9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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主人公の過去をちょい出しー……。


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名・設定などとは一切関係ありません。
※この作品の登場人物は全て18……20歳以上です。

よ、よし……これで飲酒しても平気やろ……。




第16話:墓参り

 

「着きました、ここです」

 

九重に連れていかれ着いた場所は、距離と方角からして多分拠点からそう離れてはいないであろう場所だった。

 

人気の無い道を何度も曲がり、崩壊した建物を潜って狭い通路を進んだそこは、少し開けた場所だった……。

 

周囲を見ると、かなり風化して寂れた雰囲気だが、過去に誰かが居たと思われる名残があった。そして、その一番奥には大きさの異なる石が幾つか縦に積まれていた。

 

……墓、なんだろうな。

 

「……ここは」

 

「私……いえ、私ともう一人の人とで暮らしていた家ですよ」

 

家と言っても屋根は無く、崩れかけている建物や、その隙間を埋めるように布や板で天井を作っているだけであり、一般的に呼ばれる家とは程遠かった。

 

「九重と、……もう一人?」

 

「はい、まぁ、もう居ませんが」

 

そう言って奥へと進み、積まれている()()()墓と思われる石の前に立った。

 

「久しぶり。……って言っても、この世界の私だと数年振りになるのかな?」

 

墓前に立ち、静かに語り掛けている。俺はそれは黙って見ていた。

 

「ほんとはもっとちゃんとした時に来たかったんだけどねー、ま、今回はついでだけど許してね?」

 

背負っているバッグを下ろし、中から瓶の酒と小さなコップを二つ取り出して中身を注ぐ。その片方を墓の前に置き、もう一つを自分で持つ。

 

「んー……お酒が好きなのかよくわかんないけど、これは良い物らしいから大丈夫ってことで……乾杯」

 

ゆっくりとその場に座り、手に持っていたコップを呷る。

 

「おい、未成年……」

 

流石にこれは口を出さざる得ない。

 

「良いじゃないですかー、こんな場所で禁止法とかありませんって……。それに、久々のお参りなので大目に見て下さいな。あと、これでも精神年齢は余裕で二十歳を越えてますからっ!なんなら枯れ果てる寸前ですよ!」

 

「精神は関係無いだろ……」

 

「それより、先輩も少しだけ付き合ってくれませんか?流石に1人だけだと寂しいのでー……」

 

「いやいや、それは……」

 

「お願いします。一口だけでも良いので……」

 

「………、はぁぁっーー……分かったよ。ちょっとだけな?」

 

「流石ですっ!ささ、私の隣へどうぞどうぞ!」

 

自分の隣を勧めつつバッグからもう一つコップを取り出して注ぐ。……最初からそのつもりだったのかよ……。

 

だけど、さっきの俺を見る寂しそうな表情を知ったら、断るって選択肢が無くなるんだよなぁ……。

 

「先輩はイケる口なのですか?」

 

「いや、飲んだ事無いし」

 

「唇に触れる程度で試してみた方が良いかもしれませんね」

 

恐る恐るコップを唇に当てて傾ける。

 

「……うぇっ、まず……」

 

「ですよねー、分かります」

 

「そっちは平気なのか……?」

 

舌と唾液で気持ち悪さを払拭しながら隣を見る。

 

「全然クソまずですよ」

 

「いや同じかよっ!」

 

「でも、こういうシチュエーションってお酒が定番って感じじゃないですか?なので飲んでるだけですよ」

 

テキトーな感じで笑いながら持っているコップを呷る。

 

「……ここに眠っている人って、九重にとってどんな人だったんだ?」

 

さっきからずっと気になっている事を聞いている。

 

「んー……一言で言えば命の恩人、ですかね?」

 

「……恩人」

 

「私がここで生まれて育ったのは知ってるとは思いますが、昔……小さかった頃のここはもっと酷い世界でした。そんな場所で私みたいな人間が一人で生きて行けるなんて絶対に不可能です」

 

「一人で……、その……両親とかは、居なかったのか?」

 

「生まれているので居たはずだと思いますが……少なくとも記憶に残ってる限りでは名前や顔すら知らないですね。まぁ……何となく途中で売られた様な気がしますが」

 

「親に、売られたのか?」

 

