9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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街へ潜入当日、当然ビザもパスポートも非ず。

新海翔視点で行きます。




第14話:灰の街

 

 

「乗り心地は如何ですかー?どうぞ、コーラです」

 

「もはや文句一つねぇよ……」

 

車の中とは思えない広さと設備の中、隣のソファーの様な座席に座ってる九重が飲み物を渡して来た。

 

ホテルの次は車かよ……。

 

 

 

 

 

 

昨日の夜、俺をおちょくった九重に制裁を食らわして一息ついてると、明日の話があると、真剣な表情でこちらを向いた。

 

わざわざアーティファクトまで使って防音する徹底ぶりに多少の緊張はあったが、要するに……滅茶苦茶危険な場所だから自分から離れないでほしいって感じの内容だった。

 

ホテルの部屋に来た時にも少しだけ聞けたが、やっぱり九重の実家がしている家業……とでも言えば良いのか、それは普段俺たちが映画などで見るような危険な内容らしい。

 

それこそ、常に死と隣り合わせと言っても誇張でも何でもない様な世界で生きてきた。そう俺に話していた。

 

本来なら、九重単独で行くはずだったが、俺が付いていく事になってしまった。正直、九重からすればお荷物も良い所だろう……。聞かされた注意も、俺を守る為に事細かく言っていた……が、まるで子供に言う様な注意事項なのは些かどうかとは思ってしまった。

 

追加の詳細は現地の拠点に着いてから改めて話すという事で話は終了した。

 

アーティファクトの能力を解き、いつも通りに戻った表情で『明日も早いので、今日は寝ましょうかっ!』と言って来たのは、俺に気を遣っているのだろうと容易に分かった。

 

寝る準備をしてお互いベッドに入ると、少し明るい声で九重が俺の名前を呼んでいるので、何事かと顔を上げると―――。

 

『見て下さいっ!トランポリンみたいに跳ねますよっ!』

 

と、ベッドの上を何回も飛び跳ねていた。

 

……小学生か、お前は。

 

自分でも呆れた顔になっているだろうなと思いつつもそれを見ていると、次第に前宙や逆に後方宙返りをし始めた。終いには『トリプルアクセルッ!!』とか言って空中で明らかに三回以上の回転をしてベッドに落下した。

 

満足気な顔で俺に何点かと聞いて来るので、適当に0点と言うと『雑ッ!?』と体を起こして驚いていた。

 

さっきまで激しめに回っていたからだろう。髪や浴衣が若干崩れてる……が、当の本人はそれを全く気にした様子は無く『ちゃんとトリプルじゃ無いからかー……』とかよく分からん反省をしていた。

 

このままだとまた寝るのが遅れると思い強制的に電気を消し、布団を被って寝た。

 

次の日、俺より先に起きて既に着替えを済ませていた九重に起こされ、顔などを洗って朝食を食べると、九重から今日着る服らしいそれを渡された。

 

作業着……と言えば良いのだろうか?以前九重が着ていた黒い服の男版だった。九重も同じ物を着ているが、俺のより少し装飾が多かった。

 

初めて着るそれを手伝って貰いつつも何とか着ることが出来た。この後必要になる荷物以外の部屋にある着替えやケースなどは全てホテル側に預かってもらえるらしく、九重に渡されたアタッシュケース一つと、バックを持ってホテルを出た。

 

出た先に既に黒塗りの高級車が止まっており、九重から外で待っていた運転手であろう大人の人と少し話してそのまま後部座席に乗り込んだ。

 

乗り込むと、そこは車とは思えない位の広さがあり座席と座席の間には小さなテーブルまで付いていた。

 

その内装に唖然としつつも取り敢えず座り、周囲を見る。

 

ここは本当に車の中なのか……?

 

ドアについている窓は、こちらから外の景色が見えない様に加工された窓が取り付けられており、正面の運転席側とも壁があり遮断されている。

 

俺が口を開け驚いている間に、車は静かに動き出した……。

 

 

 

 

 

 

―――と、今に至る。

 

「こういうの、カスタム車って言うやつか……?」

 

九重から飲み物を受け取り聞いてみる。……てか、このコーラどっから取り出した?

