脳筋ネタキャラ女騎士(防御力9999)!   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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40 『玄無』

 海に現れた怪物。

 それは、山のように大きな一匹の『亀』だった。

 大きさだけでなく、シルエットも普通の亀とはまるで違う。

 まるで剣山のようにトゲだらけの甲羅。

 あまりにもゴツい下顎。

 雄々しい三本の大角。

 本来尻尾があるべき位置で不気味にうごめく、竜のように巨大な三匹の蛇。

 

 ゲームで見たことのある姿。

 あいつら全員に言えることだが、ストーリーで戦った時もやたらと難易度が高くて、何回もリトライさせられたせいで、八凶星と違って記憶に刻まれた姿。

 この世界の逸話としても、『災厄』として広く世界中に知られた通りの姿。

 それは紛れもなく……。

 

「四大魔獣━━『玄無』!!」

 

 魔王の最強の下僕(しもべ)の一角。

 数百年間、誰にも倒せなかった災害。

 ゲームなら高レベルに至った勇者が、同レベルの仲間や軍勢と一緒に挑んで、ようやく辛勝できた怪物。

 

『ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 そんな化け物が、咆哮と共に大口を開けた。

 下手なクジラなら丸呑みにできそうな巨大な口の中に、膨大な量の水が集束していく。

 何をしようとしてるのか丸わかりだ。

 できればわかりたくなかった!

 

「三人とも! 私の後ろに!!」

 

 大盾を構えて三人の前に仁王立ちする。

 俺が守れる範囲はごく僅か。

 その僅かな範囲を、ミーシャ、ラウン、バロンのために使った。

 

 そして、玄無の一撃が放たれる。

 

「ッッッ!?」

 

 膨大な水を使った、尋常ならざる水属性のブレス。

 タコのタコスミ鉄砲とは比べることすらおこがましい。

 津波を大砲にして発射したかのような規格外の攻撃!

 

「ぐぅぅ!?」

「先輩!?」

「ユリアさん!?」

 

 そんな津波大砲に、俺のマッスルパワーはどうにか耐えていた。

 盾を斜めに構え、腰をギリギリまで落とし、地面がめり込むほどに足に力を込めて踏ん張る。

 例によってダメージはないが、パワーが足りない!

 吹っ飛ばされそうだ!

 俺の体は、徐々に徐々に押し込まれていって……。

 

「しまっ……!?」

 

 限界を迎えた。

 津波ブレスの威力を抑えきれず、足が浮く。

 10トンを超える巨重が浮かされる。

 

「くっ!?」

「きゃ!?」

「わっ!?」

 

 吹き飛ばされそうになる中、俺は咄嗟にミーシャとラウンを右腕で一緒に抱えて、魔法耐性のあるマントの中に押し込んだ。

 そして、「ぬぉおおおおお!?」という悲鳴を上げるバロンと一緒に押し流される。

 バリン、という何かが砕ける音が二回聞こえた。

 だが、幸いなことに、飲み込まれて少し流されたあたりでブレスは止まった。

 

「無事か!?」

「なんとかね。でも……」

「腕輪が……」

「ッ……!」

 

 二人は無事だった。

 しかし、装備品である腕輪にハメ込まれた魔石が砕けていた。

 ピエロ……『奇怪星』トリックスターから奪い取った、超高品質な魔石と引き換えに致命傷を無効化するというアイテムが発動した証拠。

 つまり、大部分は防いだのに、最後の最後にちょっと飲み込まれただけで、二人は致命傷を負ったということだ。

 冷や汗が出てくる。

 だが、それ以上にヤバいのは……。

 

「な、なんということだ……!?」

 

 最後だけ庇えなかったものの、自力で耐えたバロンが、あたりを見渡して悲痛な声を上げる。

 俺達の周りには……何も無かった。

 何も無いのだ。

 町並みも、物も、人も、何も。

 ここから玄無のいる海までの間にあったもの全てが、俺達以外、一切合切消滅している。

 あれだけ必死に守ったスーパー貧民星人達も、彼らと戦って倒れていた兵士も、虫の息だった不健康男もいない。

 彼らがどうなったのかなんて、語るまでもないだろう。

 

 一撃。

 たった一撃で、チャブ台クラッシュのごとく、盤面を根本からひっくり返された。

 地神教徒達の悲痛な思い?