「真実がどうか分かりませんので推測ですが……最初は育てていたと思いますよ?ですが、途中で無理だと分かったのでしょう。それでこのまま死ぬくらいならどこかに売って……的な感じです。それが自分が生きる為だったのか、私を生かす為だったのかは定かではありませんが……」

 

「昔は今ほど街に境界線など無く……あっても、ほんの一部の裕福な内側とその他程度でしたね。外側の人間は内の人間が捨てる廃棄とかを見つけて食いつなげれば御の字な生活を送ってました」

 

ってことは、ここ十年内でこの街は改善していった感じか。そしてそれをしているのは……。

 

「まぁ、そんな感じで生きていたんですが、ある日他の人から狙われましてね。逃げている途中に足場が崩れて落下した衝撃で気を失ってしまいまして。普通ならその場でそのまま死ぬか、捕まっていたんでしょうね」

 

「それを助けてくれたのが……?」

 

「はい、この人です。ま、最後まで名前すら聞けなかったんですけどねー」

 

空になったコップに追加で注ぎ、それを更に飲む。……ペース早くないか?

 

「おい、飲み過ぎじゃないか?」

 

「こんな話、素面じゃ話せませんって本当はもっと馬鹿になって話したい気分ですよっ」

 

「だからと言って酒の力を借りるなよ……」

 

「今日だけなので平気ですよ。えっと……それでですね、運よく落ちて来た場所にこの方は居たらしく、倒れていた私をそのまま看病してくれました。因みにその落ちて来た場所がここですよ」

 

そう言って上を見上げ、地面を指差す。

 

「……ん?それは、住んでいた場所に落下したってことか?」

 

「ですです。我ながら強運でしたよ。んで、そのまま一緒に暮らすことになってー……、一年が過ぎた頃に私を残して死んじゃいましたね。と言っても、いきなり姿を消したので死体は見ていませんが」

 

「……まだ生きている可能性は、無いのか?」

 

姿を消しただけなら、まだ……。

 

「うーん、多分無いですね。自分が持っていた道具や衣類とか諸々をここに置いていたので。そんな中生き残れるほどここは甘くありませんし……何よりもう結構な歳でした」

 

「……そうか」

 

「それから……多分一年ぐらいですかね?その日は食べ物を探して出歩いていたんですが、やたら身なりの良い人達を見かけたんです」

 

「街の人じゃない人ってことか」

 

「ええ、これは何か手に入れれるチャンスだと思ってひっそりと後ろを追いかけてましたが、あっさりとバレてしまい捕まってしまいました。いやー……あの時は死ぬんだろうなって思いましたよ」

 

「どうなったんだ?」

 

「幾つか話して、外へ連れて行かれました。街の外へ」

 

「……え、それって?九重の……」

 

「はい、私を外へ連れて行ったのが、おじいちゃん……九重家現当主、九重宗一郎です」

 

これで今まで聞いた話に繋がる訳か……。

 

「そこからは先輩には多少話した通りです。色々と頑張って今に至るって感じです」

 

最後に話を締めくくり、手に持ったコップを飲む。

 

「確かに……九重の命の恩人だったな……」

 

「命の恩人で……一年程しか一緒には居ませんでしたが……家族、と呼べるような人だったのかもしれませんね」

 

「―――っ」

 

そう小さく呟いた表情は、どこまでも穏やかで優しかった。その顔を直視出来ずに咄嗟に視線を墓へと移してしまう。

 

「……ふ、二つあるけど、もう一人は誰なんだ?」

 

胸の締め付けられるような感情を誤魔化す為に別に話題を出す。

 

「ん……?ああ、この人ですか?んんー……さぁ?誰なんでしょうねっ!あははっ」

 

「はい……?えっ?……一緒にあるって事は、同じぐらい大切な人なんじゃないのか?」

 

酔っているのか分からないが、呆れた様な顔で笑う。

 

「そりゃあもう。世界で一番ですよ?……いえ、同列一位と言うべきですね」

 

いや、それは好きに悩んで貰ってもいいが……。

 

「ですが……誰なんでしょうね?私が一番聞き出してやりたかったくらいですよ。このこのっ」

 

そう言って手に持っている酒を墓に向かって少し溢す。

 

「待て待て、失礼だろ……」

 

止めようと腰を上げると、積まれていた石の一つに何か文字が刻まれていた。

 