 

「そんな感じですよ。特別仕様に大改造しちゃってます。驚きました?」

 

「あ、ああ……滅茶苦茶な」

 

「それはやった甲斐がありましたねっ。空調は完璧、外の景色も見えないので情報は遮断されていますし、小型の冷蔵庫まで設置されている。まさに"住める車"です。あ、お風呂とトイレはありませんが」

 

冷蔵庫……飲み物の正体はそれか。

 

「幾ら位したんだ……?この車……」

 

聞くのが怖いが、怖いもの見たさもある。

 

「んー……まぁ、貯金の半分くらい飛びましたね。中々の散財でした」

 

「は、半分ね……」

 

詳細の値段は言ってくれなかったが、こんな車が安いわけが無い。つまり?……もう一台造れる程度にはお金を持っていると?

 

「数百は掛かってるよな……これ」

 

なんだか急に座ってるのが申し訳なく感じて来たわ……。汚れてたりしないよな?大丈夫だよな?

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。ここには私しか居ませんので」

 

俺の様子を見て察したのか、くすくすと笑いながらこっちを見ている。

 

「こんな高級なのに乗ってるとなぁ……俺が汚したり傷つけないか不安なんだよ……」

 

こちとら庶民だからな……!

 

「そこまで変に気を遣わなくて良いですよ。仮にコーラを零してしまっても請求とかしませんって。ここから二時間近い移動なんですから、気を張ってると疲れてしまいますよ?」

 

二時間か……また長距離移動ってことか。

 

現在時刻を確認しようとスマホを取り出す。

 

「……?圏外?」

 

画面を見ると、電波が一本も立っておらず、『圏外』と表示されていた。

 

「あ、そうですね。この車の中では電波類を切っています。なのでスマホも……ほら、私のも圏外ですよ?」

 

そう言って見せて来た九重のスマホの画面にも『圏外』と表示されていた。

 

「……そうする理由を、聞いても良いか?」

 

「移動中の位置の特定を誤魔化す為……でしょうか」

 

……つまり、今から俺たちが行くであろう場所は、その位秘密にしておきたいってことなのか……。いや、日本政府が関わってるって言ってたもんな。

 

「……なるほどね」

 

「なので、一応車から降りる時にスマホの電源は切っておきましょう。まぁ……多分圏外には変わりないと思いますが」

 

「分かった。その時にまた言ってくれ」

 

「了解です。今は最後の高水準生活を楽しんでおきましょうっ。街へ入れば……地獄ですよ?」

 

俺に向かっておちゃらけた様な口調で話す九重の表情に一瞬、影が差した様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから到着までの時間を九重と雑談やアーティファクトの話をしていたが、朝早くに起きたという事もあって睡魔に負けて30分以上寝たりもしてしまっていた。

 

「お、着いたみたいですね」

 

車が停止する感覚を味わう。どうやら漸くご到着らしい……。

 

すると、両側のドアが開く。

 

「降りましょうか。あ、スマホは切りましたか?」

 

「……ああ、大丈夫だ」

 

開いたドアから流れて来たのは、木や土などの自然の匂いだった。

 

「ありがとうございます」

 

ドアを開けてくれた黒服の人にお礼を言って降りる。

 

「ここは……森……か?」

 

「目的地の少し前ですね。行きましょうか」

 

隣まで歩いてきた九重が、これから進むであろう道を見て言う。

 

俺達が歩き出すと、乗せて来てくれた車が動き出して去って行く。

 

「……で、ここからのご予定は?」

 

「一キロ程歩きます」

 

「おーう……」

 

こんな森の中を一キロもか……。まぁ、獣道じゃなくてそれなりの道があるだけましか……。

 

「ピクニックみたいですねっ!」

 

「弁当も何も持って無いけどな」

 

「九條先輩に頼んでナインボール出張版を依頼するしかないですねー」

 

「どんだけ距離があると思ってんだ……」

 

お互いに軽口を言いつつも見知らぬ道を歩いて行く。

 

