とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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 ここまでくると、作風が変わってないかという謎の心配があります。











079 紅蓮を降す黄金の《女帝》 『9月1日』 Ⅹ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありえない。そう思わずにはいられなかった。

 

「久しぶりですね、先輩」

 

「引っ込んでろ後輩。用があるのはテメェじゃねえんだよ」

 

 イギリス清教、必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術師、シェリー=クロムウェル。学園都市とは対を成す勢力の魔術師が、今この瞬間に現れるという衝撃に、視界のフレームがぐらついた気さえする。裏は取った。何でも知ってるシスコン陰陽師に直接調べさせ確認までしたのだ。予想外の出来事が起きたのではない。絶対に起こらないと確信した事が起きたのである。

 

(いや、動揺なんざしてる場合じゃない。原因を考える暇もない。問題は……ここからどうすべきかだ)

 

 自分一人ならまだいい。上条やインデックスだって、魔術師とは何度も相対している。だがここには風斬と、そしてなにより布束がいるのだ。衝突が避けられないのなら、彼女たちの退路を考えながら動かなくてはならない。

 

「冷たい事言ってくれますね。遠い異国の地で任務に就いている後輩に、開口一番がそれとは」

 

 ようやく絞り出した言葉は自分でも驚くほどに冷静な声色だった。混乱の中でここまで平静な風を装えるとは、俺も少しは成長したということなのだろうか。そんな方向性の成長は微塵も望んではいないのだが。

 

「やけに今日は強気じゃねえか、泥の中の豚みてぇに楽しそうな顔しやがって。そんなに寂しいなら私の用が終わった後で頭でも撫でてやるよ。だからピーピー鳴くのは後にしな」

 

「『泥の中の豚』ですか、なるほど……撫でてもらいたければ、豚の耳でも生やして待っていろと。そういうことですか?」

 

「……」

 

 豚の耳。それは『仕事を失敗する』という意味合いを持つイギリスの慣用句。俺の、木原統一に任された仕事は禁書目録(インデックス)の護衛だ。それを放棄し見て見ぬ振りをしろというのか? そんな疑問を、上条たちにはわからない表現でそれとなく伝えてみたのだが。シェリーの不機嫌そうなあの表情からして答えは明白。実はイギリス清教御一行様、学園都市へ観光旅行ですルートは見事に潰れた運びとなる。いやそもそもそんなルートは無いな。単に俺が現実逃避をしたいだけか。

 

「おい木原、あの人はお前の知り合いなのか?」

 

 剣呑とした空気に皆が呆気に取られている中、上条だけは俺の隣へと歩み出た。

 

「職場の先輩ってっやつだよ。俺やインデックスと同じイギリス清教の人間だ」

 

「イギリス清教……なるほど、まともな恰好の魔術師もいるんだなぁ。いや、あのゴシックロリータをまともな恰好って言ってもいいのかはわかんねぇけど。イギリスだと結構普通の服装だったりするのか?」

 

 呑気な上条の疑問符に布束がぴくりと反応したが、そこにあえて触れる余裕なぞあるわけもない。

 

「さあ。生憎とイギリス人は甲冑とドレス、それに音速を越えたり越えなかったりする紳士服くらいしか知り合いはいねえんだ。それより一つ言い忘れていたな。あの人は職場の先輩、イギリス清教の魔術師、そして……()()()()

 

「あん? そりゃどういう───

 

「説明したいのも山々だがな。とりあえず、殺気だったステイルが目の前にいると考えてくれ」

 

「ステイルって言われてもなぁ……」

 

 テンパり気味の上条には目もくれず、俺はシェリーの動向に全神経を集中していた。正確には彼女の右手に握られたオイルパステルに。彼女は壁や地面に魔法陣を描くことで魔術を発動する。つまりあのオイルパステルは俺やステイルで言う所のルーンのカードに等しい代物だ。アレにさえ注視しておけば不意を突かれる事は絶対に無い。

 

(地形的には不利でも……こちらには魔導書図書館(インデックス)幻想殺し(かみじょうとうま)がいる。魔術師なら裸足で逃げ出す最強コンビだ。そこに加えて半人前の魔術師一人。対抗できないはずが───?)

 

 ふと、頭の中で思考の歯車が急停止した。ギアとギアの間に何かが挟まった感覚。思考に異を唱える、知識と直感から来る異物の正体。それを言語化する前に、目の前の敵は呆れたように口を開いた。

 

「いくらなんでもステイルと同列に考えられるのは心外だな。煙草と焼死体の匂いをまき散らす腐れ神父よりは、分別はあるつもりよ」

 

 この場には俺たち以外にも人通りがある。

 そうだ、原作では風紀委員(ジャッチメント)が避難誘導をしていたはずだ。

 シェリーが学園都市の門を強行突破した事による、特別警戒宣言(コードレッド)の発令。

 今はそれがない。

 

 それがこの違和感の正体───?

 

「それにしても、会って早々にこの反応か。テメェの私への印象はそう悪いモノでもないと思ってたんだが……はっ、この様子だと私の自惚れだったようね」

 

 つまりシェリーは、学園都市の警戒網を突破したのではなく、すり抜けて来た?

