アーネンエルベの兎   作:二ベル

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くそ長かったアルテミス編はこれで終わり


ビューティフルジャーニー⑦

 

 

『デダイン』の地を離れてしばらく。

ベル達は平原を進んでいた。ガラゴロと音を立てる馬車に揺られて、暖かな陽光と涼しい風に眠気を誘われてはアストレアとベルが互いに寄りかかって眠ってしまったり、了承など知ったことではないと輝夜はベルの膝に頭を乗せて眠ったり、ゆったりとした時間を過ごした。御者はそんな心地よい眠りに誘われた旅人達を起こすような無粋な真似などせず、静かだからと振り返り中の様子を窺った際に女神の中の女神ことアストレアの寝顔を拝めただけでも、最高の報酬だと笑みを浮かべては手綱を握り締めた。

 

 

旅は波乱なく穏やかに進んだ。

小高い丘が見える草原地帯を通った。

そこには多くの羊の群れと一緒に羊飼いの少年がいた。邪魔をしないように、けれど男神と女神の姿が珍しかったのか手を振って来た少年に旅の者達が振り返すと彼は嬉しそうにはにかんでいた。

 

時には馬車から降りて自らの足で大地を踏みしめた。

虹がかかる巨大な滝を見た。

美しい光景の反面、あの滝の裏には恐ろしい殺人燕(モンスター)が住み着いているのだとヘルメスが皆に教えていた。

 

海と見紛うような巨大な湖を通った。

深い蒼に彩られた湖面は日の光を反射し、煌びやかだ。魚の影を見つけては昼食にしようと即席の釣竿を作ったヘルメスを他所に輝夜が居合を以てして魚を打ち上げると同時に切り身に下ろすという器用な芸を披露しては驚きと共に皆が笑い声を上げていた。

 

森の近くに辿り着くと馬車はこれ以上進めないと、そこで御者とは別れベル達は森の中へと足を踏み入れる。

 

「……下界は生命に満ちている。それは『希望』と言ってもいいかもしれない。陸も、海も、空でさえも。天界のように停滞という名の毒に支配されず、誰もが、あらゆるものが、明日を生きようと輝いている」

 

アストレアのその声音は、どこまでも優しいものだった。澄んだ風、蒼い空、空と大地を繋ぐ果てのない地平線。それらに向けられる微笑みは、慈愛の笑み。

 

「ベル……この世界は尊いわ。貴方達が、決して忘れてはいけないこと」

 

おもむろにアストレアはそう告げてきた。親が子に言い聞かせるように、大切なことを気付かせるように。ベルはそんなアストレアを見て、思わず、誰かと重なって見えてしまったから。

 

 

「………ア、ルテミ……ス、様?」

 

そう、言ってしまっていた。

はっとなって、どうして間違えたのかと首を傾げておろおろとするベルにアストレアはキョトンとしていた表情からクスクスと笑みを零して処女雪のような白髪をわしゃわしゃと撫でまわした。

 

「何か、思い出せたのでしょうか?」

 

そんなベルとアストレアを見てリューが言う。野営のために薪を集めていたライラや輝夜が手を止め、1人と一柱へと視線を注ぐ。

 

「この場所に来るまでの道程、そのすべては私達がアルテミス様と訪れた場所だ。だが、そのこともあいつは覚えていないのだろう」

 

うっかり忘れたとか、そういうことではなく。書き記された物語を白いインクで塗りつぶされたように、『思い出』がないのだ。どうにかできないのかと言われれば、どうしようもないとしか言えない。けれど、ある程度埋め合わせることはできる。

 

「以前ここには来たことがあるんだぜってね」

 

「………それでいいのですか?」

 

「良くないけれど、良しとするしかないのさ」

 

巨大樹に見下ろされながら野営の準備をして、火を起こし、簡単な食事を取って眠りにつく。そうしてまた朝がくれば目を覚まし、輝夜に案内されるように森の中を進んだ。

 

 