「あ、先輩。念のために天ちゃんの能力で二人分の気配操作してもらっても良いですか?」

 

「別に良いが……必要なのか?」

 

「保険ですよ。保険」

 

にひっと人差し指を口元に当てる。いちいちあざとい仕草をしてくるなぁ……。

 

「……ほれ、しといたぞ」

 

「ありがとうございまーすっ」

 

そうして少しの間歩いて行くと、森などの自然的な匂いとは別の臭いがし始める。

 

「そろそろですねぇ……っと、この辺で良いかな?」

 

くるりとこちらを向き、立ち止まる。

 

「もう少し歩くと目的地に着きますので、ここから森の中を迂回して別の場所から入ります」

 

「分かったが……え、森の中を……か?」

 

どう見ても人の手が加わっていない自然そのものである。

 

「安心してください。私が運びますので」

 

「え?運ぶ……?」

 

『何を?』と聞くより早く、九重が俺の懐に頭を入れて持ち上げる。

 

「のわぁあっ!?ま、待て待て何を……!?」

 

「気を楽にして下さいねー?直ぐに着きますのでー……」

 

俺の言葉を聞かずに、そのまま森の中へ突っ込んで行く。

 

「うおっ!?危なっ!……っ!」

 

俺を担いだまま高速で森の中を走り抜けていく。……あー……景色が過ぎ去っていくぅー……。

 

揺られつつも呑気な事を考えながら、手に持っているアタッシュケースだけは離さないでおこうと諦めて大人しくしていると、正面に数メートルはある壁が見えて来た。

 

「はーい、跳びますよー?」

 

「は?跳ぶ……?」

 

嫌な予感がして九重を見ると、壁より少し前で壁に向かって垂直に飛び出した。

 

「おぉおおっ!!?」

 

人一人を担いでいるとは思えないジャンプ力を見せたかと思うと、更に空中で加速し始める。

 

……あれか、別の枝で見た宙を蹴って跳んでるのか。

 

ここまで来ると逆に冷静になってしまう。かなり高くまで上がっているが、不思議と恐怖感は出てこなかった。

 

先程まで居た森がどんどん遠ざかっていく様を見ていると、次第に高度が下がっていく。

 

そろそろ降りるのかと思って下に視線を向けると、かなり劣化しているであろう建物が見えた。そこに着地する為に徐々に近づいて行く。

 

「とうちゃーく。先輩、着きましたよ。ここが、私が生まれた地ですよ?」

 

屋上と思われる場所に着き、九重から下ろして貰い立ち上がる。

 

顔を上げると……そこには―――灰色の世界が広がっていた。

 

現代より少し昔の建物や木造の建造物が乱立しているが、それらの建物の一部は崩壊しており、周囲には瓦礫が散らばっている。

 

道路と思われる土の道には、ゴミが散乱しており、その道端には人と思われる大きさの何かがうずくまるように座って居た。

 

まるでフィクションの様な光景だが、それら全部が現実と俺に教えるように、酷い腐敗臭や薬品だろうか……。鼻を刺すような刺激臭、様々な匂いをぐちゃぐちゃに混ぜた様な臭いを全て纏めて風と一緒に俺へと運んできた。

 

「ここが……九重の……」

 

ここから見える景色だけでも、自分が別の世界に迷い込んでしまったような気分だった……。

 

「ふふ、中々ショッキングでしょう?驚いちゃいましたか?」

 

風に吹かれる髪を押さえながら俺を見上げるその顔は、どこか寂しそうな表情をしている。

 

「確かにこれは……九重が言った通りの……ま、街だな……、かなり驚いた……」

 

そうとしか言葉が出てこない。

 

「匂いとか景色に慣れるまで大変だと思いますが……いえ、出来れば慣れないでほしいですが……、取り敢えず拠点まで移動しましょう。すぐそこなので」

 

「あ、ああ……分かった」

 

「ホテルで私が言ったここでの決まり事、守って下さいね?特に手の届く範囲からは絶対に離れてないで下さいね?」

 

「大丈夫だ。ちゃんと守るさ……」

 