 土魔術を駆使して?

 一体どうやって? 

 

 そもそも、この大雑把を極めた突撃雌ライオンがわざわざそんな事をするのか───?

 

「それとも……いや、まさか。そこの女共の中にお前のツレでもいるのか? なるほど。啖呵切って女の前でいい恰好したい馬鹿は、世界共通ってわけかよ」

 

 違う。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 今目の前にいるのは、魔法名(思いの丈)に振り回される魔術師ではない。

 破れかぶれに特攻を仕掛けてきた馬鹿野郎では断じてない。

 

 あくまでも冷静に、静かな怒りに身を焦がす魔術師だ。その彼女が、この場における戦力分析が出来ないはずがない。幻想殺し(かみじょうとうま)とは初対面だとしても、木原統一を半人前の魔術師だと高を括っていたとしても。インデックスをよく知る彼女が、何の策も無しにこの場に来るはずがない。

 

 そう結論付けた瞬間に、シェリーの狙いが俺にはわかった。これ見よがしに自らの道具を見せびらかして、意味のない会話を続ける理由。そうだ、全ては彼女のあの言葉に集約されている。

 

『おいおい。こちとら遥々(はるばる)海の向こうから会いに来てやったのよ。それをいきなり逃走……それもよりによってそのクソガキの方へ逃げるなんて、()()()()()()()()()()()()

 

「学園都市にはお一人で?」

 

「はっ、編入試験の時から思ってたが……本当に、クソムカつくほど頭の切れるガキだなテメェは」

 

 集中がシェリーから逸れたおかげか。

 あるいは、自らの存在を主張する方へと戦略的方針を改めたか。

 

 コツ、コツという硬い足音が俺たちの背後で鳴り響いた。

 

 シェリーの存在も忘れ、上条を押しのけて勢いよく振り向く。心配そうにこちらを見る布束たち3人よりもはるか後方。その姿を捉えた瞬間に、俺の視界がぶわりと色彩を変えた。その正体は30歳から40歳くらいの男性だった。シェリーとは違い綺麗に整えられた金髪に、手入れの行き届いた艶のある革靴。そしてサイズ感が一回り小さく見える、灰色のスーツを纏った白人である。

 

 人払いが発動しているわけではなく、未だ一般人も往来もある地下街だというのに。アレこそが自らの違和感の答えだとはっきりわかる。全ての前提の崩壊。安全圏から未知の危険域へと、知らずに足を踏み入れていた事の知覚。はるか先にいるそのエラーはたった一言、シェリー=クロムウェルを見据えてこう宣言した。

 

「配置は完了した。もはや時間稼ぎは必要ない」

 

「雑用ご苦労……って言いたい所だけど、馬鹿かテメェは。敵の前で堂々と宣言する事じゃねえだろうがよ」

 

「何分、このように策を弄するのは初めてでな」

 

「チッ、この騎士道馬鹿が……」

 

 配置、時間稼ぎ、策。そんな気になる単語が飛び交う中で、木原統一の思考の矛先はそこにはなかった。

 

解答不能(Unanswerable)

該当無し(Not applicable)

正体不明(Counter stop)

 

 あらゆる記憶を掘り返し、答えを出してくれるはずの『木原統一』の頭脳に質問状を叩きつけ、原作知識(原典)を再度参照してなお残る謎。その中心点へと、絞り出すように声を発した。

 

()()()()()()

 

「生憎と今は本道を捨てた身の上でな。名乗る名などないので好きに呼ぶがいい」

 

「そうやってクソ真面目に応対してる時点で捨てきれてねぇのがバレバレだろ、騎士崩れ(Sicarius)

 

 シェリーのそんな辛辣な言葉に、騎士崩れと呼ばれた男は表情を曇らせた。まるで傷口を抉られているのを堪えるかのように。

 

(やっぱり、()()()()()()()()()()……歩き方や仕草からはイギリスの騎士たちと同じ匂いがする。だが何故そんな奴とシェリー=クロムウェルが行動を共にしている? どう考えてもそれは、絶対にあり得ない組み合わせのはずだ)

 

 いくら考えても答えは出ない。そうしている間にも、騎士崩れと呼ばれる男はゆっくりとこちらに歩みを進めてきている。

 

(アレが本当にイギリスの騎士たちと似た術式を扱うのであれば、上条では歯が立たない。インデックスも、魔術に頼らない攻撃をされたらアウトだ。ってことはつまり───

 

これよりこの場は我が穏所と化す(TPIMIMSPFT)

 

 騎士崩れからは目を離さずに、懐から出したルーンのカードを素早く壁に投げつけ『人払い』の詠唱を唱えた。正直に言って、今から一般人の避難が間に合うとは思えない。ただ単にやれることはやっておくの精神だ。最悪の場合、この地下街を火の海にしてでも布束たちは守り抜く。

 

「上条、3人を頼む。インデックスはシェリーの動きを見ていてくれ」

 

 そう言い置いて、一歩を踏み出した俺の腕を掴む人がいた。正体はわかっている。だが今は目の前の敵から目を離すわけにはいかない。説明も議論もしている時間もない。「手を放してくれ」と声をかける前に、彼女の方から口を開いた。

