かぐや様は運命を信じたい   作:ティッシュの切れ端

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かぐや様は恋する乙女

 

 

 

 私、四宮かぐやは現在悩んでいる。それは……

 

(白銀さんと連絡先を交換したい……っ!!)

 

 と言うことについてだ。文通。それは遠く離れた相手とのコミュニケーション手段であり、男女間での交流には必須の行為。

 平安時代には互いに和歌を贈り合い仲を深めたと言うし、私も藤原さんとのメールを通して沢山の交流をしている。友情を深めるのに非常に有効な手段である事は間違いない。

 

(でも……でも!!)

 

 もし私から彼に連絡先を聞こうとすれば、そこに何かしらの意味が生まれてしまう。

 お友達のままなら問題はなかった。だってお友達とメールをするのは普通のことだから。

 

 けれども、私達の今の関係は……。ただの知り合い?それとも元友?……それって何だか元カノみたいで嫌だわ。別に私達まだ付き合ってもいないのに、私がフラれたみたいじゃない。

 

 まあ兎に角。そんな曖昧な関係の中で連絡先を知りたいと言う行動、それにはなんだか下心がある様で後ろめたい気持ちになってしまう。

 時折私を性欲に満ちた視線で見てくる男どもが連絡先を聞こうと邪な気持ちを隠さずにしてくるが、もし私も白銀さんにそう思われる……可能性があるならば絶対に避けなければならない。

 

(そんなの乙女的にNoに決まってるでしょ!!)

 

 参考資料として早坂に取り寄せさせた様々な少女漫画を読んでも、大抵は男の人が無理矢理迫ってきて連絡先を聞くという場面ばかり。

 男から主体的にアプローチを掛けてくるのは私の感性としては好ましいモノだけれど……。

 

(好きでもない男から強引に迫られたって、恐怖を感じるだけだわ……。この漫画の主人公はどうしてときめいているのかしらね……)

 

 私は別に有象無象に好かれたい訳じゃない。今まではその全てが鬱陶しかったけれど今は違う。

 白銀さん……そう、ただ一人。私は貴方からの好意が欲しい。

 

 貴方に私を意識して欲しくて、それが無理ならせめてお話だけでもさせて欲しい。でも私にはどうすれば良いのかが分からない。

 だって、私は恋焦がれ求められる事はあっても自分から他人を求める何て事……一度も無かったのだから。

 

(だからと言って下賎な愚民どもへの態度は改めませんけどね……)

 

 断られるのが怖いのは分かる。分かるようになってしまった。臆病な自分が存在した事に驚きもある。

 でも、変に期待されたりするのは……困る。何度も言うように、私は白銀御行……彼からの好意以外は要らないのだ。

 

 早坂のピックアップした少女漫画の数々。これらは様々な設定と世界観で構成されてこそいるが、根本にあるテーマはどれも共通していて。普通で、平凡な少女が様々なイケメンに好かれるお話。

 私は確かにこんな恋に憧れているし、自分がこの主人公達の様に有れたなら、どれ程良かっただろうと思ってしまう。でも、今求めているのはそうではないのだ。

 

(こう、自然に。怪しまれる事なく連絡先を聞く方法が知りたいの!!)

 

 客観的に見て、私は普通の女の子ではない。そもそもが大財閥の長女。圧倒的な美貌に才能。そこらのフィクションよりよほど作り話の様な存在だ。

 そんな私が何処にでもいる少女のように行動しては……違和感があるだろうし、何よりはしたない。だから出来ない。

 

 四宮家での教育は厳しくも優秀だったのだろうとは思う。けれどそれは、私が普通の少女である事を許してはくれなかった。好き……な人の連絡先を聞く事一つ、やり方を知らない。

 相談すれば良いのは分かってる。それこそ、早坂とか、藤原さんに。そうすれば彼女達は何かしら連絡先を聞くための案を考えてくれるはず。

 

(……でも、恥ずかしいじゃないの。異性に連絡先を聞く方法を教えて、だなんて)

 

 いや、二人とも私が彼をす、……好きなのは知っているのだし。恥ずかしがったところで、そんなの今更?と思うだろうけれど。

 でもやっぱり恥ずかしい。仕方ないじゃない。私は今まで、恋なんて興味ないわって態度をとっていたのだから。それが一目惚れしたからと言ってこんなに情け無ない様を晒すのは……プライドが許さない。

 

私が代わりに聞いても良いのよ?

