傷痕の残るようなそれを雑務的でなく、もっと楽しいエンターテイメントにしたいと願う誰かが居たようで……?
追憶編も大きな山場をひとつ超えたということで、よい箸休めになればと思います。
そして、もし良ければここすき等々していってくださると嬉しいです。
では本編どうぞ。
妖魔軍を退け敵の首魁であるブギーをも打倒しグロッタ大橋での激戦を制した俺たちは、グレイグが愛馬リタリフォンと共に開けた正門の大穴から我先にと逃げ出す魔物たちを後目に、人々の大きな歓声と安堵の声に包まれながら……今も鎮座する氷炎の壁、ほかでもない俺の覚醒により魔力を供給されすぎたことで半永続化したその呪文を解きほぐす作業に従事するべく、甘いマスクに笑顔をたたえたシルビアが提案した『とあるパフォーマンス』に、俺たちは一役買うことにしたのだ。
参加者は俺、シルビア、ベロニカ、セーニャの四人。
シルビアは声を張り上げて鷹揚に町の人々に語りかけると恭しく一礼をし、最後に不敵な笑みを浮かべる。
彼の言葉は先ほど戦場となったことで浮き足立つグロッタの住人たちの目をよく惹いていた。
「さぁ皆さん、これから始まるのは炎と氷の一見相反する矛盾を解消する素敵なショー! その予測不可能な結末まで、どうぞグロッタ大橋をご覧あれ!」
マイクや拡声器がなくとも、天井に覆われたグロッタの町の全域にシルビアの声は届き、なんだなんだと襲撃から隠れていた人々も徐々に顔を出し、町の中央へと人目が集まる。そしてある程度衆目を浴びたころで、シルビアは俺たちにウインクする。
それが開始の合図だった。
「"デイン"」
物陰から雷の呪文が氷炎の壁の中でスパークし、分厚い氷で象られた天井を凝縮した雷閃がレーザーカッターのごとく円柱形にくりぬいて大橋の中心へ轟音を立てて落ち、透明な即席のステージが現れる。
覚醒したことで向上した魔力操作は呪文の精密な変化を可能としていることは認識していたものの、こうしてエンターテイメントの一部のために使う発想に至るのはやはりシルビアの発案であった。
次いで俺たちは乱反射する雷光をバックにアクロバティックに即席のステージたる氷塊をくり抜いた大橋の中心地へと同時に飛び込む。
「ハイ!」と掛け声を合わせてポーズを決め、閃光の終わりと共に俺、ベロニカ、セーニャの子供組の登場だ。
ショーの始まりを理解し、状況を飲み込んできたグロッタの市民たちから、次第に歓声と拍手が増えてきていた。
「チッ……」
にわかに明るいムードの中で、小さな舌打ちも聞こえてくる。俺が彼に注目していたからだろうか、それはけして大きな音ではなかったが耳に届いた。
その舌打ちの主はイリアス、仮面を付けてはいるがおそらくホメロスであろう、シルビアとコンビを組んでいる男だった。
彼はショーを眉をひそめた三白眼で見ながら踵を返そうとしていた。明るい雰囲気そのものに辟易しているのか、それともまた別の理由か、俺にはまだ測れない。
しかし、普段の鎧姿から流行ブランドとなったD.R.D*1の普段着スタイルに着替えた彼は、同じくD.R.D製の動きやすい服の一つに着替えていたグレイグと共に町の住人たちに見つかり、グロッタ下層にて握手会よろしくの人集りに対処する羽目になっていたのは少し微笑ましい光景であった。
できればそこで俺のブランドの歩く宣伝大使として活躍していてくれると助かるね。
それに、共に行動をしていた彼を少しは知るであろうシルビアに詳しい事情を聞くまでは、ホメロスについて追求するつもりはない。
俺は勇者ではないので当たって砕けろの精神で
本音を言えば俺が彼と相対できる実力がある……もっと言えば仲間とともに魔王軍を相手にできるまで彼にはできるだけ会いたくなかったのだが……Tシャツにジーンズのカジュアルなスタイルのグレイグと共に市民に揉まれて、かつて画面越しに見たピリピリとしたトゲが取れて丸くなった代わり、ここまでシルビアに散々振り回されたのか苦労人気質が板に付いたタキシード姿のホメロスを見るに、今となってはそれらの敵対的な心配は杞憂にも思えていた。
