9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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主人公視点から。新海翔と別れ、夜の用事を丁度済ませた所からどうぞ。

襲撃シーンは数十秒で終わったのでスキップしておきました。




第9話:始まりを告げる一歩

 

「今回は……食後の運動にしては悪くは無かったかな?」

 

地面で倒れている複数の人間を見下ろしながら、日中に食べたご飯を思い出す。

 

先輩と食べた中華は美味しかったなぁ。久しぶりに食べたからか美味しさより懐かしさを強く感じたけど。

 

味は……多分美化されていたのかもしれない。

 

「こちら舞夜、殲滅し終えたよ」

 

耳に付けている無線で終了を告げる。

 

『ん、お疲れ様』

 

「それじゃあ、帰ろうかな」

 

部屋から出ようと踵を返した瞬間、さっきまで男たちが飲んでいたと思われるテーブルが視界に入った。

 

「……あれ?」

 

視界に映った光景に違和感を感じて立ち止まる。

 

「……五つ?」

 

部屋のテーブルに置かれている飲み物……アルコールだろう。コップの数は五つ。

 

「けど、四人しか居ない……」

 

しかし、地面で倒れている人数は四人。

 

「マジかー……ゴメン璃玖さん、一人足りない。逃げてるかも」

 

すぐさま無線相手へ連絡を入れる。

 

『了解、探してみるから渡したやつ、外で出してくれる?』

 

「ちょっと待ってね」

 

急いで外に出て屋根へ移り、渡されていたドローンをバックから取り出して置く。

 

「何時でもお願い」

 

『一分も掛かって無いからまだ近くに居るはずだし、直ぐに見つかると思う』

 

小さな音を立て、動き出したドローンがあっという間に夜の空へと消えていく。

 

「んー……多分、逃げるならこの方角だと思うけど……」

 

念の為、周囲の音と気配を探るが……すぐそばでは潜んではいない。

 

『見つけた』

 

「どこっ?」

 

自分でも探そうかと考えていると、璃玖さんから発見の連絡が入る。

 

『まやまやが見ている方角を進んだ先で走ってる。多分20代ぐらいの男』

 

「ありがとっ!」

 

言われた方角へ向かって取りあえず駆けだす。今なら直ぐに追いつける。

 

『あ、急いだ方が良いかも……逃げてる先の表通りを人が歩いてる。見られることは無いと思うけど』

 

「あちゃ、まじか。了解」

 

万が一も考えて能力も併用して夜の路地裏を駆け抜けていく。

 

『そこ、右に曲がって。そのまま真っ直ぐにいる』

 

言われるまま通路の角を右に曲がる。

 

『あー……不味いかも』

 

「どうしたの?」

 

璃玖さんが困った様な声を上げる。

 

『通行人が……何かに気付いて立ち止まった。しかも……その人、まやまやの知り合い』

 

「へっ!?ほんと!?誰っ!男?女?」

 

『男。新海翔』

 

「選りにも選って新海先輩かいっ!!?」

 

ある意味一番面倒な相手かも……いや、一番安全な相手でもあるけどさぁ……!なんでぇ……。

 

「っ……見えたっ」

 

路地を真っ直ぐ行ったところで男の背中を確認した。と同時にその奥の街灯下で立っている先輩の姿も確認出来た。

 

男は既に先輩へ姿を見せているが、口封じとかで襲う気配は無い。

 

そのまま能力で音を消しながら、新海先輩に見られない様に男の少し後ろで立ち止まる。

 

「くそ、人に見られちまったか……いや、今はそれよりも……、まだ俺を探しているはずだ、さっさと撒かねぇと―――」

 

口封じより逃走を優先するような言葉を聞きながら、背後から男を巻き上げて一先ずこちら側へ引きずり込む。

 

「―――ッ!?――ッ!!ッ!!」

 

声が聞こえない様に先輩とこちら側で音を遮断しつつそのまま裏路地へ連れて行き、男の首をへし折り息の根を止める。

 

「……さて、どうしたものかなぁ……?」

 

掴んでいた頭を離し、男の体が地面へ落ちる。

 

『どうする?』

 

「申し訳ないけど……後処理お願いしても大丈夫かな?」

 

『任せて。私の方で回収と片付けの連絡はしておくから』

 

「お願いします。私は先輩の対応で難しそうだから……」

 

『何かあれば連絡を送るから大丈夫』

 

「うん、それじゃあ」

 

璃玖さんとの連絡を切り、未だ街灯下でこちら側を警戒している先輩を見る。

 

……はぁ、なんでこんな時間にこんな場所で……。しかもタイミングの悪さ……。

 

新海先輩って、やっぱりそういう運命力的な物をお持ちなのかもしれないですね。流石は主人公と呼べる存在と称賛を送れば良いのだろうか?

