いつかに英雄の隣にいた誰か   作:幽 

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はっきりとしたものではありませんが、クロスオーバー成分があります。
こういうの読みたいなあと言うノリだけで書いた部分があるので、ご容赦いただければと思います。


冥界の女神の従僕 ※クロスオーバー成分あり
二人ぼっちの冥界


 

エレシュキガルの国である冥界というものは、言ってしまえば変化のない国だ。

寒さと岩と砂と、死者たちの眠る槍棺。そして、徘徊するガルラ霊たち。

極端な言い方をするならば、冥界にてはっきりとした自意識を持っているのは冥界の女神である彼女だけだった。

だからこそ、エレシュキガルは、死者の為、任された国のためにひたすら努力をし、それと同時に死者たちのための棺桶を作るという代わり映えのしない仕事を続けていた。

 

けれど、その日だけは違った。門を何か神だとかなんだとかが通ったという話もなく、かといってガルラ霊たちも何の反応もしていないというのに。

だというのに、己以外の人型の何かが堂々と自分の目の前を歩いて行くのを見たのだ。

 

エレシュキガルはそれに口をあんぐりと開ける。

いや、それが人型ならば、まだ、何か自分の与り知らぬところでどこぞの神が何かをやらかしたのだと予想できただろう。けれど、それはあまりにも奇怪だったのだ。

古びた革のパンツにゆったりとしたチュニック、そして履き古している革のブーツ、もちろんエレシュキガルからすればまだまだ先の文化の服装であったが。それだけならば、まあ、不思議な格好だとは思えただろう。

手に持った赤々とした暖かそうな火の宿ったランタンも、まあいいだろう。

ただ、それは何故か頭部に橙色の不可思議な被り物をしていたのだ。

目の部分は三角に、口の部分はギザギザに切れ込みを入れられた橙のそれ、パンプキンといわれる野菜、を被ったそれにエレシュキガルは思わず声を発した。

 

「・・・・何者!?ここをどこと弁えているの!?死後の魂の国、人生への郷愁。その一時を守る安寧の地。死者で無い者が立ち入っていい場所ではないわ!」

 

そう言いはしたものの、彼女自身非常に困惑していた。

だって、目の前の存在は確かに死んでいるようではなかった。かといって、生きてもいなかったのだ。

そんなエレシュキガルに気づいたらしい人影は、その被り物の上からでも分かりそうなほどに嬉しげにエレシュキガルに跪いた。

 

「慈悲深き女神さま!どうか、俺を殺してください!」

「へ?」

 

そのでこぼこコンビの始まりは、そんなものであったのだと、互いに記憶することとなった。

 

 

人生というものは、長ければ長いほどの色んなことがあるらしい。

らしいとついてしまったのが、その青年は未だ二十代半ばで命を落としてしまったせいだった。

青年から言わせれば、死んだことはもちろん悔しかったし、悲しかった。だからといってどうすることも出来ない、ということで素直に成仏した。

成仏といっても、何故か昔本で読んだことのように閻魔様に会うことも無く、何故か宗教違いに天へ昇って、白い門の前に並ばされることとなった。

自分は仏教徒のはずだったんだけどなあ、などとその洋風テイストの風景を眺めていると、順番がやって来る。

 

すると、門の前に受付らしい、白い大きな布を体に巻き付けた様な服装の二人の男が困惑したように書類を眺めていた。

それに、もしや自分は地獄行きだったかと、さほど悪人でなかった今世に思いをはせていた彼にその二人組の片方が信じられないことを言った。

 

「・・・・オタク、天国はおろか地獄にもいけませんけど、どうします?」

「へ?」

 

予想外な言葉に目を丸くした青年は、どういうことかと二人に詰め寄った。それに、男二人も困ったように首を傾げていた。

 

「うーん、ジャック・オ・ランタンって知ってます?」

「えーと、あのハロウィンの?」

「ああ、それっす。実は、それの元ネタにウィル・オー・ザ・ウィスプって話があるんすけど。元々、ものすげえ悪人の男が悪魔を騙して地獄行きにはならないって約束を取り付けたわけっす。そんでまあ、男は寿命で死んだっすけど、そんな悪党が天国に行けるわけも無く、かといって悪魔と交わした約束を反故にも出来ず。男は、悪魔が憐れんで与えた地獄の炎の練炭をかがり火に彷徨うようになったって、まあそんな話があるんだが。」

