9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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ホテルでの主人公視点です。

若い男女が同じ部屋で一夜を共に……何も起きる……はずもなくぅ……!




第13話:こういう時の定番と言いますか、お決まりってありますよねー?

 

 

「……同じ部屋で、泊まる……のか?」

 

私の言葉に、ロボットの様な動きで振り返る。

 

「え?はい、そうですが……?」

 

先程も何やら立ち止まっていたりしていましたが……ああ、なるほど……。

 

「先輩は私と一緒の部屋だと何か不都合でしたか?」

 

「不都合ってわけじゃないが……」

 

「ただ同じ部屋のベッドで一夜を共に明かすだけですよ?」

 

「誤解しそうな言い方は置いといて……まぁ、そう言われるとそうなんだが」

 

「それとも、寝ている私に夜這いでもする気があるのですか?」

 

「いやいや、それは無いから安心してくれ」

 

「なら良いじゃないですか。気にし過ぎです」

 

他の皆にゾッコンなのに私に手を出すとかありえませんしねぇ……。

 

「……九重は良いのか?」

 

「全然平気ですよ?先輩がそういう人では無いと信頼していますので」

 

「そ、そうか……」

 

……うーん、そんなに緊張する必要は無いと思いますが……。あれですかね?異性が同じ空間に居るだけでも意識しちゃうってやつですかね?思春期男子あるあるの。

 

「……もしかして、私も警戒していた方が良いですかぁ?先輩を」

 

試しに薄っすらと笑い、流し目を向ける。

 

「……っ、大丈夫だ。そういう気は一切無いからなっ」

 

「ほんとですか?例えばTシャツ一枚で自分に対して無防備な格好をしている女の子が同じ部屋に居たら……我慢できるのですかぁ?」

 

「お……お前……なんでそれを……っ!?」

 

私の言葉の意味に気付き、驚愕の表情を浮かべる。

 

「いえ、先輩は我慢していましたね。これは失敬。私が間違ってました」

 

「おいまて、なんでそれを九重が知ってるんだっ?」

 

「……さぁ?どうしてでしょうねぇ……ふふふ」

 

さて、先輩の面白いリアクションも見れた事ですし、この辺にしておきましょうか。

 

「取りあえずこの後は夕食まで時間が空いてますが……どうします?」

 

「………、どうするって……自由なのか?」

 

私が次の話へ移ったのを見て、蒸し返さずに進める。

 

「一応は。と言っても出来ればこのホテルからは出ないで頂けると助かります」

 

「あー……なら部屋でのんびりしておくよ」

 

「下の階には温泉があるのでそちらに入るとかも良いですし、この階を奥に行ったフロアにはゆったり出来るお茶の間がありますので暇つぶしには丁度良いかと」

 

「へぇーそんなのもあるんだな」

 

「これがパンフレットですよー」

 

壁沿いのテレビの横に置いてある紙を先輩に向かって飛ばす。

 

「あんがと。……すげぇな、間食とか軽食も持って来てくれるのか」

 

「確か……お茶漬けだった気がします。あとは和菓子がちょくちょく?」

 

「九重は何度か来たことがあるのか?」

 

「系列店とかに、年に数回程は……お仕事の都合で」

 

九重系列で経営しているお店なので、こういった遠出は大抵自陣の場所を宛がわれる。

 

「リッチな暮らしだなぁ……羨ましい限りだ」

 

「あはは、一人で泊まっても大して楽しめませんでしたけどね」

 

それに、そのまま依頼をするので安全に寝泊まりが出来る場所程度の認識しかなかったって感じだしねー。

 

「九重がたまに言ってる仕事ってどんなのなんだ?やっぱり、危険なやつなのか?」

 

「危険……まぁ、そうですね。準備次第で危険かどうかは変わりますが……一般的には危険と言っても良いと思いますよ?」

 

事前にどれだけの準備を済ませて臨むか。それの大きさで割と生存率が変わるし……。

 

「今までどんなことをしてきたんだ?」

 

「んー……そうですねぇ……うーん」

 

どんなの?色々とあったけど……。

 

「あ、いや、無理なら言わなくても大丈夫だ。あくまで可能な範囲で大丈夫」

 

「いえ、色々とあったのでどれが良いかと悩みまして……なるべく軽度な物が良いかなと」

 

「け、軽度……」

 

「主にしていたのは敵陣地への突入とかでしたね。後は潜入と捕縛がちょろちょろと?」

 

「敵陣地に……」

 

