貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?) 作:こーたろ
幼馴染JDとデートする
2月初旬の平日。
大学も休みに入ったこの時期に、俺と恋海は、デートをすることになっていた。
元カノである岡野さんとのゴタゴタがあった後、俺は5人全員を2月中にデートに誘った。
なんでそんなことをしたのかといえば、理由は1つ。
自分自身が、誰のことを恋愛的に好きなのかを、確かめるため。
3月までに答えを出すために……俺はひとりひとりと向き合って、誰のことが本当に好きなのかを……確かめなきゃいけない。
今日はその初日、恋海とのデートなのだ。
朝起きて、顔を洗って着替えて、髪をセットして。
玄関に置いてある、姿見の前に立つ。
……うん、これなら、恋海の隣を歩いても大丈夫だろうか。
いよいよ家を出るという時になって……少し自分が緊張しているのが分かって。
今まで意識したことはなかったけれど。
好きだと声を大にして伝えてくれている女の子とデートするのは……。
緊張するものなんだなと今さらながらに思った。
待ち合わせは、いつもの大学最寄りの駅にした。
今回は俺がプランを考えるということで……ちょっとでも恋海に楽しんでもらえるように色々考えてきたつもりだ。
待ち合わせの10分ほど前に駅に着いたけれど、連絡によると恋海はもう駅にいるそう。
駅の改札からは出ず、そのまま移動する前提で集まるため、これから乗る電車のホームで待ち合わせをしている。
きょろきょろと周りを見渡せば……すぐに分かった。
冬らしい茶色のコート。その下にはベージュ色のハイネックニット。下は黒のタイトめなマーメイドスカート。
普段とは違う大人っぽいコーディネートをした亜麻色の少女は、俺を見つけるとにっこりと笑って手を振ってきた。
「将人!おはよ!」
「……うん、おはよ」
正直、めちゃくちゃ可愛い。
というかこれも今さらながらに恋海のポテンシャルの高さを痛感する。
こんなの知らないですれ違ったら芸能人だと思うだろう。
「将人今日もカッコ良いなあ」
「いやいや、恋海の方がすごく……」
思っていたことをなんか先に恋海に言われてしまったので、思わず言おうと思っていた言葉が口をついて出る。
と同時に、今言おうとしてる言葉ってすごく恥ずかしい言葉なんじゃないかと思って、ぴたりと止まってしまった。
「……すごく?」
上目遣いに続きを促してくる恋海は、それはそれは――
「……可愛いです」
「やった!」
ぴょい、と笑顔で右腕に飛びついてくる恋海。
「じゃあ、いこっか、デート!」
「そう、だね」
考えなきゃいけないことはあるけれど。
まずは今日という1日を、恋海と楽しめたら良いなと、素直にそう思った。
目的地の近くにあるカフェを予約しておいたので、そこで軽く昼食をとってから。
俺と恋海は今日のメインの目的地へと来ていた。
券売機でチケットを買って、2人並んで中へと入る。
「うわ~!めっちゃ綺麗!」
俺と恋海の視界に映ったのは、辺り一面水色の世界。
水槽の中に、色鮮やかな魚が泳いでいる。
水族館。
都内でもかなり有名な水族館が、大学からそう離れていない駅にあったので、恋海とのデートはここにしようと決めた。
正直、好みかどうかは分からなかったので心配だったけれど。
「水族館なんて久しぶりに来たよ」
目をきらきらさせている恋海を見て、どうやら杞憂だったみたいで安心する。
順路と書いてある方向に歩きながら、右腕にぴったりとくっついた恋海が、こちらを覗き込んできた。
「将人は来た事あるの?」
「いや、水族館実は初めてなんだよね」
正直、このての施設に来たことなんて無くて。
そんなところにデートで行くのはちょっと心配だったけど。俺も来てみたかったので思い切って場所を選んだ。
「……へへへ、そうなんだ」
右腕に掴まる力がぎゅっと強くなる。
喜んでくれたなら、何よりだ。
「よーし!今日は全力で楽しんじゃうぞ!」
「そうだね!」
元気よく右手を掲げる恋海に続いて進んでいく。
平日ということもあって、館内はかなり空いていた。
都内で結構有名な水族館なので、休日はこんなにゆっくり見て回ることはできないだろう。
「クラゲってどうやって生きてるのか不思議じゃない?」
「確かに……?」
ふわふわと浮いているくらげを2人で眺める。
「可愛いなあとは思うけどさ、不思議さが勝っちゃうんだよね。クリオネとかも不思議だよねえ」
「なんかそういうのも含めて、恋海らしいよ」
「……それ褒めてる?!」
「褒めてる褒めてる」
ちょっとぷくっとした表情が可愛らしい。
恋海は可愛い女の子であることは間違いないんだけど……ちょっと知性的というか。
ふとした時に、真面目な側面が顔を出すのが、恋海の良いところだ。
……やっぱり、こうして2人で出かけると、相手の良さが改めて分かる。
自分がこの子の事をどう思っているのかも、同時に実感できて。
デートを提案したのは、間違っていなかったなと思った。
「ねえ、あの男の人カッコよくない?」
「え、ほんとだ」
隣を通り過ぎていった女子大生らしき2人が、俺たちの方を見てからこそこそと何か話していた。
最近はこういう事にも慣れてきたけど。
