早坂の色んな顔はどれもお可愛い。
俺は今猛烈に混乱している。この現状を上手く説明できる自信はないが、そうだな……分かりやすくするならば。
〜日本一の名門私立に落ちこぼれの俺が入学したら超美少女令嬢に目を付けられて友達になる事に〜
だろうか……。いや、何を言っているのか分からないと思うが俺も分からない。
あの後クラスに戻ったら女子達に囲まれて四宮と何を話していたのかを根掘り葉掘り聞こうとされてしまった。こんな状況でなければ女子に囲まれて休み時間を過ごすとかなんて羨まけしからん展開だとそう呑気に考えでもしたのだろうが……。
正直、本当にどうするべきなんだろうか。と、言うのもだ。俺のこの学園での友達第一号となった彼女、四宮かぐやはこの国有数の財閥令嬢だ。
金持ちどもが集まるこの学園でもその家柄はトップクラス。それに新入生代表と言うことは学年首席。そしてあの容姿。長い緑の黒髪にルビーのように紅く大きな瞳。小さくて柔らかそうな唇。
それから、ワンピース風な制服の、長い丈のスカートから少しだけ見える細く白い脚。俺的にはもう少し胸があった方が良いが……しかしそれを差し引いても正直、いままでの人生で見てきた中で一番「綺麗」という言葉が似合う女子だ。
伝え聞く四宮かぐや像は、儚くも冷たい深窓の令嬢だとか、氷の黒バラだとか、現代に舞い降りた天女様だとか、名前そのままにかぐや姫だとか。
どれも似たようなイメージを持つ言葉で、おそらく名前がかぐやだからってのもあるのだろうが、共通して姫、というイメージを持たれていることは確かだ。
対して俺はどうだろうか。
この学園に特待生で入学したんだ。学力にはまあそこそこの自信はある。しかしこの学園の本物の天才共は俺の努力を嘲笑うかのように上を行く。
運動神経、筋肉はそれなりにあるつもりだ。
だがスポーツはどれも苦手だし喧嘩なんてしたこともない。カナヅチだし球技はほとんどが苦手だ。痛いのは嫌いだし汗臭いのも好きじゃない。
今はまだ体育の授業が始まっていないから何とかなっているが……頼む、テニスか卓球であってくれ。その二つなら昔克服したんだ。乗り越えられる。
見た目、容姿はどうだろうか。
まあこのクラスでも2、3番目くらいの自信はあるが……しかし相手はこの学園どころか日本でも何番の女子だ。比較対象にすらならん。
そして最後に家柄……。
言うまでもなく、一番の問題はこれだ。うちは父子家庭だし父親は職業不定だ。そもそも一般的な家庭の水準ですらない。はっきり言って、貧困家庭、というやつだ。なんども生まれを呪ったさ。うちが裕福な家庭だったら……って。でも、四宮に言われて気づいたんだ。俺はただ不貞腐れてたんだ。自分が世界で一番不幸だって悲劇に酔って、色んなことを諦める言い訳にしてた。だから俺個人としてはこの件について吹っ切れた。
でも世間はそうじゃない。周りが俺のことをそういう目で見てくる可能性があること自体が問題なのだ。
まあ長々と考えてはみたものの。結局のところ、俺が悩んでいるのは格差についてだ。
これは社会の貧富がどうとか、そう言った話ではなくて、いやある意味そうか?どちらかと言うと物語に出てくるような身分の格差のそれだ。
高貴な令嬢である四宮かぐやと、白銀御行という平民以下の男。
これが身分違いの恋物語ならば話は単純だった。奪って逃げればいい。ほかにも色々と話の流れとしては有るだろうが、これがわかりやすく、よく見る形だ。
しかし、俺と四宮の関係はそうではない。ただの高校での友人。え、じゃあ良いじゃん。とはならない。
この学園には……あからさまな差別、いや。彼ら的には区別なんだろうが。それがある。
初等部からの上流階級が純院。高等部からの外部入学生が混院。この混院生はどうも一般的に彼らにとって関わり合いになりたくない存在らしい。
一部の例外、生徒会長と四宮かぐや、と言う存在こそあれど。この二人はスクールカーストの頂点にいるからこそ、こんな俺みたいな底辺との関わりも気にしないでいられるだけだ。他の一般的な純院からしてみれば、俺のようなそこそこ出来る混院は自らの存在を脅かす外敵……らしい。
例えばほら……こんな風に。
「おい、お前、白銀だったか?混院のお前ごときが四宮のご令嬢と関わるなんて冗談よしてくれよ。秀知院の品位が疑われるだろ?」
こうやって呼び出されて何かしらを言われるだろうってのは予想していたさ。
相手は恐らく同学年。別のクラスの奴だろう。どうやらさっきの休み時間の件もあっという間に噂となって広まったらしい。
