9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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続きです。




第19話:紅の宵蛍

 

 

拠点で昼食を摂り、夜に向けて一眠りしてからもう一度外へ出る。目的地は例の情報屋さんだ。

 

「そういや、中層の入口から出入りしていないが大丈夫なのか?出入りの確認とか……」

 

「別に大丈夫ですよ。一応印象付ける為にわざわざ出入りを使ってるだけで、やろうと思えばそこら辺から適当に行けますから」

 

お菓子も渡してるし、情報屋の事もあるので内側にも私たちの情報が通りやすくしただけでご丁寧に通る必要はない。必要にならない限りは接触する必要は無いだろうしね。

 

情報屋が居る建物に近い場所から適当に入って中層を出歩く。……ま、当然監視は無いか。

 

路地から表通りを通って、昨日来たばかりの建物を見つける。

 

「では行きますね?」

 

「ああ、俺は静かに後ろに立っておくよ」

 

入る前に確認してから中へ入る。錆びれた金属の音と、籠った様な臭いが漂う。そして薄暗い。

 

「たのもー」

 

「ぁあ……?」

 

薄暗い奥から少し掠れた声が聞こえる。良かった、ちゃんといるみたい。

 

「やぁやぁ、昨日ぶり。また来たよ」

 

昨日と同じ様な喋り方と振る舞い方で男の方へ近づく。

 

「っ!?……今日はなんの用だ?」

 

私を見て一瞬目を見開くが、直ぐに通常に戻す。

 

「少し聞きたい事があってね。今良いかい?」

 

返事は聞かずにそのまま椅子に座る。

 

「今日は君のおかげで無事に組織に入る事が出来たよ。と言っても一番下っ端だけどね」

 

「そりゃめでたい事だな。精々死なない様に気を付けてくれよ」

 

「ああ、私なりに頑張ってみるさ。それで、今日聞きたい事なのだが……」

 

バックからお酒と摘まみになりそうな間食を取り出してカウンターのテーブルに置く。

 

「これはほんの気持ちだよ。めでたい事があったからね」

 

「ハッ、そいつはありがてぇな」

 

「それは良かった。嬉しくて口が軽くなる事でも期待しておくよ」

 

「で?何を知りたいんだ?」

 

「私たちが今日入った組織で同じ仕事仲間……班として行動を共にする事になった男二人が居るんだけど、その二人について知りたい」

 

「……特徴は」

 

「一人は刀を持った中年の男、一番新入りと聞いているよ。肩まで伸びた黒い髪が特徴かな?」

 

特徴を話すと、『ああ、あいつか』と知っている反応を示す。

 

「もう一人は……中学生くらいの男の子かな?全体的に黒の服装で多分常にパーカーのフードを被っている。銀寄りの白髪の子だ」

 

「その二人の何を知りたい?」

 

「なんでも良いさ。酒の席の雑談程度の情報だって構わないよ」

 

「……中年の男についてはまだ良く分かっていねぇ、ここ最近に入ってきたばかりだ。本人は金の為にここに来たらしい」

 

「ふむふむ」

 

「それと、相当出来るって話だ。組織に入る前に腕試しで何人か殺して入ったって聞いている」

 

「ほぉー……そうなんだ」

 

「確実な情報では無いが、俺みたいに酒や食いもんを渡せば良くして貰えるかもしれねぇな」

 

「なるほどなるほど」

 

確かに稼ぐためにって言ってたもんね。強さについては知ってる通りかな?

 

「ガキの方に関しては少しは知っている。ここで生まれている奴だからな」

 

「こういう言い方はあれだけど、よく生きてたね」

 

「上の連中が駒として育てる為に拾ったからな。運が良かったのさ」

 

「……ということは、そこそこ勤めてるってこと?」

 

「じゃねぇのか」

 

「ふーん」

 

それにしては一番下に居るけど……子供で駒だから?それともわざと下に置いている?