 

「っと、いつまでも待たせる訳にはいかないよね」

 

ちょっとした現実逃避から戻り、姿を見せる前に身なりを確認しておく。

 

……うん、恰好は何回か見せてるから良いとして、血とか変なのは付いて無い。おっけ、問題無し!

 

見られても大丈夫と判断し、能力を解除して先輩の前に姿を現す。

 

「こんな所で夜のお散歩ですか?新海先輩?」

 

普段通りの冗談を少し交えながら、警戒している先輩へ声を掛けた。

 

「こ、九重……?」

 

「はい、その通りです。驚きましたか?」

 

出て来た相手が私だと知り、警戒から驚きへ表情を変える。

 

「な、なんで九重が……?」

 

「それは寧ろ、私が先輩に尋ねたいくらいですよ。どうしてこんな時間にここに居るのですか?普段ならこんな場所に足を運ぶことは無いと思いますが……」

 

「あ、いや……コンビニで買い物をしてて、な……」

 

そう言って手に持っているビニール袋をこちらに見せる。

 

「コンビニ……?それにわざわざ……?」

 

「甘いものが食べたい気分になってさ、今日九重が勧めてくれたやつがあっただろ?あれを買おうとして出掛けたんだが、近くのコンビニに売ってなくてな。色々と巡ってる内に……こんな場所まで来ちまっていた」

 

「私が勧めた……あのデザートの事ですか?」

 

「そうなる。フルーツ系のやつ」

 

「あ……ああ。そ、そう言う事でしたか……」

 

なるほど、それを探し求めてコンビニを転々と……。あれ?つまり……私のせい?

 

「わ、私が言ったせいで、先輩がコンビニ巡りをする羽目に……?」

 

「いや、別に九重のせいじゃないぞ。俺が途中で買おうと意地になってただけだ」

 

「ですが、私が変に勧めたせいであって……」

 

そのせいで先輩とここで出くわしてしまった結果になっている訳で……。

 

「だから違うって。それよりも、九重はなんでこんな時間に……?それに、その恰好……」

 

私の服装を見て、先輩の言葉が止まる。まぁ、私が何をしていたのか何となく察してるのだろう。

 

「あー……まぁ、街のお掃除的な事を少々……ですかねぇ?」

 

うん、もう少しまともな言い訳を言うべきだね。

 

「ま、街の掃除……そ、そうか……」

 

「新海先輩なら、私の事情を多少なりとも知っていると思いますので、察してもらえると助かります」

 

「つまりは、そう言う事なのか……?」

 

「そういうことです。なので、ここで見た事は他言無用でお願いしますね?」

 

「わ、分かった」

 

「ありがとうございます。取りあえず、ここで話してるのもなんですし、解散しましょうか?」

 

あまり長居は出来ないし。

 

「……そうだな。そうするよ」

 

何か聞きたそうな顔をしているが、ここに留まっているのは良くないと察して頷く。

 

「九重」

 

帰ろうと歩き出した先輩が、立ち止まってこちらを見る。

 

「どうかしましたか?」

 

「……もし、九重さえ良ければ……さっきの事、後で聞かせて貰っても良いか?」

 

先輩の発言に、嫌な予感がした。

 

「………」

 

少しの不安と、心配を混ぜたような表情で私を見ている。

 

「……いや、やっぱり忘れてくれ。何でもない」

 

私が無言で黙っているのを見て、先ほどの言葉を取り消す。

 

「いえ、待って下さい。このまま話さないのも良くないですし……少し、考えさせてください」

 

一旦、回答を濁す。

 

「良いのか……?」

 

予想外だったのか、驚きながらも聞き返す。

 

「……はい。後日、時間を作りますので……その時には答えを出しておきます。それでは、気を付けて帰って下さい」

 

