対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+   作:槍刀拳

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Episode40+ 『逃走経路』

 ……こうして昼休み、生徒指導・激戦の火ぶたは切られた。

 2人同時にこちらに突っ込んでくる。だが、改めてよく観察してみれば……えっちなお店で働いている高位魔族の蛇子ちゃんなんかとは比べものにならないほどに動き自体はノロマだ。

 それに予め冷静さを欠かせるように仕向けた作戦が効いているのか、先ほどまでのような連携行動がとれていない。それどころか、どちらが先に私を泣かすかに競い合っているような素振りすらみえる。……今のところは計画通りに事が運んでいるようだ。

 

「死ねェ! オラァッ!!!!」

「ぜぇぇぇぃっ!!!!」

「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほいっと」

 

 目では捉えられないほどの速さで振り回される、剣先と槍先。それをマヌケな掛け声を出しながら、ゲームで綱渡りするように机上を軽々と逃げていく。靴下を脱いで、蒸れた足裏が、見事に机上での滑り止めとしての役割を果たし、蛇子ちゃんから痛い目に遭わされた初撃経験を生かして繰り出されるフェイントも細かいステップを織りなして避けることが出来ている。

 具体的に眞田先輩の攻撃は、得物を持っている腕の動きと持ち手の角度から攻撃を予測して〈回避〉し、居合の抜刀術で腕の動きも得物すらも見えない黒田先輩の攻撃は、先ほど測定した太刀の長さと繰り出される風圧、黒板に溜まっている砕いたチョークの粉を空気中にばらまいての影響範囲の確認、及び眞田先輩が飛散させた教科書をちぎっては投げ、ちぎっては投げの要領で〈投擲〉することによる〈回避〉が間に合わない場合の攻撃のキャンセルとして扱っていた。

 

 ……まぁ、ここまで、メンチを切って、煽りまくった私なんですけど。普通に戦って勝てるなんて相手だなんて思ってないです。はい。

 

 黒田先輩は、あまり実戦経験はないのだろう。頭に血が上っている彼女は、その真面目な騎士。あるいは誉を重んじる武士のような立ち振る舞いで、正々堂々と言った小細工なしの攻撃が顕著に見られている。太刀筋が素直……というわけではないのだが、これまで殴り合ってきた神話生物の関節可動域を無視するような予測不能な攻撃や、前世で一発でも槍撃がかすってしまった時点で負け確定の巴ちゃんとの模擬戦に比べれば〈回避〉を試みるには簡単な部類の剣撃だった。

 だが一方で、眞田先輩が私と同等……。否……私以上に実戦慣れしている様子が顕著にみられる。

 それに様々な対魔忍と同じように “魔族” ども戦った経験すらあるのだろう。一見、私に対して怒り狂ったような攻撃を連続して繰り出しているが……。常に冷静(?)で変則的な攻撃が単調な剣撃である黒田先輩より厄介この上ない。握りしめて砕いたチョークの粉を使った不意打ちの目つぶし攻撃すら躱されてしまった。

 やりすぎると紫先生や蓮魔先生に咎められるからか、彼女は最低限ではあるものの天井の蛍光灯をいくつか叩き割って裸足の私の動きを止めるためのマキビシとして活用している。それに私が次に足場とする机を“自然”(怒られないよう)に槍撃で薙ぎ倒して逃走経路を寸断。黒田先輩がこちらの動きを完全に止められるようサポートしているが……。……肝心の黒田先輩が私の計略に嵌まっている以上、すぐには思い通りにはいかないだろう。

 それに足場が崩されているとしても問題はない。机がひっくり返っていようが、机が安定した状態で転がっている限り、青空 日葵(彼女)DEX(器用さ)釘貫 神葬(わたし)経験(知識)を活かしてそれをいくらでも足場として活用してみせる。むしろひっくり返してくれた方が、飛散したガラス片によるマキビシが振り払われ安全にその新設された逃走経路を猿のように跳ねまわることが出来た。

 紫先生と蓮魔先生は……現状、私の様子の観察は行っているが手出しはしてこないと見てほぼ間違いはない。私が彼女たちも警戒し3m圏内に入らないことも1つの要因だろうが……。

 少なくとも蓮魔先生は鞭をいつでもしならせ、初日のように捕縛できる体制にはなっている。だが、そのような状態になるよりも先に『黒田先輩と眞田先輩の2人だけで決着が付く』と考えているようだ。……それでもこちらを警戒した様子は変わらない。

