遠い遠い宇宙の彼方で。

帰ってきたウルトラマンとウルトラセブンとウルトラマンエースとウルトラマンタロウが再会した。

4人の長い長いグダグダな会話が始まる…


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ウルトラマンネタです。思いついたタイトルからの一発ネタを短編にできました。
『シン・ウルトラマン』は全然関係ありません。
また、宇宙を股に掛けて戦うウルトラ戦士の大活劇や、地球人と宇宙人の間で苦悩する郷秀樹…みたいな話でもありません。

設定については
1.第2次ウルトラブーム時の設定
2.ネットの辞典で調べられる設定
3.捏造
…に基づいています。

独自設定、独自解釈、科学考証も相当適当です。
キャラもかなり崩壊しています。

以上を踏まえて、広い心で一読いただければ幸いです。





新 ウルトラマンのひみつ。 ~ うるとら兄弟物語 ~

 

 

 その日、わたしはいささか憂鬱な気分でウルトラの国のとある街を歩いていた。

 

 ここは宇宙警備隊本部のあるカッスミ・ガーセキから、空を飛べば20分ほどの距離にあるアッサクッサという街である。

 プラズマスパークの光が絶えず降り注ぐウルトラの星ではあるが、一日の仕事が終わる頃からその光量は少しずつ落とされて、あと数時間で地球で言うところの夜のとばりが降りる。

 仕事を終えた多くのウルトラ市民たちはある者は帰路につき、ある者は明日の英気を養うために友や同僚と街に繰り出す…今はそんな時間帯である。

 しばらくぶりに訪れたアッサクッサの街は、かつてはウルトラ庶民の歓楽街の顔をしていたが、今は観光の街に姿を変えつつも下町テイストの残った住宅街である。

 古くからあるウルトラデパートやウルトラ地下街で買い物を済ませた地元の下町っ子たちが、足取りも軽く帰路へ着こうとしている。

 ウルトラ族というと戦士のイメージが強いが、人口180億人のうち99パーセントは一般市民である。戦士はわずか100万人足らずにすぎない。

 健全な街並みに背を向けてわたしが向かった先は、昔ながらの「ヨルノマチ」である。

 この言葉は地球で覚えた。

 路地を一つ二つ折れて、目的の店に辿り着く。店の名前は『アッサクッサ・イチブン』。地球で言うところの居酒屋だ。

 ごく普通のウルトラ市民が足を運ぶ庶民向け…知る人ぞ知る、まぁ小さな店である。

 ニホン風の落ち着いた佇まいの店構えで、チョーチンやノレンが掛けられており、引き戸の扉を自力で開けて店内に入るようだ。

 わたしがウルトラの星を離れて地球に滞在していたこの20年ほどの間に、光の国には地球の文化が流入してきてこういった店が増えているらしい。

 地球…特にニホンの文化は私たちウルトラ族の深層心理に強く訴えるものがあるのかとても心地よく、不思議なほどに馴染むのだ。

 防衛のために地球に派遣されたわたしたちのようなウルトラ戦士とは別に、観光ツアーで地球を訪れているウルトラの市民も実は多い。

 コーベの街で過ごしていた時にも、人間に変身して観光ツアーを楽しむウルトラの市民をよく見かけたものだが、その中でも才覚のある者がこうして地球風味の店を流行らせているのだろう。

 約束の店に近づくにつれ大きくなっていた嫌な予感を振り払い、意を決して引き戸を開けると、「いらっしゃい!」という大将の威勢の良い掛け声に迎えられた。

 7、8人が掛けられるカウンター席と四人掛けのテーブル席が4つの小さな店だ。

 奥にはザシキがあるらしい。

 見渡した店内にはカウンター席に3人、テーブル席は会社の同僚…上司と部下たちだろうか、グループ客で3つが埋まっている。

 その中に、待ち合わせの彼らはいない。

 

「あ、やっと来たぜぇ、ジャック兄さんだ」

 

 大将の声が聞こえたのだろう、オクザシキからウルトラマンエースがひょっこり顔を覗かせた。

 わたしはカウンター席の客の後ろを抜けてそちらへ向かう。

 ザシキをのぞくと、そこにはエースの他にはウルトラマンタロウしかいなかった。

 

「あれ、まだ二人だけ?」

「おれたちも今来たとこ。もう少しでセブン兄さんが来るはずだよ。なんか、恒点観測庁の退職の手続きでそっち寄ってくるってさ」

「え。セブンてまだ恒点観測員だったの?」

 

 わたしはいささか間抜けな声でエースに尋ねた。

 

「らしいよ。ずーっと休職の扱いになったまま手続きしてなかったらしくて。…おれたちやっとウルトラの星に帰ってきたのに、ずーっと忙しかったっしょ。だからセブン兄さん、観測庁の方には全然顔出してなかったんだって。そしたら上司がさすがに本気で怒ってたらしくて、慌てて飛んでったらしい」

「ぼくたちウルトラ6兄弟を怒鳴りつけるって相当なもんですね、その上司の人」

 

 タロウが屈託なくそう言って笑った。

 

「そう言えばタロウ。あらためて、久しぶりだね。元気そうで何よりだ」

「ジャック兄さんも。あちこちのウルトラ6兄弟帰還パーティで顔は会わせてましたけど、ぼくたちで話してる暇なんかありませんでしたもんね」

「タロウはおれたちと入れ違いでウルトラの星に帰還したからな、おれたち的にも久しぶりなんだよな。どうよ、仕事の方は。この、宇宙警備隊の筆頭教官どの」

「やめてよエース兄さん。筆頭教官なんて、父さんの七光りで就かされたようなもんなんだからさ」

「何言ってんだよ。おれたちウルトラ6兄弟の中でもお前の才能は段違いだろ。地球で会ったアイツ…なんて言ったかな。あ、メビウスだっけ? おまえの教え子なんだろ?」

 

 わたしはウルトラの国への帰還直前に地球で共闘した若いウルトラ戦士を思い出した。

 かなりの天然だが、私のいろいろな名前をきちんと憶えている変に博識な青年だった。

 

「じゃ、セブンはもう少しで来るとして、80とかレオとかアストラ、声掛けてないの?」

「80はウルトラ学校の仕事が忙しいそうです。三者面談の時期で、生徒たちの進路指導で大変らしいですよ」

 

 タロウが答えた。

 

「レオとアストラは?」

 

 わたしが尋ねるとエースが顔をしかめながら答えた。

 

「…セブン兄さんがウルトラサイン送ったらしいんだけど、既読がつかないんだって」

「あー…そうなんだ…」

「きっと、ウルトラマンキングにでも呼び出されているんじゃないかな?」

 

 エースがどこか不自然にそう言った。

 

「そうだな、キングに呼び出されてるんじゃ、既読がつかないのも仕方がないな…」

 

 我ながら白々しいなと思いつつ、わたしもエースに同調してそう答える。

 空気を読まないタロウが言った。

 

「ぼくたちのプライベートな集まりって、レオとアストラ的にはあんまり来たくないと思いますよ…ぼくも地球で見てたんですから。兄さんたちのウルトラリンチ」

「言うなよ、タロウ…」

 

