原作:ソードアート・オンライン
タグ:R-15 オリ主 ソードアート・オンライン モーニングスター チート? 恋愛かも? オリジナル設定 友情出演かも? カラスは私が育てた 最後の最後でおいしいところを取られる主人公
だが、その青年は前線組では全く名前が売れていないどころか、そもそも存在すら認知されていない人物で……。
長い間前線でたかっていたキリトは、その存在を思い出話でしか思い出せない程度にわすれてしまっていたのだが……。
ユイを連れ始まりの町を訪れた彼らの前に、その青年は再び姿を現して!
ソードアート・オンライン。もうすぐアニメ終っちゃうの? 記念(?)!!
作者が考えた「さいきょうにかっこいいSAOにはいったぼくのしゅじんこう」をお送りします(笑)
ここはアインクラッド。天空を飛ぶ積層型の巨大城塞の姿をしたVRMMORPG。そして、近年噂されていた、ログアウト不可、死亡すれば現実の自身が死ぬというデスゲームが行われている舞台。
そんな物騒極まりない場所に、チンッ、チンッ!! と、剣と剣がぶつかり合う音が響き渡る。
薄暗い森の中の透明な壁で隔離された空間。そこで、漆黒の服を着た少年と無数の異形の化物たちが戦っていた。
「くそっ、油断した!!」
少年が戦っているのは第49層のノーマルモンスター《スパイダー・ナイト》。二本の足と六本の腕を持つ蜘蛛の容姿を受け継いだ剣士型モンスターだ。六本の腕に剣は握られていない。腕が鋭利な刃物のようになっておりそれを使ってプレイヤーを切り捨てるのが彼らの戦闘スタイル。
見つかった当初は同時に違う方向から襲いかかる六連撃に戸惑ったプレイヤーが多かったのだが、その特異な武装からか攻撃力は極めて低く、仮に奴らのソードスキルがきれいに決まったとしても1割程度しかHPは削られないと分かってからは、大した脅威もないモンスターとして揶揄されるようになった。
さらに防御力は攻撃力が低くて数で攻めるタイプのダガー使いの3連撃ソードスキルで沈む程度とわかってからは、タンク職の格好のカモとしてさらに名をはせることになってしまい……要するに普通の雑魚だった。
本来なら少年が手こずるような相手ではない。だが、現在の問題はモンスターそのものではなくモンスターの数だった。
通常のフィールドではありえない、秒間数十体という信じられない速度で湧いてくるそのスパイダー・ナイトたち。いくら少年の敵ではなく、剣の一撃で爆散する敵だといってもさすがにこれほど尋常ではない湧き方をされてしまっては、高レベルプレイヤーの少年であっても命の危機を感じざるえなかった。
モンスターボックス。結界によって隔離され脱出不可能。その中では通常では考えられないほどの速度でモンスターがポップし、一定以上のモンスターを倒さないと出ることができない魔の空間。プレイヤーたちからは《棺桶》と言われ畏れられる、トラップの代表例だ。
少年は自分が一体倒すたびに、数十体単位で
「俺は……ここで死ぬのか?」
少年の口かららしくない絶望の声が漏れる。
脱出方法もなければどれだけ敵を倒せば終わるのかもわからないこの棺桶の中で、剣をふるい続けることに疲れた少年の剣はわずかに鈍り、スパイダー・ナイトの
「しまっ!」
大きく姿勢が崩れる少年。当然その隙をスパイダー・ナイトたちが見逃すわけもなく、一体のスパイダー・ナイトが手にエフェクトを宿し、少年にとどめを刺そうとソードスキルを発動させかける。
だが、
「《
瞬間だった。少年の頬をナニかが凄まじい速度でかすめ少年に襲い掛かろうとしていたスパイダー・ナイトを一撃で爆散させた!