「お兄さん、そのジャックの生まれ変わりって奴ですね。」

「え?」

「うーん、さすがに延々と死者を現世に留まらせるのはどうかって話は出てたのは知ってたっすけど。まさか、お目にかかれるとは思わなかったっす。」

「でも、これ、死ぬまでにある程度善行を積ませて何とか地獄は駄目でも天国に入れようって話だったんじゃあ?」

「・・・・・人生短すぎて、これじゃあ天国にも入れないよなあ。」

 

己の目の前で繰り広げられる会話に、青年は叫んだ。

 

「じゃ、じゃあ、俺どうなるんですか!?」

 

それに、男たちは顔を見合わせて、同じ方向に首を傾げた。

 

「・・・・・さあ?」

「さあ、じゃないでしょう!?」

 

 

「・・・・・ええっと、それでね。私たちとしても、君についてはそろそろ何とかしないとと思っていたんだよ。」

 

その後、何故か良く分からないがジョニー・デップによく似た、何でも上司らしい、人の前に青年は連れてこられた。

その上司曰く、さすがに死者でも生者でもない存在を野放しにはしておけないと、自分をもう一度転生させたはいいものの、何の因果か予定よりもずっと早くに死んでしまったらしい。

 

「・・・なら、もう一回生まれ直すことは?」

「うーん、元々転生させること自体すごく特例だったから何回も出来ないしなあ。」

「そ、そんなあ・・・・・」

 

青年は不安そうに、顔を歪めた。自分がこれからどうなるかもわからない不安感で、彼の顔はべしょべしょに歪んだ。

それに、上司である男は慌てて青年に声を掛ける。

 

「で、でも、うちは駄目でも、他の所なら大丈夫かもしれないよ!?」

「ほ、他の所?」

「そうそう、ここは駄目でも他の黄泉だとか冥界だとかなら大丈夫かもだし。どうする?行ってみるかい?」

 

その言葉に青年は飛びつく。何でもいいから、今感じている不安感を何とかしたかったのだ。

 

「お願いします!!」

「わ、わかったよ。なら、ほら、準備をしようか。」

 

上司の男はそう言って、青年の体をなぞっていく。

 

「・・・・永い、長い、旅路に、祝福を。照りつける日にも、吹き荒む風にも負けぬ衣を君に。」

 

それに、青年の白い病院着のようなそれが、革のパンツと黒いチュニックに簡易のベスト、そして柔らかなマントに変わった。

 

「どんな悪路も超えていける靴を君に。」

 

それに足に吸い付くような革のブーツが裸足に纏われた。

「どんな暗闇でも進んでいけるともしびを君に。」

次に青年の手に、精緻な模様の施された火の灯ったカンテラが現れる。

 

「・・・・最後に、君が己の業を忘れることがなきように。」

 

それに、彼の顔がかぼちゃの形をした被り物で覆われた。次の瞬間、足元に確かにあった地面がなくなり、突然の浮遊感に襲われる。

 

「ぎゃああああああああああ!?」

 

絶叫が響く中、上司だという男の声が確かに聞こえた。

 

「長い、永い、巡礼になるけれど。君が行くべき場所にたどり着くことを願っているよ!」

 

 

 

 

「エレシュキガル様!槍棺作り終えましたよー。後、上に行っておいしいビールも買って来たんで休憩に飲みましょう!」

「分かったわ。そこに置いておいて。」

「えー、エレシュキガル様も飲みましょう?主人が飲まなきゃ俺だって飲めませんし、第一、いっくら女神でも心の休憩は必要ですよ?」

 

エレシュキガルは、読んでいた書物から目を離し、自分に話しかけて来る存在に目を向けた。

その、生者でもなく、死者でもない存在を従者として加護を与えてからどれほど経ったろうか。

あの奇怪な被り物はどうも、形自体は変えられるらしく今は帽子のようになっていた。

 

派手な橙色の帽子には似合わない顔立ちを青年はしていた。

まるで犬のように愛嬌のある可愛らしい顔立ちをしており、その髪は不思議なことに光の加減で緋色がかった銀色で、瞳はこれまた澄んだ真紅。

彼曰く、昔は普通の黒の髪であったらしいのだが、いつの間にか色が変わっていたらしい。

 

神々には及ばないとはいえ、その可愛らしい容姿をエレキシュガルは気に入っていた。

話を聞くと、それは死ぬことが許されず、なんとか自分を受け入れてくれそうな場所を探す旅の途中であったらしい。それは人の時間からすれば四桁を超えてしまいそうなほど永い旅路であったそうだ。

