【逆光GENJI】どちゃくそ美人の金髪エルフに転生したので主人公を育成することにした【はじめました】   作:goop he

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ちょっとした顔見せ回。


雷鳴の詩

 

 

オラリオの暗黒期において台頭した『悪』の勢力の筆頭として、闇派閥(イヴィルス)と呼ばれる者達が存在する。

 

 

千年もの間、下界における最強を担っていた天空神(ゼウス)貞淑神(ヘラ)の二大派閥による黒竜討伐の失敗と、両派閥の壊滅。

それは都市の勢力関係(パワーバランス)の崩壊を招き、それに伴う『悪』の台頭を許した。

 

秩序が混沌に塗り替えられ、血が血で洗われる、オラリオ史上最悪の惨状。

あまりにも巨大な抑止力によって抑えられていた、神時代の暗い闇が一斉に噴き出した暗黒の時代。

 

闇派閥(イヴィルス)とは、その暗黒期のオラリオにおける『悪』の勢力の急先鋒であり、複数の『邪神』に率いられた眷属の連合体である。

 

 

あぁ、子の嘆きが聞こえる。

当たり前に明日を願い、友と笑い、人に愛されることを望んでいた幼子の涙が。

 

 

あぁ、母の嘆きが聞こえる。

子の未来を願い、夫の幸せを望み、平穏な日常を愛した、しかしそれすら叶わなかった母親の悲嘆が。

 

 

あぁ、父の嘆きが聞こえる。

己の家族、己の命と引き換えにしても惜しくない大切な者達の、無残な骸を抱えた男の慟哭が。

 

 

悪は嗤う。世の全ての幸福を踏み躙ることを至上とする、人の形をした悪鬼達が、当たり前の幸福を嘲笑う。

 

多くの血が流れた。多くの悲劇が生まれた。人々の涙が零れ落ち、救いを求める叫びは届かず、無法と殺戮がオラリオを覆い尽くした。

 

 

しかし、どんなに深い闇が世界を覆ったとしても、明けない夜はない。

 

 

暗黒期の象徴、混沌の第一党として悪逆の限りを尽くした闇派閥であるが、『大抗争』においてオラリオを守護する冒険者達が勝利したことにより、『秩序』と『混沌』の二つの勢力の均衡は『秩序』へと大きく傾いた。

 

既に『悪』の権勢は衰え、全盛期の勢いなど見る影もない。その活動は日ごとに下火となり、暗黒期の終結も現実的なものとなっていた。

 

しかし、追い詰められた者達の悪足搔きほどタチの悪いものはない。

例え大勢が決していようとも、そんなものは関係ないとばかりに暴れまわる破落戸(ゴロツキ)や、『邪神』の御心のため――愛する人と来世で再会するために、オラリオに破壊を(もたら)さんとする狂信者は未だに数多く存在していた。

 

 

 

今日という日もそれは変わらない。在りし日に比べれば散発的であれど、武器を持った悪漢が家屋を打ち壊し無辜の民にその凶刃を振りかざす。ローブの下に火炎石を巻き付けた『邪神』の信者達によって同時多発的に発生した爆発音が響き渡る。

 

緩やかな平穏に包まれていた昼下がりのオラリオは、僅かの間に酸鼻を極める修羅場と化した。

 

 

「ギャハハハ! もっとだ! もっと泣き叫べ! 俺に血を見せてくれ!」

 

 

顔を醜悪に歪め哄笑する獣人の男。血に塗れた剣を右手に、反対の手には事切れた少女の頭部を掴んでいる。

どれほどの恐怖を感じたのだろうか、首から下の無い少女の顔は苦痛と絶望に歪んでいた。

 

 

「神の御心のままに――ミーナ、今から君の元へ行くぞ!」

 

 

白装束に身を包むエルフの男が目を血走らせながら叫ぶ。子供の手を引いて逃げようとする父親へと飛びつき、亡き恋人への愛を謳いながら自爆した。

死の恐怖に怯えるヒューマンの父親は、しかしとっさに子供を路地裏へと突き飛ばし、次の瞬間には血と肉片をまき散らして絶命した。

 

理不尽な暴力、身勝手な破壊。だが、力無き者には抵抗することすら許されない。

 

