メジロマックイーンだと思ってスカウトしたら、おばアサマの方でした。 作:風神・雷神
シングレアニメ来年の4月から放送決まって嬉しい。
――土砂降りの雨が勢いよく雨戸に叩きつけられ、不規則な雷光が古い木造アパートを照らす。
ついさっきまで部屋を照らしていた裸電球は、この雷雨のせいだろうか光る事を止めてしまっている。
そのため今は、机の上に置いてあるろうそくの火が、土壁に二人の男女の影をうっすらと作っている。
その二つの影は、所々で重なり繋がっている。
「私は、トレーナーさんなら……いいですよ」
そう言うと、彼女が優しく背中に手を回す。
風呂から出たばかりで、広がった髪は濡れて淡く輝き、体の熱が冷めきっていないのか、彼女の頬がほんのり赤く染まっている。
潤んだ瞳でこちらをジッと見つめる彼女を、いけないと分かっているのに、このまま彼女を欲望に任せてしまいたい欲求に駆られてしまう。
頭では分かっているはずなのに、その言葉に応えるよう、ゆっくりと体が彼女の元へ落ちてゆく。
そして、照らされた二つの影は、境界線が曖昧となり、やがて一つの大きな影へ……。
「ねえ!昨日のどぼ先生のやつ見た。ヤバくない!?」
「うん。見た見た!この後一体どうなっちゃうんだろうね」
朝、トレセン学園のある教室では、少し興奮気味にモブウマ娘達がそんな会話に花を咲かせていた。
「もう、このままいくとこまでいっちゃうんじゃない!大雨の中、閉じ込められた若い男女、薄暗い部屋、本人も乗り気って、もうこんなの決まりでしょ!」
「だね。もうこれ確定でしょ、こんなの。逆に、どうやって回避するっての」
「でも、私的にはもうちょっと二人の絶妙な距離感のイチャイチャが見たかったかも」
「次は、一コマ目絶対朝チュンだって、もう決まり」
「だよねぇ……てかさ、話変わるんだけどさぁ……」
「なに急に?どうしたの?」
「あれ見てよ」
急に話題を変えたモブウマ娘の視線を追ってみると、そこにはこのクラスの有名人と言ってもいいほどの人物が座っていた。
「アレって……ドーベルさん?」
「うん。ドーベルさん、どうしたんだろ。教室来てからずっと机に突っ伏してるんだけど、大丈夫かな。体調悪いのかな?」
「うーん、どうだろう。体調悪かったら保健室行くと思うし、多分だけど別の理由じゃない?」
「別の理由って?」
不思議に思って聞くと、耳に手を当て耳打ちする。
「多分アレだよアレ。ドーベルさん、メジロ家の人でしょ。だから、敗北は許されない的な感じでキツイ特訓してるんだと思う」
モブウマ娘は、メジロ家という名家の生まれであるゆえに、ドーベルは日々辛い練習をしているのだと言う。
「……そっか。ドーベルさん大変だね」
「そうだね。相当疲れてるだろうし、今はそっとしてあげよう」
二人は、ドーベルに尊敬の念を抱きながら、彼女の安全を祈る。
そんな二人のウマ娘から、尊敬の眼差しで見られている中、メジロドーベルは悩みに悩んでいた。
「どうしよう……」
「いくら考えても、次の話……絶対にエッチな展開になっちゃう……」
授業が終わり、練習も休みのため真っ直ぐ靴箱へ向かう中、メジロドーベルは悩みに悩んでいた。
自身が作成している漫画の展開に。
(や、やっぱりこのまま、一線超えちゃう感じに……。でも、本当にそれでいいの?私的には、もう少しこのままくっつきそうでくっつかない距離感でいきたかったけど、この先の展開はアレには書いて無かったし……。作品を読んでくれてる人達の意見では、もっとイチャイチャを見たいって層が多いけど、いいからとにかく抱けって言ってる過激派の人達もちらほらいる……。私自身、楽しみに待ってる人達の為に、納得のいく作品に仕上げたいんだけど、逆にあそこまでやって何もなかったでした、でいいのかな……。一線を越えるにしても、そもそも私、そんなエッチなシーンなんて書けない訳だし、もうどうすればいいの!?)