 

「それと、よくこの辺で見かける事があるな」

 

「ここで?組織に居るのに?」

 

「さぁな。よく食いもんを持ってるのを見たって話が来る程度だ」

 

「食べ物を……。まぁ育ち盛りだしね、しょうがないさ」

 

「ふん、どうだか。何か知ったら俺の所に持ってきな。等価交換してやるよ」

 

「へぇ……それはどんな情報でも良いの?」

 

「出来るかは情報次第だ。無意味なのは要らねぇぞ?」

 

「それはしっかりと心得てるさ。情報はここに持って来れば良いの?」

 

「ああ、それか入口に見張りが居れば紙に書いて渡しな」

 

「分かったよ。一先ず知りたい事は聞けたし、今日は帰るよ。この後お仕事が入ってるのでね」

 

「ああ……、用が済んだら帰ってくれ」

 

ここでの用は済んだので席を立つ。

 

「……最後に一つ忠告しておくぞ」

 

建物を出ようと後ろを向くと、男が私に向かって告げる。

 

「あのガキは信用しないのがおすすめだ。ま、この街で信用もクソもねぇけどな」

 

「……良いのかな?終わったのに情報を渡しても」

 

「なに、少しでもあんたに恩を売っておきたいだけだ。次の物も期待してる」

 

言うだけ言って、食べ物らを持って奥へと下がって行く。

 

「……それは良かった」

 

そのまま建物を出ていく。

 

……少年を信用するな、ねぇ……。ということは裏切るタイプなのかな?よくあるのは……人の情報を上に売ってその対価に食料を手に入れてるとかかな?それなら情報屋として恨みの一つや二つあってもおかしくは……ないかも?

 

それにしてもわざわざ食べ物を持ち出してここまで出てくるのは……普通に考えれば自殺行為で襲って下さいと言っている様なもんだけど……。内側の人間として認知されてるから大丈夫かもしれないけどなんで外に?

 

私達みたいに与えられた部屋があるはず。と、なると―――。

 

「……これは使えそうかなぁ?」

 

後で個別に調べてみても良いかも。

 

「……なぁ」

 

「はい?」

 

おっと、新海先輩を放置したままだった。

 

「そろそろ向かった方が良いんじゃないか?日も落ち始めるぞ」

 

「ですね、お仕事に向かいましょうか」

 

一先ず、先輩の言葉に同意して行き先を集合場所の倉庫へと変更した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜は夜で結構暗いんだな……」

 

日も落ち、夜も深くなってきた時間帯に、私と先輩は組織内部の建物の高所を陣取っていた。

 

「その割には、多少人の動きはありますね」

 

夜に来いと言われたので日が沈んだ辺りに倉庫へと入ると、二人が中に居た。けど、告げられたのは『今日は特にやること無いから帰って良いぞ』という何とも拍子抜けな言葉だった。

 

一瞬、帰ろうかと迷ったが折角ここまで来たので調査をすることにした。

 

「ずっとここで下を眺めているが、何か分かりそうなのか?」

 

「何となく?ですが情報は得られますよ?」

 

「例えば?」

 

「この時間でも明かりが点いている建物がチラホラとあるじゃないですか」

 

「あるな」

 

「場所によって明かりの種類に違いがあるのには気づけますか?」

 

「言われてみれば……照明っぽい明るいのと、ぼんやりとしたオレンジ色のがあるな」

 

「はい、更に言えば電気を使用していると思われる照明は中央寄りに多いですよね?」

 

「そう見えるな……ってことはあそこが一番裕福な場所で良いのか?」

 

「恐らくはそうですね。この時間帯になっても明るさを保ててるのですしそれなりの場所かとは思いますよ」

 

私達が居る場所からでもポツポツと光っているのがよく分かる。

 

あれは富の象徴みたいな物かもしれないね。あそこより外の人間はあれに憧れて内を目指す。まるで虫をおびき寄せる電灯みたい……電撃殺虫器だっけ?

