色んな視点が錯綜しちゃいます。10話目だから丁度良いかなぁっと。
それと先月の末辺りに急にアクセス数が伸びた日があって驚愕と困惑で疑心暗鬼になっておりますw
え、いや、え?って感じで、何かありました……?状態です。いえ、嬉しいのですが恐怖が勝ると言いますか……。
とまぁそんな感じです。
春も過ぎ、教室の窓に当たる雨粒の音の中、季節は梅雨へと移り変わっていた。
「よいしょ、これで教室の掃除は終わりかな」
ほうきで掃いたゴミをちり取りへ入れ、ゴミ箱の蓋を開ける。
「うへ、ゴミ箱一杯じゃん……」
開けたが……既に中身が満杯であり、このままちり取りのゴミを入れると零れ落ちそうだ。
「……しゃーないね、ついでに捨てますか」
一応、教室内なので担当の範疇と割り切って箱から袋を取り出して縛る。
「何、ゴミ捨て行くん?」
袋を縛って新しい袋を探していると、天ちゃんが声を掛けて来た。
「ん、だねー……新品のゴミ袋ってどこか分かる?」
「えっと、確かあそこの棚の下側に入ってると思うけど……」
教室の端側に設置されている白いキャビネットを指差す。
「んー……お、あったあった。ありがとー」
「どいたまー。袋の方は私がしておくから、舞夜ちゃんは捨てて来ておくれ」
「良いの?」
「いいっていいって、そんなに手間じゃないしね。と言っても外がこんなじゃ捨てに行くのも一苦労しそうだけど……」
二人で教室の外を見る。
「ま、私ならなんとかなるよ」
「何とかってきみ……もしかしてあれか?降り注ぐ雨を全て避けるとかっ?」
ワクワクと期待するような目をこちらに向ける。
「いやいや、流石にそんな人間離れした動きは出来ないよ。そもそもこの降り様じゃどう動いても体に当たっちゃうからね?」
「いやね?舞夜ちゃんなら実は……、みたいな展開があってもあたしゃ驚かないね」
「雨粒の数次第なら出来なくもないけど……んー……」
ぽつぽつ程度なら何とか行けなくも無いかな……?降ってくる雨を常に意識して動かないといけないから結構集中力使いそうだけど。
「いや行けるんかいっ!?」
「うそうそ。それじゃサクッと行って来るねー」
「傘持ってかないの?」
「多分大丈夫」
「了解、んじゃ気を付けて行きんしゃい」
袋を手に持って教室を出る。
「と言っても、収集場所は外だしなぁ……」
一度は外に出なければならないので結局は雨に晒される。梅雨の時期だから今日じゃなくても……って考えは通用しない。
そんな事を考えながら一番近い出入口から外に出る。
「……んんー……」
当然、外は雨模様。このまま出れば制服が濡れるけど……。
周囲を見渡し、人が居ない事を確認する。
「姿無し、気配無し……」
校舎の裏側なので基本人は見当たらない。雨だし外にも出ていないので、人目も気にしなくて良いだろう。
「よーし」
アーティファクトを使って雨に濡れるのを防げるか試してみる。イメージとしては雨粒が当たっても服が濡れない感じで。
降ってくる雨粒を止めるのも一瞬考えたが、範囲が広いし結局自分で避けないといけないのでこちらで行くことにした。
「……おおっ、やっぱり行けた行けた」
屋根の無い場所へ踏み出したが、降ってくる雨が身体や制服に当たっても変化が見られない。
「便利だなぁ……ってさっさと捨てよっと」
いそいそと急いで収集場所へゴミ袋を投げ込み元の場所へ戻る。
「うん、濡れてはないね」
能力を解除して服を触るが、若干湿っぽさはあっても濡れては無かった。
「アーティファクト様様だね」
と思っていたが、靴はそのままだったので中に戻る前に綺麗に汚れを落としてから入る。
さっきのやつ……別に雨粒本体にじゃなくてバリアみたいに一定の距離に能力を掛けるとか違った方法があったかも。
「そうなると、範囲外になった瞬間止まっていた雨が一気に降るのかな?」
というか、どうして服が濡れないんだろ……?別に雨を止めている訳じゃないし、粒自体は身体や服には当たってはいたし……。
今更冷静に考えてみるとちょっと変かも。私の能力って対象の『停止』のはず。服の停止ってなんだ……?雨が当たることによる濡れを停止……?うーん。
「あれ?そもそも止まってなくない……?」
アーティファクトの能力に掛けても解除したら直前のまま動くし、銃弾もそうだったし……。
「一時的な固定……?いや、変化を止めてる……?」
ちょっと待って、ここに来て自分のアーティファクトに疑念が生まれて来たぞ……?
