数日が経ち、篁たちは勉強会を開く日になった。綾小路は堀北に頼まれた三バカこと、池、山内、須藤を誘うことになったのだが池たちは勉強会に参加することを渋ったらしい。
「それじゃあ、参加しないのか?」
「いや、それがその時に櫛田がな」
「・・・櫛田?」
突然出された名前に篁は何故ここで彼女の名前が出てくるのかと思い聞くと彼女も堀北が主催する勉強会に参加したいと言ったらしい。そしてその櫛田が参加するからということで池たちは発言を一転させ勉強会に参加するということになったようだ。
「櫛田はそこまで成績が悪くなかった記憶があるが?」
「ああ。俺もそう思うんだが、どうしてもっていうからな」
「堀北には言ったのか?主催に確認はとっておいた方がいいと思うが」
「ああ、堀北にも櫛田の参加をしていいのかと聞いたんだが速攻で断られてな」
「そうなのか?」
そして綾小路が言うにはその時の堀北は自分を嫌っているような人間をそばに置いておきたくないと言い突っぱねたらしい。
(自分のことを嫌いな人間、か。つまり堀北と櫛田は少なくともそういう感情が出てくるほどには顔を知っているってことだ。好きの反対は無関心なんてよく聞く。堀北の観察眼も本物と仮定しこの学校での堀北と櫛田の接触頻度を考えれば、少なくともこの学校に入学する前、中学校で二人はすでに顔見知りだったってことか)
だが、問題はそこではないと篁の脳内を考えが巡る。
(一体、なんで櫛田は堀北を嫌ってる?正直言って容姿に関しては堀北と櫛田、両方とも男受けするのは間違いない。そこでわざわざ突っかかるとは思えない。性格面に関しては表面上は確実に櫛田の方に軍配が上がる。内側に何を秘めているかはこの際関係ない。クラスにおける信頼性や人気度に関しても堀北と櫛田では天と地ほどの差がある。
・・・中学校、か?人気や容姿などを一切かなぐり捨ててでも気にしなければならない、
篁はそっと横で真面目に授業を受けている堀北を盗み見た。そこには今まで同様無表情の冷たい印象を与える雰囲気を纏っている。そして彼の視線は前の席にいる櫛田に向けられた。
(・・・まあ、俺には関係ない話だな・・・)
そう結論づけ彼は勉強に集中する。そして彼は約束の時間となった放課後、勉強会を開く図書室に向かう。美玖には事前にいつもより一時間くらい遅くなるとは言っているがそれでも彼女を心配する気持ちは変わらないため出来る限り早く三バカには勉強ができてほしかった。そして篁は堀北と綾小路と一緒に図書館の空いてる長テーブルを見つけ座りながら櫛田が連れてくる三バカを待った。すると櫛田が後ろに何故か四人目の男子を連れて篁たちの方へ歩いてくる。
「連れてきたよ~!」
その櫛田の笑顔に堀北はとても不快そうな顔をしていた。どうやら三バカと一緒に連れてきた男子は沖谷という女子のような男子でどうやら彼は赤点ギリギリだったらしく、だが平田のグループには入りづらく櫛田がこっちに連れてきたようだ。
「・・・まあ、別にいいんじゃないか?こいつの点数も良くなればそれだけクラスポイントが増える可能性も上がる」
「それもそうね。でも、来たからには本気で取り組んでもらうわ」
そして堀北が勉強会に櫛田は参加しないように言おうとすると彼女は自分も赤点になりかねないため自分も参加させてほしいと彼女に頼み込む。
「なぜ?あなたは前の小テストは悪くなかったと記憶しているけれど?」
「あ、あはは。実はあのテストって偶然でほとんど覚えてることだらけだったの。だからあのくらいとれたんだ。でも、次の中間じゃもしかしたら赤点取っちゃうかもしれないし、お願いできないかな?」
そう
(・・・用意周到だな)
篁は座りながら彼女たちを見て堀北も渋々彼女の参加を許可した。そして勉強会が始まる。堀北はこの場の全員に少なくとも全教科50点を取ってもらうと事前にまとめておいたテストの問題を全員に渡す。それを受け取り全員が問題に取り組み始めた。まずは一人で解いていきそれの答え合わせをし苦手な部分を後で篁と堀北が教えていくという形だ。
