ご主人様とお気楽ペット   作:ちゃっぱ

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七話 ポカン!

 

 

 

「ぶぅい……」

 

 

 期待通りじゃなかった展開に今私は落ち込んでいる。

 

 なんというか、クロウラーの足元にすり寄ってイレイザーの所へ連れて行けという意味を込めて鳴いていたわけよ。

 オールマイトの家族たるブイ君な私もファンなのか、足元に小さな温かさを感じて感激の涙を流す彼は使い物にならないかと思った時にその傍にいた女の子が「コーイチ、もしかしてだけどさ。ヒーローを呼んでほしいんじゃない?」と言ってくれたおかげでようやく推しに会えると思ったんだ。

 

 気分は目の前で感激の涙を流しながら今この瞬間が人生で一番楽しいみたいな感じのクロウラーみたいな。

 彼はいつの間に持ってきたのか、それとも事前に持ち歩いていたのか私をモチーフに作られたイーブイカラーのパーカーを手にして土下座する勢いで「サインください! いやサインじゃなくても足跡ください!」と言ってきた。

 

 ファンは大事にしなさいとナイトアイから注意されてたし、ご主人様も頑張ってファンサービス欠かさなくやってるからね。私も足跡ぐらいなら押してあげるよ!

 

 そう思って彼のパーカーにポンっと足跡を付けてあげた。インクも都合よくあったからね。

 それでまあクロウラーが喜んで女の子が「撫でていい?」と言ってきたので素直に撫でさせてあげてたらやってきたのがまさかのイレイザーヘッドじゃなく別人のヒーロー!!

 

 しかも誰だよキャプテン・セレブリティ!?

 

 いや聞いたことある名前だけどさ!!

 いいやつだって言うのは分かるけど私が求めてるのはイレイザーヘッドなんだけど!!?

 

 

「ぶいぶいぶーい」

 

 

 落ち込んでいても仕方がないかと私は気分転換する。

 これでもイーブイ、可能性の獣なんだからね。

 

 オールマイトの家族として頑張ってるマスコット系ヒーローなんだからいつか会えるはずだ。

 きっと未来でご主人様が雄英の先生になったら私もそこのサポートに行くだろうし。つまり同業者になれるかもしれないってことだ。

 

 あの疾風怒濤三兄弟なヴィランはキャプテン・セレブリティに任せたし、イーブイパーカーの足跡ごと彼が豪快にサインしてそれに絶叫するクロウラーがいたけどまあその背中にこっそり足跡つけたから大丈夫だよね。

 というわけで私はまたのんびりお散歩とヒーローとして町を守るための巡回にいそしんでいる最中。

 

 また現れたヴィラン達に向かって八つ当たり気味にたいあたりをぶちかました時だった。

 

 

「……兎もどき。いや、ブイクンと言っていた噂のヒーローか」

 

「ぶい!?」

 

 

 倒れたヴィランが逃げようとしたが、それを押さえるように包帯っぽいそれ────操縛布でもって敵を瞬時に取り押さえてくれた。

 今日がここの巡回だと知ったのか、少しだけ眉を顰めながらもヴィラン達を引きずりどこかへ行こうとする。

 

 

「ぶい、ぶーい!」

 

「なんだ。俺とは違ってお前にはやることがあるんじゃないのか」

 

「ぶぅ!!」

 

 

 うわぁ推しが目の前にいる! 目の前で生きて動いてる!!

 オールマイトを見たファンがたまに五体投地したり鼻血出して死にかけてたりすることあるけどそれと同じ心境だわ!

 足にすり寄り抱っこしていいからというかむしろ抱っこしろーという思いを込めて何度も何度も鳴き声を上げる。

 もちろん技の『なきごえ』じゃない。そんなことをしてイレイザーヘッドに嫌な思いさせたくないからね!

 

 まあ技としての『なきごえ』はもう忘れちゃったから、つぶらなひとみだけどね!

 

 

「……柔らかいな」

 

「ぶぅ!」

 

 

 ようやく手を伸ばし撫でてくれたイレイザーヘッド。

 ヴィランは気絶しているし、ちょっとだけ放置していても大丈夫。まあイレイザーの考えから察するにそこまで時間を無駄にするつもりはないと思うけれど。

 

 撫でて―と甘えていた私に仕方なく手を伸ばしたという感じなんだろう。軽く抱き上げて全身の毛を堪能してくれているように感じた。

 

 ────と思ったら、頭を軽くポンっと叩くイレイザーヘッド。その目は少し呆れているように感じる。

 

 

「あのオールマイトをサポートするためにヒーローになるんなら、もっとちゃんと自立するんだな」

 

 

 甘えるんじゃないと遠回しに言うその厳しい一言! 解釈一致ですよ!