 紫先生は身構えることもなく、何かを話すこともなく、身動き一つ取ることなく、ただ淡々と眼鏡越しに視線をこちらに向けながら何か考えているような様子がみられる。

 ともかく。勝利条件を増やせた以上、私の逃走経路は決まっていた。あとは相手(4人+1人)に悟られないように振る舞いつつ、眞田先輩側が黒田先輩の攻撃に合わせることに気づく前にさっさと逃げるだけなので……。

 

「————ッ! 眞田! 黒田! 攻撃を中止しろ!」

 

 不敵な笑みを浮かべながら片手の5指を床に面するスパイダーマッの着地ポーズでバランスを取り眞田先輩と黒田先輩を見据える。それから頃合いを見定め、割れたガラスを詰め込んだバケツ付近の机へ飛び乗ったとき、紫先生による静止の一声が入った。

 その眼は何かに気が付いたように驚愕で見開かれており『確証はないし、信じられないが、でも青空 日葵(釘貫 神葬(私))ならやりかねない……』そんな不安と焦りに板挟みにされたかのような顔をしている……。

 ……まさか、な。……私がこれから何をするのか見抜いたのか?

 

「止めるんじゃねえ! 紫! このクソガキは殺さねぇ程度に、一回ぶっ殺す必要がある!!!」

「……」ギリィッッッ

「ほっ。ほっ。ほっ。……ほっ?」

「眞田落ち着け。もう十分だ。怒りが収まらないなら青空の代わりに私が特訓の代役を務める。……青空。この勝負。お前の勝ちでいい。だから、そのまま。大人しく、机から降りて、こっちに来い」

 

 あ。これは気づいている。彼女は私が何をしようとしているのか。

 紫先生の絞り出された声は細かく区切られて、まるで家族を人質に取られて どのように犯人をなだめるようか交渉を試みる警察のような……。私を心底、心配しているような素振りすら見える。じりじりとこちらへの接近もして来ていたが、私が離れるため僅かな動作を見せた瞬間に接近することすら止めた。これには紫先生の観察力と判断力に驚いて、思わずギョッとした顔をしてしまう。しかし、すぐにその顔を挑発的な笑みに戻すことはできた。幸いにもその顔を見られたのは眞田先輩を除く、怪訝な顔をした蓮魔先生、歯軋りがここまで聞こえてくる黒田先輩、そして紫先生だけで済んだが……。

 

「いいんですか? まだ私は2人を倒しても居ないですし、そっちの逃走経路まで約、あぁー……約8mもありますけど……?」

「構わない。この勝負は『こちらの棄権負け』ということで良い。生徒指導は終了とする」

 

 おちゃらけながらも負い紐を外し、背面に背負ったアコギギターを弾くふりをする。もちろん、この行為は挑発だけではない。

 紫先生の言葉に先ほどまで、怪訝な顔をして紫先生の棄権に信じられないという顔をしていた蓮魔先生の気配が変わったのだ。具体的に出る幕のない傍観者から、新たな挑戦者としての目つきに変わった。

 アコギギターが鞭による一閃で破壊されてしまう事は……きっと青空 日葵の父親に叱られることは違いないが、それでもそんな高威力の一本鞭を身体に受けるぐらいならアコギギターの粉砕など、コラテラル・ダメージにしか過ぎない。例え鞭で〈巻き付き〉捕えようと試みようが、私はこのアコギギターを生贄に捧げるつもりだ。

 これから私がしでかそうとしていることなど悟られぬような声を出して、無警戒な女子高校生っぽくヘラヘラと笑いながら机上でくるりくるりと回りアコギギターを軽く奏でるも、紫先生は真面目な顔をして片腕を突き出し手のひらを下に向けながら指先で穏やかに手招きをする。

 

「ムラサキィッ!」

 

 当然だが、眞田先輩と黒田先輩は納得していないらしい。相手が教師であろうが、関係なさそうな怒声が教室を反響しているし、それに……どうやら、あの槍はどうやら仕込み槍だったようだ。具体的に鉾先とは真反対の石突の部分から爆発音と炎が激しく吹き始める。

 ……切り札は残しておくべきだもんな。私も蛇子ちゃんを嘲るときに思った気がする。

 

「眞田ッ!!!」

……チッ。……今のは悪かったよ」

 

 恐らく紫先生を威圧する目的で眞田先輩が切り札を見せたところで、更に紫先生が烈火の如く叱りつけた。それはナイス叱責です紫先生。……忘れては困りますが私は素手ですよ? 正確には脱ぎ立てのストッキングとアコギギターを手にはしていますが……。