「はぁ……」
自然とドーベルの口から大きなため息が溢れた。
「ホントにどうしよう……」
自分の靴を取ろうと靴箱の扉を開くと、小さなメモ用紙のような紙がひらりと床へ落ちた。
見慣れないメモ用紙を不思議に思いながら拾い、何か書かれている事に気付くと、軽い気持ちで読んでしまった事を直ぐに後悔した。
「何これ……ッ!?」
『三階にある空き教室に一人で来い。来なかったり、このことを誰かに話せば後悔することになる。どぼめじろう先生。』
ドーベルは、背筋が凍るような感覚に支配され、唖然としてしまう。
書かれていた内容は、明らかにドーベルへ対しての脅しであった。
何とか自分を落ち着かせると、書かれていた紙を握り潰し、指定された空き教室まで急ぐのであった。
ドーベルが指定された場所へ行くと、教室の中に一人の男が立っていた。
その男は、扉を開けた音に反応したのか、視線はドーベルへ向く。
「よく来てくれた。メジロドーベル……いや、愛称を込めてどぼ先生と呼んだ方がいいかな?」
聞きなじみのない声だが、ドーベルは立っている男の顔は知っていた。
それも、つい最近同じメジロ家であるメジロマックイーンと話した時に、チームスピカに新しく入った人達がいると言って集合写真を見せてもらった。
ドーベルは、マックイーンとの会話を思い出し、印象強く頭の中に残っていたおかげで、直ぐに誰なのか理解したのである。
「……あなたは確か、最近新しく入ったマックイーンのチームのサブトレーナーさんね」
ドーベルは、脅迫紛いの書置きを用意してであろう男を目の前にして、自身の内から怒りが湧き上がり睨みつけ、眼前にいる男に警戒心をむき出しにして、くしゃくしゃのメモ用紙を突き出す。
「これは、あなたが書いたモノ?」
「そうだ。君をここに呼び出すために、俺が用意した。正直、来てくれるか心配だったんだが、来てくれてよかった」
謝罪や悪びれる様子もなく、淡々と自分の仕業だと話す。
そんな、態度にドーベルは胸の内で、勢いよく何かがぐつぐつと煮えたぎる感覚を感じ、それが言葉として溢れ出した。
「こ、こんな脅す気満々の書置きを靴箱に入れられて、無視して帰れるわけないでしょ!」
冷静を装っているが、怒りからか口調が強くなってしまう。
「ここに書いてあることは、一体どういう意味なの!」
「別に、俺が言わなくても頭のいいキミになら分かるだろ。どぼめじろう先生」
『どぼめじろう』手紙にも書いてあったその言葉を聞いたドーベルは、心臓の鼓動が跳ね上がり、一瞬ウマ耳と尻尾が本人には無自覚で真っ直ぐ上へ向いてしまった。
そして、ドーベルは思考を巡らせる。
どうしてこの男が、私の同人誌のペンぺームを知っているのか。
そもそも、いつバレてしまったのか。
特定されるようなヘマはしていないし、即売会の時の変装だって完璧だった。
あの時は、私の事をメジロドーベルなんて誰も分かっていなかったはず。
(ど、どうして私が、どぼめじろうって知って……。それより、行かなかったりすれば後悔することになるって……まさか、私が、どぼめじろうだって世間にバラすんじゃ!?だめ!!そんなの、絶対にダメ!!)