 

「私に指示はないのかしら?」

 

「……絶対にインデックスから離れるな。隙を見て全速力で逃げてくれ」

 

「……そう」

 

 二言、三言。たったそれだけのやりとりだが、今日一番に心が通わせられた気がする。負けられない。握り拳を作りながら、俺は騎士崩れへと歩みを進めた。イギリスでの対騎士戦を鑑みれば、相手との距離は開いていればいるほどこちらが有利。だが俺が扱うのは炎の魔術。布束たちを巻き込まないように、最低限の間隔は離さなければならない。

 

(相手との距離は20mと少し……しかし妙だな。俺が炎の魔術を扱うと知っているなら、すぐにでも距離を詰めてくると思ったんだが今のところその気配は無い。さっき俺が『人払い』を張った時も動きはなかった。一体何を狙っている?)

 

 布束たちからある程度距離を離したところで、俺は歩みを止めた。俺と騎士崩れの間に並ぶガラス張りの衣料品店や雑貨屋をざっと見渡すも、『人払い』のお陰か目に見える範囲で人影はない。これならばある程度暴れても問題はないだろう。無論地下街という点を鑑みれば、あまり無暗に燃やすのは危険である事に変わりはない。

 

(まぁいい。向こうの狙いは不明だが、こちらのやる事は変わらない。術式の組み合わせ、想定される相手の戦術全てに対応するんだ。イギリスの時とは違う。一方通行(アクセラレータ)や対アイテムの時のように、殺す覚悟で魔力を練り上げろ)

 

「いい殺意だ、背負う者の覚悟が伝わってくる。どうやら魔術と科学の境界に立つ者として、最低限のモノは持っているようだな」

 

 繰り返すが木原統一の記憶にも、俺自身の原作知識にもこいつの情報はない。つまり性格(キャラクター)背景(ストーリー)もわからない現状では、その言葉の真意すらも推測ができない状態である。

 

「そいつはどうも。そういうアンタは随分と余裕がありそうだな。俺の用意が万全に整うまで待ったのは、騎士道精神とやらが関係しているのか?」

 

「いや。先ほども言ったが私はその道を捨てた身だ。それに決闘ならいざ知らず、ただの殺し合いでそこまでするような流儀は騎士にも無い。私が()()で待っていたのは、単なる戦術的判断だ」

 

「戦術的判断、ね」

 

(……偽装(ブラフ)か? それとも何らかの魔術の発動条件? クソ、わからない。情報が少なすぎる。落ち着け、相手の言葉に惑わされるな)

 

 イギリスの騎士たちが見せた身体強化術式。あの時彼らは甲冑を纏っていた。一方で目の前の敵は生身。炎の魔術を当てれば勝利と言えるが、甲冑が無い分速度は3割増と想定、敏捷性はそれ以上。上下左右と空間(スペース)は余り広くはない。上条たちがいる以上後方に引く選択肢は無く、追い込まれたら逃げるのはほぼ不可能。

 

(向こうが距離を詰め、こちらはそれを炎で妨害する。この地下空間を炎が埋め尽くす前に相手を仕留めるのが勝利条件。逆に俺が捕まるか、後ろに抜けられれば敗北が確定する。相手もこの条件は承知のはずだが、こちらの用意を待っていたのが戦術だとすれば、この前提をひっくり返す何かがあるという事か?)

 

 答えは出ない。だが衝突の時は容赦なく訪れる。騎士崩れと呼ばれた男の、品のある革靴が地面を強く踏み、灰色のスーツの上からでもわかる程に力が込められる。そして───彼は勢いよく後方に飛び退いた。

 

「───は?」

 

 予想外の一手に呆気に取られた俺を置き去りに、騎士崩れは背中に右手を回し何かを取り出す。長さにして30センチほど、太さはボールペンほどのそれを握りしめ、彼はこちらを見据えながら言葉を紡いだ。

 

「かの弓は木々を避け天を衝く。民の守護者の導きにより、我もまた伝承の末席へと加えられんことを」

 

 詠唱が終わると、騎士崩れの左手には薄緑色の弓が現れていた。そして取り出した棒の先端には漆黒の(やじり)。間違いない、アレは───

 

「───ッ!! 魔女狩りの王(イノケンティウス)!!!」

 

 急激な燃焼反応による爆風が周囲に撒き散らされる。木原統一が得意とする簡易版の魔女狩りの王。地下通路に仁王立ちするように出現した炎の巨人は、騎士崩れの視界を遮るには十分な大きさだった。

 

(ここに来て小さな緑の義賊(リトルロビンフッド)だと!? クソ、確かにアレは騎士派の扱う魔術の一つではあるが……後方支援用の魔術を1on1(タイマン)で使うか普通!?)

