「ますきとの朝」 - Bang Dream! RAISE A SUIREN マスキング(佐藤ますき)2022年生誕祭記念二次創作小説 作:氷川丸ヒスイ
原作:BanG Dream!
タグ:R-15 オリ主 バンドリ BanG Dream! マスキング 佐藤ますき RAISE A SUILEN 恋愛
俺妄想炸裂しまくりwwwな内容ですが、ぜひご一読頂ければと思います。
※R18には該当しませんが、軽度の性描写があります。ご注意下さい。
Bang Dream! RAISE A SUIREN マスキング(佐藤ますき)2022年生誕祭記念二次創作小説
「ますきとの朝」
2022年5月12日、木曜日、午前9時半。
それは、もうすでに慣れ切った朝のシチュエーションだった。
ますきは、いつも唐突に僕の家に押しかけてくる。
佐藤ますき…RAISE A SUILEN のドラマー「マスキング」は今、僕がいつも寝ているシングルベッドの壁側半分を勝手に占拠して、静かに寝息を立てている。
本当に毎度毎度のことだ。
RASのバンド練が終わったから。
ライブが終わったから。
ラーメン銀河でのアルバイトが終わったから。
だいたい毎週木曜日から日曜日に掛けてはそう、何の前触れもなくスマホのチャットアプリに連絡を入れてくる。
「今から行く」と。
終電ぎりぎりの絶妙な時間にふらりと押しかけてきて、着替えなんて一切持ってこず…最も、RASや他のバンドのメンバーに振舞って余ったケーキや、コンビニで買ってきたお菓子を土産代わりに持ってきてくることはあるが…いつもの「汎用うさぎ」のワッペンががっつり入ったスカジャンに黒のロングスカート姿の井で立ちのまま、押しかけ妻モードでうちにやって来る。
もう僕たちが恋仲になって日は長いので、洗面器にそれぞれの歯ブラシやコップやシャンプーは備え付けてあるが、いつも着替えを持ってこない。
結果、僕が以前使っていて着古しになって洗濯したまま放置してある仕事用のYシャツ一枚に身を包んで、勝手に寝てしまうのだった。
早朝に放送されているワイドショーを見終え、いまだに夢の世界の水底(みなそこ)にいるますきに、目をやってみる。
「狂犬」の二つ名を持つドラマーとは思えないほど弛緩した、蕩けきった表情でますきは、すやすや寝息を立てている。
よくよく口許を見れば、だらしなく半開きになった口許から、僅かによだれが垂れている。
ぶっきらぼうな口調と中性的なルックスと、170センチの長身で傍目(はため)には大人びて見えるが、ますきは確かに、間違いなくまだ高校2年生の女の子だ。
ましてやライブハウス「ギャラクシー」オーナーの娘であり、幼稚園から大学までが一貫のエスカレーター式の白雪学園に通う、生粋のお嬢様ですらある。
令和どころか平成、いや、ややもすれば昭和年代以前から脈々と続いているのではないかと思えてしまう、長年の伝統を感じさせる、絶滅危惧種と喩えて遜色ない程のレトロで清楚なデザインの白雪学園の濃紺のセーラー服に身を包み、後輩たちに「ますきお姉さま」と慕われる学生服姿のますきは、なかなかに可憐な美少女女学生だ。
普段のRASでの荒々しい姿と激しくも芸術的なドラミングに、お嬢様スタイルの学生姿。
ラーメンとまかないのチャーハンをプロの調理師並みに仕上げる豪快な腕前に、繊細でかわいらしいデコレーションのケーキを焼き上げる趣味と技術。
荒っぽく快活な口調にラフな人当りと、時折見せる人情深さとしおらしさ。
そのギャップに、僕はすっかり惚れ込んでしまっている。
ますきを、よりまじまじと見つめてみる。
昨晩は、RASのバンド練習の後来た、と言っていた。
RASをプロデュースするリーダー格のちびっこ革命児こと「チュチュ様」の音楽活動とそのクオリティに対する姿勢は常に妥協がなく、だからこそRASは一気にデビュー直後に一気に人気を獲得したポピパやAfterglowやあの超有名ガールズバンドであるRoseliaに対して後発のデビューでありながら、短い期間で日本国内はおろか海外でも人気を博す音楽ユニットへと成長した。