 それ以前に年上2人が年下を得物片手に追い回している絵図も中々香ばしいものがありますが、火薬入りの武器を振り回そうとしてそれを止めるのは本当にナイス叱責。そんな槍撃を受けようものなら流石に本当に死んでしまいかねない。

 そんなことよりも学校に爆弾を持ち込むのはまずくないです? あれれぇ? もしかして、これは私は眞田先輩の弱みを握ることができたのでは? えっと、確か爆発物の所持は〈法律〉で……。刑法何条だったかな? ……思い出せない。

 まぁ、ひとまずスマホを出して脅迫でも……あぁ。スマホは私の教室だった。ちぇっ。

 

「……」ズズズッ……

「……お。ほーっ、と」

 

 〈法律〉で一歩リードしてやろうと画策するも、うまく行かずに内心悔しがる私に対して黒田先輩の方は、眞田先輩の火吹き矛に気を取られている隙を狙ってきた。私がショッピングモールのカルティストから儀式用ナイフと魔導書を奪い取ったときのようにじりじりと近づいてきている。私はアコギギターを盾に、更に紫先生が待機している入り口から更に離れた窓枠が花壇に落下していった付近の机に飛び乗り距離を取った。

 

「蓮魔!」

「……。……聞いただろう。そこまでだ」

「ですが……ッ!!!」

「聞こえなかったのか?」

「……いいえ。……わかりました」

 

 怪訝な表情をする蓮魔先生は紫先生の方を一瞥したのちに黒田先輩を静止させる。教師陣によるあのアイコンタクトには、どんな意味が込められているのか私には分からないが……蓮魔先生の不意打ちも防御されている今、紫先生には私を止められる自信がないのかもしれない。だが慢心はしない。私の警戒を解いた瞬間に捕縛……という流れも頭に詰めて作戦を続行する。

 ここで蓮魔先生の静止の声が入り黒田先輩が私への接近を止めた。

 居合術の姿勢である前傾姿勢を解き、鍔に親指を掛けるのを止め、小刻みに震えながらも吊り上がった目尻と鬼の形相でこちらを睨みつけ、下唇を血が流れるほどに噛みしめている。

 ……これには下手な独立種族や奉仕種族の神話生物と対峙するよりも肝が冷えた。私も探索者として様々な異形の神々や超自然を相手に立ち回ってきたが、今の彼女の怒り狂う顔はソレに匹敵するぐらいの恐ろしい形相だ。

 

「……青空。約束する。決して不意打ちをしたりはしない。……だから早く机から降りろ。……また上原を悲しませるつもりか? お前が五車町に帰ってきてから意識不明の重体だった時、アイツはな——」

 

 なかなか警戒状態を解かない私に対して、今度は紫先生がまえさき市で私が大喰いの泥濘に胸部を貫かれた後の昏睡状態の際。鹿之助くんが『毎日』私の見舞いに来ていたこと、見舞いに来たあとその日、学校であったことを昏睡中の私が病院で1人寂しくないようにと色々聞かせていたことを真剣な様子で話してきた。

 あぁぁぁ……あぁぁぁぁ……ず、ずるい。そ、それは、ずるい。ちょっと待って。反則技ってレベルじゃない。崩壊する。こわれる。語彙力がぐしゃってなる。すごい精神攻撃に私もた、た、たじろぐ。やめて。嬉しさと恥ずかしさ、甲斐甲斐しい鹿之助くんの行動で私が尊死する。ば、〈爆破〉しちゃう。事情を知らない3人に、そんな私が昏睡して意識が無いときに鹿之助くんの見舞いでの行動について永遠と詳細に赤裸々と語らないで。動揺する。

 ど、どどどどど、ど、動揺する。ほんっと、ずっるい。あぁ^~ダメダメダメ。ダメだって。やめて。ダメだってば。

 鹿之助くんの裏話を暴露されたまま、こんな教室に居座るなんて頭がフットーしそうだよおっっ!!!