「分かり易いのは……怪しい取引とか、裏社会同士の抗争とかでしょうか?」

 

「何となく、イメージは出来たが……」

 

「ほら、私って如何にも特攻しそうじゃないですか?小柄で素早いですし。一番槍って感じでっ」

 

「それはよく分からんが……実際映画みたいなことってあるんだな」

 

「異世界巻き込んでの超能力バトルを繰り広げていた人達が何を今更……」

 

「いや、それを言われるとその通りとしか言えなくなるんだがなぁ……」

 

「普通に表で生きている人達が知らないだけで、映画の様な出来事は割とどこにでも起きているものですよ。裏でひっそりと」

 

「現実は小説より奇なりってやつか」

 

「空想でも何でもないのですが……ま、そう言う事です」

 

「それじゃあ、九重はそういった危ない奴らを秘密裏に捕まえていたってことで良いのか?」

 

「捕まえて、ですか……。場合によってはその様な方法も取りますね」

 

この辺でハッキリと言っておいた方が良いかもしれませんね。出ないと明日以降大変になりそうですし。

 

「ぶっちゃけますと、捕まえる方が少ないですね」

 

「……と、言うと?」

 

私が今から何を言うのか何となく察した先輩が、息を飲む。

 

「大抵は、殺していましたから」

 

「―――っ、そうか……」

 

一瞬驚きつつも、直ぐに元の表情に戻る。

 

「……あまり、驚きませんでしたね」

 

「いや、驚いたのは驚いたさ。けど、そうだろうなってのは予想が出来ていた」

 

「まぁ、深沢与一を沢山殺していましたしねー」

 

オーバーロードで無くなってはいるが、相当な回数殺していたはずですし。

 

「……それもそうだな。あと、こう言って良いのか分からんが、……人を殺す事に対して躊躇いが無かったから、だな」

 

「そうですね。躊躇ったらこちらが死ぬ……そういった環境で生きて来ましたから。深沢与一なんて可愛いレベルの数を。今更躊躇いとかありませんよ」

 

「生きて来た環境……?」

 

「明日。それをお見せしますよ。先輩にはちょっとショッキングな場所かもしれませんが」

 

「……分かった」

 

「……一応、今ならまだ引き返せますよ?先輩が無理して知る必要はありませんし」

 

「……いや、九重がここまで話してくれたんだから、最後まで一緒に行くつもりだ」

 

ですよねー……。

 

「でしたら私からは何も言いません。ですが……先輩が想像している何十倍も辛い経験をされるかもしれません。これまでの価値観では到底理解できない場所だと思います」

 

「今まで聞かせてもらえなかったが……どんな場所なんだ?」

 

「ほんとにここが日本なのかと疑う様な血と暴力と死が充満し切った世界ですよ。スラム……いえ、スラム街に失礼ですね。行き場のない人間や、どうしようもない犯罪者達が蔓延る地域ですよ」

 

「日本にそんな場所が……?」

 

「はい。ずっと日本と言う国そのものが、政府が隠してきていますから」

 

「どうしてそんなのがあるんだ……?」

 

「私も起源は知りませんが……治安維持の為に一ヶ所に押し込んだのかもしれませんね。出られない様に壁を作って」

 

「……九重は、そこで生まれ育ったのか」

 

「はい、私が生まれた場所ですよ?」

 

「………」

 

突然の情報に整理が追いついていない様子ですね。当然ですが……。

 

「……九重は、どうしてそこに俺を?」

 

最初に聞く疑問としては至極当然ですね。

 

「先輩に私の事を知ってもらいたかった……からでしょうか」

 

「俺に……」

 

「九重舞夜と言う人間を知って、先輩がどの様な選択をするのか……それを知りたいだけです。勿論、他の枝で今回の件を阻止するための保険って意味も大きいですが」

 

「俺が……」

 

「ま、そこまで重く捉えなくて大丈夫ですよ。先輩がこの枝に来たのは私の事を知りたがっていたからでしょう?、私はそれに対して真摯に応えている。その程度で十分です」

 

「………」

 

んんー……やっぱり暗い話はすべきでは無かったかなぁ……?でも今の内に話しておかないと明日以降が大変だしなぁ。

 

生きて来た価値観や世界が違うから先輩としては理解が追いつかなかったり嫌悪感を感じてしまうだろうし……ほんと悩ましい所だよ。

 

「まっ、実際は明日現地へ行ってからですね!それよりも、甘い物でも食べませんか?ここのお菓子美味しいらしいですよ?先輩も一緒に食べましょ?」

 