 エースが頭を抱えてタロウに言った。わたしも同感である。

 

「いや、アレはやっぱりひどいでしょ。わだかまりは残ると思うな、レオには」

 

 セブンとタロウを除くわたしたちウルトラ6兄弟は、かつて地球でウルトラマンレオと対立したことがある。

 レオの弟のアストラに化けたババルウ星人がウルトラの星の秘宝・ウルトラキーを盗み出し、ウルトラの星と地球を衝突させようと企んだのだ。

 それを阻止しようと地球に急行したわたしたちは、ババルウ星人が化けたアストラを庇うレオと激しく対立してしまったのである。

 

「いや、でもあれはさタロウ…レオだって兄貴のくせに弟が偽物だって気がついてなかったんだからさ…おれたちが、あのアストラがババルウ星人の化けた偽物だって気がつかなくたって仕方がないと思わない?」

「いやあ…それはどうかなぁ、エース兄さん」

 

 タロウが悪戯っぽい笑みを浮かべてエースに答える。

 

「ぼくとレオ、兄さんたちと入れ違いで20年前にウルトラの星に帰ってきたじゃないですか。道中いろいろ話したんですよね。彼、怒ってはいなかったけど…やっぱり思うところはあるみたいでしたよ」

 

 タロウの言葉にエースが深々とため息をついた。彼の代わりにわたしはどうにか言葉をひねり出す。

 

「…わかったよ。レオとは一度、仲直りの場を設けよう。その時はセッティングを頼んでいいかい、タロウ」

 

 わたしとエースをいじめるのにも満足したのか、タロウはにっこり笑って答えた。

 

「わかりました、ジャック兄さん。ぼくから連絡すれば返事くらいは来るでしょう。実際のところ、今日だってグループサイン送ったのがセブン兄さんじゃなかったら返事くらいはあったと思いますよ」

 

 わあ。

 わたしやエースよりちょっとばかり齢若いこのウルトラ戦士は本当に遠慮がない。

 セブンとレオはいわゆる師弟関係にあるが、この二人の関係、セブンの方が思っているほどには良好ではない。…というか、ぶっちゃけかなり微妙なものだということは周知の事実なのである。

 地球でセブンがレオに課した特訓の数々を聞く限り、それもやむなしとわたしも思う。

 人間態のレオを車で轢き殺そうとするとか、尖った丸太を振り子のようにして襲わせるとか、はっきり言って正気の沙汰ではない。

 だが、最大の問題はそういう特訓を強いたセブンの方が、強いられたレオの気持ちにほとんど気がついていない処である。

 20年間地球のコーベで暮らしている間に、ウルトラマン、セブン、わたし、エースの4人は時々顔を合わせていた。封印の状況や互いの近況をひととおり報告し終わると何とはなしに昔話になるわけだが、その時の話の感じからするに、セブンは「レオは俺が特訓して強くしてやった」くらいにしか思っていない節があった。そうだと言える点も多々あるとは思うが、いやいやいや、である。

 と、その時、店の外でウルトラエアカーが賑々しく停まる気配がした。

 ドアが開く音がして、降りてきた男が何か大声でしゃべっているのが聞こえる。

 エースがひょいと首を伸ばして様子を窺う。

 

「あー、兄さん、こっちこっち」

「おー、そっちか。悪い悪い、遅くなったかな、みんな」

 

 賑やかな男が店内を横切りオクザシキまでやってきた。

 メカニカルな容貌と、基調とした赤にシンプルな白いラインが入った身体。胸部は銀色のプロテクターになっていて、身長は…確かわたしと同じくらいだ。

 男の名はウルトラセブン。

 わたしたちウルトラ兄弟の三男である。

 

「おー、タロウ。久しぶり久しぶり。元気だった?」

「元気ですよ。っていうか昨日の今頃も祝賀パーティで会ってたじゃないですか。同じこと言ってましたよ」

「そうですかそうですか、そりゃ失礼しました。いやぁ~、それにしてもみんな久しぶり」

 

 なんか、地球でたまに見かけた営業マン上がりの調子のいい部長さんみたいである。

 ちゃっかり上座に座り込んだセブンはあらためて私たちを見渡し、「あれ、これだけ?」ときょとんとした。

 

「あー、ぼくより下の兄弟たちは仕事が忙しいみたいで」

 

 タロウがそう答えるとセブンは顔をしかめた。

 

「なんだあ…久しぶりに若い連中と会えると思って楽しみにしてたんだけどなぁ。俺だって忙しいんだけどなぁ」

「まあ、今日はぼくたちウルトラ6兄弟水入らずってことで、ね、セブン兄さん」

 

 わたしやエースには物怖じしないタロウだが、セブンから上の3人にはちょっと態度が変わる。

 ウルトラの星ではレジェンド扱いのわたしたちウルトラ兄弟だが、ゾフィー、ウルトラマン、ウルトラセブンはわたしたち兄弟の中でもさらに別格なのである。

 

「あと二人…ゾフィー兄さんとマン兄さんはどうしたんだろうな」

 

 エースが呟くと、それを拾ってセブンが大きな声で答えた。

 

「ゾフィーのことなんかいいよ。こっちは腹ペコなんだ。さあ始めよう」

「いやいやいや、セブン兄さん。まだマン兄さんも来てないから」

 

 わたしが言うと、夢中でメニューを眺めていたセブンがまたまたきょとんとした顔で私たちを見つめた。

 

「あれ? ウルトラマン、今日は欠席だよ? ウルトラサイン、来てなかった?」

「え?」

 

 わたしたちは顔を見合わせた。

 

「ほら」

 

 セブンが中空にウルトラマンからのウルトラサインを表示した。

 

「えー。来ないのかよ、マン兄さん」

 

 エースが大きな声でぼやいた。

 

「どうしたんでしょう、マン兄さん。ぼくたちウルトラ6兄弟がプライベートで会えるなんて滅多にない機会なのに」

「…なんだろうね、科学技術局の人と面会の約束があるって…」

 

 ウルトラサインを読み取ったわたしは何気ない顔で首をかしげつつ、ここへ来るまでの嫌な予感が的中したことを悟った。

 

「ま、そういうことだ。ゾフィーはどうせパトロールで遅れるんだろうし、俺たちだけで始めよう」

 

 セブンの一言で、永い夜が始まった。

 

  * * *

 

 あらためて状況を説明しよう。

 地球の時間表記で行くと、今は西暦2006年ころである。

 話は遡り、現在地球を守っているウルトラマンメビウスがその任に就く20年ほど前…ウルトラマン80が地球防衛の任を解かれ光の国へ帰った5年ほど後のことだ。

 かつてエースと戦った異次元人ヤプールによる大きな地球侵略があった。

 地球に駆けつけたウルトラマン、セブン、エース、わたしの4人はUキラーザウルスという強大な超獣と戦った。

 熾烈な死闘を繰り広げたがこれを退治するには至らず、わたしたち4人はUキラーザウルスを日本のコーベという街の近海に封印し、引き換えに変身能力を失った。

 わたしたちは封印を監視しながら地球で20年を過ごしていたのだが、Uキラーザウルスは悪の宇宙人連合の手により復活してしまった。

 どうにか変身能力を取り戻したわたしたちはメビウスと共闘してこれを打ち倒し、20年ぶりに光の国へ帰還したのがつい先日のことである。

 ちなみに、地球防衛の活動後にそれぞれ地球を放浪していたタロウとレオは、わたしたちが地球に滞在せざるを得なくなったときに、光の国の人手不足を補うために入れ替わりで帰還した。つまり、ここ30年余りの間、地球でも光の国でもウルトラ兄弟がそろっていたことはなかったのである。