 

 中、遠距離狙撃魔術『小さな緑の義賊(リトルロビンフッド)』。先日のウィンザー城でも使用されたそれは、威力だけならライフル銃にも引けを取らない強力な魔術。だが連射は効かず、魔術行使には矢を使用する関係上、その弾数にも限りがある。よってその用途は本来、戦線の後方から敵の指揮官の頭をぶち抜く兵器のはずであった。

 

(向こうの狙いは長期戦か? だがここは学園都市、敵地(アウェー)で時間を稼いでも不利になるのは───

 

「甘い。その判断ミスが、いつか誰かを失う事になる」

 

 ヒュウッ、という風を切る音。視界の端、魔女狩りの王の横を何かが高速で通り過ぎた。遅れて振り返ると同時に、ドゴッ!という鈍い破砕音が鳴り響く。その正体は、布束の足元に突き刺さった漆黒の矢であった。

 

「あ、の野郎……!?」

 

「未熟だな。勝利条件とは往々にして仕掛ける側が設定するものだ」

 

 当てようと思えば当てられた。矢の特性上、魔女狩りの王の陰にいた木原統一には流石に無理があったようだが。その先にいる上条たち4人は射程圏。その軌跡を曲げることで狙撃が可能であったのだ。着弾の衝撃に布束は遅れて身を引き、上条と風斬が思わず身構える中、インデックスだけは変わらずシェリーを見張り続けていた。

 

「君の役割は敵の殲滅か? 否、魔導書図書館の守護が本道だろう。守るべきモノ、達成するべき条件。それらを戦いの中で見失わない事が、戦場に立つ新兵の最初の壁だ」

 

 敵の忠告を聞き流しながら、木原統一はルーンのカードを後方に投げた。矢の機動を計算し、布束達への攻撃を遮れるような場所に配置する。

 

「君の術式は聞いている。その魔改造された教皇級魔術以外に小さな緑の義賊(リトルロビンフッド)を止める手立てはない。この地下空間で複数展開は避けたいはず。また、長い時間現出できるような代物でもない。つまり、それを魔導書図書館の防御に回した今、君は自分を守る術を失ったことになる……さて、どうする? 保身を考えるのなら、彼らと同じく盾の陰に引っ込むのが正解だが?」

 

 簡易版としての役目を果たし、現出していた魔女狩りの王が消える。遥か先に見える敵は弓を構える事もせず、ただこちらを見据えていた。言葉を文面通りに捉えるならば、その戦術も一理ある。魔女狩りの王を盾に先にシェリーを仕留める。敵の目的がわからないこと、正体不明の危険人物から一瞬目を離すことを除けば試す価値はある作戦だ。

 

 少しだけ考え、そして首を横に振った。シェリーが察して距離を取るだけでその戦術は破綻する。保証されるのは自身の安全のみだ。そんな選択肢にはなんの価値も無い。

 

「冗談だろ。敵から提示された戦術を取る馬鹿がいるかよ」

 

「正解だ。どうやらこの程度で判断を鈍らせるような事は無いようだな」

 

 その言い様に多少の違和感を覚えたが、思考の寄り道をすべき時は今ではない。逃げの一手は打たせてもらえない。騎士派自慢の狙撃術式相手に、遠距離戦は勝ち目がない。残る選択肢は一つだけで、それは相手の思惑通り。つまるところこれは、処刑台の階段に足を掛ける行為に他ならない。

 

「……なるほど。ここまで追い込んでこちらの思考を鈍らせる。お前の狙いは時間稼ぎか」

 

 答えは待たない。ルーンのカードを構え、一呼吸ついた後に。木原統一は地獄へと駆け出した。

 

「迷いは無しか。その気概、若さ故だとしても評価に値する!」

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

 騎士崩れが再び弓を構えると同時に、木原統一は術式を発動した。先ほど布束達を守るために配置したルーンから爆炎が立ち上がり、木原統一の遥か後方に炎の巨人が現出する。それが彼女たちを流れ弾から守るための一手だと考えた騎士崩れは、わずかに笑みを浮かべたが───その考えは過ちであった。

 

王の鉄槌(J O T K)!!」

 

 魔女狩りの王(イノケンティウス)は布石だった。教皇級の魔術の出力を流用し利用する方法論を利用し、しかし手順はより洗練され最適化されたオリジナル魔術。本来発動に必要な手順を、魔女狩りの王(イノケンティウス)によるバックアップによって強引に省略した結果。木原統一の振りぬいた右腕に連動するように、突如として現れた巨大な炎の拳が、騎士崩れの眼前を埋め尽くす。

 

(視界を遮る事で攻撃と防御を両立させるか。私が一瞬油断するのも計算の内であるなら……なるほど。戦略的な未熟さはあれど、戦術面ではこのような(したた)かさを持ち合わせているとはな)

 

 構えを解き、騎士崩れはとっさに通路の端へと飛び退いた。予想外の反撃ではあったが、その表情に迷いはない。木原統一の走る速度を鑑みれば、射線を確保し再び矢を向けるだけの猶予は十分にある。そんな計算に基づいての余裕であった。

 

「───ッ?」

 

 だからこそ。次の一手で、騎士崩れの表情が初めて強張った。炎の腕のその先に、標的の姿が見えなかったのだ。

 

(いない……だと? まさか、一体どこに───

 

 まさか本当にシェリー=クロムウェルを仕留めに行ったのか。瞬間的に思いついたその可能性を即座に否定した後に。木原統一の経歴が脳裏をよぎる。そして直感的に、騎士崩れは炎の腕に矢を向けた。

 