 

 ……貴女、まだいたの。

 

貴女が彼に恋する限り、消えたくても消えられないわ。

 

 そう……。でも駄目よ。これは私の問題。私の恋。後から湧いてきた部外者に任せたくないわ。

 

むぅ。私も彼の事、ちゃんと好きなのに。

 

 貴方に任せると後で大変な事になるでしょ!!後先考えずに適当やって自爆するに決まってるわ。

 

……自分の事なのに酷いわ。

 

 逆よ。私の事だからよく解るの。

 

……じゃあ貴女は出来るの?恥ずかしがって平手打ちとかしちゃ駄目よ?

 

 しないわよ!!…………………………多分。

 

あーあ。貴女も人の事言えないポンコツね。

 

 何よ、阿保の癖に生意気よ。

 

アホ!?酷いわ!!アホって言った方がアホなのよ私のアホ!!

 

 なに一人で漫才やっているの貴女……。

 

ぶぅー……。私は貴女なんだから漫才をやっているのは貴女自身でもあるのよ?

 

 ……はぁ。そうね。何やってるのかしら、私。

 

もう素直に早坂に聞けば?いつもの事じゃないの。

 

 もう考えるのも疲れたし、そうするわ……。

 

大変そうね、私。

 

 誰のせいだと思ってるのよ!!もう!!

 

 私の脳内にいつの間にか棲みついていた変なコレ。まあ、コレは私が元々持っていた私自身の一側面……らしい。コレが言うには……だけど。私はコレのことを受け入れきれていない。時々表面に出てきては勝手な事をする。本当にいい迷惑だ。

 

 でもコレも私。この阿保な恋愛脳も私が望んでいるから出てきたらしい。……本当は分かっている。私自身が本来の私だと思っているコッチこそが後天的に生まれた側面で、元々はこんな性格じゃ無かったのだと。

 今はこれ以上の考察は必要ない。兎に角早坂に何か良い案を出させなければ。

 

「早坂」

 

「はい、かぐや様。何か御用でしょうか」

 

 早坂を呼べば本当に一瞬で現れる。この子、いつも何処で何しているのか。普通に家令としての仕事はやっているみたいだし、不思議だ。

 

「白銀さんの連絡先を入手する方法を考えなさい」

 

「はい。では私が彼の連絡先を聞いてきますね」

 

「……いや待ちなさい。それだと私が何故それを知っているのかと言う話になってしまうでしょ?」

 

 この子……馬鹿なの?第一、早坂が聞いちゃったらこの子も彼と連絡するようになっちゃうじゃない。

 早坂は……身内贔屓を除いてもかなりの容姿だと思う。アイルランド系のクォーターである彼女は純日本人には無い自然な金髪と透き通った碧眼を持ち、そして学園では気やすいキャラで通している。

 

 もし……そう、もし。万が一にも白銀さんが早坂に惚れたりでもしたら……私、まるでアレみたいじゃないの。

 早坂が選んだ少女漫画の中にあった話。平民の男と一人のメイドが恋に堕ちる。だけれども、そのメイドの主人は公爵家の令嬢で、そして同じく平民の男に恋をしていて、あれこれと二人の邪魔をしてくる。

 

 最終的に二人は駆け落ちして……令嬢は酷い目に……悪者としての末路が待っている。

 

 早坂は悪役令嬢モノのテンプレですね。なんて言っていたけれど、私はまさにこの悪役令嬢にそっくりだ。主人公のメイドよりも、こちらの恋を応援してしまうくらいには感情移入していた。