「……将人に色目使ってんな……」
「恋海~」
「はいっ!恋海です!」
度々こういう黒い面がある所も、恋海の良いところ……なのかもしれない。
……そのあとは、存分に恋海との水族館デートを楽しんだ。
「え、すごい!水中にいるみたいだよ!?」
「ほんとだね……!」
水中に作られたトンネルのような道で、視界全体に広がる海の世界を楽しんだり。
「ペンギンだ!可愛い~!」
「めっちゃたくさんいるんだね」
至近距離でペンギンが見られるブースで、ペンギンを愛でる恋海を微笑ましく見守ったり。
「うわ~!将人イルカだよ!」
「恋海そんな前に乗り出したら――」
「ぎゃー!!」
イルカショーで年甲斐もなくはしゃいだり、と水族館という場所を思い切り満喫できた。
全てのブースを見終わって、グッズショップも堪能した後に、俺と恋海が夕飯のためにレストランへと足を運んでいた。
水族館と同じ駅にある、インテリアがオシャレなイタリアンレストランだ。
「めっちゃ楽しかった~!こんなにはしゃいだのいつぶりだろ」
「確かに、恋海がはしゃいでるのってあんまり見ないかもね」
「みずほと一緒だとみずほがいつもはしゃいでるからね」
「確かに」
みずほが元気すぎて恋海がセーブ側に回るというのは、確かに良く見た光景かもしれない。
頼んだパスタをはむっと、食べて、恋海が美味しそうに咀嚼するのを眺める。
本当に、可愛い子だ。
この子が、昔一緒にキャッチボールをしていた子だというのだから、驚いてしまう。
あの頃から、優しくて、明るくて、太陽のような子で。
この世界に来てから、初めて仲良くなったのも、恋海で。
多分恋海と会っていなかったら、つまらない大学生活を送っていたのかもしれないな。
デザートに頼んだティラミスを一口食べた後、恋海がフォークを置いてこちらを見つめてきた。
「ね、将人」
「ん?」
「ちょっと行きたいところがあるんだけど、この後、良いかな?」
正直、俺が考えていたデートプランはここまで。
この後の事は決めていなかったので……問題はない。
「うん、良いよ。どこに行くの?」
「それは、行ってみてからのお楽しみってことで!」
ぱちん、とウィンクする恋海。
様になるなあと思いつつ……。
恋海はどこに行きたいんだろう。
何となく予想を立てながら、俺も残っているカタラーナをひょいと口に運んだのだった。
「恋海、ここって……」
「良いから良いから!」
恋海が目指す目的地の最寄り駅に着いて、手をつないで道を歩きながら。
俺は恋海が行こうとしている場所に検討がついた。……だけど、そこにこの時間から入れるのかを知らなったから。
「良いんだけど、今入れるの?」
「うん、まだギリギリ大丈夫なんだよ」
ぐいぐいと、恋海は俺の手を引っ張っていく。
夜空には早くも、星が瞬いていた。
目的地であろう場所の、門を通って。
更に恋海は歩き進めてから……ようやく立ち止まった。
手を放して、ゆっくりと前に歩き出した、恋海の後ろ姿に声をかける。
「……ここって」
「そう。ここは……私が将人と、大学で初めて会った場所だよ」
忘れたことはない。
俺が大学に初めて来て……履修登録に悩んでいた時に、恋海に声をかけてもらった場所。
つまりは、恋海と初めて会った場所。
「今日は夜間の生徒がいるから、まだ大学空いてるんだよ」
「なるほど、そうだったのか」
言われて、きょろきょろと周りを見渡す。たしかに、校舎のそこかしこに電気がまだ点いている。ただ、やっぱり普段の学校とは違って、ほとんど人の姿はない。
「私ね……将人に会えて、本当に良かった」
ぽつり、と恋海はそう言ってから、こちらを振り返る。
暗い校舎に差し込む月明かりが、恋海の亜麻色の髪を幻想的に照らしている。
「将人と会う前……私、学校生活そんなに楽しくなかった。もっと言うとね……男女比が偏ったこの世界のことも、あんまり好きじゃなかった」
「……!」
「だってさ、傲慢な人が多いし、こっちが選んでもらわなきゃいけない立場なのも意味わかんないし……そんなことのために努力するのが、馬鹿らしかったんだもん」
それは、恋海の本音なのだろう。
確かめるように、手を胸にあてながら、恋海の言葉は紡がれる。
「でもね、将人が変えてくれた。将人が……私の世界を、塗り替えてくれた」
まっすぐにこちらを見た恋海と、目が合った。.
綺麗な、宝石のような瞳。
「だから……ありがとう。私は将人に会えて、この世界にも、こんなに素敵な人がいるんだって思えた。この人に好きになってもらうためなら、なんでもできるって思った」
ゆっくり、恋海が俺の目の前まで歩いてくる。
「……それで、将人があの時の……まー君だって分かって。私、本当に嬉しかった。だって。同じ人に二度恋をしたんだよ?それってもう、私にとって貴方は、唯一無二で、将人の事しか好きになれないってことの、証明で」
目の前まで来た恋海が、俺の両手を握りしめた。
恋海の手が、ほのかにあたたかい。
「だから、改めて、伝えるね。ありがとう……それと」
瞳からは、涙が零れそうになっていて。
思わず息をのんだのと同時に、周りの音が消える。
恋海は、涙を堪えたままにっこりと笑って。
「大好きだよ」
その言葉は――俺の胸の奥へ、確かに届いていた。