 

「あの場所まで近づくのか?」

 

「いえ、今日は止めておきましょう。警備もそれなりに厳重なので」

 

「は……?ここから見えるのか?人が居るのが……」

 

「ちゃんとは見えませんが……なんか居るなぁ程度なら分かりますよ。配置的に警備の可能性が高いと思います」

 

「そ、そうか……俺には全く見えんが……」

 

「夜ですもんねー」

 

これが私じゃなくてちゃんとした九重の人ならもっと正確に見えたんだろうけど……。

 

それにしても、予想以上に警備が手厚い。仮に一人二人不意打ちでやられても発見できるような配置箇所で常に誰かの視界に入るようなやり方だ。警戒心が半端じゃないと思うけど……この街だとそのくらいしておかないと安心できないか。

 

普通の人ならあれらにバレずに内部を進むのは無理だろうね。

 

「いや、それは九重も同じだと思うが……修行次第で変わるもんなのか?」

 

「どうなんでしょう?夜目に強いかどうかって個人差にありそうですが……」

 

生まれ持っての個人差もありそうだし……目の先天、後天的な物もあるだろうし……一概に何とも言えないなぁ。

 

「他は分かりませんが、私の場合は実家の方で急激に良くなりましたが……」

 

「へぇー……そういった技術?鍛え方があるってことなのか」

 

「んー、まぁ……そんな感じです」

 

鍛え方……と言えば鍛え方だし、一族の技術と言えばそうとも言えるね。まぁ……実験体の成功例が一人しか居ないから確立性の乏しいやり方だけどー……。

 

昔の事を思い出しながら少し感傷に浸っていると、内側の方から外へ向かって荷車……リヤカーを押している人を見つける。

 

「………」

 

荷台には外からでは中が見えない様に布が被されている……けど、それなりの重量に思える。それに、他の人目を避けるかのような動きと道を辿っている。

 

「九重……?どうかしたのか?」

 

私が急に黙ったのを見て、隣の新海先輩が不思議そうに顔を覗かせる。

 

「ちょっと気になる物を見かけまして……あそこを歩いてる荷車って見えますか?」

 

方向を示す為に指を差して教える。

 

「あー……全くもって何にも見えねぇ……。それがどうかしたのか?」

 

「乗せている物が見えない様に隠しているのと、人目に付かない様にコソコソと移動をしているんですよね」

 

「九重的には怪しい予感がすると……?」

 

「ですね。センサーびんびんです」

 

「後を付けるのか?」

 

「とりあえず近くまで寄りましょう。後は状況次第です」

 

「了解……って、ここからだと見失わないか?距離がありそうだが……」

 

「大丈夫です。空を駆けますので見失う事はありませんよ?」

 

チラッと先輩を見ると、その移動手段を察してか嫌な顔をする。

 

「もしかして……またあれをする気か?」

 

「今回はしませんって、普通に移動するだけですのでっ」

 

「それ暗に日中のは普通じゃないって事だろうが」

 

「はっ!?何たる誘導尋問……!やりますねっ」

 

「勝手に自爆しただけだろ……はぁ、安全に移動してくれよ?」

 

「快適な空の旅を満喫させますよ」

 

こんな場所じゃ快適とは程遠いですが……。

 

諦めて大人しく従ってくれた先輩の体を持って夜の空を跳んでいく。

 

「どうですかー?良い景色とかご覧になられてますかー?」

 

「んな余裕あるわけ無いだろ……暗いからよく見えないにしてもめっちゃ怖いわ」

 

「大丈夫ですって。仮に私が先輩を落としてしまってもアーティファクトで落下は防げますので」

 

「なんつー恐ろしい仮定を……。絶対落とさないでくれ」

 

「……それって、フリですか?」

 

「違うからなっ!?」

 

「そうでした。そういったフリは三回言わないといけない流れでしたね!」

 

「言わないからなっ?いや、言っても落とすなよ!?」

 