 わたしたち4人の20年ぶりの帰還は国を挙げてのお祭り騒ぎとなった。

 宇宙警備隊をはじめ、あちこちの官公庁により『ウルトラ兄弟・光の国帰還祝賀パーティ』が開催され、わたしたちは連日連夜あちこちのホテルへと引っ張りまわされた。

 20年間棚上げしてしまっていた自分の仕事の後始末もしなくてはならない。

 封印の監視という重大な任務を務めつつけっこうまったりと地球の生活を満喫していたわたしたちは、終わってしまった戦士の休息の日々を懐古する間もなく働き続けた。

 そして早や一ヶ月。

 ようやく身辺も一段落してきた私たちは、そろそろウルトラ兄弟水入らずで一杯やろうかという話になった。

 肩肘張った宴はうんざりなので、絶対にお偉いさんの来ない落ち着いた店で吞もうじゃないかと言う話になり、こうしてアッサクッサの小さな居酒屋を訪れた…と、そういう訳である。

 

「じゃあみんな、とりあえずナマでいいよな。おねえちゃん、こっち、ナマ四つね」

 

 セブンの注文に店員の若いウルトラウーマンは「はぁい」と愛想よく答えて厨房に消えた。

 

 どうやらわたしたちが、巷で話題のウルトラ兄弟であるとは気づかれていないようだ。

 光の国の名士と言っていいわたしたちが、お忍びでこんな小さな居酒屋を利用していることが広まってしまえばまた面倒なことになる。

 舐めるようにメニューをチェックし終えたセブンは、今度は壁に貼られた本日のおすすめのお品書きを見つめ、アレは何だコレはうまいのかとひっきりなしにエースに尋ねている。エースは辟易としながらいちいちセブンの質問に答え、タロウは我関せずとウルトラサインで何やらメッセージを打っている。

 わたしも妻にウルトラサインを送っておこうかなと思いついた。

 あまり知られていないが、わたしは既婚者である。

 妻はウルトラの母の妹で、結婚したのはどのくらい前かというと…と、こういう話はウルトラ族の中では秘め事なので勘弁していただくが、まだ新婚と言っていいくらいである。

 そんな時期にわたしは地球へ行ったきり20年も帰って来られず、ようやく光の国へ帰還しても連日連夜の接待パーティで午前様ばかりである。

 帰宅したら倒れるように眠り、朝は早くからカッスミ・ガーセキまで出勤だ。わたしにはもったいないほどの出来た妻は不満の素振りなど微塵も見せないが、だからこそわたしは心苦しく申し訳ない。

 

“今日も間違いなく遅くなるだろうしなぁ…”

 

 3人を見渡しながら、わたしは心の中で呟いた。しかし私を含めてこのメンバー、ウルトラ兄弟の集いである以上に単なる親戚縁者の集まりではなかろうか。

 

「お待ちどう様でしたぁ、ナマ4つでぇす」

 

 ウルトラサインを打ち始めようとしたところで、店員の娘が中ジョッキを4つ器用に持ってやってきた。

 

「おー、待ってました」

 

 セブンが嬉しそうに手ぐすねを引いている。

 

「こちら、お通しになりまーす」

 

 別の店員の娘が小鉢を持ってやってきた。

 

「お通し? へえ、この店、地球の文化よく勉強してるねえ」

 

 エースが言うと、娘はにっこりと笑って言った。

 

「うちの大将、地球の文化が大好きなんですよ。この店、地球のニッポンっていう国のイザカヤっていうところによく似てるんですって」

「ほんとほんと、そっくりだよ。おれ、地球に帰ってきちゃったのかと思っちゃった」

 

 若い娘を捕まえてエースが調子のいいことを言う。

 

「えー。地球に行ったことあるんですかぁ」

「あるよあるよ。こう見えても20年ほど暮らしてたんだぜ」

「やだ、ウルトラ兄弟みたい」

「あ、バレちゃった? おれ、五男のウルトラマンエース」

「もう、お兄さんウソばっか。本物のエースさんはもっとハンサムなんだから」

 

 ノリのいいウルトラウーマンの娘は笑いながらオクザシキから出て行った。

 わたしは渋面を隠せず小声で声を掛ける。

 

「おいエース、冗談きついよ。わたしたちの正体がばれたら面倒なことになるのはわかってるだろ」

「大丈夫だよ、ジャック兄さん。天下のウルトラ兄弟がこんなところへ呑みに来てるなんて誰も思っちゃいないって」

 

 エースが答えた。

 

「そうそう。帰りマン兄さんは心配しすぎなんですよ」

「そうだよな。でもタロウ、おまえのウルトラホーンは隠しとけよ。そんなもん生やしてるのはおまえと父さんの二人くらいなんだからな」

「大丈夫だよ。最近の若い連中の間じゃ着け角、流行ってるんだから」

「そうなの? 初めて知ったよ、おれ」

「さあさあさあ、エースもタロウももういいだろ。そろそろ行こうや、きゅうっと、さ」

 

 セブンが口元でジョッキを傾ける仕草をしながら言った。

 わたしたちはそれぞれにナマの中ジョッキを掴む。

 

「よし、では、我らウルトラ兄弟の再会と故郷への帰還を祝して、乾杯!」

 

 セブンの音頭でわたしたちはジョッキを重ね、ナマを体内へと流し込んだ。

 

「ん? 美味いねコレ」

 

 セブンが鼻の下を泡だらけにしながらジョッキを見つめてそう言った。

 同感である。

 見た目だけでなく、味も喉越しも地球のビールに驚くほどそっくりだ。わたしたちは素直に驚いていた。

 わたしたちが口にしているものは、地球で言うところのサケである。

 光の国にも、あるのだ。

 ディファレーター光線を液体化するまで高密度に濃縮し、これを科学技術局が開発したウルトラ酵母で発酵させ、さらに蒸留したりなんだりかんだりすることで、サケと同様の効能を持つ液体ができるのである。

 高純度の栄養剤的な側面もさることながら、精神が高揚し、快活になり、気勢が上がり、やがて酩酊し、時には昏倒する者も出るこのエネルギー体を好んで嗜む文化が、我々ウルトラ族にも実はあるのだ。

 しかも今、口にしているこのサケは以前に光の国で呑んでいたそれとは別物のように美味かった。

 

「いや、びっくりだな…こりゃツマミも期待できそうだな」

 