唖然とする少年が見たのは、スパイダー・ナイトのポリゴンから出てくる黒がね色の大鉄球。無数のとげがあることから、このアインクラッドではまだ確認されていない《モーニングスター》と呼ばれるハンマー系の武器だと悟る。
「おいおい、人がせっかく経験値荒稼ぎに来たのにすでに先客がいるとかマジ勘弁してほしいわ……。あ、お兄ちゃん? もしかして横殴り禁止? って、んなわけないか。明らかにHP赤だし。ちょっとお兄さん、だめだよ~こんな簡単なトラップにひっかかっちゃ。俺みたいな長物使いならいいけど、お兄さんみたいな片手剣使いにはちょっとこのトラップはきついからね?」
そういって、いつの間にか黒い少年と同じ手順を踏み自らモンスターボックスに飛び込んできていたのは、黒がねの鉄球を億劫そうに手繰り寄せ再び戦闘態勢に入る黒目黒髪オールバックの青年だった。
身長から算出すれば黒い少年の一つ二つ年上のように見えるが、さばさばした上に、なれなれしい態度がその年齢差を埋めてしまっている。
「ほらっ。ここは代わってあげるからさっさと逃げて~。このトラップ、違う人が入ってきたら前いた人はいくらでも結界ぬけられる仕様だし」
モンスターボックスにしては優しめなんだぜ? と、にこにこ笑いながら乱入してきた青年は、語った。
「お、おい! まて!! いくらなんでも無茶だ!! ここ湧き方が半端ないんだって!!」
黒い少年はあわてて、乱入してきた青年を止めようとする。それはそうだろう。前線組の、自分ほどのステータスを持つプレイヤーですらHPをレッドまで落とされた罠だ。いくらスパイダー・ナイトを一撃で消し飛ばす攻撃力を持っていたとしても、秒間数十単位で湧くモンスターの大軍からは逃れられないだろう。
だが、乱入青年は不敵に笑い、
「おいおい、俺が言ったこと忘れてんのお兄さん?」
自分に向かって襲い掛かってくるスパイダー・ナイト一体に再びモーニングスターを投擲。粉砕する。だがそれでは終わらない。一体のスパイダー・ナイトが爆散した背後ではスパイダー・ナイトが三十体ほどリポップしており、その隙間をさらに高密度の壁で埋めようとしていた。
波状攻撃という言葉など生易しい。まさしくモンスターの津波と言っていいほどの絶望的な光景。
だが少年は笑みを崩さず、
「俺はここに経験値稼ぎに来たんだぜ?」
手に持った鎖を操り、
「ソードスキル」
青いエフェクトを伴った鉄球を、
「《
勢いよく振り回した!
モーニングスターはその武器の名の通り星に見立てられ、円形に乱入青年の周囲を高速旋回。襲い掛かろうと周囲に待機していたスパイダー・ナイトを遠慮なく打ち据え瞬く間にポリゴンの嵐を形成し、モンスターボックス内にいたスパイダー・ナイトたちを全滅させた。
その回転回数、驚くべきこと10回転。すなわち、10連撃。
SAOでは現在二桁に至るソードスキルは発見されていないため、事実上最高数の連撃回数を誇るソードスキルだ。
しかも、その攻撃範囲は青年の周囲から鎖が届く範囲まで。すなわち、SAOでは絶対にありえないとされた、超広域にわたる殲滅スキル。
これなら確かに紙防御のモンスターは格好のカモだろうと、黒い少年が思わず息を飲み感嘆の声を上げかけたときだった。
旋回していた鎖が少年の髪をかすめ、HPを数ドットだけ持って行った。
少ないHPをさらに削られ思わず頬を引きつらせる黒い少年。それをみて、乱入青年は申し訳なさそうに、
「いや、ごめんお兄さん。加減とかはできないからホント巻き込む。だから早いことにげてね?」
乱入少年の警告に、黒い少年はあわてて地を這い、匍匐前進でその場を離れた。
そして、モンスターボックスから出た少年は乱入青年が置いたと思われる回復結晶を使い、HPを全快させた後、
「あんた、名前は!」
思わずそう声をかけていた。
先ほどのスキルは明らかに誰も発現できていない唯一のスキル……ユニークスキルだ。
それほどのものを持っているのだから、少年が知っている名のある攻略プレイヤーなのかもしれない。
だが、乱入少年の返事はそっけないもので、
「上みろ、上。パッと見たかんじ、今忙しそうでしょうが?」
といいつつ、再びリポップしてきたスパイダー・ナイトにジオセントリズムをぶっぱなし、殲滅していく青年にカーソルを合わせて、黒い少年はその名前を確認した。
「コメット。助かった……この恩は、必ず返す!」