そして始まるシルビアと俺達のショー、名付けて『氷と炎と光のポルカ』。
俺達は四人でショーをしようと発案した時、その名を誰ともなく即座に思いついていた。
天啓とでも言うのだろうか、この世界は俺にとって現実だが、たまにこうして
ドゥルダ郷で修行仲間であったサンポくんともグランドクロスと覇王斬による連携『グランドネビュラ』を発揮できたりと、この世界の住人ならばあまり気にしない出来事は、ロトゼタシアにてルビスに喚ばれて五年ほど経った今も地球の記憶が根ざす俺には違和感が少しあるのだが……まぁ、強くなる分には良いかと流していたりする。
女神像の前で祈ってたらスキルポイントとか言われるし、そういう世界だと驚きはすれど、一度受け入れると人は存外慣れるものだった。
話を戻し、舞台の上の俺達のことについて。
シルビアと始めたショーの内容は「氷炎の壁を見栄えよく、華麗に解除すること」、これに重点を置いている。
良くも悪くも今回の戦場の印象を決定付けたグロッタ大橋を覆うこの結界。
これをただ呪文の継続をやめてやんわりと解除したのでは、先の襲撃の剣呑さを本当の意味で拭うことはできないとはシルビアの弁だった。
だから可能な限り快活に、戦いの爪跡を楽しいショーの記憶に塗り替える。
笑顔をいち早く取り戻すためという企画に、俺たちは快く協力を申し出たというわけだ。
「さ、始めるわよセーニャ、勇者様!」
「はい、お姉様。勇者様もよろしいですか?」
「準備はできてるよ。面と向かって勇者ってのはちょっと……まだ恥ずかしいんだけど」
「ウフフッ、やる気十分ね。それじゃあ始めましょうか、派手に行くわよ、イレブンちゃん!」
了解、と無言で頷いてドゥルダの舞踊を挟み瞑想をしながら闘気、その中でも俺だけが知覚できる第三のエネルギーである勇気として分離した純度の高い魔力を練ることに集中する。そうすると、衆目を浴びて緊張はしていたものの戦場よりもリラックスできていた俺はすぐさまゾーンに入り、無数の小さな覇王斬が空中に黄金の軌跡をもって現れる。
ブギーの操作技術をゾーン状態で無意識に学習していたのか、もしくは戦場の中で一瞬だけ掴んだ、勇者としての力の覚醒か。俺は先の戦い以降、小さなものなら二つ以上の、それこそ無数の覇王斬を展開することができるようになっていた。絶対に安全な場所で瞑想を行うことを前提とするが、擬似的に王の財宝*2を再現することだって可能だろう。威力は比べるべくもないが、今回のように少数で多勢を相手にする戦いで大きく貢献できるようになるはずだ。
そんなことを考えつつも、最も基本的な剣型覇王斬をくるくると練り、ジャグリングボール状の光のお手玉に仕上げたそれをシルビアへ一気に飛ばし渡す。
シルビアはそれに息を合わせて受け取ると、器用に等間隔で中空に受け流し、覇王斬のジャグリングを始める。次第に多くなっていくお手玉は10を超えたあたりから彼自身の持っていたボールも使い、目ではとても追いきれない数になっていく。
そうして色とりどりのボールたちがシルビアの手の中で派手に乱舞していた時、突如としてそれらは宙に投げられる。
「ベロニカちゃん、セーニャちゃん。二人ともやっちゃって!」
「オーケー! いくわよセーニャ!」
「はい、お姉様!」
「「はぁ〜っ!」」
掛け声と共に呪文の発動音、放たれたのは炎と風の奔流だった。
互いが互いを高めあう二つの魔法はシルビアの投げたボールのすべてを絡め取り、バギの要素を取り入れた炎の竜巻がボールを空中のあちこちに散乱させる。
もともとは魔力の塊である覇王斬のボールは、彼女たちの魔法を吸収しながら少しだけ大きな火炎球へと変化する。