だが、テストを始めて僅か五分。池などの三バカの手が止まりついにはシャーペンを置いてしまった。
「ダメだ、やめる。こんなことやってられっか」
そんなことを言い始める。それに櫛田は動揺し堀北に視線を向けるが彼女は無言を貫いている。
「えっと・・・篁くん・・・?」
「なんだ?」
「三人が・・・?」
「ならそこまででいい。終わったら答え合わせで出来なかった部分をやっていく。それでいいか、堀北」
「ええ。これはあくまでどのくらい勉強ができるかを確認するためのもの。ここで解けなければそれを解けるように教えるだけよ」
そう言い彼女は口を閉じ一人読書を進めている。そして時間が過ぎていきテストは終わり堀北が採点に入る。そして全員の採点を終えて篁は池と沖谷を教えることになり残りの二人は櫛田が教えることになった。
「とりあえず、なんでここが出来なかったか分かるか、池?」
「い、いや・・・全然・・・」
「なら今から教える。それで出来る限り理解しろ。こういうのは公式を理解すればあとは問題が違うとしても公式に当てはめてしまえば簡単に解ける問題だ」
「わ、分かった」
「沖谷は池よりはマシだがそれでもまだ粗がある。そこを埋める」
「うん」
そして篁は池と沖谷を受け持ち勉強を教えていくが沖谷が真面目に受けている時に池の目がちょくちょく櫛田の方にいっていることに気づく。
「池」
「は、はいっ!」
「櫛田が気になっているのは理解できたが今は目の前の解答用紙に目を向けろ」
「で、でも・・・やっぱりいいよなぁ・・・なあ、沖谷?」
「え・・・?う、うん・・・?」
池の突然のパスに沖谷は困惑気味になりながらも一応という感じで頷いていた。
「ならもっと目の前の問題に集中しろ。その気になってる櫛田について来たんだろ?これでバカのまま帰れば彼女の面目が立たないぞ」
「そ、それは・・・」
「・・・頭が良くなれば櫛田もお前に惚れるんじゃないか?」
「っ!?がんばるぜぇ!!」
「・・・・・?」
そして池は先ほどとは比べ物にならないほどに勉強に集中し始め理解も早まる。沖谷もそんな池に負けないほどに問題を解いていき見たところ問題ないように見えた。
「ああ、それでいい」
「そ、そうかな・・・?」
「ああ。よくやったな」
「えへへ」
篁は勉強をおどおどしながらも進めていく沖谷を褒めた。ショートボブのふわっとした青い髪を揺らしながら頬を赤くさせ照れている沖谷。その華奢な体つきからとてもではないが男子の制服でなければ男子と分からないような彼を見てほかの勉強していた図書館内の男子たちは彼に見入っていた。
そして櫛田の方は綾小路と共に須藤と山内に勉強を教えているが彼らは一向に解ける様子もなくついに堀北は今まで閉じていた口を開く。
「あなたたちを否定するつもりはないけれど、あまりに無知、無能ね」
「あ?てめぇには関係ねぇだろうが」
そして須藤は堀北に突っかかるが堀北はそんな彼は冷たくあしらう。その間、篁は突然の喧騒に戸惑う沖谷を落ち着かせ勉強の続きをする。
「沖谷、ここはどうすればいいと思う?」
「え、えっと・・・いいの?」
「構わない、どうせすぐ終わる」
「え・・・?」
篁の言葉に沖谷は戸惑う。そして彼の言葉通り喧騒はすぐに収まった。須藤達は教科書をカバンに詰めその場から立ち上がる。池は向こうの方で堀北の言葉に須藤達と同じようにしかめっ面になるが目の前にいる篁を見た。
「・・・今日のところは帰っていい」
「え・・・?いいのか?」
「このままやったところで勉強がはかどるとは思えないからな」
「・・・別によ、篁が悪いわけじゃないぜ?でもよ・・・」
「お前の言いたいことは理解している。とりあえず、今日は終わりだ。沖谷を連れて帰るといい」
「ああ、そうする。行くか、沖谷」
「え、でも・・・」
沖谷は突然帰ると言う話になり困惑する。
「とりあえず、今日のところは、だ。もし何か聞きたいことがあれば聞いてくれればいい。出来る限り答える」