「ああ、九重もな……」

 

新海先輩へ頭を下げ、裏路地へと去る。

 

先ほど殺した男を持ち上げ、璃玖さんへ通信を繋げる。

 

『終わったの?』

 

「取り敢えずは……かな?そっちはどうかな?」

 

『今、回収しに建物へ向かってるはず』

 

「了解、逃げた一人は私がそっちに持っていくから大丈夫って連絡入れて貰ってもいい?」

 

『ん、入れておく』

 

「あと、可能ならドローンで先輩が無事帰宅するのを見て欲しいんだけど……いけそう?」

 

『んー……街中で追うのは難しいけど、部屋に帰ったかくらいなら平気』

 

「よろしくお願いします」

 

『承った』

 

「ではでは、また後で」

 

通信を切り、静かにため息を吐く。

 

やっちゃったなぁ……ほんと。

 

先輩を巻き込まないとか言っておきながら……はぁ。どうしよ……。

 

あの表情……。絶対気になっているよね?これまでは気になってはいるけど、私が言った手前深入りは出来ない。そんな距離感だった。

 

けど、さっきの言葉でこちら側へ一歩踏み込んで来ていた。先輩側から私へ歩み寄って来た。

 

これはもう……、手遅れかもしれない。

 

ここで変に突き放すような真似をすれば、更に変な心配を掛けてしまう。そうなれば先輩は確実に動き出す。

 

オーバーロードを持っている先輩が一度知りたいと決めたら……誰にもそれを阻止することは出来ない。いつか必ず知られてしまう。

 

問題は、その事情を知る過程で何度も繰り返すかもしれないという点。

 

私が頑なに明かさない態度を取れば、先輩に苦労をさせる……無駄な手間を取らせてしまうだろう。

 

「なら……先に話した方が、スムーズに進む……よね?」

 

未だに迷いはある。話した方が今度の利点が多いのも事実だが……巻き込んでしまうのも事実。

 

「……この枝の私じゃなくて、他の枝なら……どうするのかな」

 

仰ぐように夜空を見上げ、もう一度ため息を吐いて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、お茶」

 

「どうもです」

 

テーブル越しに座って居る九重に飲み物を渡す。

 

先日の夜、運悪く遭遇してしまった事について話がしたいと、俺宛にメッセージが来ていた。

 

「よいしょ……。じゃあ、前の件……聞いても良いか?」

 

正面に腰を下ろし、申し訳なさそうな顔をしている九重に尋ねる。

 

「……はい。その前に、一つ謝らせて下さい」

 

「謝る……?」

 

「前に、先輩達を巻き込まないって言っておきながら……あのような失態を犯してしまったので。……本当にすみません」

 

そう言って俺に向かって頭を下げる。その表情は髪で隠れて見えないが、声から察するに九重からすればかなりのことらしい。

 

「いや、あれについてはそっちは悪くないだろ?俺が勝手に歩き回ってたんだから」

 

「いえ、私が一人取り逃がしていなければ先輩に遭遇することにならなかったわけですし……、変にデザートを勧めてしまった事がそもそも―――」

 

「待て待て、別に俺自体に何か遭ったわけではないし、問題は無かっただろ?」

 

「まぁ……それはそうですが……、先輩に見つかった事が大きな問題ってものありますが……」

 

「俺が見つけた事が何か問題なのか?」

 

「……まぁ、それなりに」

 

「まずはそれを聞かせてくれ。今日はそのつもりでここにいると思っている」

 

「……聞いたら後戻り出来ませんよ?」

 

「何となくそうだろうと覚悟はしているつもりだ」

 

「オーバーロードを使って戻るなら今の内ですよ?」

 

「使う気は無いから安心して良いぞ」

 

「……巻き込みたくないんですよ。折角の平穏を乱したくはないのです」

 

「……そっちがどうしてもって言うなら、考えるけど」

 

そこまでってことなら、こっちも迷惑になりたくはないが……。

 

「……いえ、多分無駄だと思いますので、大人しく話します」

 

諦めたようにため息を吐き、静かに話し始めた。

 

今、この街で起きている事。九重の実家が派閥争い……でいいのか?漫画とかでよく聞くいざこざが起きており、九重の故郷の人がそれに参加しているせいでその始末に追われているとのこと。