風を取り巻く炎のボールはグロッタ大橋に赤い放物線を描き、一瞬だけ観客に動揺が広がる。
シルビアは楽しそうに薄い笑みを浮かべながら、"パチン"と勢いよく指を鳴らした。
直後、シルビアのボールに込められた魔法の仕掛けが発動し、火の玉は突如として羽ばたく炎の蝶に変わる。
陽炎の軌跡を残して四方八方へと羽ばたいていくアゲハ蝶は氷炎の壁に張り付いて、まずは炎を取り込み大きく華麗な鳥に変身し、次に厚い氷の壁を滑るように飛翔しながら溶かしていった。
そして、俺の大仕事はここから。
炎の鳥とならなかった、いまだ放物線を描く10の火の玉、それらはすべて俺の覇王斬の応用により生まれていた最初の玉のうち、わざとシルビアが残していたものだ。
ゾーンにより正確に捉えたそれらを更に小さく分けることでまたも無数となった小さな魔力塊へ向けて、俺は虚空を握るようにポーズを取った。
すると、その無数の玉は炎の鳥の合間を縫って、大橋からグロッタ中で見渡せるほど強く光る魔法の花火へと形を変えて飛散する。
「きれい……」
ハンフリーの肩車に乗った孤児のひとりが、感嘆の声を上げていた。
戦いに利用するだけだった魔法を、見て楽しむ花火へと変える。
シルビアの発想に脱帽しながら、感動を胸にショーを見上げる市民たちの笑顔は、俺の印象に深く刻まれていく。
俺の原点。「世界を救え」と望まれた願いが、「世界を救う」と望んだ願いに変わった日を思い出す。
ひとまずのハッピーエンドを迎えつつあるこのグロッタの光景は、今後の俺にとって忘れられない大事な情景の一つになろうとしていた。
ショーは佳境、次第に氷の壁は炎の鳥により溶けてゆき、役目を終えた鳥たちはぐるぐるとグロッタを回る。
その身に引き受けた氷を纏うように魔力の鳥たちは炎の赤から透明な氷の彫像のように変わり、溶けて取り払われた天井から、グロッタを守る本当の天井へと集結し飛翔する。
クライマックスへ向けて、ベロニカはここ一番のために溜めていた魔力で最後にグロッタの天井へと集まった鳥たちへ極大の炎を放った。
鳥たちは炎と融合して雪の羽根へと姿を変え、シルビアの肩車と跳躍によりグレイグ像にいつの間にか立っていたセーニャはその氷羽根に向けてバギを唱えた。
ショーのクライマックス、それはバギにより細かく刻まれた無数の羽根──粉雪となったそれがグロッタを白く染めてゆく景色。
それは要塞のごとく天井に覆われたグロッタにおいて初めて、雪が降った瞬間だった。
しんしんと降り積もる初雪の姿に住民たちは自然と笑顔を花開かせ、戦場の剣呑さを和らげてゆく。
戦乱の炎の余波は大扉から吹き抜け、この雪が戦いの高揚も傷痕も洗い流し、やがては水路からユグノア流域の河川に流れ、その雄大な歴史の一部となるだろう。
「それでは皆々様、お楽しみいただけたようで何より! シルビアと勇気ある子どもたちの『氷と炎と光のポルカ』、これにて閉幕です! ……さ、いくわよチビっこちゃんたち!」
「「「はい!」」」
拍手と歓声と指笛の鳴る中、俺達は最後に集まって各々の決めポーズを取っていく。
ショーを観ていた他の仲間たちにも、最後にグレイグ像の上で決めポーズを四人で取る姿は彼らを笑顔にしたり、少しだけ呆れられたりもしながら。
笑顔を取り戻すために始まった一大スペクタクルショーは、目論見通りの大成功と相成ったのだった。
◆
ショーを終えると、グロッタに鳴り止まぬ拍手と歓声が木霊する。
「すごいショーだったぞ~!」
「きゃ~、英雄様たちっ!貴方たちの大立ち回り、見せてもらったわ~っ!」
ベロニカ、セーニャ、シルビアの順にアイコンタクトし、長年の親友のように意を汲んでもう一度決めポーズ。
この世界にフォトモードがあるならば迷わずスクリーンショットを撮っていたであろうそれは、俺たちの勝利を告げる凱旋の角笛でもあった。
