「ほぉ……まさか貴方のような可憐なご婦人がルルーシュ・ランペルージの叔母とは……」
「あらあらまぁ♪ ヒューズ卿もまだまだ若々しくて逞しいですわぁ♪」
どうしてこうなった。
いや、まぁ……頭では分かってはいるんだ。 これはリヴァルからの相談を俺がルルーシュに丸投げしてそのルルーシュがそのまま俺に『平民ルルーシュ』の設定作りに機密情報局が関わっていてその機密情報局に指示を出していたのがベアトリスだからそのベアトリスと会ったことのある俺にルルーシュが『話を付けろ』と言ってきてそのまま話をしたら
いや落ち着け俺、まだ終わった訳じゃない。
呼吸だ。 呼吸を整えるんだ。
幸い『大人版ルル子』と
スー、ハー……
うん、いい茶葉の匂いで落ち着けた。
「────しかしランペルージ夫人の所作はとても平民の出とは思えぬほど綺麗だ。」
おおおっと、ここでヒューズ卿のジャブ!
「ヒューズ卿もお上手ですわぁ♪」
「昔、夫人をどこかで見たような気がするのだが……」
「今でこそ平民ですが、元を辿れば皇族を祖としていますのでぇ~。」
そして大人版ルル子のクロスカウンター!
「そうなのか? 道理で……」
「???」
「しかし、家系図に『ランペルージ』の姓を見た記憶が……」
「それはですねぇ、当時の性は私の口から言えませんが……色々と
パチッ☆
さらに畳みかけるような妖艶な笑みと上目遣いに意味深な言葉とウィンク!
これにはヒューズ卿だけでなく外野もドギマギ!
……別にルルーシュの言葉を借りるわけじゃないけれど誰だお前は?!
「……じ、事情であるか。」
「はい~。 事情です~。」
「それは貴族である私にも言えぬことか?」
「残念ですけれどぉ~……」
「そうか……ならば本題に入る。 君の息子、ルルーシュ・ランペルージに話をしてもらいたい。」
「ルルに話ぃ~?」
『ルル』ってシャーリー以外で初めて聞いたぞオイ。
本人が居たら滅茶苦茶嫌そうな顔を浮かべていただろうな。
「具体的にはフェネット嬢との交際を────」
「────あっら~♡ ルルちゃんったらもうそんな年ごろなのねぇ~♡ ウフフフフ♡」
なんだこの砂糖100%のゆるふわは。
「コホン! その交際だが、止めるように説得してもらいたい。」
「交際を止めるぅ~?」
「うむ。」
「もしかしてぇ~、
「夫人は、リヴァルのことをご存じで?」
「息子がお世話になっていますぅ~。」
「リヴァルとフェネット嬢の話は聞いているか?」
「ええええっとぉ~……ああ! ダンスをしたって聞いたわぁ~。 『若い』っていいわねぇ~♪」
「またまた。 夫人も若いではありませんか。」
「あらあらあら♪ ヒューズ卿もお若いのに照れちゃうわ~☆」
「しかし知っているならば話が早い。 リヴァルとフェネット嬢はお互いを意識し合っているようなのでな、婚姻の話を進めたい。」
「本人たちは交際を止めることに納得しているのですかぁ~?」
「貴族の婚姻だ。 夫人ならば理解できるのでは?」
「う~ん……『理解』と『納得』は違いますからぁ~。」
「夫人……私は貴族だが、秩序ある貴族と自負している。」
「ええ、聞き及んでいます。 ですので、ヒューズ卿にお見せしたいものがあります。」
「私に?」
そう言いつつも
ちょっと待てベアトリスちゃん、その写真どこから出したの────あ、可愛い。
写真にはスヤスヤと寝る赤子が映っていて、二人のうち一人はうっすらと眠たそうに目を開けていた。
「これは?」
「これはぁ、若い頃のルルーシュ
………………………………………………ンンンンンンンンンンンン?!
「?!」
「とっても可愛いでしょう~?」
「まさか……もしや……いや、そんなことがッ?!」
あ、
いいなぁ~。
このオラにもちょっと分けてくれッ!!!!