木々の間を通り抜け、森の切れ間を出た先には、巨大な湖が広がっていた。しかしベル達の目を奪ったのは湖そのものではなく、中央に浮かぶ『島』だった。それの正体は『島』ではなく、モンスターの『骨』。大量の苔をびっしりと纏った巨大な塊には、大きな『穴』があいており、洞窟と見紛うそれは『眼窩』に『鼻口』。ベル達の正面を向く形で、肉と皮を失った『頭蓋』を晒している。突き出た岩に見える突起は半ばから折れた『角』で、丘のように盛り上がった地形は『翼骨』だった。

 

「恐らくは『古代』、ダンジョンから地上に進出した個体(オリジナル)のモンスター……それが力尽き、この湖で息絶え、そして遺骸……『ドロップアイテム』が遺ったんだろうね」

 

解説するようにヘルメスが見惚れるベルの背後から語り掛けてくる。モンスター同士争って手負いだったのか、あるいは寿命か、それとも『英雄』と呼ばれる者に致命傷を負わされたのか。この湖に不時着した怪物は、肉と皮が朽ちた後も己の骨を遺したのだ。生え渡る苔や劣化した風貌から、相当な年月が経っていることは明らかで、誰にも気づかれないままでいたのだろう。仮に見つけたとしても、秘境と化している大森林の中から見つけ出すことは困難で、運ぶことはできなかっただろう。

 

そんなモンスターの遺骸は今や動物達の住処となっている。赤や青、白の羽毛を持つ様々な鳥が共生し、骨の穴から頻りに顔を出している。湖の中心で、苔の鎧を纏い、日の光を反射する水面と共に輝くその光景は、まるで水底に沈んだ神殿のようであり、そう思える荘厳さがあった。下界にとっての『癌』、異物である筈の怪物の成れの果てが自然に溶け込み、下界を構成する一部となっている。その矛盾した事実は、幻想的な『未知』の光景となって、ベルの胸を強く揺さぶった。

 

「下界は美しいでしょう、ベル?」

 

しとりと汗が肌を湿らせて、少しばかりヘルメスに時間を貰って女神やその眷族達が順々に身を清めようとなった。湖に腰から下を沈ませるアストレアは振り返ることなく岸で腰を下ろしてぼんやりとその背中に見惚れているベルに言う。

 

「はい、綺麗、です」

 

それは景色が? それとも女神(わたし)が?などと言い返すことはしないが、人の話を聞いているのかと思ってしまうほどのベルの返答に思わず笑みを零してしまう。けれどベルが裸体を晒す女神に見惚れていようと、それは仕方のないこと。神秘的な光景の中に女神が混じり、その身を清め、そして小さな鳥たちが囀りながら時折女神の差し出した手の上に止まり、まるで会話するかのように小鳥達に女神が微笑むのだから。

 

 

そうしてダンジョンに挑む『冒険』とはまた少しばかり違った『冒険』をして数日を経て、ベル達は再び『エルソスの遺跡』のすぐ近くまで到着した。

 

「随分、崩れているみたいですね」

 

「中には入れるのですか?」

 

「正面からの道は潰されましたが、入り込める場所は見つけました」

 

「んじゃ、行こうぜ。入っていいんだろ?」

 

激しい戦闘の爪痕が未だ残る遺跡。

されど『死の森』などと言われていた光景は、どこにもない。森も川も美しく、アンタレスによって穢されたなど、そうそれこそ『グランドデイ』のあの日、ベルや輝夜達が見た景色は嘘のよう。リューが半壊した遺跡を痛ましく見つめ、輝夜がアスフィに問い、ライラが小さな体を使って入りこめそうな場所を探そうとそそくさと動こうとして、自分達とは別の気配と視線を感じ取り動きを止めた。すると、輝夜達に見つかったとばかりに、森の中から動物達が姿を現した。()()()()と。茂みをガサゴソと揺らして次から次に出てくる森の動物達に、誰もが目を見開き固まる。

 

「鹿に……鳥……狼に、熊……」

 

立派な角を生やした親鹿に、そのすぐ後ろに続く小鹿。木々に止まるは、色とりどりの鳥たち。そして狼に、ベル達の身長を優に超える熊。周囲を取り囲むように姿を現した動物達に、さしもの神々でさえ驚きと共に固まる。そして、一頭の狼がベルの袖を咥えて引っ張った。

 

「え………?」

 