暖かな思い出の宿る家を破壊され、隣人や家族を殺され、自分の命すら奪われる。疑いようもなく悲劇であるそれ等は、悲しいかな、この暗黒期においてはありふれたモノだった。

 

 

 

血と暴力に酔った獣が嗤う。殺戮の興奮と薬物の乱用によって人間性を捨て去った獣人の男は、片腕に握った少女の首を投げ棄てると、その目を次なる獲物を求めて獰猛に細め――見つけた。

 

 

それは、一人の美しい女だった。

 

目元まで隠れるほどフードを深く被り、厚い黒の外套を纏っていてなお、極上の美女であると分かるほどの美貌。しなやかな肢体を軽装で包み、その胸元は柔らかく盛り上がっている。

なめらかな白磁の肌は透き通るようであり、フードの隙間に見える金の髪は宝石を束ねたような輝きを放っていた。僅かに身じろぎすると、エルフ特有の長耳が覗く。

 

フードを被っているにも関わらず、薬物によって半ば理性を失っているはずの男が意識を奪われるほどの美しさ。ともするとそれは、女神にすら比肩するのではないかと思うほどのもの。

 

我に返った男の顔が、徐々に獣欲に歪む。今までに犯してきた町娘や娼婦など及びもつかない、極上の獲物を前に舌舐めずりを抑えられない。

 

この美しい女に、自分の欲望を全て吐き出してやりたい。細い首を掴み、端正な顔立ちを苦痛と涙に歪ませることができれば、それはどんなに愉しいことだろうか。

1度では終わらせない。この女を捕らえ、奴隷として何度でも犯し尽くしてやる。自分に媚びへつらい、受け入れることを何よりの悦びとするまで、徹底的に躾けてやる。

 

 

男は気づかない。薬物で呆けた脳ミソと、獣欲に茹った理性では気づくことができない。

 

なぜ、こんなところに女が一人で、それも逃げることなく佇んでいるのか。

 

なぜ、女の外套、その左腰のあたりが微かに膨らんでいるのか。

 

 

なぜ、男の周囲にいたはずの闇派閥の構成員が、一人残らずいなくなっているのか。

 

 

「キヒヒッ! おい、そこの女。殺されたくなけりゃ大人しく着いて――」

 

「何年も何年もゴミ掃除をやり続けて、やっと一段落したから休暇に行って、可愛い弟子のおかげで楽しい気分になれていたのに、帰ったらすぐにこれですか……」

 

ポツリと呟く。

 

万人が聞き惚れる甘いソプラノの声音。

それはまるで物語の妖精の(しらべ)のようでありながら、雷鳴の如き迫力を備えていた。

 

「な、何を言って――ガゴッ?!!」

 

エルフの女が獣人の男の首を掴む。悪行であれど幾度となく死線をくぐり抜け、器を昇格させることでレベル4となったはずの男が、反応することすら叶わない。

 

万力の如く首を絞め上げる力は刻々と増していき、男がどれほど藻掻こうとも、微塵も揺らぐことはなかった。

 

雷を宿す蒼穹の瞳と、『魔力』の励起により身体に浮かび上がった黄金の紋様。金の髪は雷光を宿し、火花が弾けた。

 

事ここに及んで、ようやく男は目の前のエルフの正体に気づく。かつての大抗争において、闇派閥の主力であるアパテー・ファミリア、アレクト・ファミリアを散々に蹴散らし、その過半数を斬り殺した最悪のエルフ。

 

『悪』の大敵、雷鳴の化身。闇派閥に最も恐れられた、現オラリオの女冒険者の中で最強の存在。

 

「お、おま、え、『戦乙女(ヴァルキュリア)――

 

