主人公と浮島七瀬の密会からどうぞ。
遂に夏が到来します。
「璃玖さんが居ないけど、始めても大丈夫?」
時計の短針が真上を指している夜遅く、電気の点いていない一室で声が静かに響く。
「あなたが大丈夫と判断したら始めて」
「それじゃあ、第五回……いや正確には六回かな?会議を始めまーす」
今日、浮島家の用事で九重家まで来ていた七瀬さんが、一泊するために取っていた部屋に忍び込み、最後の状況確認を行う事にした。
「まずは私の方から言っておくわ」
和室に置かれている円状のテーブルを囲うように座り、その上にめんどくさそうに頬杖をついて話し出す。
「今の所、まずまずって感じ。一ノ瀬家に多少連れて行かれたけど、全員無関係な人間を出してやったわ」
「へぇー、よく捌けたね」
「簡単よ、母に『大切な戦力をみすみす死地へ向かわせるのではなく、楯突く人らを送りましょう』って感じで話したら返事二つで頷いたわ」
「流石。傀儡のやり方を心得てるね」
「こんなの誘導にも入らないわよ。二十年近くあの人の生態を見せられて来てるだけ」
母親の話が出て心底嫌そうな表情を浮かべる。
「んで、後は時間が来たら舞夜が向かった場所に全員送り込むだけ。それと、喜びなさい。その引率は私が受け持ったわ」
今度はさっきとは真逆で得意気な笑みを浮かべた。
「おっ、凄い……。てっきりトップが来るもんだと思ってたけど?」
「元々はそうね。けど、警戒される可能性を下げる為に私自身が行くって言っておいたわ。ほら、私って舞夜と協力関係でしょ?」
「なるほどね。確かに七瀬さんが接触してきた方が油断する可能性はあるし」
「一応、『いずれ私がお母様の後を継いだ時の為の予行をしたい』って言ったら涙を流して喜んでいたわよ?」
手をひらひらと揺らして、はっ、と鼻で笑った。
「うーん、これは重症だねぇ。お薬出しておく?」
「あれに利く薬があれば私が飲ませてるわよ。いえ……既に舞夜という劇薬を摂取した後だったわね」
「七瀬さんとしてはどの薬がおススメ?」
念のため、最後の最後に確認しておく。
「別に。私の答えは前回と一緒よ」
「りょーかい」
憎悪を含んだ濁った瞳で私へ返事をする。
「それじゃあ、話した通り全員殺し尽くすから。安心して」
「最悪あの人だけでも良いわよ?」
「ううん、連鎖の火種は全部ここで断ち切っておかないと。またいつ燻り出すか分かんないから」
「……そうね、嫌な役をやらせることになるけど、よろしく」
「いえいえ、これは私自身の選択だから気にしなくて平気」
「璃玖の方はどうなってるの?」
「んー……あっちは相変わらずかなぁ?基本的に璃玖さんは動く必要は無いから、巻き込まれない様に避け続けている感じ?」
「璃玖もあんたの所に連れて行ってあげたら?」
「あはは、家から出たがらない人が何日も出掛けると思う?」
「……それもそうね。無駄な質問だったわ」
重そうなため息を吐き、顔を上げる。
「ま、私の方は問題無しってこと。なんかあっても適当に理由をでっち上げて連れて行くわ」
「ん、お願いします」
「そっちは?」
「私の方はー……まぁ、ぼちぼち?予定通りに出発はするけど、一人同伴者が居るって感じだよ」
「同伴者?」
「そ、新海先輩。知ってるでしょ?」
「ええ、勿論。何、そいつを連れて行くの?」
「そう言う事になりました」
「……確実に事を成すなら、彼を連れて行くのは正解と言えば正解ね」
「先輩が居れば何かあっても修正可能だからね」
「過剰な気がしなくもないけど……。そっちがそう判断したなら私からは特に無いわ。精々足を引っ張られない様にね」
「あはは、分かってるよ」
「と、言うのが昨晩九重舞夜と話した会話内容になります」
次の日、浮島家へ帰還した浮島七瀬が派閥のトップである母親に報告をしていた。
「教えてくれてありがとう。前回と変わらず、あの子は一ノ瀬家の計画を止める為に例の街へ行くのね?」
「はい、ここ最近はその妨害を行う為に一ノ瀬璃玖やその他と秘密裏に動いていたようです」
「彼女自身が……?けど、報告では動きは無いって聞いているけれど?」
「神からの聖遺物……アーティファクトによって自身の現身を作り出し、偽装していると本人から確認済みです」
「ふふ、一ノ瀬家も見事に騙されているわね」
「私が提案した当初の計画通り、九重舞夜が街へ潜入した後に私達も街へ入ります。本人から活動拠点や計画内容を聞いていますので、容易かと……」