「あぁ、いらない、いらない。前線組の方とは絶対関わり合いにならないところにいるから!! あ、あとここのことバラしてくれてもいいけど、経験値稼ぎできるとか言わないでね? 長物系の人に同じことされたら俺ちょっと経験値稼ぎがめんどくさくなるから」
黒い少年のお礼に、すげない言葉を返しつつコメットは黙々と戦闘という名の虐殺を続ける。
そんな彼の背中を黒い少年はしばらくの間見つめて、
「すまない」
一礼した後、転移結晶を使い安全エリアまで離脱した。
…†…†…………†…†…
「へぇ~。キリト君を助けた人ね~。そんなすごい人いたんだ?」
「あぁ。ヒースクリフとはまた違った種類の強そうな人だったよ」
「パパより?」
「う~ん。昔はそうだったけど、今はどうかな? 俺も一応ユニークスキル身に着けたし」
「キリトくん意外と負けず嫌い?」
「……うるさいな」
「パパおとなげな~い」
「ちょ、ユイ!?」
娘のようにかわいがる少女にそういわれ、思わず慌てふためく黒い少年こと《黒の剣士》キリト。その隣を歩く少女――攻略組の代表とさえ言われている有名人《閃光》のアスナはその姿を見て微笑んだ。
現在彼らは第一階層の始まりの街へと向けて歩みを進めていた。昨日保護したゲーム攻略を行うには幼すぎる少女――ユイの知り合い探しのために。
このくらいの年齢の少女ならば、始まりの町にこもって誰かの保護を受けていただろうというのが二人の考えなのだが……。
「あの~誰かいませんか?」
「は~い」
二人が今訪れているところは始まりの町のとある教会だった。そこに子供のプレイヤーたちがあつまり、それを保護しているプレイヤーもいると聞いて足を運んでみたのだ。
「どちらさまですか?」
アスナの呼びかけに応じ扉を開いて出てきたのは眼鏡をかけた、濃紺のプレーンドレスを着た女性プレイヤー。
「……あら。こんなところに上層のプレイヤーさんがいるなんて、どうしたんですか?」
ん? キリトはその女性の発言に何かが引っかかり思わず首をかしげたが、その疑問が形になる前にアスナが今日ここにやってきた目的をその女性に告げた。
「あの、私たちちょっと人探ししてまして」
「人探し?」
「はい。この子の保護者を探しています」
そういって、アスナはキリトがおんぶしているユイを示した。眼鏡をかけた女性プレイヤーはユイを見て目を丸くして驚く。
「どうしたんですかその子? 上層に行けるような装備には見えないんですけど……」
「22階層の森の中で迷子になっていて……。多分何らかの事故であそこに出たんだと思うんですけど、こちらに保護者の方はおられませんか?」
アスナの質問に、眼鏡の女性は小さく首を振り否定の意を示した。
「申し訳ありません……。少なくとも私はしりませんね。これでも始まりの町にいる子供プレイヤーの顔は保護する傍らに、大体覚えたんですけど」
「そう……ですか」
当てが外れてがっかりといった様子と、ユイともう少し一緒にいられるという安心感で少し微妙な顔になるアスナ。キリトはそんな彼女の様子に苦笑をうかべ、位置がずれてきたユイを背負いなおす。
「あの……なんでしたら今の始まりの町で当てになりそうな人たちをご紹介しましょうか? 上層組の方でしたら、ここに来るのは久しぶりでしょうし」
「ぜひ!!」
そんなアスナの様子に罪悪感を覚えたのか、眼鏡の女性プレイヤーはそう提案してきてくれた。もちろんアスナとキリトにとっても悪い話ではなかったので、一も二もなくその提案を受けいれる。
「では中へどうぞ。たいしたものは出せませんけどお茶くらいなら出せますよ?」
メガネの女性はそんな二人の様子にほんの少しだけ頬をほころばせながら、教会の扉を二人が通れるぐらいまで開けようとした。
そのとき、
「サーシャねーちゃん!!」
数人の子供たちが教会へと飛び込んできた。
「あ、こらっ! お客さんに失礼じゃない」
まったくもうといわんばかりに怒る眼鏡の女性――サーシャに、子供たちは慌てふためいた様子で声を上げる。
「そ、それどころじゃないよ!! 《軍》の連中がギン兄ちゃんたちを……」
「っ!」
その瞬間、サーシャの顔があからさまにこわばるのを見てキリトたちは思わず顔を見合わせた。
…†…†…………†…†…
「あなたたち! その子たちを離しなさい!!」
「おっと、保母さんのお出ましだ」
子供たちからの報告を聞いた瞬間、脱兎のごとく駆けだしたサーシャの後を追ったキリトたちは、そこで、予想していた最悪の事態を目撃した。
「軍……」