折角の旅だ。明日から碌な生活を送れない事は確定しているのだから今の内楽しんでおかないとね。

 

「……だな、こんな場所一生に一度来れるか分からないしな」

 

私の気遣いを察してか、ふっ、と笑って顔を上げる。

 

「そうと決まれば早速電話しますので、少々お待ちを」

 

備え付けの電話を取り、フロントへの番号を調べる。

 

「九重」

 

「ん?はい?」

 

書いてあった番号に電話をしようとすると、後ろから声を掛けられる。

 

「ありがとな。話してくれて」

 

「……ふふ、大したことじゃありませんから」

 

少し寂しそうな顔の先輩を見て、思わず笑ってしまう。

 

「そうでもないだろ、多分……今までの九重なら話してくれなかったはずだ」

 

「言う訳ないじゃないですかー。何を当たり前な事を」

 

「それって、イーリスとの戦いが終わったからってのも大きいのか?」

 

「ですね」

 

「なら、終わらせてくれた九重に感謝しておかないとな」

 

そう言って、私に向けて小さく笑う。

 

「それを言うなら、無事この枝まで来てくれた先輩にこそ感謝しませんとねっ」

 

ほんと、先輩も含めて全員に感謝していますよ……全く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー中々美味しかったですねー」

 

「初めてあんな構造したの食べたわ」

 

夕食までの間、先輩と適当に施設を楽しみ、いい時間帯になったのでホテルの人に一言だけ言って部屋に戻った。

 

戻って10分もしない内に夕食が部屋に届けられ、それを2人で美味しく頂いた。

 

「あれなんて言うんですかね?重箱って感じでしたけど」

 

「木製で作られたやつだったなー」

 

届けられた夕食は、重箱の様に三段重ねでそれぞれにご飯物とおかずが入っていた。

 

「魚料理のやつ美味しかったなぁ……」

 

「煮付けや煮物とかも細々と入ってましたが、どれも美味しかったですね」

 

「最後のデザートも最高だったわぁ……」

 

美味しい物を食べて脳の許容量が限界を超えたのか、少し溶け始めたような声だった。

 

「お風呂の方はどうしますか?先に入りますか?」

 

「あー……そっちの好きでいいぞ」

 

「なるほど、では一緒に入りましょうか?」

 

適当に返事を返す先輩に、取りあえず冗談を仕掛ける。

 

「おー……、……はっあ?」

 

遅れて脳が理解したのか、変な声を上げる。

 

「お、先輩も賛成ですかっ。ではでは、二人で仲良く背中でも流し合いましょう!」

 

「いやいや、いやいやいやっ、ちょっと待ちなさい」

 

「はい、幾らでも待ちましょう」

 

「何言ってんの?君は?」

 

「え?先輩が好きにして良いって言いましたので、私の好き勝手にしてしまおうかと」

 

「やりたい放題かよっ!俺が言ったのはそう言う意味じゃないからなっ?」

 

「冗談ですって、ちゃんと分かってますよ」

 

「全く……心臓に悪い冗談だ」

 

やれやれとため息をつく。

 

「先輩が先に入って、後で私が背中を流す為に乱入する。こういったシチュエーションがお好きですよね?」

 

「ちげぇよ!アホか!」

 

「えー……お好きじゃないんですか?王道だと思うのですが……?」

 

「いや、確かによくあるパターンなのは認めよう。好きか嫌いかで言えば前者と言うのもな」

 

「ふむふむ、悪くはないと。因みに彼女さんらにはされたことは?」

 

「………、どうしてそれを言わなきゃいけないんだよ……」

 

「ふむふむ、既に香坂先輩が実践済みと……」

 

「っ……!?なっ……おまっ……!」

 

いやー……良い反応を返してきますなぁ。

 

「どうして知っているかと?そりゃ、先輩に勧めたのは私ですから」

 

以前、梅雨の時期に香坂先輩から何か迫れるようなシチュエーションは無いかと聞かれたので、適当に言っておいた。わざとふたりで雨に濡れて、そのままお風呂へ作戦だ。

 

後日香坂先輩から成功したという旨と、風呂場では声が響くのと、水滴の音があって中々興奮したとか何とか感想文が投下された。

 

水の溜まった風呂桶での行為は動くたびに一緒に水の音も反響するからなんとかかんとか……。

 

「それに、確か半身石化した時、天ちゃんに流して貰っていたはずですし」

 

