーズ・マンションに連れ込むのも拙い。

あそこは超人が多い。

素性の知れない人を連れ込むのは、情報漏洩の観点から言えば……まぁ、拙い。

 

であれば……解決策は──

 

 

「リズ……この辺りに、知人の家がある。落ち着くまで来る?」

 

 

そこで休憩させるしかない。

 

 

「……貴女に悪い」

 

「ここに放置していくと、私も寝覚めが悪いから」

 

「……申し訳ない。迷惑をかける」

 

「私は気にしない」

 

 

そうして、私はリズに肩を貸す。

手にはまだ、ナイトキャップのスーツが入った紙袋を下げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は大学も休み。

僕はマンションの自室で、ベッドに座って……いつもなら、まだ寝ている所だ。

 

だけど今は、スマホと睨めっこをしていた。

 

昨晩、ミシェルは飛行機から落下したらしい。

どういうことなのか詳しく聞きたかったが、友人のスマホを借りて連絡をしているそうで……早朝にニューヨークへ帰ってくるそうだ。

 

そうして家に帰ったらスマホで連絡するように約束している。

彼女からの電話か、メッセージが来るまでは安心できない。

 

自然と早朝に目が覚めて、こうしてスマホに着信がないか待っているのだが──

 

 

チャイムが鳴った。

 

 

「こんな早朝に?何か用かな?」

 

 

首を傾げて、僕は玄関へと向かった。

そうして、扉を開ければ──

 

 

「……ただいま、ピーター」

 

「あ、ミシェル……おか、えり?何でこっちに……って、え?」

 

 

そこに居ない筈のミシェルが居て、誰かを肩に背負っていた。

ぐったりしてるから顔は見えないけど、黒髪の女性だ。

 

 

「この人、体調不良。少し休ませてあげたい……いい?」

 

「え?いい、けど……」

 

 

飛行機から落下して、ニューヨークまで戻って来たのに……まっさきにやる事が、家に帰るんじゃなくて、人助けなんて。

驚きながらも、不快感はない。

 

僕もきっと、同じようにするだろう。

ミシェルは優しいなぁ、なんて思っていると……黒髪の女性が顔を上げた。

 

そこにあったのは整った顔立ちで、見覚えのある顔だった。

 

 

「え?リズ……?」

 

「ピーター……?」

 

 

この間、大学の図書室で顔を合わせた女性だった。

 

 

「え?なに、知り合い?」

 

 

しかして、ミシェルは訝しむような顔で僕とリズを交互に見た。

どういう関係か、探っているようだ。

 

 

「え、っと……大学の図書室で会ったんだ。ちょっとだけ話した」

 

「……なるほど?」

 

 

ミシェルは訝しむような顔をやめた。

……まぁ、浮気とかは疑われていないだろう。

僕ってモテないし、その心配は彼女に無い筈だ。

 

僕は自虐している中、リズが目を瞬いた。

 

 

「……まさか、ピーターの家とは……ミシェルは彼とどういう関係?」

 

「彼氏」

 

 

まっすぐ、直球でミシェルが答えた。

普段の彼女なら少し照れたりする筈だが……あれ?やっぱり僕、浮気を疑われてる?

 

 

「彼氏……へぇ、貴女と、彼が──

 

 

リズは、僕とミシェルを交互に見た。

そして、笑みを浮かべた。

 

 

「なるほど、お似合いだ」

 

「……あ、そう?そう?」

 

「うん、お似合い」

 

 

ミシェルの機嫌が戻った。

良かった。

 

リズも内心、気付いていたのだろう。

まぁ、彼氏が知らない女性と知り合いだと、不安にもなるだろう。

それは世間で共通の認識だ。

 

なんて考えてから、僕は二人を部屋に入れる。

 

 

「まぁ、二人とも。入ってよ……そんな所で立ち止まってると、ほら。アレだし」

 

 

部屋に入れると、ミシェルが紙袋を置いた。

何が入っているのか分からないが、オンボロアパートの床の軋みから、それなりに重い事が分かった。

 

そうして、ミシェルはリズをソファに座らせて……リズは姿勢を崩した。

何というか、自然体だ。

他人の、顔見知りとはいえ男の部屋なのに、緊張した様子が一切なかった。

 

そんなリズを見ていると、背中からミシェルに肩を叩かれた。

 

 

「ピーター、朝ごはんは食べた?」

 

「いや、まだだけど」

 

「なら用意する。リズも、食べる?」

 

 

ちら、とミシェルはリズを見た。

 

 

「これ以上、施しを受けるのは……」

 

「気にしなくていい。どうせ、2人分作るのも、3人分作るのも、たいして変わらないから」

 

「……なら、頂く。悪いけど」

 

「構わない」

 

 

ミシェルがエプロンを手に取り、勝手知ったる仕草でキッチンに立った。

そうして、料理をしている中、僕はリズのそばに立った。

 

 

「っと、リズ?体調悪いって聞いたけど……大丈夫?病院連れて行こうか?」

 

「いや、いい……酒の飲み過ぎだから」

 

「お酒?あ、お酒か……飲むんだ?」

 