「……ん?」

 

何だろうと目を向けると、一度だけ見覚えのある文字がそこには書かれていた。

 

「―――鈴音(すずね)……?」

 

確かこの名前って、俺が神社で九重に向かって呼んだ……。

 

「なぁ、九重……、この人ってさ……」

 

「んー?ってああ、気づきました?そうですよ、私が先輩にあの枝で教えた名前です」

 

―――『私の、大事な人の名前です。』

 

あの時の……俺に信頼してもらう為に教えた……九重しか知っていない名前……。

 

「どういう、関係だったんだ……?」

 

「えーっと、そうですねぇー……いえ、ここから先は秘密という事でっ」

 

そのまま話すと思いきや、思い出したかのように中断する。

 

「おいおい、ここまで来て秘密かよ……」

 

「ふふ、先輩にはまだ私との好感度が足りてませんからねっ!」

 

「好感度って……ゲームかよ」

 

「そうですよー?先輩は今、まさに私のルートを攻略中です!」

 

「んで、そのルートのヒロイン様は何時になったら好感度が上がるんだ?」

 

取り敢えず、いつもの冗談に付き合っておく。

 

「このヒロインは全ルートが終わらせると解放されるエクストラステージなので手強いですよ?まだルートは始まったばかりですし!ですが……そうですね、今の騒動が決着付き次第、その続きを話すと約束しましょう」

 

「言ったな?絶対だぞ?」

 

「ええ、九重舞夜の名に誓って約束すると宣言しましょう。その全てを」

 

自分の名前を宣言に使うのがどれほどの重みなのかは俺には分からないが、真っ直ぐと俺を見る九重の目を見れば、自然とその重要さを感じる事が出来た。

 

「……それじゃあ、そろそろ帰りましょうかっ!日が暮れると危険なので」

 

話すことは終わったと言わんばかりに立ち上がる。

 

「良いのか?もう少しだけ居ても……」

 

「ううん、言いたい事は言えたので大満足ですよ」

 

「それなら良いが……」

 

出していたコップなどを片付け始める。

 

「……お酒、余っちゃいましたね。んー……あっ」

 

半分程度余った瓶をちゃぷちゃぷと揺らしながら何かを思い出す。

 

「残りはあの世で飲んでねー?」

 

何をするかと思ったら、瓶をひっくり返して残りの中身を全部墓へかける。

 

「墓に酒をかけるのは良くないって聞くぞ?」

 

「先輩もします?意外とスッキリしますよ?」

 

いやだから、そういう問題では……いや、まぁ良いか。

 

「これでよしっと。それじゃあ帰りましょうか」

 

最後の一滴までしっかりと中身を出し切ってから瓶をバッグへ入れ、こちらへ振り返る。

 

「了解。気は済んだのか?」

 

「何となく?」

 

「なんとも曖昧な回答だなぁ……」

 

「あはは、そんなもんですよ?お墓参りって」

 

俺の苦笑いに楽しそうに笑い出す。けど、その顔は来る前より少しだけ明るい様な……気がした。

 

その後は何事もなく拠点へと戻ったが、その日の夕食はレンチンするパックのご飯と、レトルトのカレーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってきた事ですし、先にお風呂に入って下さいなー。夕食はその後にしましょう」

 

墓参りが終わり、拠点に戻るや否や手洗いとうがいを済ませて早速先輩をお風呂へ連れて行く。

 

「脱いだ服はこの箱の中へ。寝る時の服はこちらで……タオルはこれを使って下さい」

 

「あんがと」

 

「水は私が淹れるので足り無さそうなら言って下さい、継ぎ足しますので。特に露出していた首から上の顔や頭は念入りに洗う様に。後は手ですね。指や爪の間はちゃんと汚れを落としておいた方が良いです」

 

「……なんか、おかんに言われてる気分だな」

 

「失礼な。子供を持ったことなどありませんよ。まぁ?先輩が幼児プレイをしたいと言うのであれば望みを叶えるのもやぶさかではありませんが……」

 

「誰の望みだ。一回も思ったことねぇよ」

 

「ん……?私の記憶が正しければ確かエデンの女王と……いえ、人の情事を軽々しく口に出すのは止めておきましょうか」

 

これ以上は先輩の沽券に抵触する可能性が……って手遅れか。

 

「………」

 