「ああ!堀北は正直言って気に食わないけど篁の勉強ならもう一回やってもいいぜ」
「そうか」
「篁って意外と喋れるんだなって思ったよ。じゃあ、俺らはいったん帰るぜ」
そう言い池は沖谷を連れて須藤達と一緒に帰っていった。そして篁はそっと堀北たちの方を見るとそこには無表情の堀北と悲しそうな表情をしている櫛田の姿があった。櫛田はそんな堀北を遠回しに非難するが彼女は痛くもかゆくもないと言わんばかりに彼女の言葉を否定する。
「足手まといは今のうちに退学してもらった方がいいという話よ」
「そ、そんなの・・・あんまりだよ」
櫛田はそのまま悲しそうな表情をして図書館を出ていく。その際堀北からは見えない位置で彼女の顔が驚くほど変化し歪んだことに篁は気づいた。
「・・・・・・」
「結局のところ、無駄だったわ」
「池と沖谷はもう少し頑張れば問題なかったんだがな」
「・・・・・」
「まあ、あの二人に関してはもしかすればまた俺を頼ってくるかもしれない。その時に対応する」
「そう」
そして綾小路は須藤達を追いかけ残ったのは堀北と篁のみになった。
「この後はどうする?美玖に会いに来るか?」
「・・・悪いけど、今日は美玖ちゃんに会えそうにないわ」
「・・・そうか」
篁はそんな堀北の言葉を聞き自身も荷物と刀を持って図書館を後にする。時間はすでに夕方になり美玖にメールしていた時間より少し遅れてしまっており篁は少しばかり急ぎ足で家に向かった。
「きゃ!」
「な、なんだよ!?」
だが、篁にとっての急ぎ足は普通の一般人にはあまりにも早くその姿を捉えられる者はおらず風が吹くはずのない廊下に突風が吹き荒れた。そして彼は速攻で家にたどり着きポケットから鍵を取り出し中に入った。すると美玖も出迎えてくれて二人はリビングでのんびりしていた。
「今日は遅くなってごめんな、美玖」
「ううん!それだけ鈴音お姉ちゃんや清隆お兄ちゃんたちと一緒に勉強会が楽しかったってことだよね?」
「まあ・・・そうだな」
「美玖はそれが一番うれしい!!」
「・・・そうか。ありがとな、美玖」
「えへへー!」
美玖は篁の腕に抱き着きリラックスしていた。そして気が付けば彼女はいつの間にか眠ってしまっており篁は美玖を部屋に連れていき彼女のベッドに寝かせた。眠っている彼女を優しく撫で篁はそのまま刀を入れた麻袋を持ち制服のまま家を出た。
入学して一か月。篁は毎日日が暮れてから夜の学校の敷地内を見回るようにした。彼の閲覧権を持っている監視カメラでは見えないところを重点的に見回るようになり不審者がいないかを確認している。
「・・・?」
その時、篁は何かに気づきある一方向を見つめた。そして篁はその方向に駆ける。一直線に走っていき途中に建物があれば彼は足に僅かに力を込めてその場を跳躍した。そして建物を屋根伝いに跳んでいき彼はある場所にたどり着く。
「・・・・・・」
彼は屋根の上から下を見る。そこには彼の知り合いである堀北と彼女と同性であり生徒会長を務めている堀北学、そして彼の腕を掴んでいる綾小路の姿があった。壁に追いやられている堀北は怯えたような表情で生徒会長を見ておりそんな彼の後ろから現れたと思しき綾小路を視界にとらえ目を見開く。すると生徒会長の堀北学は綾小路の手を払いのけ彼に裏拳を繰り出す。その速さはおよそ普通の物ではなく何かしらの武術をやっているのが目に見えて分かった。
彼の裏拳を躱した綾小路に堀北学は足に力を込めて蹴りを繰り出そうしている堀北学。
「・・・・・」
篁はそれを見て目を細めると彼は一瞬で屋根の上から彼と綾小路の間に移動し彼の蹴りを左手の刀を入れた麻袋で受け止める。
「そこまでだ」
「・・・っ!?」
「・・・篁、くん?」
「篁・・・?」
突如現れた篁に堀北兄妹は驚愕の表情で彼を見つめ彼の後ろにいる綾小路は驚いてはいるようだがそこまでのリアクションは無かった。篁は受け止めている足に目をやりそれが離れると堀北学に目を移した。
「あまり感心しないな、生徒会長」
「篁・・・何故ここに」