 それを招いた支配者側の腐敗?

 彼らを利用した八凶星の非道?

 何それ美味しいの? そう言わんばかりだ。

 

 スケールが違う。

 まるで、恐竜がアリの営みを踏み潰すがごとく。

 まさに災害。まさに災厄。

 脳裏にユリアのトラウマメモリーが再生される。

 目の前の亀の同類に、今この瞬間と同じように、全てを踏み潰された時の記憶が。

 普段は頭痛しか感じないが、今なら少しはこの記憶に共感できる。

 

「お、おのれぇえええええッッッ!!!」

「ダメだ、バロン殿!!」

 

 怒りのままに玄無に突貫しようとしたバロンの首筋を掴んで止める。

 バロンは冷静さを失ったような顔で俺を睨んできて……直後に冷水をかけられたように沈静化した。

 多分、もっとヤバい顔してる(ユリア)を見たからだろう。

 

「単騎で行っても無駄死にだ。協力しなければ欠片ほどの勝ち目すらない。ミーシャもわかっているな?」

「ええ。大丈夫よ先輩。私は冷静だから……!」

 

 全然冷静には聞こえない声だが、聞く耳があるだけマシだな。

 少なくとも、俺が必死に抑えないと今にも暴れ出しそうな脳筋女騎士よりマシだ。

 とか思ってたら、脳筋の方も俺の思考を感じ取ったのか、少し大人しくなった。

 

 よし、それでいい。

 無理矢理にでも冷静になれ。

 じゃないと仲間まで失うぞ。

 俺にマジもんのトラウマを刻み込まないでくれよ。

 

「ゆ、ユリアさん!? もう一発来ます!!」

 

 その時、ラウンが悲鳴を上げた。

 見れば玄無の口の中に、次弾のブレスが生成されていた。

 おまけに、上陸のために距離を詰めてきてるから、さっきよりも近い!

 くそっ!?

 ゲームの時は毎ターン動くのが当たり前だったが、現実になってみると、あれを毎ターン連打とか悪夢でしかねぇ!

 

「ラウン! 予備の魔石を! ミーシャは少しでも奴のブレスを魔法で相殺してくれ! そうすれば私が耐える!」

「は、はい!」

「上等よ! やってやるわ! 『焼けろ、焼けろ、焼けろ!』」

 

 ラウンが若干テンパりつつも、バックパックから身代わり用の魔石を取り出し、その間にミーシャは自分の持つ最強の魔法の詠唱を開始。

 

「レディ! 作戦は!?」

「あれを耐えながら少しずつ近づき、至近距離でミーシャの魔法を浴びせる! 全力の上級魔法なら効かなくはないはずだ!」

 

 ゲーム頼りの知識になるが、確か玄無討伐イベントの推奨レベルは45。

 ミーシャは火力だけならレベル50に届く。

 玄無は水属性、ミーシャは火属性特化で相性最悪だが、やってやれないことはないはず!

 というか、ミーシャの火力でもダメだったら、俺達に打つ手はない!

 

「まずは奴ににじり寄る! バロン殿はミーシャとラウンを抱えてついてきてくれ! あと、できればミーシャの援護も頼む!」

「むぅ……! 聞くからに勝算の薄そうな賭けだが、やるしかないようだね! ここが紳士の見せどころと心得た!」

 

 紳士の見せどころって何やねん。

 あ、もしかして男の見せどころ的な意味か?

 いや、そんなん今はとうでもいい!

 

「行くぞ!」

 

 ラウンが予備の魔石を自分とミーシャの腕輪に装着するのを確認してから、俺達は猛スピードで玄無に迫った。

 バロンが二人を持ち上げることで、俺が盾を構えて最大限に警戒していてもスピードが出せる。

 というか、バロン速ぇな。

 不健康男との戦いでもわかってたが、真っ当なレベル40と同等くらいの俺に準じるほどの速度がある。

 さすがSランク冒険者。

 

『ボォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』

「来るぞ! ミーシャ!!」

「『炎龍の息吹(フレイムブレス)』!!』」

 

 玄無の二回目のブレスと、ミーシャの最強魔法が激突。

 結果は……よし! 少し相殺できてる!