 流石に邪魔しちゃったのは分かるのでそろそろ離れて私も仕事をしなきゃならない。

 

 

「ぶぅい!」

 

「ふっ……じゃあな」

 

 

 ああああ好き!

 そういう鼻で笑う感じ良いですよ! 写真撮りたい!!!

 

 気分はオールマイトに会った緑谷出久! もしくは先ほどのクロウラーみたいな感じ!!

 

 

 

 

 

 

「ぶいー」

 

 

 推しを堪能できたので少しだけ上機嫌に鳴きながら歩く。

 時々見かける女子生徒やら子供やらにはちゃんと愛想よく挨拶して、撫でたいという子にはきちんと対応する。

 

 多分あの時、イレイザーヘッドが厳しく言った理由は、私が躾をされてちゃんと出来たから誉めてと何かをねだる犬みたいな感じに思っているのかもしれない。ヴィランを捕らえたから誉めてって感じだったし。

 推しだからね! 撫でてくれたからしばらくお風呂に入りたくないけどご主人様はともかくナイトアイなら容赦なく私を風呂に入れてゴッシゴシ洗いそうなんだよなぁ! 

 

 

「ふははははっ! 私を捕らえることなんぞ誰にもできない!!」

 

「ま、待ちなさーい!! このひったくりー!!」

 

 

「ぶぅ?」

 

 

 ちょうど私の真正面に向かって走ってくるヴィランが見えた。その背後には追いかける警察の姿。新人さんかな? 結構頑張って追いかけている。情熱的だ。

 

 うーんどうしようかな。

 たいあたりでもいいけどヴィランにぶつかってイレイザーヘッドが撫でてくれた毛を台無しにしたくないのでメロメロでも放とうかな。

 撫でたいと頼み込んでくる子供たちはともかく、ヴィランなんかにぶつかって台無しになるのは嫌だし。

 

 そう思ってムムムっと力を込めたはずだった。

 

 

「ぶ、ぶい?」

 

 

 あれ、メロメロが使えない。

 さっきまで使えてたはず。どうやればいいのかもわかっていたはずなのに。

 

 ……あれ?

 

 

「邪魔すんじゃねー!!!!」

 

「ぶ、ぶい!」

 

 

 あああもうイレイザーヘッドが撫でてくれた毛とか関係ない。ヴィランを逃がすことだけはヒーローにあってはいけないこと!

 なによりご主人様が悲しむ!! それだけは避けなきゃならない!!

 

 しょうがなく私は『でんこうせっか』を繰り出した。

 そこはちゃんと出来た。一応トドメとしてぶっ飛ばされたヴィランの背中に向かって『たいあたり』もやったけれど、それも出来た。

 

 身体が覚えているから、技として繰り出せた。つまり私の技は今……ええと。

 

 

「ぶい、ぶーい!」

 

「グハッ!? な、なんだ目を見ていただけなのに身体が重たく……!!?」

 

 

 倒れてしまったヴィランが逃げようとしたが、『つぶらなひとみ』で何度も見つめ続けていたら力が抜けたのか何なのか、立ち上がらなくなったのでそのまま追いかけてきていた警察に引き渡すことに。

 

 最後までメロメロは使えなかった。

 それはつまり、どういうことか。

 

 

「ぶいー?」

 

 

 今私が使えるのは多分だけど、『でんこうせっか』、『つぶらなひとみ』、『たいあたり』ぐらいしか思い出せない。本能でわかるんだけど、私が出来る技は4つ。それ以上を覚えるとなると何か一つを忘れないといけない。その時は自分で「アッこれを忘れよう」って感じで選択できたはず。

 

 私は何もしていない。でも勝手にメロメロが消えてしまった。

 メロメロを覚えた時のように、ヒーローに抱っこされたせいで。

 

 それで、頭をポンっと叩かれて────。

 

 

 1、2の……ポカンッ?

 

 

 あれ、もしかしてイレイザーヘッドが『抹消』の個性だから消えた?

 あのポケモン世界でいう技忘れおじさんみたく、技を消したっていうことなの?

 

 

 

 

 

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