「はっ!?……それも知ってるのかっ!?」

 

「フフフ、私を誰だと思っているのですか」

 

私の言葉に毎度驚いたり赤面したりと、忙しそうな顔ですな。それがまた面白いのですが……。

 

「あーーっ、くそっ!先に入ってくるからな!」

 

居心地が悪くなったのか、その場から退散するように風呂場へ向かう。

 

「ごゆっくりー。浴衣や下着類の男性物が入口にありますので、そちらを着るようにお願いしますねー?」

 

「ご丁寧にどうもっ」

 

そのまま風呂場へと行き、鍵を掛ける。余程恥ずかしかったみたいですねぇ……。まぁ、風呂から出て来た時には元に戻るでしょう。

 

お茶を飲みつつ20分程適当に待っていると、中から風呂上がり姿の先輩が出てくる。

 

「おぉー……これはまた」

 

風呂上がりの浴衣姿と言うのは、確かに人を魅力的に見せるものですね。

 

「上がったから九重も―――って、何してんだ?」

 

先輩の風呂上がり姿の写真をスマホで撮っていると、変な目を向けて来た。

 

「いえ、折角ですし先輩のお姿を納めておこうかと」

 

「納めるって……良いもんでもないだろ」

 

「いえいえいえ、彼女さんらには絶品ですよこれは」

 

撮った写真を取りあえず四人のグループへ投稿しておく。

 

「あ、ベッドに座った写真とかも良いですか?それと、この椅子に座ってのんびりしている姿とかも……」

 

「駄目に決まってるだろうが。それよりそっちも早く入ってこいって」

 

私の言動に呆れつつも、お風呂を催促してくる。

 

「なるほど、『シャワー浴びて来いよ』ってわけですね?」

 

「どう解釈したらそう捉えれるんだよ……」

 

「冗談ですよ。それじゃあ私も行かせてもらいますね。あ、これお茶です」

 

椅子から立ち上がり、先輩へ冷蔵庫から取り出したお茶を渡しておく。

 

「おう、ありがとな」

 

「ではではー」

 

脱衣所に入り、来ていた服を全部脱ぎ、カゴの中へ放り込む。

 

「替えの服は……」

 

風呂に入る前に自分が着る服を確認すると、棚の中に女性用と思われる着替えが置かれている。

 

「そんじゃ入りますかっ」

 

入口を開け、浴場へ入る。

 

いつも住んでいるマンションのとは違い、倍以上の広さの浴場と風呂桶が広がっていた。

 

「おぉ……すご」

 

床には木の板が敷かれており、桶も木造の物だった。風呂場内に広がる木製の匂いがとんでもない。

 

「こういうの……檜風呂って言うのかな?」

 

湯気もそうだが、浴室内を満たす檜の重厚な匂い。これが鼻に来る。

 

一通り見渡してから風呂椅子に座り、お湯を頭から流していく。

 

明日からは毎日風呂に入れる保証も無いし、今の内にしっかり堪能しておかないとねー。

 

洗っている間に、風呂桶に水を貯めておく。

 

髪と体を洗い終え、貯まった浴槽の中へ入る。

 

「くはぁ~~……身体に染み込むぅ……」

 

首までしっかりと浸かり、体の力を抜く。

 

「うおっぷ」

 

自分の身体より大きい浴槽の為、力を抜くと普通に水の中に沈んで行く。

 

「潜水できそうだねぇ……」

 

沈まない様にアーティファクトを使って固定しておく。

 

……昔から、お風呂の時が一番危険って聞くけど、確かに裸だし気を抜いてしまうなぁ。水浴び一つとっても浴びる時に目を瞑るしね。

 

武士が風呂の入る回数が少ないのは、やっぱり風呂の時は刀が無いから危ないとかなんだろうか……?

 

ぷかぷかと浴槽内に浮かびながらも、一時の風呂を満喫してから風呂を上がる。

 

「いやぁー……いい湯でしたぁ」

 

ドライヤーで乾かし切れてない髪をタオルで拭きながら、部屋へ戻る。

 

「おー、おかえり」

 

「はい、ただいま戻りました」

 

先程と変わらず椅子に座っている先輩の隣に座り、お茶を飲む。

 

「スマホ、めっちゃ通知来て震えてたぞ」

 

お茶を飲んでいると、テーブルに置いていたスマホを指差す。

 

「通知ですか?」

 

何だろうと見てみると、さっき送った先輩の写真に対してのメッセージがバンバン飛んで来ていた。

 