そのチュチュ様がメンバーに要求する音楽技術に対するパフォーマンスの追求は容赦がなく、だからこそ、気が昂ると他のメンバーのペースやテクニックに構わずガンガン即興で音を叩き込んで音を入れ、「狂犬」呼ばわりされてあちこちのバンドから敬遠された結果「はぐれドラマー」としてミュージックシーンを流浪していたますきの才能と技術力を見込んで忌憚(きたん)なくメンバーに引き入れ、毎回指導と技術の追求は厳しいものではありながらもその腕前を認め重用してくれているチュチュ様やRASのメンバーにはますき自身非常に感謝しているし、深い信頼と絆の念を抱き、そして、ハードな音楽活動でも張り合いとやりがいを感じ心魂一線、取り組み続けているのであった。
そんなRASのバンド事情であるゆえ、数時間の通常時の練習でも激的に体力を消耗するらしく、だからこうやって、今日も疲れ切った身体を彼氏のベッドに預けて、心底リラックスして眠りについているのだ。
夜中に打った軽い寝返りで壁に背を向き、こちらに正面になって真横に寝そべる姿勢のますき。
Yシャツの上の方二つのボタンはすっかり外れ、彼女のか細く白い鎖骨と、ブラジャーも付けず見せびらかし状態になっている程よい膨らみの胸元が露わになっている。
下半身に目をやると、彼女自身のチョイスとは思えないほどキュートな、淡いピンクの生地に小さなホワイトの水玉模様が入ったパンツが、Yシャツの端からちらりと見えている。
そして、太腿から足の爪先まで見事に一線、すらりと伸びた細い脚。
にしても、こんな腹部や肩を見てもほとんど筋肉が拝見されないほどスレンダーな体格で、よくあれほど激しいドラミングテクを叩き出せるものだ。
だがきっとそれはますき自身の生まれ持った一つの才であり、また、フィジカルの強さやバイタリティを超越した一種の「魂」により顕現されるものなのだろう。
「ん…」
半日近く継続していた寝息を止め、小さな声を上げるますき。
それまでコンピュータが機能停止していたように固く閉じられていた眼(まなこ)が柔らかく開かれ、ふと口許のよだれに気づいたのかそれを、そ、と手先で拭い、ますきは眠りの底から生還した。
「おはよ…」
「おはようますき、疲れは取れた?」
「…ん…ああ、すっかり取れた感じだな…何せ、昨日はチュチュとレイの煽りが一層激しくて、本当に疲れちゃったよ…」
でも、そのおかげでいい音作りができたんだけどな。
まだ眠気の抜けきらない顔にごく小さな微笑を浮かべて、そう一言追加して、ますきは上半身を起き上がらせ、一つ大きな背伸びをした。
「おなかは空いてない?」
「軽く。何か出してくれるなら、食べるよ」
「うん、コーヒー淹れるね。あと、やまぶきベーカリーで買ってきたパンあるから、それで十分なら」
「サンキュー、それでいいよ、助かる」
下半身をもそもそと動かし、その綺麗な両脚を繊細にのっそり動かして、ベッドのへりに座り込んだ。
ますきは、テレビに目をやって放心している。
見ているのは、まだ正午まで時間のある朝の時間帯にふさわしい、何とも気の抜けたローカル電車の旅番組だ。
通なファンの間では大の猫好きで知られるRoseliaのボーカルの湊友希那さんが喜びそうな、素朴な田舎の家屋に住み着いたキジトラ柄の地域猫の親子が映っている。
僕は立ち上がってキッチンへと行き…最も、この家はワンルームマンションであり、ベッドとテレビのある部屋とキッチンは、ほとんど何の隔たりもなく隣接しているのだが…電気ポットに水を注いでスイッチを入れ、食卓の上に「やまぶきベーカリー」の店名とロゴの入った紙袋に包まれていたチョココロネとメロンパンを二つ分取り出し、100均で買ってあった紙皿の上に置いた。
ポットの水がお湯に変わり、僕はそれを、お揃いの汎用うさぎの絵柄が入ったマグカップの淵に挟んであったドリップコーヒーのバッグにゆっくり注いだ。
「さ、用意できたよ、おいで」
お湯がマグカップにドリップしきったタイミングを見計らって、ますきを呼ぶ。