そこには、子供たちを路地の行き止まりへと誘導し、ゲームシステムを使った通路封鎖のハラスメント行為《ボックス》を行い、子供たちを閉じ込めて恐喝を行っている巨大ギルド――《アインクラッド解放軍》のメンバーと思われるプレイヤーたちがいた。
「クソっ。ここまで軍が腐ってるなんて……。アスナっ!」
「うん!」
二人は視線で互いに示し合わせて、ステータス補正をいかんなく発揮。人間離れした跳躍を披露し、軍のメンバーたちの頭を飛び越え拉致された子供たちの眼前へと降り立った。
「なっ!?」
そんな二人の姿を見て明らかな驚きを示す軍メンバー。この程度のことトップの攻略組メンバーならだれだってできるが、それを知らないところを見るとどうやら彼らはかなりレベルが低い連中らしい。
「おいおい、あんたら……いったい何のつもりだ! 軍の仕事を邪魔するってことが、どういうことかわかってんのか!!」
そして、実力の差もわからない程度の連中だということもわかりキリトとアスナは思わずその軍メンバーに白い目を向けた。
しかし、まるでチンピラのように二人に食って掛かる軍メンバー二人とは違い、それを率いていた隊長格と思われる人物は下卑た笑みを浮かべつつ、サーシャへと視線を移した。
「ほ~。あれがあんたが今回雇った用心棒か?」
「っ!」
サーシャの顔があからさまに悔しそうに歪むのを見て、キリトは思わず首をかしげる。そして、サーシャに抱いた違和感の正体に気付いた。
そう、サーシャは軍の連中ですら気づかなかった、自分たちの実力に初めから気づいていた。アスナもキリトも普段着のようなラフな格好をしているが、ファッション性の高いこれらのかっこうはそれなりに上の階層に行かないと手に入らない。少なくとも第一階層の住人が着ている物ではない。
彼女はそれを一瞬で見抜き、少なくともキリトたちが前線に近い《上層組》と呼ばれる半前線組のような存在だと思ったのだろう。
そしてそれは、彼女に上層組の情報を伝えられた実力者が彼女の隣にいたということ。先ほど軍の隊長が漏らした用心棒とやらがおそらくそれだ。
「まぁ、仕方ないわな。前の用心棒は一週間前に『ちょっと上行ってくる』っつって、上層に登ったきり帰ってこないんだから!」
「っ……あの人は帰ってきます」
「こねぇよ! 大方どこかでのたれ死んだんだろ? 下級階層のプレイヤーごときが調子にのって上に行くからこんなことになるんだ!!」
あからさまな嘲笑を浮かべながら、サーシャの言葉を鼻で笑う隊長。その姿を見て、ほかの軍メンバーたちも余裕を取り戻し、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてキリトとアスナへ距離を詰めてくる。
その時、拉致されていた一人の女の子が、顔を真っ赤にして怒声を上げた。
「スイ兄ちゃんを馬鹿にするな税金泥棒!!」
「あぁ?」
軍のメンバーがガン飛ばすがごとく少女を睨みつけるが、少女は少しひるんだだけで軍へと食って掛かる。
「スイ兄ちゃんはお前たちなんかよりずっと強いんだからっ! それに、フレンドリストにもきちんと残っているし、前線に出たって問題ないレベルしている! それに、いつもどんな敵でも笑ってやっつけることができて……ユニークスキルだって」
「はっ! あんなもんタダ鉄球を振り回しているだけだろうが!! 軍に生意気な口ききやがって、どうやらお仕置きが必要みたいだな」
軍メンバーの一人が怒声を上げ、少女に飛びかかろうとする。アスナとキリトはそれを見て額に青筋を浮かべながら各々の武器を取ろうとした。
その時、
「
巨大でとげだらけの、青白い金属でできた鉄球が、襲い掛かろうとしていた軍メンバーに直撃。ノックバックなどと比べるのは生易しい、吹き飛ばしによって軍メンバーを路地の壁へと叩きつけた。
「「「は?」」」
アスナとキリトは奇しくも軍の隊長と同じ声を上げてしまい、
「っ……コメット」
サーシャは感極まり、待ち望んでいた人物の帰還を喜ぶ。
「いや~。わりぃわりぃ。昔馴染みに『主戦力抜けたから、三日でいいから手伝って?』なんていわれちまってさ~。あいつにはいろいろ恩があるから仕方なしに手伝いに行ったら、あの野郎『三日? おいおい、せっかくここまで来たんだから一週間ぐらいはレベルあげに勤しみたまえよ。あ、新人教育もよろしくね?』とか、ぬかしやがって……。今日ようやく仕事全部終わったから、あのバカしこたま殴りつけて、辞表だしてきてやったぜ~」