(審問会の記録では、少年は学園都市の住人でありながらイギリス清教の魔術を模倣したとあった。もしも、騎士派(われわれ)の身体強化術式を模倣できるのであれば。自ら放った魔術の影に、高速で飛び込む事も不可能ではないはず───

 

 そんな推測に解を与えるように、通り過ぎた炎の腕の先に木原統一の姿が現れた。ほんの一瞬、二人の視線が交錯した後に。騎士崩れは迷いなく小さな緑の義賊(リトルロビンフッド)を射出する。一歩踏み出せば手が届く距離。弓矢、それも狙撃銃かと見紛うほどの威力と射程を持つ一撃を、この間合いでの回避は不可能───

 

「この手に引っかかるって事は、ウィンザー城にいた騎士とは別口の奴か?」

 

 矢が木原統一の胸を貫くと同時に、彼の身体は霧のように掻き消えた。蜃気楼を利用した陽動戦術。その衝撃に一瞬硬直するも、騎士崩れは声の方向に素早く振り返る。身体強化術式は使用していなかった。つまりは真正面。その目に映るのは、大きく腕を振りかぶった少年の姿。

 

(間に合う、か!?)

 

 その瞬間。騎士崩れはとっさに、小さな緑の義賊の矢を右手に出現させた。だが弓を構える時間などない。追い詰められた弓兵の最後の一手。矢を握りしめ、突っ込んでくる標的に突き出そうとするが───

 

 ドゴッ!! と、木原統一の踏み出した左足が地面を踏み抜いた。一度は計算に入れ、その後即座に否定された選択肢。相手の計算を狂わせる一手を、木原統一は最良のタイミングで差し込んだ。

 

(ここで……身体強化術式ッ!!?)

 

「デートを邪魔しやがった事、死ぬほど後悔しやがれクソ野郎がッ!!」

 

 騎士と魔術師、二人の影が交差する。そして───

 

 

 

 

 

 

「インデックス。1年周期で記憶を失ってたお前は、私の事を覚えていないんだよな?」

 

 木原統一が騎士崩れと真っ向から対峙しているその時。唐突にシェリーは口を開いた。対するインデックスは対魔術師用の表情のまま、少しの動揺も見せぬままに応じる。

 

「そうだね。残念だけど、貴女が私とどういう関係だったかは知らない。だから気を抜くことはありえないかも」

 

「別に大した仲じゃねえから安心しろよ。暗号解読関連で知識を共有する機会が2,3度あっただけ……それに、例えステイルや神裂くらいに仲が良かったとしても、この状況で腑抜ける程平和ボケをしてるようじゃ話にならねえ」 

 

 そんなシェリーのため息交じりの軽口にも、インデックスは眉一つ動かさなかった。優れた魔術師の中にはさりげない会話から精神を操作するような者も存在するのだ。普段の腹ペコシスターの面影はそこにはなく。ほんの少しの隙も気の緩みも決して見せない、イギリス清教の秘奥にして対魔術師決戦兵器の姿がそこにはあった。

 

「フン……この状況でちゃんと自分の役割を果たそうとするのは結構。だけど残念、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

 それは記憶を失ったインデックスが初めて体験するモノであった。いやたとえ記憶を失っていなくても、ここまで明確なそれをインデックスに向けた者は皆無であったかもしれない。イギリス清教の弱体を狙う輩でもなく、魔導書図書館を求める魔術師でもない。個人に対する純粋な殺意、憎しみ、そして怒りを向ける者を前にして、インデックスは自身の心がざわめくのを感じていた。

 

「確かめたい、こと?」

 

「ああ。アンタが魔導書図書館として機能してる事はわかった。()()()()()()()()()()()()。それが残された私に出来る唯一の───贖罪だから」

 

 ゆっくりとオイルパステルを掲げ、インデックスに突き付ける。魔術的要素は存在しない。ただ単に、この言葉を投げかけるための所作。

 

「なぁ、オイ……()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…………え?」

 

 途端、インデックスは自分の喉が干上がるかのような錯覚を感じた。どろりとした怨嗟の念と、からりと乾いた焼け付く殺意の念。そのどちらも併せ持つ溶けた鉄のような負の感情が、インデックスの心の底へ突き刺さったのだ。完全記憶能力とは関係なく、目の前の魔術師が何を言わんとしているのかを、インデックスは瞬時に()()()()()()()()()

 

 何故ならそれは、彼女が最も恐れていた事態なのだから。

 

「わからねえなら教えてやる。科学と魔術の境界の意味を……その頭空っぽの思考が、どれだけの悲劇を生むかをよォ!!!」

 

 怒りと共に、()()()()()()()()()()()()。土より出でる人の虚像、イギリス清教の手法を踏襲したカバラの術式。インデックスでなくとも、その道に造詣が深い者なら看破可能な代物を、魔導書図書館の目の前で悠々と発動する愚行を犯したのだ。

 

()()()

 

 油断は無かった。精神的に揺らぎが無かったかと問われれば答えは否だが、だとしても。目の前で行使された魔術の規模(レベル)は、インデックスであれば片手間で対処可能な代物だった。だが───

 

「……っ!?」

 

(割り込めない! 動作(トリガー)と魔術が一致しない!!? 術者は彼女じゃなくて、他に───?)

