脳筋ネタキャラ女騎士(防御力9999)! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「えぇ!? ぼ、僕が、正式にお二人の仲間にですか!?」
「ああ。君はとても頼りになると判断して、誘わせてもらった」
翌日。
今日も授業のために冒険者ギルドに集合した時、勧誘の話を持ちかけてみれば、ラウンは案の定、驚愕した。
オロオロとした様子になり、そしてすぐに顔を伏せる。
「凄く嬉しいお話ですが……僕には無理ですよ。お二人は本当に凄いです。実績が足りないだけで、実力的には間違いなくAランクはある。下手したらSランクに届くかもしれない。僕なんかじゃ足手まといもいいところだ」
自嘲するような、諦めたような目でそう語るラウン。
それを見て、ミーシャが不快そうに顔を歪めた。
この子は結構な努力の子なので、諦めという言葉が大嫌いなのだ。
諦めが悪くなければ、四大魔獣の討伐なんて目標を本気で掲げたりはしない。
「ラウン。これはあくまでもお願いに過ぎない。だから、断られるのであれば、素直に君の気持ちを尊重して諦めよう。だが、一つだけ訂正させてくれ」
俺はどんよりとした目のラウンに向けて、語った。
「私達はそんなに凄くないぞ。確かに一芸であればかなりの域に達していると自負しているが、それ以外の分野はてんでダメ。Sランクどころか、Aランクすら夢のまた夢だ」
「は?」
ラウンは「何言ってんだ、こいつ」みたいな目で俺を見た。
その気持ちもわかる。
黒ゴーレムとの戦いを始め、俺達はこいつの前では無双に等しい活躍を見せつけてきた。
しかし、それは種明かしをしてみれば簡単な手品みたいな現象に過ぎない。
「普段の私達の様子を知っているか? ダンジョンではないそこらの森や山ですら、ヒヤリとした回数は数知れないんだぞ。
探索は未熟。索敵や野営の技術は最低限。不意打ちにも弱いし、数で囲まれるのもキツい。
そのくせ、ミーシャは耐久力が皆無だから、盾役の私が不甲斐ないことをして、軽い攻撃が一発でも急所に入れば終わってしまう」
自分の弱点を指摘されて、ミーシャがふくれっ面になった。
悪いな。
だが、パーティーに誘うなら、自分の弱点を隠してはいけない。
隠したらフォローができなくなる。
つまり、俺も弱点を曝け出さなきゃならんというわけだ。
「私とて戦士としても盾役としても未熟だ。筋力はあるが、それを十全に活かせる技術を失った。
強敵相手には、この前のグラビタイト・ゴーレムのような、よほど相性の良い相手でもない限り、ミーシャの火力に頼らなければロクにダメージを与えられない」
「あの馬鹿力で!?」
「その馬鹿力でもだ。盾役としても完璧にはほど遠い。一対一の真っ向勝負ならともかく、多くの敵と対峙すれば毎回危なっかしいことになる。
不意打ちにギリギリまで気づかないこともよくあるし、罠にもよく引っかかる。
実際、初のダンジョンアタックはそれで失敗した」
「ゆえに」と、俺は言葉を続ける。
「君の目に私達が凄い存在として映ったのなら、それは君が私達の弱点を上手く補ってくれたからだ」
「!?」
「間違いなくAランク、下手したらSランクに手が届くだったか? つまり、君がいれば私達はそこまで飛躍できる。私達が君を誘う理由としては充分すぎるだろう?」
そこまで聞いて、ラウンは口をパクパクとさせた。
信じられないって感じの顔だ。
だが、間違いなく揺れてるようにも見える。
手応えありだ。
このまま押し切る!