 セブンがジョッキを空にして舌なめずりする。

 ウルトラ族には食欲という概念はないが、ディファレーター光線を高濃度で摂取するという嗜好としての食事の文化はある。

 植物や動物性タンパク質に高濃度のディファレーター光線を照射することで組織を変性させ、エネルギーのかたまり…言わば食べ物のようなものを生成するのだ。

 これらは素材の選定や光線の照射量、照射時間等々に調理者ごとの個性が現れ…要するに、美味い不味いという差異が生じる。

 そしてこの店のサケの美味さからして…多分ツマミも、間違いなく美味い。

 地球での生活が長いわたしたちウルトラ兄弟はぶっちゃけた話、舌が肥えている。

 そのわたしの本能が訴えている。

 この店は、美味い。

 

「おぅい、おねえちゃん。とりあえず、ナマもう一杯ずつ持ってきて。あとツマミ、適当に見繕って頼むよ。ボリュームあるやつね」

 

 お通しをぺろりと平らげたセブンが厨房に声を掛けた。

 その顔は気合十分である。

 わたしはこれから先の現実が、的中した予感以上のものになることを覚悟した。

 

  * * *

 

 あたしの名前はセブンガーと言います。

 光の国の科学技術局で開発されたロボット怪獣です。AIの性別は女の子です。

 生まれたのは30年ちょっと前です。

 ご主人さまの前ですっかり酔っぱらっているウルトラセブンさんのために造られたのですが、いろいろあってずっとジャックご主人さまと一緒に暮らしています。ちなみに今は、ご主人さまの謎空間に仕舞われている怪獣ボールの中から外の様子を見ています。

 ご主人さまたちが『ノミカイ』を始められて2時間以上が経ちました。

 4人ともかなり酔いが回っておられます。

 足を崩して壁にもたれていたり、どの方もお顔が真っ赤です。目つきもそれぞれ普通ではありません。

 セブンさんとタロウさんはもともと全身真っ赤ですけど、ひと際真っ赤です。

 でも、ご主人さまはそんなに酔っぱらっていません。

 昔、オサケに溺れて身を持ち崩していたことがあるらしくて、それ以来サケは呑んでも吞まれるな、がモットーなんだそうです。さすが、わたしのご主人さまです。

 エースさんが地球のニホンで言うところのイッショービンを手に取りました。

 『超王』という銘柄のオサケで、ラベルにはウルトラマンキングさまっぽいお顔が描かれています。

 エースさんが、手酌で『超王』をコップになみなみと注ぎ、口に運びました。

 

“ご主人さま、皆さん呑みすぎなんじゃありませんか。もうお止めになった方がいいと思うんですけど”

“…うん。困ったもんなんだけど、止めてやめるような連中じゃないからね…”

 

 ご主人さまも持て余し気味にお答えになりました。

 ここへ来るまでのご主人さまが憂鬱そうだったのは、こうなることを予見されていたからなのです。

 ざっくばらんに言ってしまえば、ウルトラ兄弟のみなさんはサケ癖がよくないのですね。

もちろん、どの方々もまだお若いのに普段は立派な人格者でいらっしゃいます。ウルトラ族の一般的な気質としてみなさん天然系の性格をなさっているのは確かなのですが、どなたも正義感が強く、優秀な方々です。

 ですがオサケが入ると、…当たり前の話ではあるのですが絡んだり管を巻いたり…そういう風になってしまわれるのです。

 それでも、長兄で隊長…上司でもあるゾフィーさんや、真面目な次兄のウルトラマンさんがいれば緊張してみなさんもう少し節度を保ったオサケになるのですが…今日はそのお二人がいないので、すっかりグダグダな展開になっています。

 

「…なぁタロウ、ちょっと聞いていい?」

「なに、セブン兄さん」

「角、なんだけどさぁ」

 

 セブンさんはコップの『超王』をくいっと口に運びながら言いました。

 

「昔から不思議に思ってたんだよ。聞いていい?」

「だからなに?」

「おまえとウルトラの父さぁ…寝るとき、邪魔じゃないの?」

「なにが?」

「角」

 

 タロウさんとエースさんが一瞬顔を見合わせてから、ぎゃははと笑い出しました。

 

「なになに、なんだよ」

「えー、まさかセブン兄さん、知らなかったの?」

 

 エースさんは先程ウルトラウーマンの店員さんが運んできたツインテールの尻尾の炙り焼きをお皿ごと手元に引き寄せながら言いました。

 

「ねえ、ちょっと見て見て、おれの新技」

 

 言いながらエースさんは人差し指の腹にエネルギーを集めると小さな刃を創り出し、包丁のように扱って炙り焼きをきれいにスライスして見せました。

 

「スゴイでしょ、名付けて『指パーチカルギロチン』」

 

 エースさんはタロウさんと顔を見合わせ、またぎゃははと笑います。

 何やってんでしょうか、この人たち。

 

「おい、ちょっとそんなことどうでもいいからさ、教えろよ。俺が何を知らないって言うんだよ」

 

 セブンさんが少し真顔で尋ねても、タロウさんとエースさんは笑っています。

 

「だってさ、邪魔じゃないのかよ、お前の角。寝返り打てねえじゃん。狭いとこ通るとき、邪魔じゃん。特にウルトラの父なんかさ、絶対邪魔じゃん」

「あー、セブンって寝るとき横向きで寝るタイプ? 手首や足首交差させて寝るのは不安感が強くてなんかのコンプレックスあるらしいよ」

 

 かなり酔いが回ってきているせいか、タロウさん、セブンさんのことを呼び捨てです。

 セブンさん、いわゆる体育会系で年齢とか上下関係とか重んじるタイプなんですけど、エースさんとタロウさんに対しては従弟だからかそのあたり割と鷹揚です。

 でもさすがに、ちょっとムキになってきているみたいでした。それを察したのか、エースさんが取りなしました。

 

「…おれも子どもの頃に初めて知った時はかなり驚いたんだけどさぁ…曲がるんだよ、この角」

 

 タロウさんが自分の角の先に指を当てて下に引っ張ると、なんとウルトラホーンは付け根からぐいんと折れ曲がりました。

 タロウさんが指を離すと、びみょんびみょんびみょーんと大きく揺れながら元の位置に戻りました。

 セブンさんもご主人さまも唖然としています。

 

「さすがにさぁ、戦う時とかみたいに緊張している時は硬くなってるんだけどさぁ、普段は割と柔らかくて自由に動くんだよ、コレ」

 

 タロウさんはくねくねと自在に動く角をいじくりまわしながら言いました。ほっぺたにくっつけて「ヒゲー」とか、目の上に持って行って「眉毛~」とか、地球人の顔の造作をわかってないウルトラ族だったら理解不能な一発ギャグを繰り広げ、エースさんが爆笑しています。

 

「え…じゃ、ウルトラの父の角も」

 

 セブンさんが恐る恐る聞きました。

 

「あ、父さん? 曲がる曲がる。もう自由自在。ぼくみたいに指なんか使わなくてもびくびく動かせるレベル。子どもの頃それでよく遊んでもらったなぁ…」

「ソファーで寝るときなんか首の周りに巻き付けてネックピローにしてるよな」

「ちなみに母さんの耳のとこのアレはアクセサリーだからね。取り外せるからね」

 

 エースさんとタロウさんはまた顔を見合わせてぎゃははと笑います。

 