立ち上がり、食卓に座るますき。
「頂きます…」
Yシャツ姿のまま食卓に座り、そ、と口許にマグカップのふちを当て、淹れたてのコーヒーを飲む。
酔い覚めの舌に淹れたての液体は熱かったのか、やにわに頬を紅潮させ、わずかに顔を上向けて一旦口を離し、そ、とふぅふぅ息を吹いて冷まし、改めて口に注いだ。
「美味しいな」
そのしぐさを微笑ましく眺めながら、僕もコーヒーを一口啜った。
お揃いのマグカップで飲むモーニングコーヒー。
ますきはしずしずとしたしぐさで紙皿に手をやり、チョココロネを掴み、細くなっている先端をかじった。
ポピパの牛込りみちゃんが好んでやまないという、同じくポピパのメンバーである山吹沙綾ちゃんが店を切り盛りするやまぶきベーカリーの名物であるチョココロネ。
僕もチョココロネを取り、ますきとは反対側の後ろから口を付ける。
一日経っても全く劣化しない、柔らかく焼き上げられた小麦の香りが鼻腔を突き抜け、蕩けるような甘さに仕立てられたチョコクリームが舌を楽しませる。
「そういえば、朗報があるんだ」
コーヒーのカフェインが入ったおかげで、ようやく目が覚め切った様子のますきがそう、口を開いた。
「何?今度は大きなフェスでやるとか?」
「いや、ゴールデンウィークのちょっと前、4月27日にリリースした新曲がこれまで以上に好調で、RASがますますリアルでもネットでも盛り上がってめちゃ熱い事になってんだ、たしか、あんたもYoutubeで配信されているのを聴いてくれたんだよな?」
「ああ、Coruscate-DNA-だよね、RASの公式チャンネルでフルバージョンが配信されて、半月でかれこれ15回は聴いてるよ、先行して発表されたショートバージョンのMVはもう3か月足らずで70万回を突破している、この調子だと単純にYoutubr再生だけでも、100万回再生の大台を易々と突き抜けていきそうな勢いだね」
「おお!そんなに再生されて聴かれているのか!」
「うん、冗談抜きにRASは、いまだに毎度毎度頂点を突破して、さらに高みに達しているように思える、これからもますきはもちろん、RASのユニット全体が、まだまだ幾らでも伸びしろがある」
「そ、そっか…なんか、あんたにそこまでストレートに言ってもらえると、流石に心の底からこう、胸がかーっと熱くなるし、嬉しくなっちゃうな」
嬉しさの中に幾分かの照れくささを含めた笑みで、ますきは返答した。
「それに、連休中のJAPAN JAM 2022のサンセットもトップバッターだけど、いいスタートダッシュを切れて大反響だったようだね、レイヤさんのツイッターとRASファン繋がりの現地参戦組のタイムラインを追いかけていたけど、レイヤさん本人もRASのメンバーもオーディアンスも余りにも激しすぎたそうで、『皆さん、無事首は無事回収ましたか?』なんてコメントしてたよ」
軽いジョークの牽制球で笑みを含めながら、僕は言った。
「あはは!レイ、ツイッターでそんな事言ってたのか!たしかにJJの時は、うちらも客もみんな魂フルバースト状態で暴れてたからなあ、でもちゃんと一体感もあって、私も全力で楽しんで叩けたよ!」
「うん、相変わらずますきも本当にドラマー活動を楽しめているようで、何より!」
ますきの熱気に浮かされて、僕もたった一人のRASファンでありながら、つい高揚した声を上げてしまった。
そう、この腹の底からとも心臓の中枢からとも喩えられない、まさに全身から湧き出してくる強烈な情熱のオーラが、ますきの持つエナジーだ。
「ああ、それに夏もまたライブが入ってるから、これから暑くなっていくシーズンだけど、RASに付いてきてくれる人たちの汗が出すぎて枯れちゃうくらい全力で暴れてやるぜ!」
先ほどまで蕩けていた口のラインはしっかりと結ばれ、彼女を彩る色気の一つである涼しく切れ長な瞳がらんらんと輝き、自信に満ちた口調でそう言った。
意識が覚醒してすっかり、RASの狂犬ドラマーへとモードが切り替わったようだ。
「ああ、そういえば」