「えぇ……」
これは後で検証してみる価値はあるかもしれない。
いやでも……まさかアーティファクトを掌握しているのに自分の能力を正確に把握していないとかありえる?無意識に使っていただけ?ポンコツ過ぎない?
「もしそうだとしたら今更感が……」
イーリスとの戦いは既に終わったので、仮に新しい使い方が出て来ても……って感じではある。
「……ま、いっか」
「ただいまっと」
「お邪魔します」
「雨、大丈夫だったか?」
「私は平気、少し肩が濡れた程度だから。翔こそ大丈夫?」
「あー……途中で水たまり踏み抜いたせいで右の靴の中がなぁ……」
「勢い良く突っ込んだもんね、早めに洗濯に出しておかないと」
「だな、先に脱いでおくわ」
靴を脱ぎ、濡れた靴下が床に付かない様に片足を上げて脱衣所まで歩いて行く。
「靴も乾かしておかないとな」
「先にそっち終わらせる?」
「いや、後でドライヤーとかでなんとかする。今は……新聞紙は無いから適当に紙でもいれておくよ」
「ん、分かった。一緒に乾燥剤とか入れると良いって聞いたことある」
「あのお菓子に入ってたりするやつか」
「そう、ホームセンターや100円ショップに売ってるから今後の為に買っておくのも手だと思う」
「なるほど。梅雨だしちょっと買っておくかぁ」
靴下を洗濯機へ放り込み、希亜にハンドタオルを渡す。
「ほい、必要なら使ってくれ」
「うん、ありがと」
自分も濡れた箇所を適当に拭きながら玄関の靴へ向かう。
「洗濯乾燥機があれば一番良いんだけど……」
「残念ながら家には置いて無いからなー。便利って聞くけど」
「凄く便利。かなり時間短縮になる。今の時期に必需品と言っても過言ではない」
「そんなにか。確かに部屋とかで干すと湿気とか臭いがって言うもんな」
「翔は浴室で?」
「今の時期はそうしてるな。換気扇がんがんに回してる」
あまり多くは干せないが、一人暮らしなのでそこまで不便には感じない。
「除湿機を部屋に置ければ室内でも簡単に出来るかもしれないけどなー……」
「除湿機も大事だけど、空気を循環させるのも重要ってネットで見た」
「あれか?風を送るやつか?」
「そう。サーキュレーター」
「良く知らないけど、ぶっちゃけ扇風機と何が違うんだ?」
「私も詳しくは分からないけど……部屋の空気を移動させるために直線的な風を送る……とか?あと、電気代も安かったと思う」
「扇風機は人に風を送るのが役目で、そっちは空気の循環が目的みたいな感じか」
「多分そんな感じ」
「ちょっと憧れるな、オシャレな感じで」
「凄く分かる。ワンランク上の人って感じがする」
新聞紙の代わりが見当たらなかったので、久しく使ってなかったキッチンペーパーを幾つか靴の中へ突っ込む。
「これで良しっと。それじゃ部屋に行くか」
「うん、お疲れ様」
立ち上がって歩き出すと、部屋までの短い距離ではあるが希亜が俺にくっついて後に続く。
「体冷えてないか?」
「大丈夫。今翔で暖を取ってるから」
「暖の温度は如何ですか?」
「んー……もうちょっと高い方が良いかも」
まさかのダメ出しである。
「んじゃ布団で暖まるか」
「賛成」
部屋に入り、ベッドに座って布団を肩に掛ける。
希亜は俺がベッドに座ると股の間に収まるように体を預けてくる。それを後ろから抱きしめるように手を回す。
「少し、冷えてるな……」
「その分翔の熱を感じれるからプラマイゼロ」
「ならもっと暖めないとな」
希亜が暖まるように更に体を密着させる。
「あ、そう言えば……」
「ん?」
「何か話があるんじゃ……?」
「あ、ああ……」
「雰囲気壊してごめんね?でもこのままだと、イチャイチャして切り出しづらくなりそうだったから……」
「いや、確かにそうなりそうだった。助かる」
「それで?私に相談?」
さっきとは違い、少し真面目な声で後ろの俺に顔を向ける。が、体勢を変えるつもりは無いらしい。
「相談と言うか……話と言うか……」
どう切り出そうか少し迷うな。
「……舞夜のこと?」
何から話そうか考えていると、希亜の方から切り出して来た。
「まぁ、そうなるな……ってか、よく分かったな」