「…そうだったのかよ…どういう身体してんだお前の一族…」

「えー、身体の一部分取り外せるセブンに言われたくないなぁ。そっちこそどういう身体構造してんのよ」

 

 エースさんも本格的にため口になってきました。

 

「そりゃおまえ、えーと…そう、レッド族のヒミツよ」

「またまた適当なこと言っちゃってぇ」

「なんだよ、オマエだってトサカの真ん中に穴開いてんじゃねえか。どういう身体してんだよ。ピアスの穴か? 安全ピンでぐりぐりやってそんだけ大きくしたのか?」

 

 こういうおバカな会話に加わらないご主人さまは流石だな…と思っていたら、ご主人さま、オサケの入ったコップを握りしめながら寝てました。

 

“ちょっとご主人さま、起きてくださいよ”

「う~い…フン、どうせオレはだめなウルトラ族さ…」

 

 酔っぱらって訳の分からないこと言ってます。

 

「ん~、どうしたコラ新マン、寝てんじゃねえぞぉ」

 

 セブンさんが声を掛けてきました。

 

「大丈夫大丈夫、起きてるよ…」

「大丈夫、じゃねえよ。そういやぁおまえ、スペシウム光線の威力上がったのかよぉ」

 

 ご主人さまがぴくっと反応しました。

 

「なになに、2世兄さんのスペシウム光線がどうしたって」

 

 エースさんが話に乗ってきました。セブンさんがちょっと得意げな顔をして話し始めます。

 

「えーとさ、ゾフィーのⅯ87光線の温度が87万度って言うのは常識だろ? で、ウルトラマンのヤツのスペシウム光線が30万度なのよ。まぁゾフィーがイジョーで、フツーの光線の威力はこんなもんだよな。だけど新マンはさぁ、スペシウム光線の威力、25万度しかないのよ」

「えー、ぼく知ってますよ。セブン兄さんのエメリウム光線だって20万度しか出ないじゃないですか」

「俺、ワイドショットで40万度出せるもん。オマエのストリウム光線と同じよ? …とにかく新マンはさあ、必殺技っつーか、決め手に今一つ欠けるのよ。んでしょうがないから俺がウルトラブレスレット届けてやったんだけどさぁ、今度はこれに頼りっきりになっちまいやがってさあ…エース、ほらゴルゴダ星、覚えてる?」

「あ、エースキラーと戦った時の話?」

「そ。あの時俺たち自分の必殺技奪われちゃったんだけどさ、こいつだけウルトラブレスレット奪われたのよ。俺、隣の十字架ではりつけにされたままちょっと笑っちゃった」

 

 あたし、ムカッと来ました。

 ご主人さまはとても努力家です。独自の特訓で流星キックや必殺の投げ技とか、凄い技をいくつも体得しています。

 

“ご主人さま、あたしちょっと外に出してくれます? セブンさん、ぶん殴ってきます”

“あー、落ち着けセブンガー。今、アイツただの酔っぱらいだから。大目に見てやって”

“みれないですよ、ご主人さまのこと馬鹿にして。…大体この人にはあたしも怒ってるんです。あたし、この人のために開発されてご主人さまがはるばる地球まで届けてくださったのに、使っていただいたのたった一回だけなんですよ。今だって、どうせあたしのことなんて覚えてないんですから”

 

 あたしは自分の過去を思わず思い出してしまいました。

 セブンさんと一緒に地球の衛星軌道を漂っていたところをウルトラの母さまに助けていただいたものの、セブンさんはあたしのことなんかすっかり忘れてしまっていました。

 見かねたご主人さまに引き取っていただけなかったら、あたしは科学技術局で廃棄処分にされてたかもしれないんです。

 

“まあまあ落ち着いて。スペシウム光線の威力についてはセブンの言うとおりなトコもあるからさ、わたしもこれから特訓して本当の必殺技のレベルまで鍛え上げるから。気にするな。な、セブンガー”

 

 ご主人さまの優しい言葉に感涙していると、全身真っ赤な酔っ払いがご主人さまに声を掛けてきました。

 

「おいこら新マン、なに一人でボーっとしてんだよ。いいかぁ、俺が持ってってやったとはいえ、これからはウルトラブレスレットに頼り切ってんじゃねえぞぉ、いいな、コラ」

 

 なによこの人、ウルトラ兄弟としては一つお兄さんだけど、ご主人さまとほぼ同い年のくせして偉そうに。

 

「いや、でもさセブン。このウルトラブレスレット、面白いんだよ。便利だし」

 

 ご主人さまはセブンさんに言いました。

 

「2世兄さん、そういうガジェット系大好きだよねえ」

 

 左手首のウルトラブレスレットを大切そうになでるご主人さまを見ながらエースさんがそう言いました。タロウさんがいつの間にか注文していた桝ザケを傾けながら後を続けます。

 

「あ、あと使い方もうまいですよ。ぼくもブレスレット2つ持ってるけど、イマイチこう…うまく使いこなせないんだよね。レオなんかウルトラマンキングからもらった超レアアイテムを傘に変形させるとか、ホントに残念過ぎる使い方しかしてない」

「オマエもバケツとかに変形させてなかったか?」

 

 セブンさんがつっこみます。

 

「2世兄さん、なんかすごい使い方見せてよ」

 

 エースさんのお願いにご主人さまはブレスレットを見つめました。

 

「そうだなぁ…じゃ、こんなの」

 

 ご主人さまはブレスレットを軽く撫でながら、変形させたいもののイメージをブレスレットに送り込みました。

 ブレスレットが小さく輝き、掌に乗るほどの板状の形に姿を変えました。小さなディスプレイと、数字のついたボタンがいくつもついています。

 

「…なにこれ、帰りマン兄さん?」

「ウルトラ電卓。これでばっちり割り勘にできるよ?」

 

 一瞬の沈黙ののち、4人のウルトラ戦士は爆笑しました。

 やっぱりうちのご主人さまもバカでしょうか。

 いえ、場を盛り上げるためにわざとボケられたのです。

 なんて人間の…いえ、ウルトラマンの出来た方なのでしょう。

 

「ところでちょっと待て、エースにタロウ」

 

 ひとしきり大笑いした後、セブンさんがまじめな顔でエースさんとタロウさんに呼びかけました。

 

「ちょっと前から気になっていることがある」

 

 エースさんとタロウさんは、酔っ払いなりに真面目な顔をしてセブンさんを見返しました。

 

「おまえたちさぁ…さっきからこいつのこと、なんて呼んでる?」

 

「…2世兄さん」

 

 エースさんが答えました。

 

「帰りマン兄さん」

 

 タロウさんも答えます。セブンさんは真面目な顔を崩さず頷きました。

 

「俺は新マン。昔からだ。昔からそう呼んでいる」

 

 ご主人さまの顔が曇られたのをわたしは感じました。スペシウム光線いじりとウルトラブレスレットネタは軽くいなしたご主人さまですが、今度はちょっと様子が違います。

 セブンさんが言葉を続けました。

 

「昔から不思議に思ってんだ。こいつの名前って、何なんだろうな?」

「ゾフィー兄さんはジャックって呼んでるんだよね」

 