 ……でも、こちらの身体が痙攣するほどの明らかな動揺を見せて、ペースが乱されているのを他の3人は見ているが一向に攻撃を仕掛けてはこない。今、攻撃されたら確実に反応が遅れてノックアウトされていたことに間違いないのにだ。これは紫先生の言葉を信用しても良いかもしれない。

 ……早く、はやく、ここで予定していた作戦を強行するか、指示に従うかしないと『試合には勝ったが勝負に負けた』みたいな状態になっちゃう。

 

「……ぁ、ぁぅ。はぁ、はぁぁぁぁぁぁ……むらさき先生ェ。ここで上原くんの名前を出すのは反則ですよ。は、反則ぅ。わかりました。わーかりましたよ。降りますよ。降りればいいんでしょ。あ、上履きを、と、取ってもらえます?」

 

 鹿之助くんについては私にとって最大の弱点であることを考えながら、深い溜息を吐き力なく首を横に振り机から降りる。……床に足を着いたペタリという足音が教室で響く。この行動で少し紫先生の表情が和らいだが、それでもまだ緊張したような顔をしている。

 大丈夫ですって。もうやりませんよ。だからそれ以上、他人や周囲に惚気話を広めるのをやめて。こっちは先輩2人から研ぎ澄まされたナイフより鋭利な殺意を向けられてシリアスしているのに、今そのタイミングでその惚気話をされると変な色恋沙汰な空気が入り混じって混沌の神が招来した結果みたいな状況になっちゃうから。やめろお前。まじで。

 

………

……

 

 投げ渡された靴を受け取り、対蓮魔先生の鞭対策で取り出していたアコギギターを背負い直して、踏みつぶされパキパキと音の鳴る蛍光灯のガラス片と机と教室が散乱した教室を歩く。

 ……だが私が勝利を勝ち取って、紫先生が私の弱点を暴露して、これでおしまい……ではない。この空気が混沌と化した状況で、私のしなきゃならないことは残されている。

 ……紫先生のせいで、風邪引きそうな温度差なんですけど。

 

「……黒田先輩」

「……」

「……先ほど発言した蓮魔先生への暴言は撤回させて頂きます。大変失礼な発言や嘲る態度、申し訳ございませんでした」

 

 こちらを睨んで動かない下唇からボタボタと血が滴り、制服を自らの血で汚していることすら気づいて無さそうな黒田先輩の正面に立つ。その恐ろしい眼光だけで、あの校長室の2人の殺意をはるかに凌駕するほどの殺気が私に突き付けられたが、引く訳にはいかない。これは私に非があり、絶対に私がしなくてはならないことだ。目前で彼女がその気になればいとも簡単に首を()ねることもできるような距離で深々と頭を下げて謝罪をする。

 

ッ~~!!! どういう……風の吹き回しですか……ッ!身の安全を……ッ! 確保できたから、謝罪を私に……?! 人をバカにするのも大概に……ッ」

 

 彼女の言葉が詰まりながらも吐き出される激しい感情の爆発ももっともだ。私がそうなるように仕向けたのだ。そう考えるのは至って普通の事だった。

 でも彼女はそう思い発言した言葉は、こちらの真意から大きくかけ離れている。誤解は解けないかもしれないが、勝ち誇って何も告げずに去るよりはよっぽどいい。

 

「違います。これは本心からの謝罪です。私が貴方に蓮魔先生の目前で悪口を直接告げ、煽ったのは、あなたが蓮魔先生を敬愛しているという情報を踏まえた上で、貴方を怒らせ眞田先輩との連携を断ち切らせる目的がありました。流石に息の合った先輩2人を相手に新入生が勝てるはずもないですし。……姑息な手ですが、それ以外に作戦が思いつかなかったもので……。この謝罪は私が勝利しようが敗北しようが最初からする予定だったものです。現に黒田先輩の剣撃は蓮魔先生の鞭先のように先端が見えず、刀の鞘が身体に隠れており、これらの技は非常に熟達と精錬された居合術であるとお見受けいたしました」

「……」

「…………」

「……蓮魔先生も、窓ガラスを割り。先生自身や先生を敬う生徒をバカにするような態度を取ってしまい申し訳ございませんでした」

「……ああ」

 

 鬼のような形相である黒田先輩から一旦、目を逸らし今度は同じように教室の出入り口で佇み、こちらを眺めている蓮魔先生に対しても同様に頭を下げる。先生の方は、声が聞こえて頭を上げたとき 冷たい眼差しではあったが、最終的には視線を逸らし掌を左右に振って気にしていないと言った様子で手を振っていた。

 

「……わかりました。ですが、次 蓮魔先生を貶してみなさい。その時は『確実に』骨の100本をバラバラに砕きますからね

「寛大なありがたきお言葉。感謝いたします」

 

 黒田先輩はそれを見て、青筋の浮かび上がった地獄のミサワのような顔のパーツが中央に寄せたような怒りで歪む顔を緩め、蓮魔先生が許すなら……と納得したようだ。

 ……今のを許されなかったら、本当に殺されるかと思った。

 