そう考えたドーベルは、自身をどぼめじろうと認めない方法で、この場を切り抜けようとする。
「……フン!ど、どぼめじろう。一体何のことだが私には分かりません!言いがかりは、やめて下さい!」
「認めないか。あまりこういう手は使いたくはないんだけどな。悪く思わないでくれよ」
そう言った男は、ポケットからスマホを取りだし、ある画像をドーベルへ見せる。
画像には、SNSの投稿だろうか『メジロドーベルさんに似たウマ娘さんがいた!』といった書き込みと一緒に、スーツケースを引きにこやかに歩いているドーベル自身が映っていた。
「そ、それって私……」
「即売会での変装はいいが、ちゃんと行きと帰りも気を付けないと、誰かに撮られてしまうかもしれないからな」
「……だったら何!わ、私がどぼめじろうだったら何かダメなの!」
「別に、ダメなんて言わないさ、ただ……」
「君の知っている人物が、作品を読んで君の事をどう思うんだろうか。例えば、他のメジロ家の人達とかな」
「そ、それは……」
ドーベルは、内心とても焦っていた。
マックイーンやライアンといった、他のメジロ家のウマ娘達にバレてしまうのは避けたい。
だが、それ以上にドーベルはある事を恐れた。
アレの内容を勝手に題材にしてしまったことがおばあ様の耳に入れば、お叱りを受けるかもしれない。
表情が歪むドーベルを見て、一気に畳み掛ける。
「メジロ家のウマ娘達もそうだが、家族……特に君のご弟妹はどう思うんだろうな」
ドーベルの顔が青ざめる。
「家族は、あの子達は関係ないでしょ!!」
「そうか?もし、恋愛作品を書いていると世間に知られれば、家族やメジロ家の人達、その他の近しい人達はキミの事をどう思うのだろうか」
男は、ゆっくりとドーベルの方へ歩いて行く。
ゆっくりとドーベルへ迫る。
荒い呼吸でドーベルが必死に次の言葉を考えている間に、気づけばすぐ目の前にまで男は近づいていた。
「現に、君は素性を隠して作品を書いている。それ自体、君も後ろめたいと思っていたのだろ。バレてしまったら、マズいと」
男は、俯いて静かになったドーベルの背後に回り、彼女の両肩に手を置く。
「だが、安心してくれ。俺は、君の敵じゃない。脅して何かさせようなんて考えてない。聞きたいことを正直に教えてくれさえすれば、君の秘密は永遠に俺の胸の内へ閉まっておこう」
耳元で囁かれた、都合がよすぎる提案。
だが、ドーベルには男の声は全く頭の中には入っておらず、その代わりに静かに自身の心の内で覚悟を決めた。
「……分かったわ。何でも言うこと聞くから。お願いだから、そのことは黙ってて……。弟や妹達に、知られてしまったら私は……。だから、お願い……します」
つい数分前まで敵意むき出しだった彼女は、尻尾や耳はペタリと垂れ、今は細々と弱弱しく感じられるほど変わって見る影も無くなっていた。
だが、トレーナーはこの事態に非常に満足していた。
(よし。これで、作品のネタを聞き出せそうだ。少し、強引過ぎたかもしれないが、話を聞いて問題なさそうなら、これを最後に今後一切こちらから関わらなければいい。彼女は、また平穏を取り戻してめでたしと、勝ったな)
「そうか。話が早くて助かる。では、早速聞きたいんだが君が書いてる作品は、誰かから聞いたりして……!?」
男は、突然のドーベルの行動に驚きの余り、宇宙猫状態へとなってしまう。
なんと突然、ドーベルはシャツのボタンを外し、脱ぎ始めたのである。
そう、脱ぎ始めたのだ。
「お前、何して……」
「何って……ど、どうせ、こんな人気のない教室に呼び出したのも、弱みに付け込んで私に、エ、エッチなことする気なんでしょ!この前行った即売会の成人向け同人誌の様に!さ、最初からコレが目的だったんでしょ!この……変態!!」
ドーベルは、思いっきり勘違いをしていた。
「ち、違う。俺は、ただ話を聞きたいだけで……」
ドーベルを止める為に一歩踏み出すと、自身で体を抱き涙を浮かべてドーベルも一歩下がる。
「い、いや!ち、近づかないで!……このケダモノ!!」
「何勘違いしてるんだ!やめろ!大声出すな。外で見張ってるアイツに見られでもしたら……」
「……見られたら何です?」
「だから、見られたら説教じゃすまない……あ」
後ろから、聞き覚えしかない毎日のように耳にしている声が聞こえゆっくり振り返る。
そこには、耳を後ろに伏せ、しっぽを大きく振り、笑うためではない笑顔で男を見る、明らかにお怒りの担当ウマ娘の姿があった。
「……言い訳があるのなら、後で一応聞いてあげます」
「歯を食いしばりなさい」
この一言で、今から自分に起こることが容易に想像でき、こうなっては何を行っても無駄だと悟り、潔く彼女の言いなりとなる。
「……分かった。ただ、やる前に一言だけ言わせてくれ」
「いいでしょう。言ってみなさい」
「……これ、俺悪いか?」
その日、学園中に謎の乾いた破裂音と悲鳴が響き渡ったという。