「その二つ名嫌いなんですよ、いかにも戦女神の眷属って感じで。それより聞いてくれます? もうね、弟子が凄くて素直で可愛くて仕方ないんです。何度倒れても涙をぬぐって立ち上がりますし、褒めてあげるとお日様みたいな笑顔で嬉しそうに笑ってくれるんですよ。あれはヒーローというよりヒロインですよ間違いなく! この前も修行を休みにして少し遠くの街まで二人で遊びに行ったんですけどね、人の多い場所に慣れてないから私の服をずっとつかんでいて、それでも色んなものに目移りしながら瞳をキラキラさせるんですよあぁ可愛い! しかも使う武器は何がいい?って聞いたら『お姉ちゃんと同じのがいい』と言ってくれてもうどうにかなるかと思いましたよ。確かに単純な才能という意味ではイカレポンチ(同僚)共に劣るかもしれませんが、そんなものは能力値(アビリティ)が伸びて経験が追い付けばどうとでもなるんです。現に今の時点でも『魔力』以外の能力値(アビリティ)はSSですよ、SS。分かります? 修行をした日数なんて半月もないのにそれですよ? もう最高としか言いようがありませんね。ベル君最高! ベル君最高! ほらなにやってんですかお前も讃えるんですよ、それ以外にお前のカスみたいな命に価値なんてないでしょうがほら!!! ……あ、もう死んでますねコレ。汚ね」

 

顔中の穴から血を噴き出し、物言わぬ肉塊となった獣人を放り棄てる。天上の鐘の音のような美声から発せられる下品な罵倒は、エルフの女の人間性をこの上なく表していた。

 

 

ふと、気づく。頚部を握り潰された獣人の死体のすぐそば、その足元に投げ棄てられていた、首から下を切り落とされた少女の顔に。

 

女はゆっくりと少女だったモノの元へと歩み寄り、膝をつく。装束が血に塗れることも厭わず、少女の髪と頬に付いた血を優しく拭い、恐怖に歪んでいる瞳を手のひらで閉じた。

 

「言い訳はしません。私がもう少しだけ早くオラリオに着いていれば、貴女は命を喪うことはなかったでしょう。楽園(エリュシオン)で私をいくらでも恨んでください。私はあと百年はそこに行けませんから。

ただ――」

 

立ち上がる。勢いよくフードを肩へと落として、その美貌を陽光へとさらす。

 

金の美しい髪が腰の高さまで落ちる。強い意志を宿す切れ長の瞳には蒼穹を閉じ込めた碧眼が輝き、薄いピンクの唇は不敵に弧を描いた。

 

 

「貴女を苦しめた塵屑(ゴミクズ)を全て、冥府の底(タルタロス)へと叩き落してやりましょう」

 

 

戦女神が認めた、呪詛による精神汚染にすら揺らがない魂の熱量。天より降る雷霆のごとき存在感を纏い、腰元に提げた白の長剣を引き抜く。

 

次の瞬間、オラリオに雷鳴が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

闇派閥に所属する眷属達が異変に気づいたのは、自らの死が確定したその時であった。

 

雷霆を纏う黄金が闇派閥の全てを轢き潰しながら蹂躙する。白剣を振るうたびに都市が震え、雷光に触れた存在は一切の例外なく弾け飛んだ。

 

「――アアァァアアアア゛ア゛ッ!!」

 

妖精の絶叫(フェアリーハウル)。戦場に勝利を齎す戦乙女の咆哮。

雷鳴を伴うそれが響き渡るたびに、オラリオの住民は歓喜し、闇派閥は恐怖に身を震わせる。

 

単騎で戦況を覆す理不尽こそが英雄の条件であれば、その女は紛れもなく英雄の素質を有している者の一人であった。

 

止まらない、止められない。純粋な速度と攻撃力において隔絶した妖精の進撃を止めうる者は、今の闇派閥には存在しない。

 

器を昇格させていない雑兵は鎧袖一触とばかりに刈り取られ、数少ない精鋭であろうと剣を合わせることすら叶わない。

 

肉も鋼も区別なく両断し爆散する圧倒的な破壊は、闇派閥に断末魔すら許さなかった。

 

「と、止まれ! この子供がどうなヴッ?!」

 

例え敵が人質を取ろうとも、人質が殺される前に敵を殺せば問題ない。そう言い切れるだけの力が彼女にはある。

 

立ち向かおうと、恐れようと、逃げ出そうと、敵対する存在の全てを破滅させる黄金の災害。雷光を宿す白剣が鳴るたびに、瞬きの間すら無く首が飛ぶ。

 

都市に散らばった襲撃者全てを殺し尽くすまで、雷鳴が治まることはなかった。

 

 

 

「闇派閥の質も落ちたものですね。レベル1(使い捨ての爆弾)風情が私を相手に人質戦法なんて、ヘソで茶を沸かすどころか炒飯(チャーハン)を作れますよ」

 

