臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
「は?ごめん、もう一度言って貰っていい?」
「だから、帰って来てもらって早々悪いけど、今からリューたちを迎えに18階層まで行って来てほしいの」
「マジか……聞き間違いじゃなかったかぁ」
ギルドにてエイナさんによる『妖精の試練』の第一回目を履修し終えた後、カサンドラたちと昼間を摂り、カサンドラとダフネの二人と分かれてから春姫を『竈火の館』へと送り届けに赴き、居間でのんびりしているヴィクトリアとアルテミスを連れて帰ろうとすると何故かヴィクトリアから今のような主神命令を下された。
それに対して、天を仰ぐように天井を見上げた俺は悪くないはずだ。何より、ヴィクトリアは
つまり、『異端児』関連である。
「それで、どうして俺がリューさん
「ええ、もちろん承知してるわ。わたしも主神としてあなたの意見には賛成。でも、ケンマは個人的な協力なら構わないと自分で言ってたじゃない。だから、【ヘスティア・ファミリア】じゃなくてリューを迎えに行ってほしいの。あの娘、本当なら今日のシフトはフルタイムシフトなのよね。それに、ケンマだってイシュタルの一件から『真紅の赫龍帝』を使っていないのでしょう?」
「ああ、使ってないな」
ヴィクトリアの言う通り、俺はイシュタルとの一件────正確にはレフィーヤの尊い犠牲を謝罪するために【ロキ・ファミリア】へ訪れて以降、真「女王」を全く使っていない。そもそもの話し俺たちは未だ『中層』を攻略している最中であり、大体のイレギュラーならば『天鎖斬月』でどうにでもなるし最悪の場合は『トリアイナ』で対処可能な範疇なので、真「女王」を使う機会は早々やっては来ない。
尚且つ『異端児』関連は【ファミリア】としては静観、個人的な協力は問題なしと俺は春姫たちに伝えてある。つまり、リューさんだけを迎えに行くという体で動くのであれば、言い出しっぺの俺が個人的で動いたとしても問題はない訳ではある。
「良い機会だからリューを迎えに行くついでに、『真紅の赫龍帝』を少しでも身体に慣らしておくというはケンマにとっても悪くないんじゃないかと思うの」
「確かにベルたちとダンジョンに行ってる時は殆どが天鎖斬月でどうにかなってるから『赤龍帝の鎧』どころか『トリアイナ』すら使うことがないな」
ヴィクトリアの言い分に聞いて、普段使えていない今の俺にとっての最後奥の手である真「女王」を身体に慣らすためにリューさんを迎えに行くというのは、有りか無しかでいえば確かに有りだ。だがしかし、それは俺が【ヴィクトリア・ファミリア】の団長として『異端児』の件に関して静観すると宣言する前の話であればだ。
けれど、今は既に宣言してしまった後だ。それなのにリューさんを迎えに行くという建前を立てながらベルたちを迎えに行くというのは如何なものだろうか?
