かぐや様は運命を信じたい   作:ティッシュの切れ端

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この世界線でも会長は会長になる運命なのです。


白銀御行は変わりたい

 

 

 白銀御行は決意した。四宮かぐやと対等になるために何か行動を起こそう、と。そこで彼はとりあえず、生徒会に加入する事を決めた。

 このまま何もせずに日々を過ごしているだけでは、何も変わらない。

 主体的な行動を起こすことが重要なのだと、そう思い生徒会室にやってきていた。

 

「では白銀くん。君は生徒会に加入してくれるってことで良いのかな?それならば君に紹介したい人が居るんだ。もうそろそろ来るんじゃないかな」

 

 そう言って生徒会長は扉へと目線をやる。すると、丁度タイミングよく誰かが入ってきた。

 

「ちわーっす。あれ、会長そいつ誰?あ、もしかして庶務やってくれる奴見つけたのか?」

 

 その人物は室内だと言うのに帽子を被っており、長いストレートの髪はしかし薄い色素もあって清楚さと言うよりかは不良感を白銀に覚えさせる。白銀は、彼女の生徒会長へ対する馴れ馴れしい態度から、彼女が生徒会の役員の一人であると察する。

 

「紹介するよ白銀くん、彼女は龍珠(りゅうじゅ)桃。この生徒会の会計になってくれた君と同じ一年生だ。そして……」

 

「ちっ……」

 

 生徒会長は彼女……龍珠桃の事を紹介し、途中で挟まれた舌打ちに目を細める。

 

「まあ、そこはいずれ君が自ら知るべき事だったね。気にしないでくれたまえ。嗚呼。それと龍珠会計、彼は白銀御行くん。今年特待生で入学した我等が秀知院生徒会期待の新メンバーさ。彼には君の想像通り、庶務をやってもらう」

 

「ど、どうも。白銀です……えっと、龍珠さん」

 

「はぁー……。オイオイ会長。こんななよなよした奴の何処が期待の新人だよ。全然仕事出来そうにないんだが」

 

 龍珠はため息を吐き露骨に失望してますよ、という態度を見せる。あからさま過ぎて白銀の事を舐めているとしか思えない。

 

「アハハ、彼の美点は表面的な部分では中々測れるモノじゃないんだよ。ま、そこは仕事をしていけばそのうち理解できるさ」

 

 そう言うと生徒会長は書類の束を白銀に渡してくる。どうやら加入当日からいきなり仕事らしい。

 

「やり方は……そうだね、龍珠会計。君が教えてくれないかな。僕はこれから校長とお話に行かなければならないんだ。では頼んだよ」

 

「はぁ!?なんでアタシがこいつに教えてやらなきゃならないんだよ……」

 

 生徒会長はヒラヒラと手を振り生徒会室から出て行ってしまった。

 後に残された白銀は龍珠桃と二人っきりの状態に気まずさを覚える。

 

「はぁー……ほら。さっさと仕事片付けちまおうぜ。アタシはこの後部活行きたいんだよ」

 

「あっ、すまん……そうだな。教えてくれ」

 

 龍珠から経費関連の書類について教えられながら仕事をこなして行く。白銀は苦手な事が多く、決して器用とは言えないタイプの人間だが、仕事が出来ないなんて事はなく。むしろその持ち前の頭脳のお陰で、飲み込みが早かった。

 

 

 

──

 

 

 

「お前結構やれるじゃんか。アタシもっとトロい奴なのかと思ったよ」

 

 龍珠はそう言うとソファーの背もたれに寄りかかり伸びをする。

 

「そんじゃアタシは部活に行くけど……お前はどうするんだ?」

 

「そうだなぁ……というか龍珠さんはなんの部活を……?」

 

「天文部だよ。分かるか?屋上で星を見たり月を眺めたりするんだ。今の時期だとそうだなぁ……」

 

 龍珠は自身が所属する天文部、及び天体や星座に関して説明しようとする。しかしその必要は無い。何故なら白銀御行が小学生の頃の夢は天文学者。現在でも好きな事を聞かれれば真っ先に上がるのは天体観測。根っこからの天体好きなのだから。

 

「春の大曲線もいいが俺的にはプレセペ星団が良いな。蟹座の散開星団なんだが知ってるか?この星団はあのガリレオ・ガリレイが望遠鏡を使って恒星の集まりであることを発見したんだが、ここに含まれる星の数はなんと二百を越えるんだ。また中国では積尸気とも呼ばれていて、死者の魂が集まる場所と考えられていたんだ。俺も子供の頃、望遠鏡が手に入らなくて、代わりの双眼鏡でもよく見えるこの星団を何度も眺めては、遠い銀河に想いを馳せたものだ……」

