ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「うーぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
どすどすどす、と足音荒く調合室を歩き回るのは医療系派閥を率いる神、ディアンケヒト。
作業中の団員たちが迷惑そうにしているが、本神は気にもしていない。
「許せん! 認めん! あってはならん! わしでさえ銀の腕しか作れなんだというのに、無くした腕を呪文一つで再生させるだと!? 冒涜じゃ、傲慢じゃ、神罰じゃぁっ!」
彼が怒っているのはヘスティアの元貧乏神仲間、ミアハ・ファミリアのナァーザ・エリスィスの腕のことである。
先だっての一連の騒乱の中で、イサミは重傷を負った冒険者達の手足を"
料金はギルド持ちだったが、事が事だけにイサミもサービス価格でご奉仕していた。
問題はそれを見たディアンケヒトがナァーザの腕も再生していたことを知ったことだ。
かつて自分がナァーザに施した銀の義手よりもはるかに高度な治療を、それも安価に施したことがこのプライドの高い老神の癇に障ったのである。
「許せん! 莫大な代価と引き替えに施すならばともかく、不要になった
「怒るところそこですか・・・?」
「当たり前じゃっ! 高度な治療にはそれ相応の対価があってしかるべき!
まあ百歩譲って奴の技術には敬意を表してやってもいいが、そんな治療をぽんぽん安価に施されては、わしらのような真っ当な医療系ファミリアはやっていけんわいっ!」
「真っ当なつもりだったんですか!?」
団員達の懇願の眼差しに負け、しょうことなしに無難な相槌を打っていた
じろり、とディアンケヒトが振り返る。
「なんじゃい、何か文句があるのか」
「い、いえ何も・・・」
首をすくめるアミッド。
ふん、と鼻息も荒く独演会を再開するディアンケヒト。
「だいたいわしらはきちんと話し合いで決めた価格のもとに治療を施しておる! それを乱されては迷惑千万!」
(どの医療ファミリアも、なくなった手足を再生するなんてできないし問題ないんじゃないでしょうか・・・というかそれ
そんな事を考えているアミッドをよそに老神がぴたりと動きを止めた。
「くくくくく・・・そうじゃ、これは紛れもなき営業妨害! 医療系ファミリアをまとめて、ギルドにねじ込んでくれるわ! 奴をわしらの管理下に置いてやる!」
それ他派閥への干渉じゃ・・・と言おうとしてアミッドは口を閉じた。
今の主神に何を言っても無駄だろうから。
『ギルドより布告:
これより毎月十日朝九時から十二時までの間、ギルド本部大ホールにおいてヘスティア・ファミリア団長イサミ・クラネルによって手足、目鼻などを失ったものの治療を行う。
価格:一箇所につき100万ヴァリス 今すぐ払えないものはギルドからの貸付あり。
※初日は終日営業』
「ぬわんっじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁあ!」
怒髪天を突く
「あー、やっぱりこうなりましたか・・・でもまあ妥当なところですね」
アミッドが安堵と納得半々くらいのためいきをこっそりとついた。
「治療の方はこちらです。足元の線に従い、一列にお並び下さい」
治療初日。ギルドホールは大盛況であった。
数百人は入る催事用の大広間が、患者だけで半分くらいは埋まっている。
「ほい、"
「あ、ありがとうございます【
「いえいえ。はい、次のひとー」
冒険者や元冒険者に涙ながらに礼を言われれば、イサミとしても悪い気はしない。
実際の所今回の話はイサミにとっても渡りに船であった。
何せ治療の件を聞き及んだ人々がホームを訪れて懇願してくるのだ。
そうした人々を見過ごせるヘスティアでもないし、イサミでもない。
正直重荷であったのだが、今後は受付にしろ取り立てにしろ面倒なところは全てギルドに任せた上で、ただ治療をすればいい。
気楽なものだった。
なお、"
"