「あー……なんだか、持つ腕が疲れて来ちゃいました……あー……」

 

「おいっ!変な冗談はよせっ!早まるなっ!」

 

「冗談ですって。それにしてもなんだか……先輩の生殺与奪を握っているみたいでドキドキしますね!」

 

「こっちは別のドキドキがさっきから止まんないからなっ!」

 

こちらのボケに乗れる位の余裕はある様に見える。

 

「ほいっと、着きましたよー」

 

移動している荷台が見える近くの建物に降りる。

 

「やっと着いたか……」

 

「と言っても、直ぐに移動しそうですが……」

 

「何か分かったのか?」

 

「あの人、外側に向かって移動しているんですよねー……」

 

「外側?」

 

「はい。中層のエリアに向かってですが……」

 

てっきり、内側の別の建物に行くもんだと思ってたけど……他の場所を仲介するのかな?

 

「外側の人らに何かを届ける気なのか……?」

 

「どうでしょうねー。ま、後を付けて見ましょうか。……と、いうことで」

 

「……分かった。頼んだ」

 

最早何も言い返さずにされるがままにこちらに体を預ける。

 

「ちょっと高めに行きますよー」

 

周囲の建物よりも高めの上空へ昇っていく。

 

「この辺りなら大丈夫かな……」

 

アーティファクトの能力で存在感を消してはいるが、念を入れておく。これ大事。

 

「ここから暫くは追いましょうか」

 

「くおぉ……こわッ……!たっか……っ」

 

「……大丈夫ですか?」

 

横の先輩から掠れ出る様な声が聞こえる。

 

「大丈夫に見えるのか……?これが……」

 

「あー……なんかすみません」

 

一応私が放しても大丈夫な様に安全策は取っているけど……。

 

「……先輩も私みたいに立って見ます?」

 

「唐突に何を言い出すんだ君は。これ以上俺をイジメて楽しいのか……!?」

 

あまりの状況に変な口調に……。

 

「違いますってば。先輩が自分の意思で立って無いから恐怖感が出ているのかと思いまして……。実際に私の能力を肌で感じれれば多少なりと緩和出来るかと」

 

「……それはあるかもしれん。宙ぶらり状態は心臓に悪い」

 

「命綱が私の腕と手だけですもんね。やってみますか?」

 

「いけるのか?てかそもそも大丈夫か?」

 

「大丈夫です。普通に地面に立つ感覚と一緒ですよ。床が透明な五十階程度のマンションだと思って下さい」

 

高度にして大体150メートル。ドローンだったら規制高度だね。

 

「ほ、ほんとか……?まじで落ちないよな……?」

 

「落ちても拾いますからご安心を」

 

「全然安心出来ねぇ……!」

 

能力で自分の足場だけではなく新海先輩の周囲も固定する。……これ、意外と集中力要るね。

 

そこにゆっくりと先輩の体を下ろす。

 

「……おぉ……まじで見えない床がある……」

 

自分の体を支える何かを肌で感じて安心した声を出す。

 

「後はゆっくりで良いので立ってみて下さい」

 

「ぉ、おう……」

 

生まれたての小鹿の如く、プルプルと……確実に立ち上がる。あっ、因みに先輩の方の空の風は遮断しています。風に煽られて姿勢を崩したりしたら元も子もないので。

 

「す、すげぇ……。立ってる……」

 

「ね?意外と簡単でしょう?」

 

「全然簡単じゃないが……これ、どこまで大丈夫なんだ?」

 

「大体半径二メートル程度は安全ですよ。正確には床と言うよりも箱みたいなイメージで作っているので壁もあります」

 

「そうなのか……」

 

恐る恐る一歩前に動き、手を伸ばす。限界範囲の壁に手が触れるのを感じて動きを止める。

 

「ここまでが安全ってことか」

 

「ですです」

 

「九重は移動する度にこんだけの事をしていたのか……?」

 