 

「お、おお……。いや、それはアタシも知っているが……なんならお前も来るか?屋上。予報では今夜は晴れで月明かりも少ないらしいからな。絶好の天体観測日和だ」

 

 白銀の熱い天文トークにやや引きながらも自身と共通の趣味を持つらしい彼を部活へ誘う。

 というのもこの天文部、龍珠が高等部に進学した時点では部員数ゼロ人の半ば廃部状態となっていたのだ。まあ、今でこそこの学園のVIPである彼女が入部した為活動出来ているが。

 

「いいのか?」

 

「まあ……偶には誰かと星を見るのも乙ってもんさ」

 

 

 

──

 

 

 

 その後、白銀と龍珠は屋上にて日が完全に暮れるのを待っていた。白銀は空をぼんやり眺め、そして龍珠は携帯ゲーム機で遊びながら。

 時折天体についての話をしつつも、それ以外殆ど会話らしい会話がなかった中で、龍珠が初めて他の話題を出す。

 

「そういやさ。なんでお前は生徒会に入ったんだ?アタシはまあ……会長に誘われてってのと、この生徒会のある旧校舎が校則の治外法権で色々出来るからってのだな」

 

「俺は……外部生で、入学以来周りから馬鹿にされててさ。それだけなら俺のプライドの問題だから良く……良くはないけど仕方ないなって思ってたんだ。でも……対等になりたい、追いつきたい奴が出来たから、何かを変えなくちゃって思って……後は龍珠さんと同じだよ。会長に誘われてたからだな」

 

 白銀は段々と黒くなり始める空を眺めたまま答える。うっすらと見え始めてきた星の輝きは白銀の心を童心へと戻し、彼の本音を引き出す。

 

「へぇ。まあ、良いんじゃねぇの?舐めてきやがる周りを見返したいって気持ちはアタシにも共感できる感情だよ。……なあ。アタシの苗字、龍珠ってのに聞き覚えはねーか?」

 

「いや……特には。何かあるのか?」

 

「成る程な。そりゃお前舐められるわけだよ。龍珠組って言ったら、この国でも最大のヤクザだろ。ニュースとかで聞いた事ねぇのか?お前、そんな感じでこの学園の奴らの実家がどんななのか分からないって顔してたんだろ?そりゃ世間知らず過ぎてこの学園じゃ舐められるってもんだ。……流石に四宮かぐやは分かるよな?お前、話しかけられてたそうじゃんか。アイツはこの学園でもトップクラスのビッグネームだ。もし不興を買ったりしたら、正直アタシの実家を敵に回すよりヤバいんじゃねぇの?」

 

「…………流石にそれくらいは分かってるよ。実家の凄さも、本人の凄さも……」

 

 白銀の脳内に四宮かぐやの姿が思い浮かぶ。この龍珠桃もそうだが、この学園の生徒は自分とは全く別世界の人々の様に思えてしまう。……話してみれば案外普通の人間なんだなって思う事もあるが……。だからこそじゃあ自分はどうなんだ、となる。

 

「俺はさ、まさにその四宮と並び立てる人間になりたいんだよ。でも、周りから色々言われるし……彼女とどうやって話せばいいのかも……分からない」

 

「お前、アレだな。自信がなさすぎる。んなの簡単じゃねぇか。俺はモテて当然、だから四宮かぐやも俺に惚れて当然。お前らとは出来が違う。ってな感じにデカい態度をしてりゃいい。怯えてビクビクしてるから舐められるんだよ。虚勢をはれ」

 

「……虚勢を張ったところで所詮は偽物だ。それは本当の自分じゃないし、嘘はいつかバレる」

 

 嘘と裏切りを嫌う。強く言い切ったかぐやの言葉に漠然とした憧れを抱いている事に気づかない白銀だが、それがかぐやの地雷である事は身に染みている。

 

「なんだよ女々しい奴だな。じゃあ嘘じゃなきゃいいんだろ?嘘が本当になる、そんな形でも良いんじゃねぇの?」

 

「いっそ清々しくなる程の屁理屈だな……。でもそうか。いつか本物になる為の努力。それは確かに俺の目指すべき所としては正しいのかもしれない」

 

 いつの間にか夜の帳は下り、闇で塗り潰された空のキャンパスで瞬く星々を見る二人。初対面であったはずの二人はいつの間にか距離感が縮まっている事を自覚する……それは物理的にも、心理的にも。

 

「なぁ、白銀」

 

「なんだ、龍珠」

 