 

 だから、物語の最後。令嬢が家を追い出され浮浪者に襲われる展開になった時は思わず本を放り投げてしまった。

 

 まったく、早坂は主人になんてものを見せてくれるのよ。気の利かないメイドね……。なんて、この思考がまさに悪役令嬢みたいで。ちょっとくらいは早坂を労ってあげようかしら、と思った。

 

(でもそれとこれは話が別よ!!ぜっったいに早坂と彼を仲良くさせてはいけないわ。もしそうなれば私に待っているのは……破滅。早坂が教えてくれた、ふらぐ?とか言うのが立ってしまうのは不味いわ……)

 

「兎に角。早坂、私が自然に彼の連絡先を聞ける方法を教えて頂戴。男性から見てこう、ときめきを与えられたら尚良いわ」

 

「なるほど……。ではかぐや様。今度は男性向けの漫画を読んで勉強するのは如何でしょう。男性の心理を知る事で相手が何を考え、何を望むのかを知る。これは戦における基本です」

 

「恋愛は戰ってわけね。そう……。私も武経七書は嗜んでいるけれど……もっと深く調べる必要があるわね」

 

(何を読むべきかしら……ここはやはり戦争論?いえ、敢えての闘戦経……)

 

「かぐや様……恋愛における兵法書とはもっと他に有りますし、年頃の乙女はみんな嗜んでおります」

 

 早坂はそう言うと指を一つ立てる。

 

「あら?何かしらね。私は大抵の書物は既に嗜んでいますが……この年の女性がそこまで読み込むのが珍しく事くらいは解っています。そんなに有名な物があったかしら……」

 

「その本の名は……女性誌です!!」

 

 一体何処に隠し持っていたのか、早坂は一冊の薄い本をこちらに手渡してくる。

 表紙がごちゃごちゃとしていて読みにくいけれど、何やらお洒落な女性が真ん中でポーズをとっている。 

 

「これは……何々……男を堕とす十のテクニック?これで貴女もモテ女子!必見、恋のバイブル特集?」

 

「はい、これは先月号なのですが、今流行りのファッションやドラマ等が載っている雑誌です。今時のJKはみんな読んでいますよ。かく言うわたくしも話を合わせるために毎月必ず購入しています。特にここの出版社のは結構な頻度でネイル特集をやっているのですが、業界でも人気のネイリストが記事を書いていてですね……」

 

「何だか聞いているだけでも偏差値が下がりそうな本だわ……」

 

「良いですか、かぐや様。世間の女子達はみなこれで恋の戦術を学ぶのです。正直に申し上げますと、かぐや様は……恋愛偏差値が低すぎます」

 

 恋愛偏差値……?そんな物が世間には存在しているだなんて。初耳だ。でもこれは良い機会なのかもしれない。

 

 今まではこう言った俗世的な話に興味がなかったがなるほど。理解できないと思っていたけれど、私が見下していた彼女達には、彼女達なりの兵法書があり、それに則った行動を取っていたのか。

 そして私が今からやろうとしている事は、今までの価値観から言えば俗世的である事に違いはないのだから、郷に入っては郷に従えとも言うし、この兵法書に従うのがセオリー。そう言う事ですか。

 

「これは差し上げますから、学校で藤原ちゃんと読んでみては如何でしょうか。何かしらのアイディアが思い浮かぶかもしれません」

 

「そう、そうね。そうしてみるわ。有難うね、早坂」

 

「いえ、これもわたくしの仕事の内ですから」

 

 

 

──

 

 

 

 早坂は麗しく礼をすると、颯爽と部屋から出て行く。

 私はその姿を見て思う。

 

(仕事の内って、つまり仕事以上に大切な何かが出来たら私の邪魔をする事もあるってこと!?)