そう言って路地に入ってきたのは、キリトが絶体絶命の時に出会ったあの青年。
日本人らしい黒い瞳に、オールバックになった黒い髪。その鎧は以前会った時よりも重装甲になっており、ヘルメットを着けていない顔を除けば、前線でわかっている最硬の装備で身を固めている。
はなった鉄球はキリトがリズベットに作ってもらった《ダークリパルサー》と同じ、魔剣の輝きを放ちながら軍メンバーを押しつぶし、じたばたと暴れる軍メンバーを完全にとらえて離さなかった。
いったいどれだけの重量があるんだ……。その光景にうすら寒いものを感じながら、キリトは思わずため息を漏らす。
「まさかこんなところにいるなんて……。そりゃ前線で名前聞かないわけだよ……」
「ん? お兄さん、前どこかで会ったことあったっけ? どっかで見たような顔している気が……。まぁいいや。それよかサヤ~。スイ兄ちゃんはやめろつったろうが。《彗星》を略すんじゃありません。コメットお兄様と呼びなさい」
今までのシリアスな雰囲気などなんのその。軽い空気と、なれなれしい空気が同居した雰囲気を辺り一帯に満たしながら『鉄球使い』のユニークスキルを持つ《コメット》が再び姿を現した。
…†…†…………†…†…
「ふ~ん。軍の騒ぎもようやく沈静化か……。まだ何人かのバカどもが始まりの町に居座るだろうけど」
「でもずいぶんと平和になりますよ。キリトさんたちに感謝ですね」
軍の内乱に決着がつき、軍が解体されることになった先日の事件。それを思い出しながらにこにこ笑ったサーシャがつぶやいた一言に、コメットはほんの少しだけ固まった後黙って彼女が入れてくれた紅茶に口をつけた。
「ん? どうしたんですか?」
しかし、仮にもデスゲームが始まってからの長い付き合いをしていたサーシャにとって、コメットの変調を見抜くのはたやすいことだったらしい。
べつに。と、あからさまなはぐらかしをするコメットだが、普段よりも機嫌が三割増し悪いことをサーシャはきちんと見抜いていた。
何か怒るようなこと言ったかしら? と、小さく首をかしげるサーシャ。そして、
「あ、もしかしてキリトさんに妬いているの?」
ぶっ!? サーシャの言葉にコメットは勢いよく飲んでいたお茶を噴出した。とっさに横を向いたのでサーシャには被害はなかったが、なんというかもうスケスケな態度である。
「な、ななななななにを言ってるのかにゃ~サーシャさんは!! 焼いてるとかそういうのは12階層でもう十分と申しましょうか!! というか、キリトなんか焼いてもおいしくないし」
「焼いているの字が違うわよ……。まぁ、確かにあそこのモンスターが落とす漫画肉は美味しかったけど……」
笑いをかみころして、訂正を入れてくるサーシャに顔を真っ赤にしてプルプル震えるコメットは「あぅ」や「くっ!!」と、言葉にならないうめき声をあげることしかできないでいる。
そんなコメットの様子をひとしきり笑った後、サーシャは少し真剣な顔になってコメットに尋ねた。
「ねぇ、コメット……あなた、キリトさんやヒースクリフさんに言われたように、前線に出てみる気ない?」
「またその話か」
サーシャの提案に、コメットは先ほどまでの狼狽を完全に消し去り思わず舌打ちをしながら、カラになったカップをサーシャに渡した。どうやらおかわりを要求しているらしい。
「なんども言っただろう。お前のそばがおれの居場所だ。それにガキどもの件もそうだ。軍がなくなったといっても、まだまだこの世界には危険が多い。俺が守ってやらなくちゃ……」
「私たちはそんなに弱くないわ!!」
いつものようにサーシャの追撃をかわそうとしたコメットに、サーシャは思わず大声を上げて反論する。
「みてっ……あなたがいない間に戦える子供と一緒にフィールドに出たわ。もうレベルは三つも上がっている。このレベルなら、軍クラスの人たちが出てこない限りたいていの危険は私たちで払いのけられる」
サーシャが提示してきたステータス画面をみて、コメットは思わず絶句した。確かに彼女のレベルは一週間前と比べて格段に上がっていた。いくら低レベルのままレベル上げをやめていたといっても、一週間でレベルを三つも上げるのは並大抵のことではないと、コメットは経験でわかっていた。
「コメット……私知っているの。あなたが夜中に、私たちに隠れていつも最前線の階層でレベルあげしているの。本当はあなた……」
誰よりも、このゲームからの脱出を願っているんじゃないの?