「ここ最近、翔の様子が気になっていた。どこか考え事をしているというか……悩んでいる。候補に浮かび上がるのはそれくらいだから。……なにか彼女と進展があったの?」
「進展かどうかわからないが……あったって言えばあった。すまん、無しって話を皆で決めていたのに」
「それについては特に責めるつもりはないから安心して」
「それと、九重と話した内容についても詳しくは話せない……ごめん」
「気にしないで。翔が話せる範囲で良いから聞かせて?」
少し心配そうに俺を見つめる。
「少し前に、あいつの……九重の秘密を、聞いた」
「彼女の……秘密」
「ああ、内容については……皆と話したのと近い内容だ」
「なるほどね……」
俺の話を聞き、考えるように目を閉じる。
「……それで、翔はどうしたいの?」
「俺が……か?」
「どうにかしたい……助けたい、違う?」
「かも、しれないな」
「翔がそう決めたなら、私は反対はしない」
「良いのか……?」
「そもそも、翔がこの枝に再び戻って来た理由は、今の件をどうにかする為になのでしょ?何もおかしい事はない」
見上げていた顔を正面に向け、俺に体重を預けるように体の力を抜いて話始める。
「二人の間でどんな話があったかは分からない……けど、話せないって事は彼女にとって重要なことくらいは容易に想像出来る。だから私はそれを強く言及する気は無い。舞夜も、翔だからこそ正直に話したんだと思う」
「………」
「翔は、どうする気?」
もう一度、問いかけられる。
「……それについてなんだが、実は九重から提案があるんだ」
「提案?」
「自分の生まれた故郷に、来て欲しいって言われる」
「彼女の……故郷に。翔を?」
「ああ、どうしてかは俺にもよく分からない。けど、何かを俺に知って欲しい……そんな気がする」
「……いつ頃行くの?」
「日程はハッキリとは決まってはいないが、多分夏休み中だとは思う」
「その故郷の場所は聞いてる?」
「いや、実はまだ詳しく聞いてないんだ。ただ、九重が言うには結構危険な場所だとか……」
「危険な場所?もしかして海外とか?」
「それは無いと思う。口ぶりからして日本のはずだ」
「……彼女自身の背景を考えれば、あまり良い所じゃないのかも」
「だろうな、俺もそう考えてる」
「それでも、そう言うって事は……翔の言う通り、翔に何かを伝えたいはず。なら、私達も一緒に行くのは流石に無粋ね」
「すまん……。正直、全くと言っていい位に説明も出来てない。そんな中納得してくれって言うのはかなり苦しいとは思うんだが……」
「今の話、話したのは私だけ?」
「ん?ああ……そうだな。最初に希亜に話すのが良いかと思ってさ」
「……なるほど、他の皆への説得に協力してほしいのね」
「ぅぐ、ま、まぁ……そういう思惑が無かったとは言わないけどさ。一番希亜の説得が上手く行くと思ったんだ」
「別にそれで怒ったりしない。寧ろ嬉しいくらい」
「そ、そっか」
「私としては問題無い。翔が向こうに集中出来る様にこっちはなんとかしておくから、翔は翔の思うままに動いて」
力の籠った、頼もしい返事が来る。
「ありがとう、助かる」
「……一応、言っておくけど」
「ん?」
「五人までだから。これ以上は増やさないでほしい」
少し拗ねるような、恥ずかしがるような声で呟く。
「ふや……?い、いやっ!そんなつもりは無いからなっ!?」
言葉の意味を理解し、慌てて否定する。
突然何言ってんの希亜さんっ!?
「舞夜なら、私は受け入れても良いと思うけど?」
「いやいやいやっ!倫理観バグって来てないか!?」
「今更翔がそれを言う?」
「ぐっ……」
いや、それを言われたら何も言い返せないんだが……!
「か、仮に、希亜が良くても他の皆が駄目って言うだろっ?」
「舞夜なら同じヴァルハラ・ソサイエティのメンバーでイーリスと戦った仲間だし、反対はしないと思うけど?」
「そ、そうかぁ……?」
普通に反対してもおかしく……いや、天は反対しないと思う。春風もなんやかんやで嬉しそうに受け入れそうだし……くそっ!まともな感性は都しかいねぇっ!