 

「そんな感じで、白巳津川周辺に私の故郷から嫌な人達が来てしまっているんです。そのせいで違法な物とかの流通も増えてしまい、その対処に忙しいって感じです」

 

「この前の男もってことか」

 

「はい。私の実家の争おうとしている一家に協力している組織の下っ端だと思います」

 

「なるほどな……」

 

だから俺に気を付けろって言っていた訳か。まぁ……今回のはどうしようも無かったんだけど。

 

「何となく、状況は分かった気がする。話してくれてありがとな」

 

「……いえ、どの道いつかは知られると思いますので。ところで……」

 

逸らしていた目を合わせてくる。

 

「先輩が知りたがっているのは、そういうことでは……無いですよね?」

 

寂しそうな目で俺を見る。

 

「……どういう意味だ」

 

「本当に知りたいのは、私の取り巻く現状ではなく……九重舞夜という人間について知りたい……違いますか?」

 

自嘲気味にほほ笑むその顔は、何か観念したような雰囲気を感じる。

 

「………」

 

その通りだ。

 

皆には反対されたが……あの日から、考えない様にしても気になってはいた。

 

今回のも、何か知ることが出来れば……程度の気持ちだったが。

 

「無言は肯定と受け取る……で良いんでしょうか?」

 

「……ああ、九重の言う通りだ」

 

素直に答える。簡単に気づかれるくらいには態度に出ていたのかもしれないな。

 

「……聞かせて貰っても良いですか?先輩が、何を知りたがっているのかを……」

 

「……分かった」

 

多分、九重にとってあまり聞かれたくない内容になるはずだ。今の声を聞いてるだけで分かる……が、ここまで来て今更聞かずにはいられない。

 

正直に話した。ソフィと相棒が話していた内容を。俺がこの枝に来た理由を……。

 

俺が話している間、九重は目を閉じてそれを静かに聞いていた。

 

「と、まぁ……そう言う理由でソフィに頼まれてまたこの枝に来たわけだが……」

 

「私の行動理由と……その正体を明かすってことですね」

 

「そんな感じだ」

 

「新海先輩は、どう考えているのですか?」

 

「どうって……」

 

「仮にソフィの推察が正しく、私が未来を視ることの出来た人だとしたら……どう思いますか?」

 

「マジかよ……って驚きはする。超能力が実在したのかって……いや、アーティファクトが実在しているからありえなくはないけど……」

 

「そうではないです。それを前提に考えた時……これまでの戦い、枝での出来事に関してです」

 

「……っ」

 

九重の言葉を聞いて、俺に何を言いたいのか理解した。

 

これまでの枝での出来事……。

 

「……解ったみたいですね。そうだとしたら、私はここに来るまで多くの可能性を捨てて来たことになりますよ?九條先輩を見捨て、天ちゃんを助けず、皆さんの石化を止めず、この街の悲劇を見過ごしたことになりますよ?」

 

「……あ、ああ」

 

この枝に来るまで……ゴーストや与一、イーリスを倒す為に犠牲になった枝の数々。何度もやり直した枝……。

 

「すまん……そうだな。そうだった」

 

九重の言葉に気付かされ、謝る。

 

「―――そんな人間だとしたら、どうしますか?」

 

俺に問われた言葉で顔を上げる。目の前にいる九重は……ただ小さく笑っている。

 

「……違うって、そうじゃないって……否定、しないのか?」

 

一言、その一言だけでこの話は終わりになる。けど、九重からその言葉は出てこない。

 

「……私にも、つきたくない嘘がありますので。それに、先輩ならその内辿り着いていましたから」

 

「本当……なのか?」

 

「……本当ですよ。事実は少し違いますが、方向性は当たっています」

 

全てが真実ではないが、間違ってもいない。そう認めた。

 

「そ、そうなのか……」

 

なんて返せば良いのか思いつかず、言葉に詰まる。

 

「さて、私の隠していた乙女の秘密が知られてしまいましたが……先輩はそれを知ってどうしますか?」

 

「ど、どうって……」

 

「私をどうするつもりなのか……と、思いまして」

 

「急に言われてもな……。別にそれを知ったからと言って九重に何かするつもりは無いぞ?……ただ、そうだな……」

 

「ただ?」

 