チョココロネを食べ終え、メロンパンに手先を伸ばして、ますきはさらに言葉を紡ぐ。
「今日はもう12時には出るよ、RASのみんなと、他のバンドの予定の空いているメンバーが、私の誕生日をお祝いしてくれるって言うんだ。あと昨日、ちょうど私と一日違いでモニカのかのちゃん先輩…松原花音さんの誕生日だったから、2人分まとめてお祝いしてくれるそうだから、今日はきっちり約束した時間に間に合わせないと」
狂犬モードから一転、ちょっとトーンを落ち着かせて、独り言ちるようにそう、ちょっとだけ顔を下に向けて言った。
その発言としぐさで、僕はなんとなく察した。
ああ、まだ言い出してないから、気づいてないのかもしれないんだな。
今日は2022年5月12日。
ますきの誕生日であることを、僕もしっかり覚えているということを。
よし、今がいいチャンスだ。
「うんうん、それじゃさ、ますき」
「なんだい?」
「これ」
そういって僕は、食卓の隅にこっそり置いてあった、四方10センチほどの小さな木箱を手に取り、ますきの目の前に置く。
「刷り込み効果」で「親」となる存在と初めて邂逅した生まれたての雛のように、興味深げにそれを見つめるますき。
僕は木箱のふた…下の方に斜体のアルファベットの文字列が焼き印されている…を、そ、と開ける。
中に収められていたものは…
「あ、これ…ケーキ…もしかしてザッハトルテってやつか?」
「正解!伝えるのが遅れてごめんね。心の底から言わせてもらうよ、誕生日おめでとう、ますき!」
「あ、あ、そんないきなり…いくらなんでもこの不意打ちは卑怯だよ…でも、ありがとう…」
サプライズがうまいこと功を奏したようで、ますきは僕の祝福を受け、頬を僅かに染めてしおらしい顔つきになった。
「ますきがいつも焼いているような、気の利いたデコレーションケーキじゃなくてごめんね、これはザッハトルテだから、ろうそくはおろかネームプレートすらないけど…『デメル』というブランドは知っているかな?」
「ザッハトルテなら、ホテルザッハーのじゃないのか?」
さすがはお嬢様育ち、スイーツについても、一応の程度、知見や教養があるとみた。
「ふふ、これはね、19世紀あたりにオーストリア本国でザッハトルテのレシピを身に付けた人が、デメルというブランドを新たに立ち上げてホテルザッハーと並行してザッハトルテを扱い始め、もちろんそれを看過しなかったホテルザッハーとどちらがオリジナルなのか、いわば正統性を巡って、7年間の訴訟沙汰にまで発展した経緯があるものなんだ」
「へえ…デメルか、初めて聞いたな」
木箱から目線を離し、まっすぐに僕を見つめて、まじまじと話に聞き入るますき。
「で、結局、最終的に正統はカフェザッハーであるという判決が下されたんだけど、デメルにもザッハトルテの生産と販売が許可されて、その後約200年間、双方でそれぞれのレシピと伝統を保ちつつ、ザッハトルテは本国オーストリアはもちろん、世界中で知名度のあるお菓子として今でも多くの人々に親しまれているんだ」
「なるほど…」
初耳だ、というメッセージをすっかり表情に現わしている。
「デメルは特に海外展開に力を入れていて、日本にも多く店舗を展開している。東京や横浜といった首都圏はもちろん、大阪や福岡にも店舗がある」
もっともこのザッハトルテは、公式サイトのオンライン通販で取り寄せたものだけどね。
そう追記して、僕はほどよく常温に保たれているそのスイーツを箱から取り出し、もう一つ紙皿を取り出して、そこに備えた。
「見ての通り表面がチョコレートのコーティング一色だし、ちょっと誕生日祝いのケーキとしては色合いが物足りないかもしれないけど…食べてみて。チョコレートの下にざらめの砂糖、さらにその下の層にはアプリコットジャム、そして生地に至ってまでチョコのスポンジ生地という仕様で甘さがやや強いらしいけど、長く続いている王宮御用達のブランドだし、味は悪くないと思う」
「面白い構造になっているんだな、食べてみるよ」