「ベル君、これを」

 

優しい声音でヘルメスがベルに歩み寄っては、1つ、封筒を渡す。花冠を被った女神の横顔をした『封蝋印(シーリングスタンプ)』がされている。首を傾げるベルに、ヘルメスはただ一言「アルフィアから」とだけ。それを受け取ったベルは引っ張られるままに森の中へと進んで行く。不安げに振り向くベルへと苦笑を浮かべたヘルメスが付け加えるように、言った。

 

「行っておいでベル君。君は……会わなきゃいけない女神(おんなのこ)がいる」

 

「………っ?」

 

(今、何かが……)

 

「待っていたんだ、彼女は。あの日からずっとずっと……今も待っているんだ、君を」

 

ヘルメスが何を言っているのかベルにも輝夜達にもわからない。彼女が誰なのか、それはなんとなくわかるけれど、それは()()()()()と心から言える。なのに、真っ向から否定することができない。

 

「傷付けてしまった君に、最低な別れ方をさせてしまった君に、言いたいことがあるからって……残り滓を使ってまで、彼女は負けず嫌いだから、このままじゃ駄目だって……そんな思いで馬鹿みたいに、君を待ってたんだ」

 

「………っ」

 

ヘルメスの言っていることが、ベルにはやっぱりわからない。けれど、それなら、ベルの胸から溢れようとしているものは、なんなのだろう。

 

「きっと……動物達(かれら)が、連れて行ってくれる」

 

気付けばベルは、ヘルメスが指さす方に、歩みを進めていた。急かしていた狼もそれがわかったか引っ張るのをやめて、隣に続く。他の動物達も皆一様に。ベルの後ろ姿が見えなくなるまで唖然としていた輝夜達は、はっとなって追いかけようとしてアストレアに「大丈夫よ」とどこか確信めいたような声に足を止めて、ゆっくりと神々と共に遺跡へと向かった。

 

 

 

 

×   ×   ×

森の中

 

 

流れる風の音、清冽な水の香り、踏みしめる草の感触。鳥のさえずりが、今、1人の少年の訪れを『祝福』する。

 

()()()()()()()()のはずなのに、道を知っているかのように自然と足が進む。

 

木々を抜け、せせらぎに沿って、鳥の声に導かれ。やがて足は歩みを忘れ、ただ走るようになっていた。

 

胸を焦がす感情も、瞳を揺らす想いも、てんでわからない。わからないのに、わかる気がする。頬を伝って散っていく涙の意味を。

 

「―――っ、ぁ」

 

降り注ぐ木漏れ日を抜けた先。

破壊の爪痕を遺す『遺跡』へと到達する。動物達に導かれるように、入り込める場所へと滑るように侵入して、転んではまた走る。遺跡の内部は浸水していて、けれどその清流さえ美しく輝いている。それは遺跡を囲うようにして存在する湖から流れ込んだものなのだろう。膝より下まで水に濡れようとも気にせず、衝動のままに、腹の聖痕(きず)のことさえ忘れて、突き動かされる。

 

果たして、彼女はそこにいた。

遺跡の最奥。

そのほとんどが水に沈んだ場所に、彼女はいた。月の涙を凝縮させたような美しい蒼の長髪に、前から見ずともわかる凛とした姿勢。神聖というのは彼女のためにある。

 

「――、―――っ」

 

純潔の雪のような白の光粒が、物語の精霊さながら周囲を漂っている。アンタレスが討伐されたあの日に世界を覆った光の祝福が、未だそこに、残っていた。

 

どんな顔をすればいいのか、わからない。

どんな声をあげればいいのか、わからない。

貴方との旅の思い出さえ失ってしまって、泣いている貴方を助けられなくて、後ろめたくて仕方がない。

 

その時、神の声が聞こえた気がした。

旅人の風が、輝く星の微笑が、雷の呵々大笑が、ただ素直になればいいと、そう教えてくれる。一頭の鹿が、さっさと行けとばかりにぐいっと頭で少年の背中を押した。

 

「――――ァ」

 

だから、溢れる想いを。

まだまだ未熟でそれを言い表せられないからこそ。

たった1人の『誰か』の名前に変えた。

 