 サワーのグラスを手に持ったタロウさんが言いました。

 

「2世兄さん、それ、本名なの?」

「んー…どうだろうね」

 

 エースさんの問いにご主人さまは言葉を濁してコップの『超王』を傾けました。

 

 セブンさんが居住まいを正しました。

 

「ちょっと整理してみよう。こいつ…ウルトラ兄弟四男の呼び方だ。まず、新マン」

 

「ウルトラマン2世」エースさんが応じました。

 

「帰りマン。帰マンって言うのもあります」と、タロウさん。

 

「ゾフィー兄さんからはジャック」と、再びエースさん。

 

「ウルトラマンのヤツはウルトラマンって呼んでたな」

 

 セブンさんが記憶を探りながら言いました。

 

「…ああ、同姓同名って可能性もありますね」

 

 呟くようにそう言ったタロウさんが言葉を続けました。

 

「…パーティの席で紹介されるときなんかは、ゾフィー兄さんが呼ぶみたいに『ウルトラマンジャック』って呼ばれてましたね」

「まぁなあ…宇宙警備隊隊長のゾフィーのヤツがジャックって呼んだら、みんなそれに倣うよなあ。俺たちだって公の場ではジャックって呼ぶしなぁ」

 

 セブンさんは口にくわえたグビラのベーコンを引きちぎってもしゃもしゃ食べながら言いました。

 

「帰りマン兄さん、ジャックって言うのが本名なんですか?」

 

 タロウさんの問いかけに、ご主人さまは歯切れ悪く答えます。

 

「いやまぁ…どうでもいいじゃない、わたしの名前なんか。みんな好きに呼んでくれて構わないよ」

「いやいや、この展開でそうはいかねっスよ、2世兄さん。せめておれたちの間だけでも兄さんの呼び方、決めましょう。実はずーっともやもやしてたんだ、おれ」

 

 エースさんの発言にセブンさんとタロウさんが感嘆しながら拍手をし、セブンさんが言いました。

 

「俺はやっぱり『新マン』を推す。新マンは俺たちの中じゃ一番ウルトラマンに似てるからな。ウルトラマンとは別人ってことに気がついた地球人が新しいウルトラマン…『新ウルトラマン』って呼んで、それを省略して『新マン』と呼んでも俺は納得する」

「マン兄さんとそっくりだからっていうなら2世だっていいじゃん」

「んー…なんかしっくりこなくね? 定着しづらいっていうか」

 

 セブンさん、エースさんの案を却下します。

 

「帰りマン兄さんはどうですか?」

 

 タロウさんが提案します。

 

「それ、もっと意味わからねえよ。なんだよ『帰り』って」

 

 自分の案がセブンさんに却下されたエースさんがタロウさんの意見に噛みつきました。

 

「地球人から見て、マン兄さんが地球を去ってまた帰ってきたから『帰ってきたウルトラマン』で、略して帰りマン。理に適ってるじゃないですか」

「だから、ウルトラマンと新マンは別人じゃんかよ」

 

 セブンさんが今度はグリーンモンスのべったら漬けをぽりぽり言わせながら答えました。

 

「地球人は最初二人が別人だって気がついてなかったんだよ。セブンだってそう言ったじゃん」

 

とタロウさんが反論しましたが、

 

「おれも『帰りマン』だったら『新マン』でいい気がするなぁ」

 

 エースさんもセブンさんに同調したので『帰りマン』も却下されました。

 

「じゃあ…あとは『ジャック』?」

 

 タロウさんはまだ不服なのか、ウィスキーっぽいオサケをストレートでぐいっと空けながら不満げに言いました。

 

「…なんだかんだ一番定着してきてるってのはあるよなぁ」

 

 エースさんがトサカのウルトラホールをコリコリ掻きながら言います。

 

「新マン、おまえ的にはどうなのよ、『ジャック』っていう呼ばれ方は」

「うーん…」

 

 ご主人さまは握ったコップを凝視しながら少し考えました。

 

「ウルトラ兄弟の社会的ポジションって言うの? そういうのが上がってきた時にゾフィー兄さんに呼び出されてさあ…私の名前、ウルトラの国の言葉じゃイマイチ発音しづらいし長くて呼びにくいから、通り名でいいから改名しろって言われてね…それでまぁ『ジャック』って呼び名になったんだけど…正直、ピンとこない」

 

 ご主人さまの返事を受けて、セブンさんがコップ酒を一気に煽りました。

 

「ズバリ聞くけどさ、新マン。オマエ、本名何なんだよ。『ジャック』って本名じゃないんだな?」

 

「本名だけどさ…まぁ、いろいろあって後から改名したって感じ?」

 

「じゃあさ、オマエ自身は俺たちになんて呼んでもらいたいんだよ。はっきりしろよ」

 

 エースさんもタロウさんも、そうだそうだとばかりにご主人さまを凝視します。

 ご主人さまは少し困りながらも、意を決したようです。

 コップの中に残った『超王』を一息に飲み干しました。

 

「わたしはねえ…『帰ってきたウルトラマン』がいいよ」

 

 ご主人さまがそう答えると、3人のウルトラ兄弟は露骨に落胆しました。

 

「だからソレ、名前じゃないだろ、呼べないだろ。『おぅい、帰ってきたウルトラマンー』なんてさ。…なんだよ、せっかく俺たちがお前の呼び方決めてやろうって頑張ってるのに」

「そうだよ、もっと自分のこととしてしっかり考えてくれよ」

「そうですよ。名前、それは燃える命。一つのウルトラの星に一人ずつ一つ、ですよ」

 

 セブンさんの言葉にエースさんとタロウさんが同調し、やがてぎゃんぎゃん言いたい放題に好き勝手なことを言い始めました。

 

 ぷちん。

 

 …あ。

 

 3人の態度に、ご主人さま、静かにキレました。

 酔った目つきが、ズンと座りました。

 

「…あのなあ、わたしはわたしの呼び方について考えてくれなんて一言も頼んでないだろ。いいんだよ、みんな好きに呼んでくれて。なんだったら今日からわたしの名前は『帰ってきた新ウルトラマンジャック2世』で構わないよ。もうほっといてくれ!」

 

 ご主人さま、けっこうオサケが回っていたんです。

 激昂したご主人さまの一言にセブンさんたちはポカンとして…それから自分たちが少し調子に乗りすぎたことに気がついたようでした。

 ご主人さまにとって、自分の名前はとてもデリケートな問題なのです。地球でよく、自分だけ変身アイテムがないことを気にされていましたが、それ以上に重要な問題なのです。

 ご主人さまはテーブルに突っ伏して寝たふりをしてそっぽを向いてしまいました。

 気まずい空気がオクザシキに流れます。

 

「すみませぇん、お客様。閉店30分前、ラストオーダーでぇす」

 

 ノリのいい店員の娘さんがいいタイミングで声を掛けてくれました。

 

  * * *

 

「あ…ああ、じゃあ今日は、これでお開きにしようか。その方がいい感じだよね」

 

 あたふたとそう言ったセブンさんをフォローするかのようにエースさんも言いました。

 

「そうだね、おあいそしようか…おねえさん、お会計」

 