サーシャに核心を突かれ、コメットは思わず黙り込んでしまう。いつもきっぱりと意見を言うコメットの悠然とした沈黙は、サーシャにとっては何よりの肯定だった。
「でも、おれは……」
「私だって、あなたにそばにいてほしい……」
それでも未練があるかのように食い下がろうとするコメットに、サーシャは自分の気持ちを打ち明けた。
「一緒に子供たちの面倒を見てほしいし、一緒に行きたいところもいっぱいあるし、前線みたいな危ないところには行ってほしくないし、あなたの隣を……歩いていたい。」
「……」
「でも、私が攻略をやめて子供たちの面倒を見るっていったとき、「お前一人じゃ心配だ」ってあなたは私についてきてくれた……。自分の意見を殺して、私のわがままに付き合ってくれた。だから今度は、私の番」
そう言い切ったサーシャの目から、一粒の涙が零れ落ちた。コメットはそれに何も言えず、あくまで笑っているサーシャを黙って見つめ続ける。
「いってきてコメット。私たちを……この世界から助けて」
サーシャが最後にそう言って立ち上がり、あわてて部屋を出ようとするのを見てコメットは思わずため息を漏らし、前線組級のステータスをいかんなく発揮。サーシャよりも格段に速い動作をしながら部屋の扉に手をかけたサーシャを抱きしめた。
「っ!!」
背後から抱きしめたため顔はよく見えないが、恐らく真っ赤になっているだろうな~、とコメットは長い付き合いで察する。その手がふらふらしているように見えるのは、恐らく目の前に浮かんだハラスメントコードをどうするかで迷っているのだろう。
ここでOKを押されてしまうといろいろ台無しなので、コメットは口早に自分の気持ちをサーシャに告げた。
「俺がここから脱出したい一番の理由は……現実のお前に会いたいからだ」
「え……」
ふらふらしている指がピタリと止まり、サーシャの顔がこちらを振り返ろうとする。コメットはあわててサーシャの頭に顔を乗せみられないようにする。
ぶっちゃけ、恥ずかしくて顔が真っ赤なのだが、さすがにこの雰囲気でその顔を見られるのは死ねるので遠慮してほしかった。
「向うでお前に会って、いろいろ話して……それから。やっぱりお前のことが好きだって……言いたかったんだよ」
コメットが消え入るような小さな声で呟いたそのセリフに、サーシャは数秒の間氷結する。そして、
「なんで……こっちでいっても」
「それじゃあダメなんだ……。俺はキリトみたいに自分に自信がない。なのにあんたは俺を好いてくれている。だから俺は思ったんだ……あんたがおれに抱いている好意は、いわゆる吊り橋効果みたいなもんで、現実に帰ったらおれのことなんか……」
瞬間、サーシャが勢いよく体を回転させコメットの高速を振りほどき、力任せにその頬へと平手を叩き込んだ!
手加減していたとはいえ、高レベルプレイヤーの自分の拘束をあっさりと打ち破り、ビンタを叩き込んできたサーシャの力にコメットは思わず唖然とするが、
「そんなバカなことを考えていたんですかっ!!」
今度は本気で泣いているサーシャを見て、再び氷結した。やばい、怒らせたっ! と、内心で彼の混乱はピークに達しているが、サーシャはそんなこと関係ないといわんばかりに怒声を迸らせる。
「だったら、あなたは……もっと、早くに、前線に行くべきでした! そしたら、もっと早くに、このゲームも終わって、そうしたら私っ!!」
あなたのことを変わらず、好きだって言えました!! サーシャの思い切りのいい告白に、コメットの思考は今度こそ完全に処理落ちした。
え? なにこれ? 夢? 彼の脳裏にはそんなバカな言葉に埋め尽くされている。しかし、今のサーシャは彼の復活を黙ってまってくれるほど穏やかではなかった。
「しつれいします」
そう言って彼女は、今度は勢いよくコメットに抱きついた。そんな彼女の態度にコメットは、目の前に浮かぶハラスメントコードをぼんやりと見つめながら「あぁ~。これ男にも出るんだ……」と的外れな感想を内心で抱く。
だが、
「勝って……勝ってくださいコメット。このゲームに勝って……そして、向うで私に会って」