「もう本当に私
ちょ、ちょ、ちょっと?! ベアトリスちゃん様?!
「────あの事件があってぇ~、その話は無かったことになったのよぉ~。」
「も、もしや君は────あ、いや。 貴方は、マリアンヌ様の────?!」
「────ここまで話せば、聡いヒューズ卿ならばもうお分かりになるでしょう?」
そう言いながら大人版ルル子はそっと指を口に当て────って何だこの手の込んだゆるふわ年上ムハムハお姉ちゃん像は?!
「しかし……いや、マリアンヌ様の親族とはいえ……その……それとこれは────」
「────貴族の間で、どれだけ相互の家への得による婚姻が鉄則だということは理解はしていますが……同時に貴族たる者、冷静に動向を見極め時に危ない橋を渡っても利益を取っていかなければ変わりつつある世界で没落は免れないとも理解しているわ。」
「ぬ。」
大人版ルル子がカップをソーサーから取り紅茶を飲み、
う~ん……敢えて言おう。
なんだこの儚げでゆるふわな『大人版ルル子』の破壊力ゥゥゥぅぅぅぅゥゥぅ?!?!?!?!
「今の皇帝代理は前皇帝と違い武よりも文に力を入れ、貴族や平民に関係なく社会への貢献に重みを置き、とても厳しく帝国を律する法案を画策しているとも理解しているわぁ~。」
「……」
「そこでですねぇ……私の見解ですと、皇帝代理は
「まるで実際に彼の若い頃を見て来たかのような言いぶりですな。」
「フフフフ♪ 若い頃の彼は髭もなくて可愛げもありましたわぁ~♪」
「しかしだな……既に私がこの学園に来ていることは周囲に知られている。 ここで何か得られなければ、ヒューズ家の沽券に関わる。」
「息子から話を聞いていますけどぉ、
ここで大人版ルル子が考えるそぶりをしてから再び口を開く。
「そうですねぇ…ではこれはどうでしょうか? ヒューズ君は最近メキメキと人が変わったように精進していると聞いていますのでぇ……3年。 3年ほど様子を見てはどうかしらぁ~?」
「3年?」
「ええ。 最近、オハイオ州が豊作でしてぇ~……」
「……確かに、そのようなことを聞いたことはあるが────」
「────そう言えばぁ、今ヒューズ君が良く一緒にいるとルルから聞いているヒルミックちゃんの実家があるのねぇ~。」
「それが何か?」
「学園に通っている今では『ヒルミック』と名乗っていますがぁ、彼女の実家は『バイエル』なんですぅ~。」
「その名は、確か……」
「ええ。 バイオ化学メーカーのデサントの社長、『ジョン・F・バイエル』の姪ねぇ~。」
「なに?!」
嘘ぉぉぉぉぉん……
『バイエル』ってアレだよね?
前世の記憶と同じと仮定したらアスピリンとかの。
「確か~、規模としては小さいけれど最近色々と皇帝代理の補佐であるギネヴィア皇女殿下が予算を振り込んでいたわねぇ~。」
「う、う~む……」
今頃リヴァルとミーヤを引き離すべきか仲を取り持って応援するメリットとデメリットを天秤にかけているな。
しかしこの大人版ルル子ことベアトリスちゃん……
一日二日程度でここまで情報を集めて化けてワザと天然ゆるふわキャラを徹底的に演じてスラスラと雑談をしながら話の主導権を貴族相手に悟られずにもぎ取るって……
こいつが敵じゃなくて良かったッ!!!
でなければ詰んでいたかもしれん。
マジで。
「……いいだろう。」
黙り込んでから数分後、ヒューズ卿が口を開いた。
「確かに、最近のリヴァルには目を見張るものがある。 少しの猶予を与え再度見極めても遅くはない。」
「まぁ♪」
「しかし、ランペルージ夫人……貴方はどうする?」
あ、これは暗に『何をしてくれる?』と聞いているな。
「う~ん……ヒューズ卿は、ハンセン家の事をどこまでご存じでしょうかぁ~?」
え。
「うむ。 最近当主代わりをしただけでなく、陞爵したということは調査の末に聞いた。 今はまだ、噂程度だがこの学園にいると突き止めた。」
え゛。
温くなった紅茶を交換していた途中で思わず俺の身体が固まるが、テーブルを挟んで座っていた二人は会話を続けた。
「ええ。 その方に……そうねぇ~、“借り”を作れるというのはどうかしら~?」
「それは願ってもないオファーですな! その様な者の力添えを得られるのであらば不安定な現在を切り抜けられるだけでなく、より良い結果に繋がるかもしれん!」
「だそうですよスヴェン・ハンセン♪」
……………………………………ゑ。
キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ!!!