 

僕は酒を飲まないタイプだ。

アルコールに弱い。

 

成人してすぐ、ミシェルと一緒に飲んだのだけれど……気付くと朝になっていた。

 

そして、ミシェルは顔を真っ赤にしていた。

怒っていたのだ。

 

そして、約束させられた。

 

 

『今後、私の前以外で飲まないこと』

 

 

ミシェルの前以外では飲まない、というのはよく分からないが、僕が酒に弱いのはよく分かった。

それから、僕は飲酒をやめたのだ。

 

まぁ、僕のことはさておき。

リズへ視線を戻すと、顔を顰めた。

 

 

「私も普段は飲まない」

 

「じゃあ、なんで飲んだの?」

 

 

なんて質問すると、リズじゃなくてミシェルから声が飛んできた。

 

 

「……ピーター、デリカシー」

 

「あ、ごめん」

 

 

ミシェルに諭され、リズに謝る。

確かに、デリカシーのない質問だった。

 

しかし、リズは不快そうな顔もせず、苦笑していた。

 

 

「いい……別に気にしてない。大した話でもない」

 

「そ、そっか……なら良かった」

 

 

リズはペットボトルを手に取り、水を口に含んだ。

そして、ごくりと音をたてて飲み込んだ。

 

 

「……故郷」

 

「故郷?」

 

「ホームシックってやつ。会いたい人がいるけど、今はまだ帰れないから」

 

「……それは、辛いね」

 

 

僕は頷いた。

会いたいのに、会えない。

その辛さを僕は少しだけ分かっている。

 

悪魔に記憶を消されて、誰も僕を知らなかった時……あの時、あの頃、過去に帰りたいと何度も思った。

だから少しだけ、分かる。

 

 

「……同情してくれる?」

 

「まぁ、僕もその気持ちは少しだけ分かるから」

 

「そう……やっぱり、ピーター。貴方は良い人」

 

 

僅かにリズが笑みを浮かべた。

 

 

「そうかな?」

 

「ええ、私の彼氏にそっくり」

 

「彼氏……?」

 

 

リズの彼氏……気になる話題が出た。

それと同時に、ミシェルが机に皿を置いた。

 

 

「……ちょっと、失礼」

 

 

僕はリズから目を離して、そちらへ向かう。

 

 

「ごめん、ミシェル。手伝うよ」

 

「大丈夫。もう終わったから……リズ、こっちに来れる?」

 

 

ミシェルに呼ばれて、リズが食卓に座った。

机には焼かれたトーストが3枚。

皿に取り分けられたスクランブルエッグ。

ケチャップ、チーズがあった。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

ミシェルが席に座って、僕も席に座る。

そうして、各々が朝食を食べ始めた。

 

リズも泥酔から戻って来たようで、顔色が良くなっている。

トーストを食べているが……少し笑みを浮かべている。

 

そうして食べ終えて、食後にミルクまで飲んで……一息ついた。

それと同時に、リズが頭を下げた。

 

 

「ありがとう、ミシェル。そして、ピーター。感謝する」

 

「どう致しまして」

 

「僕は特に何もしてないような気がするけど……」

 

 

連れて来たのはミシェルで、食事を振る舞ったのもミシェルだ。

僕は何もしていない。

 

……そう思ったのだが、リズとミシェルは目を合わせた。

 

 

「ミシェル、彼はいつも『こう』?」

 

「うん、いつも『こう』」

 

 

何が『こう』なのか分からなくて、僕は首を傾げた。

けど、二人は分かっているようでため息を吐いた。

 

……なんだか、仲良くなってるみたいだ。

それは良いことなんだけどさ……僕の分からない事で結託されてると、少し不安になるよ。

うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とピーター、リズの3人で朝食を食べた後……リズは元気になったようで、帰る事となった。

であれば、私も帰るべきだ。

アベンジャーズ・マンションに帰って、メイに会わなきゃ。

カマラに返すために服は洗濯しなきゃならないし、お金も用意しないと。

 

なんて考えながら、身支度をしていると……がたり、と音が聞こえた。

そうして振り返ると、私の持って来た紙袋が倒れていた。

 

 

「あっ」

 

 

側にはリズ。

足元に置いていたから、つまづいたようだ。

 

 

「あ、ごめんなさい。ミシェル──

 

 

そう言いつつ、リズは紙袋から落ちたビニール……に、包まれた私のスーツ片を手に取った。

 

 

「……これ、何?」

 

 

しまった。

こんな真っ黒な鎧のようなスーツ、一般人が持っている訳ない。

何とか誤魔化さなきゃならない。

 

私はリズに駆け寄った。

 

 

「それは……ええと、コスプレ」

 

「……コスプレ?」

 

「そう、コスプレ。それを着て、こう、エアソフトする趣味があって」

 

「…………そう」

 

 

リズはスーツを確かめるように、手の中で回転させつつ眺めて……私へ視線を戻した。

その目を細めながら。

 

 

「いい趣味だ」

 

「そう、かな?」

 

「お世辞じゃない。趣味がいい」

 

 