エレシュキガルの元に来る前にも、多くの冥界や黄泉に行ったそうだが悉く断られ、それにつけて追い返されることも多く、ほとほと困っていたらしい。

エレシュキガルは、魂の安らぎを得ることが出来ない存在というのをことさらに憐れんだ。

何よりも、自ら自分の物になりたいと懇願してくる存在を愛おしくさえ思ってしまったのだ。それならばと、エレシュキガルは彼を冥界に受け入れることを宣言し、彼を槍棺に納めようとしたが、はっきり言おう。無理だった。

何故か、槍棺にそれ、ウィルと名乗った彼は拒絶された。

 

困ったのはエレシュキガルだ。

受け入れると宣言したとはいえ、槍棺に納められないでは安寧としての眠りさえ与えられない。明らかにしょぼくれたウィルに、エレシュキガルは一つ提案をした。

生者でも死者でもないウィルに何とか安寧を与える、その方法が見つかるその日まで、冥界で自分の下僕として扱い、その生活を保障するというものだった。

ウィルは、自分が死ねないことにがっかりはしていたが、居場所が出来ることをひどく喜び、それに嬉々として乗った。

エレシュキガルは、改めてウィルに加護を与え、冥界の使者として扱うことを決めた。

加護を与えられたウィルはよく働いた。槍棺の作り方もすぐに覚え、ガルラ霊や力を失った神や門番たちと違い、エレシュキガルの話し相手になったことも彼女にとって嬉しい誤算であった。

何よりも、彼の腰に下げられたともしびは寒さで凍えるはずの冥界を一時的にとはいえ温めた。

彼が歩く場所は陽だまりの様で、その朗らかな声は花の様で、エレシュキガルを慕う微笑みはまるで星の様で。

何よりも、彼はエレシュキガルの国を、彼女の在り方を心から讃えた。

 

 

エレシュキガル様、エレシュキガル様。あなたに安寧を守ってもらえるこの世の民はどれほど幸せなのでしょう。

俺は多くの死の世界を見ました、知っています。

優しい神も、真摯な神もいましたが、あなたのように死した魂に自ら声を掛けてくれるような、自ら棺を作ってくれる神はいませんでした。

ここは、寂しい場所ではあります。寒くて、砂ばかりで、でも、ここにはあなたがいます。エレシュキガル様という美しい花のような女神がおやすみと言ってくれるなら、その心の温もりはどれほど温かいと思えるか。

エレシュキガル様、エレシュキガル様、あなたの国は寒くて寂しい。けれど、ここほど、静かで穏やかで、優しい女神のいる場所などないんです。

いつか、いつか、俺が還る、その時に、どうかおやすみなさいと言ってくれるなら、それだけがひどく幸福なのです。

 

その言葉に、そのキラキラとして目に、その心から羨ましそうな声音に、エレシュキガルがどれだけ心を震わせたのか、ウィルには分からないだろう。

ずっと、一人だった。ずっと、その暗闇の中で、一人で己の役目を全うしていた。寂しいとも、悲しいとも、何も思えず、外の世界を願うことも無く、自分の役割を全うしていた。

それでよかったのだ。だって、エレシュキガルはそのために生まれたのだ。

なら、どうして疑問にも、悲しいとも、寂しいとも思えるだろうか。

けれど、確かに、心細さだけは降り積もっていたのだ。

それを、人とは言えど、それでも讃えられることへの激情など、一言で言い表せることなどないはずだ。

己のやっていたことが間違っていなかったし、無駄ではなかったし、自分の存在が確かに少しでも報われた証でもあった。

何よりも、エレシュキガルはウィルの事をひどく気に入っていた。

彼は、エレシュキガルに従順でよく働き、彼女を気遣い、彼女を讃え、この世で何よりも美しいと心から言っていた。

 

そんな彼が心から自分の味方であるのだと分かった時の事も、よくよく覚えている。

死者でも生者でもない彼は、上の世界でもある現世に赴くことも出来た。

勝手にいなくなった時はエレシュキガルも怒り狂い、自分を裏切ったのかと苦しんだが、彼はあっさりと帰って来た。

何故か、ビールの入った器と二枚の折り重なった粘土板を持って来た。

帰ってきたことに内心では安堵しつつ、どうして現世に言ったのかと問えば、ウィルはあっさりと言い放った。

 