 

 強制詠唱(スペルインターセプト)。インデックスが有する対魔術師用の手札の中でも最強とも言えるそれを、シェリー=クロムウェルは突破していた。木原統一が使う稚拙なモノとは格が違う、魔導書図書館たるインデックスが行使するそれは、生半可な魔術師では対抗する事自体が不可能。超の付く一流の魔術師が、限りなく魔術の源流を秘匿し行使することで回避が可能となるはずのそれを、シェリーは何らかの方法論で突破していた。

 

 シェリー=クロムウェルの後方、コンクリートの床が大きくめくれ上がり、カラフルなタイルが割れ、土の色と混ざり巨大な人型を形成する。局所的に大地震にも匹敵するかのような揺れが、インデックス、布束、風斬、そして上条を襲った。

 

「うおっ……!?」

 

 震源地から一番遠かった上条でさえ、あまりの揺れに膝を突いた。布束や風斬も例に漏れず。そしてシェリーを見張っていたはずのインデックスも、両ひざを突く形でその身を投げ出す。その様子をつまらなそうに眺めていたシェリーは、無造作にオイルパステルを振り呟いた。

 

「エリス」

 

 緩慢な動作で、岩のゴーレムは右拳を振り上げる。少女一人を押し潰すには、それでも十分すぎるほどの予備動作であった。

 

右方へ変更(C  R)!」

 

 インデックスの叫びに、目の前のゴーレムはピクリとも反応しなかった。瞬間、インデックスは己の身に何が起きるかを理解し───

 

「インデックス!!」

 

 上条の叫びも虚しく、修道服の少女に鉄槌が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、騎士と魔術師の激突は相打ちであった。騎士崩れの突き出した矢じりは木原統一の喉笛に突き刺さり、身体強化術式で加速された木原統一の拳は騎士崩れの顔面へと突き刺さっていた。同じ突き刺さるでも、実際に肉を貫いているのは矢じりであり、どう考えてもそれが致命傷ではあるのだが。現実に立っているのは木原統一で、あまりの衝撃に脳震盪を起こし立ち上がれなくなっているのは騎士崩れであった。

 

「クソ、痛えなオイ。いい加減、再生できても痛覚は消えないのはどうにかなんねえのかよ……」

 

 ルーンのカードを構え、喉元をさする。傷はすでに無くなっているものの、噴き出した血の跡はそのままであり、ドロリとした生暖かい血液の感触に木原統一は心底嫌そうな表情を浮かべていた。

 

「最初から……相打ち狙い、だったのか」

 

「アホか。イギリスの騎士ってのは、聖人とかと比べたらさも自分たちは人間の範疇ですって顔してるが……海流を利用してイギリスから日本まで単独潜航可能な奴らだぞ。俺みたいな一般人から見たら怪物には変わりねぇんだよ。2択3択で惑わして、死ななきゃ安い精神で一撃を叩き込むしか勝ちの目はない。それしか選択肢がないのを狙いとは呼ばねえだろ」

 

「……いや、違うな。手段を問わず、私を殺すだけなら……もっと他に手段があったはずだ」

 

「ああ、そこから認識が違うのか。別に不殺の誓いを立てた聖人君子ってわけじゃねえが、それじゃ足りない」

 

 先ほど殴りつけた反動で、勢いよく床に転がった男に木原統一は近づいていく。そして男の傍にたどりつくと、ルーンのカードを構え直しこう尋ねた。

 

「お前は何者だ、俺の知らない異邦人(エイリアン)野郎。何をどう転んだら、騎士派の男がシェリー=クロムウェルと手を組むなんて奇跡が実現しやがる。そのカラクリを解き明かす事が俺の勝利条件だ」

 

 この世界を俯瞰し、疑似的な未来視を可能とする木原統一の知識。時に頼り、時に嫌悪したこの力だが、大切な者を守るための武器として使う事を今の木原統一は躊躇しない。故に彼は見過ごせなかった。原作への復帰(リカバリー)とまでは言わない。異分子の動きを把握し、自らの武器を取り戻すこと。それがこの先の未来に必要であると木原統一は確信していた。

 

「……私は、ただの道具だ」

 

「は?」

 

「時に剣となり、時に盾となって、彼女の進む道を切り開く。彼女のために摩耗し、消費される事が私の最後の贖罪なのだ。騎士ではなく駒として、人ではなく道具として、何の感慨もなく使い果たされる。そのために私はここにいる」

 

 そう言い切った男の虚ろな表情を見て、木原統一は困惑していた。欲しかった質問の答えではない。そもそもこれは返答ではなく独り言だ。存在意義の暗示、プログラムの再読み込みのようなモノを、目の前の男は行っているに過ぎなかった。

 

(いや、ノーヒントってわけじゃない。贖罪ってことはまさか、シェリーの親友だったエリスの仇か? 何でそんな奴がシェリーと一緒に? それこそ、シェリーに真っ先に粉々にされてもおかしくないはずじゃ───

 

 突如、思考の海を遮る衝撃が木原統一を襲った。まるで地面が生き物のように蠢き、思わずよろけた彼が視線を向けた先には。より震源地に近かったインデックス達が無防備に座り込む姿、そして───ゴーレム=エリスが顕現する瞬間であった。

 

(馬鹿な、インデックスが見ている前でゴーレムの生成だと!? 一体どうやって!!?)