 厨房から「はぁい」と明るい声が返ってきました。

 

「えーと、みんな…割り勘でいいかな?」

 

 エースさんが言うとセブンさんがそれをいなしました。

 

「いやいや、今日は俺のおごりだ。いいオサケだったしな。ははは…あ」

 

 ご自分の謎空間から財布を取り出そうとしていたセブンさんの手が止まりました。

 

「どしたの? セブン」

 

 セブンさんは自分を見つめるエースさんの顔を見返しました。

 

「来る時ウルトラエアカー運転してくれた秘書にさぁ…今日はこれで呑んで来いって財布ごと渡しちゃった」

 

「何やってんだよセブン…カッコつけすぎだよ。しょうがないな、じゃあおれが…アレ?」

 

 エースさんは明らかに戸惑いながら自分の謎空間を覗き込みました。

 

「財布…落としたみたい」

「何やってんだよエース…」

 

 自分のことは棚に上げてセブンさんが駄目出しします。

 

「いや、家か職場のロッカーに忘れてきたのかも…やっべえ…」

「しょうがねえなあ…じゃタロウ、悪いけどおまえ立て替えといてくれる?」

 

 セブンさんがそう言うと、タロウさんはとろんとした目つきで答えました。

 

「何言ってんですかぁ。ウルトラ兄弟ともあろう者が一番年下にたかろうって言うんですかぁ」

「そうじゃなくてさ…悪いけど立て替えといてって言ってんの」

「このメンツで呑むのにぼくが財布なんか持ってくるわけないじゃないですか」

 

 セブンさんとエースさんは固まりました。

 

「お会計、こちらでお願いしまぁす」

 

 店員の娘さんが伝票を置いていきます。

 エースさんが金額を確かめました。

 

「3656ウラー? なんだよこの値段!」

 

 1ウラーは光の国の通貨の名前で、地球の日本円に換算すると約30円です。

 ざっくり計算すると日本円で10万円以上の支払いになります。こんな庶民的なお店で請求される額ではありません。

 

「なに…『父の髭』に『獅子の華』『ミルキーメロス』『ウルトラオールドパー120年』…誰だこんな高いサケばっかり呑んだの!」

「…はぁい」

 

 すっかり酔いがまわって角まで赤くなったタロウさんが手を挙げました。

 

「…別に高いオサケじゃないでしょ、ぼくいつも吞んでるヤツばっかだし」

 

「…さすがにウルトラ族一番のお坊ちゃんは金銭感覚がどうかしてるな」

 

 エースさんが呟くように言いました。同じ家で育ったとはいえ養子のエースさんは小さい時から自立心が強く、ご自分でアルバイトをしていたそうです。

 

「とりあえず…どうする、セブン」

「どうするってそりゃ…」

 

 セブンさんが突っ伏しているご主人さまを見ると、

 

「わたしは現金は1200ウラーくらいしか持っていないよ」

 

 ご主人さまはそのままの姿勢で答えました。

 

「…しかたないエース、おまえちょっと外に出てコンビニ行ってこい。ATMでウラーおろしてこい」

「キャッシュカードも財布の中だってば」

「…俺もだ」

 

 エースさんが恐る恐る…と言った風情でご主人さまを見ました。

 

「2世兄さん…いや、帰ってきたウルトラマン兄さん? ウルトラクレジットカードとか、持ってない?」

「クレジットカードは地球にいる間に有効期限切れちゃったヤツしか持っていない。キャッシュカードは持ち歩かない主義だ。衝動買いで無駄遣いすると困るからね」

「…絶体絶命のピンチだな、セブン兄さん」

 

 セブンさんとエースさんは見つめ合いました。

 

「唯一の解決策は…正直に店員さんに打ち明ける…」

「待てエース。ウルトラ兄弟ともあろう者がそんなカッコ悪いことができるか」

「いいじゃん、別に」

「いや。俺は栄誉あるウルトラ兄弟の三男として、俺たちの名がこんなことで貶められることに我慢ができない」

「別に貶められるとかそういう話じゃないじゃない」

「いや。そういう話だ」

「じゃ、どうすんのよ」

「誰かほかの兄弟に持ってきてもらおう」

「誰よ?」

「レオかアストラ」

「ウルトラサインにまだ既読ついてないよ」

「80」

「学校の先生は忙しいんだよ。仕事持ち帰ってまだ働いてるよ」

「…ウルトラマン」

「マン兄さん夜の9時にはベッドに入って寝ちゃう人なんだ。朝の4時まで絶対起きないよ」

「なんだ、その年寄りのような生活サイクルは」

「知らないよ」

「大丈夫ですよぉ。ゾフィー兄さんがいるじゃないですか。困ったときに頼りになるのはいつだって一番上のお兄さんじゃないですかぁ」

 

 酔いが回って壁にもたれたタロウさんが声を掛けてきました。

 

「馬鹿言え。あのくそ真面目なゾフィーにこんなこと知れたら大変なことになるぞ」

 

 セブンさんが全力で否定します。

 

「…ゾフィー兄さんって、助っ人としては頼りになるようでならないとこあるしね」

 

 エースも言いました。

 

「だいたいゾフィーは今日はどうしたんだ? あいつからの連絡なかったよな?」

 

 エースさんが自分あてに届いているウルトラサインを確認しました。

 

「あ。今日は来れないってサイン来てたわ。しかも2時間くらい前」

 

 これで、長兄に奢らせて事なきを得る作戦も消えたか…とセブンさんは思ってるのだろうなぁ。

 絶望的な表情を作ったセブンさんを見てあたしは思いました。

 

「こうなったら…家までウラーを取りに帰るしかないな」

「セブン兄さん、家どこよ」

「ヒガーシカスカベ」

「往復2時間くらいかかるじゃねえか! あと30分で閉店よ、この店」

「安心しろ。まずはミクロ化変身して店を抜け出す」

「ミクロ化することに何の意味があるの! それにここ地球じゃないから! ウルトラの星の重力、地球の120倍よ? こんなとこでミクロ化変身したらプチッて潰れるから!」

「…頼むぞ、ウインダム、ミクラス、アギラ!」

「ペットにお使いを頼むな!」

「カプセル怪獣はペットじゃありません! 大切なともだちです!」

「落ち着けセブン、キャラ壊れてるぞ!」

「エース、人の意見を否定するばかりじゃなくて自分のアイディアを出せよ!」

「だから、ここの大将に素直に事情を説明するって言ってんだろ!」

「おまえな、あのかわいらしい店員の娘たちにこんなかっこわるい事実を知られることに耐えられるのか?」

「おれは別に気にならない」

「俺はなる!」

 

 …この二人、やっぱりバカでしょうか。

 

「…いつまでもしょうがないなぁ、兄さんたちは」

 

 半ば眠りこけていたタロウさんが言いました。

 

「こうなったらぼくが何とかしましょう」

「ホントか、タロウ」

「任せてください、セブン兄さん」

「念のため聞くけどウルトラの父にサイン送って助けてもらう、とかじゃないだろうな」

 

 セブンさん、疑り深いです。

 