僕はキッチンの棚からケーキナイフ…ますきがケーキを焼くときに使っているもので、お古になったのを僕にくれたものだ…とフォークを持ってきて、その分厚いチョコレートの表面に刃を入れた。
春の朝のほの暖かい気温が室内に入り込んで、その温度を受けてほどよく表面のチョコが柔らかくなっているので、ナイフはあっさりとチョコを裂き、生地の底まで垂直一線で到達し、真円のザッハトルテをストレートに4分割した。
サイズは直径約12センチの4号、オンラインショップで扱われている中ではちょうど真ん中のサイズで、やまぶきベーカリーの甘いパンを食べたあとではあるが、2人で食べきるにはちょうどいい。
紙皿をさらに2つ出し、4等分された各一片を、それぞれの皿に置く。
ますきは興味を抑えられないといったわくわく感たっぷりの手つきでフォークを手にとり、ザッハトルテの端を切って、そ、と口に運んだ。
「どう?」
「ん…確かに少し甘い…けど、バランスがいいな。アプリコットジャムが適度に酸味を出していて全体のバランスを良くしているし、一番下のスポンジはチョコだけど甘味が抑えてある代わりに香りを強調させてあるから、表面のチョコとかぶらない。あと、砂糖はしゃりしゃりしてて、食感にいいアクセントを与えてる」
「さすがはケーキ職人、見事なレビューだ」
「うん、オーストリアの本場のザッハトルテが日本で手に入るなんて初めて知ったし、今後のケーキ作りの参考にもなるよ」
「それは上等だ、それに、誕生日祝いとしてはちょっと意外なチョイスだったろうけど、喜んでくれて何より」
僕も、にこりとほほ笑んだ。
「いい機会を与えてくれてありがとうな。あんたにも本当、いつも感謝してる」
「いえいえ、ますきが健全に学生生活を送りつつRASの活動に打ち込めるなら、僕はいくらでも応援するし、支援するよ」
「うん、ありがとう、愛してる…あの、あんた。あのさ…」
ますきが、ふ、とテーブルから体を離し、腰を柔らに浮かせて、机にその白く細い指先を突いて立ち上がる。
先ほど一時期、狂犬ドラマー状態になっていた顔つきはまた蕩けて柔和になり、瞳は少し潤いを浮かばせていて、口許を微かに開いている。
こういう時、言葉はいらない。
僕もますきの顔に自分の顔を近づけ、テーブル越しに、色素は薄いが紅一つ塗らなくても充分に美しく張りのある唇…互いの口を、そ、と当てた。
愛情深く交わす、柔らかなキス。
ますきは前歯を全く閉じず、軽く入れた舌先をすんなり受け入れる。
ショートに切られた元気で柔らかな髪質の金髪がキスによる微細な頭の動きでゆらり、さらり、と揺れて、愛用のシャンプーの残り香が漂い、僕の鼻腔をくすぐる。
ますきの唇の間から、時折、吐息と微かな甘い鳴き声が漏れ出る。
時折のデートで身体を重ねる時ほどの激しさではないが、舌先を二人で絡めあい、唾液を舐めあって、僅かの間、睦み合いの時間を楽しんだ。
口先を、離す。
どちらからでもない、自然なタイミング。
離れた互いの唇の間に、混ざった唾液が糸を引く。
「んっ…もう、一度火が付くと、相変わらず激しいな…」
「ますきこそ。でも、ストレートに愛情を伝えてくるところが、まさにいつものますきって感じ」
「ば、ばかな事言わないで…でも、これが『本音』だからな?」
かぁっ。
すっかり顔を濃い桜色に染めて、愛情モードに入ってしまったますき。
あまりにも愛らしいのでこのままベッドに押し倒してしまいたいところだが、彼女は間もなくここを出なければならない。
僕が先ほど与えた何十倍もの大きな祝福が、ますきを待っているだろう。
「さ、では、今日は楽しんでらっしゃい」
言い忘れたが、僕は数年前までやっていたサラリーマンを辞め、今ではこの街のスーパーでシフト制のアルバイトをして生活している。
シフトは夕方から閉店までがほとんどだし、客の入りの多い休日に集中的に入れられるため、平日朝から午後に掛けてはわりと時間が空いていた。
「うん、ほんとありがとな…あと、あんまり面と向かって言えないけど…いつも突然押しかけてごめん、今日は特に木曜日で、ただでさえ平日だし」