 

 油断はなかった。この瞬間にも、騎士崩れの男への警戒を木原統一は緩めてはいなかった。さらには並行してシェリー=クロムウェルが出現させたゴーレムの解析も、木原統一は瞬時に行っていた。

 

(死角に別の術者が? いや、シェリーとゴーレムの経路(パス)は間違いなく繋がっている。インデックスはシェリーを見ていたはずじゃ……いや待て、まさか。シェリーの専門は暗号―――

 

「チェックメイトだ。捉えたぞ、魔術師」

 

「───ッ!?」

 

 謎の声が、木原統一の耳に届いた瞬間の出来事だった。木原統一の腹部へと強烈な衝撃が走り、彼は衣料品店のショーウィンドウに叩きつけられる。ガラスが割れなかったのは能力者対策のために強度が増していたためだろうか。

 

「ご、ぐ……ッ!?」

 

 血を大量に吐き、灼熱の痛みに襲われる中で、木原統一は痛みの元へと目を向けた。血に染まった、水晶のように青く透き通った剣が、彼の腹部へ深々と突き刺さっている。剣は彼を貫通しショーウィンドウへその身を縫い付けていたのだ。

 

(なん……だ? 氷の、剣? ……他に……?)

 

 激痛の中で辺りを見渡しても、敵対者の姿は見えない。そんな中で、血を噴き出し趣味の悪い現代アート風味となった木原統一を無視するように。騎士崩れの男は立ち上がった。

 

「契約は完了した。ここから先は別行動となるが、異論はないな」

 

「ああ。それにしても、この結果は意外だな。協定は偽装で、土壇場で我々を裏切ると踏んでいたが。やはり学園都市とイギリス清教、科学と魔術の垣根はそう易々とは乗り越えられないか」

 

 謎の声に男は答えず、インデックスや上条たちの方へと彼は走り出した。防衛線の崩壊、敗北の兆し、そして最愛の人の窮地。焦燥の感情に突き動かされ、自らの状態や謎の敵対者の存在などお構いなしに、木原統一が魔力を込めた瞬間。さらに追い打ちをかけるように、彼の両腕に青水晶の剣が突き刺さった。

 

「ぐッ!?」

 

「この状況で私を無視か。いや、痛みでパニックも起こさずに、死に体で魔術を行使しようとしたのだからな。減点ではなく加点対象とするべきかな」

 

 痛みで意識が朦朧とする中、木原統一は声の主へは目もくれずに。とある人物へと声を発する。

 

「に……げ、ろ」

 

 呟くようなか細い声は、誰の耳にも届かず。

 

 轟ッ!! という爆音とともに。ガラス張りのショーウィンドウは破れ、木原統一は破壊の嵐へと飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰にも聞こえなかった木原統一の言葉。しかし、その瞬間を目撃した一人の少女は彼の唇の形から意味を正確に読み取っていた。

 

『に……げ、ろ』

 

 爆発的な閃光の中へと木原統一は消えていった。その光の先へと駆け込まなかったのは、持ち前の冷静さと頭脳。そしてなによりも彼への信頼があってこそだ。

 

(大丈夫、彼は生きてる!それよりも今は───

 

『……絶対にインデックスから離れるな。隙を見て全速力で逃げてくれ』

 

 先ほどまで木原統一と死闘を繰り広げていた男が走りこんでくるのが見える。その反対側を、説明不可能な巨大な岩の人形が立ち塞がっていた。一見して退路はないように思えるこの状況下で、布束砥信の頭脳は瞬時に答えを叩き出す。

 

(でも、まずはあの岩の人形をどうにかしないと───!?

 

「インデックス!!」

 

 上条が叫び、布束が振り返った先へ。一人の少女が走り込む姿を二人は目撃した。

 

「死なせない!!」

 

 風斬氷華。こと争い事とは無縁に思える容姿をした彼女は、ヒトを超えた速度でインデックスの前へと飛び込んでいた。あろうことか、拳を振りかぶった巨大な岩の人形の前へと立ち塞がるように。

 

 彼女を知る木原統一ならば、ありえないと叫んだ事だろう。彼女は自分の力を知らない。存在も由来も知らず、ましてそこに疑問を抱くこともなかったAIM拡散力場の集合体。原作において、シェリー=クロムウェルの襲来こそが、己の特殊な身の上を知る初の機会だったはずだ。インデックスを抱えて逃げようとするならばまだわかる。友達を助けるためだったとしても、その脅威に真っ向から立ち向かう選択肢など取りようもないはずなのに。

 

『腕と足に力を集中させろ。大丈夫だ、君なら出来る』

 

 風斬にしか聞こえない声がする。その正体こそが、このイレギュラーな状況を作り出した張本人だった。そして、風斬氷華の眼前に岩の拳が迫り───信じられない光景が、インデックスの目に飛び込んできた。

 

 ゴガン!! という轟音が鳴り響く。その正体は、風斬氷華の細い両腕が、ゴーレム=エリスの拳を受けとめた音であった。

 