「え?いえ……私の場合は足幅程度しか作っていませんよ?」

 

「……はぁ?あ、足幅だけ……!?」

 

驚愕した顔で私の足元を見る。

 

「はい。なので一歩前に進んだら落ちますね」

 

「……よ、よくそんな事出来るな……。しかも平然とした顔で」

 

「大丈夫だと分かってますから」

 

「かなり自信があるってことなんだな……てか、よく見たらそっちには風が吹いてるけど平気か……?」

 

「平気ですよ。今は風の影響を受けても大丈夫なようにしてますから。まぁ……靡く髪が煩わしいのはありますが」

 

「あー……いや、それもあるんだが、寒さとか大丈夫かって意味もあるんだが……」

 

「へ?……あ、ああ……こんだけ着ていれば大丈夫ですって」

 

「それもそうだな」

 

なるほど、私の体の心配をと……うーん、さっきまで小鹿だったとは思えない。それだけ余裕が出て来たって事かな。

 

先輩から視線を外して移動している荷台を見る。

 

「やっぱり、外側へ向かってますね」

 

「……そうなのか。今はどの辺りなんだ?」

 

「あの崩れた建物見えますか?あれより二棟ほど向こう側です」

 

近くの目印になる建物を指差す。

 

「崩れた……ああ、あれか。何となく見えるな。あれの奥側か」

 

「……大体方角に目星が付いたので私達も移動しましょうか」

 

「もう分かったのか?」

 

「方角だけですけどね。ささっ、こちらへどうぞ」

 

再び先輩を持って跳んでいく。

 

「よっと、この辺りで良いでしょう」

 

今度は空ではなく荷台より先回りした建物の屋上に降りる。中層との境界線近くで丁度見張りも居ない……確定かな?

 

「じ、地面だ……」

 

「地面ですよー、ふふ」

 

人本来の足場へ戻って来たことを感動している先輩を見て思わず笑ってしまう。

 

「さてと……後はここで静かに待っていましょうか」

 

「ここを通るで良いのか?」

 

「私の予想が当たってれば通りますよ。ここが一番人目がありませんから」

 

「……確かに、他と比べると明かり無くて建物も多いな」

 

「ああいった輩は、ここみたいな暗くて狭い入り組んだ道を好む傾向がありますから」

 

「嫌な表現だなぁ……」

 

「事実ですよ……実際にほら、あれを見て下さい」

 

狭い道の奥の方から先ほどの荷車を押す人が見る。

 

「どれ……って、すまんが見えん」

 

「奥の方にさっきの人が来ました」

 

「予想が当たったってことか……」

 

「ふふん、褒めてくれても良いんですよ?」

 

「変に言わなくても、普通に凄いと思うぞ?」

 

「あ、それはどうも……ありがとうございます」

 

そこは褒めないのが流れってもんかと思うのですが……?思うんですがーっ。

 

外側を見ると、境界線地点の一ヶ所だけ土嚢やバリケードなどの防壁が少ない場所があり、そこに人影が見える。

 

「引き継ぎかなぁ……」

 

あの荷車の行方も知りたいし、今運んでいる人間が内側のどこから出て来たのかも確認しておきたい。

 

「んー……先輩、ちょっと良いですか?」

 

「どうした?」

 

「これからここを通る……荷物の行き先を辿る為に荷車本体に発信機……GPS的な物を取り付けて来ます。直ぐに戻って来るのでここで待ってて貰っても良いですか?」

 

「……ああ、分かった」

 

「それと、私に掛けている能力を一旦全部自分に回して下さい」

 

「大丈夫なのか?解いたら見つかる可能性が上がるぞ?」

 

「先輩の安全性の方が重要ですので。それに、私なら気配すら感づかれる心配はありませんから」

 

「……九重がそう言うなら従うよ。気を付けてくれ」

 

「はい、直ぐに戻ってきますので少々お待ちを」

 