九重の横を並んで歩いて行く。……俺の想像の何十倍も、ね……。本当にその通りだと実感させられるよ。

 

まるで崩壊した世界を歩いている様な気分だ……。

 

「先輩、周囲をキョロキョロと見ちゃ駄目ですよ。正面だけを見ていて下さい」

 

建物から出て狭い道を歩いていると、注意を受ける。

 

「すまん、気を付ける」

 

「まぁ、しょうがないとは思いますがねー……。でも、おのぼりさんって周りに見られると、襲われますよ?……ん?この場合は逆おのぼりさん……?いえ、下り者……?都落ち……?」

 

緊張する俺とは逆に、隣で歩く九重はいつも通りの様子だった。寧ろどうでも良い事に頭を悩ませている。

 

「ま、アーティファクトのおかげで大丈夫だとは思いますが、何事も慎重に考え過ぎて損は無いでしょう」

 

「……そっちは相変わらず平気そうだな」

 

「あはは、そうですね。いつも通り平常運転ですよ?このくらいでは何も変わりませんって」

 

楽しそうに笑うその姿は、本当に今から学校にでも登校するような足取りだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここがこれから私と先輩が潜むことになる場所ですっ!パチパチパチ~」

 

人気の無い道を歩き、狭い地下に入って進むと、厳重そうなデカい扉が正面に見えた。

 

九重がそのロックを解くと、重厚そうな扉を開き中へ入った。

 

電気が点いたそれは……シェルターだろうか、そこには生活可能な空間が広がっていた。

 

「取り敢えず案内するので入って下さいな」

 

俺が建物内に入ると、入口を閉めなおす。

 

「えっと、まずはここが台所です。火は使えませんが、ギリギリ電気は行けるのでレンジでチンは出来ます。あと水は出ないのでそこの箱から好きに使ってくださいな。あ、食事は結構貧相なので期待しないで下さいね?」

 

部屋の角に段ボールの箱が積まれている。……あれは食料や水だろうか?

 

「次は……こちらがトイレとお風呂ですっ。当然水は出ないのですが、入口にあるこの入れ物に予め水を淹れて置けばシャワーとして使えます。トイレも横のやつに水を淹れれば似た感じで使えますのでご安心を。臭いなどの空調も完璧です」

 

次々と指で差しながら説明を続けていく。

 

「寝る場所は、奥の部屋ですね。ベッドを置いてますので、昨日のホテル程ではありませんがー……寝れはしますよ。一先ずはこんなもんですかね?」

 

「ここも……九重が用意したのか?」

 

「ん?あー……いえ、この場所はおじいちゃんにお願いして作って貰いました。簡易で良いって言ったんですが、まさかここまで上等な物が出来上がってしまうとは……。でも、今としては結果オーライですね」

 

それは恐らく、九重の事を大事に思っているからだろうな……ここの作りを見ればよく分かる。

 

「疲れとか大丈夫ですか?朝から移動していましたが……?」

 

「いや、森の中を歩いた程度だしそこまで疲労はないな」

 

「了解です。少しでも疲れや体調に変化があったら言って下さい。ほんの少しでもですよ?」

 

「了解、気を付けとくよ」

 

「環境による病気が怖いですからね。薬はある程度常備してますが……」

 

「ところで、拠点に着いたわけだが、この後はどう動くんだ?」

 

「そうでした。では話し合いましょうか。奥の寝室に行きましょう」

 

ベッドのある寝室に向かい、荷物を置く。

 

「えっと……この後は、まず状況の説明をしてから、準備をして一度出掛ける予定です。あ、先輩はベッドに座って貰って大丈夫ですよ」

 

どこからかホワイトボードをガラガラと引っ張り出し、折り畳み式のテーブルを立てる。

 

「先にこの街の構造からですね……」

 

ホワイトボードに大きく円を描き、少し内側の一カ所に×印を付ける。

 

「ざっくりですが、この街の形です。円状に広がっていてそれらを囲う様に壁があります。入る時に見たと思いますがあれです。そして、私たちがいる地点が大体この辺りです」

 

壁からそれなりに歩いたと思っていたが、大して距離が離れている様には見えないって事は、結構大きい街なのだろう。

 