先輩もピンと来たのか、無言になる。

 

「……お風呂、入りましょうか?」

 

「……ああ、後で覚えてろ」

 

何だか恨みの籠った様な呪言を吐かれた。

 

「……あ、先輩、温かい水の方が良いとかありますかー?」

 

ドア越しに確認する。

 

「んー?いや別に平温で問題無いぞ」

 

「了解です。必要なら言って下さいねー」

 

ペットボトルから水を取り出して中へ注いでいく。

 

「ご飯って何があったっけ……」

 

前回ここに来た時はなんかよく分からない缶詰ばっかり食べてたし……。味は悪く無かったけど。

 

ある程度淹れ終えてから段ボールを覗く。

 

「ふむ、白米はあると……。カレーにインスタントラーメン……栄養食品もあるのか、でもこれ口の中ぱさぱさするからなぁ~」

 

想定以上に種類が豊富だった。当然缶詰も沢山ある。

 

「……私以外に使ってるってことかな」

 

私がお願いして作って貰ったけど、この量を見れば他の人達がここを使っていてもおかしくない位の豊富さだし……。

 

「今日はカレーでいっかな。明日の朝は朝っぽい食べ物と味噌汁を食べれば大丈夫でしょうっ」

 

風呂に入ってから用意をしようと先輩が出て来るまで風呂場の入口で立って待っておく。

 

「……汚いし、上は全部脱いどくか」

 

既に外套やマスクは外しているが、上から来ている服を全部脱いで既に脱いだ物と一緒にカゴの中へシュートする。外の汚れは可能な限り一か所に固めておきたい。

 

「いや、これだと流石に痴女か……」

 

現在は肌着と下着のみである。もしかすると純朴な青少年には刺激が……いや、止めておこう。

 

大人しくバスタオルを一枚体に巻く。……うむ、体が小さめだと大体隠れるから便利だね。

 

明日からの予定を考えていると、風呂場のドアが開く音がして先輩が出てくる。

 

「すまん、今あがった―――って、なんだその恰好は……?なんでタオル一枚なんだよ!?」

 

「大丈夫です、ちゃんと下は着てますので。上を脱いだだけです」

 

「どうして脱いだのさぁー……」

 

「だって外に出た服をいつまでも着たくなかったので」

 

「ああ……なるほど。分かった、どうか早く入ってくれ……」

 

「あーい。あ、今日の夕飯はカレーになりそうですよ?」

 

「分かった分かったって」

 

しっしっと手を振る先輩を見ながら風呂場へ入る。

 

着ている服を全部脱ぎ捨て浴室へ向かう。

 

蛇口を捻りシャワーが流れ出す。

 

「血とか付着してないからそこまで汚れては無いけど……」

 

手を念入りに洗い、髪から体にかけて洗っていく。

 

一度全部洗い終わってから再度髪を洗い、最後に手を洗う。

 

「………」

 

何となく気持ち的な問題でもう一度手を念入りに洗ってから風呂を出る。

 

風呂から出ると、段ボールを覗いて居た先輩が目に入る。

 

「何かお気に召すような物がありましたか?」

 

「あ、いや……色んなのがあるなって思ってさ」

 

「ですよねー、食べたい物とかあります?」

 

「食べたいと言うか……ここにある缶詰とかって食べたこと無かったと思ったくらいだな」

 

「なるなる。小腹が空いたか、明日以降にでも実際に食べてみましょうか。少なくとも不味くは無かったですよ」

 

「不安になる食レポだな……」

 

私が風呂を上がってから夕食を食べ終え、食後の甘いものとしてチョコレートを齧る。んー……甘い。

 

寝る前に歯を磨き、明日の準備をしてから寝床へ向かう。

 

「……そういえば、ベッド一つしかないが……?」

 

「ん?先輩が寝れば良いじゃないですか」

 

「いや……ここは九重が寝るべきじゃないのか?」

 

「先輩こそ寝るべきですよ。慣れない環境で無意識に疲れが溜まってるはずですし、少しでも休息は取るべきです」

 

「そう言われると頷くしかないんだが……」

 

「それに、私は慣れてますし。仕事の時は雑魚寝か、寝袋があれば最高って感じですし」

 

「過酷だなぁ……」

 

「それとも、一つのベッドで一緒に寝ますか?」

 