「で、でも、僕じゃなくても、もっと凄い人を勧誘すればいいだけの話ですし……」
「いや、その可能性は低い。物事には相性というものがある。ラウン、『割れ鍋に綴じ蓋』という言葉を知っているか?」
「い、いえ……」
「割れたり欠けたりして破損した鍋は、普通に考えれば不良品だ。
穴の無い閉じた蓋もまた、鍋の中を熱気を逃がせない不良品だ。
だが二つ揃えば、鍋の欠けた部分を本来の穴の代わりとして『まとも』に使うことができるようになる」
こういう
歴代の勇者あたりが広めたのか、意外と日本の言葉はそこらにあふれている。
ただ、マイナーな諺は、この世界でもやっぱりマイナーだったりする。
「私も、ミーシャも、一芸特化で他の部分が脆すぎる欠けた鍋だ。
君もまた、高ランクパーティーの中では戦闘能力という一番大事な能力の無い、穴の無い蓋だろう。
だが、揃えば最高のパーティーになりうると思っている」
そして、俺はラウンに手を差し出した。
「正直、私達には他にも問題がある。少々志が高すぎて、今まで勧誘してきた者達にはことごとく振られてきた。
だから、それを聞いて断るのであれば構わない。
けれど、己の能力を卑下して断ろうとしているのなら、それだけは否定させてもらいたい」
「ユ、ユリアさん……」
「どうか、交渉のテーブルにだけでも、ついてはくれないだろうか?」
ラウンは迷った。
差し出した俺の手を見ながら、百面相を繰り広げた。
脳裏にはさまざまな思いが渦巻いてるんだろう。
彼は混乱し、考えを纏めるためにか深呼吸をし始め……
「おい。なんで、お前がまだここにいるんだ?」
ギルドの入口から聞こえてきた冷たい声に、ビクリと体を震わせた。
現れたのは、明らかに高位の装備に身を包んだ四人の男女。
その先頭に立つ男が、蔑むような絶対零度の眼差しでラウンを見ていた。
「言ったはずだぞ。冒険者を引退しろと。なのに、なんで
「あ、う……」
彼に、元のパーティーのリーダーであるグランという男に睨まれ、ラウンは蛇に睨まれた蛙のように縮こまった。
そこへ他の三人が追撃をかける。
「役立たずは早く消えてくれないかしらぁ。目障りでしょうがないわぁ」
嘲笑うような顔でそう言ったのは、二十代後半くらいの、妖艶な雰囲気を纏った
悪女を絵に描いたような腹の立つ顔をしているが、目尻に浮かんだ涙が隠し切れてない。
この素敵なお姉様が。
「アドリーヌさんの言う通りです。グラン様の幼馴染だかなんだか知りませんが、私はずっと鬱陶しいと思ってました。弱者はパーティーにいらないんですよ」
今度は治癒術師っぽい白いローブを纏った少女が、嫌悪感に満ちた目でそう吐き捨てる。
声が震えていた。
慣れないことするなよ、可愛いお嬢さん。
「お、おい! アドリーヌもカナンもやめろ! お前ら、なんでそんな心にも無いこと……」
「「空気読め!!」」
「げふっ!?」
最後に、ザ・悪人面のおっさんがラウンを庇おうとし、女二人からどつかれていた。
演技でも悪いことができない、善良さを煮詰めたような人だ。
親戚にいてほしいタイプ。
「まさか、違うパーティーでもう一度とか考えてるんじゃないだろうな?
やめておけ。低ランクのパーティーじゃお前を守り切れない。
お前というお荷物を無理に守ろうとすれば全滅する。
そいつらのことを思うなら身を引け」
そして、絶対零度の視線のリーダーが、とても常識的な観点から、ラウンの説得を始めた。
言ってることが、いちいちまともだ。
世紀末エプロンのところを始め、色んなところにラウンを雇ってもらえるように頭下げて回ったらしいし、理想の上司かよこの野郎。
「ち、違うよ。この人達には、僕の覚えてきた技術を伝えてるだけなんだ。才能のある人達だから、そんな人達の役に立てたら、少しは僕の冒険者生活にも意味があったって思えるかなって……」
「何?」
リーダーこと、グランの顔が訝しげな感じに歪む。
印象としては「ああん、テメェ、俺の言うこと無視して、何勝手なことしてやがる?」って言ってるように見えるんだが、多分違うだろう。
「……なるほど。そういうことなら、まあ良いんじゃないか?」
ほらな。
グランは絶対零度の視線のままラウンの行動を肯定し、肯定されたラウンはほっとした顔をしていた。
「俺達はもうすぐ最下層の攻略を終えて、この町を出る。臆病者のお前は、真っ当な職について、嫁でももらって幸せに暮らすのがお似合いだ」
ギロリと威圧的な視線を向けながら、そんな気づかいに満ちた優しいセリフを残し、グランは良い奴らを率いてギルドの受付に向かっていった。
残されたラウンは、悲しそうに目を伏せながら、言葉をしぼり出す。
「ユリアさん、あなたのお誘いは本当に嬉しかったです。でも、やっぱりお断りさせてください」
「ラウン……」
「僕にも、能力以上の問題があるんです。グランの言う通り、僕は臆病者なんですよ。ちょっとピンチになったら、すぐに何もできなくなる。こればっかりは、どうしようもないでしょう?」
その言葉に……俺は何も言えなかった。
黒ゴーレムの時はなんだかんだで決断できてたし、どうにかなる範疇だと思ってたが……思ったより深刻な話みたいだ。
具体的な解決策を思いつけない以上、俺は何も言えない。
「安心してください。勧誘は断っちゃいましたけど、教えられることを教えるのはやめませんから。さあ、今日も元気にいきましょう!」
いや、いけるか!
そう思いながらも、ラウンの空元気をわざわざ指摘しても不幸にしかならないと思って、やっぱり俺は何も言えなかった。
ぐぬぅ。
勧誘失敗かぁ。
「あっそ。ま、せいぜい後悔しないようにね」
最後にミーシャがそんなことを言って、ラウンはビクリと震えた。