「んでんで、街には大きく分けて三つの生活基準に分かれています。……階級的な物ですね」

 

続いて円の内側に〇を描き、更にその内側に〇を描く。

 

「かなり適当にですが、外から内に行くほどに生活は豊かになります。あー……先輩にも分かりやすく言えば、最近流行ってる異世界物あるじゃないですか?」

 

「あるな」

 

現代で死んだ主人公が異世界に転生して……ってやつだな。近頃アニメとかでもよく目にする。

 

「その異世界の中世レベルの……貴族、平民、貧民、この三つに分かれてる感じです」

 

「なるほど」

 

確かにイメージはしやすい。

 

「私たちがいる場所は一番外側なので、クソオブクソな場所です、ここに法なんてありません。ありとあらゆる犯罪が起こる可能性があります。当然強盗や殺人なんて日常茶飯事です」

 

「つ、捕まらないのか……?」

 

「こんな場所におまわりさんなんていませんよ。居ても殺されて身ぐるみと拳銃全部持ってかれ、死体は売り飛ばされますね」

 

つまり……本当に法律もくそも無いってことなのか……。

 

「次は中間の平民地帯ですね。ここはまだ少しましで、文化な生活を可能にしようと日々様々な事をしています。食料や衣類など生活に必要な物を何とか自分たちで造ろうと努力している感じですね」

 

「一気に現実的な話になったな……」

 

「ま、ここは私達一族がひっそりと手助けしたりもしているので。人として生きれるような最低限度の生活基盤を確立することを目指してはいます」

 

「支援団体みたいなものか……?」

 

「ですね。なので外側よりは幾分か民度はましです。あくまで程度がましなだけで当然犯罪は起きますよ?ですが、この辺りから法律に近いルールは作られています。それと、外側との隔てがありませんので、外側の人間が強奪したりと騒ぎが絶えません。ここの人間は如何に内側に住めるかで安全度が変わります」

 

ホワイトボードに"VS"と書き、バチバチにやり合っているイラスト書いて行く。

 

「最後に一番内側の区画です。こちらは基本的に安全です。中間層との間には関門が引かれているので、出入りがそこそこ厳しいです。あと、境界線近くには見張りが常に居るので、疑わしいのが近づくと問答無用で殺してきます」

 

「……問答無用で?」

 

「はい、即銃殺ですね。まぁこれはこの街を囲っている壁に配置されている警備も同じなのですが……」

 

「と、言うと……?」

 

「中の人間が街の外に出ようと壁に近づくと、撃たれますね。壁から100m近くは空白地帯で何もありませんし、センサーやカメラも設置されてるので、人が近付けば直ぐに気づかれます」

 

「外から入ろうとした時はそうは見えなかったが……」

 

「ああ……外から中には結構簡単ですよ。中から外に出さない為の壁なので」

 

だから簡単に入れたわけか……いや、かなり強引に行ってた様な気もするが……。

 

「内側の人らはそれなりに良い生活をしていますね。下手したら日本での高水準な生活をしている人達にも引けを取らない人も居るでしょう」

 

「可能なのか……?それって」

 

「仕組みとしては簡単です。中間層の人達に『今いる場所より内側に来たければ、見ヶ〆料を寄越しな』って感じです。それとは別に街の外との物資の取引もしているので、それをチラつかせたりして悪どーい暮らしをしていますねぇ……」

 

「外と取引をしてるのか?」

 

「はい。内側の人達はそこそこの武力……戦力を持っているんですよね。それこそ血と暴力に長けた人達を自分たちで。そんな人達を街の外に出さないためにも、その欲を解消させる為に物資を送っています。まぁ、一種の治安維持的な物でしょう。後は裏社会的な人達からも……」

 

「それも……九重の実家がか?」

 

「いえ、こちらは政府側ですよ。私たちはその抑止力的な存在です。定期的に街へパトロールする役目ですね」

 

そう言って一番内側の円の中にパトカーの絵を描く。

 

「そして、もし街の中の人間が外に出てしまった場合、これらを捕縛、または処理する必要が出てきます。外の人間に危害を加える前に」

 