「平気。それと、いつものYシャツ姿もなかなかにセクシーだけど、今度、ショッピングモールに行ってますき好みのかわいいパジャマを探しに行こう」
「うん、いいね。そういえば、明日からあのモールの映画館でやるんだよな、『シン・ウルトラマン』。あんた特撮とか大好きだから、やっぱりさっさと観に行っちゃうんだろ?」
「いやいや、ますきが空きの日のために取っておくよ。映画館デート、まさに王道だからね」
もっとも、僕一人が勝手にはしゃいで、ますきを置いてきぼりにしちゃうかもしれないけどね。
そう、追加した。
「あはは、あんたらしいよ!でもそんなんでも、全然オーケー!」
しおらしい表情が一転、普段の快活な顔つきに戻ったますき。
本当、この子はこう、感受性が高くて表情をくるくる変えるので、見ていても、会話していてもずっと、飽きない。
ベッドに戻り、Yシャツをさらり、と脱いで…シャープな衣擦れ(きぬずれ)の音とともに、華奢で真っ白な背中と、可憐なデザインのパンツに包まれたきゅ、と引き締まったヒップラインが露わになる…そばに脱ぎ散らかさていたブラジャーとトップのシャツ、ロングスカートを穿き、トレードマークの鮮烈なレッドのスカジャンを着込んで、靴下を足先から入れ、最後に右肩に力を込めて腕を一転ぐるりと回し、大きく深呼吸して、気合いを込めた様子のますき。
もうすっかり、頬の赤みも見られない。
普段の少女らしい、新鮮な白い肌質の顔に戻っていた。
「さ、今日は年に一度の特別な一日、楽しんでおいで!」
「ああ!でも、RASに入ってからは、私にとっては毎日が特別な日!」
玄関のシューズに足を突っ込んで、最後に、こちらを振り返って、全開に元気な声でそう言った。
行ってらっしゃい。
ドアを開けて、僕と別れるのがさぞ惜しそうに、その姿をいつまでも見ていたいという手つきで、じ、とこちらを見つめて、ゆっくり、ゆっくり戸を閉めた。
ますきの姿は、間もなく、もうそこで見えなくなった。
でも、大丈夫。
またいつでも、元気な彼女に会える。
改めて、心の中で、テレパシーを送るようし、再度繰り返した。
「ますき、誕生日おめでとう!」
【完】
【後書き】
どうも、氷川丸ヒスイです(´∀`*)
この度、4年ぶりに筆を持ち直しした新作として、ますき(マスキング)の2022年の生誕祭のお祝いのコンテンツとして当小説を書かせて頂きました☺️
4年前までは小説をちらほら書いたり、小遣い稼ぎにWebライターなどをやっていたのですが、Lenovoのタブレットをほぼ放置状態になっていたものを引っ張り出し、家では集中できないので週に一度、地元の行きつけのタリーズで執筆を繰り返し、キーボードとマウスの操作感覚を戻しながら、何とか形には出来ました☺️
ちなみに、前半の部分はこの日の2週間前の執筆で「脱稿」したのですが、内容がどうしても気に食わなかったので、先週、前半部分の4割ほどに手を加えて「大手術」するいう、かなり突貫作業で無茶やりました笑笑
何をやったかといえば、具体的には、コラスケが人気が出ているという下りと、かのちゃん先輩(松原花音ちゃん)が前日お誕生日だったので、それを付記致しました。
というより、最初はそもそもリハビリ程度の3000文字くらいに収めてしまおうと思っていたものが、書き始めた途端とにかく俺の女いい女ますきが脳内で勝手に喋り出し、2人が自動的に動いて会話しはじめて、最終的には9000文字近い代物が出来上がっていました 笑笑
でも、自分なりに文体とか場面描写とかマスキングの人物描写の再現という点では、なかなかにいい線行ってるんじゃないかなー、と個人的に満足はしています。
これからは、バンドリの百合をメインとした小説、プリキュアのR18小説、ガンダムの二次創作小説などを、少しずつ創り上げて公開していきたいと思います。
…あ、後書きまでわりとガッツリ長くなってしまった 笑笑
4年ぶりに書いたものなのでなんとも拙い感じはあるかもしれませんが、ここまでお読み頂きありがとうございました‼️(´∀`*)
それでは‼️( ͡° ͜ʖ ͡°)✋
氷川丸ヒスイ