「ひょう……か……?」

 

 風斬の身体が軋む。力の接点である手足から無機質な回路のような光が走り、自分自身を象っている力が消費されていくのを感じる。長くは持たないと悟った彼女はその背後にいる友達へと、あらん限りの力を振り絞ってこう叫んだ。

 

「……逃げて!!」

 

 その願いに反して、インデックスは座り込んだままの状態で固まっていた。その姿を一瞥し、絶望的な表情を浮かべる風斬へと、二人の英雄が駆けつける。

 

「行くわよ」

 

 まず布束砥信が走り込み、インデックスの手を取り引っ張り立たせた。そして二人を一瞥しながらその脇を駆け抜ける上条当麻。彼は風斬氷華の元へと辿り着き───有無を言わさずに、ゴーレム=エリスの拳を殴りつける。

 

 バキンッ! という破壊音が鳴り響き、風斬を押し潰そうとしていた力が消えた。ゴーレム=エリスから眼の光が消え失せ、身体を形作っていたパーツがばらばらに崩れ落ちていく。砂埃が舞う中で姿を現したのは、つまらなそうに上条たちを眺めるシェリー=クロムウェルの姿だった。

 

「ありがとう風斬。お前のお陰で、インデックスを助ける事ができた」

 

「……いいえ、むしろ私のせいです。私がもし、あの時……彼の狙いがわかっていたらこんな事には」

 

 何故か申し訳なさそうな彼女の様子に、上条は眉をひそめた。だが、その謎と向き合う間はない。何故なら───

 

「助ける事ができた? オイオイ、もう勝っちまった気でいるのかよ能力者」

 

 オイルパステルを片手に、挑発的な言葉を投げかける魔術師へと上条は向き直った。だが、脅威はそれだけにとどまらない。

 

「待たせたな」

 

 騎士崩れと呼ばれる、灰色のスーツを着た白人の男。木原統一との戦いでその装いは煤が付き薄汚れてしまってはいるものの。上条当麻最大の天敵が、とうとう彼らへと追いついてしまっていた。

 

「あん? インデックスと、あの白衣の女はどうした?」

 

 不機嫌そうに睨みつけるシェリーを意にも介さず。騎士崩れは淡々と口を開いた。

 

「そちらの店に駆け込んでいった。携帯電話を売っている店のようだな。おそらく我々の脅威となるようなモノは置いてはいまい。なので君を優先した」

 

「なるほど。まぁテメェのクソ真面目な脳みそじゃ、禁書目録を人質に取るっていう選択肢は出ねえよなぁ? それだけで目的達成だって言うのによ」

 

「……」

 

「めんどくせえから凹むな、最初から期待はしてねえ。それに、もうどうでもいい」

 

 そう言い放ち、シェリーは目線を上条当麻へと戻す。彼女の気だるげな目は、この次に発した言葉が真実であると確信しているようだった。

 

「あのクソガキも消えた以上、ここから先は消化試合だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衣料品が並べられた商品棚と、数多くのマネキンを薙ぎ倒し、木原統一は店の奥へと倒れ伏していた。身体のダメージは肉体再生(オートリバース)によってほぼ修復が終わっているものの。凄まじい破壊の衝撃は、木原統一の意識を刈り取るには十分であったのだ。

 

『ふむ、結構派手に飛んだな。さぁ、寝ている暇はないぞ』

 

「……ッ」

 

 頭の中に響いた聞きなれた声に、ぼんやりとした意識が形を取り戻す。正体不明の男、謎の乱入者、そして仲間の、布束の危機であることを瞬時に思い出し、木原統一は跳ね起きた。

 

「始めろ」

 

 未だ煙が立ち込める中、その中心から声が聞こえた。その声を合図に、まるで時間を巻き戻すかのように、割れたショーウィンドウが元の状態へと直っていく。

 

(この術式は……結界術か?)

 

 ゆっくりと立ちあがりながら、木原統一は観察を続けた。修復していくのはガラスと、その周辺のひび割れた外壁。どうやら術者は煙の中の乱入者とは別にいるようだ。

 

(ふざけやがって。まだ他にも謎の敵がいるって事か? ……結界の効果は修復……いや違う。建物の記憶を読み込み、元の状態へと保つ効果か。結果的には魔術的、物理的に外との干渉を防ぐ術式に昇華されてやがる。目的は俺とコイツを閉じ込める事───

 

「クソが、時間がねえ。誰だか知らねえが、ぶち殺して通させてもらうぞ」

 

「私を知らないか。ならその無謀な啖呵も頷けるな」

 

 煙が晴れ、正体不明の乱入者の姿が現れる。想定よりも低い身長、純白、そして───黄金。

 

「……うそだろ」

 

 初対面。

 

 だがその存在は、彼の魔術理論への足掛かりとなった存在である。

 

「さて、首狩り(ヘッドハンティング)と興じようじゃないか……新参者」

 

 レイヴィニア=バードウェイ。

 

 黄金の系譜が、木原統一の前に立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 逆に考えるんだ。
 変わっちゃってもいいさと。




 ロベルト=カッツェにも声が付く時代か……実質禁書4期では?





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