――また私を、好きだって言ってください。
声にならないサーシャの要望だけは、彼の心にしっかり届いた。
だからコメットは、
「あぁ。約束するよ……」
自分が泣かせてしまった少女に、決してたがわない約束をした。
そのころへ彼らがいる部屋の外では……。
「あの二人一体いつになったらキスするのかしら?」
「ねぇ~さや~。もうやめようよ~」
「何言ってんのアリタ!! こういう時のために聞き耳と覗き見のスキルあげてきたんじゃない!!」
「ほんとやめようよ~。出歯亀なんてしたってばれたらサーシャ姉ちゃんに何言われるか……」
「お前ら何してんの?」
「「げぇっ!! ギンにい!?」」
加速世界の鴉を生み出すことになる二人が、自分たちの義姉の恋の行方を見守っていたりした……。
…†…†…………†…†…
The Skullreeper。《骸骨の狩り手》。自分たちの平穏を打ち破った敵の名前に、キリトは思わずうめき声をあげる。
階層は75。ちょうどボスの厄介さが増す階層だ。そのため、攻略組は万全の態勢で臨むためトップギルドの中でも選りすぐりの精鋭を招集しこの攻略にあたった。だがしかし、そこまで盤石な体制を引いても、そのボスは脅威だった。そのことを、キリトは肌でしっかりと感じ取っていた。
びりびりと感じる天井に張り付いたボスからの威圧感。正直今からでも隣に立っている少女に逃げてほしいくらいだった。
キリトがそう考えてきたとき、天井に張り付いていた奴が――ボスがアクションを起こした。
するすると、まるで蛇のように天井から降りてくるボス。キリトたちはあわてて着地点から離脱するが、二人の重装甲型のプレイヤーが恐怖のあまり逃げ遅れている。
「なにしている! 早く逃げろ!!」
キリトの警告が響き渡り、プレイヤー二人はあわをくったような様子で、死に物狂いで走り出した。
だが、それではあまりに遅すぎる。
スカルリーパーが、手についている大鎌を振り上げ一閃。その攻撃は、背中を向けにげていたプレイヤーの一人に直撃し、そして、
「え……………」
まるで何かの悪夢かのように、あっさりとそのプレイヤーをポリゴンへと変換してしまった。
「そんなっ……」
「一撃……だとっ!?」
周囲のメンバーが騒然とし、明らかな恐怖を浮かべる。しかし、
「っ……にげろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
逃げ遅れたプレイヤーはまだ一人いる。一撃でやられた隣のプレイヤーがいた場所を呆然と見つめている、もう一人のプレイヤー。
その瞳はすでに絶望に染まっており、逃げる気力は……ない。
動かないプレイヤーをボスが放っておくわけもなく、スカルリーパーは何の容赦も見せないままにただ無造作に鎌を振り上げ、
【っ…………………!!】
横から飛来してきた鉄球に激突され、大きくその体勢を崩した!
「は?」
怒号のようなものが感じられるノックバックしたボスモンスターの絶叫。キリトはそれを聞きながら、その鉄球から延びる鎖の先へと視線を向けた。
「おいおい、初めてのボス攻略だから少し遠慮してたら……すごいなボス。まさか攻撃の直撃食らったら即死とかどんな鬼畜仕様? 弾幕ゲーでももうちょっと優しいわ」
その先にいたのは、黒いマントに身を包んだ一人の青年。それを見たキリトは思わず絶句し、
「来たのか……」
ぽつりとつぶやいた瞬間、スカルリーパーがノックバックから回復した。怒りに燃えた両眼を黒マントの青年に向け鎌を振り上げながら突撃を開始するスカルリーパー。
しかし青年はあわてることなく、
「
マントを脱ぎ捨てその重装甲をあらわにした後、重装甲プレイヤーではありえない、まるで彗星のような信じられない速度でスカルリーパーの頭部にタックルをかました。
瞬間再びノックバックに陥るスカルリーパーを、悠々と通り過ぎた青年は先ほど投げつけた鉄球がある場所へと着地する。
その頭上には『Comet』というキャラクターネーム。あの鉄球使いのユニークスキルを持った、奴が初めて表の戦場に姿を現した!