「ええ、分かっているわ。あの偉そうな一家を出し抜いて、私たちで迎え入れましょう」
「準備は私の方で既に整えています。後は私自身が先頭に立って進めますので、浮島家の後継者としての働きを見ていて下さい」
「私は幸せ者ね……。以前にあの子の懐に入り込む為に私を裏切ると提案してきた時は驚いたけど、立派に果たしたのね……」
心の底から嬉しそうに微笑み、娘の頭を撫でる。
「ありがとうございます。お母様のお役に立てて私も嬉しいです」
「さぁ、私達の希望の光を迎えに行きましょう」
感極まった表情で娘を抱きしめる。その表情はどこまでも優しく、温かみを帯びた顔だった。
「―――はい、お任せ下さい。お母様」
だが、抱きしめられ、嬉しそうに力の籠った声で返事をした娘の表情は、母とは真逆の顔をしていた。
梅雨が明け、夏がやって来た。というか夏休みがやって来た。
計画も最終段階の調整が無事終了し、後は私が街へ乗り込むだけ……という所まで来ている。
夏休みが来るまでは、大体治って来ていた手のリハビリをしたり、皆と一緒に可能な限りアーティファクトの回収に勤しんでいた。
その中でも一件、学生の女社長……香坂先輩の枝で出て来ていたあの件である。
どうせ回収出来るだろうしと軽く考えていたが、新海先輩からかなり深刻そうな表情で相談を持ち掛けられた。
内容は、『パーティー中に、かなり手練れの相手が出て来る可能性がある』とのこと。
聞いてみると、香坂先輩の枝で深沢与一と協力しているユーザーがいたらしい。女性で狐の仮面を被っており、転移のアーティファクトと接触時にアーティファクトの能力を封じると思われるアーティファクトを持っていたらしい。
この枝ではイーリスも居ないし、深沢与一は監視付きで放逐しているので心配は無いけど一応注意してほしい……と、ありがたい情報の共有をしてくれた。
……うん、私の事だね。
この枝では高峰先輩と全くと言っていいほど接点を持っていないので、可能なら一緒に来てほしいとのお願いも来た。
……取りあえず、喜んで承諾はした。ええ、させてもらいましたとも。
私以外存在しない仮想敵を警戒しながら無事アーティファクトの回収を終えたが、なんだか申し訳なさが一杯であった。
ただの出来心で先輩達と対峙したが、種明かしをせずに放置してしまった。あの狐の仮面だって、なんかの祭りで手に入れた二葉ちゃんから貰った物だし……。
……あの時の三花の表情と来たら、般若の仮面みたいな顔だったなぁ。
それと、今回の件を皆に説明しようとしたが、どうやら新海先輩と結城先輩が根回しをしていたらしく、詳しい事は聞かれなかった。
一先ず、今回の件が他の枝で起きた時の為の保険として同行をお願いした……と話しておいた。
とまぁ、そんなあれこれがあったが、何事もなく過ごしていた。
そえば、高峰先輩とは関わりを持って無いが大丈夫なのだろうか?一応ヴァルハラ・ソサイエティのメンバー?にはなっていた枝もあるし、仲間と呼べると思う。
けど、新海先輩から接触する動きは見えない。忘れている……とは思えないけど敢えてだろうか。
『闇鴉』を入手すると考えれば、いつかは関わる必要が出てくると思うんだけどなぁ。ま、いっか。
そんな事を考えつつ、本日の予定である新海宅……三つお隣の部屋のインターホンを押す。
室内でチャイムの音が鳴ると、玄関へ向かって歩いてくる足音が聞こえて来た。
「はーい。来たな、入ってくれ」
ドアが開き、中から新海先輩が出てくる。
「お邪魔しまーす」
部屋主からの了承を得たので上がり込む。
「何か飲むか?」
「んー、いえ、そこまで長居しないので大丈夫です。それに、洗い物を出させるのも気が引けますしね」
「了解」
キッチンを抜け、冷房の効いた部屋に座り込む。
「準備の方は万全ですか?」
「準備つってもなぁ、用意して貰ったこのデカいキャリーケース一つで本当に良いのか?」
ベッドの横に置かれているキャリーケースを見る。
「それだけで大丈夫ですよ。物の準備はこちらで全て終えていますので」
「着替えの一つも要らないのか?」
「ですね、先輩には現地で着てほしいのがありますので大丈夫ですよ?」
「一体どこに行くつもりなんだ……」
「詳細は移動中にお話しますので、今は危険な場所くらいの認識でお願いします」