言われる内容もほぼほぼ予想通りだ。身分違いの友人関係。人を寄せ付けない氷のかぐや姫に異性の友人が出来た。それを知った男共はこう思うのだろう。
「何故それが自分でないのだ。本来なら自分が四宮のコネを手入れる筈だったのに」と。
……まあ、そんなところか。
しかしどうするべきだろうか。直ぐにでも生徒会室に向かわなければならないと言うのに。相手は自分一人ではなく取り巻きなのか二人を伴っている。その二人が俺の退路を塞ぐように立っているからには無視して行くこともできない。力ずくで何とかするという案もあるが……たぶん何も出来ずにボコられて終わりだ。俺が。
「俺が四宮と友達である事に何か不都合でもあるのか?見たところ、お前たちは四宮に相手にもされてなかったようだな?だが、ここで俺をどうにかしたとしても、彼女がお前たちに振り向いてくれるとは思えないけどな」
……要するに俺を〆ても意味がないから殴らないでくださいと言う意味なのだが、そのまま言うわけにもいかないからな。遠回しに言ってみたのだが彼らには挑発としか受け取れなかったようだ。
「てめぇ、四宮の威を借る混院のくせに。四宮をバックにつけて調子乗ってるようだがな、アイツらは人間らしい心なんて持ってねぇんだよ。テメェをちょっと教育してやったくらいでアイツらは動かないぞ。分かるか?貴様……こっちには三人いるんだ。抵抗して勝てるとか思い上がるなよ」
まずい、かなりまずい。彼の言う通り三人に勝てるわけがないだろ。何で俺はちょっとカッコつけて挑発に聞こえるように言っちまったんだよ。あーもうどうするんだよこれ、完全に怒ってるよ。やっぱ殴られたりすんのかな。痛いの嫌なんだけど……清掃活動に間に合う程度で済ませてくれるといいのだが。
だけど……コイツらにボコられて何も言えなくなる前に言わなければならないことがある。多分これを言えば余計に怒らせるんだろうが……。それでも聞かなかった事には出来ない。
「あぁ、お前たちの気がすむまでやれば良いさ。だけどな……。四宮への侮辱は訂正してもらおうか。彼女はれっきとした一個人であり……感情があり、欲求もある。喜んだり、悲しんだりもする。だから、訂正しろ。そうすれば俺は抵抗しないでいてやる」
別に本気で彼らが考え直し訂正してくれるとは思っていない。だけど、筋と言うやつだ。彼女の友人として、俺は彼女への侮辱は見逃せない。自分の信条を曲げるくらいなら少しの間痛い思いをするのも……本当は嫌だけど仕方ない。思うことといえばせめて顔はやめて欲しい、くらいだ。
そう思って目を瞑り衝撃に身構えていたのだが……いつまで経ってもそれはやってこない。
さっきから寒気がするほどの程の怒気を感じているのだから、直ぐにでも襲いかかってくるものだと思っていたのに。
……痛いくらいの静寂が満ちたこの場に、ぱしゅっという音が小さく三つ。ほぼ同時に聞こえたかと思うと、どさどさと人が倒れる音。
驚いた俺が目を開けると……
「Zzz……」
「Zzz……」
「Zzz……」
……三人組が倒れていた。
な、何が起こったんだ。超スピードとかそんなちゃちなもんじゃない。もっと恐ろしい何かがここを通り過ぎたかのような光景に思わず唖然とする。
俺はとにかく助かったことに安堵してへろへろと座り込み、暫く休むことにした。
──
「あっれぇ〜きみぃこんな所に座り込んでどぉしたしぃ?ってかうわっ、なんか人倒れてるぅ。えぇ、これもしかしてきみがやったのぉ?すごぉ〜」
1分くらいだろうか。それくらい休んでいたところ、軽い口調の女子の声がした。
顔を上げてその子の事を視界にいれながら、立ち上がり、そして汚れを払う。なんだか昨日、四宮と会った時もこんな感じだったなと苦笑しながら答える。
「いや、俺は彼らと話していたんだが……急に倒れてしまってな。一体どうしたものかと途方に暮れていただけだ」
「えぇ〜?きみってぇ、この人たちとともだちなのぉ?」
その女の子は金髪……あれは染めているのか?をシュシュで片っぽに結び、制服も相当に着崩して腰にカーディガンを巻いている。
おいおいガチなギャルじゃん……今時逆に珍しいぞ、ここまでこてこてなのは。
しかし、なんというか……可愛い人だな。四宮とはまた違ったベクトルでの美少女だ。
妹以外の女子との会話に慣れていない俺にはだいぶレベルが高すぎてドギマギしてしまう……。
「ねぇ〜ウチ生徒会室探してるんだけどぉどこかしらなぁい?案内してほしぃなぁ」