「あー……いやでも、九重に床で寝てもらう位なら同じベッドで寝た方が良いかもな……」

 

あー……ちょっと想定外の返事。もうちっと慌てふためいて下さいよ。

 

「言っといてなんですが、止めときましょう。彼女さんらに不義理な気分になってしまいますので」

 

「なんだ不義理って」

 

「罪悪感がこう……ふつふつと……?」

 

「いや、俺の方が罪悪感強いわ。それに皆なら床で寝かせたって事実の方に怒りそうだと思うが……?」

 

「……ごもっともで」

 

うん、確かにそっちの方が怒りそう。

 

「けど、二人だとベッドが狭いかもしれんな……」

 

「あー多分大丈夫でしょう。セミダブルなので……」

 

私が大の字になっても普通に寝れるベッドって分かってるので……はい。

 

「……ま、いっか。それなら寝ましょうか」

 

頭の中で割り切って寝る事にした。難しい事は考えないでおこう、うんうん。

 

「お、おう……?そっちが大丈夫ならそれで良いが……」

 

「では、先輩が壁側でお願いしますね?」

 

「おっけ」

 

先にベッドに入って貰い、余剰分に入り込む。……よし、大丈夫そうだ。

 

一度ベッドから出る。

 

「電気消しますねー?」

 

「おーう」

 

電気を落として再びベッドの中に入り込む。……隙間は空けとかないと。

 

「……なんだか、お泊まりしている気分ですね」

 

「場所が場所だけどなー……」

 

壁側を向きながらも私の言葉に返事をする。

 

「修学旅行って、こんな気分なんですかね?」

 

「少なくとも女子とは一緒に寝てないな」

 

「どんな事をしてたんですか?」

 

「あー……何してたっけ?枕投げとか?」

 

「ほー……枕投げ。しますか?」

 

「俺が死ぬから止めとく」

 

「死んでもオーバーロードでやり直せますよ?」

 

「まず殺さない努力をしてくれ」

 

「アーティファクト使い放題で枕投げしたら面白そうですね」

 

「覚醒した都が全部取り上げて終わりになりそうだけどな」

 

「あー……確かに」

 

力で訴えられたい……、可愛らしく『危ないから、めっ!』とか言ってくれそう……されたい。

 

「じゃあ枕投げの他には?」

 

「そうだなぁ……恋バナとかか?」

 

「定番ですねー……。先輩はどんな子がタイプなんですか?」

 

あるあるが出て来たので取り敢えずお決まりで返す。

 

「その質問に俺はなんて答えるのが正解か分かんねーわ……」

 

「選り取り見取りですもんねー……」

 

「そう聞くと自分がクズ人間に思えて来たわ……」

 

「今更ですねー……」

 

「そっちはどうなんだ?」

 

「私ですか?」

 

「そ、気になるタイプとか……って、確か自分より何か強い人、だっけか?」

 

「あー……そんな事も言ってましたねー」

 

「気になる男子とかクラスに居ないのか?まぁ……そんな余裕無かったかもしれないけどさ」

 

「ですねぇ……一族の人達除けば先輩しか知り合い居ませんよー?……あっ、一応深沢与一も入るか」

 

「一族って言うと……別の枝でレナの特訓に協力してもらった人らか?」

 

「ですです。レナの特訓に付き合った人達ですよー」

 

「全員俺達と歳が近かったよな」

 

「はいー、歳が近くて、安全な人を集めましたからー」

 

「安全?」

 

「ほら、私ってこの街出身じゃないですか?そんな人間が九重家当主の弟子なもんで、あちこちに敵が多かったんですよー……」

 

「疎まれていたのか……」

 

「それに加えて色々と面倒な派閥もありましてー、なるべく影響が及ばない人達を選別したんですよー」

 

「選別……。九重の……部下みたいなもんか?」

 

「部下と言うよりかは協力者?私の権限で動かせる仲間って感じですねー」

 

「へぇ……どんぐらい居るんだ?」

 

「私合わせて九人程ですよー。一応部隊として作ったので九人衆とか大層な命名をしましたがー……」

 

九重九人衆ってね。ちょくちょく澪姉が参加して来たので裏で番外とか呼ばれてたっけ?