 

「――――アルテミス様!」

 

想いが結ぶ。

光粒が少年に()()()()()()ように包み込んで、その瞳に『思い出』を映す。女神と確かに旅をして、共に笑いあった、短くも愛おしい日々の思い出を。

 

そこにアルテミスなんて、本当はいない。

でも、そこに漂う光粒がベルにしか見えないアルテミスを見せてくれる。湖に沈んだ遺跡の最奥で、ベルの前にて鎮座するのは一柱の女神像。本来ならそこにはなかったものを後から誰かが造り出した物。そしてすぐ近くには、『災厄の蠍』その残骸が。裸身に薄布を巻きつけたような装いで席に座り足を湖につける女神像の膝の上には、神聖文字(ヒエログリフ)の刻まれた剣があった。動物達が咥えて運んだであろうせいか柄は噛み跡が残っているけれど、まるで相棒を待っていたかのように光粒を反射しては少年から滴り落ちた涙を受け取ってその神聖文字(ヒエログリフ)を輝かせる。石像に泣きつくような光景をしかし、笑う者はいない。動物達は静かに見守り、追いついたアストレア達もその光粒に包まれている神秘的な光景を静かに見守り、瞳に焼き付けた。

 

 

「アルテミスに会いに行かないか……こういうことだったのね」

 

己の悩ましい胸に手を当てながら、アストレアは口を開いた。女神の瞳に、アルテミスはいない。ただアルテミスに似せた石像があるだけだ。でも、『神の力(アルカナム)』……その残滓のようなものが漂っているということだけはわかった。そして、それがベルの背中と腹の聖痕(きず)を撫でるように漂っているのも。

 

「ああ、俺達には見えない。でも、どうしてだかアルテミスがベル君を呼んでいるような気がしてね……勘は見事に当たったようだ」

 

「苦労しましたよ、あの石像を造るの」

 

「アンドロメダが造ったのですか?」

 

「【万能者(ペルセウス)】ですから」

 

「【万能者(ペルセウス)】すげぇ」

 

水浸しになりながら嗚咽を漏らすベルが、幻想(アルテミス)とどのような会話をなしているのかなど到底わからない。「ごめんなさい」だとか「ありがとう」だとかそんなことを言っているのだろうかと想像することしか、できない。

 

「でも、どうして?」

 

自分の中でヤキモチが沸いているのを無視して、アストレアはヘルメスに問う。アンタレスが討伐されアルテミスが死んだあの日、世界を光の祝福が覆った。それは確かで、だからこそエルソスの森が浄化されていたし『デダイン』の砂漠に緑が生まれる奇跡が起きた。だけど、それはすでに1ヵ月以上の時間が経ってしまっている。なのに何故、ここにはまだ残っているのかとアストレアは言いたいのだろう。

 

「まあそこはほら、アルテミスの望んだ結末を迎えられなかったからっていうのもあるし……推測でしかないけど、負けず嫌いなアルテミスのことだからベル君を傷付けたままいなくなるのは嫌だったんじゃないかな」

 

ヘルメスは旅行帽を取り、胸の前に。瞼を閉じ、気高き女神に瞑目する。依頼は果たした、とそう伝えるように。それに続くようにアストレアや輝夜達もまた瞼を閉じる。そして、彼等の邪魔をしないようにと背を向け、遺跡の外に出て行った。

 

 

 

 

嗚咽と共に涙を零す。

泣いている女の子は、確かに助けられなかった。けれど彼女は決してそのことを責めたりはしていなかった。瞳に映る女神はいつかの夜、湖に足を浸しながら踊った時の装いのままで、優しく微笑んで頬を撫でてくれる。

 

『共に―――』

 

彼女の口が開く。

風が吹いて、ベルの手元から義母(アルフィア)からの手紙が高く舞い上がっていく。手紙の中身を代弁するように、幻想(アルテミス)は言の葉を贈った。

 

『共に笑ってくれて、ありがとう』

 

鏡のような剣身が光り輝く。

背中の恩恵が熱を持つ。

腹の聖痕(きず)から痛みが消えていく。

 

『充分に、私達は幸せだったよ』

 

