それもこれも呑み込んで、前を向こう。
倒れない限り負けない、負けない限り死なない。
死なない限り、倒れない。
だからまた、歩き出す。何度でも、何度でも。
何も叶わないまま切れ落ちたミサンガは、まるで死の宣告。願いは二度と、叶わない。もうこの先は無い、ここで全てが終わった。そう突き付けられた気がして、私は泣くことさえ上手く出来ないままコートに立ち尽くした。
今年の栄明女子バスケ部に、一部の隙も無かった。全員が力を尽くし、絶死の戦いを行った。それで尚――及ばなかったんだ。私が最後の最後に外した事を誰も責めなかった、
でも。それでも。……悔しい。何故もっと力を付けられなかった、何故命を捨てる覚悟が出来なかった。そればかり考えてしまう未練がましい自分が、呆れるほどに醜く思えた。
惨めな私はでも、頼る相手さえいない。
家族はみんな海の向こう、
大喜くん、…………は
…… さ……ん……に
…… され………たか…………ら………
私が 頼っては
いけな い
相手 だ。
少なくともつい昨日まで、私はそう思っていたのに。
朝日を浴びながら広縁でスヤスヤと眠る大喜くんの顔をみていると、そんな気持ちは溶けていってしまう。
この子はどうしてこう、人たらしなんだろうか。
あれは昨日の午後、練習を終えた帰り道。先輩方が引退し、私は副キャプテン……次期部長へと抜擢され。祝福を浴びながら、戦慄していた。そんな力は私にはない、期待が重すぎる。いつだってそうだ、私はそこまで大した人間でもないのにみんながあれこれ背負わせる。逃げ出そうにも道はなく、誰も理解してくれない。
押し潰されそうな不安の中で、半ば逃げるように私は大喜くんへケープ君のアイコンを送信していた。単なる現実逃避、無視されても仕方無い。……でもまさかすぐ後ろにいるとは思わなかったし、それにワガママを聞いてくれるとも思わなかった。
突然「何処かに行きたい」と言い出す先輩を、大喜くんはどう見ていたんだろうか。
でも嫌な顔もせず、私を昔から気分転換に行っていたという浜辺へと連れていってくれて。誕生日まで、祝ってくれた。何も聞かず、深入りせず、心地良い距離感。これを狙わずやっているのだから、相当な天然モノの人たらしだ。
でも少しだけ、その姿は眩しすぎる。足に残るミサンガはその可能性を担保してくれているようで、羨ましいし。それを意識していない自然体の感じが可愛くて、だからこそ人たらしなんだよ。
そして何よりのたらしっぷりは――同級生に告白された癖に、こうやって私なんかに優しくできるということ。
――もし。もしも。私が大喜くんに、好きだとか言ってしまったら。それこそ、どうなるんだろうか。
申し訳なさそうな顔ではにかんで、私を傷付けないように優しく諭してくれるのかな。
それとも、それとも。受け入れてくれたりするんだろうか。
まぁ有り得ないか、そんなの。大喜くんには さんがいるから。
でもま、それはそれで面白い。面白いというのは、大事なことだ。
負けて負けて、どん底に落ちて。それでも私は、這い上がる。時には誰かの肩を借り、命の限り好き勝手に突き進む。この手足は躍り狂う為にあるのだから。
何度負けようが、先を越されようが、私は折れないし曲がらない。後は努力の量だけだ、簡単なこと。立ち塞がる相手は蹴り飛ばし、殴り飛ばし、撃ち抜いて叩き落とす。
私を誰だと思っているんだ、天下の鹿野千夏を舐めて貰っては困る。
矢尽き刀折れ果てて泥の中で息絶えるまで、私は止まらない。
だから、――側で見ていて欲しい。大喜くんには、私の隣にいて欲しい。
それだけで、私は地の果てまで戦える。
その為にも、伝えなければいけない。私の気持ちを、余すことなく。
健やかな寝顔を眺めながら、私は決意を新たに拳を振り上げ心の奥で誓う。死ぬまで貴女を誉めないよ、私たちはライバルだから。
「負けないからね、――蝶野さん」