 

「それは……あれか?アーティファクトの為にか?」

 

「ですねー……何か必要な時に私の指示で動いてくれたので助かりましたよー」

 

「ってことは、他の枝で色々と裏方からしていたってわけか」

 

「そんな感じです」

 

「暗躍しまくってんなぁ……」

 

「それほどでも無いですよ?」

 

「別に褒めてないぞ」

 

「えー……」

 

話題が途切れ、お互いに無言になる。

 

「……寝るか」

 

「ですね、おやすみなさいませ」

 

「おやすみ」

 

就寝前の修学旅行タイムが終わり、目を閉じる。

 

が、明日からの街での予定と、街の外で動いているであろうおじいちゃんや七瀬さんとの計画を調整させるためにどう動こうかと考え始める。

 

敵内部次第では予定を早める必要もあるし、もし酌量の余地有なら……いや、無いか。

 

そんな事を考えている内に、多分30分程時間が流れたと思う。

 

……先輩、まだ寝れてないね。

 

隣から聞こえる息遣いは、寝ている人の物ではない。それにちょくちょく動いている。

 

「……寝れませんか?」

 

取り敢えず聞くだけ聞いておこう。

 

「だな」

 

「環境が違いますしねー」

 

平和で安全な日本と言う暮らしの中で生きて来ているのだ。そんな人が急にこんな場所に来たら何もかも違って頭がバグっても仕方がない。

 

「ベッドや枕が変わると眠れないタイプですか?」

 

違うと分かりつつも冗談を飛ばす。寝袋で寝れる人ですし。

 

「……かもな。あと色々と体験したからだと思う」

 

「まぁ……そうですね」

 

眠れないのも当然だよね。

 

「難しそうでしたら、私が楽に寝る方法を伝授しますよ」

 

布団を捲り、体を起こす。

 

「寝る方法?」

 

「はい、先輩も体を起こしてくれませんか?」

 

「まぁ……いいけど」

 

同じように体を起こす。

 

「んで、何をするんだ?」

 

「んー……端的に言うと、一種のリラックス的な物です。心を落ち着かせる」

 

「へぇー……そんなの知ってるのか」

 

「ふふ、意外と良いですよ?新兵とかに使ってたってよく聞かされたりしました」

 

「新兵……?」

 

「先輩は特に何もせず、リラックスしてもらえますか?えっと、姿勢は普通に座る感じで両手の力は抜いて下さい」

 

「……こうか?」

 

「そうそう、お上手です。次に下を向く感じで首の力を抜いて頭を下に……そうですそうですっ」

 

「なるべく上半身を脱力して目を閉じてください。後はゆっくりと落ち着くように呼吸を繰り返して……」

 

私の言葉に従いながら体から力を抜く。

 

「後はなんとなーく水面から沈んでいくようなイメージで徐々に力を抜いて行ってー……」

 

警戒心を無くす為に子供をあやすようにゆっくりと首から背中にかけて撫でていく。

 

「徐々に徐々に……完璧ですね」

 

……うん、このくらいまで来れば問題無い。

 

「その調子ですねー……―――せいっ」

 

こちらへの警戒心ゼロで脱力している先輩の首元に向かって手刀を振り抜いた。

 

「―――っ!?」

 

一瞬ビクッと体を跳ね、全身の力が抜け落ちる。

 

それを倒れないように受け止め、ゆっくりとベッドへ寝かせて布団をかぶせる。

 

……よし、バイタルにも異常なしと。脈も息も正常。明日の朝、怒られるだろうか?いや、何が起きたかすら認識出来てないと思うし平気かな?適当に誤魔化せば押し切れるだろうし……。

 

今度は一定のリズムで寝息を立てている先輩の寝顔を見る。

 

……うーむ、天ちゃんにコレクションの贈呈をしたいけど、生憎様スマホは電源切ってるしなぁ……。

 

「……ま、旅の特権という事で。おやすみなさい」

 

考えている内に眠気が出て来たので、思考を放棄して寝なおした。

 

 





・新海翔
主人公が墓参りをして少し傷心的になってるだろうと思っていた時に修学旅行の話が出された。気を遣うのと同時にまだ寝れそうにも無かったので寝る前の話に付き合ったが、最後は手刀でおねんねさせられた。
因みに朝起きた時には何が起きたのか分からないが、主人公が何かした位の認識はある。


次はー……敵組織へ潜入ですかね?

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