「あ~……把握しました」

 

「誰からだったんだ?」

 

「さっき撮った先輩の写真を皆に送っただけですよ」

 

「ん?いや待て。今のどこが"だけ"なんだ?"だけ"じゃないだろお前。何してくれてるんだ」

 

「私だけだと不公平かと思いまして」

 

「いやいや、何に対してだよ……」

 

困惑する先輩を横目にメッセージを見ていく。……なるほど、もっと写真が欲しいと。

 

グループ内は非常に盛り上がっており、追加の催促が来ていた。

 

「……えいっ」

 

取りあえず、横に座ってテレビを見ている姿を素早く撮影する。

 

「おわっ!?何勝手に撮ってんだっ!」

 

「恋人さん達からのリクエストがあったので……つい」

 

「つい……じゃないだろっ。送る前に早く消せっ!」

 

「すみません……既に送ってしまいましたので……てへ」

 

撮った写真を速攻でグループへ投稿する。

 

「てへ、じゃねーよ」

 

「先輩先輩、ついでにそこのベッドで座って貰っても良いですか?」

 

「普通に嫌だが?」

 

「こう……右足は少し立てて、右手を右足の膝に乗せて、左手はベッドに置く感じで。こちらに流し目で視線を貰えれば文句無いので」

 

「随分具体的な注文だなおい!やらねーよっ」

 

「良いじゃないですか。減るもんじゃありませんし。寧ろ恋人が喜びますよ?」

 

「普通に恥ずかしいわ」

 

「結城先輩とはコスプレで撮影会したのに?」

 

「なっ!?」

 

「きっとその時の結城先輩は喜んでいたんだろうなぁ……変身した先輩の"ナイトブレイダー"に」

 

横の先輩を見ると、お茶を持ってわなわなとしている。

 

「別に私は変身をさせるつもりはありませんし……。ただ皆さんに先輩のかっこいいお姿を見せたかっただけなんだけどなぁー?」

 

チラチラと、視線を送る。

 

「この……っ!」

 

「先輩が彼女さん達の喜ぶことをしないなんて解釈違いだしなぁ……チラチラ?」

 

「ああもうっ、うざったい!良いよ!やるよ!やれば良いんだろっ!?」

 

遂にやけくそ気味に立ち上がる。

 

「流石見込んだ先輩です!最高に輝いています!」

 

「はー……もうなんか疲れた」

 

「大丈夫ですか?明日は少し朝方に出るので、今日は早めに寝ておきましょうか」

 

「誰のせいだと思ってるんだ……」

 

頭を抱えるように愚痴を零し、ベッドに座る。

 

「それで?何をすればいいんだ?」

 

「ちょっと待ってくださいね?えっと……足はこうで、手はこれで……」

 

座って居る先輩の身体を掴み、イメージ通りに動かす。

 

「……よし、完璧!撮りますので、視線お願いしまーす」

 

「はぁ……これで良いか?」

 

疲れたような表情でこちらを見た瞬間を見逃さず撮影をする。

 

「うおぉ……最高です!今の表情やりますね!決まってましたよ!」

 

少しダレている様な顔……!

 

「贅沢を言えば、少し着崩してたらエロっぽかったかもしれませんね……」

 

「誰がするかっ、んなこと」

 

「まぁ良いでしょう。次っ、次行きましょう!」

 

いい機会なので、色々と撮って皆に送っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……先輩?手はこっちに……、上に伸ばす感じでー……」

 

撮影会はヒートアップし、次々と撮っていた。

 

今はベッドに寝転がっている先輩が天井に向けて片手を広げ突きだすようなポーズを要求していた。

 

それを私が先輩の頭上に跳び、能力で空中に滞空したまま見下ろすような形でスマホを向けていた。

 

「あー良いですね。最高ですよぉー……はい、チーズ」

 

無事撮り終え、先輩を踏まない様に回りながらベッドへ落下する。

 

「これも送って……よし、次は……」

 

「いや……、何回撮んの?もう満足しただろ……」

 

「え?」

 

「"え?"じゃない!数枚かと思ったら何十枚も撮りやがって……」

 

「いやぁ……皆さんが喜んでるのを見たらどんどんやる気が出て来まして……。ほら、大絶賛ですよ?」

 

寝ている先輩にスマホを見せる。

 

先輩に見せたグループでは、送った写真の評論会が開かれていた。それなら普通に撮るだけだと味気ないので色んな角度から撮ってみたけど、これがまた高い評価を頂けたわけで……。