「何か困っていたり、抱えている九重の助けになりたい……今はそれくらいしか考えていないな」

 

今の自分の気持ちを正直に伝える。

 

「九重がそれを隠すのも当然だ。誰かに知られると危険だしな」

 

それでも、俺達にバレるかもしれないリスクを冒してまで助けてくれたはずだ。

 

「でも、俺達を助ける為に色々と裏で動いていてくれたんだろ?フェスの日より前から……」

 

「一応……はい」

 

「因みになんだが……いつからそうだったんだ?」

 

「……小さい頃からです。多分、五、六歳くらいかと……あまり鮮明には覚えていませんが」

 

「……そんなに前から」

 

ということは、その時から……。

 

「実家の方にはいつ頃に行ったんだ……?」

 

「えっと……自覚してから大体一年が過ぎた辺りだと思います。まぁ……実家に拾われてから暫くは忙しくてそのことを忘れていたんですけどね……あはは」

 

頬を掻くように苦笑する。

 

「それから数年……年齢的に小学校低学年程度でしょうか?その頃に自分が住んでいる白巳津川の事を知って思い出したって感じです」

 

「持って無いから分からないんだが……未来が視えるってそういうもんなのか?」

 

ふとした時に見える……そんなタイプなのだろうか?

 

「んー……まず前提が違いますが……まぁ、それは置いときましょう」

 

「分かった。……つまり、九重はその歳くらいから動いていた……で、良いのか?」

 

「そう言う事になるんでしょうかね?」

 

「因みに……俺の中での答え合わせをしたいんだが……幾つか質問しても良いか?」

 

「はい。答えられる範囲でしたら」

 

「前に都に聞いたんだが……九重と知り合ったのがなんかのパーティーで……って聞いてるんだが、それは狙ってだったのか?」

 

「……ああ、あの時の。そうですね、確かこの街のコロナグループとのパイプを持つために開かれたパーティーだったと思います。可愛かったですよ?九條先輩」

 

懐かしむように口元を緩ませる。

 

「それじゃあ……これまでの枝で、あちこちで俺達と会ってたりしたのも……」

 

「あー……それについては予定通りのもあれば、想定外や急遽変更したのもありまして……」

 

「想定外……?」

 

「はい……実は私もユーザーになるとは考えもしてなかったので……」

 

「へ?知らなかったってことなのか?」

 

「その通りです。ですので当初の予定よりかなり動きは変わってしまいました……」

 

「そ、そうだったのか……」

 

自分がユーザーになることは知らなかった……?あまり精度が良くないとかか?それとも自分のことは分からないとか?

 

「じゃあ最後に……、どこからどこまでを知っていたんだ?」

 

「………、全てですよ。先輩がこれまで歩んできた枝、全てです」

 

一瞬口を閉じたが……俺の質問に答えてくれた。

 

だけど、その声からは強い寂寥感が漂っていた。

 

「……ありがとな、答えてくれて」

 

「いえ、答えられる範囲での質問でしたので」

 

その言い方だと、答えられないのもあるって事だが……今で大丈夫な範囲だったのか。

 

九重が今までの枝を知っていたってことなら、気になっていた行動にも納得がいく。

 

それと同時に……当然の考えが頭を過ぎる。

 

九重……お前は、今までどんな思いで俺達と接していたんだ……?

 

オーバーロードを持っている俺だから分かる……いや、それ以上の辛さのはずだ。

 

俺は知らずに起きてしまった事を無かったことにしてやり直せる……が、起きるまではそれを知ることはない。

 

逆に目の前に居る九重は起きることが分かっている。けど、知ることは出来るが俺のようにやり直せることは出来ない。

 

俺がオーバーロードを使えるようになるとも分かっていたのなら……それまで何も出来ないもどかしさ、それこそ身を焦がすような気持ちだったはずだ。

 

「……ずっと、心の内に閉まっていたんだな」

 

「バレると厄介ですから。色々と」

 

「今はもう話して良かったのか?」

 

「はい。イーリスを倒した事で戦いは幕を下ろし、私の役目は終わりましたから」

 

少し目を細め、視線を落とす。

 

「私が知っている未来は、イーリスを倒し先輩が皆の枝へ帰って行ってからの後日談的な日々を送る……そこまでです」

 