「後は翔次第だと思う」
「い、いやぁ……って、今はそう言う話じゃなくてだな?」
なんだか良くない方向に行きそうなので、話を戻す。
「……そうね。他に話しておきたいことはある?」
「さっきの九重の故郷に行くって話、多分何日かはここを離れることになると思う」
「帰省……みたいなものだと考えとくとして……取り敢えずは分かった。詳しく決まったらまた聞かせて?」
「了解。一応九重からも説明する機会はあると思うし、何かあれば連絡する」
「ん。……それじゃあ、話は終わったのだけど……この後、時間空いてる?」
話し合いが終わり、期待する目で見上げてくる。
「ああ、空いてるよ」
そう言うと、甘えるように体を密着させる。
「……雨で少し冷えてるから、翔と二人で暖まりたいかなって」
くるりと振り向き、正面からくっ付いてくる。
「翔も、どう……?」
明らかに誘う様な上目遣いで俺を見つめて来た。分かってる、これは俺の理性を崩壊させる為に手段だってことは。
しかし、その誘惑に抗わずに希亜の身体を抱きしめる。
「わぷっ……ふふ、嬉しい」
俺が乗ってきたことに微笑みながらも抵抗せずに両手を背中に回した。
これからの期待と緊張で毎度毎度心臓の音が高鳴るが、部屋の窓に当たる雨音がそれを消してくれると信じて本能に身を委ねた。
一ノ瀬家のとある建物。その中で執務室とも呼べる個室に一人の男が報告を聞いていた。
「現在、複数回起きている襲撃と衝突によって想定外の出費と販路の遅れが生じております。更に、向こう側の人間を招集するにあたっての選定に時間が掛かり、こちらにも遅れが」
「他の動きはどうなっている」
「九重家の方は一部動きが見られますが、街へ規制を強化している程度です。九重舞夜に関しても未だそれらしい動きは見せておりません」
「裏切り者の件は」
「そちらについては、未だ尻尾すら掴めておらず……」
「目を送っていただろう?」
「はい、人やカメラなどでの監視をしておりましたが、犯行が起きたと予測される時間になると連絡が途絶え、機械の方も通信が切れておりました」
「前者はまだしも、カメラまで……?乗っ取りか?」
「分かりません。ですが、一定の範囲での機器全てが一斉に同じ状態になっていることを考えると、通信の妨害工作にあった可能性が高いかと……」
「ふん、そう上手く尻尾は掴ませないようだな」
「申し訳ございません。引き続き捜査は続けております」
「計画への影響は」
「販路の遅れで物資の数にズレがありますが、予定までには何とか遅れを取り戻すよう調整をしております」
「最悪、多少のズレは目を瞑ってでも良いから開始は予定通りで進めろ。それと浮島家からも人を引っ張り出せと伝えておけ。向こうも計画に影響が出るのは嫌がるはずだ」
「畏まりました。ではその様にお伝えしておきます」
報告を終え、室内を出ていく。
「何、今更気づいたとしても、もはや手遅れと言うものだ」
座っている椅子の背もたれに身体を預け、静かに笑った。
「報告いたします」
九重家にある和室の一室で、不破壮六による報告が上がる。
「待て、一人足りておらんじゃろ」
始めようとした矢先、九重宗一郎が未だに空の座布団を見る。
「澪様は、その……現在出掛けられていると先ほど連絡が……」
「なんじゃと!?あの小娘め!勝手に抜け出しよって!それでっ!なんと言っておった?」
「それが……『舞夜とお出掛けするから、私抜きで進めておいて』との……」
「戯けがっ!!何勝手に抜け駆けしておるんじゃ!」
怒りのあまりに立ち上がり、部屋を出ようとする。
「どこに行くつもりですか!?」
「決まっておる!あの馬鹿垂れを連れ戻しにじゃ!」
「いけません、今は過度な接触は向こうに疑われてしまいます」
「澪も同じじゃろうが」
「いえ、澪様と定期的に舞夜様と出掛けていますので、不自然には見えないかと。しかし、今宗一郎様が行かれると……」
「……あやつめ、こうなると分かっていてすっぽかしたな」
大きく舌打ちをし、納得出来ない様子で元居た位置に座り直す。
「状況は?」
「現状、舞夜様が単独で動かれた結果、相手側の一部に乱れが発生しております」
「確か偽装工作も行っておったな」
「はい、そのおかげで一ノ瀬家でも内通者や裏切りの可能性を探っている様です。ですが、そのため自分の周辺を手駒だけでかなり固めているようです」
「ふん、精々疑心暗鬼に陥ってるといいわい」