 お互い何の確認もなく、しかし自然に呼び捨てに変わる。

 

「アタシはお前のそれ、手伝ってやってもいいと思う」

 

「そうか。ありがたいな」

 

 龍珠は屋上の手摺に寄りかかると、空を見上げたままに続ける。

 

「アタシの事をヤクザの娘としてしか見れない様な奴らと違って、お前には見る目がある。アタシも昔はそれで悩んでた時期も有ったよ。……けどこの学園にはそうじゃない人もいて、助けてくれた恩人に感謝していてさ。だから、お前の事を外部生としてしか見れない奴らを見返すっての、やろうぜ」

 

 こうして龍珠の協力を得て、白銀の周りを見返す為の挑戦が始まった。

 

 

 

──

 

 

 

「ほら、もっとシャキッとしやがれ。背筋は伸ばして、ハキハキ喋るんだよ」

 

「あ、ああ」

 

「その吃る癖もやめろ。自信がねぇのが見え見えだ」

 

「す、すまん……」

 

「謝るにしても下手に出過ぎんな。目上の奴が下々に慈悲を与えるかのようにやんねぇと舐められるぞ」

 

「いやそれは謝れてないよ!?」

 

「いいか?人の上に立つ者は簡単に謝ったりしないし、ましてや自分を下げたりなんかしない。言葉では申し訳なさを出してもいいが、心までそう思うな」

 

「流石にそれは人としてどうなん?」

 

「そんくらいの気概を持てって話だ!」

 

 

 

──

 

 

 周りを見返す為の二人の訓練……。いや、龍珠による特訓は毎日生徒会の活動後に屋上で行われた。

 すぐに打ち解けた二人の様子を楽しそうに観察していた生徒会長は昼休み、白銀を呼び出してこう言う。

 

「やあ白銀庶務。突然呼び出して悪いね」

 

「会長。俺、なんかミスとかしてました?」

 

 上司からの名指しでの呼び出し。これでまず真っ先に思い浮かぶのは仕事でのミスについてだろう。バイトで社会経験がある白銀は、以前スーパーのバイトで発注ミスをして店長に怒鳴られた時の事を思い出して胃が痛くなっていた。

 

「嗚呼いや、そうじゃないよ。なにやら君と龍珠庶務が熱心に何かをやっているようだからね。もし悩みがあるのなら僕も力になれないかなと思ってさ」

 

「あぁ……そういう」

 

 白銀は心の底から安堵した。

 

「あんまり言いふらさないで欲しいんですけど……俺、四宮みたいな奴と対等になりたいんです。それで龍珠には色々とアドバイスとか貰ってて……」

 

「ふぅん……。そうか。そういう事なら白銀くん、是非僕からもアドバイスを送らせて欲しいな」

 

 生徒会長は立ち上がり、座っていた椅子に手を置く。

 

「コレだよ」

 

「コレ……って、生徒会長ですか?」

 

「そう、秀知院学園生徒会会長。どんなに家柄が良かろうと、所詮僕らは学生。この学園内であればコレ程分かりやすいステータスはない。前にも言っただろう?生徒会にはその重大な責務に相応しいだけの莫大な権限が与えられる。コレが無ければ秀知院の大物達と対等にやり合えないからね」

 

「成程……。確かに生徒会長は部活連と予算の調整なんかもしますから、立場上対等、いえ、この学園内においては優越しているとすら言える……」

 

 生徒会長は白銀をその席へと座らせると自身の学帽を白銀の頭に乗せて言う。

 

「どうだい、これが秀知院二百年の間、学園の頂点であり続けた生徒会長の景色だ。僕はね、この短い期間ではあるが……君が次期生徒会長に相応しいのではないかと、そう思っているんだ」

 

「そうやって買って頂けるのは嬉しいですけど……でも、本当に俺ってそんな器なんですかね」

 

 白銀は生徒会長の机の、年季の入った木目を撫でながら躊躇いがちに呟く。

 

「アハハ、僕も白銀くんの今のその態度を見ると疑問に思ってしまいそうだけど……これは何というべきかな……。勘、もしくは運命……と言っても良いだろうね。君はこの秀知院で何か大きな事を成し遂げる。そう言った運命的な何かが君に有ると、僕の脳が囁いているんだ」

 

 生徒会長との出会いからほんの少しの時間ではあるが、この人はミステリアスで曖昧な言葉遣いを好むきらいがあると、彼の人柄が掴めないなりに解ってきていた。そしてその認識によると、どうやら生徒会長の言は本気で言っているらしかった。

 