「……分かった。後でちゃんと話してくれよ?」
「はい。ありがとうございます」
先輩から一緒に行くと返事を貰った時に、少しだけ行き先の説明はしている。まぁ……結城先輩の枝で起きたビルの事件よりかなり危険な場所程度しか言っていないのですが。
そこに向かうまでの方法も話している。取りあえず最初は私の動きや居場所を誤認させる為に、この後幻体を使って自分の部屋に戻り普通に過ごしてもらう。本体の私は目の前にあるキャリーケースの中に隠れて先輩に運んでもらう。
一人で行くならもう少し違う方法を考えたけど、先輩と一緒ならこういった方法も悪くない……いや、やってみたいという興味本位の気持ちもあると言えばある。うん、否定はしない。
「それで、これからの予定は?」
「えっと、まず私が幻体を使って偽装行動してもらいます。といっても部屋に戻って適当に過ごしてもらうだけなので大したことはしません。その間に私がそこのケースの中に入りますので、新海先輩にはそれを運んでほしいのです」
「いつもの冗談じゃなかったか……」
「はい~、残念ながらそうなんですよぉ……」
「九重が必要って言うならあまり突っ込まないが……いけるのか?」
苦笑いをしながら再びベッドの横に置いてあるキャリーケースを見る。
「このくらいの大きさなら問題無いと思いますよ。そこそこ小柄ですし」
結城先輩程小さくは無いが、充分小人族に入るだろう。それに、過去の仕事で一度試したことあるし……。
「念のため確認しておきましょうか」
先輩の不安を拭う為に立ち上がる。
「お、おう……」
ケースのファスナーを開け、床に倒す。
「えっと、取りあえず……」
適当にケースの中に足を乗せ、座る。そこから体全体を丸めるように曲げてケース内に収まる様に位置を調整する。
「……っと、どうでしょうっ!完璧ではありませんか!!」
身体は動かせないので視線だけを向ける。
「うわぁ……マジで綺麗に収まってやがる」
「実際に閉めてみてくれませんか?」
「あ、ああ……ちょっと待ってな……」
若干引きながらもケースの反対側を持つ。
「なんか、物凄く犯罪の匂いがする絵面だなこれ……」
「まぁ、実際にこういうのに死体を詰めて運ぶ事例もありますしねー」
「まさか自分がする羽目になるとはなぁ……」
「良い経験を積めましたねっ!」
「どこで使うんだよ、その経験……。それじゃあ、ほんとに閉じるぞ?苦しかったり何かあったらすぐに言ってくれ」
「サー」
ケースのボディ部分が被さり、視界が一気に暗くなる。次にファスナーの閉める音が聞こえるが、私に気を遣って慎重に閉める。
「閉めたが、平気か?」
真っ暗の中、外から先輩が確認を取る。
「ご心配なくー。あっ、一度立てて運ぶのを試して貰っていいですかー?」
「……了解、やってみる」
少し困った感じの声が返って来た。すると、ハンドル部分の動く音が聞こえる。
「くっぉお……重っ……」
女性に向かって重いとは失礼な。と言っても人一人って意外と重いですもんね。
「ハンドル部分では無く、ボディ本体で立てないと難しいと思いますよー?」
「だな、持ち手が折れそうだ……」
そうして待っていると、ゆっくりと持ち上がる感覚を味わう。
「……一応、立てたがどうだ?」
「問題無さそうですね。動いてみてください」
「おっけー」
すると、姿勢が少しナナメになり、動き始める。
キャスターがフローリングにを滑り、音と振動を立てる。
……うーん、やっぱりこればかりはどうにもならないね。結構揺れが伝わってきててttt。
「取りあえず一周してみたが……どんな感じだ?」
「あ、はい。大丈夫そうです。ありがとうございます」
「んじゃ、開けるぞ」
ケースを倒し、ファスナーを開ける。
「ぷはぁ……自由だぁ……」
暗闇の中に徐々に光が射し込んで来るさまと、閉鎖感が無くなったのも相まって解放された気分になる。
「どうだった?居心地の方は?」
「思ったより暑かったですねぇ……部屋は冷房があるので平気ですが」
これならもう少し薄着で来た方が良かったかもしれない。
「あと、一応ファスナーは全部閉めずに、空気が入れる程度の隙間を開けて貰えると助かります」
「それもそうだな。閉め切ったら危険か」
「思いつくのは……それくらいですかね?後は中にスマホと……念のため飲み物も入れておきましょうか。それらと一緒に入っておくので、先輩へはスマホから随時メッセージを飛ばしておきます」