 

 矢張り、早坂と白銀さんを合わせるのは危険だ……この前のは緊急事態だったから仕方ないとは言え、気をつけないといけない。

 私は断じて破滅なんてしたくない。悪役令嬢が何だと言うのだ。世の中には悪役令嬢が主人公と結ばれる話もあるって早坂が言っていたじゃないか。だから大丈夫。早坂はいつだって私の味方だった。だからあの子が横恋慕なんてする訳ない。

 

(……確かこう言う考えがふらぐとか言っていたわよね。え!?本当に大丈夫よね!?)

 

 考えれば考えるほど土壺に嵌り、不安と疑心暗鬼が渦巻いて、心の底からどす黒い感情が湧き出る。

 大丈夫……そう、私は大丈夫。これはきっと嫉妬。ちゃんと自己分析出来ている。だからまだ問題無い。客観視出来ている間は自分を抑えられる。

 

(あゝでも早く会いたいわ。一人で考えていると悪い方向に思考が寄ってしまいそう)

 

 今日はもう早く寝よう。この感情から寝逃げてリセットしてしまおう。そうすればまた明日からはいつもの四宮かぐやに戻れる。

 でも、その前に藤原さんに明日一緒に雑誌を読みましょうと連絡しておかなくちゃ。

 

(それにしても疲れるわ……恋ってこんなにカロリーを消費するのね……)

 

 彼と出会ってからの私は知らない自分に驚いてばかり。下らない事で一喜一憂するだなんて、何だか私も普通の女の子になれたみたいで、それが嬉しい。

 

やっぱり嬉しいんじゃない。

 

 折角感傷に浸って居たのに、またコレが出てきてしまう。何でこう、コレは空気が読めないのかしらね。

 

それは私が私だから……じゃないかなぁ?

 

 ちょっと、思考を読まないで。

 

仕様がないじゃない。私達は同一人物なんだから。

 

 じゃあ考えに割り込まないで。

 

えぇーだって暇なのよ?

 

 阿呆らしい。私はもう寝たいの。

 

あぁー!またアホって言ったわね!

 

 五月蝿い!!引っ込んでなさいこの不調法者!!

 

はぁい……。

 

 ……疲れる原因はコレのせいでもあるだろう。いくら私の脳味噌が優秀とは言え、二つの異なる考えを同時にするのは脳に負荷が掛かるはず。

 受け入れて仕舞えばきっと楽になれるんだろう。あれこれと悩んだりせず、感情の赴くままに行動する。そう、藤原さんにみたいにIQを溶かして仕舞えば。

 

 だけれど、私はそうはしない。コレだってそうなる事を望んでいないから、表に出続けたりしない。

 

 私は、ありのままの私を好きになってほしい。

 例えそれが、現実逃避の果てに生まれた四宮の悪しき家訓の塊でも。それでも私は四宮かぐやの人生の一部で、私の根幹を構成する一側面なのだから。

 

 私の全てを愛してほしい。理解してほしい。

 昔はこんな事思わなかった。理解者なんて、何処にも居ないと思ってた。でも、違った。居たのだ。本当に私の事を解ってくれて、受け入れてくれて。そのままに愛してくれる人が。

 

 だから……貴方もそうだったらいいな。

 陽だまりみたいな彼女の笑顔と、少しぶっきらぼうで、引き攣った貴方の笑顔に囲まれて過ごせたら……私はどんなに幸せなのだろう。

 

 そこではきっと、私も笑顔で居られるかな。いや、そうであって欲しい。私は、私の好きな人達と、この一度きりの高校生活を楽しみたい。その為には手段を選んでなんかいられない……。

 

(貴方がどれだけ私を遠ざけようと、無駄ですよ)

 

 藤原さんは言っていた。恋する乙女は無敵なんだって。本当にその通りみたい。あの子はいつも変な事を言うけれど、結構な頻度で核心をついた発言をする。

 

 今の私は引かない、媚びない、省みない。

 

 ただ我が道を行き、邪魔をする一切合切、その全てを踏み倒してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

そう。だって私は……恋する乙女なのだから。

 

 

 

 

──

 

 

 

 

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