「ふむ。しかしそうなると白銀くんの場合は結構大変だね。外部生の生徒会長は……前例がないわけじゃないけれど……相当珍しい存在だ。外部生である事を吹き飛ばす程の、抜きん出た何かが必要だね」

 

「抜きん出た……何か……」

 

「君にも一つくらい、これなら他人より優れているって部分があるんじゃないかな?僕の場合はそうだねぇ、この胡散臭さとか?……なんてね」

 

 白銀は考える。己の長所、抜きん出た何かを。

 

(家柄はない。スポーツも出来ないし、芸術も……微妙だな。インパクトに欠ける。となると学力か……)

 

 そう、白銀御行という男はこの偏差値77の超名門校に特待生として狭き門を潜り抜けてきた。

 当然、中学では一度もトップから転落した事など無く、開校以来の逸材、天才だと褒められてきたし、このそこそこな顔の良さもあってかなりモテた。スポーツや歌では醜態を晒してこそいたが……。決して虐められるほどでは無く、クラスカーストでは総合的に見て、上の下と言ったところだった。

 

(でもなぁ……所詮は井の中の蛙というか。本物の天才たちと違って、俺は一般人にしてはそこそこ出来るってだけだった。そんな俺がこの秀知院で学力で抜きん出るためには……それこそ、四宮に勝つくらいの……いや、そうか)

 

「そうですね。俺は学力に自信がありました。今はそうでも無いですが……でも、誰かに勝てるとしたらコレくらいしか思いつきません」

 

「ならば白銀くんはそれを突き詰めるべきだね。そうすれば道は見えて来る。きっとね」

 

 

 

 

──

 

 

 

 白銀は家に帰ると妹の圭との会話もそこそこに自室、まあ妹のスペースとカーテンで区切られただけで実際は同じ部屋なのだが……。その自室に入ると、決意の表れを紙に書き、机の正面に貼り付ける。

 

 

 

『四宮の横に立てる男になる』

 

 

 

 壁に貼り終えるとすぐさまに古本屋で買ってきた参考書を開き、勉強をする。

 

「お兄ぃ、お風呂空いたよー」

 

 妹の圭が薄いカーテン越しに声をかけて来るが、極限の集中状態にある白銀には聞こえない。勉強を続ける。

 

「ちょっとお兄ぃ聞いてんのー?」

 

 いつまで経っても返事をしない兄に業を煮やした圭がカーテンを開き部屋に入ってくる。だがそれにも気づかない。シャーペンの芯を交換する。

 

「うわっ!?……お兄ぃ、どうしたの?」

 

 見たことも無いほどに鬼気迫る兄の様子に狼狽する。

 そこで漸く妹の存在を認識した白銀は目線を机に固定したままぶっきらぼうに答える。

 

「ちょっと授業の予習しとこうと思っただけだ」

 

「いやその量の参考書は明らかおかしいよ!?」

 

 白銀が古本屋で買い込んだ参考書の量は三十冊。大学受験を目指す高校三年生ですら、この時期にここまでの参考書をやろうとするのは異常だろう。

 

 貧困学生である白銀がコレほどまでに参考書を買い込めた理由。それは、秀知院学園の特待生特典の一つ、自主学習用の教材や必要最低限の文房具、ペンやノートなどへの補助金が存在するからだ。購入の際に自分の財布から払う必要こそあるが、後で領収書を生徒会に持っていけば学園側が建て替えてくれる。そう言ったシステムだ。

 

 当然、無駄遣いや勉強に必要ないもの、高級過ぎる文房具などは認められないが。白銀が普段使いするような一般的よりやや安めの文具、それから中古の参考書くらいなら幾らでも認められる……らしい。

 

 白銀は学校の帰り際に、生徒会会計である龍珠からその仕組みを詳しく教えて貰って早速使ってみたのだ。

 人生で今までにない程の爆買い。ために貯めたバイト代が一気に消えた時は震えが止まらなかった。しかしこれが数日後に全額返ってくると聞いて、秀知院ハンパないな……と改めてこの学園の規格外さを理解した。

 

「とにかくお兄ぃ。お風呂冷める前に早く入ってよね。じゃあ私もう寝るから」

 

「ああ、おやすみ。圭ちゃん」

 

 妹へと就寝の挨拶をした後、ささっと風呂を済ませた白銀はまた机に向かう。

 全ては四宮との約束の為。純金の飾緒を胸に飾り、四宮と並んで歩く自分を想像する。

 

(俺は約束したなら必ず守る。だから待っていろよ四宮。絶対に生徒会長になって、お前を迎えに行く)

 

 

 

 

 

 






予約投稿出来てなかった……。

勿論特待生の特典は捏造です。
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