この金額が全てイサミ(ヘスティア・ファミリア)の懐に入るので、休養日の、しかも片手間の小遣い稼ぎとしてはまあそれなりだ。ギルドの方から日当も出る。
無限使用可能な"
逆にギルドの方は完全に持ち出しだが、体を欠損した冒険者達が再び迷宮に潜れるようになるのなら、その分魔石を稼いできてくれることにもなる。
月一度のちょっとしたイベント設営など、それに比べれば大したコストでもなかった。
「お疲れさま、イサミ君」
「あ、どうも」
数十分後、患者の途切れた合間を見計らって、エイナがハーブティーを持って来てくれた。
砂糖たっぷりの茶が、呪文を連発して疲れた脳にすーっと効く。
「ふうっ」
「沢山いたのにすっかりはけちゃったねえ」
「呪文自体は一人数秒で済みますからね。300人いても三十分あれば」
「でも、今回は本当に感謝してるんだよ、イサミ君」
「エイナさんがですか?」
うん、とエイナが笑顔で頷く。
「私が担当していた冒険者の人もね、手足をなくして冒険者を廃業した人が結構いたの。
そう言う人たちがね、危険だけどもう一度ダンジョンに入れるからって嬉しそうな顔するの。
だからイサミ君がしてくれたことがとても嬉しいのよ」
「―――――」
照れくさそうな顔でイサミが頬をかく。
「お金貰って仕事をしてるだけですよ――あ、お代わり下さい、砂糖たっぷりで」
「はいはい」
笑みを浮かべながら、エイナはこの図体のでかい治癒者にお代わりを注いでやった。
「初めましてっ! あなたがイサミ・クラネルね!? 私は美を与える女神・タマヨリビメ!
あなたが行った『女性を美人にする魔法』に興味があるのだけれどっ!」
「ファッ!?」
バンッ!と音を立ててホームに入って来たのは丸々と太った、古代日本風の色鮮やかな衣裳をまとった女神だった。
「女性を美人にする魔法って――あっ!?」
レーテーの方を振り向くと、アマゾネスの巨女はさっと顔を背けた。
「れぇぇぇぇてぇぇぇぇ・・・?」
顎をつまんで無理矢理こちらを向かせる。
流れる汗一筋。いたずらを見つかった子供のようなごまかし笑い。
「え、えーとね? イシュタルの子たちに私がフリュネかって聞かれたからハイって答えて、どうやったんだって聞かれたから魔法でって・・・で、でもイサミちゃんのおかげだって言うのは言ってないよ!?」
「そこまで言ったら同じだこの馬鹿!」
「ごめんなふぁぁぁぁい!」
ほっぺたを引っ張られて涙目になるレーテー。
そこにタマヨリビメが割って入る。
「あのカエル顔をこんな美人さんに変えるなんて素晴らしいわっ!
あ、今のは「カエル」と「変える」を引っかけたギャグよ。素晴らしいでしょう?」
「お帰りください。生まれつきの顔を変えるつもりはありませんので」
女神の巨体を強引に外に押し出そうとするイサミ。断じてしょうもないダジャレに腹を立てたわけではない。
タマヨリビメが焦った顔になる。
「ま、待って! 何も顔を別人に変えろとは言わないわ! でも大怪我をして、医療系ファミリアでも治せない傷が残ってしまう
お願いしたいのは治療行為なのよ!」
女神を玄関から押し出そうとしていたイサミの動きがぴたりと止まった。
「お願い・・・できないかしら?」
自分を見上げて懇願してくる女神に、イサミはノーとは言えなかった。
「毎月十日のあれにねじ込めないか、ギルドと話してみます」
「ありがとう! これで沢山の子が助かるわ!」
嬉しそうな笑みを浮かべるタマヨリビメ。ヘスティアが眉を寄せる。
「・・・何かこの調子で、どんどん仕事が増えそうだね」
「言わないで下さい」
イサミが深く溜息をついた。
玉依姫命(タマヨリビメノミコト)は神武天皇の母親で女性を守る女神。各地の神社で祀られています。
彼女を祀った神社の中でも京都の河合神社では「鏡絵馬」という人の顔が描かれた手鏡型の絵馬があり、それに自分で化粧を施して美しくなる祈願をするそうで。
取りあえずダンドラのおまけはこれでおしまいです。
また何か思いついたら追加するかも。
ではまた。