そう、俺たちは勝利した。
結果だけ見ればあっさりとした被害なき一戦だが、紙一重どころか敗色すら濃厚であったこの戦いを勝利に導いたのは、やはり増援の皆と、頼れる仲間たちのおかげだろう。
かくいう俺も死亡からの復活で覚醒なんて大立ち回りをしておいて実際は戦況維持がせいぜいだったので、やはり数は力というのは間違いない。
それも信頼できる仲間の数、それが勝利に直結すると実感できる一戦だったと分析しつつ、ショー終わりの喧騒もそこそこに、細かな応対は主催者のシルビアや近いうちの再会を約束したベロニカとセーニャの姉妹に任せ、俺は旅の仲間たちと戦いを振り返るべく、こっそりと宿屋のロビーに戻っていた。
「お疲れ様、みんな」
のれんを翻すような気軽さで軽く手を挙げた俺に、既に身体を休めていた旅の仲間たちはこちらに笑顔を向けてくれた。
「成し遂げたのう、イレブンよ!」
ロウは激戦で痛む腰を押して椅子から立ち上がって俺を抱擁すると笑顔から一転、滂沱の涙を流した。
昔から心配をかけてばかりに思うが、今はそれよりも勝利を分かち合う。
それにロウの放つ広域魔法がなければ、俺とブギーの一騎打ちの構図を実現することは難しかっただろうから。
「よ、イレブン! なんか途中から魔物が少なかった気がするんだけど、アレって気のせい?」
「はぁ……オレたちの他に増援が来てたろ、マヤ。おまえも少しは周りに注意しとけよな?」
「いーじゃん、おれが集中してるときは兄貴が守ってくれんだろ?」
「それは確かにそうなんだが……まったく、手のかかる妹だぜ」
ため息と頭の後ろを掻く姿とは裏腹に、頼られて嬉しい兄心がにじむのカミュ。
マヤは今回の活躍を俺に身振り付きで伝えてくれた。両手で弓を構えるふりをして、仮想の矢は虚空へと飛んでゆく。
命中率と会心率の超上昇の代わりに視野狭窄を引き起こすデメリットを持つマヤの未完成のゾーンは、カミュがしっかりとサポートしてくれたからこそ機能していたと言える。
脇目も振らず大量の空飛ぶ魔物を撃ち落とし続けたマヤと、戦況を俯瞰しながらマヤに近付く魔物たちを蹴散らし続けたカミュのコンビネーションは、今回の戦闘において間違いなく一役買っていたのは言うまでもないだろう。
「イレブン! よかった、無事なのね。……本当によかった……!」
感極まったのか涙をひとつ目尻からこぼしたマルティナは、自身も満身創痍から復帰した身でありながら、俺の姿を見るなり泣いていた。
先ほども泣いていた気がするが……これはまぁ、俺が一度死んだ以上は想定できたことである。
「もう、私から離れないで……私はあの時と違って、隣に立てるから」
「わ、マルティナ?」
「なんと、姫がホームシックになった時や旅の中で気を張れなくなった時しか見せない『一日限定甘えん坊モード』に!?」
突如として俺を抱きしめたマルティナに対し、ロウが解説じみたセリフを吐きつつのけぞる。
マルティナはそれを意に介さず、俺を抱きしめる力を強めた。それはまるで、縋り付くと形容したほうが正しいかもしれない狼狽ぶりだった。
親しい者を失いながら旅を続けた彼女は、やっとできた仲間を護ることに関してすべての責任を負おうとしているのだ。
彼女は失いすぎたが故に、脆い部分がある。
普段とは違う彼女に場違いながら心臓が跳ねつつも、不謹慎な胸の動悸を押し殺して俺はマルティナの背中を撫でた。
「――――大丈夫だよ、マルティナ。俺は生きてるし、君を信頼してる。ほら、今回もマルティナがいなかったらって思うとゾッとする」
「……本当?」
「もちろん! みんなもそう思……いや、俺がそう思ってるから。ありがとう、マルティナ」
「うん……えぇ、そうね。ごめんなさい、情けないところを見せてしまったわね」
そう言って抱擁を気恥ずかしそうに止めたマルティナは、取り出したハンカチで静かに涙をぬぐった。