ああ、なるほど、彼女も同級生か。そういえば入学式の時に金髪の子がいるって思ったっけ。あれはこの子だったのか。
「ああ、それなら俺が知っているから案内するよ。あっ、でもこの人達……どうしよう」
「別にそのうち起きるんじゃないの〜?ねぇウチ今日清掃のボランティア参加するから早く行きたいなぁ」
「そ、そうか……じゃあ……」
このギャルも急いでいるみたいだし……彼らも見たところ外傷はなく息もしている。というか何でか知らないけどぐっすり寝てしまっているみたいだし……放置していても問題ないだろうか……。
有難う、名前も知らない男子達。
君達のおかげで俺はこの金髪美少女ギャルと知り合いになれるチャンスが出来た。その点に関しては感謝しようじゃないか。しかし……。
「いや、だが……やはりこのまま置いていってしまうのはどうかと思うんだ。生徒会へ案内するのは彼らを保健室まで運んで行った後でもいいだろうか」
「……へぇ。助けるんだ」
金髪ギャルは意外そうに小さく呟く。ここが静かな場所だからかろうじて聞き取れた。それくらいに小さく、掠れたような声だった。
「いや、当たり前だろ。今は春だから風邪をひくことはないだろうが……なんというか、目覚めが悪い」
「……うん!じゃあウチも手伝うよ!こ〜見えてバイトで結構鍛えてるんだよねっ。ほら、保健室ならここから直ぐだしちゃっちゃと運ぼっ」
こうして俺は金髪ギャル……早坂愛というらしい。と手分けして彼らを保健室へと運んでいた。まあ、二人で三人を運ぶとなると一人だけを運ぶために往復する羽目になるんだが。
「へぇ〜!特待生なんだ、頭いいんだねっ。あ、ねぇ白銀くん!どうしてうちの学園を選んだの?うちってほら、歴史はあるけどその分しがらみとかも多いし、けっこうめんどくない?」
「あぁ……それな。俺は別にどこでもよかったんだが、親父が勝手にここの願書を出しててな。試しにと受けてみたらぎりぎりで受かっちゃったんだよ。まあそれで……特待生になると学費はタダだし、他のとこと比べてもその他の援助もかなり手厚かったからさ。こんな面倒なとこだって知っていたら受けてなかったかも」
「……この学園での生活は楽しくない?」
早坂さんは少し悲しそうな顔で尋ねる。その言葉を聞いて俺はここに入学してからの数日を振り返る。
「そうだなぁ。嫌だなって思うことはたくさんあったよ。今からでも転校とか出来ないかって思うくらいには。……でも、今は違うかな」
「それは……四宮さんがいるから?」
「やっぱそれ滅茶苦茶噂広がってるのな……。まあそうだよ。ちょっと変わった人だけどさ、何となく、いいやつなんだなってのは分かるんだ」
もし俺がこの学園に入らなければ、四宮かぐやとは一生出会うことなく、自分の生まれを僻んだままだっただろう。だから、俺は彼女と友達になれただけでこの学園に入ったことを間違いだったとは思えなくなっていた。
「白銀くんは四宮さんのこと、好きなの?あ!別に皆んなに言いふらしたりしないからさ!四宮さんのこと、どう思ってるのかきかせて欲しいなぁって!」
なんで女子ってのはこう、すぐ色恋話に繋げたがるんだろうか。まだ出会って二日なのに惚れた腫れたとかそんなやついないだろ。※いた。
それにそもそも……。
「いや、そんな……。ただ話すだけでも気後れするってのに恋愛だなんて……俺は彼女にふさわしくないからさ……」
「それは〜そう言う人もいるかもしれないけどぉ。でもでも、恋に勝るものはないと思うよ?身分も年齢も、性別だって関係ない。好きって気持ちの前では一切合切がどうでも良くなる……ってあはは。ちょっと恥ずかしいな」
「早坂さんて意外とロマンチストなんだな……。だが……確かにそうだな。その考えは俺にもわからんことはない」
もし、早坂さんのいう通りに、俺が四宮かぐやという人間に恋をしていたとしたら……。俺はどうするんだろうか。想像もつかない。しかし、一つだけ、はっきりとしてることがある。
もし俺が、誰かに惚れたとしたら……きっと、どんな手段を使ったとしても、その人を手に入れるべく行動するのだろう。ということだ。まあもっとも、これは思考実験、自己分析の類の話であって。
俺が四宮に惚れるなんてのは天地がひっくり返るだとか、そんなレベルで有り得ない仮定の話だ。
かぐや「早坂、やりなさい」
早坂「はい」
書いていたらいつの間にか長くなったので分割します。
でも気がつくと台詞だらけになりそうな癖は抜けません。
地の文って難しいゾイ。