大人版ルル子が俺を見ながらそう言うと、
ガタ!
あ。
うえぇぇぇぇぇん。
俺も倒れたいよぉぉぉぉぉぉぉ。
「君が? いやしかし……いくら何でも若すぎないか?」
俺もそう思う。(ヤケクソ)
「そもそもなぜそのような者が従者のような────ハッ?! も、もしや……密命?」
「流石はヒューズ卿ですぅ~。」
誰か
「いやしかし! 彼は貴族としては新人────」
「────辺境伯には~、ラウンズのように親衛隊の様な個人の騎士団を保有する権限が認められているのよねぇ~。 有事の際の切り札になんて素敵じゃない~?」
「……」
「あ~。 それとぉ~、ダモクレス事件で彼と彼の騎士団の活躍が認められたのもあって辺境伯にされたのよねぇ~。」
うぉいいいいいいいいィィィィィィィィィィ?!?!?!
「……なるほど、『鈴』か。 それならば色々と納得できる。」
それで納得できちゃうの?!
キッ!
『勝手に話を進めるな!』と言いそうだった俺に大人版ルル子が一瞬だけ睨みを利かせたキツイ目線を送ってきた。
これだからブリタニアは!
え? 『頼ったのはお前だろ?!』だって?
……『巨大ブーメラン』やのうて『トマホークブーメラン』やったんか。
「では後日、改めて詳細を決めようではないか。」
「ご理解いただきありがとうございますぅヒューズ卿~♪」
「で、で、ではヒューズ卿どうぞこちらへ! 学園を案内します!」
「うむ。」
「近くにある焼却炉にこれをポットごと放り込みなさい。」
あ。 見た目は『ゆるふわ』のままだけど今は完全にいつもの『クールオンリー』に戻っている。
「ポットを焼却炉に? 何故?」
「毒を混入したからに決まっているじゃない────」
「────毒だと?! ちょっと待て、俺が見た時はちゃんと何も無かったぞ────?!」
「────ハァァァァァァァァァ。」
断言しよう!
その『まるで聞き分けの悪いあほな子を見るような呆れの含んだジト目、絶ッッッッッッッッッッッッッッ対に好きになれねぇわ』と。
「
ティーポットによくそんな仕込みが出来たな?!
「」
「それで相手が死んだらどうなる?」
「毒と言ってもあくまで思考を鈍くさせて誘導と同意を求める他人からの提案を受け入れる傾向にさせるだけよ。」
「……『洗脳』?」
「………………………………『暗示』と呼びなさい。」
結局同じことやんけ。
「大丈夫なのか?」
あまり仲が良くないと言ってもリヴァルの父親だからなぁ……
こう……性格が歪んだりするのは嫌だぞ。
「心配ないわよ。 効力も弱い上に、次に用を足せば体から抜ける類の物よ。」
何でそこまでする必要が?
「ヒューズ卿は情では決して心を動かされにくいタイプ……と言っても、情が全く無いという訳ではないわ。 だからあくまでもヒューズ家の利益になることを示す必要があった。 毒はただの後押しよ。」
俺、口に出していないよね?!
というか毒物を『ただの後押し』って……
……やっぱりこの人怖いでヤンス。
「さ、次に行くわよ。」
「一つ聞いていいか?」
「何かしら?」
「声も変わっているのはどうしてだ?」
「声変換機を内蔵させたチョーカー。」
俺のパクリやんけ?!*1
いやまぁ……某探偵作品からのアイデアだが……
「貴方、まさか自分が先に考えたなんて思い上がっていないでしょうね?」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、癒しが欲しいぃぃぃぃぃぃぃぃ。
…………
………
……
…
確かに俺は言った。
『癒しが欲しい』と。
「こ、これはファランクス女公爵ではありませんか!」
それがどうしてシュタットフェルト家の屋敷になる。
焼却炉でティーポットごと証拠隠滅した後、ゆるふわ大人版ルル子の変装を解いたベアトリスに『シュタットフェルトの屋敷に運転しなさい』と言われてきたのは分かる。
分かるが……
なんで?