「すんません、エレシュキガル様が疲れているようでしたし。せっかくなので何か旨いものをと思い、ビールでも気晴らしに。あと、これも。」

 

そう言ってウィルは、冷えたビールと、二枚重なった粘土板を差し出した。

粘土板には、何故か花が挟まっており、ぺったんこに潰れていた。

けれど、まるで生きていた時の状態を写し取ったかのように色鮮やかで形もはっきりと残っていた。

初めて見たと言って良い、数本の花々に、ウィルは心の底からほっとしたように言った。

 

「よかった!冥界に持ってくると絶対枯れるけど、これならいける思ったんすよ。」

 

ニコニコと笑い、彼はその粘土板をエレシュキガルに向けて微笑んだ。

 

「どうぞ、これはもう生きてはないんです、エレシュキガル様の花ですよ。」

 

美しいあなたには、きっと生きている花こそが相応しいのでしょうが。

そう言って、己に花束ではないけれど、この世でエレシュキガルにとって一等に美しい花をウィルは差し出した。

 

「・・・・・いつか、咲き誇る花を、あなたに贈れたらいいなあ。」

 

夢のようなことを言うものだと思った。

だって、それは、叶うことのない夢だ。遠くにあるからこそ、届かないからこそその夢は美しかった。

けれど、エレシュキガルは、何も知らない幼子のようにそんな夢を口にするウィルの事がただ、ただ、愛おしかった。

 

「今日は俺は槍棺とか魂たちの見回りに行きますけど。その後は、追加で槍棺の製作をします。エレシュキガル様は?」

「・・・・・私は自分の神殿の製作をして、その後は書物で調べものよ。」

「根を詰めるのは良いですけど、無理しないでくださいね。ああ、あと、現世に行きますけど何か欲しいものはありますか?」

「別に無いけど。美味しいビールが飲みたいわ。でも、あなた、そういうの買うためのお金はどうやってるの?私、あなたにお小遣いなんて上げたかしら?」

「ああ、実は、農家なんかの手伝いとか、石に彫り物したりして小遣いを稼いでるんです。けっこう評判良いですよ?」

「・・・・本当におまえは器用ねえ。まあ、いいわ。下僕からの貢物を気持ちよく受け取ってあげるのも女神の役目ね。あと、欲しいものは、あなたが私に相応しいと思えるものを贈りなさい。」

「む、難しいっすね。でも、まあ、頑張ります・・・・」

「ふふふふ、楽しみにしているわ。」

 

それに困ったように笑いながら、ウィルはエレシュキガルの居室から出ていく。おそらく、冥界の見回りに行ったのだろう。

何故か、ウィルの靴にはどこぞの神の加護がかかっているらしく、悪路の極まる冥界であろうとまるで舗装された道のようにすいすいと進んでしまう。それに、エレシュキガルの加護も加わってまるで獣のような速度で冥界を走り回ることが出来る。異常があってもすぐに伝令が来るため、彼ほど見回りにぴったりな存在はないだろう。

 

今日も、彼はあの暖かなカンテラを片手に、春風のように微かな温もりを死者に届けているのだろう。

ウィルは、エレシュキガルの髪を、太陽の様だと嬉しそうに言う。外の世界を、ウィルは、持って帰る美しい石や花々でたとえ話をよくする。

空の色はこれより少し薄いんだとか、木々の緑はもっと濃いのだとか。

ウィルはこっそりと持ち帰る地上の欠片を片手に、エレシュキガルに土産話を語る。それに、エレシュキガルは、ゆっくりと地上の夢を見るのだ。

ウィルの話を聞きながら、ゆっくりと一日を終えるのが好きだった。その柔らかな癖っ毛を撫でるのが好きだった。彼の持って帰るビールを片手に休憩するのが好きだった。

地上で生きることも出来るのに、地下の底でエレキシュガルの国で眠ることを願う、彼女だけの従僕。

 

(ずっーと、このまま続けばいいのに。)

 

ずっと、ずっと、その迷い子が己の手の中でくるくる踊って、囀り続ければいいのに。

 

(・・・・可愛い、哀れな、私の下僕。どこにもいけない、私の物。死の国の神である私さえ、未だにお前を死なせてあげる方法が分からないままだわ。だから、わざとではないの。)

 