「それと、こちらからも街への境界線や搬送経路に人を置いたことで多少の行動は制限出来ているかと」
「決して阻止はせずに、生かさず殺さずの状態を保っておれ」
「心得ています。舞夜様が動かれる夏までは泳がしておきます」
「刈り取りのタイミングを間違えるなよ」
「人員と配置は既に確保出来ていますので、後は時間を待つのみになりますのでご安心を」
「うむ。後は舞夜が動くのを待つのみか……」
「そうですね、ご自身であの街へ赴くと仰っていましたから。それも同伴付きで」
「新海翔か」
「正直に言えば、彼を連れて行くとは思いませんでした」
「だろうな。本来なら一番選択肢から排除すべき人間のはずじゃ」
「ですが、敢えて今回彼を供にするという事は……」
「……かもしれんな。あの子も前に進む決心がついたのか、それとも全てを終わらせるつもりか」
「他の世界へこの事を伝える為……と話しておりましたが」
「それだけのために連れて行くわけが無かろうが。それならやり方は幾らでもある」
「……ですね」
「今回の選択は、今のあの子だからこそだと思うが……。ワシとしては、未来を望んでほしいものじゃな」
「そうなりますと、彼を認めることになりますよ?」
「ふん、認める気など毛頭ないわっ。舞夜の隣に立つと言うなら少なくとも守れるだけの力を持ってないと論外じゃ」
「今の舞夜様に勝るなど……世界に何人いるやら」
「何、別にワシはあの小僧に力など期待しておらん」
「と、言いますと?」
「ワシが強者と認める何かがあれば良いのじゃ。一つでもな」
くくっ、と獰猛な表情で笑う。
「それはなんとも……厳しいことで」
「可愛い弟子を任せるにはこのくらいが丁度よい」
無理難題を言う宗一郎の言葉に対して、壮六が捻りだしたのは苦笑いだけだった。
「案外、アーティファクトって想像と発想次第なのかも……」
学校から帰り、一人部屋の中でポツリと呟いた。
ゴミ捨て時の件を家に帰って検証してみたけど、このアーティファクトの能力……『対象の停止』で間違っては無かった。ただ、使う幅が増えたと言えば良いのだろうか?
停止だから動きを止める……そんな風に認識していたけど、『今の状態を維持するための停止』とでも言えば良いのだろうか?深く考えずに使っていたけど、『変化を停止させる』そういう感じでも使用可能と知れた。
いや、普通にやってたけどさ。もうちょっと応用が利くようになった感じ?便利になったと言っておく。
例えば、物が動いた際に『初速』から始まり『最高速』に達して後は徐々に『減速』して動きを止める。その一連の流れに干渉が出来る。
初速の時点で能力を使えば、速度が変わらず初速のままだし、最高速で能力を掛ければ最高速のままだった。
まぁ、だから何だって言う話なんだけどね。新しい発見をして自己満足しただけって感じ。
結局停止させることには変わりないんだけど。
「ということは、やっぱり私のアーティファクトの能力は『停止』と……」
正直な所、ちょーっとだけ期待してしまった。実は違うのでは……?と。
ソフィが言うにはアーティファクトは素質がある人間を選ぶ。能力に見合った人間の元に移動する性質を持つと。
結城先輩や九條先輩の例が顕著だろう。
つまり、私の元にこの能力が来たって事は……つまり、そういうことだろうね。
「ふふ、確かにその通りかも」
記憶の中にあるゲームでの日常、その時間がずっと続けば良いと願う気持ちや、フェスの日……アーティファクトでの事件が始まって欲しく無いと言う我が儘。
「結局、私はあの時から変われていない。そう言いたいのかもね」
おじいちゃんに拾われてから、沢山知り、幾分か体も成長した。
「ま、人間そう簡単に変わらないって偉い人も言っていたし、その通りなんだけど」
でも逆に、少しの切っ掛けで変われることも知っている。
「私を知って……何か変わるのかしらね」
きっと、新海翔という一人の人間に……僅かな何かを期待してしまっている。そう思ってしまう位には彼を見て来たから。
煤けた記憶。灰色のあの街を見て、知って……先輩は何を成すのか。私を―――。
「ふふ、それこそ、神のみぞ知るってことなのかな?」
小さく呟いたその声は、雨音に吸い込まれて消えていった。
どうでも良い余談ですが、主人公の好きなタイプ(面倒事を避けるための口実)はおじいちゃんの言葉を参考にしていたりいなかったり……。
アーティファクトの能力については書いたけど大して変化はありません。無くても強いですし……はい。