突然のアポなし訪問のおかげで屋敷内がピリピリしていて誰も彼もが慌てているんだけど……
「久しぶりですね、シュタットフェルト卿。」
しかも当主であるジョナサン様も急遽戻ってきて走ってきたのか必死に体勢を崩さずに呼吸を整えようとしながらベアトリスの相手を────ん?
『
タジタジ汗かきまくりのジョナサンとベアトリスってもしかして知り合い?
初耳なんだが……
てかこういう繋がりって設定資料とかに無いから知れてちょっとウキウキかな?
……いややっぱりダメだ、スッゲェハラハラ
「と、突然の来訪で大したおもてなしが用意できずに────!」
「────そこまで気にすることではないわ。 前触れもなく来たのは私の方よ。」
「そ、そうですか……その……」
チラッ。
チラッと俺を見て助けを求めても困るぜよ、ジョナサン様。
「
『これ』呼ばわりだと?!
「さ、左様ですか……」
なんでホッとするのジョナサン様?!
それなりに信用を得たと思ったのにヒドイわ! 私の体だけが目的だったのね?!*2
「そう言えば第二子が生まれたのよね、おめでとう。」
「あ、ありがとうございます!」
「名は『すみか』だったかしら?」
「は、はい。」
「日本人との
「………………………………」
やめて! ジョナサン様のHPはもうゼロよ!
「そ、それは一体────」
「────そこまで身構える必要は無いわ。 別にそれに対して何かを言う気は無いわ。」
「そ、そうですか……では────?」
「────聞いたの。 彼がこの屋敷から引っ越す際に、『まだ整理するモノがあるから』と渡されていない持ち物があるらしいの。」
「スヴェンの持ち物がまだこの屋敷に? はて、
「今日来たのはそれを彼に渡せるかどうかの確認、それだけね。」
「ならば妻には私が話をしておきましょう────」
「────ありがとう。 でも私も彼女と話したいことがあるから自分でするわ。」
「??? なぜファランクス女公爵が直々に?」
「……『女性同士の話』よ。」
それを言われちゃ大体の男は何も言い返せないじゃん。
……どうにかしてスミカちゃんのほっぺをモニュモニュできないかな?
「フゥ……」
「ヒ────ッ。」
ベアトリスは屋敷の主であるジョナサンから屋敷内を案内するメイドを付けられて通路を歩き、ため息を出すとおどおどしていたメイドが小さな悲鳴を出し寸前で押し殺す。
ベアトリスはメイドの様子に気付いていないふり────あるいは無視して後を付いた。
コン、コン。
『はぁ~い?』
「失礼します奥様、ファランクス女公爵が話をしたいと────」
『────え?! あ、はい! どうぞ!』
メイドがドアを開けると焦った様子の留美がスミカを抱き上げながら座っていた椅子から立ち上がる。
「こ、これはファランクス女公爵────」
「────貴方も久しぶりね。」
「え、ええ……あ、貴方は持ち場に戻ってもいいわ。」
「は、はい?」
「大丈夫、だから……」
「で、では……」
オロオロとメイドが留美とベアトリスを見ているとルミが彼女に退室するように言い渡し、気まずい時間が留美とベアトリスの間で流れる。
「……」
ただ留美の腕に抱かれていた約一名────スミカだけが場違いにもぽやっとした顔でベアトリスをじっと見ていた。
「………………………………………………………………可愛いわね。」
「へぁ?! え、ええ! スミカちゃんです!」
「(外のメイド、ウロウロしていたけれどジッと中の様子を窺っているわね。) その前に、外のメイドを下げてくれるかしら。」
「え?!」
「昔の話を出すからよ、
「ッ。 わ、分かったわ。 あの……下がっていいわ、必要になった時はベルを鳴らすわ。」
『かしこまりました。』
「(ふぅ~ん……日本人の彼女の言うことを素直に聞くなんて。 やっぱり従者を一掃したのもあるか。) ……………………………………………………触っても良いかしら?」
「うぃえ?!」
「なんなの、今のカエルが潰れたような声は?」
「その……『触る』って────」
「────赤ちゃんのことだけど?」
「ど、どうぞ?」
ムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニムニ。
ベアトリスは未だにじっと自分を見るスミカに近づくと、頬っぺたを掌の中でムニムニ転がし始めた。
「……まるで雪見だ〇ふくね。」
「め、珍しいですね……まさかファランクス女公爵が赤ちゃん好きだなんて────」
「────意外かしら?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「今のは冗談よ。」
「そ、そ、そうですか。 (全然わからなかった。)」
「……本題に入るわ。 スヴェンに渡していない
「例の……モノ────?」
「────
「ッ!」
「持っているでしょう?