「それは今どうでもいいことだ。それよりも、まず先に状況説明を求める」
「・・・別に何でもないわ」
「何でもないならそもそもこんな状況になっていないだろう」
篁は鋭い視線で二人を見た。その冷たい視線に背筋がぞくっとする感覚を二人は感じる。
「おそらく、ちょっとした行き違いだろう」
「行き違い?」
「ああ。だが、少なくとも誰も怪我をしなかった。今回はそれでいいんじゃないか、篁?」
「・・・・・」
篁は後ろでそう話す綾小路の言葉に目の前の二人を見て明らかにただの行き違いではないだろうと分かっていた。だが、堀北はあまり今回の事を詮索されたくはなさそうな顔をし堀北学もこれ以上は何も言うつもりはないようだ。
「・・・分かった。今回はこれで終わりだ。もし、ただの学生同士の喧嘩だったのなら俺の出る幕じゃないからな」
「・・・・?」
「だが、堀北学。もし生徒会長を名乗るなら、自分で騒動は起こさないことだ」
「ああ。いいだろう」
そして堀北学は篁と綾小路を見る。
「鈴音、お前に二人も友人がいるとはな」
「・・・友人ではありません。篁くんに関しては少しばかり事情が複雑ですが・・・」
「・・・?鈴音、お前は孤高と孤独をはき違えている。そこを理解しない限りお前はどうあがいても俺には追い付けない」
彼の鋭い目は堀北から再び篁たちに映った。
「綾小路といったか。お前がいれば少しは面白くなるかもしれないな」
そして彼はその場を去ろうとする。すると少し立ち止まり横目に篁を見た。
「この学校を、頼んだぞ」
「・・・ああ。それが俺の仕事だ」
そう篁に言い堀北学はその場を去ってしまった。そしてその場に残された三人はしばらくの間静寂に包まれる。
「腕は大丈夫か、堀北?」
「え?え、ええ。大丈夫よ。そこまで強い力で掴まれていたわけではなかったから」
「そうか」
篁と綾小路は堀北の元へと寄る。彼女は先ほどまでの青白い顔ではなくなり血色を取り戻していた。
「・・・ごめんなさい」
「え・・・・?」
「迷惑、かけたわね。二人には・・・」
「いや、別に気にしてない」
「・・・そう」
三人はしばらく変な空気になったが綾小路が少し気になったように堀北に聞いた。
「堀北、お前の兄さんって相当強いだろ?」
「空手五段、合気道四段だから」
「うわぁ・・・」
綾小路はその高校生にしてとんでもない実績を持つ堀北兄が消えていった方を見ながら声を上げた。
「そう驚いている割に綾小路君、貴方兄さんの拳躱してたでしょ?篁君も蹴りを受け止めていたし・・・」
「中々いい反応だったな」
「これがあったからな」
「・・・まあ、いいわ」
そして綾小路がもう勉強会を開かないのかと聞き彼女は口をつぐむ。いつもの彼女であればここで否定の言葉が出そうなものだが彼女は言い淀んだ。
「・・・お前が決めろ。俺らはそれに協力する。だよな、篁?」
「ああ。お前との約束だ、堀北」
「・・・もう一度、勉強会を開くわ。協力してもらえる、二人とも?」
「「ああ」」
そう堀北の
「助かったよ、篁。あのままだったらもう少し長引きそうだった」
「気にするな。俺は俺の仕事をするだけだ」
「・・・さっきから気になっていたんだが・・・お前の仕事って、なんだ?」
「悪いがそれに関しては、言えないな」
「だけど仕事があるってことは隠さないんだな」
「それはすでに知られたからな。肝心なところを知られなければそれでいい」
篁は手に持った麻袋に一瞬目を向け綾小路を見る。その深淵のような瞳を綾小路はいつもと変わらない表情で見返した。
「・・・そこまでして隠さなければならないことなのか?」
「ああ、そうだ。お前もこれ以上この話に首を突っ込むな。いいな、綾小路?」
「分かった。オレも別にそこまでして知りたいことでもない。今目を向けるべきは堀北の勉強会だしな」
「そうだな」
そして篁は綾小路と別れその場を後にし再び夜の敷地内を見回る。建物の屋根の上に飛び乗った篁は夜の月に照らされる校舎を眺めた。
「少し・・・喋り過ぎたな」
彼の夜はまだ始まったばかりだった。