マルティナにとって、赤子の俺を守れなかったことは彼女に深く根ざしたトラウマのひとつであり、今回もザオラルで生き返ったとはいえこうして過剰に心配させてしまったことは俺としても汗顔の至りにある。
しかし、マルティナが受け持った魔物たちはいずれも強力な個体ばかりで、正直に言えばマルティナを自分の作戦指揮で失うかもしれない恐怖で気が気じゃなかったのは俺も同じだった。"バッチリがんばれ"は、このロトゼタシアに降り立ってやっと信頼の上でなお重い選択であると知ったものの一つだ。
未来のカミュのように本当に分身ができれば今回のような状況でもサポートができたはずなのだけれど、そこまでは俺の高望みであり、何より信頼を損なってしまいかねない行為でもある。その辺りの塩梅も未だ精進、要修行だ。
こうしてもう一度何事もなく集まれた、俺の旅の仲間たち。
そして、ここからは仮面の二人、黒鎧の将軍、そして赤と緑の双子の少女。
増援に来てくれた彼らについて話すべきだろう。
戦いの最中にて唐突かつ一気に集まった、この時期に集結するはずのなかった仲間たち。
まずシルビア、ホメロス。この時期のシルビアは自由な一人旅の最中にある筈で、ましてやホメロスは原作において敵であった人物だ。
この二人の奇妙な組み合わせは、しかし愉快そうに笑いながら激昂するホメロスを揶揄う二人の姿を見るに、悪い関係ではないのだろう。
次にグレイグ、そしてベロニカにセーニャ。
リタリフォンに乗って現れたこちらもまた奇妙な取り合わせの三人も、今は"また英雄が救ってくれた!"と喜ぶ民衆にグレイグが仏頂面(やや困り気味に見える)で応対している中、ベロニカはグレイグに胸を張るよう叱咤し、セーニャは泰然とした様子のリタリフォンにどこからか取り出した飼い葉をあげて甲斐甲斐しくお世話していた。
彼らとはまた近い内に集まることを約束しているものの……落ち着いて会えるのは少しあとの話になるだろう。
俺たちは自己紹介もおざなりな状態で、各々が戦後の処理に追われていたからだ。
大橋に結界として氷炎の壁を張ってグロッタの被害を抑え、ショーによってこの混乱を楽しい思い出の一つとして上書きしたのはいいが、まぁ依然として橋は冷気と炎熱に挟まれたことで見た目以上に内部がボロボロであり、わざわざこちらに会うべく宿にやってきてくれたグロッタの町長は「人的被害ゼロ」というこちらの功績を高く評価して祝福してくれたが、予算を超える大規模な改修を必要とするであろう大橋の修繕を前に、報酬の捻出に悩んでいるようだった。
それならばと報酬を辞退しようとした俺たちは、それでは面子が立たないと断った町長の気迫に押され、結局は後日に応相談という形に落ち着いた。
今はこれでひとつと言った町長の厚意から俺たちは場所を戦場となったグロッタ大橋から宿のロビーの一角に設けられた酒場へと移し、それぞれが俺たちのファンになったと語る熱狂的な人物たちの勢いによってろくに腰を据えて話せぬまま、グロッタの英雄として担がれ、囃し立てられ、祝いの席が設けられた。そこには同じくシルビアらも居たものの、囲まれた人々の壁、そしてギャルに囲まれ気を良くしたロウの無礼講と奢りの宣言によってさらに酒場は賑わってしまい……そして、のちに"妖魔祓い氷炎戦"として語り継がれる大戦の夜は、いつものグロッタよりもいっそう騒がしく更けていくのだった。
◆
同刻。
デルカダール王国、王都牢獄に隠された地下遺構にて。
たった十人やそこらの人間が強大な魔物の軍勢を打ち倒したというニュースは、グロッタの顛末の一部始終を見て逃げた生き残りの魔物によって、魔王ウルノーガへと伝えられていた。
「ふむ、報告ご苦労だった。……それで、その激戦の中で貴様はなぜ生きているのだ?」
「は、はひっ!? そ、それは……魔王様! どうかお慈悲を!」