そうして、紙袋に転がったスーツ片を戻してくれた。

納得してくれたようだ。

 

私は安堵の息を吐いた。

 

 

「それじゃ、私は帰るけど。リズも帰る?」

 

「私も帰る。世話になった、ピーター」

 

 

二人で並んで、玄関に立つ。

 

 

「いやいや、僕は何もしてないから……ミシェルも、朝食ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

軽くハグする。

……普段ならキスもするけど、今はリズが居るからしない。

人前でイチャイチャするのは恥ずかしい。

 

 

 

 

 

そうして、ピーターのマンションから出て、リズと共にエレベーターに乗る。

 

私はエレベーターの1階を押して……背筋に冷んやりとした感覚があった。

 

振り返るとリズが側に来ていた。

 

 

「……どうかした?」

 

 

少し不穏に思って質問すると、リズは笑みを浮かべた。

 

 

「ミシェルは……ピーターと仲がいい?」

 

「それは、うん」

 

 

何となく、探るような感覚だ。

 

 

「どんな秘密でも打ち明けられるぐらい?」

 

「……まぁ、それは、うん」

 

 

私からピーターに対して、秘密はない。

いや、先週、こっそりビスケットの瓶を開けたけど、そんなものは秘密とは言わないだろう。

 

私の言葉にリズは少し目を細めて……私から少し離れて、ため息を吐いた。

 

 

「……羨ましい」

 

「え?」

 

「私は、秘密を打ち明けられない」

 

 

エレベーターが下っていく。

ピーターのアパートのエレベーターはオンボロだ。

降り切るまで時間が掛かる。

 

 

「……その、彼氏?」

 

「そう」

 

「……秘密を打ち明けたら、どうなる?」

 

「失望される。嫌悪される」

 

「……なら、その秘密を無かった事にできない?」

 

「過去は消えない」

 

 

リズは、ハッキリとそう口にした。

 

 

「リズ……?」

 

「過去の過ちは、これからもついて回る。見て見ぬフリをして、黙っているしかない。それでも消えはしない」

 

 

真面目な顔で、険しい顔で、それでも笑みを浮かべて……私を見ている。

そこに私への憎悪はない。

だが、どこか……嫉妬心のようなものを感じた。

 

ガコン、と音がした。

エレベーターが1階に降りた音だ。

 

同時に、リズが私の横を通り過ぎて……エレベーターを降りた。

 

 

「今日はありがとう、ミシェル。この出会いに感謝する」

 

 

そうして、先程の笑みとは違う、朗らかな笑みを浮かべて……私から離れていった。

 

 

「……………」

 

 

少しの間、私はその場に立ち尽くした。

あのリズという女性から……何か、私に近しいものを感じた。

それも、『昔の私』に近しいものを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉーん!ミシェル、おかえりぃ〜!無事で良かったよぉ〜!」

 

「っ、こら。鼻水つくから、やめて」

 

 

アベンジャーズ・マンション。

取り敢えず、メイに無事を伝えに来たのだけれど。

 

 

「だって心配だったんだもん」

 

「……それは、ごめん」

 

 

昨晩、連絡はしたが……それでも、心配をかけたのは事実だ。

だから、甘んじて受け止めよう。

 

……服に鼻水と涙がついた。

洗濯するから許して、カマラ。

 

 

「……ミシェル、今日は暇?」

 

「え、あー……暇、じゃない」

 

「お仕事?」

 

「そう、『S.H.I.E.L.D.』に行く」

 

 

『S.H.I.E.L.D.』に報告書を提出しなきゃならない。

始末書といってもいい。

任務に失敗したのだ。

 

現状の確認と擦り合わせが必要だ。

 

 

「そんなぁ……飛行機から落ちたのに、翌日には出勤しなきゃなの?ブラックだよ、ブラック。『S.H.I.E.L.D.』はブラック企業だ!ニック・フューリーはパワハラ上司!」

 

「……はは、は」

 

 

それはそうかもしれない。

嘘ではないので、誤魔化すように笑うしかない。

 

 

「今日ぐらい休もうよ〜、ね?」

 

「……まぁ、うん。午後休取ろうかな。元々、今日は休みの予定だったし」

 

「やった!なら、一緒に出かけよ?ピーターも連れてさ」

 

 

メイが私の腕にぶら下がる。

 

色々と、やるべき事がある。

気になる事もある。

 

しかし……メイへ目線を向ける。

ふざけているように見えるが、心の底が表情に出ている。

 

彼女は不安がっている。

私が居なかった事で、不安がっている。

 

メイの母親……つまり、私は死んでいる。

その理由はまだ、メイから聞けていない。

メイが話したがらないからだ。

 

だけど、メイの世界で私が死んでいるのは事実だ。

私が傷を負ったり、危険な目に遭えば……メイは、自分の母親のことのように心に傷を負う。

 

その傷を癒すことも、また、私のやるべき事だろう。

 

 

「いいよ。でも、まずは着替えさせて。それで、『S.H.I.E.L.D.』に行ってくるから」

 

 

メイの頭を撫でる。

脳裏にはまだ、今日出会った……リズの顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

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