まるで何かの物語を語るような口調で話す。

 

「そこから先は……」

 

俺の問いに静かに首を振る。

 

「本音を言いますと、先輩がいるこの枝すら私が知らない枝……いえ、私が変えてしまった枝になります」

 

「九重が変えた、枝……」

 

この枝で九重が変えた事となると―――。

 

「……もしかして、与一か?」

 

「ふふ、お見事です」

 

イーリスを倒す為にどうしても与一を殺し、確認する必要があった。当然犠牲にする事も視野に入れていた。

 

だが、直前で九重から助けれる可能性があると言って来た。

 

「ということは、やっぱり与一はあの戦いで死んでいたってことになるのか」

 

「そうですね、イーリスに乗っ取られた身体が耐えれずにそのまま……」

 

「……はっ?ってことは、九重の身体に移したのって、滅茶苦茶危険な行為だったのか?知っていて提案してきてたのか!?」

 

「あー……まぁ、上手いこと行きましたし、ここは一つ結果オーライという事で」

 

「確信は無かったってことだろ?」

 

()()()なら可能だと確信していました……よ?」

 

誤魔化す様に言葉を濁しつつ、目を逸らす。

 

……ま、実際成功していたんだから正解だったってことになるんだが。

 

「それと私が持ち込んでしまった実家関連、ですね。本来なら先輩達には関係のない事でしたが……」

 

「九重のせいじゃないんだろ?」

 

「放置していた面も確かにあったので、責任の一端は一応あるんですよ」

 

「だから、自分でそれを片付けると……?」

 

「はい、なので関係のない先輩を出来れば巻き込みたくは無かったんです」

 

……が、先日の件で知られてしまった、と。

 

「私のことも少し話しましたし、この際先輩に色々とお願い……託すのも悪くないのかなと思いまして」

 

「……託す?」

 

「他の枝でも起きる可能性は充分あるので、それらを阻止してもらうか……私に教えるかのどちらかをしてもらえれば良いな……と」

 

「なるほど、そういうことか」

 

「ですので、私から一つお誘い……ご提案があるのですが、聞いて貰えませんか?」

 

「ああ、聞かせてくれ」

 

少し意味深な言い方だが……。

 

「夏になり、長期の休みが来る頃に……私は少しの間里帰りをする為にこの街を離れようか考えています」

 

「夏休みにか?」

 

「ええ。場所は私の生まれ故郷になります」

 

「故郷って……何か用事でもあるのか?」

 

今の言葉をそのままの意味なら実家などの家族に顔を見せる……とかだろうが、九重は独り身のはず。それに、さっきの話を含めて考えると……。

 

「ちょっと、片付けておきたい用事がちらほらとありまして。先ほどの話の件です」

 

……やっぱりか。

 

「そこで、新海先輩も一緒にどうでしょうか?」

 

「へっ?俺も……?」

 

「はい」

 

「九重の……故郷に、か?」

 

「先輩に私のことを知ってもらうには、これが一番手っ取り早いかと考えまして」

 

「え、えっと……良いのか?俺が一緒でも……?」

 

俺に関わって欲しく無いから、てっきり……。

 

「目が届かない場所で動かれるよりも、傍で見ている方が安心出来ますから」

 

冗談を含んだ言葉で笑う。

 

「まるで小さい子供みたいな例えだな……」

 

「私の中で唯一、想定外になり得る存在は新海先輩一人ですから」

 

「そりゃどーも」

 

「ですので、この際手伝ってもらった方が気を回す必要がなくなるので。どうでしょうか?」

 

「どうでしょうかって、急にそんなこと言われてもなぁ……」

 

「大丈夫です。まだ一ヶ月程の猶予はありますので、じっくり考えてみてください」

 

「……だな。皆にも聞いてみないとな」

 

「あ、一応さっきまでの話は秘密でお願いしますね?必要なら私自身説明しますので」

 

「勿論分かってるから安心してくれ。多分、九重に話してもらうことになるとは思うけど……少し考えてみるよ」

 

「了解です。何かあればまた連絡をください」

 

 

 





なんか、ごちゃごちゃと書いてしまった感が……w

この辺りからようやく話が進んで行きます。


逃げていた一人はたまたま席を外していたので運良く……いや、運悪く、か……?

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