「フン……ここで縮こまるようならそのまま報告せず逃げておけばよかったろうに。よい、腰抜けながら貴様は大義を果たした。勇者はついに尻尾を出して、ホメロスとグレイグの叛意は明らかとなったのだからな」
下がれ、と報告した魔物に命令すると、魔物は一目散に棲家へと逃げ帰っていった。
地下遺構にひとり、デルカダール王────否、彼に憑依した魔王ウルノーガは沸々と沸き起こる感情のままにしわがれた手で目を乱雑に覆う。
「クッ……クククッ……」
野心にあふれたその
「────クハハハハハハハハッ!!!」
勇者。忌々しき血族、我が
闇の枢軸たる魔王が、その膨大な魔力を迸らせて嗤う。それだけで、遺構に存在するすべての魔物は怯え切るほどの威容であった。
「摘んでくれるぞ、そのか弱き新芽を。地上に顔を出したばかりに間引かれるは、余計な双葉の辿るべき末路であろう」
コツ、コツ、と。
ウルノーガは踵を返し、地下遺構から牢獄の抜け道を通って玉座の間へと舞い戻る。
玉座につく王に近衛騎士たちが居住まいを正すなか、デルカダール王としての顔で、ウルノーガは重い口を開く。
「悪魔の子を発見した」
騎士たちがどよめくのを、ウルノーガは手で制する。
「これは非番の中でも懸命の捜索を続けていたグレイグとホメロス、両名の手柄である。悪魔の子……彼奴は、ユグノア地方に潜伏していたのだ」
「我が王よ。であれば……」
豪奢な鎧の騎士がひとり、王の御前に立つ。
二人の将軍が非番である今、全権の指揮を任されていた騎士である。
それは、ゾルデという名の近衛騎士団長。
二刀の大剣を駆り双翼の将軍に次ぐ実力を持つとされる、今この場で最も発言力を持つ騎士であり……きたる未来にて世界を文字通り暗雲で覆い、世界を夜に閉じ込める屍騎軍王であった。
ゾルデの言葉に我が意を得たりと、ウルノーガは蓄えた口髭の下をにやりと歪める。
邪悪な野心から表出した微笑は、十年間もの捜索が実った感激に目の眩んだ騎士たちにとって、不倶戴天の悪魔の子を見つけた歓びの笑みに見えていた。
「皆のもの、戦の支度を整えろ! 災いを呼ぶ悪魔の子を今度こそ……自らの手で焼き払ったユグノアへ潜伏していた厚顔無恥な闇の使いへと、我らが天誅を下すのだっ!」
オオー!と騎士たちは剣を、槍を、各々の武器を高らかに掲げる。
悪魔の子を誅する聖戦へと向かう心持ちから、彼らの士気は非常に高い。それが徹頭徹尾に魔王たるウルノーガの奸計とも知らず。
「ゆけいっ、騎士たちよ! 心してかかれい!」
興奮冷めやらぬまま、騎士たちは戦の準備へと取り掛かる。
数日のうちに軍備は整い、十日もすれば多数の船によってユグノアへと騎士たちは辿り着くだろう。
こちらで子飼いにしていた魔物たちには既に通達を始め、討伐されたブギーと報告を聞く限り叛意を見せているホメロスを除いた残る魔王軍の重鎮たちに声をかけ、騎士たちへは意図的に伏せた『グレイグ・ホメロス両名の抹殺命令』を密かに下す。
ロトゼタシアの命運すべてが自身の掌の上にある全能感。
勇者を殺して力を奪い、その力にて邪神を滅ぼせばついにロトゼタシアは自身の手に収まる玩具となる。
ウルノーガは怪しく目を輝かせ、人々の捌けた玉座にて不敵な頬杖をつきながら静かに嗤い、たったひとりで勝利を
『この世界……我のものなり!!』
がっつりウルノーガに捕捉されたイレブンくん。覚醒には代償が付きものなんじゃよ。
悪魔の子として追われるそうですが、次回は幕間の物語を挟み、本編への伏線を大事に撒きながら、シリアス一辺倒であった最近の雰囲気からは気持ち軽めに戻ります。
展開の都合上あんまり触れられなかったあのキャラやあのキャラとかにフォーカスすることになる筈です。
今回のお話の感想など、ドシドシお待ちしております!
それではどうぞ次回もお楽しみに~。