 

「どんどんエスカレートしていくと思ったらそう言う事だったのか……宙ぶらりにまでなって」

 

「普通だと撮れない高さですしね!流石アーティファクトって感じですっ」

 

「また変な使い方を発見してるし……」

 

「前みたいに仏様をしてあげましょうか?天ちゃんにウケが良かったやつを」

 

「いらんからせんでいい」

 

「それは残念です」

 

疲れたようにため息を吐き、体の力を抜く。

 

「撮影に付き合って貰ってありがとうございます。お陰で楽しめました」

 

「そりゃどーも」

 

私の感謝に対して適当に手を振って返事をする。が、なんやかんやで先輩も楽しんでいたことは追及しないでおこう。

 

「無理して付き合ってもらったわけですし、お礼……ではないですが、私も先輩に何かしましょうか?」

 

「ん?別にそんな大したことじゃないから気にすんなって」

 

「いえいえ、こういう時のお礼としての対価は大事ですから……例えば、先輩の身体を……癒してあげましょうか?」

 

ススス……と、近寄り甘い声で問いかける。

 

「は?急にどうした……?」

 

「いえ、長旅でお疲れでしょうし、私が気持ちよくさせてみようかと」

 

「気持ちよくって……お前何を……っ!?」

 

迫って来た私から遠ざかろうとする先輩に能力を掛け、逃がさないよう固定する。

 

「先輩はただ私に身を委ねるだけで大丈夫ですから。実はこういうの私、得意なんですよ……?」

 

つつ……と浴衣の上から二の腕をなぞる。

 

「おまっ!?やって良い冗談の限度って物が……!」

 

「そうですねぇ……まずは、"足"から行きましょうか……?」

 

先輩から一旦離れ、足元へ移動する。

 

「ま、まて九重っ!一体何を……!!」

 

「何をって……そんなの決まっているじゃないですか―――」

 

ゆっくりと先輩の足裏を触り、状態を確認してから……"ツボ"を押す。

 

「―――マッサージ、ですよ」

 

足裏を痛くない程度の力加減で、ぎゅむぎゅむと押す。

 

「……は?」

 

私の言葉に、キョトンとする。

 

「痛くないですか?ここのツボって、結構痛がるらしいですけど……って先輩?どうかしましたか?」

 

「……あ、ああ。なるほどねっ。マッサージを……」

 

「はい、そうですよ?長距離移動で疲れてるでしょうし、明日から忙しくなると思うので少しでも癒せればなぁ……っと」

 

「はぁ~……なるほど。俺を労わってくれると……」

 

「もしかして、エロい事でも考えましたか?いやぁ~……恋人が四人も居る人にそんなことなんてっ!おいそれとは出来ませんよっ!畏れ多い……っ、たはっ!」

 

あ、我慢できず笑ってしまった。

 

「ぜってぇわざとだったよな!?おいっ!故意的だろ!」

 

「はて?純真無垢な私にはさっぱりですねぇ……?」

 

「くっそ……!能力のせいで身動き出来ねぇ……!」

 

「まぁまぁまぁ、先輩は大人しく私のマッサージを受け入れてくんなまし」

 

「あー……あとで絶対一発殴ってやる……」

 

「か弱い乙女を殴るとは……それでも新海翔ですかっ」

 

「知るかあほ。この沸々と湧き上がってくる怒りを鎮めるには殴らなきゃ気がすまん」

 

「まぁ、バイオレンスな先輩も素敵だと思いますが……ポッ」

 

「こいつ無敵かよ……」

 

その後、しっかりと堪能してもらった先輩にデコピンを一発貰い、『キズ物になりました……お嫁に行けません』と言ったらチョップも食らった。

 

 

 

次の朝、運んできたキャリーケースから着る服を先輩にも渡し、要らない荷物諸々をホテル側に預けて出る。外で待機して貰っていた車に乗り込んで目的地へ向かった。

 

さて……遂にここまで来たけど、昨日までの日常との落差に、先輩が風邪とか引いて頭おかしくならないと良いのですが……。

 

 





翔に他の枝の事を色々と知っているとバラしたので、それを使って揶揄い始める主人公……。そのため多少なりと気が楽になった事でしょう。きっと、多分。


最後辺りの翔へお礼をするボケとして最初は、

「今度は私を撮っても良いんですよ?チラリ」

と、浴衣を……とか考えていたのですが、破廉恥過ぎたので止めときました。

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