それをヴィクトリアに伝えたところで恐らく考えは変わらないだろう。ならば、彼女の言う通りにリューさんを迎えに行くという建前を利用しながら真「女王」を身体に慣らしておく方が今後のためにもなる賢明な判断だろう。
「…………わかった。ヴィクトリアの言う通り、これからリューさんを迎えに行ってくるよ。それじゃあ」
○●○
「ここら辺なら大丈夫か。ダブル【プロモーション・クイーン】!!」
ヴィクトリアからリューさんを迎えに行くように主神命令を受けた後、一度本拠地へと戻って防具を身に付けてから5階層の正規ルートから少し離れた場所で周りに誰も居ないこと視覚と聴覚、生命エネルギーによる気配探知で確認してから毎度おなじみの【プロモーション】と【転生悪魔化】で二重に『女王』へ昇格しながらブーステッド・ギアを具現化。
そして、そのまま────
「禁手化か~ら~の~……皆さん、ご唱和ください!」
「『我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!』」
『汝らは、王の真理を天に掲げし者なり!』
「『無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往く!』」
『無限の希望と不滅の夢こそ、汝らが刻む王道なり!』
「『我、紅き龍の帝王と成りて────』」
『汝らは赤を超越せし、真紅の帝王なり!』
「『汝を真紅に光り輝く天道へ導こう───ッ!』」
『汝らは、我らを真紅の天道に導く龍帝なり!』
「『カーディナル・クリムゾン・プロモーション!!』」
───『赤龍帝の鎧』を纏い、そこから流れるようにイッセーと魂の発動を合わせつつ【アルテミス・ファミリア】の皆さんと共に真「女王」の詠唱を唱えて『真紅の赫龍帝』へと鎧を変化させる。
『Cardinal Crimson Full Drive‼‼』
これで四回目となる真「女王」の発動。必要はないかも知れないけど、念のためこのままの状態で軽くラジオ体操をして、鎧の可動域と干渉箇所を確かめてから腰を少し落としながら上半身を深く前に前傾姿勢を取り、某車の仮面ライダーのような決め台詞を口にしながら左手の宝玉を三回軽く右手でシフトレバーを動かす代わりに叩く。
「それじゃあドライグ、ナビよろしく。んでもって、ひっと走り付き合えよ!!」
『BoostBoostBoost!!』
三回倍加した後、最近ブーステッド・ギアへ強く願ってことで新たに加わったマッピング機能を使って、最短ルートでリューさんたちがいる18階層への驀進する。その途中で『
そうして、何度か救援目的でのモンスターと戦闘をこなしながら只管に18階層へと向かっていると、17階層と18階層を繋ぐ連絡路から一つの冒険者パーティーが上がって来た。それもそのパーティーは、タイミングが良いことにベルやリューさんのいるパーティーではないか。
彼ら彼女らを確認出来たところで、俺は走る足の速度を落としながら声掛けと手を振って、自分がいることをベルたちに知らせる。すると、ベルたちもまさか俺が17階層まで来てるとは思っていたかったようで、ベル、リリ、ヴェルフの三人がギョッとしたような表情を浮かべてくる。
「おーい!ベル、リリ、ヴェルフ!」
「「け、ケンマッ!?」」
「ケンマ様ッ!?」
「ヨッ!」
「な、なんでケンマがここに!?」
「ヴィクトリアから主神命令でリューさんを迎えに来たんだ。元々、リューさんの今日のシフトはフルタイムだから出来るだけ早く店に帰してやれってさ」
ベルの問いに答えながら真「女王」を解いて、少し荒れている息に一息入れながら呼吸を整えていると唯一この中で真「女王」こと『真紅の赫龍帝』を知らないリューさんから紅の鎧について尋ねられる。
「イシグロさん、態々迎えに来ていただいてありがとうございます。ところで、先ほどの鎧について少し気になったのですがお聞きしてもいいでしょうか?」
「あー、確かにこの顔触れで真『女王』を知らないのはリューさんだけか」
「真『女王』……それがエルソスの遺跡で見た二種の鎧とは別の新しい鎧の名称ですか」
「正確には『真紅の赫龍帝』と言って、『赤龍帝の鎧』の上位互換でエルソスの遺跡で見せたもう一つの戦闘衣のようで鎧の───『希望の赤龍帝』と俺が呼んでる鎧にかなり似たものになります。元々真『女王』は先代赤龍帝が発現させた鎧なんですけど、それを俺は偶然と奇跡が重なって運が良いことに継承出来たんですよ」
「ッ───それは凄い。あの時の鎧と似たような鎧ということは……かなり強力なものでは?」
「その通りです。お陰でフリュネの化けガエルを一方的にボコして、春姫を救うことが出来ました」
師匠であるリューさんに褒められて、少しばかり浮かれてうっかりとフリュネを倒したことを口走ると彼女の眉がピクリと動いたのを俺は見逃さなかった。そして直ぐに、いつもの悪い癖で墓穴を掘ってしまったと悟り、次第に背中から冷や汗が流れる。
ヤバい、これは非常にヤバい!よりにもよってエルフの中でも特に潔癖であるリューさんにフリュネのことを口走ってしまった!それはつまり、俺が歓楽街に行っていたことを自白したもの同然なことである!!