「頼む。行き先と言っても新幹線が通ってる場所まで移動としか聞いて無いからな」
「そこまで行ったら一度人気の無い……ま、多目的トイレでもどこでも良いですので入ってもらえれば私も外に出ます」
「了解、一先ずはそこまで移動だな」
「はい。あ、それと追加で私の荷物も持って貰っても良いですか?」
持って来ているリュックサックを差し出す。
「中身は着替えとかしか入ってないので軽いとは思います」
「その位ならお安い御用だな」
「ありがとうございますっ。ではでは、早速行動に移しましょうか?」
さてと、長い長い旅を始めましょうか。
夏休みという事もあり、駅のホームでは多くの家族連れやカップル、友達と楽しそうに話している人達が行き交っていた。
見た感じ、皆旅行用のキャリーケースを引っ張っているので、この夏にどこか旅行へ行くのだろう。端から見れば俺もその数多くの一人に見える……はずだ。
きっと、この中でケースに人を入れて運んでいるのなんて俺くらいしか居ないだろう……。そう考えると、バレないかと不安になる。
家から出て駅に向かうまでの道中で警察とすれ違った時は、正直気が気じゃなかった。
『今電車を降りたが、平気か?』
そんな緊張を紛らわせるために、中の九重に状況報告をする。
『全然余裕です。寧ろ少し眠くなってきたくらいです♪』
冗談か本気か分からない返事に苦笑いをしていると、続けてメッセージを投稿してきた。
『そういえば、直近の天気に雨は無いみたいです。もう梅雨は終わったかもしれませんねー』
『もうすっかり夏になってきたしな。暑くないか?』
『さっきまで電車内でしたのでそこまでは』
『外に出てるし、早いこと向かうよ』
『お願いしますね~』
返事と一緒に、鳥の様な丸っこい生き物が高速で移動しているスタンプも送られる。『縮地っ!!』って書いてるし、急いだ方が良いかもな……。
ホームを上がり、案内掲示板を見る。
……えっと、ここから右に真っ直ぐ行けばトイレだな。
栄えている場所の駅という事もあり、しっかりと目的のトイレも設置されている様だ。
ごった返している人混みの中を掻い潜りつつ、トイレの中へ入りしっかりと鍵を掛ける。
『着いたが……開けるぞ?』
『お願いしまーす』
九重からの返事を確認してキャリーケースのファスナーを開ける。
「ぷはぁーー……、無事辿り着きましたね!お疲れ様ですっ」
「そっちこそお疲れ。きつかったろ」
「先輩こそ中々スリリングな体験が出来たのでは?」
「かなりな。駅に向かう途中で警察とすれ違って滅茶苦茶焦った……」
「あははっ、職質されなくて良かったですね!」
されたら笑い事じゃ済まなかっただろうなぁ……いやほんと。
「あと、思ったより暑かったですねー……」
「そりゃそうだろうな……」
ケースからゆっくりと立ち上がり、パタパタと胸元の襟を引っ張って空気を入れ始める。
無防備極まりないその行動に、咄嗟に視線を外す。
いや、な?俺と九重の身長差を考えると……普通に上から見えてしまうんだよ。服の中が。
というか、一瞬下着が見えたし……。
「あ、着替えるついでに汗とかも拭いておきたいので、荷物貰っても良いですか?」
「ん?あ、ああ……ほら」
「ありがとうございます」
俺からバックを受け取り、おもむろに中身を漁り服を取り出す。
「俺は外に出とくから、終わったら出て来てくれ」
着替えると言うので、外で待機しておこうと出口を向く。
「あ、いえ、別に背中を向けてもらえれば大丈夫ですので、わざわざ外に出る必要はないですよ?」
と……思ったが、まさかの回答が返って来た。
「いや、色々と気にするだろ……?」
「私の事なら平気です。それより着替えてる途中に何かあった方が問題です」
「何かって……?」
「例えば襲撃にあったり、先輩が攫われたり、分断されたり……?」
「随分と物騒な世の中だな……」
こんな場所で起こるとは思えないんだが……。
「ですので、先輩は中に居て下さい。私としてもそれが一番安心ですので」
冗談か?と思い振り向くが、その表情は至って普通だった。
「あー……分かったっ。早く着替えてくれよ?」
九重に背を向けて、目を閉じて両手で耳を塞ぐ。
よし、これで何も情報は入って来ないはずだ。………、……なんか、こっちはこっちで今後ろでどんな状況になっているか余計に考えてしまうな……。