「……それが、役目って訳か……」

 

「正解ですっ。はなまるを贈呈しまーす」

 

赤いペンではなまるを一つ描く。

 

「その……なんだ?外に出る人間全員が、犯罪とかをした人……なのか?」

 

仮にただ街で生まれただけの人が居たりも……。

 

「ふふ、お優しい考えですね。……確かに、先輩の言う通り善人寄りの人間も居るかもしれません。その場合は捕縛して色々と調査します。結果次第では、人として生活が出来るようにと、政府と私達一族の主導の元、支援をしたりもします」

 

「なんだ、ちゃんとそう言う場合もあるんだな……」

 

「―――ま、そんな事これまでに一度も起きていませんが」

 

「……は?一回も……無いのか?」

 

九重の言葉に思わず聞き返す。

 

「残念ですが。……先輩、この街を出ようとするためには、壁へ近づく必要があるのか分かりますね?」

 

「あ、ああ……」

 

「そして近づく人間は強制的に殺されます。これを覆す為には、それらを退けれるだけの何かしらの力が必要です。そして、そんなものを持っている人間のほとんどが一番内側の人間です」

 

「そして、その人間たちは大抵が外で普通の人間として生きて行けない犯罪者か、人間性が欠如した異常者です」

 

「つまり……外に出ていく人は全員が……」

 

「はい。外の人間に害を及ぼすと判断される様な人ですよ。まぁ……一部例外も居るでしょうが。そんな感じでどうしようもない街ってことですよ。ここは」

 

九重からの説明を受けて、改めて自分が来た場所が如何に危険かを感じる……。

 

「んでー、今回私たちが相手にするのが、この内側の区画の一角を牛耳っている組織です。一応この後実際に情報の精査をしておきますが……」

 

一番内側の円の一部を赤のペンで塗っていく。

 

「私達一族の一つ……一ノ瀬家って言うのですが、この人たちがこの組織の人達とやってはいけない取引をしているんですよね。まぁ……加担している一族は他にも居るのですが、こちらは些細な問題です」

 

「それらを止める為に……ここに来たってことか?」

 

「大体そんな感じです。ぶっちゃけ一族の掟やルールを破っているので、悪・即・斬っ!って感じです」

 

『びしっ!』と口で言いながら持っているペンで切り裂く動きをする。

 

「流れとしてはー……情報を集めて、内側の組織のどこかしらかに潜入します。まぁ、戦力を求めているので何とかなるでしょう。内側から情報を集めつつ、悪い人たちを全て成敗すれば無事任務完了って所です」

 

「敵側に……潜入をするのか?」

 

「ですね。先輩も情報を得る為にリグ・ヴェーダに潜入していたでしょ?あれと同じですよ」

 

「いや、規模が全然違うだろ……」

 

確かに潜入だけを見るなら一緒だが……。危険度は段違いのはずだ。

 

「そうですか?先輩の場合は自分陣営より脅威で相手側の情報が碌に分からず、どんなアーティファクトを持っているかすらハッキリとしない中での潜入でしたよ?しかも自身に戦闘力は無く、頼みの綱は香坂先輩だけだったかと……」

 

「まぁ、それはそうなんだが……」

 

「それに比べて私は、相手側の情報と大まかな規模と戦力を知っていて、それらを蹴散らせるだけの戦闘力があり、更に更にオーバーロードと言うルール無視と言える最強無敵の反則技まであるんですから。ほら、簡単に思えるでしょ?」

 

「そう……なのかぁ……?」

 

そう聞くと、何だか有利に思えてしまうが……言いくるめられてるのだろうか?

 

「そうですよっ!仮に何かあっても「はい、オーバーロード」って手札を切れば相手は何も出来なくなりますから!普通にインチキですよ!卑怯ですっ!相手が可哀想です!」

 

「なんでちょっと愚痴ってんだよ……」

 

「相手に同情してしまう程ってことですよ」

 





長くなりそうなので、一旦ここで区切って続きを書きます。

次も新海 翔視点になりますので、少々お待ちを……。

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