暗黒期の全盛において、自身に仕掛けられた人質戦術をガン無視(見なかったことに)して敵指揮官への斬首戦術を敢行し、結果として乱れた指揮系統を利用して人質を救出した経験のある女はしみじみと呟くと、おもむろに懐から紙袋を取り出す。

紐を解き、ごそごそと中身をあさると、そこに入っていたのは数枚のクッキーだった。

とある少年と共に村で焼き上げたそれを一つ摘み上げると、幸せそうにほおばり始める。

 

自らが築いた屍の山の中、優雅に佇むその姿は、血煙の漂う戦場にあって場違いなほどに美しい。

だが、焼き焦げた肉片が周囲に散らばる中でおやつを食べるその感性は、間違いなく頭のネジが外れた人間のそれだった。

 

 

終結した戦闘の後始末をするべく都市を動き回るガネーシャ・ファミリアの構成員を見ながら、都市の憲兵は大変ですねぇ、と他人事のように考えていたエルフに声がかけられる。

 

「あ、やっぱりレティシアだったんだ。雷の音がしてたから、そうじゃないかと思ってたけど」

 

肩にかからない程度で揃えられた銀の髪と、愛嬌のある整った顔立ちの女性。その顔には人当たりの良い笑みが浮かんでおり、本人の明るい性格を表していた。

 

「あぁ、アーディですか。久しぶりですね」

 

「はいはーい! 品行方正で人懐こくてシャクティお姉ちゃんの妹で、レベル4のアーディ・ヴァルマだよ! じゃじゃーん!」

 

「なんで急に自己紹介しだしたんです?」

 

「うーん、様式美ってやつかな? 案外、子供たちのウケが良いんだよね。レティシアもたまには都市の人達と触れ合ってみたら? ただでさえフレイヤ・ファミリアはとっつきにくさで有名なんだから」

 

「イヤですよ面倒くさい。一般人(パンピー)の目を気にした立ち回りなんて勇者様にでもやらせときゃいいんです。それにほら、エルフは必要以上の馴れ合いを好まないとかなんとか言うでしょ? 私もそれですよ多分」

 

「オラリオで1、2を争うくらいエルフらしからぬエルフが何言ってるの…――でも、ありがとね。レティシアのおかげで、たくさんの人たちが助かったよ。さすがは『雷鳴』だね」

 

「そこで『戦乙女』と呼ばない貴女が大好きですよ」

 

どちらからともなく挙げた手のひらをパチンと合わせ、互いの健闘を称え合う。

 

アーディは呆れたように、しかし親しみを込めて苦笑を浮かべている。

種族が違い、思想が違い、所属しているファミリアも異なる二人の女性。だが、そこには確かな友情があった。

 

エルフの女――レティシアもつられて笑う。友人と何ということもない軽口を交わし、笑い合うこのひと時こそが、これまでの人生の報酬だと知っていたから。

 

「さて、貴方たちが来たのなら後は大丈夫でしょう。では、私は行きますね。用事があるので」

 

「用事? フレイヤ様のところにでも行くの?」

 

「それもありますが……花を買いに行くんです」

 

「へぇ、何の花を買うの?」

 

レティシアは空を見上げる。クソのような出来事があったとしても、それでも明日はやってくる。立ち止まったところで時間の流れは止まることはないし、そもそも彼女は感傷に浸って足を止めるようなまともな感性など持ち合わせていなかった。

 

だから、生きている彼女ができることは、前に進むことだけなのだ。

 

 

「気の利いた花言葉なんて知らないので、店員に聞きますよ」

 

 

 

 

 

 




原作知識関係なく、素で「あれ? これ花火作れるんじゃね?」と闇派閥よりも先に思い至って実際に花火大会(ヘルメス・ファミリア協賛)をやらかしたバカの影響でアーディは生存しています。(危険物だと知れ渡ったためロイマンが頑張った)

スキル込みとはいえ腕力で首をへし折る上に、花言葉もロクに知らないし薬草以外の植物についても大して詳しくない。エルフの姿か? これが…


感想、評価ほんとうにありがとうございます。元気の源です。ご意見、ご感想があれば是非、感想欄にお願いします。


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