「……おい、クソガキ……」

 

 頭を上げて 2人の様子を確認した後、背後からもう一人の謝罪すべき対象から声が掛かる。相変わらず真顔で怒って……。違う。……少しだけ口角が上がって笑っている? 矛先を天井に向けながら槍を肩に担ぎ、こちらを見下ろしている。まるで先ほどまでの心寧ちゃんと私の構図のようだ。

 

「眞田先輩。眞田先輩にも、身の程をわきまえない無礼な物言い、申し訳ございませんでした。あの時こそ、あのようには言いましたが、黒田先輩が私に会心の一撃を叩き込めたのは、眞田先輩の陽動があってこその結果でしたし——」

 

 私の胸倉が掴まれ、激しく引き寄せられる。その衝撃は、頭頂部ががくんと眞田先輩に突き刺さりそうになるぐらいの勢いだった。脳が震えて、めまいを覚える。

 

黙れ。私はテメェの作戦や称賛の言葉なんてどうだって良いんだよ……! 今度は紫に “頼まれて” じゃねぇ。私の “意思” でテメェをキッタギタにしてやるためにここに居るんだからさ。今度は邪魔の入らねぇ地下のシュミレーションルームで第二ラウンドだ」

 

 彼女の何処か甘い吐息が掛かるほど、鼻頭同士でキスしあうほどのゼロ距離まで顔を引き寄せられる。それから他の3人には見えないような状態で、彼女は出会い頭に見せていたような狂気的な笑みを浮かべて笑っていた。まるで面白い獲物を見つけた狩人のように……ああ……。紫先生はどう仲裁に入ろうか悩んでいる様子だが……まぁ、こりゃ……仲裁に入ったとしても駄目そうだ。……きっと逃げられない。

 しかし “頼まれて” とはどういうことだろうか? 開戦する直前までの会話では確か眞田先輩が主体となって生徒指導の内容を変更したような話をしていたはずだが……。

 

「……眞田先輩。まずはこの荒らした教室を片付けて、その後でも……」

「3度目は言わねぇ。黙れ。今すぐに(・・・・)だ」

「……わかりました。もう余計なことは言いません。……ですが、えっと……その時には私にも武器を使わせて欲しいのと……大事な予定が差し控えていますので、その…………骨は折らないでくださいね?」

「ハッ! まだその減らず口を叩ける度胸と余裕は認めてやるよ! ——そんなに折られたくねぇなら、必死にあがいてみせろ」

 

 私の胸倉を捩じるように掴んだまま、ギラつく笑顔で荒らした教室を退室する眞田先輩。

 廊下には水色髪で、毛先を緋色のビーズ球のような髪留めで髪の毛を結っている……雪国で使用される雪ん子(藁合羽)のような髪型をした女子生徒が人だかりの出来た野次馬の整理をしていた。恐らく彼女が氷室先輩だろう。……そして、ネクタイの色から彼女もまた黒田先輩と同じ赤色(3年生)だ。

 眞田先輩に胸倉を掴まれ、野次馬に対して天皇陛下のように優しく手を振りながらずるずると引きずられて行く私。

 眞田先輩に引きずられていく私を見物する『またアイツか』とでも言いたげな目をして見つめてくる生徒たち。

 そしてそんな状態の私に、内心嫌そうな顔をしている心寧ちゃんの手首を無理矢理引っ張りながら、目を輝かせ興味津々で犬のようについてくる陽葵ちゃんの姿。

 ……なに? 陽葵ちゃんも眞田先輩と一緒に戦ってくれるの? コンビ名『(ダブル)ひまり』として。

 

………

……

 

 斯くして、この日から……避けることのできなかった運命によって、私は学校の病院で4日間も夜を過ごすハメになった。

 そんな顔しないで。私もできることなら会いたくはなかったよ。室井先生。

 

 ……二度と、頭に、カバンを被って、絶叫ライブを開く様な真似はしないとここに誓います。

 

 




~あとがき~
 以上をもちまして、『対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+』を休載とさせていただきます。

 再開の目途は不明ですが、仮に私が忘れたとしても数年後には自動投稿されるように設定しておきます。

 約半年間のご愛読ありがとうございました。

 +化前でもいいから続きを見たい方は、↓こちらまで。
https://syosetu.org/novel/260791/51.html

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総合評価:11994/評価:8.71/完結:39話/更新日時:2026年03月27日(金) 10:22 小説情報


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