やがて夢から醒めるように幻想(アルテミス)は消え失せる。ただそれだけが伝えたかったのだと言うかのようにアルテミスは笑う。アルテミスは消える。救えなかったかもしれない。けれどその笑顔には、確かに、『恋』を教えてくれたベルに救われたことが表れていた。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

赤く燃ゆる空の下で、すっかり目を腫らしたベルが女神達の下へと帰ってきた。『探求者の剣』を抱きしめるようにして、鼻をすすって。それを包み込むようにアストレアが、輝夜が、マリューが抱きしめて、「おいお前等も混ざれ」と言われてげんなりした顔のライラと勝手に羞恥に染まるリューが混じる。まるで円陣を組んでいるようにしか見えない光景ではあるが、ベルの顔には自然と笑みが浮かんでいた。遺跡のすぐ側で天幕を張って夜を過ごし、朝、鳥の囀りと共に目覚め、オラリオへと出立する。

 

「ベル、行きましょう?」

 

「………はい」

 

どこか、新たに決意したような瞳をするベルを覗き込むようにアストレアは見つめる。遺跡の方をじっと見つめるベルは、やがて口を開いた。

 

「アストレア様」

 

「どうしたの?」

 

「僕―――」

 

さよならに願いを込めて、負けない強さを求めるように瞳に力が籠めて言う。

 

「僕、強くなりたいです」

 

「――――そう」

 

「何もしないで後悔しないように」

 

「ええ、ええ……応援しているわ。でも、あまり無理せずやっていきましょうね」

 

2人を呼ぶ声がして、遺跡に背を向ける。

目元を擦ってアストレアの手を自然と握って消えていく。それを動物達がいつまでも見守っていた。ふとベルは振り返って誰にも聞こえない声で言った。

 

 

「忘れない……」

 

もうどこにもいない叔父と義母、彼女達のいた派閥の偉大な英雄達を思い浮かべて。もうどこにもいない女神とその眷族達を思い描いて。それを忘れないように。

 

「貴方達がいたことを」

 

 

×   ×   ×

帰還後ステイタス

 

ベル・クラネル

所属【アストレア・ファミリア】

Lv.2

力:H 101

耐久:H 120

器用:G 233

敏捷:F 345

魔力:I 26

幸運:I

 

■スキル

雷冠血統(ユピテル・クレス)

・早熟する。

・効果は持続する。

・追慕の丈に応じ効果は向上する。

 

灰鐘福音(シルバリオ・ゴスペル)

戦闘時、発展アビリティ『魔導』の一時発現。

戦闘時、発展アビリティ『精癒』の一時発現。

戦闘時、修得発展アビリティの全強化。

 

月華星影(ミセス・ムーンライト)

破邪の加護(アルテミス・ディパル)

・夜間発動。

一定周期変動(ナイト・コール)

 

■魔法

【アーネンエルベ】

詠唱式

【我等に残されし、栄華の残滓。 暴君と雷霆の末路に産まれし落とし子よ。】

【示せ、晒せ、轟かせ、我等の輝きを見せつけろ。】

【お前こそ、我等が唯一の希望なり】

【愛せ、出逢え、見つけ、尽くせ、拭え、我等が悲願を成し遂げろ。】

【喪いし理想を背負い、駆け抜けろ、雷霆の欠片、暴君の血筋、その身を以て我等が全てを証明しろ】

【忘れるな、我等はお前と共にあることを】

 

・雷属性

自律(オート)による魔法行使者の守護。

他律(コマンド)による支援。

 

 

【ビューティフルジャーニー】

詠唱式

【雨の音、風の音、波の音、月の涙、雷の大笑、鐘楼(かね)の歌、星の光輝(ひかり)

【星に刻もう。私は忘れない】

【貴方達がいたことを】

【誰よりも遠く、夢よりも速く】

【行こう、冒険はどこまでだって続いていく】

【傷を癒し、飢えを凌げ、この身を戒めるものは何もない】

【陸を越え、海を渡り、至れ前人未踏の領域へ】

【天空を駆けるがごとく、この大地に星の足跡を綴る】

前へ(エンゲージ)

恐れずして(リフト)

前へ(テイクオフ)

 