ウィルが未だに魂だけで眠ることも、永遠の安らぎも与えらる方法は今の所ない。けれど、エレシュキガルはそれをウィルには教えない。

言ってしまえば、彼はエレシュキガルの国を去るだろう。

だから、エレシュキガルはそれを告げない。けれど、別にエレキシュガルはウィルを騙してもいない。

事実、エレシュキガルはウィルのために調べものを続けている。だから、エレシュキガルがその方法を模索し続けてさえいれば、ウィルとの契約を破ったことにはならないのだ。

例え、そんな方法が存在しなくても。

エレシュキガルは、ウィルが持ち帰るお土産である、美しい加工はされていないが、美しい宝石をそのたおやかな指先で突いた。

 

(・・・・・可愛い、哀れな、私の下僕。大丈夫、例え、永遠の安寧が存在せずとも、ずっと、ずっと、私がお前を可愛がってあげる。)

 

そんなエレシュキガルの微笑みは、まさしく跪いてしまうほど美しく、そのくせ怖気が付くほど冷え冷えとした笑みだった。

 

 

エレシュキガルは、その日ほど、後悔をしたことがなかった。

傲慢なイシュタルを捕え、意気揚々としていたエレキシュガルは、いつも通りウィルに冥界の見回りを命じた。

けれど、その時、イシュタルを助けるためにエンキが遣わされ、彼女に生命の水が振りかけられそうになった。

もちろん、エレシュキガルの忠実な下僕であるウィルはそんな不審者を止めに入ろうとして、うっかり生命の水を浴びせかけられてしまったのだ。

ここで、ひどい矛盾が発生してしまったのだ。

死んでもいないが生きてもいない。けれど、死を経験しているがゆえに冥界にいることを許可された彼が生命の水を浴びてしまった。

その矛盾に、ウィルという存在はどんな齟齬を見出してしまったのか、なんと消えてしまったのだ。

 

エレシュキガルは、己の神殿にウィルのための居室を作り、それを慰めとして部屋に通った。

彼女の下僕がいなくなったことで、また、増えた仕事に彼女は日々を追われる。

それでも、彼女は、毎日のようにウィルを思った。

 

(いつか、いつか、お前のことを見つけてあげるのだわ。そうしたら、もっと、こき使ってやるんだから・・・・・)

 

ウィルの持っていたカンテラの残り火だけが変わらずに赤々と燃えていて、エレシュキガルの微かな慰めになっていた。

 

 

 

 

所変わって、何かの拍子に吹っ飛ばされたウィルは、何故か吹雪の中を進んでいた。

といっても、生者ではなく、それに加えて彼の持っているカンテラの温かさは、彼を吹雪から守ってくれた。

 

「あああああああああ!えーれーしゅきーがーるさーま!!」

 

叫んだとしても、誰かの返事など返ってこず。

仕方なく、なんとなく進んでいくと、明かりが一つ見えた。

それを天の助けと、ウィルは避難のために吹雪の中を進んだ。




ジャック・オー・ランタン
生者であった時の事はすっかり忘れており、ジャック・オー・ランタンの元ネタのウィルという名を名乗る。
どこにでもいる青年だったが、前世のつけをしっかり払わされてしまった。
エレシュキガルの元に来るまでに、色んな時代の、国の、あの世というものを巡ったが、時期が悪かったりなどして受け入れられず、彷徨っていた。
死んでも生きてもいないため、行こうと思えば土地はおろか時間を超えることも可能。ただ、寄る辺のない生活を四桁越えで経験し、精神面は立派に人外並。そのため、自分を置いてくれるエレシュキガルには深い感謝やら思慕やらを抱いていた。彼女の為なら、文字通り何でもする。
死ねないのなら、彼女の下で、永遠に死者の墓守をしてもいいと思っている。
うっかり飛ばされてしまったため、早々と帰りたいが何故か時空は不安定で上手く移動できないため、どうしようかと悩んでいる。ともかく、吹雪の中に見つけた大きめの建物に避難しようとしている。
ちなみに、彼の持っている衣服だとかカンテラは、教会関連に見せた場合発狂されるほどヤバいものであったりする。


エレキシュガル
孤独であった女神。
一人で誰にも肯定も、褒められもせずメンタルズタボロの折にやってきて、全肯定してきたウィルをいたく気に入る。
従僕だとか下僕だとか言っているが、弟のような、友人のような、所有物のような、複雑な感情を抱いている。
ただ、ウィルは己のものであるという確固たる思いを持っており、奪おうとすると女神ムーヴを出して全力で潰しに来る。

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