あの高速移動は、おそらく鎖の高速巻取りによる超加速。モーニングスターの鉄球を太陽に見立て、自分がそれに合わせて動く《地動説》。それによって重装甲による鈍重になった自分の移動速度を補っているのだろう。
「キリトぉ。俺のエクストラスキルの《鉄球使い》はノックバックに大きな恩恵があるスキルだ。相手に攻撃が入ればどれだけ固くてもシステム的に100%の確率で40秒ノックバックが入るから、技が出そうになったらおれに回せ!」
あからさまなソードスキル妨害に特化したユニークスキル。その内容を聞いたキリトは思わず唖然とした後、
「ったく、そんな能力があるならもっと早くに来いよっ!!」
事情を知っていたとしても思わずそう言わずにはいられなかった。だが、今回は来てくれた。
この厄介なボスを打倒するために、ようやく重い腰を上げてくれた。だったら、
「行くぞ、アスナ!」
「とうぜん!」
「新人にいいところ盗られるわけにはいかねぇよな!!」
キリトがボスに向かって突撃する。それに追従するアスナとクライン。
無論ボスはそのことに気付いたのか、スカルリーパーは三人の方が脅威度が高いと認定し、キリト達へとターゲットを変え大鎌を振り上げてくる。が、
「よそ見してんじゃねぇよ。
その側面に立っていたコメットが、キリトを救ったあのスキルを使う。
高速回転する鉄球による、十連撃攻撃。それによって再びノックバックを起こしたスカルリーパーは無防備なその体にキリトたちの連撃をくらう!
その様子を見ていたプレイヤーたちの瞳からはすでに絶望は消えていた。
「勝てる……」
誰かがそうつぶやいた。
「勝てるぞ……」
そして、確認するかのような声が重なり、
「諸君……」
ヒースクリフが剣を振り上げ激励した。
「もはや、我々の負けは無くなった……進軍し、蹂躙せよっ!」
「っ……………………うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
瞬間、固まっていたプレイヤーたちはいっせいに鬨の声を上げ突撃を開始する。次々と入る攻撃がスカルリーパーのHPを削る。
スカルリーパーはまるでそのことに慌てるかのように、攻撃を始めようとするが、
「おせぇ……
その頭部に再び鉄球が食い込み、その巨体を40秒の拘束へと叩きこむ。
その間に次々と入るソードスキル。このボス戦の勝利は、もはや決まったも同然だった。
「……もう少し遅くに合流するものかと思ったが?」
誰かにたきつけられたか? と、ヒースクリフは興味深いといわんばかりの顔で笑った。
なぜなら、あのエクストラスキル《鉄球使い》が発現する条件は『第45層がクリアされたとき、当時の最高レベル五人のうちに入りながら、ほとんどの時間を第一階層で暮らしている人間』だ。
つまり、何らかの理由で前線組に匹敵する力を持ちながら第一階層から離れられない人間。それもゲーム中盤に入ってもまだ逃れられないほどの厄介ごとを抱えた人間があのでたらめなユニークスキルを手に入れることができる。
ヒースクリフとしては、その役割は「ラスボスを倒すために最後に見つけた、辺境に住む隠れた天才」のようなものを期待していた。
鉄球使いのほかにも、こういった役割になればいいと考えたユニークスキルは多数ある。が、それらはまだ条件が満たされていないのか見つかっていない。
ただ、真っ先に見つかった鉄球使いにはいろいろと目をかけており、時々血盟騎士団に呼んではレベルあげの協力をしていたりした。
だがまさか、これほど早くに前線に来るなど彼の予想をはるかに超えていた。
だが、それですら面白いとヒースクリフは考える。
神である自分の手を離れ、無軌道な物語を紡いでいくこのゲーム。自分の作品がどんどんと『世界』へと近づいていくのを感じ、ヒースクリフは思わず研究者として、絶対者としての笑みをその顔に浮かべた。
それを、キリトにみられているとは知らずに……。
この後どうなったのかって?
え? 普通に原作通り終了しましたよ? つまり、キリトがヒースクリフの正体見破って、愛の力で討ち果たしましたよ?
つまり主人公が活躍したのはこのボス戦一回だけ!! ざまぁ、リア充ざまぁプギャー!m9(^Д^ )
とまぁ、そんな冗談はさておいて……。
普通に現実世界に帰ってきた彼は、普通にサーシャさんと恋人になって、普通に幸せになりました。
一応キリト組とも仲よくやれており、ALOの移転もきっちしましたよ。
その後も何かと厄介ごとが絶えないキリトに「お前ホント大変だな……」とか言いながら愚痴に付き合うポジションを確保していたりします。
ちなみに、途中でてきたアリタとサヤに関しては……サバイバーだったら面白いよね~。という、作者の独断と偏見によって勝手に出させてもらいました。SAOからアクセルまでは20年程度の開きという話ですし、大丈夫だよ……ね? 当時十代ならまだ三十代のはずだし……。うん。大丈夫大丈夫……。
はたして何のことかわからない方は、アクセルワールドのウィキペディアチェケラ!!