 

・自動治癒。

・光翼展開。

・魔法捕食。

・魔法無効化。

 

 

 

 

×   ×   ×

迷宮都市南区『繁華街』

 

 

『―――風が哭いている』

 

迷宮都市オラリオに帰還して数日。

ベルは、『大劇場(シアター)』にいた。魔石灯に照らされる舞台の上で役者が声を上げ、劇場内を震わせる。

 

『感じるぞ、忍び寄る破壊の足音が。聞こえるぞ、恐ろしい魔物の咆哮が!』

 

いかにも英雄然とした恰好をした青年は、堂々たる演技を見せつけている。それを、ベルとティオナが見ていた。勿論、観客は2人だけではない。

 

「アーディがさあー」

 

ティオナが邪魔にならない程度に抑えた声量で隣にいるベルに言う。

 

「前回のこと、結構気にしてて、チケットを取ってくれたんだよねえ」

 

そのアーディは派閥の活動で都合がつかず、お詫びだから2人で見ておいでとチケットを渡したのだ。

 

「気にしなくていいって言ったのにさあ。なんなら、あたし、ついこの間までメレンにいて、色々あって忘れてたくらいなんだよ?」

 

舞台の上で上映されているのは、とある喜劇。

分不相応な望みを持ち、幾多の思惑に翻弄され、それでも愚者を貫いた、1人の道化の物語。

 

「でも、やっぱり嬉しいなあ……あたし、好きなんだよね『アルゴノゥト』」

 

「…………はい」

 

「笑えない誰かの分まで、あたし、笑おうって思えるんだ。いつもあたしを励ましてもらったから」

 

ティオナに対して短く頷き返すベルを、ティオナは不満そうにはしなかった。物語の内容は知っている。それでも何度見ても、飽きない。自然と笑みが浮かんでしまう。前回来た時はベルは笑ってすらいなかったが、ふとティオナがちらりと見るとその横顔は確かに笑みを浮かべていて、つい、ティオナも笑みを浮かべていた。

 

「そういえばさ?」

 

「?」

 

「前、エピメテウスの話だったじゃん?」

 

「……はい」

 

「エピメテウスとアルゴノゥトって何が違うんだろうって、あたし、思ってさ。でも、考えてもわかんなくって」

 

強いか弱いかとか、頭が良いか悪いか、という話ではきっとないんだろう。隣で唸り出したティオナをチラリ、と横目に見てベルもまた考える。

 

「…………喜劇」

 

「ん?」

 

「うまく、言えない、けど」

 

「うん」

 

アルゴノゥトは喜劇の物語だ。

じゃあ、エピメテウスは? あれは喜劇なんてものじゃない。本人が見れば激情して焼き殺されたっておかしくない。エピメテウスが何を見て何を思ったかなんて想像することもできなかったが、()()()()()であったことは確かだ。少なくとも以前見に来た時、ベルは笑えなかった。

 

「そこに笑顔があったかどうか……な、気がします」

 

「笑顔かあ」

 

会話が途切れて、ティオナは静かに舞台を見つめた。ベルもまた同じく。きっと特に意味なんてなくて、ふと思ったことを聞いてきたのだろう。よくある話だ、互いの物語に対する解釈を語り合うなんてことは。

 

 

「頑張ってね」

 

「………え?」

 

ふいに、またティオナが口を開く。

ベルのことを見ることなく。

 

「あたし、君のこと、応援しているから」

 

舞台の上でミノタウロスに扮した役者と戦う『アルゴノゥト』を見て、瞳を輝かせて独り言のように言う。

 

「ずっと、ずーっと、君のこと、見ているから」

 

舞台の上の役者達にベルを重ねているのか、にししっと笑みを浮かべてティオナはそれだけを言い切った。ベルは黙りこくって、むず痒いものを感じながらも、言葉を探して、だけど見つからなくて、短く返すだけにした。

 

「はい、頑張ります」




LV.3昇格イベ何にしよう。


今回までの回収品。
エダスの村:黒竜の鱗(小)。
デダイン:ザルドの大剣、鎧。
エルソスの遺跡:アルテミスの短剣、アンタレスの甲殻、『探求者の剣』

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