アーティファクトの能力を解いて気配を消してから建物を降りる。

 

進行ルートの背後を取るように近づき、外套の内側のポケットから端末機を取り出して距離を詰めて一気に近づく。

 

バレなさそうな位置に設置してその場を去り、新海先輩の場所へと戻る。

 

「ただいま戻りました」

 

「おう、おかえり……って、もう終わったのか?」

 

「はい、後はこれを見れば……」

 

先程の端末の親機を取り出して画面を映す。

 

「それって……与一に付けていたやつと一緒のか?」

 

「似たようなものですね。これはあれよりちょっと格下ですが……」

 

今回のはあくまで追跡用としての機械なので、移動ルートと現時点からの距離が分かる物。それに正確でリアルタイムな物でも無いから緻密に状況を知りたいのにはあまり向いていない。しかも親機と子機の対で一組しか追跡出来ないので……それでも超便利なのですが。

 

「これであの荷車の動きは大体追えますので、私達は内側へ帰って行く人を追いましょう」

 

「なんか……スパイとか潜入捜査してる感じが物凄く出て来たな」

 

「ワクワクしてきましたか?」

 

「……正直ちょっとある。いや、不謹慎だったな」

 

「別に良いと思いますけどね。こんなことしてるので楽しんだ方が気が楽ですよ?」

 

「楽しめる程の余裕が無いからなぁ……」

 

「ですよねー……」

 

そんなこんなで雑談のしていると、荷車を持った男が境界線地点に居る人……多分二人組かな?に荷車を渡してきた道を戻り始める。

 

「発信機はちゃんと機能しているね……うん、向こうは問題無さそうです」

 

「後は待つだけか」

 

「ええ、先ほど別の人に渡してこちらに向かって来ています」

 

「ん?誰かに運んでいたのを渡したのか?」

 

「さっき二人組の人に引き継いでいました」

 

「暗くて何も見えないから状況が全く分からん……けど了解」

 

「さてさて……どこへ帰るのやら」

 

「……可能なら、俺が能力を使って記憶を読もうか?10メートル以内に近づく必要はあるけど」

 

「いえいえ、そこまでする必要は無いですよ」

 

「そうか?そっちの方が楽に情報を得られるんじゃないか?」

 

「それはあるかもしれませんが……先輩への負担が大きいかと思いまして」

 

「俺への……?アーティファクトのなら問題無いが……?」

 

「そちらでは無くて、読み取った記憶の方に問題がある可能性が高いので」

 

「記憶の方に?」

 

「もし読み取った記憶が……そうですね、あの布で被せられた荷物の結末を知っているとしたら……?違法な物でその用途を知っていたら?他にもあの男が下賤な事を考えていたら?とかですかね?そんな事で先輩の脳と心を汚したくないって事ですよ。もしかすると、私が昼前に話した様な悪逆非道な世界を知ることになるかもしれませんよ?」

 

「そう言われると確かに……すまん、軽率な考えだったな」

 

「謝らなくて大丈夫です。提案としては良い考えだと思いますよ?ただ今回は、相手が駄目なだけですので気にしないで下さい。それよりも動きましょうか」

 

歩いて帰っている男の姿を捉え続けれる様に、また空へ移動する。

 

実際に、九條先輩の能力は今回の様な調査には無敵に近い。10メートルという制限があったとしても相手に考えさせるだけでこちらの知りたい情報を取得可能なのだから……チートかな?

 

更に覚醒した能力だと……私でも油断したら負ける可能性が……ワンチャン無いとは言い切れない。

 

改めて考えると、アーティファクトってズルだなぁって思う。結城先輩なんて遠距離から問答無用で確殺可能だし、香坂先輩は運命操作だし……、天ちゃんも気配消せるし、やろうと思えばアーティファクトと人間の存在を消せるって……。

 

使う人や使い方にもよるけど、この中で一番勝ちやすいのが香坂先輩って考えると、エグいなぁっと思います。はい。

 

私のも……いや大概か。私の能力が人体の内部に対しても可能ってのは実証済み。試したこと無いけど、血流とか酸素の動きを止めれればその内死ぬし、そんな事しなくても呼吸が出来ない様に口と鼻周辺の空気の動きを止めれば息すら吸えない状態を作れそうだし。

 

今の能力なら体の老化を完全に停止するのも出来そう。……不老かな?