「違いますよ…そんなことしたらぼくだってこづかい止められちゃいますよ。任せてください。ぼくにしかできない技で、このぼくが何とかします」

 

 ふらつきながら立ち上がったタロウさんは両腕を胸の前で組みました。腕を開き胸を開くと、全身から赤い炎のようなオーラが立ち上りました。

 

「わあ、セブン、こいつ止めて!」

「なんだなんだ?」

 

 血相を変えたエースさんがタロウさんに跳びかかり、セブンさんも訳はわからないながらもタロウさんを羽交い絞めにしました。さすが歴戦のウルトラ戦士、状況はわからずとも今何をすべきかの判断は間違いがありません。

 

「…ウルトラダイナ…」

「バカ、やめろタロウ!」

 

 エースさんがかろうじてタロウさんの口を抑え込み、必殺の技名を口にするのを妨げました。タロウさんの身体から噴き出していたオーラが消えていきます。

 

「なんで邪魔するの兄さんたち。せっかくぼくがウルトラダイナマイトで何とかしてあげようと思ったのに…」

「おまえはウルトラ族一の大馬鹿かっ」

 

エースさんはぜーぜー息を切らしながら叫びました。

 

「大丈夫だよ。ウルトラ心臓さえ無事ならぼくはちゃんと蘇生できるから」

 

「おまえは蘇生できてもこの店はできんわ!」

「母さんに頼んで弁償してもらうよ」

「いい加減独り立ちしろ!」

「宇宙警備隊の筆頭教官とか言ってもさぁ、給料安いんだよ」

「あんな高級酒呑んでる奴が何言ってる!」

 

 エースさんが絶叫し、セブンさんは絶望的な状況に頭を抱えています。

 

「すみませぇんお客様、そろそろお会計お願いしまぁす」

 

 ノリのいい店員の娘さんが少し困った顔でオクザシキに顔を出しました。

 万事休す。

 セブンさんとエースさんが終わった顔をした時、ご主人さまがむくりと起き上がり、娘さんに声を掛けました。

 

「ああ、ごめんねおねえさん。じゃ、サインペイで」

「はぁい」

 

 娘さんは持っていたバーコードスキャナを手に取り、ご主人さまはウルトラブレスレットを操作しました。

ブレスレットに現れたバーコードに娘さんがスキャナを当てると、ピッピッと心地よい音がしました。スキャナと繋がったプリンタがうぃぃんと唸ります。

 

「はい、ありがとうございましたぁ。こちらレシートになりまぁす」

「はい、ありがとう。ごちそうさまでした」

 

 店員の娘さんは空のお皿をいくつか片付けてオクザシキを出ていきました。

 ぽかんとしたセブンさんとエースさんがご主人さまを見つめます。

 

「えーと、新マン…じゃなくて帰ってきたウルトラマン…今の、なに?」

「サインペイ」

 

 ご主人さまは立ち上がりながらさらっと答えました。

 

「ウルトラサインに電子ウラーをチャージしておくと、現金レスで支払いができるんだよ。この20年の間に光の国ではかなり普及したみたいだねえ。わたしは読み取り端末にウルトラブレスレット使っているけど、ウルトラサインでの読み取りもできるそうだよ。君たちも使ってみたら?」

 

 さすが、ガジェット系が大好きなご主人さまです。

 一足先に座敷から降りて三人を見ながら、ご主人さまはさわやかな笑顔で言いました。

 

「今日は楽しいオサケだったから私のおごりだよ。さあ、帰ろうか」

 

  * * *

 

 ウルトラの国に隣接する都市、ヨッコハーマ・イズミクーの駅に着いたのは深夜1時を回っていた。

 酔っ払い飛行はウルトラ条例で禁止されているので、ウルトラタクシーを頼んで三人を帰らせた。

ヒガッシカスカベとオダイバーまでのタクシー代相当のウラーをそれぞれ持たせ、タロウのことはエースにしっかり送り届けるように厳命し、わたしは最終のウルトラ通勤トレインに飛び乗った。

 閑静な住宅街は灯りも消えて寝静まっている。

 わたしは足音を控えて静かに自宅までの道を歩いた。長い飲み会に疲れたのだろう、謎空間のセブンガーも眠っているようだ。

 わたしが我が家のドアのロックを開けて静かに室内に入ると、ダイニングには薄明かりが灯っていて、テーブルに突っ伏すように妻が眠っていた。

 

「…あ、帰ってきた。お帰りなさい」

 

 わたしの気配に気づいた妻が目を覚まして顔をあげた。

 

「遅くなってごめんよ。休んでくれていてよかったのに」

「なんだか目が冴えちゃって起きてたんだけど…」

 

 突っ伏していた妻の傍らには読みかけの一冊の本が置かれていた。若草物語。地球から持ってきた、妻へのお土産の一冊だ。

 そのそばにはワインのようなオサケのボトルと飲みかけのグラスがあった。

 彼女はウルトラの母の妹でわたしより7万歳ほど年上だが、文学と絵画を愛する穏やかで夢見がちな少女のような女性である。

 そんな彼女にひとりワインを傾けさせていたことに、わたしは罪悪感を覚えた。

 

「…何か飲む?」

 

 飲みかけのワイングラスを見られて照れ臭くなったのか、妻はそう言って立ち上がった。

 わたしより頭半分ほど背の低い小柄な妻の手を取って、わたしは彼女を抱き寄せた。

 

「…オサケくさい」

 

 妻は小さな声で笑うように言った。

 

「君もだ」

 

 わたしたちは小さく笑った。

 

「明日も早いんでしょう?」

「今日、辞令をもらったよ」

「おめでとう」

「宇宙警備隊支部長…兼務で地球課長だよ」

「まぁ」

 

 妻は驚いた声をあげた。

 

「職権乱用という訳ではないけど…近いうちに君を地球に連れて行ってあげるよ」

 

 妻は地球で見たひまわりのような笑顔を作った。

 彼女は光の国より豊かな文化を持つ地球にずっと憧れているのだ。

 

「嬉しいわ、ありがとう…でも、ウルトラ道場の先生をやりながらそんなにお仕事を抱えて大丈夫なの?」

「大丈夫さ」

 

 彼女の気遣いに、わたしは今日一番くつろいだ微笑みを浮かべた。

 

「これからはできるだけウルトラの星を離れずに…君のそばにいることにするよ」

 

 妻は嬉しそうに私の首に手を回し抱き着いてきた。

 

「ありがとう、帰ってきたウルトラマン…いえ、ウルトラマン・カエッテキタ」

 

 わたしは彼女の唇にそっと人差し指を当てて言った。

 

「…それはわたしたち二人だけの秘密だ」

 

 妻ははにかむように笑みを浮かべた。

 わたしの本当の名前、カエッテキタ。

 それはほとんどのウルトラ族が忘れてしまった古い言葉で、「正義と平和を守る者」という意味がある。

 

 

                                    了

 

 





コメディを書きたいと思っていたのですが、グダグダでオタクな小ネタの羅列になってしまいました…。セブンガーも、心の中でセブンたちに突っ込むカエッテキタの相方としてもう少し活躍させたかったのですが…このあたりがちょっと残念です。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。


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