「……………………」
「……ぇ! ぇ、ぇ!」
「あああ、ごめんなさいねスミカ!」
ルミの顔が真っ青になり、スミカを抱く腕に力を入れ過ぎたのかスミカは泣き顔になりながら声にならないしゃっくりのような鳴き声を出し、留美はスミカが泣き止むまであやす。
「アルバムはどこ?」
「でも……あれは……あれには私だけじゃない! カレ────!」
「────未練を断ち切れずに捨てられないまま持っていても、勇気が無いのなら所持する意味が無いわ。」
「…………………………………………」
「私が
「…………………………………………」
「返事は?」
「………………………………………………机の、引き出しの中に。」
「鍵は? かけっぱなしのようだけれど?」
「……鍵はフェイクで、中が二重底になっているわ。」
「そう────」
「────待って。」
「何かしら?」
「引き出しの底をそのまま無理に開けたりすると危険よ。」
「……」
「引き出しを開けたまま、机の上に置いてある青のボールペンの芯を取り出して、それで引き出しの裏にある小さな穴で底を上げなければならないわ。」
ベアトリスは無言のまま留美の言うとおりに引き出しの二重底を開けると、中にはボールペンの芯によって二重底が上げられただけでなく、同時に何らかの金具も芯によって切断されていた。
「(引き出しが長らく開けられていない所為か、僅かに中から漂うこの匂い……プラスチック爆薬? サクラダイト探知機に引っ掛からない、見事としか言いようがない隠し場所ね。 これをこの女が考えたとなると……) 電流をまず切断しなければならない、トラップ付きの二重底の念入りな細工……考えたわね。」
「それは……」
「……」
留美は顔色一つ変えない、ベアトリスの冷めた視線から目を離してぽやんとしたスミカを見る。
「(『私が一方的にスバルに隠し方を相談したから』って今言っても、彼への迷惑にしかならないわよね……)」
ベアトリスはアルバムを手に取り、どこか悲壮感を思わせる留美を横目に部屋を後にする。
「あ! ファラ────!」
「────案内は結構よ。 それより貴方は中の彼女について。 少々話し込んで疲れているみたい。」
悩んで立ちすくむメイドをベアトリスは無視し、アルバムを持って屋敷内を移動し、誰の気配も周りにないことを確認してから一つの空き部屋に入って鍵を閉める。
パラッ、パラッ、パラッ、パラッ、パラッ。
「……」
彼女はゆっくりとアルバムを開き、中の写真を静かに見ていく。
中にはナオトの少年時代や、生まれたばかりのカレンなど、紅月家の様子が手に取るようにわかるような写真等があった。
そして────
「────ッ。」
ピタッ。
そこにははにかみながらピースサインを送る赤髪の少女と銀髪の少年の写真があった。
「……」
パラッ。
「ッ……ッッ……ッ。」
次のページには海辺で撮られたと思われるような砂浜で追いかけっこをする少年と少女の写真もあり、ベアトリスはアルバムを静かに閉じてギュッとそれを抱きしめ、思わずその場で跪いて珍しく無表情を崩した彼女の頬を一粒の雫が伝った。