「
「え、え~っと、恐らくそれはリューさんの勘違いではないかと……」
「そうですか。では、やはりフリュネとは【イシュタル・ファミリア】の団長にして【男殺し】の二つ名を持つ第一級冒険者であるフリュネ・ジャミールのことでしたか」
「りゅ、リューさん、一応変な誤解を招く前に一つ言っておきたいことがあるのですが……」
「ケンマ、そこに正座しなさい」
「へ?」
「正座」
「あ、あの……」
「いいから正座」
「…………はい」
最早、今のリューさんにどんな弁明をしたところで聞き入れてはくれなさそうなので諦めてその場でダンジョンの固い地面へと正座をする俺。そして向かい側には俺と同じく正座をするリューさん。構図は完全に、ベッドの下に隠したエロ本がバレて潔癖で厳しい母親に怒らそうになっている息子と破廉恥な本を息子のベッドの下から見つけて息子を叱りつけようとしている母親の図、あるいは夫が妻に黙ってキャバクラ等に行ってこと怒る奥様の図である。
それから、おい、そこの守銭奴の小人族に残念ネーミングの鍛冶師。ベルの後ろで笑いを堪えてるのをしっかりと見えてるからな。リューさんの誤解を解いたらてめら覚えて居やがれ、と心の中でちょっとした仕返しを考えていると氷のような凛とした声が掛かる。
「ケンマ」
「は、はいっ!」
「それでは貴方に問います。貴方が倒したという【男殺し】は【イシュタル・ファミリア】の団長であり、【イシュタル・ファミリア】の根城が……そ、その……そういう場所にあることは理解していますね?」
「は、はい。知ってます。で、でも一つだけ言わせてください!歓楽街に行ったのはそういうことをするためにではなく、カサンドラの予知夢から春姫がとある魔道具の生け贄にされることが事前に分かったからで、少なくとも性欲にまみれて歓楽街に行った訳じゃないことは理解して欲しいです」
「へぇ……少なくとも、はねぇ。なら、少なからずはあのヘッポコ狐にそういうことを期待していた訳だ」
「今は黙ってろ、アイシャ!!」
俺の言葉からニヤリ顔で揚げ足を取ってくるアイシャの言葉を聞いて、またしてもリューさんの眉間が動いたので思わず怒鳴ってしまった。
けれど、今のアイシャの発言はそれ程までにヤバいのである。何故なら以前の【アポロン・ファミリア】の『戦争遊戯』終結後の時、ベルによって俺の想い人がレフィーヤだとリューさんは盛大に勘違いをしていたので、今回もどのような勘違いをされるか分かったものではない。
「では、次に。何故、あなたが【男殺し】と戦うことになったのか、嘘偽りなく答えなさい」
「はい!それはイシュタルが神フレイヤへの劣等感から彼の女神のお気に入りであるベルを自分の虜にしようと暗躍して、ダンジョンでフリュネとアイシャが率いる戦闘娼婦たちに襲われて、そのまま俺とベル、命は【イシュタル・ファミリア】に連行。そして、とある外道な魔道具の生け贄にされそうになっている春姫を救うべく【イシュタル・ファミリア】と戦いました!」
「なるほど……あなたの説明を聞いて、何故あの【フレイヤ・ファミリア】が【イシュタル・ファミリア】を壊滅させたのか、その動機にも納得がいきました」
俺の説明を聞いて、心底納得がいったと言う風に深く頷くリューさん。それを見て、なんとか娯楽は解けたのだと安堵しながらこれ以上の追求がないことを密かに祈る。
何故なら【イシュタル・ファミリア】との抗争の後で発覚した闇派閥の繋がりについて、未だに闇派閥の復讐心が胸の奥底で静かに燻っている今のリューさんに打ち明ける訳にはいかないからだ。せめて、ジュラとの一件が終わって、少し落ち着いた頃であれば【イシュタル・ファミリア】が密かに闇派閥と繋がっていたと打ち明けても問題はないのだが、今はまだ駄目だ。
「それじゃあ、もう正座はいいですよね?それに早く帰らないとミアさんの怒鳴り声と共に拳骨が落ちてくるかもしれませんし」
「………それもそうですね。今回はここまでにしましょう」
「えっ、今回は?」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に