 これなら!

 

「おおおおおおおおお!!!」

 

 足を止め、大盾を構え、俺は再びブレスを受け止める。

 重い……!

 だが、さっきよりはマシだ!

 

「助太刀しよう!」

「ユリアさん!」

「先輩!」

 

 加えて、仲間達が俺の背中を支えてくれた。

 バロンと、彼の腕から抜け出したミーシャとラウンが、後ろから渾身の力で支えてくれる。

 ありがたい!

 これなら耐えられる!

 ……そう思った瞬間。

 

「む!?」

 

 突然、盾に感じる重みが消えた。

 なんだと思えば、玄無がブレスの軌道を変えていた。

 頭を横に振って、直線ではなく横薙ぎの一撃に。

 お、おい!?

 そんなことしたら……!?

 

「くそっ……!」

 

 玄無の一撃が、港町の無事だった部分を飲み込んでいく。

 その光景がスローモーションに見えた。

 凶虎の風ブレスに飲み込まれたリベリオール王国の光景が被って、内なるユリアがトラウマを刺激されて荒れ狂う。

 静まれ、トラウマメモリー!!

 気持ちは文字通り痛いほどわかるが、今は頭痛に喘いでる場合じゃねぇんだよ!!

 

「!?」

「え!?」

「あれって……!?」

「なんと!?」

 

 だが、ここで一つの希望が俺達に映った。

 なんと、突然現れた光の壁が、玄無のブレスを一部とはいえ止めていたのだ。

 その光の壁に守られた区画だけだが、確実に多くの命が助かった。

 

「もしや、先行部隊の誰かか!」

「知っているのか、バロン殿!?」

「うむ! 元々、私は地神教に対する援軍(・・)として派遣されたのだ! 既に現地に何人かの精鋭が派遣されているという話だったから、恐らく彼らだろう!」

「おお!」

 

 素晴らしい朗報!

 あの魔法の威力からして、多分メサイヤ神聖国最強の『聖騎士』か、それに準ずるレベルの強者がいるはず!

 もしあのクール系イケメンがいれば、玄無にもある程度対抗できるはずだ!

 希望が出てきた!

 

「しゃあ! やったるぜぇ!」

 

 そして、それを成したと思われる誰かが、まだ海の上にいる玄無に向かって、宙を飛び跳ねるようにして突貫した。

 遠くてハッキリと見えないし、声もよく聞こえないが、明らかに俺以上のスピードだ。

 よし!

 彼(彼女かもしれないが)に続くぞ!

 

「『神聖斬(セイント・スラッシュ)』!!」

『ボォオオオオオオオオオオオッッ!?』

 

 突撃した誰かが、巨大な光の斬撃を玄無に叩き込む。

 それによって、玄無の顔に大きな斬り傷がついた。

 おお、効いてるぞ!

 浅いが、確実なダメージだ!

 ちゃんと戦える!

 

「へ?」

 

 ん? なんだ?

 誰かの動きが急に止まった。

 遠目でもわかるくらいに、ハッキリと硬直した。

 何か予想外のことでもあったのか…………って、あっ!?

 

「何をやっている!? 避けろ!!」

『ボォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』

 

 遠すぎて聞こえないと知りつつも思わず叫んでしまった俺の前で、怒った玄無のブレスに誰かは飲み込めれてしまった。

 咄嗟に光の壁を展開してたが、横薙ぎブレスが通過するまでの一瞬だけ耐えればよかったさっきと違って、持続ダメージの直線ブレスにはさすがに耐えられなかったみたいで、あっさりと飲み込まれてしまった。

 

 ブレスが過ぎ去った後には、何も残っていない。

 な、名も知らぬ誰かぁあああああ!?

 活躍しそうな雰囲気だったのに、まさか……まさか出落ちで終わってしまうなんて!?

 だが、彼が玄無の注意を引きつけてくれたおかげで、俺達は大分接近できた。

 君の犠牲を無駄にはしない!




ストックが尽きました……。
ここからは大賞用の作品の執筆の合間に、ちょっとずつゆっくりと進めていきたいと思います。
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