よくある場面だと、背中越しに着替える時の服の音とかが聞こえて……とかだが、公衆の場所でしかもトイレとかなんとも奇妙なシチュエーションだなぁ……。
そんなくだらない事で意識を逸らしていると、背中を突かれる。
「……着替えたか?」
直ぐに動かず、確認を取る。
すると、俺の言葉の返事なのか、背中に"はい"と指で素早くなぞる。
そのくすぐったさに仰け反りながらも振り返る。
「おー……」
そこには、如何にも『これから夏の旅行に行きますよ』といった服装の九重が立っていた。
「どうですか?似合いますか?」
ふふん、と腕を組んでドヤ顔の表情。
「ああ、かなりな」
「これなら森の中に紛れる事も可能かと思いましてっ」
「確かに今の時期なら沢山居そうだな」
「ちょっと若すぎな気もしますが……ま、大丈夫でしょう!」
「若すぎって、どこ目線だよ……」
「まぁまぁ……、ではいきましょうか!あ、新幹線乗る前にここでトイレ済ませておきます?私、背中向けておくので大丈夫ですよ?」
思いついたような表情を浮かべたかと思えば、今度は俺を揶揄う様な顔で見てくる。
「生憎様、まだしたくないから問題無いぞ」
「それは残念です。それなら出ましょうか」
何が残念だ、全く……。
呆れながらもトイレを後にする。
「先輩、昼食用に駅弁買っても良いですか?」
「別に良いが……新幹線の時間は平気か?」
目的地までの切符や宿泊先の手配は全部九重に任せているので詳細までは分からないが……。
「ご安心を、駅弁買う程度の余裕は確保しておりますので!先輩も一緒に買いません?長旅ですよ?」
「折角だし買ってみるかぁ」
「旅行の雰囲気には持ってこいですよ?新幹線の中で外の風景を見ながら食べる駅弁……中々趣がありますね」
楽しそうに語る九重の後についていく。
「そっちは気になるもんとかあったりするか?」
「んー……そうですねぇ。無難そうなのり弁やそぼろ弁当も美味しそうですが、海鮮系や肉の弁当もよさげなんですよねぇ……うーむ」
「色々あるんだな……」
中身の種類は勿論、容器やデザインに凝ってる物も沢山ある。
「先輩はどれにします?この、焼肉ステーキ弁当とか迫力ありませんか?」
指を差した先を見ると、そこには弁当一面に切られた肉が並んでいるサンプルがあった。
「結構ガッツリ系だな。味も含めて」
「ではこちらの牛めし弁当は?割とスタンダードな物ですが」
「ふむ……」
「あ、肉寿司弁当とかもありますよっ、面白そうですねこれ」
「そんなのもあるのか……って、なんか肉ものばっか勧めてくるな」
「あれ?肉料理がお好きでは?」
「いやまぁ、確かにその通りなんだが……なんで知ってるんだ?」
どこかで話したっけ?別の枝で焼肉行った時か?
「ふふふ、秘密です」
俺の問いに応えるように、妖しげな笑みを浮かべてこっちを見る。あー……何となく察したわ。
「何となく理由は分かったわ……。他に何か知ってたりするのか?」
「ん?えー……そうですね、趣味がプラモデル作りとか?確か……ストライクディスティニーとフラッグセブンソード……でしたっけ?」
「おい待て、どうしてわざわざその二つを例に出した」
「今は無き思い出の品……だからでしょうか?ふふ」
「あー嫌な事思い出したわぁ……」
「幾らやり直してもあの二つは戻って来ませんねぇ?あはは」
「やめろやめろ。色々と落ち込む」
くそっ!余計な事を聞いてしまった……!そうだよな、どんなに遡ってもあの二つは……。
「大丈夫です?精神崩壊しそうですか?」
「しねぇよ。ったく余計な記憶を呼び覚まさせやがって……」
「それはなんともまぁ……ふっ」
おい今、鼻で笑ったか?
「そんな傷心状態の先輩には、是非とも美味しい物を食べて元気になって欲しい物ですね。ええ」
「はいはい、それならさっさと選んで買うぞ」
「はーい」
嫌な記憶を忘れ……封印する為に、再び駅弁選びに意識を戻した。
第五章のイメージ画像?的なのをAIイラストで作成してみました。この後『第2話:引き継がれる記憶』に差し込むので、興味があれば是非覗いてみて下さい。
次は……新幹線に乗った辺りからにしようかと思います。
どこかで、一ノ瀬璃玖や浮島七瀬の過去?独白?深堀り?のおまけでも入れてみようかなと考えています。まぁ、タイミングをあまり考えて無いので結構後になりそうですが……w