 

「先輩、永遠の命とかに興味ありませんか……?」

 

先ほどと同じ様に足場を作って立っている先輩へ話しかける。

 

「……急にどうした?変な電波でも受信したか?」

 

ボケようかと思ったら、初手からすっごい刃が飛んできた。

 

「誰が電波系美少女ですかっ」

 

「うわぁ……自分で美少女って付け足すのかよ……」

 

「事実ですから。容姿に問題無い程度には自信がありますよ?姉のお墨付きですし」

 

「だとしても自分で言うかぁ……?」

 

「そこは……ほら、不思議っ子系とか?」

 

「どちらかと言えばぶりっ子系だろ?それとどんどん属性を足すな。どこまで肥大する気だ」

 

「人の欲には際限が無いですからねぇ……」

 

「そりゃ永遠の命も求めるわけだ……」

 

「実際の所、ソフィって千年以上も生きていて老化を止めているって言ってましたよね」

 

「らしいな……確かそう言うアーティファクトとかなんとか」

 

「千年ですか……気が狂いそうですね。短命な私達からすれば」

 

「向こうの寿命がどうなのか分からないが、今の俺達の100倍だからな……想像もつかないな」

 

「ですねぇ……そう思えば短命で良かったかもしれませんね」

 

「さっきまで不死がどうこうとか言ってた人とは思えないな」

 

「誰しも一度は夢見る物かと思いまして……権力者とか」

 

「あるあるだな」

 

まぁ……本音を言えばもう満足している部分が大きいのですが。長生きし過ぎるのも問題ですし……。

 

そうなると、この私はこれからまた何十年も生き続けると?長いなぁ……、ほぼ人生二周目だよ。本当に強くてニューゲームだよ。

 

でも、現実は先輩がオーバーロードで他の枝に跳べばこの枝の時間の観測は止まる訳だし……ま、大丈夫でしょ!

 

暫くの間お喋りで時間を潰しつつも後を追っていると、男が建物の中へと消えていく。

 

「入って行ったな……」

 

「ですね」

 

建物の近くに明かりがあったため、今度は先輩もしっかりと目視で確認が出来た。

 

「建物の中に行くか?」

 

「……いえ、もう帰りましょうか。今日はこのくらいで充分です。続きは後日に回しましょう」

 

人が居ると思われる部屋も大体掴めたし、明日からでも問題無いだろう。

 

「了解、それなら帰るか」

 

「はい、拠点の方へ帰りましょう」

 

「そっちで良いのか?あっちの方じゃなくて……」

 

「別にあそこで寝なければいけないルールはありませんし、多分使うとしても明日からでしょう。それに……あんな場所で寝たいですか?」

 

「それは無いな」

 

「ですよねっ!拠点の方が衛生的にも良いですし、あんな場所で変な菌でも貰ったら大変ですっ」

 

「それは確かに怖いな……。それじゃあ、移動は頼む」

 

「はい!お任せをっ」

 

自ら移動の為に私へ……!これが慣れってやつですね。恐ろしい……。

 

その後は拠点へ戻り、いつも通り綺麗にしてからご飯を食べて寝室へ向かった。

 

一応、寝る前に発信機の調子を見たが、問題無く動いているのを確認出来たのでそのまま寝ることにした。

 

 





夜の上空で宙に浮きながら何かを監視する構図……男の子なら憧れちゃうねっ!
実際は高さにビビりまくる自信しか無いですが。

次回は組織へ潜入しての二日目をお届けします。

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